雑にTS転生した俺氏、最推しの中ボスキャラになぜか迫られています   作:pantra

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転生が雑

 

 

 エルドレッド・サーガという名のゲームに出逢ったのは俺が中学2年生の時だった。

 ジャンルとしてはRPGで、よく練り込まれた世界観と戦略性の高いバトル、魅力的なキャラクターの数々が織りなす奥深い物語によって大ヒットしたゲームだ。

 

 感受性豊かな時期にそんなゲームに出逢ってしまった俺は、それはもうどっぷりと嵌まった。

 何周したかも分からないほどプレイ時間を費やして膨大なやり込み要素を制覇したのはもちろん、ありとあらゆる設定資料や攻略情報を読み漁り、様々な公式グッズやファンイラストをはじめとした非公式の二次創作にも手を出した。

 

 人気作だけあって数年おきに続編が発表され、その度に当然購入してプレイしたが、一番思い入れがあるのはやはり最初に出逢った第1作だ。

 

 主人公と共に駆け抜けた数えきれないほどの冒険の数々。

 美しく強いヒロインに本気で恋をし、頼もしい仲間たちに友情を抱き、ラスボスを真実憎んだ。

 

 でも実のところ、数多くの魅力的なキャラクターの中から一番のお気に入りは誰かと問われると、それは物語中盤で主人公と戦うことになる中ボスの一人だ。

 

 モーリス・グラッドストン。

 

 モーリスは中ボスではあるのだが、単純な悪ではなく複雑な背景を持つキャラクターだ。

 ごく短い期間主人公と共闘したりもするのだが、最終的に互いに敵対せざるを得ない状況に置かれて戦うことになる。

 

 このモーリスが、それはもうバチクソに格好いいのだ。

 顔も言動も戦闘スタイルもその信念も。

 何もかもが出逢った当時中学2年生だった俺の理想だった。

 

 こんな素晴らしいキャラクターがこの世に存在しているという衝撃。

 そう、衝撃だった。

 創作物だろうが関係ない。人生を変える出逢いというのはこういうのをいうのだと子どもながらに俺は感じたものだ。

 

 だからこそ忸怩たる思いがあった。

 シナリオの要請によって逃れられない死の運命にあるモーリスに対して俺がしてやれることなど何ひとつないという事実。

 こんなにも心酔し、憧れ、愛しているというのに、この手で(操作する主人公の攻撃で)彼を殺さなければならない悲しみ。

 俺は何のために生きているのか。

 

 人生のむなしさと残酷さを噛み締めながら、モーリスと主人公との最後の戦闘は決まって号泣しながらプレイしていた。その姿を見た家族はいつもドン引きしていたが。

 

 とまあ、感受性豊かな時期に出逢った一つのゲームが俺の人生に色濃い影響を与えたという話なのだが、なぜこんなことを詳細に語っているのかというと、今俺はエルドレッド・サーガの世界の中にいるからだ。

 

 エルドレッド・サーガのゲームをプレイしているという意味じゃない。

 中学2年生の頃から俺がどっぷりと嵌まり続けてきたこのゲームの世界に生きる、いち人物として転生したのである。

 

 ……もちろん最初は俺も夢か幻だと思っていたが、さすがに15年の歳月は微睡むには長すぎた。

 

 ということで、エルドレッド・サーガという素晴らしい世界のモブキャラクター、アデライン・シェリンガムとして雑にTS転生してしまった俺は、今日も今日とて元気に生きているのであった。

 

 ちなみに我が最推しキャラであるモーリスとの接点は今のところ皆無だ。

 ……いや本当に何のために生きているんだ、俺。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらのお色もよろしいですわね。お嬢様はいかがですか?」

 

「何でもいいよもぉ……」

 

 色とりどりの生地をとっかえひっかえ俺の体に宛がいながら、ああでもないこうでもないと盛り上がっているメイドたちと服飾職人に俺はげんなりとした声で答えた。

 

 俺ことアデライン・シェリンガムは子爵令嬢である。

 令嬢であるからには普段からドレスを着ているし、俺専用のワードローブは目もくらむようなドレスの群れで埋め尽くされている。

 

 それでもなお、ことあるごとにドレスは新調される。

 正直こんなもん作るくらいなら使用人たちの給金をナンボか上げたれやと思うが、同じドレスを二度着ると舐められるのが貴族商売というものだ。

 ろくでもないが、この世界でそう生まれついたのだから仕方がない。

 現代日本人にはピンとこないが、身分というのはしばしば法も道理も上回るものなのである。

 

「もうさっきの色でいいだろ。別にドレスなんて適当でいいよ」

 

 服飾職人を前にして口にする言葉ではないのは分かっているが、もう3時間以上も半裸でマネキンをやっているのだ。

 こう見えて我慢強さに定評のある俺でもいい加減うんざりしていた。

 

「まっ、お嬢様何てことを! それにその言葉遣いも。マーサ様にまた叱責を頂くことになりますよ」

 

 マーサというのはうちのメイド長で、俺にとってはむやみやたらに厳しいばあやだ。

 少しでも貴族令嬢としてふさわしくない言動をすると、すぐに叱責が飛んでくる。今では国軍で部隊を率いている俺の兄貴もマーサの前では子ども扱いだ。それどころかシェリンガム子爵領において史上最も優れた統治者であると称えられる親父でさえメイド長には頭が上がらない様子を見せる。

 

 そのような恐るべきばばあなのだが、この場にいないものを恐れる道理などない。

 俺は忠言するメイドの言葉を鼻で笑って言ってやった。

 

「どうせシェリンガムの小鬼姫だのどうだの好き放題呼ばれてるんだ。今さら言葉遣いの一つや二つで……」

 

「口さがない者たちの中傷にお心を痛めておられるのは承知しておりますとも。とはいえ、言葉遣い一つにもその人物の品性は表れるものでございます。粗野な男言葉はお嬢様の身を守る棘にあらず、むしろ御身を貶めるものかと」

 

「くだくだしいんだよ、物言いが。20字以内に纏めろ」

 

 様々な色彩の生地を重ね合わせて俺の体に当てながらしかつめらしいことを言うメイドのリネットに噛みつく。

 するとリネットはにっこりと完璧な笑顔を浮かべて、断固たる口調で言った。

 

「今すぐ下品な言葉遣いをやめなさい」

 

「やだ」

 

 んべっ、と舌を出してやると、リネットはにっこり笑顔を浮かべたまま俺の背後にふと視線を移して言った。

 

「あら、マーサ様」

 

「げっ!」

 

 勢いよく振り返るとそこには誰もいない。

 静まり返った室内。はらはらと床に落ちる色とりどりの生地たち。

 

 俺が怒りに頬を染めて振り返ると、何食わぬ顔でリネットと服飾職人が言い合っていた。

 

「やはりお嬢様には赤がお似合いかと」

 

「そのようですわね。ベースは赤の3番にいたしましょう。決して華美ではなく、しかし内に燃え上がるような情熱を秘めた色合いですわ」

 

「まさにお嬢様そのものでございます」 

 

 こいつらぬけぬけと……。

 そこからさらに二時間、俺はマネキンの真似事をさせられた。

 甲斐あってドレスは最高のものが仕上がりそうだ。

 嬉しくて涙が出るね。

 

 

 

 

 

 エルドレッド・サーガの年表はほぼ完全に頭の中に入っている。

 いわゆる本編が開始されるのは王国暦668年の6月。

 そして今は663年の8月半ば。

 本編開始のおよそ5年前というわけだ。

 

 ちなみにこの世界の暦月は前世の現実世界と同じく1年を12等分したもので、1ヶ月の日数も同様。

 ついでにいうと1日は24時間。

 この辺りはゲームならではのご都合主義というものだろう。

 

 5年後に主人公とその仲間たちが活動を始めると同時にこの世界でも色々大変なことが表立って起こるだろうが、しょせんモブキャラクターの俺には関係ない。

 放っておいたら死ぬことになる最推しモーリスのことだけはどうにか救えないかと考えているのだが、今のところ当てもない状態である。

 

 まさか『推しを求めて旅に出ます!』と宣言して認めてもらえるはずもなく、俺は自分自身の人生に敷かれたレールの上を走っている最中だ。

 レールの延びた先は、アッシュフィールド魔法学院。

 今年の9月からこの学院に入学するため、俺はおよそ2週間の馬車旅の途上にあった。

 

 エルドレッド・サーガは基本的には中世ヨーロッパ的世界観である。

 そこへ近代的な教育機関が存在するのはいかにもJRPGやライトノベル的ではあるのだが、一応この世界特有の理由付けというか設定が存在する。

 

 一般的なRPGの例に漏れずこの世界にも魔法が存在するわけだが、俺の暮らす国やそのほかの周辺国では戸籍のような公文書に国民一人一人の魔法能力の有無が記載されることになっている。

 なぜわざわざそんなことをするのかというと、魔法能力がきわめて危険なものだからだ。

 より正確に言うと、制御されてない魔法能力が危険なのだ。

 

 前世の世界でポルターガイストと呼ばれる現象があった。

 何も手を触れていないのに物が動いたり音がしたりするもので、いわゆる心霊現象とされることが多い。

 これと同じ現象がここエルドレッド・サーガの世界でもしばしば起こる。

 ただし前世の世界と違い、この世界におけるポルターガイストは正体不明のオカルトなどではなくきちんと原因が判明している。

 

 ようするに訓練を受けていない能力者が、睡眠中などの無意識状態に知らず知らず魔法能力を発動させて起こる現象なのだ。

 物を動かす、引き寄せる、騒音を立てる。

 このくらいで済めば可愛いものだが、能力の強さや精神状態によっては発火や放電、爆発、転移などありとあらゆる命の危険が生ずる恐れがある。

 

 そこで魔法能力を持つすべての国民は早ければ5歳、遅くとも15歳までに必ず魔法学院へ入学して魔法の制御を身に着ける義務が課せられる。

 学院と一口に言っても形態は様々だ。魔法能力の発現は身分を問わず起こりうるため、経済的余裕のない平民はほぼ無償で基礎的な制御のみ教える学院に入ることが多いし、貴族など富裕層であればより高い学費と引き換えに実践的、専門的な魔法まで教えてくれる学院へ入学する。

 

 俺が入学するのはもちろん専門的なほうだ。

 すでに15歳という入学上限年齢になっているが、これは家庭教師や魔法の制御法を知る身内などから基礎的な手ほどきを受ける代わりに入学時期をぎりぎりまで遅らせているためで、同様のことは貴族を中心とした富裕層でよく行われる。

 貴族子弟が通うような高等な魔術学院というのは一種の社交場の役割も果たす。

 ゆえに可能な限り貴族的教育を施した上で最低限性成熟を果たした子を送り出すというわけだ。

 

 実際、俺が入る予定のアッシュフィールド魔法学院も貴族の派閥だなんだで内情はドロドロ。噂では毎年誰かしら生徒の実家が没落や廃絶の憂き目にあったり、人死にが出たりしているらしい。

 後はそう、学院で身ごもる女生徒も必ずいるのだとか。

 

 うるさがたのマーサからは学院への旅に出る直前まで口を酸っぱくして注意されたものだ。

 そもそも俺は男との性交なんて願い下げだし、俺をよく知るマーサもそんなことは百も承知だろうが、それはそれ、これはこれ。

 怪しげな魔法や薬で無抵抗状態にする方法はいくつもあるし、恋という名の疾患に俺の脳が根腐れしない保証もない。俺の魂は拒絶しているが、性別を超越したような美少年が相手ならまあ突っ込まれてもいいかな、と肉体は受け入れそうな気もしている。絶対気持ちいいし。

 モーリスが相手だったらどうかって?

 そんな恐れ多い真似できるわけないだろうが。

 

 貴族にとって恋は遊びだが、少なくとも結婚するまで純潔を守らねばならないのは常識以前の問題だ。

 初夜の翌朝、ベッドのシーツに純潔の証が残されていなければ即刻離縁されてもおかしくはない。その上下手をすれば実家が慰謝料まで支払う羽目になる。

 血統を重んじる貴族からすれば、誰の種を仕込まれたかも分からぬ女に次期当主の母をさせるわけにはいかない、というわけだ。

 その反動なのか、一度跡継ぎを産んでしまえば後は奔放に男遊びをする貴婦人も多いとは聞くが。まあ、女性側もただ抑圧されているだけではないということだな。

 

 ところで女は婚前交渉NGなのに男は自由なのかと思われるかもしれないが、男は男で野放図に種を蒔きまくっていると私生児まみれの性病持ちに落ちぶれて社交界から追放されるだけなので、やはりそれほど好き勝手出来るわけではない。

 家督を継ぐ前に私生児なんぞこしらえたら、他に代わりがいない限りはまず廃嫡だからな。

 長子以外はそれより気楽だろうが、リスクが高いことは変わらない。

 ある程度地位を固めた後なら側室を迎えるなり愛人を囲うなりしていくらでも女を抱けばいいのだから、大概の者は分別を働かせてしかるべき時までは大人しくしている。

 

 ……という常識が通用しないのが学院という閉じた世界なわけで、マーサが危惧しているのもまさにそこなのだが。

 

 まあ、ドロドロの愛憎劇がそこら中に転がっていようと俺には関係ない。

 シェリンガム子爵家は兄貴が継ぐし、両親が期待しているようにシェリンガム子爵家が所属している王統派の貴族子弟たち、すなわちシェリンガム子爵家令嬢が輿入れする可能性が高い者たちと誼を通じて品定めをするようなつもりもないからな。

 そんなことより俺は純粋に魔法を学びたいのだ。

 魔法を学び外の世界を渡り歩けるくらいの実力を身に着けたら、我が最推しのモーリスに出逢う旅に出るために。

 

 

 

 

 

 

 




リハビリで書いてみたものです。
リアルがゴタゴタしていてずっと書けていなかったのですが、前に書いていた姫様のお話もまたゆっくり再開していきたいと思っています。
もはや読んでくれている人はほとんどいないと思いますけども。

このお話も楽しんでもらえるようなら続けるかも……。
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