雑にTS転生した俺氏、最推しの中ボスキャラになぜか迫られています 作:pantra
何ゆえに人はうんこをするのか。
……別にふざけているわけじゃないぞ。
実際、主としてダンジョンなどの魔物の領域で活動する冒険者にとっては切実な問題だ。
毎年少なくない人数の冒険者がダンジョン内で排泄行為中に魔物に殺されている。
排泄というのは人が最も無防備になる瞬間のひとつだ。
意識の上でもそうだし肉体的にも弛緩するので、そこを突かれると急には戦闘態勢に移行できない。結果、碌な抵抗もできず魔物に殺されるのだ。
ではどうするのか。
まずは単独でダンジョンに入らない。これは大前提だ。
その上で対策はいくつかある。
ひとつ、仲間の目の届く範囲で用を足すこと。
仲間たちの視界を外れて遠くに離れてはいけない。
物陰に身を隠しては駄目だ。
目隠しで排泄中の姿を視えないように隠すことも推奨されない。
魔物に襲われた時、いかに迅速に仲間が気付いて助けに入ってくれるか。
それが生死を分けることになる。
ひとつ、排泄中に大きな音を立ててはいけない。
これは何も排泄中に限った話ではないのだが、ダンジョンで大きな音を立てることは命取りになる。
魔物を引き寄せてしまうのはもちろん、『物音』という襲撃の前兆を聞き逃してしまうからだ。
時に排泄音を他人に聞かれることに羞恥を感じ、それをかき消すような音を立てたり仲間に耳を塞ぐよう要求する者がいるが、それは死を招く愚かな行為と言えるだろう。
ひとつ、地面に排泄物を落とす穴を掘ってはいけない。
騎士団や軍が陣を張る際は穴を掘って仮設トイレを設置するものだが、ダンジョンでそれをやってはいけない。
ダンジョンの地面の中、壁の中には魔物が潜んでいる。
そうそう地面や壁面を突き破って魔物が出て来るものでもないのだが、掘削という行為は魔物を刺激する。
飛び出してきた魔物に股座を食い千切られたくなかったら、穴を掘るべきではない。
出した後のブツを仲間に目撃されようとも、それに耐える強い心が肝要なんである。
……さて。
冒頭から汚い話で申し訳ない限りだが、これにはのっぴきならない事情がある。
原作ゲームにおける悲劇の中ボスにして我が推しモーリスが、俺とダンジョン探索のパーティを組みたいと言い出したのだ。
俺としては夢のような状況。
当初の陰からモーリスを助けようという想定とはやや外れてはいるが、推しの仲間として肩を並べて戦えるという誘惑には抗えず二つ返事で了承したのであった。
実際には了承の返事を伝える時の俺は、一国の王子から求婚された貴族令嬢でもこれほどまで緊張するまいという有様だったと、陰から見ていた我が式神は証言しているが。
やかましいわい。
推しキャラから『頼れるのはお前だけだ(イケボ)』とか耳元で囁かれてイかないファンがいるか。
……白状するとそんな言い方じゃなかったし囁かれてもないけど、モーリスが立ち去った後で俺は本当に腰が抜けたんだよ。
まあいい。
とにかく俺とモーリスはパーティを組んでダンジョン探索などの活動を行うことになった。
なってしまったのだ。
知っての通りこれまでの俺は式神を従えて疑似的なパーティを構成していた。
いずれはちゃんとした仲間を、とは考えていたが他の学生たちを安易に巻き込むわけにも行かない。
幸いなことに式神の一部は人間の冒険者と遜色ない働きが可能だし、トイレ問題をはじめとする種々の事柄も式神がいればカバーできる。
むしろ遠慮がいらない分人間相手より楽ですらあった。
そもそもこの世界で二度目(かどうかは分からんが)の生を享けてこのかた、15年以上も貴族令嬢をやっているのだ。
食事に着替え、入浴に排泄まで他人に世話されることには遺憾ながら慣れ切っている。使用人たちの前で素っ裸になることにも抵抗はない。
実家シェリンガム城の使用人たちより我が親父のほうがよほど俺の裸に動揺して悲鳴を上げるくらいだからな。
……夜空でも見上げながら風呂に入りたいと思って浴槽をテラスに引っ張り出した挙句、着替えを忘れて素っ裸で城の回廊を走り抜けたのはちょっとはしたなかったとは思っているが。前世ぶりに露天風呂気分に浸りたくなっちゃったんだよ。
すまん親父。
いずれにしても式神相手なら何も隠す必要などないし、今後パーティメンバーが加わったとしても特に困るようなことはないはずだった。あえて言えばトイレの見守りなどでそばに控えるのは同性が担当するのが風紀上好ましいので、男女とも2,3人ずつの4人から6人パーティが組めれば都合がいいとは考えていた。
が、相手がモーリスとなると少し事情が変わってくる。
だって考えてもみて欲しい。
前世で死ぬほどハマった最推しキャラの目の前でおっぴろげて出すもの出す俺の姿を。
その時の俺の気持ちを。
死ぬよ? 俺死ぬよ?
恥ずかしいというよりもう申し訳なくて死ぬよ。
どんな賢者だって耐えられないよこんなの。
一応しゃがんだ時に腰まで隠れる程度の低さの衝立は便利グッズ(ギルド非推奨)として存在するのでクリティカルな部分を隠すことは一応できる。それとて近寄れば丸見えになるのだが、俺の場合はそばで見守るのを式神にやらせれば解決する。
ただ、そういうんじゃなくて何というかこれはもう尊厳の問題なのである。
元日本人としての、文明人としての尊厳なのである。
推しキャラの目の前でぷりぷりうんこ見せつけて平気な顔ができる女にはなりたくないのである。
重ね重ね汚い話で申し訳ない。
ともあれ別にトイレ問題だけではなく生存率とかいろいろな事情を勘案した結果、当初は避けようと思っていた同級生たちから募ってひとまず4人パーティを組むことと相成った。
それでは俺のイカしたパーティメンバーを紹介しよう。
まずソフィア・レッドグレイブ。
氷魔法に適性があり、武器は主に鞭を使用する女王様もとい伯爵令嬢だ。
この3ヶ月間でもう随分と仲良くなって、学院内では大体いつも一緒に行動している。
それはともかく最近俺に対するボディタッチが激しくなってきた気がするんだが、いいのか俺は百合にも割と理解があるぞ……?
次、ベンジャミン・エインズワース。
炎魔法の申し子だが、それ以外でも魔法であれば何でもそつなく扱う秀才だ。
最初はマ〇フォイ枠かと思っていたのにその実ハー〇イオニー枠だったという。
彼のおかげで俺は炎魔法を使えるようになったのだが、ふざけてベンジャミン先生とか呼ぶとまんざらでもない顔で照れてくれる。
可愛いかよ。
さらにもちろん、モーリス・グラッドストン。
言わずと知れた我が最推しキャラにして俺がこの世界で生きる目的。
細胞のひとつひとつ、吐く息、地面に落ちる影まで尊い。
やっぱり好きなんだよなぁ。男とか女とか関係なく、存在そのものが憧れなのだ。
絶対に救ってみせるぜ。
そして最後に俺氏、アデライン・シェリンガム。
誰が呼んだかシェリンガム領が誇るげっ歯類系バーサーカー。
元々日本で生きる平凡な男だった俺が何の因果か子爵令嬢として転生して早15年。
何のために生きるのかと迷うこともあったけれど、俺は今幸せですうへへ。
ついでに俺の式神。
白穂をはじめダンジョン向けの式神もパーティに加えるつもりだ。
使役するのに俺の霊力とやらを消費し続けるので無制限にとは行かないが、いれば何かと役に立つ。
ちなみにこの霊力とかいう要素、原作ゲームには出て来ない。
式神たちいわく、俺の霊力は至上の美味らしいが……一体何を吸われているのやら。
式神契約における報酬は俺の霊力。
俺が死んだ暁には式神たちが俺の霊魂を残らず食らい尽くすんだそうだ。
ま、我が推しモーリスを救うことができるのなら、死後のことなどどうでもいい。
どうせ一度は死んだ身だからな。たぶん。