雑にTS転生した俺氏、最推しの中ボスキャラになぜか迫られています   作:pantra

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小鬼姫

 

 東仙流魔剣術。

 それが我が推しモーリスの扱う剣術の名前である。剣術というか、正確には魔法剣だが。

 

 高級娼婦にして東方大陸の高貴な一族の出である母と、母の客でありまたかつての母の臣下でもある武侠バシュミルに師事して身に着けたものだ。

 この魔法剣に自らの固有魔法を組み合わせたものが基本的なモーリスの戦闘スタイルである。

 

 用いられる剣は片刃の湾刀で、剣士に直剣使いが多いエルドレッド・サーガの中では異彩を放っている。

 一時的に共闘できる際にステータス画面で確認できるのだが、ゲーム本編でのモーリス専用武器である『欠けた星銀刀』の攻撃力表示は144(288)というもの。

 この表示は括弧内の数値が本来の攻撃力で、破損しているために実際にはその半分しか攻撃力を発揮できないということを表している。

 攻撃力が半減しているとはいえ、モーリスに挑む時点で主人公たちの装備している武器攻撃力が平均100であることを考えると破格の性能だ。

 ちなみに主人公の最強武器の攻撃力が312なので、匹敵とは行かないまでもそれに迫る攻撃力を本来有していることになる。

 裏設定的にはモーリス母の故郷の国宝らしいので、これくらいの性能はあってもおかしくないということなのだろう。

 

 推しの設定は盛られれば盛られるほど良いものだ。

 

 言い添えておくと、さすがに今モーリスが手にしている刀は『欠けた星銀刀』ではない。だが明らかに東方風の拵えをした湾刀である。

 こちらの大陸との交易路は存在しているので手に入れること自体は不可能ではない。俺自身、領都の夏至祭に連れて行ってもらった際に一度だけだが東方商人が広げた露天で目にしたことがある。

 

 いやぁ、あの時は興奮したね。何しろゲームの中の『欠けた星銀刀』とそっくりだったからな。もちろんレプリカには違いないが。

 そこで俺は学んだよ。

 人は真に望むもののためならばプライドを捨てられる、と。

 あの時の俺のおねだりっぷりはいまだに家族のみならず領民の間でも語り草になっている。

 恥は恥だが、刀が手に入ったので別に構わない。

 おねだりに負けてクッソ高い買い物をした親父は後でおふくろに叱られたらしいが。

 

 さて。

 切先を後方へやや倒すような格好で上段に構えたモーリスは、力むことなく一息に刃を振り下ろした。

 標的人形に刃はまったく触れていない。数メートル離れた場所にいるのだから当然だ。

 

 見物している生徒たちもモーリスの行動を訝しげに見ていたが、それを意に介すことなくモーリスは刀身を鞘に納めて標的人形にくるりと背を向けた。

 

「おいおい、まだ人形は……」

 

 この声はベンジャミン君だろうか。

 まだ破壊できていないと指摘しようとした生徒の言葉を遮るように、真ん中から左右に断たれた標的人形がどさりと音を立てて地面に落ちた。

 

「は?」

 

 唖然とするギャラリー。

 淡々とした顔のモーリス。

 俺? 濡れたがそれが何か?

 

 ……俺のパンツの染みのことはさておき。

 モーリスが使用したのは東仙流魔剣術の『新月』だ。簡単に言うと延びる上に見えない斬撃で、ゲームでは予備動作だけで見切って回避かガードをしないと大ダメージを食らう羽目になる。レベル60の主人公だと一撃で持ってかれるのは体力半分くらいか。今の俺なら3回は死ねる。

 

 というかすでに『新月』使えるのかよ。モーリスが使う中で3番目くらいに強い技なんだが。

 育成したプレイヤーキャラ並みに使ってくる技や魔法が多いのも中ボスモーリスの厄介なところで、さらには行動パターンが完全ランダムなことにキレ散らかしてるプレイヤーが当時たくさんいたもんだ。

 その上エルドレッド・サーガはAIが賢いので、各ボスやモンスターごとの性格や傾向で偏りあるものの大概は状況に応じた最適行動を取ってくる。

 俺にはそれが楽しかったが、難易度が高いと感じるプレイヤーも多かったようだ。

 

 モーリスの鮮やかな魔法剣に皆がざわめいていることに気分がよくなる。

 どうやら我が推しの凄さに気付き始めたようだな。

 ふふふ、お前らも底なしの沼に沈むがよい。

 

 腕組みをしてドヤっていると、隣にいたソフィーが落ち着いた足取りで進み出た。

 

「ソフィア・レッドグレイヴです。参りますわ」

 

 俺と話している時よりやや気取った様子で名乗りを上げたソフィーは、巻いた状態で腰のベルトから吊り下げていた鞭を解いて緩く構えた。

 ……今朝から気になってはいたんだよなぁ、あれ。やっぱり武器として使うのか。

 女王様? 女王様なのか?

 

「フロストサーペント!」

 

 凍気を纏った鞭がまるで意思を持った蛇のように標的人形に巻き付く。

 瞬時に凍結する標的人形。

 ソフィーが鞭を持つ手を大きく引くと、氷像は粉々に砕け散った。

 

 戻ってきた鞭を巻き取り優雅にカーテシーをしてみせるソフィー。

 うーん、強い。

 単純な武具への属性付与魔法のように見えたけど、いささか出力が尋常じゃない。

 あんな熱伝導率が低そうな木製の人形を一瞬で凍結させるのは並大抵の魔力では不可能なはずだ。

 

 モブキャラ……なんだよな?

 

 おしとやかな歩調で俺の隣に戻ってきたヒロイン顔負けの超絶美少女と視線を合わせる。

 俺の感想を期待している顔だなこれは。

 

 キラキラと目を輝かせてこちらを見つめるソフィーに向かって、俺は短く伝えた。

 

「すごく格好良かったよ」

 

 おしとやかで可愛くて攻撃力が高い貴族令嬢。

 いいじゃん。こういうの好きだぜ。

 

「まあっ……、ありがとう、アディー。次はあなたの番ね」

 

 嬉しそうに頬を染めたソフィーの言葉通り、残る生徒は俺だけのようだった。

 

 さてどんじりに控えしは、ってな。

 俺もちょっぴり格好いいところを見せちゃうか。

 

「アデライン・シェリンガムだ。よろしく」

 

 新たに生成し直された標的人形へ近づいていきながら、右手を中空にかざして魔法を発動させる。

 出現した戦斧の柄を掴むと途端に重みが加わる。それに逆らわず重力に引っ張られるままに腕を降ろすと、どすんと重たい音を立てて幅広の刃が地面に食い込んだ。

 

「さて出番だ、前鬼」

 

 腕に力を込めて重量のある戦斧を肩に担ぎ、腰を落とした構えを取る。

 静寂。

 

「ふっ!」

 

 振り上げた戦斧を重量と膂力に任せて打ち付けると標的人形はまるで風船が割れるかのように破裂した。

 勢いを減ずることなくそのまま叩きつけられた戦斧が地面を陥没させる。

 残心。

 

 地面に食い込んだ斧を引き抜き、再び肩に担いで踵を返す。

 

「ん?」

 

 ふと皆が俺を見る視線の異様さに気付いて足を止める。

 ソフィーが顔の前で祈るように手を合わせてお目々キラキラさせているのはいいとして……、他の連中はまるで化け物を見るかのように表情を歪めているな。

 俺、何かやっちゃいました?

 

 さすがのモーリスは無表情、のように見えるけどちょっと目を見開いている。

 推しが俺に注目している……んっ、快感だわこれ。

 

 ぶるっと震えた俺の視線がモーリスの腰に引っ付いたショタランディに留まる。

 さりげなくランディの肩に回されたモーリスの武骨な手。

 ぬっ……ふぅ。

 

 何事もなかったかのような足取りで生徒たちの集団に戻ろうとしたのだが、ここで物言いがついた。

 声を上げたのはまたしてもベンジャミン君。

 物怖じしない子だね、ホント。

 

「待て! これは認められるのですか、教授!」

 

 問いを向けられた女教授はベンジャミン君を静かな目で見返してから問い返した。

 

「認められるのかとは? ミスター・エインズワース」

 

「彼女は武器を取り出すのに収納魔法を使っただけ。標的破壊はただ物理的に斧を叩きつけただけではないですか。基礎的な攻撃魔法も使えないというなら彼女はこの学院にふさわしくないのでは?」

 

 ベンジャミン君が抗議する姿を俺は温かい目で見守る。

 うむうむ、若いねぇ。こういうのも好きだぜ。

 

「少々誤解があるようですが、ミスター・エインズワース。まず仮に魔法制御すらできない状態だとしても当学院が入学を拒否することはありません。次にミズ・シェリンガムは標的を破壊するのに確かに収納魔法以外の魔法を用いましたよ」

 

 と意味ありげな眼差しでこちらを見る教授。

 これはあれか。

 俺が自分で説明しろってことか。

 ま、いいけど……。

 

「し、しかし魔力反応は確かになかったはず……」

 

 教授の言葉に戸惑っているベンジャミン君。

 我は強いけど何でもかんでも聞く耳持たずってわけじゃないようだ。

 

「わたくしにも分からなかったわ。一体どういう魔法なの、アディー?」

 

 ベンジャミン君が難癖をつけたみたいな空気を和らげるためか、ソフィーが口を開いた。

 可愛くて気が利いて攻撃力が高い令嬢……いいじゃん。

 まあ、あまり引っ張ることでもないし種明かしをするか。

 

「だとさ。自己紹介しろ、前鬼」

 

 突然斧に話しかけ始めた俺を奇異な目で見ていた生徒たちだったが、次の瞬間驚愕に染まった表情で固まった。

 

「おうおう、俺様の正体にこれっぽっちも気付きもしないとか、こいつら『レベル』が低いんじゃねぇのぉ~?」

 

 突如として発せられたガラの悪い男の声。

 その発生源が確かに俺が担いだ戦斧だと気付くと、ベンジャミン君をはじめとした生徒たちは大いにどよめいた。

 

「口が悪いぞ、前鬼」

 

「だってよぅ」

 

「せ、精霊?」

 

 ソフィーが驚きに満ちた声で推測を口にしたが、残念、少し違うんだよな。

 ぼふん、と擬音が付きそうな白煙と共に前鬼の姿が戦斧から全長30cmほどの人型に変わる。

 額の中央に1本の角が生え、口の中には鋭い牙がずらりと並んでいる鬼だが、デフォルメされた人形のような体格も相まってまったく怖そうには見えない。

 

「俺様は精霊じゃねぇぜ、可愛いお嬢ちゃん。主に従う式神の前鬼ってんだ」

 

「シキガミ……のゼンキさん」

 

 目の前までふよふよと飛んできた前鬼と視線を合わせながら、ソフィーが耳慣れないであろう言葉を下に載せた。

 

「おうよ。ところでお嬢ちゃん、主と違っておっぱいが大きくて気持ちよさそうだな。ちょいとひと揉み……」

 

 可愛らしいマスコットみたいな見た目のままいやらしそうに手をわきわきさせる前鬼。

 の横合いからフルスイングしたメイスをブチ当ててやる。

 

「あーっ!」

 

 すっ飛んでいった前鬼を無視し、俺はソフィーに頭を下げて謝った。

 

「うちのアホ前鬼がセクハラしてごめんなさい」

 

「え、ええ、気にしないでアディー。それよりもしかしてそのメイスも」

 

 前鬼をホームランするのに使った、殺意に満ち溢れたフランジがふんだんに施されたメイスを恐ろしげな眼差しで見つめるソフィー。

 

「そうだよ。ほら後鬼、あいさつ」

 

 メイスに声をかけるとまたしてもぽふん、と白煙に包まれてから、2本の角を生やした小さな鬼の女の子が姿を現した。

 

「後鬼と申すのじゃ。連れ合いの前鬼同様に主の式神じゃ。よろしく頼む、ソフィー殿」

 

「よ、よろしくね……。でも、そのシキガミというのは?」

 

 後鬼の小さな手と指先を使って握手をしながらソフィーが疑問を口にする。

 それに答えたのは俺ではなくムチムチの女教授と、その隣にいたガン〇ルフみたいな老魔法使いだった。 

 

「精霊使役魔法の一種……ではあるが、かなり珍しいですね。聞くところによると東方大陸の東の果てに同じ名の魔法技術があるとされていますが」

 

「器物を依り代に精霊や魍魎を使役する魔法じゃな。伝説では神霊すらも従える英傑がかつて存在したという」

 

「おr……わたしの式神はそんな大層なものではありませんがね」

 

 二度ほど手のひらを打ち合わせるとそばで浮かんでいた後鬼と、しれっと戻って来て女生徒の一人の肩に留まっていた前鬼が煙に包まれて姿を消した。

 

 これが俺の使える戦闘用の魔法だ。

 一応汎用魔法の括りにはなるのだが、たぶんこの西方大陸ではほとんど使い手はいないだろう。

 俺自身たまたま手に入れた(いつもおねだりしてすまんな親父……)東方の魔法書を読んでなかば自己流で身に着けたものだからな。

 普通はただ魔法書を読んだだけで聞いたこともないような別文明の魔法を習得したりはできない。

 しかし俺の場合はもともとゲーム設定資料によって、エルドレッド・サーガ世界の極東には古代日本に似た文化圏がありそこには式神を操る陰陽師がいると知っていたので、他の西方人より習得にアドバンテージがあったのは確かだ。

 ちなみに陰陽師については完全にフレーバー扱いなのでゲーム本編に出てくることはない。

 

 習得した式神は強力だが癖が強く、正直なところ使いにくい。

 固有魔法が役立たずの『増幅』しかない現状、俺のメイン火力であることは確かなんだが。

 そういう事情もあって俺はこの学院で使い勝手のいい汎用魔法を体系的にしっかりと学びたいのだ。

 

「ふぅむ、今年は変わり種が多いのぉ。実に楽しみじゃ」

 

 三角帽子の老魔法使いが豊かなあごひげを撫でつけながら期待を口にする。

 が、目が笑ってないんだよなぁ、このじいさん。

 

 俺の記憶にないということはモブキャラのはずなんだが、ちょっと調べておく必要がありそうだな。

 

 すべては我が最推しモーリスを救うために。

 

 

 

 

 

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