雑にTS転生した俺氏、最推しの中ボスキャラになぜか迫られています 作:pantra
言葉には力がある。
それは形なき意思に形を与え、想像を現実に書き換える力。
あるところに物語があった。
数多くの人々によって触れられ、繰り返し繰り返し紡ぎ直されてきた物語は、やがて現実としての血肉を得るに至った。
現実として拡張した世界。
無数の人々、その世界に存在するすべてのものが抱く意思。
願いや欲望、希望と絶望、喜怒哀楽。
それらすべてが原動力となり、かつてエルドレッド・サーガと呼ばれた世界はもはや物語の枠を超えて動き出した。
やがてある日、二つの意思が邂逅を果たした。
自らの過酷な運命と逃れられぬ死に対する悲憤。
現実に勝る情熱を注ぎ込んだ存在の運命を変えたいと願う欲望。
二つの意思は引き寄せ合い、絡み合い、そして『またしても』現実を書き換えるに至った。
「どうカ……を救……クれ、アデ……」
轟公太郎という名の一人の男性の死体が消滅するのを見送った『それ』は、暗闇に包まれた室内で誰にともなく呟きを漏らした。
公太郎を斬り捨てた凶器、反りのある湾刀を腰の鞘に納めた後に自らの顔面を手で覆って身を震わせていたが、すぐに『それ』もまた細かな粒子となって形を失い、公太郎の生きた世界から完全に消え去った。
二つの意思はこれから自らの望む方向へ世界を動かそうと奔走することになるだろう。
しかし、彼らはまだ気付いていない。
自らの運命を変えたいと願っている者が自分たちだけではないということに。
例えばかつてエルドレッド・サーガという物語で主人公と呼ばれた青年。
彼と共に冒険し、戦い抜いた仲間たち。
主人公たちによって物語の中で対立し、倒されてしまった敵役たち。
ラスボスと呼ばれる者。
あるいはモブキャラと呼ばれる名もなき者たち。
さらには物語が現実の世界へと書き換わったことで初めて存在を許された者たち。
ありとあらゆる存在の意思が既存の物語から抜け出して自らの望む現実を手に入れるために動き出している。
その波及効果は計り知れず、かつてエルドレッド・サーガと呼ばれた世界はいずれ本来の形とは似ても似つかぬものへと変貌するだろう。
そしてその中心に存在し、世界へもっとも大きな影響を及ぼしているのが特異点たるアデライン・シェリンガムだ。
彼女は物語の外からやって来た『語る者』。
本質的に『語られる者』であったこの世界の存在にとって唯一無二であり、絶対的な価値を持つ者であり、誤解を恐れずに言えば神にも等しい存在。
たとえ彼女自身がそれを自覚しておらずとも、世界は彼女を中心に歪み、変容していくのだ。
あるいは彼女をこの世界へ招いた『それ』の望む通りに。