雑にTS転生した俺氏、最推しの中ボスキャラになぜか迫られています 作:pantra
「なあ、久しぶりなんだからいいだろ」
「やめぬか。主が戻ってきたじゃろう」
「見せつけてやりゃいいじゃねえか」
食事と共同浴場での入浴を終えて学院寮の自室へ戻ってきた俺が目にしたのは、局部を丸出しにしたむくつけき大男がほっそりした色白の美女を押し倒して股を開かせようとしている場面だった。
食事と入浴でせっかくリフレッシュしてきたのに一気にげんなりした気分になった俺は、椅子を引っ張って来て腰かけると目の前で繰り広げられる痴態を冷ややかに見下ろした。
ちなみにデカいちんこをそそり立たせた大男も挿入されまいと股を手で押さえて必死に抵抗している美女も、額に角を生やしている。
言うまでもないが、こいつらは二人とも俺の式神である前鬼と後鬼である。
たまには元の体で一息つきたいと言うから、俺が部屋を留守にしている間好きにさせていたのだが、結果はこのありさまだ。
元々俺の式神になる以前からこいつらは夫婦というか、少なくとも男女の仲ではあったようなので行為自体を咎めるつもりはないのだが……。
「もういい。そこまで」
二度ほど手のひらを打ち合わせると、大男が戦斧の姿に変わって床に転がった。
「おい主、いきなり何しやがる!」
「やかましい」
抗議の声を上げる戦斧を術で縛り付け、もう一人の美女へ視線を向ける。
「はぁはぁ、助かったのじゃ。見苦しいものを見せた、主よ」
「まったくだな、後鬼」
まろび出た裸の胸を着物の前身頃を合わせて隠した後鬼は、脱がされたふんどしをくるくると丸めて気まずそうに手の中に握り込んだ。
「別にそういう行為をするなとは言わないが、やるなら異界でやってくれないか」
異界というのは俺の式神たちが普段待機している異相空間のことだ。そこでは式神たちは実体となって自由に過ごしているらしいのだが、術者である俺にも細かいところはよく分かっていない。
こちらの世界の書物と前世での知識を参考にしてなかば我流で構築した術であるためか、俺自身理解があやふやな部分があるのだ。
ともかく、異界でも実体になれるのだから夫婦の営みはそちらで行えばいいのに、なぜわざわざ俺の目の前で事に及ぼうとするのか。
「あっちは感覚が薄くていまいち気持ちよくねぇんだよぉ」
縛り付けられて身動きが取れない前鬼がガタガタ抜かしている。
俺が後鬼へ視線を向けると、彼女は恥ずかしそうに目を逸らして弁明した。
「感覚が薄いというのは事実じゃ。ただわらわはあちらでも充分……」
「嘘言え。お前だってこっちでヤル時のほうが感じて……」
「うるさいぞ。引っ込め」
再び手を打ち合わせると戦斧姿の前鬼がこの場から掻き消えた。
大きなため息を一つ吐き出した俺は、改めて自身の抱える問題を再認識する。
ようするに、俺は自らの式神を御し切れていないのだ。
前鬼も後鬼も他の連中もどう考えても自我が強すぎる。今のところ式神たちが俺の支配下から外れて暴走したことはないが、正直不安だ。
俺が学院で汎用魔法を学びたいと思っているのは、式神に変わる武器を手に入れたいからだ。
この術は強力だし便利でもあるのだが、いささか持て余している。
我が推しモーリスのために今後様々な活動をしていくうえで、可能な限り不安要素は潰しておきたい。
新たな東方の魔導書を入手して陰陽術への理解を深められればそれが一番だが、次善の策は手の内に保持しておきたい。
……やれやれ、推し活も楽じゃないな。
「面倒をかけるな、主よ」
俺の表情を見て後鬼が申し訳なさそうに言った。
ただのスケベなアホである前鬼とは対照的に、後鬼は人格的に非常に完成された好人物である。なぜこんな二人が夫婦などやっているのか。
たぶん後鬼はダメ男に嵌まって抜け出せなくなるタイプなんだろうな。こんなに美人なのに。
俺が男だったら絶対に放っておかないんだが、あいにく今の俺は女の子なので後鬼の裸を見ても性的関心は抱けない。
「一応聞いておくが、前鬼との関係は強要されたものじゃないんだな?」
「うむ。認めるのも恥ずかしいが、ああ見えてわらわの選んだ連れ合いであることは事実なのじゃ。時々自分の判断が間違っていたのではないかと思わぬでもないが……」
体の相性って奴かね。何度見てもエグいちんこしてるからな、あのアホ。
「主は前世では殿方であったそうじゃが、その頃の主にもし出逢えていればあの阿呆など捨てて主のものになっていたであろうに。残念無念じゃ」
どこか惜しむように後鬼が呟く。
前鬼が聞いていないと分かってはいるが、それでも思わず周囲を見回してしまう。
前鬼は好き勝手ばかりやるアホだが、後鬼は後鬼で少々俺に対する思慕が重い。
どうも俺のことを高潔な精神を宿した傑物だと思い込んでいるのが原因らしい。
本当はただの限界オタクなんだが。
「まあ、前鬼の行動が目に余るようなら言ってくれ。いざとなれば依り代を永遠に封印する」
「……そうならぬよう目を光らせよう」
いくら後鬼でも何十年も連れ添った夫を封印されたくはないのだろう。
真剣な表情で頷いた。
「そうだな。ところでもう少しこちらに留まるか?」
「いや、わらわも異界に戻してくれ。あやつの相手をだな、してやらねばならぬゆえ」
「分かった」
手を打ち鳴らすと後鬼の姿が異界へと消えた。
一瞬前まで彼女がいた空間をぼんやりと眺めながら、背もたれに体を預ける。
「何だって処女の俺が熟年夫婦の痴話喧嘩の仲裁をしなくちゃならないんだよ、まったく」
脱力して何もする気が起きなくなった俺が椅子に座ったままぼうっとしていると、雑事を済ませて部屋に戻ってきたリネットに珍しいものでも見るかのような視線を向けられた。
さしものお嬢様でも慣れない環境にはお疲れになるような可愛げが備わっているのですね、などとバチクソに失礼なことを抜かしおったので、罰として用事を申し付けて終わるまで帰ってこないよう部屋から追い出した。
どのみち周辺人物の調査は必要だ。
この学院の教師たちとラスボスの手先ランディは特に。
ま、リネットならば上手くやるだろう。
何せ高位のアサシンだからな。