シンのDesTinyが欲しい   作:シンの夢〇

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FREEDOM観ました。

最高でした。
最高だったからこそ、私の中の「DESTINY」と言う作品にケリをつけに行こうと思いました。

シン・アスカ単押しです。対戦よろしくお願いいたします。


PHASE-1.出逢う光

 

 

 

 「再構築戦争による遺伝子汚染は完全に撲滅された」

 彼らはそう言って、コーディネイター技術に転用されうる遺伝子疾患治療技術を封印した。

 

 愚かなことだと思う。

 遺伝子は突然変異するものだ。だからこそ、人類は突然変異した細菌やウイルスとイタチごっこの戦いを続けてきたのではないだろうか。その突然変異が、人間に起こらないとでも思ったのだろうか。

 

 

 

***

 

 

 

「このままでは、重篤な遺伝子疾患をもって生まれてくることになります」

 

 私の両親は、私が生物としてこの世に生を受けた直後に、そう主治医から宣告された。

 絶句する両親に対して、主治医は看護師を部屋の外に出して、小さな声でこう告げたという。

 

「治療する技術はありますが、今は“公式には”使用することが出来ません。ここからは相談次第ですが、地下のコーディネイター施設を紹介することが出来ます。もちろん、費用は相応に掛かりますが……」

 

 

 

 両親は私のために全てを手放して治療費を用意してくれた。お陰でこのとおり五体満足な健康体として生を受けることが出来ている。

 ここまでなら、ただ幸せな物語であっただろう。

 だが、世界は禁忌に手を染めた私たち家族を許してくれなかった。

 

 S2インフルエンザの流行、反コーディネイター感情の激化。

 

 件の主治医も「コーディネイターに手を貸している」とされ、医院はブルーコスモスを名乗る過激派による襲撃を受けた。更に悪い事に私のカルテが流出し、私達家族も彼らのテロの標的となった。

 

「命を失うよりはいい」

 

 父親はそう言って、プラント移住を決定したという。

 手持ちの資産は全て私の治療費に充ててしまい、後生大事に守るべき家や土地が無かったことも幸いしたのだろう。

 私達はテロリストの襲撃を受けることなく、無事プラントに移住することが出来た。

 

 

 

 ただ、プラントの生活も幸せなものではなかった。

 既に遺伝子操作により生まれた“優秀な”コーディネイター達が意思決定権を持つプラントで、ただのナチュラルに過ぎない両親が安定した職を得るのは非常に難しい事であった。過酷な仕事で肉体が、またプラント内の反ナチュラル感情により精神が疲弊していった。

 

 それでも、私には苦労させまいと、私が希望したプラント工科アカデミーへ入学させてくれた。もっとも、「そこを卒業して親孝行するんだ」と意気込んだ夢が叶うことは無かったのだが。

 

 

 

 死に物狂いで勉強して入学したアカデミーで私を待っていたのは、更なる格差であった。

 飛び級を重ねて入学してきたコーディネイター達は、傍目には遊びまわって楽しそうなキャンパスライフを送っている。なのに、勉強漬けの私の成績は彼らに全く敵わないのだ。むしろ、赤点を取らないだけマシだった。

 

 教授達の無関心、同期達の嘲笑。

 楽しかった勉学が私の心を削る荒いヤスリになるのに、そう時間はかからなかった。

 

 けれど、私の心が折れることは無かった。

 救いの手は、唐突に、そして厄災と言う形でやってきた。

 

 

 

――C.E.70年、連合・プラント大戦勃発――

 

 

 

 今では「第一次」と枕詞が付くそれは、半世紀もの間積もり積もったナチュラル・コーディネイター間の反感・差別意識という巨大な火薬庫に、遂に火が付いたものだった。

 核弾頭によるコロニーへの攻撃、Nジャマーによる地球インフラの破壊。

 当初はZ.A.F.T.が戦局を優位に進めていたものの、形勢は時間と共に地球連合軍に傾いていた。新兵器MSにより一時的な技術的優位を確保したZ.A.F.T.だったが、地球連合軍もMSを投入すると、兵力差により徐々に押されていった。人口差は如何ともしがたかった。

 だからといって、Z.A.F.T.は白旗を揚げなかった。否、揚げられなかったのだろう。双方、科学技術の粋を集めて虐殺の限りを尽くした絶滅戦争における降伏が何を意味するかは、歴史が語ってくれている。

 

 かくして、Z.A.F.T.は徹底抗戦を叫び、新兵器ジェネシス使用のための時間を稼ぐとともに、更なる徴兵対象の拡大を実施。その対象には、今まで免除されていた工科アカデミーの学生も含まれていた。

 

 

 

***

 

 

 

 「“戦争が悲惨だ”と嘆くのは、都市部のインテリ共だけだ」

 かつて、旧暦の兵士達はそう語ったという。

 

 「何を馬鹿な」と、かつての私だったらその歴史書を一顧だにしなかっただろう。だが、今の私ならば痛いほど分かる。

 

 普段、教授達に贔屓にされる同期達が、教官の前では同じように罵倒され、腕立て伏せをさせられた。もちろん、私も同じように怒鳴られ、理不尽な筋トレを命ぜられるのだが、鼻持ちならないエリート共が私と同じようにコロニーの底を這いつくばっているというのは痛快だった。

 

 更に愉快なことに、私はMSのシミュレーターで同期達を圧倒することが出来た。

 コーディネイターを上回る人殺しの才能に感謝すべきなのかは分からないが、落ちこぼれを見下そうと挑んできた同期を叩きのめすことは最高のストレス解消方法だった。更には教官からの評価も高くなるというオマケ付きだ。

 たった1ヶ月の教育期間が終了する頃には、私はZ.A.F.T.の赤服と新鋭機“ゲイツ”を受領することが出来た。もっとも、そんなステータスや玩具より、緑服と“ジン”を受領しこちらを凄い顔で睨んでいる同期達の表情が一番のプレゼントだったのだが。

 

 

 

 促成教育を終えた私達が配備されたのは、プラント最終防衛線であるヤキン・ドゥーエ要塞。

 本来なら命令があるまでパイロットルームで大人しくしているのが筋なのだろうが、なんだかんだ花形であるMSパイロットは“優秀な”コーディネイターが多い。すなわち、私にとって居心地が悪いということだ。

 結果、自室とシミュレーターを往復するだけの日々が続く。

 

 もっとも、シミュレーターばかりでも芸が無いので、整備部隊にお願いして実機も触らせてもらっている。「蝶や蜻蛉も鳥のうち」ではないが、こういった裏方はZ.A.F.T.においても格下に見られているのか、私にとって居心地のいい空間が存在していることが多い。

 今では「兵装試験」の名目でヤキン・ドゥーエ要塞の周辺宙域を一周するくらいなら大目に見てくれる程度には友好関係を築くことが出来た。

 

 

 

 ある日、その辺のデブリで1人射的大会を開催した後帰還しようとすると、ヤキン・ドゥーエの方向から妙なプレッシャーを感じた。頭蓋の裏側にチリチリと電流が走るような、嫌な感覚だ。

 とはいえ、帰らないと言う選択肢はない。正反対の行為を訴える直感を押さえつけて、ヤキン・ドゥーエの格納庫を目指した。

 

 ゲイツをハンガーに格納してコクピットから降りると、普段はワラワラ群がってくる整備兵達の代わりに、白服の男が立っていた。

 長めの金髪に白い仮面。噂に聞くZ.A.F.T.のトップエース、ラウ・ル・クルーゼか。

 何故こんなところに。

 

「命令も無しに勝手にMSを出撃させる赤服とは、アカデミー上位者の証も随分と安くなったものだと思ったが、どうやら掘り出し物だったようだな」

 

 クルーゼは脇で小さくなっている整備兵に私のゲイツのログを調べるよう指示する。

 

「君らの賭けの結果はどうだ?」

 

 普段整備兵達は、私のデブリ射的大会の結果を賭けのネタにしている。おそらく、張っている最中にクルーゼが格納庫に踏み込んできたのだろう。

 

「……全弾命中です」

 

 クルーゼは芝居がかった仕草でゆったりとした拍手を送る。

 

「君らの勝ちだ。私の名前で酒保からワインでも持ってくると良い」

 

 いや、賭けの相手はクルーゼかよ。そんな背中に嫌な汗が出そうな賭けで、私の全弾命中に賭けてくれるのは嬉しいやら恥ずかしいやら。

 整備兵達は遠くから私にサムズアップを送ると、そのまま酒保を目指して格納庫から逃げるように去っていった。

 シンとした格納庫に、クルーゼの足音だけが響く。

 

「君、名前は?」

 

「リゼラ・ガーランドです」

 

 私の名前を聞くとクルーゼは手元の端末を操作する。白服ともなれば、私の情報へのアクセス権限も有しているのだろう。

 

「ほぅ、工科アカデミーからの徴兵か。このご時世、徴兵組は珍しくないが使える奴は珍しい」

 

 そりゃ、つい三ヶ月前まで銃も握ったことの無い一般人でしたから。

 徴兵組は弾除けか数合わせにしか使えないのかもしれないが、私だけはその危険極まりない任務から外していただきたいものである。

 

「名乗るのが遅れた。ラウ・ル・クルーゼだ」

 

「存じ上げております」

 

 ネビュラ勲章を受領した世界樹攻防戦での活躍は、何故か促成教育期間中でも貴重な時間を割いて教えられたからな。

 

「軍事アカデミーで吹きこまれたのだろうが、そういう話は眉に唾を付けて聞くものだ。既に“栄光のクルーゼ隊”は無い」

 

 その件は情報統制されている、と聞いていたんだけどな。まぁ、噂ではある程度出回っているし、クルーゼ自身も隠す気が無いのであれば良いのだろう。

 クルーゼ隊を構成したエースパイロット達は櫛の歯が欠けるように散っていった。戦死であったり、人事異動であったりその理由は様々だが、一説には裏切者もいたという。

 

「今は話し相手にも事欠く次第でね。少し付き合って欲しい」

 

 歴戦の白服が、新兵を士官室に連れ込んでヤることなんて1つしかないのでは?

 

 

 

 クルーゼの士官室は、簡易な応接機能も備えられた豪勢なものであった。

 赤服とは言え、ペーペーの自分の居室とは比べるまでも無い。

 

「珈琲で良かったか?」

 

 応接用の椅子で小さくなっている自分は何もせずに、上官である白服にお茶を入れさせている。軍事アカデミーなら鉄拳が飛んできただろう。

 

「え、えぇ」

 

 食料輸入路が細くなったプラントでは貴重な嗜好品が出てくる。

 あるところにはあるのだなぁ、と口をつけたら代用品だった。上官が入れたものを飲まないわけにはいかないが、だからといって積極的に飲みたい味ではない。

 

 そう逡巡していると、仮面越しの眼がこちらをジッと見つめていることに気が付いた。

 

「……あの、私の顔に何か?」

 

「君はナチュラルか?」

 

 心臓がギュ、と掴まれるような感覚に襲われる。

 「遺伝子を触った」と言う意味ではコーディネイターだが、「能力調整をしていない」と言う意味ではナチュラルなのかもしれない。

 個人的には、両方のデメリットだけを享受している何ともいえない存在、としか言い様がないのだが。

 

「あぁ、なるほど。顔を触ってないのか」

 

 クルーゼは私の顔から目線を外し、椅子に深く腰掛け直した。

 

「人の手が入るものは流行がある。髪型、服装、化粧。歌や絵もそうだ。君のは悪くない造形だが、少し時代遅れだな。生まれる時代が違えば銀幕の人間だったかもしれん」

 

 褒めているのか貶しているのか、どちらと取ればよいのだろう。

 

「……妊娠早期に発覚した遺伝子疾患の治療のためコーディネイター技術を使用しました。それだけです。両親には感謝しています」

 

 そうしなければ、私はもうこの世に居なかったのかもしれないのだから。

 そういうとクルーゼは少し驚いたように眉を動かしたかと思えば、急に高笑いを始めた。

 

「傑作だな! C.E.初期の再構築戦争終了時にナチュラルの多数に施した遺伝子治療を受けただけで、半世紀後にはコーディネイター扱いとは!」

 

 自分もそう思うよ。

 まぁ、どうにもならないから地球には居られず、プラントの落ちこぼれとしてZ.A.F.T.に流れ着いたんだけれども。

 

「もうすぐ、地球連合軍がここヤキン・ドゥーエへと進軍してくる。

 奴らの核が我らのコロニー群を焼くのが早いか、我らのジェネシスが彼らの宇宙軍を焼くのが早いか、君はどう思う」

 

「どう、とは?」

 

「君の様な出自なら、プラントが勝とうが地球連合が勝とうがどちらでも良い、あるいは共倒れを願っているのではないかね? それとも、プラントのご両親を守りたいか?」

 

 カマを掛けているのだろうか。

 私がこの質問に対して迂闊な答えを返した瞬間、クルーゼの息のかかった者達がなだれ込んで来るのではないだろうか。

 

「安心したまえ。この部屋に盗聴器は無い」

 

 更にクルーゼは拳銃を抜くと、安全装置を外してテーブルのこちら側に押しやった。

 いざとなったら、撃って構わないと?

 

「……両親は大戦初頭に他界しました」

 

「それは、残念だった」

 

 全く残念と言う気持ちが感じられない声色だったのだが、気のせいだろうか?

 むしろ、猟奇的殺人鬼が爆弾の安全装置を外した時のような、嬉々とした感情が漏れ出ているような気がする。

 

 ひょっとして、このラウ・ル・クルーゼという男、物凄い危険人物ではないだろうか。いや、私の身が危険、というよりもプラントやZ.A.F.T.――果ては人類文明に仇なすという意味で。

 だったら、お望みどおりぶちまけてやろうではないか。

 

「仰るとおり、プラント・地球連合どちらの勝利にも興味はありません。それに、どちらも確固たる勝利を得ることは無いでしょう。

 核? ジェネシス? 両軍とも今まで中途半端な事ばかりしてきました。今回も“最終的解決”に至ることなく、禍根を残したまま中途半端な場所で終わるのではありませんか」

 

「ほぅ、面白い考えだ。詳しく聞かせてはくれないだろうか」

 

 

 

「緒戦で地球連合はたった1発の核しか使用しませんでした。

 絶滅戦争をやる気なら初撃で保有する核弾頭を全弾叩きこむべきでした。ボアズにあれほど使用したのですから、在庫は開戦時点でも十分にあったでしょう。

 “プラントの自演”、“軍内過激派の仕業”、1発なら何とでも言える。いえ、そう言い訳したかったから1発しか撃たなかった。

 

 プラントも同様です。地球圏にN(ニュートロン)ジャマーをバラまく中途半端なことをするぐらいなら、地球にユニウスセブンを墜すべきでした。

 “Nジャマーは非殺傷兵器”、“野蛮なナチュラルと違って我々は直接市民を攻撃しない”といった下らない言い訳ができる逃げしろを作ったとしか思えません。

 

 地球連合・プラント共に、指導者が腰抜けで全ての業を背負って死ぬほどの覚悟がありません。どうせ、お互い疲れ果てたところで休戦して、元気になったらまた始めるでしょう」

 

 誰かに聞かれたら国家反逆罪で直ちに処刑されるであろう内容を、クルーゼは満足そうに笑って聞いていた。

 まるで、自分が今まで人生全てを注いだ事業が成功裏に完結を迎えつつあるように。

 

「……そうか、君の目からであっても戦争は終わらぬか」

 

 むしろ、この状況でどうやったら綺麗に終わらせることが出来るのか、知りたいほどには。

 

 

 

「ありがとう。最後に話せて楽しかったよ」

 

 ご丁寧に士官室フロアの出口までエスコートしてくれたクルーゼは、そう言って来た道を戻っていった。

 

 最後?

 私を口封じするつもりだろうか。初陣で敵だけではなく、背中にも気を付けて戦えと?

 

 

 

***

 

 

 

 残念ながら、背中に気を付けている暇など、これっぽちも無かった。

 それ程までに初陣は厳しく、そしてヤキン・ドゥーエは地獄だった。

 

 敵も味方も星屑のように散っていった。

 いつの間にか共に戦っていたはずの同期達のジンの姿は無くなり、援護してくれていた艦隊群も沈黙して久しい。

 もちろん損害相応、いやそれ以上の打撃を地球連合軍に与えているはずなのだが、彼らの攻撃が止む気配は無かった。むしろ、ジェネシスの2斉射が彼らの戦力の過半を消し飛ばしたはずなのに、いや、だからこそ攻撃は苛烈になっていった。

 

 

 

 一体、どれ程の敵機を落としただろうか。

 

 編隊を組んで統制射撃してくるダガーの群れを、ビームライフルで叩き落とした。

 サーベルを抜いて切りかかってくるアストレイを、すれ違いざまに複合防盾で串刺しにした。

 

 当初は私の周囲の敵機を減らせないジェネシスや、何の役にも立たずに散っていったジン(同期)の罵詈雑言を吐いていたものの、徐々にそんな余裕すらなくなり、ただ黙々と敵機を落とし続けていた。

 蓄積する疲労は時間と共に被撃墜の確率を上げるのではないかと危惧していたが、むしろ余計な思考すら省かれ、反射のままに敵機の攻撃を避け、こちらの攻撃を当てていけるようになっていた。

 

 これが“実戦での成長”と言うヤツだろうか。

 実機どころかシミュレーターですら満足に扱うことが出来なかったエクステンショナル・アレスターが意のままに敵機を撃墜するのを見て、どこか他人のように感じていた。

 

 

 

 始まりも唐突なれば、終わりも唐突にやってきた。

 

 私達があれほどの犠牲と努力を払って維持していたヤキン・ドゥーエ要塞が勝手に自爆。ジェネシスも自爆した上、かろうじて生きていたチャンネルから停戦命令が発せられた。

 とはいえ、長期にわたる戦闘でエネルギー切れを起こしていた私のゲイツはヤキン・ドゥーエ要塞の自爆から逃れることが出来ず、モロに巻き込まれてしまった。

 不幸中の幸いか死ぬことはなかったものの、私の代わりに爆風を受けたゲイツはとても動けるような状態ではなかった。停戦命令に従って帰還しようにも、周辺宙域をただ一人漂流する以外にできることがない。

 

「死にたく無いなぁ……」

 

 両親が全てを投げうって与えてくれたこの人生を、ただ無駄にするつもりは全くなかった。今まで“本物のコーディネーターに勝てない”と嘆いていた問題も、大戦と言う機会が私のMS操縦という才能を発掘してくれた。

 ようやくこの人生に光が差したところなのだ。まだ死にたくはない。

 

 ダメ元で救難信号弾を打ち上げてみる。

 地球連合軍に拾われたら碌なことにならないだろうが、何もしないよりは生存確率が高くなるだろう。

 

 そうして漂流することしばらく。

 ウトウトしていた私を、何かを叩く音が目を覚まさせる。コックピットを開くと、私のよりもう少し綺麗なゲイツが外装を叩いていた。

 

<<こちら、ホーキンス隊のハイネ・ヴェステンフルス。ゲイツのパイロット、生きてるか?>>

 

 

 

 ヴェステンフルスを含むホーキンス隊は停戦命令に伴って救助活動を行っているらしい。

 ヴェステンフルスは私にゲイツが牽引するロープにつかまる様に指示したが、それだと私のゲイツは置き去りになってしまう。残念ながらそれはちょっと困るのだ。

 

 徴兵組の私は戦後復員させられるのだが、MSの操縦以外コーディネイターより遥かに劣る私は、何としてもZ.A.F.T.にしがみ付かなければならない。そのためには、戦闘ログが格納されている私のゲイツを捨てるわけにはいかなかった。

 

「赤服ならZ.A.F.T.に残れるんじゃないのか?」

 

 注文の多い女だ、と文句を言いつつもヴェステンフルスは私のゲイツに一時的にエネルギーを供給し、落ちていたOSを再起動させるとログの抽出作業を始めてくれた。

 

「35、36、37……38。お前凄いな! ネビュラ勲章ものだぜ?」

 

 流れてくる戦闘ログを眺めていたヴェステンフルスは、私の撃墜スコアを数えてそう言った。戦闘中必死だったから、5機より先は数えていない。

 

「徴兵組なのですが、もうZ.A.F.T.しか行く当てがないので」

 

 負け戦なので勲章は貰えないだろうが、Z.A.F.T.に置いといてくれると嬉しい。歴史に倣えば、戦後は軍縮の嵐が来訪し、徴兵組は当然として正規の志願者も復員させられるだろうから。

 とまぁ、そんな本音は心の奥底にしまって、しおらしく言外に“帰る場所を戦争で失った”と滲ませる。

 

「そう言うことなら俺が保証してやる。“お前はクルーゼ級のエースだ”って」

 

 戦闘ログを抽出し終わると、ヴェステンフルスはそう言ってコクピットから出る私に手を貸してくれた。

 いいヤツだな君。変な女に引っかからないかお姉さん心配だよ。

 

 ヴェステンフルスの手を取ってコクピットから這い出て、彼のゲイツが牽引するロープに捕まろうとすると、手を放してくれなくなった。

 

「でもまぁ、ここまで手助けするなら俺にもう少し役得があってもいいんじゃない?」

 

 クルーゼがインポだったから油断していた。

 士官が新兵をコクピットに連れ込んでヤることなんて1つしかないじゃん。

 

 

 

 結論から申し上げると、特に何もなかった。

 

 ホーキンス隊の母艦に着艦してヴェステンフルスのお姫様抱っこで帰還した、それだけだ。

 もっとも、それが彼の狙いだったわけだが。

 

 ヴェステンフルスはコーディネイター特有の甘いマスクと色っぽい声に加えて、遺伝子操作を以てしてもなかなか手に入りにくい「性格の良さ」を有していた。その結果、彼の周囲には夢見る乙女達が大集合し、彼は辟易としていた。

 そこで降って湧いたお邪魔虫除けこと私、リゼラ・ガーランド。

 「緒戦で大戦果を挙げたエースの卵を抱いて帰還する」と言うドラマチックな演出で勘違い乙女達の脳を破壊し、「コブ付き」の称号を得ることで彼女らを追い払うことに成功した。もちろん、彼の食指が動く相手にはしっかり手を出しているのだが。

 

 

 

「リゼラ、BOXが一杯だぞ。たまには整理したらどうだ」

 

 戦後しばらく。

 ハイネは出世し、ナスカ級3隻とその艦載MSを含む「ヴェステンフルス隊」の指揮官となった。彼は約束どおり私がZ.A.F.T.に残れるよう取り計らってくれた上、即成教育を補完するための軍事アカデミー科目履修の推薦状まで書いてくれた。

 卒業後はヴェステンフルス隊のMS隊副官に引き上げるというオマケ付き。ハイネの方に足を向けて寝られないな。

 

「触れない方が良いですよ。何が入っているか分かりませんし。剃刀ならまだ良い方です」

 

 もっとも、その代償に私は未だ処女なのにも関わらず「ベッドで地位を得た女」扱いされ、ハイネの過激なファンには毎日殺害予告を頂く始末。BOXは手を突っ込んだら指を2~3本失いかねない「真実の口」と化したため、整備兵に頼んで月に一回危険物処理を実施している。

 もう両親も居なければ、生死を共にした戦友も居ない。私のBOXに何かを届けようとする人間は、すなわち私に敵意がある人間だけだ。

 

「ヴェステンフルス隊長がさっさと身を固めてくれさえすれば、謂れの無い中傷から解放されるのですが」

 

「だーかーらー、“ハイネ”だって。

 俺は1か所に縛られるのが苦手でね。自由な蝶は綺麗な花を見かけると蜜を吸いたくなるのさ」

 

 病気になっちまえ。いや、無理だ。コイツはちゃんとしたコーディネイターだった。性病などと言う前時代の遺物は気にしなくても良いのだろう。そう考えると、コーディネイターってゴムとか着けなさそうだな。出来たらどうするんだ。

 

「背中から刺されても知りませんよ」

 

 

 

***

 

 

 

 ――どうせ、お互い疲れ果てたところで休戦して、元気になったらまた始めるでしょう――

 

 そうクルーゼに語った私だが、まさか元気になるのに2年かからないとは思いもしなかった。

 地球連合軍特殊部隊と思わしき勢力によるZ.A.F.T.新型MS奪取事件(アーモリー・ワン事変)、ザラ派テロリストと思わしき勢力によるユニウスセブン落下事件(ブレイク・ザ・ワールド)と立て続けにカンフル剤が注入され、ナチュラル=コーディネイター間の軋轢に再び火が付いた。

 

 しかし、パトリック・ザラがやらなかったユニウスセブン落下をその残党がやるとは。「その遺志を継ぐ」とのたまうのであれば、パトリック・ザラが墜とせなかったその妻の墓標くらい大事にしてやったら良かったのに。

 

 

 

 月面アルザッヘル基地から出撃した大西洋連邦宇宙軍を主力とする地球連合軍は、再びプラントのコロニー群を核の炎で焼かんと、このL5宙域に進軍。対するZ.A.F.T.全軍にも出撃命令が下った。ヴェステンフルス隊も例外ではなく、プラントコロニー群正面に布陣している。

 

<<ハイネ・ヴェステンフルス、ザク、行くぜ!>>

 

 ハイネは隊長とは言え、自分もMSに乗って突っ込むタイプの人間である。今回も隊の過半のMSを率いて前線に行ってしまった。

 残りの数機で行う母艦直掩は私の担当だ。責任の割に配分されているリソースが少なすぎるだろ。

 

<<ヴェステンフルス隊、敵MSと交戦開始>>

 

<<数が多い! 抜けられるぞ!!>>

 

 決して劣勢と言う訳ではないが、1機でも突破してコロニーに核を叩きこめば良い地球連合軍とは異なり、全てを防ぎ留めねばならないZ.A.F.T.は元より不利な条件だ。

 せめて数が同等であればもう少し楽なのだろうが、プラントの人口制約とユニウス条約による軍備制限がそれを許してくれない。

 

 飛び交う通信が、敵MSの一部が味方MS隊を抜けてこの母艦群に近づいていることを示唆している。

 

「リゼラ、頼む」

 

「任されました」

 

 ヴェステンフルス隊副長より艦隊防衛及び敵MS隊阻止が指示される。

 パイロットルームへ艦内通信で出撃命令を伝えた後、ブリッジを降りて格納庫に向かう。既に残りのパイロットはMSに搭乗中だ。流石ヴェステンフルス隊、仕事が早い。

 こちらもさっさと乗機のコクピットに乗り込む。

 

「言われたとおり、エクステンショナル・アレスターを追加しました。良いんですか? 相当使いにくいですよ?」

 

 整備兵が私の我儘に応えて乗機を弄ってくれた。やはりこういうウェットな付き合いはしておくものだな。

 

「手数が多いに越したことはないわ」

 

 しかし、アレの評判は悪い。後継機のゲイツRで落とされたのもむべなるかな。一方で私にとっては、ヤキン・ドゥーエ以来のお気に入り装備の一つなのだ。

 OSを起動し、エクステンショナル・アレスターがOSに認識されていることを確認する。外の整備兵に状態良好であることをハンドサインで伝えた。

 

<<MS隊、カタパルトへ移動。減圧に備えて要員は退避せよ>>

 

「よろしく頼むぜ!」

 

 気密区画へ退避する整備兵達に手を振りながら、僚機との通信回線を開く。

 

『敵MSの一部が正面のMS隊を突破。私達の目的は一にプラント本国への攻撃阻止、二に母艦防衛よ。良い? ナチュラル相手に格好悪い所見せないでね』

 

 Z.A.F.T.に階級は存在しないが、直掩のMS隊の中では私が唯一の赤服なので、一応指揮官っぽい事もする。

 しかしまぁ、ナチュラルに毛の生えた程度の能力しかない自分が、士気高揚のためとは言え、何が悲しくてこんなことを口にしなければならないのか。

 

<<了解>>

 

<<リゼラ姉さんのゲイツ、改造してもらうついでにオレンジに塗らなかったんですか?>>

 

 残念ながら、戦場で目立つような自殺行為に興味はない。むしろ、宙間迷彩に塗りたいぐらいだ。

 

『気が向いたら、ね』

 

 ヴェステンフルス隊は隊長の信奉者が多い。

 彼はコーディネイターにしては珍しく性格が良いから、男女問わず人が集まってくる。彼らとしてはハイネにあやかって機体の一部をオレンジに塗りたいらしいが、もう一人の赤服である私が頑なにパーソナルカラー塗装をしないので二の足を踏んでいるらしい。

 多少は譲歩すべきだろうか。まぁ、戦闘後に考えることだ。

 

 私のゲイツRが格納庫からカタパルト射出位置へと移動する。

 電磁カタパルトのステータスが、「待機」から「発進」へと変わった。

 

<<ゲイツ、発進どうぞ>>

 

『リゼラ・ガーランド、ゲイツ、出撃します』

 

 

 

 “本国防衛が優先”とは言ったものの、母艦を撃沈されてはヴェステンフルス隊の一員としては任務失敗だ。

 僚機は本国を目指すMSが追える程度にフリーとし、自分は母艦防衛に集中する。

 

「――とは言え多すぎるだろ! 仕事をしろハイネェ!!」

 

 アイツは本国防衛の任を忘れて、好き勝手戦ってるんじゃないのか。陣形が崩れたら敵MSに抜けられるだろうが。

 いや、そもそもZ.A.F.T.の連中に陣形を維持させるなんて無理だわ。個人主義が強すぎて作戦行動に支障をきたしている。

 このZ.A.F.T.のやり方は非常に戦いにくいのだが、私が異常なのだろうか。

 

 ハイネが撃ち漏らした敵MSを腰部レールガンとビームライフルで叩き落とす。

 ナスカ級も援護射撃をしてくれているが、それでも手数が足りていない。

 

<<て、敵がぁ!!>>

 

 母艦群からの回線に入った悲鳴に振り向くと、ダガーが取りつこうとしていた。メインの火器は全て正面に投射中なので、エクステンショナル・アレスターを差し向ける。あって良かった補助火力。

 

『副長、敵が多すぎます。僚機を呼び戻しても?』

 

<<やむを得ない。艦隊が崩れれば敵主力が突破するだろう。抜けた敵は最終防衛ラインに任せよ>>

 

 副長の許可を得たので、僚機に帰還信号を送る。

 やけに返答が遅いヤツが居ると思ったら、3つ隣の隊の担当宙域までほっつき歩いてやがった。“一に本国防衛”と言ったが限度というものがある。

 

<<MSは狩人ですから>>

 

 別に母艦の上で砲台になれというわけじゃないんだがな。

 小手先のMS戦の技量だけではなく、この辺の塩梅を理解して戦局を見渡せるパイロットになって欲しいと思うのは、高望みだろうか。

 

 

 

 僚機を呼び戻し、母艦周辺の安全を確保したところで、司令部からの緊急入電があった。曰く、「プラント極軌道方向から核攻撃隊が襲来、迎撃可能な隊は対応されたし」とのことである。

 あの玉無しのブルーコスモスが初手全力投球とは、代替わりでもあったのだろうか。見事だがそれをやるなら2年前にやって欲しかった。

 

<<正面の連中は囮かよ!>>

 

<<ナチュラル共、また核を使う気か!?>>

 

 遥か前方へ行ってしまったハイネ達とは異なり、母艦周辺に留まっている私達なら間に合うかもしれない。母艦はがら空きになってしまうが。

 

『副長!』

 

<<構わん、行け!>>

 

 漢の言葉を受け、推進材の残量を気にせず最高速で迎撃位置に向かう。

 メインカメラを最大望遠にしたところ、ミサイルを発射するダガーの群れが見えた。

 

「遅かった――」

 

 有効射程まではまだ距離があるがこれ以上近づくための時間的余裕がない。この場で移動しつつ、姿勢制御を行なってゲイツの全火力を核ミサイル群に向ける。

 数斉射の後、遠方で被弾したミサイルが周囲のミサイルを巻き込んで爆発した。

 

<<やった!>>

 

『たった数発よ、ミサイルはまだある!』

 

 射撃の手を止めた僚機を叱咤し、迎撃を続行させる。

 その後もいくつか被弾の光が見えたものの、ミサイルが引く光の尾はコロニー群を焼くのに十分な数が残っていた。

 もはや、ここからの迎撃では間に合わない。

 

 終わりか。あっけなかったな。

 ようやく見つけた居場所が失われるのは辛い事だが、まだ2年程度しか居ないのでそんなに愛着を持つことの方が間違っているのだろう。

 根無し草でMS乗りとしてやっていけるかは分からないが、ハイネについて行けばなんとかなるのではないだろうか。彼ならその人望と要領の良さで、何とでも生きて行けそうな気がする。

 

 そんな自己保身全開の思考がよぎったところで、コロニー群の前に居たナスカ級が放った()()が核ミサイルを消し飛ばした。

 その余波は後方の発射母機であるダガーの編隊や母艦にも及び、汚い核の花道を作った。

 

『あれは、ジェネシス⁉︎』

 

 地獄のヤキン・ドゥーエを思い出し、ちょっと身が強張る。

 あんなもの撃ったところで、また地球連合軍が恐怖のあまり損害顧みず突っ込んでくるだけじゃないか。

 

<<小さすぎる! ジェネシスはナスカ級に積める大きさじゃない>>

 

 僚機の冷静な分析に、少し頭を冷やす。

 確かに、ヤキン・ドゥーエ要塞並の大きさがあったジェネシスが2年弱でナスカ級に搭載できるようになるとは思えない。

 

<<司令部より入電! 全チャンネルで発信されています>>

 

ーー……ラント国防委員会は、地球連合軍のプラント本国への核攻撃に対応し、ニュートロン・スタンピーダを使用した。これは核弾頭を強制起爆させる兵器であり……ーー

 

 

 

***

 

 

 

「やぁ、ヴェステンフルス君。いや、君達の隊に倣って、ハイネ君と呼んだ方が良いかな」

 

「光栄です、議長」

 

 先日発生した、地球連合軍の宣戦布告同時攻撃の迎撃戦において著しい戦果を挙げたとして、俺はプラント最高評議会議長の招聘を受けていた。

 勲章の授与なら先程終わったので、わざわざだだっ広い議長室に二人きりにする用事があるのだろう。恐らく、面倒ごとだ。

 

「先日の戦闘はご苦労だった。君達の力でプラントは守られたと言っても過言ではない」

 

「議長こそ、ニュートロン・スタンピーダーの使用により本国の危機を救ってくださいました」

 

 俺達はまんまと地球連合軍の囮に釣り出されてしまっていた。

 何百機と居るはずのMSの内、迎撃に急行できたのがリゼラ達を含む十数機だと言うのだから笑えない。

 

「それは大袈裟だよ。私は最高評議会議長として、プラントを守るために必要なことをしたまでなのだから」

 

 必要なこと、確かにそのとおりだ。

 けれど、大将にそのような貴重な手札を切らせないことこそ、兵士の務めではないかと思う。

 

「だからこそ、私はこの戦争を終わらせるため、君達エースパイロットに次の戦場を指示しなければならない……心苦しいのだがね」

 

 議長は机から重厚感のある箱を取り出すと、こちらに差し出した。

 

「これは……?」

 

「特務隊――FAITHの証だ。次の任務の報酬の前払い、と言ったところだろうか」

 

 FAITH。独立行動権すら有する、Z.A.F.T.のエリート中のエリートの証。

 

「それで、議長は私に何を?」

 

「地球へ降りてもらいたい。そこで、ミネルバと合流して欲しい。

 ミネルバは新鋭機セカンドシリーズの運用を行うべく建造された新鋭艦だが、搭載するはずのMSの多くをアーモリー・ワンで失ってしまってね。それに、残りのパイロットも前大戦を経験していない若者ばかりだ。

 君の様な経験・技量・人望共に優れたパイロットに、彼らを導いて欲しいのだよ」

 

 セカンドシリーズ、聞いたことがある。

 新鋭機がアカデミー卒業間もない新兵に与えられたと聞いた時、嫉妬しなかったと言えば嘘になるが、アーモリー・ワンがあんなことになった今となっては複雑な気持ちだ。

 それに、初陣がテロなど、新兵の教育にも良くないだろう。加えてユニウスセブンからの連戦だ。休養も十分でない可能性が高い。

 

「ミネルバの残存戦力は、どれ程なのでしょうか?」

 

「セカンドシリーズの残り1機であるインパルスと、ザクが2機と聞いている」

 

 たった3機で母艦を守りつつ地球連合軍と戦い続けるのは、俺から見てもかなり難しい。

 インパルスを任されるようなエースがミネルバの活路を切り開いてきたのかもしれないが、たった1機では衝撃力が足りない。それを補うためにザク2機も攻撃に回すと、今度は母艦が不安だ。

 

「私は攻撃の方が得意なパイロットですが、ミネルバを守り抜くには防御に優れたパイロットが必要です。可能であれば、私以外にもう1人加えていただけないでしょうか」

 

 

 

***

 

 

 

「リゼラ・ガーランド……ハイネ・ヴェステンフルス……ホーキンス隊……そうか」

 

 かつては遺伝子工学者として、今はプラント最高評議会議長として、俊英を謳われた自分の記憶力も落ちたものだ、と苦笑する。

 

 あれは前大戦終結直後、自分が次期最高評議会議長の座を狙い始めた頃だった。

 自分が票田だと見込んでいた科学者グループから「ある女兵士を処分して欲しい」との陳情があった。

 

 兵士の名前は、リゼラ・ガーランド。手元のプロファイルでは「戦況悪化により工科アカデミーから招集された者」とあった。

 彼らの言い分では「同期(自分の子供達)を見捨てて敵前逃亡し、1人生き残った」そうだが、証拠は何もない。ヤキン・ドゥーエのような激戦ならなおさらだ。

 

 こういった陳情について、真実と言うのはあまり重要ではない。政治力あるいは損得勘定が最も大きな判断材料だ。

 カナーバ臨時議長の不信任が確実になった現在、選挙のためにも自分の出身母体であるアカデミアを無視することは難しい。形だけでも、とZ.A.F.T.へ働きかけたところ、意外なことに大きな反発の声が上がった。何の後ろ盾も持たない一兵士のために、だ。

 

 処分に反対した中心人物はハイネ・ヴェステンフルス。大戦ではホーキンス隊の一員として大きな戦果を挙げ、最近一隊を任されるようになったエースパイロットだ。

 彼は、当該兵士のヤキン・ドゥーエ戦での戦闘ログを持ち出すと共に促成教育を担当した教官の証言を集め、彼女が如何に優秀なパイロットであり勇敢に戦ったかを強く訴えた。

 

 選挙を控えた身として、アカデミアの声を無視するのは良くないが、Z.A.F.T.の意向を無視するのはもっと不味かった。

 自分に出来ることは、何とか穏便にアカデミアをなだめることだけだった。

 

 

 

 選挙準備に追われていた当時は「面倒事を持ち込まれた」程度にしか意識していなかった出来事だが、ディスティニープランの成就に集中できるようになった今なら、別の視点から考えることが出来る。

 ハイネ・ヴェステンフルス程の人間が拘る人物の遺伝子は、いったいどうなっているのか、と。

 

 最高評議会議長の権限で、プラント市民の遺伝子データベースを参照する。

 あぁ、なるほど。

 

「ラウ。君が最後にくれたメールに書いてあった“掘り出しもの”、ようやく見つけたよ」

 

 彼女は、ラウと同じ()()()()()だ。

 

 

 

 ラウとは戦争中も細胞分裂抑制剤を送付するついでにメールのやりとりをしていた。ラウが戦死する直前のメールの意味は長らく分からなかったが、彼女の遺伝子データを見て確信した。

 

 いや、ひょっとするとどこかに遺伝子操作を施しているのかもしれないが、普通のプラント市民なら手を付けるであろう箇所が全く触れられていないのであれば、それはコーディネイターと言えるのだろうか。

 

「それでいて、あのヤキン・ドゥーエの戦果か……凄まじいな」

 

 かつて、ハイネ・ヴェステンフルスが提出した戦闘ログには、あのラウの世界樹攻防戦での戦績に並ぶ程の戦果が記録されていた。真実だとすれば、コーディネイターに並ぶ眩い才能か、あるいは不断の努力の結晶か、それとも運か。

 

 ラウはその才能と血の滲むような努力の末、Z.A.F.T.のトップエースへと至った。しかし、その才と努力を以てしても己の寿命という運命を覆すには至らなかった。

 いや、運命を覆すことが叶わなかったからこそ、世界の破滅の為に邁進したのかもしれない。

 

 では、彼女を突き動かすその動機は何なのか。

 ラウの様な破滅への望みか、それとも――。

 

「それもまた、人は“運命”と呼ぶのかもしれん」

 

 

 

***

 

 

 

「議長の特命で、俺は地球に降りる事になった」

 

「そうですか。では明日からガーランド隊ですね」

 

 ナスカ級のブリッジで唐突にハイネが言った。

 胸に輝くFAITHバッジを付けて帰ってきたと思ったら、言うことがそれかよ。副長以下ブリッジ要員が固まってんじゃん。

 

「リゼラ、お前も一緒だ」

 

 は?

 じゃあ、ヴェステンフルス隊はどうなるんだよ。

 

「ヴェステンフルス隊は休養のために一時本国へ帰還、その後、再編成を行ってジュール隊へ編入される」

 

 栄光のヴェステンフルス隊が解散とは、議長の前で何かやらかしたんじゃないだろうな。いや、そもそも出来て1年ちょっとの部隊だから、作るも潰すも御上の気分次第なのかもしれない。

 

「それで、私達は地球で何を?」

 

「新鋭艦ミネルバへの補充とそのパイロットへの教導。そしてZ.A.F.T.地上軍の支援だ」

 

 補充要員としてはともかく、それ以外は人選ミスだろ。

 

「私は宇宙でしか戦ったことがなく、重力下での戦闘は初めてです。地上戦でどれほど力になれることか。また、徴兵組の私が、アカデミーを正規過程で卒業して新鋭艦を任されるようなエース達に教えられるようなことなど何もありません」

 

 かつて地球で暮らしていたため、重力の感覚は理解できるが、それと重力下でのMS戦ができるかどうかは別物だ。

 むしろ、既に重力下での戦いを経験しているミネルバクルー達に教えを乞うことになるだろう。

 

「議長は、ミネルバのパイロット達が若く経験不足な状態で戦場に出ざるを得なかったことを憂慮されていた。そこで前大戦以来のベテランである俺達にお声が掛ったわけだ」

 

 私は開戦以来のハイネと違ってヤキンが初陣だけどな。

 

「ミネルバは新鋭艦としての働きを期待されている一方で、MSパイロットは3名しか残っていないらしい。俺だけが加わっても、攻撃面はともかく防御面が不安だ。大丈夫、リゼラならできる」

 

 また母艦直掩かよ。人使いが荒くない?

 

 

 

 デュランダル議長とラクス・クラインの前線慰問の護衛を兼ねて地球へ降下、そこでミネルバと合流する、という手筈らしい。

 その人事異動のため、一時プラント本国に帰還した私達は、休暇もほどほどに降下機材への装備の積み込みに立ち会っていた。

 

「地球で使う機体を選んでおけよ」

 

「ではゲイツで」

 

 即答する私に、ハイネは大げさなジェスチャーと共に溜息を吐く。

 

「命を預ける機体だぜ、せめてミレニアムシリーズにしとけよな」

 

 最新鋭機が良いって言うのも分からなくはないけれど、機種転換が面倒だ。なるべくなら、慣れ親しんだゲイツの方が良い。

 それがダメなら、整備性が優先かな。

 

「ミネルバに残っているMSの機種は何なのでしょう?」

 

「インパルスとザクが2機らしい」

 

 じゃあザク一択じゃん。ここに違う機体を持ち込んだら、整備兵達から袋叩きにされるだろう。

 

「俺はグフにするぜ」

 

 おい。

 

「大気圏内での戦闘だ、飛行能力があるに越したことはないだろ?」

 

 兵站負荷も考えろよ、と口にしそうになったところでパイロットとして至極真っ当な指摘が刺さる。グゥルを使えば他のMSでも飛行能力を得ることはできるが、小回りが利かない。それにグゥルの分、整備や補給の手間も増える。

 とはいえ、近接戦闘に特化したグフは、私の戦い方と余り相性がよろしくない。ただ乗るだけならザクなのだが……ゲイツ飛んでくれないかなぁ。

 

「決めた。お前もグフな」

 

 答えが出せずにいると、ハイネが勝手に決めていた。

 別に良いけど、トッピングでビームライフル付けてね。

 

 

 

「どうでした? 議長との懇談は」

 

「“どうして戦争が起こるのか”とか“どうして戦争が終わらないのか”とか話してたよ。若さだよなぁ」

 

 VIPの護衛と言う名のラクス・クラインのライブの演出(税金の無駄遣い)を終えた翌日、私達は割り当てられたホテルのカフェで朝食を取っていた。

 ライブの後、ハイネは議長に呼ばれてミネルバクルーとの懇親会に参加していたようだが、私はさっさと逃げ出したので良く知らない。赤服だらけの堅苦しい場よりも、場末の酒場に小腹を満たしに行く方がよっぽど有意義だ。

 

「で、ヴェステンフルスは何と答えたんです?」

 

 有史以来の未解決問題に取り組もうとするZ.A.F.T.のエリート様方には恐れ入る。自分なら絶対答えられないし、答えようとも思わない。

 

「だから、ハイネだって。俺はミネルバクルーのエスコート役だから会話には加わってなくてね」

 

 逃げたなこの野郎。

 

「それよりもだ。ミネルバのパイロットが聞いていたのより1人多かったんだぜ? もう1人は誰だと思う?」

 

 最高評議会議長との懇談に出席できる程度のパイロットだ。数えるほどしか居らんだろう。

 

「ディアッカ・エルスマンですか?」

 

 最高評議会議員タッド・エルスマンの息子で前大戦のエースパイロット。飛び入りでもあの場に参加することが出来るだろう。

 

「いいセンスだ。でも残念、答えは“アスラン・ザラ”だ」

 

「そんなエースが居るなら私達要らなくないですか?」

 

 色々な噂を持つアスラン・ザラだが、前大戦であのストライクを撃破した功績は間違いなく、腕は確かだろう。加えてあのパトリック・ザラの息子だ。人の上に立つべくエリート教育もなされてきたに違いない。

 

「だよなぁ、俺もそう思うぜ」

 

 

 

「シンは良いわよね~、昨日はあんなお褒めの言葉まで頂いて」

 

 朝食後の珈琲(何と本物である!)をしばいていたところ、赤服の男女が通りかかった。会話から男の名前が「シン」、女の方は分からない。分かることは、ここディオキア基地では服装の風紀が乱れていることくらいだ。

 なんだあの服は。襟のフックどころか胸のボタンすら留めない男もダメだが、女の方はミニスカ改造制服だぞ。いくらなんでも度が過ぎている。Z.A.F.T.の赤服も落ちたものだ。

 おい、FAITH。ビシッと言ってやれ。

 

「お前達、昨日のミネルバのヒヨッコだろ?」

 

 嘘だろ。こんな連中と一緒に戦うの?

 緑でもヴェステンフルス隊の連中の方がまだまともだったぞ。

 

 ハイネの声に気付くと、女は直ちに敬礼姿勢を取った。男はワンテンポ遅れてそれに倣う。その制服で仕草はまともなのか……人は見かけに寄らんな。

 

「後の2人はどうした? FAITHのヤツと、金髪のヤツ」

 

 アスラン・ザラは金髪ではないので、「FAITHのヤツ」はアスラン・ザラだろう。復隊していただけではなく、FAITHにも任命されていたのか。エリートは違うな。

 もう1人は姿が見えない。見た目も挙動もまともなヤツだと嬉しいが。

 

「隊長はまだお部屋だと……」

 

 吞気なもんだ。どうせ女とよろしくやっているに違いない。

 そう、下衆な想像を働かせていたところ、当のアスラン・ザラがラクス・クラインといちゃ付きながらカフェへの階段を下りてきた。想像を斜め上方向で越えてくる男だ。

 

 あっけに取られる私を尻目に、ハイネはラクス・クラインに対して最敬礼姿勢を取る。慌てて追従する私。この体たらくでは、あまり風紀を貶すことは出来んな。

 

 

 

 ラクス・クラインがマネージャーに引っ張られて公務へ入った後、ハイネがミネルバの3人に対して私達がミネルバへの補充要員であることを伝える。

 

「ラクス様の前では何かと堅苦しかったからな。改めて、ハイネ・ヴェステンフルスだ。こっちがリゼラ・ガーランド。元ヴェステンフルス隊の副官だ。よろしく」

 

「ご紹介いただきました、リゼラ・ガーランドです」

 

 ハイネの紹介を引き継いで自己紹介をする。

 名前だけで終わろうとすると、ハイネが「他に何かあるだろ」と目配せしてくるので、仕方なく続ける。

 

「前大戦の徴兵組なので、実戦参加は最後のヤキン・ドゥーエからでした。今の乗機はヴェステンフルス隊長と同じ、グフイグナイテッドです」

 

「アスラン・ザラだ。乗機はセイバー、よろしく」

 

 出してきた手を握り返す。しっかりしていて、それでいて綺麗な手。流石エリート様だ、ちょっと気後れする。

 

「ルナマリア・ホークよ。乗機はザクウォーリア、よろしくね」

 

 改造制服女はルナマリアと言うのか。

 握った手はちゃんと柔らかい。何か負けた気がするな。

 

「シン・アスカ……です。乗機はインパルス、よろしく」

 

 ぎこちなく差し出された手は、力強く骨ばっていて、けれどもどこか繊細で。ずっと触っていたくなる手に左手も重ねてその感覚をなるべく広い面積で拾いたくなった。

 

「あの、リゼラ……さん?」

 

 呼びかけられた彼の顔に目線を合わせる。

 くせ毛のある黒髪に、色白の肌のコントラストが眩しい。その中央から除く深紅の瞳に私の中の私が吸い寄せられた。

 こんな感覚、初めてなのに。いや、初めてだからこそ抗い方を知らない。ただ欲するままに動く自分を、どうやって止めたらいいのか。

 

 最大限の精神力を振り絞って、重ねた左手を下ろすことに成功した――ので油断したのだろう。

 私の唇が勝手に想いを語った。

 

 

 

「――好き、です」

 

 

 




シン・アスカについてオタクみたいに長文で語りたいことが沢山あるんですが、とりあえず一言。
初めて見たガンダムがDESTINYだった私にとって、一番等身大のキャラクターでした。

「HGに恋するふたり」でも言われてましたが、シンにめっちゃ感情移入してました。

なんでこんなに救われないのか、なんで誰も助けてくれないのか。
観ていて楽しかったのはフリーダム撃墜までで、そこからは毎週観るのが辛かった。
放送終了後も、DESTINYが好きとは言いにくい状況だった。

でも、今なら言えます。「一番好きなガンダムはSEED DESTINYです」
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