シンのDesTinyが欲しい   作:シンの夢〇

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小説って、書きたいシーン1に対して、そのシーンに辿り着くためのシーンが99くらいあるんですね……。
キリがないので適当なところで切って掲載します……。


PHASE-2.消せない傷跡

 

 

 

「――好き、です」

 

 

 

 時が止まってしまえば良いのに。ただそう思っていた。

 それは、自分の意に反して零れてしまった言葉の行く末を見たくなかったからだろうか。あるいは、自分の心の奥底からの思いを伝えた時の彼の表情をずっと見ていたかったからだろうか。

 

「あ、あんた何言ってんのよ!?」

 

 そんな永遠にも等しい一瞬を破ったのは、ルナマリアの声だった。

 私からシンを引き離そうと間に割って入ろうとする彼女に対して、握手したままの彼の手を引いて抱き寄せ、泥棒猫が入る空間を圧殺する。

 

 ――アレ?

 ひょっとして私、早まったのではないだろうか。

 

 ギィ、と音がしそうなほどゆっくりとそれ以外の観客の方へ目線をやる。

 アスラン・ザラ。頬を染めつつこちらを凝視している。先程まで君がラクス・クラインとヤっていた事だというのに、意外と初心なんだな。

 ハイネ・ヴェステンフルス。出掛った声を抑えるように無理な表情を取り繕っている。どうせ「珍しいものを見た」と笑うところ、周りの雰囲気に合わせて我慢しているのだろう。

 そしてシン・アスカ。お互いの吐息がかかる様な距離で年相応の幼い顔を真っ赤にしている。うん、可愛い。

 

 ヤってしまったものは仕方がない。開き直ろう。

 たっぷりシンの表情を堪能してから、ルナマリアに向き直る。

 

「何って、告白ですけれど?」

 

 

 

「シン! あんたもあんたよ! 何でされるがままになってんの!」

 

 第1ラウンド勝利。

 恋する乙女に勝てるものか。

 

 形勢不利と見たのか、ルナマリアは攻撃対象をシンに変える。

 そーゆーとこよくないと思いまーす。

 

「え……だって柔らかくていい匂い……じゃなかった、ビックリして咄嗟に反応できなかっただけだ」

 

 え、最近香水サボってたんだけど。それでもいい匂いって事は相性良いのかな?

 そう少し惚けていると、シンが私の腕の中で身体を回してこちらに向き直った。

 

「い、いきなり何なんだよ、アンタは」

 

 そんなルナマリアの二番煎じは通じない。恋は火力で正面突破、無停止進軍飽和攻撃。

 

「好きです」

「お慕いしております」

「私と付き合ってください」

 

 私の口が紡ぐ一言毎に彼の顔がどんどん赤くなる。うん、可愛い。

 逃げられない様に彼の腰をしっかり抱いているので逃げようとしても上体を逸らすのが精一杯な彼は、他の面々に目線をやる。

 しかし、そうそう馬に蹴られたい人は現れない。皆、先程のアスランとラクス・クラインの戯れに割って入ろうとは思わなかったのと同じことだ。

 

 シンは心を決めたかのようにもう一度私にその素敵な瞳を向けると、緊張がにじむ口調で答えた。

 

「えっと……俺は未だアンタ……リゼラ……さんのこと、良く知らないし、まずは友達? からお願いします」

 

「はい、お友達からお願いね」

 

 初めてにしては及第点かな?

 

 

 

***

 

 

 

「あのリゼラって女、マジでありえないんだけど!!」

 

「……お姉ちゃんって、シンの事好きなの?」

 

 夕方、基地の食堂でメイリン相手に愚痴を溢していたところ、共感が得られるかと思いきや、とんでもない言葉が返ってきた。

 

「そんな訳ないじゃない!!」

 

「じゃあ良いじゃん、シンが誰と付き合っても」

 

「うっ……それは、そうだけど……」

 

 確かにシンはアカデミーの同期で腐れ縁というだけだ。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 

 シンはバカで、アカデミーだって私やレイの助けが無ければ赤服どころか卒業だって怪しいヤツだった。

 シンはガキで、優しくされたり褒められたりするとすぐ喜ぶし、貶されたり馬鹿にされたりするとすぐ怒り、怒られたり突き放されたりするとすぐ凹む、おおよそ軍人に向いていないようなヤツだった。

 

 でも、そんな単純で真っ直ぐな性格は嫌いじゃなかった。

 

「お姉ちゃんひょっとして、シンは“誰にも取られないキープ君”って思ってた?」

 

「ぐっ……」

 

 妹の歯に衣着せぬ言葉が心に刺さる。

 

 ミネルバクルーで一番モテるのはアスランで、少し前まではレイだった。

 アスランは前大戦の英雄で、赤服の中でもMS戦だけではなく生身の身体能力にも秀でている。戦争犯罪人であるパトリック・ザラの息子という欠点もあるが、カナーバ前議長により放免済みだ。名家の子息として大金をかけ、コーディネイターとして非常に優秀な調整がされているであろう打算もある。

 レイも軍事アカデミーの同期で一番優秀で、寡黙でストイックな仕草が受けていた。アスランの様な著名なバックボーンはないどころかその家族構成すら不明だったが、そういうミステリアスさも、プラスに働いている部分があった。

 そんな2人と比べると、やっぱりシンは一歩劣る。赤服なだけヴィーノやヨウランよりマシと言ったところ。

 

 だからこそ、“シンは大丈夫”だと思っていた。

 だから、私がアスランに声をかけても大丈夫だと思っていた。

 

「――はぁ……自分が嫌になるわ」

 

 

 

「ここ、良いかしら」

 

「どんな神経してたら昨日の今日でここに座ろうと思えるのよ」

 

 噂をしていたら、当のリゼラ・ガーランドがやってきて同じテーブルに着いた。

 赤服の上からオリーブドラブのフライトジャケットをラフに羽織った姿は、まるでミネルバ進水時から乗艦していたようなベテラン感があって癪に障る。

 

「同じミネルバMS隊として、コミュニケーションは重要じゃない?」

 

「初対面で告白することもコミュニケーションの1つだって言うの?」

 

 そんなことを言うのなら、まずはどう考えても作戦行動の障害になるとしか考えられない発言を行った、自分の胸に手を当てて反省して欲しい。

 

「あれは……一目惚れ?」

 

 少々バツが悪そうに目を逸らしながら頬を染めるのは反則だと思う。

 同性の私でもちょっと可愛いと思ってしまった。

 

「それで、それで? リゼラさんはシンのどこに惚れたんですか?」

 

「メイリン!!」

 

 人の色恋沙汰をお茶請けにしようと、首を突っ込んでくるメイリンを制止する。

 

「何ていうのかな……握手で手と手が触れた時、私の心がキュッって掴まれるというか、フワッて暖かくなるって言うか、そんな感覚がして彼を見たら、その瞳から目が離せなくなったの」

 

「アンタも乗らない!」

 

「正に“Fall in Love”ですね! 良いなぁ~私もそんなドラマみたいな恋がしてみたいなぁ~」

 

 ダメだ、色ボケパイロットと噂好きオペレーターが合体して手の付けようがない。強引に話題を変えて打開しよう。

 

「で、リゼラはなんでそんなジャケット羽織ってんの?」

 

 地球で着るために買ったにしては、随分と流行遅れだし年季が入っているように見える。

 

「Z.A.F.T.じゃ赤服ってどこに行くにも威圧感があるから、ちょっとでも抑えようと思ってね」

 

 親の遺品だというそれは、ヴェステンフルス隊時代から使っていたらしい。

 MSの整備部隊や艦内の機関・兵装部門などの緑服が多いところへ行く際は、赤服剥き出しより精神的な距離感を縮められるのだとか。

 

「どうでした? ミネルバは」

 

「良い艦ね、人が良いわ」

 

 既に艦内を粗方一巡して雑談混じりの挨拶を終えてきたという彼女は、MSの整備員をはじめ数人の名前を挙げて、その能力も褒め称えた。

 

「じゃあブリッジも案内しましょうか?」

 

 ミネルバの能力の神髄はグラディス艦長を始めとしたブリッジ要員にあると思う。是非そちらにも挨拶して欲しいとメイリンが提案したところ、意外なことに断りの言葉が出た。

 

「ブリッジは遠慮しておくわ。なんか堅苦しいし、グラディス艦長とはあまり顔を合わせたくないもの」

 

「え? どうしてですか?」

 

 何か気まずいことでもあるのだろうか。

 

同じ二つ名(ベッドで地位を得た女)を持つ者同士、ね?」

 

 

 

「何ですかそれ~」

 

 メイリンは茶化すが、白服に近い私達(赤服)にとってはデリケートな問題だ。

 グラディス艦長がデュランダル議長の愛人であるというのは、Z.A.F.T.で一定以上の地位にいる人間は皆知っていたし、リゼラが言う蔑称(二つ名)も口さがないものは公然と使っていた。

 だからこそ「実力を示して蔑称を返上しろ」と言わんばかりに、アーモリー・ワン以来馬車馬の様に働かされているのだろう。付き合わされるこっちはたまったものではないが。

 

「言われる方は真剣な問題なのよ。それに、グラディス艦長は貞操と引き換えに戦艦と白服を手に入れたのに、私の貞操ではMSと赤服って、なんか負けた気がするじゃない」

 

 そんなものに勝ち負けがあってたまるか。

 

「えー、私だったらジェネシスあげちゃいます」

 

 メイリンは弁護しているのか良く分からない相槌を打つが、その例えはどうなのだろうか。

 貞操と引き換えに大量破壊兵器を貰って喜ぶ人間が居るとでも?

 

「ダメよ、だって私まだ()()()だし」

 

「じゃあ初めてはシンに?」

 

「だったら素敵ね」

 

 せっかく逸らした話がまた色ボケ方向に戻りかけている。

 痛くなってきた頭を抑えて溜息を吐く。2対1では分が悪い。誰か助けてくれないだろうか。

 

 そんな願いは、もう1人の当事者であるシンからエマージェンシーコールと言う形でやってきた。

 幸か不幸か、当直の私は対応しなければならない。

 

「私もご一緒しても?」

 

 そう言って席を立ったリゼラの肩を抑えて、無理矢理元の位置に座らせる。

 

「あなたは非番です!」

 

 

 そうやってリゼラを置いて出かけたというのに、アイツは私が助けに行った先で違う女を引っ掛けていた。

 

 

 

***

 

 

 

「議長が俺に“ミネルバへ行け”と言う訳だ」

 

 オーブと戦うことに戸惑いを隠せないアスランを叱咤してしばらく。ダーダネルス海峡へ向かうミネルバの甲板で海風を浴びながら溜息を吐く。

 

 ミネルバMS隊の実質的隊長であるアスランは本調子ではなかった。

 つい先日まで滞在していたオーブと剣を交えること、いや、それ以上に戦闘自体を忌避しているような感じすらする。民間人としては正常な感覚かも知れないが、軍人としては0点だ。

 先程諭したものの、どこまで彼の心に響いたかは分からない。

 

 アスランとそれ以外の3人との精神的距離感も問題だ。

 前大戦の経験者であるアスランは、先任として他の3人の新兵を導かなければならない。そのためには、信頼関係が不可欠だ。

 お互いが戦場で信頼し合えているのであれば、呼び方などどうだって良い。だが、どう贔屓目に見ても、アスランが他の3人から信頼されているようには見えなかった。

 レイはそういった感情で動くタイプの人間ではなさそうなのでカウントしないにしても、シンとルナマリアがアスランを信頼していないのは一目瞭然だ。

 

 出戻りで赤服かつFAITH、新鋭機を受領などやっかみ要素を挙げればきりがない。しかし、アスランはそれを乗り越えて行かなければならないところ、彼らに「隊長」と呼ばせたまま自分から壁を作っていた。

 

「クルーゼ隊は名家の御子息が多かったんだったか……そういうのも問題だよなぁ」

 

 地球程ではないにしろ、プラントにも多種多様な人間が居る。Z.A.F.T.も同様だ。

 赤服として、FAITHとして彼らと接していかなければならないのに、自分と似た人間しかいない環境で育ってしまったが故の悲劇だろう。

 

「まぁ、アスランは俺が何とかするしかねぇか」

 

 アスランの問題を解決すれば、芋づる式にルナマリアの問題も解決するだろう。彼女はアスランの問題のほんのヒトカケラ、その中途半端な態度に苛立っているに過ぎない。

 アスランにきっちり振らせるか、アスランとラクス・クラインとの間に何人も入れないような空間を公衆の面前で作ればよい。先日の様にラクス・クラインとただいちゃついているだけでは駄目だ。俺たちの前で彼女の唇を奪い、舌を突っ込むぐらいのことが出来なくて何が赤服か。

 

 問題は、シン・アスカだ。

 

 新鋭機インパルスを任されるほどのエースパイロット。

 そして、前大戦ではオーブで家族を失い、天涯孤独の身となってプラントへ移住した経緯を持つ。

 ここは、似たような背景を持つ頼れる副官に任せようと思ったところで思い出す。

 

「……あいつで大丈夫なのか?」

 

 

 

「ヴェステンフルス隊長……」

 

「ハイネで良いよ。お前、インパルスのシンだな。どうした? 何かあったか?」

 

 甲板で黄昏ていたところ、シンがやってきた。

 アスランが去ってから結構時間が経っているから、彼が呼んだわけではないだろう。

 

「リゼラさんって、ハイネさ……ハイネの彼女じゃないんですか?」

 

 えらく神妙な顔して口を開くからもっと重要な事かと思いきや、下らない話が出てきたので思わず吹き出してしまった。

 

「まさか、そんなんじゃねぇよ。頼れる副官ではあったけどな」

 

「俺は、てっきり2人が付き合っていると思ってました。そういう噂もありましたし……だから、昨日の出来事には驚いて……ちゃんと断れずに……。もし、ハイネの彼女さんだったら、ちゃんと謝ろうって」

 

 頼む、これ以上笑わせないでくれ。

 

「――ッ、シン、戦後は芸人になれるぜ!」

 

 FAITHとして、先任の赤服として、これ以上醜態を晒すわけにはいかない。ひとしきり大笑いした後、何とか真顔を作って向き直る。

 

「アイツは俺が助けるついでに虫除けに使っちまったからな。だから、アイツは俺の事を絶対に“ハイネ”と呼ばない」

 

 初めて見た時、コーディネイターに居ないタイプの美人で、年甲斐も無くドキリとした記憶がある。

 虫除けに使ったのも、リゼラに変な恩を着せたくなかったのと、あわよくばという打算からだ。正直、落ちないとは思ってもいなかった。

 

「リゼラは俺より1つ年上なんだぜ、根に持つにしても酷いと思わないか?」

 

 とはいえ、MSに乗せればその辺の赤服よりは十分強いし、戦局を見定める力も確かだ。特に後者は俺を初めとしたZ.A.F.T.軍人の大多数が苦手としており、そこをカバーしてくれるありがたさには代えがたいものがある。

 自分がMS隊を率いて突っ込んでいくとき、「母艦が沈まない」と確信できるのは、別隊を指揮するリゼラのお陰だ。

 

「まったく面白れぇ女だぜ、リゼラ・ガーランドは。聞きたい? 彼女の話」

 

「良いんですか?」

 

 先程までの神妙な顔がパァっと晴れて、年相応の少年といった笑顔になる。

 まったく、リゼラはなんでこんなガキに惚れたのやら。

 

 

 

***

 

 

 

<<熱源確認、1時の方向、数20! モビルスーツです!>>

 

<<セイバー、インパルス発進! 離水上昇!>>

 

 ハイネと私を乗せたミネルバは、早速ダーダネルス海峡での迎撃戦に参加することとなった。

 これまでに何とかミネルバクルー達との顔合わせは済んだものの、MS隊やブリッジ要員との連携を前提とした「部隊としての訓練」は全く実施できず、ぶっつけ本番でやるしかない。

 

『良いんですか、こんな状態で』

 

 緒戦はザクの2人と同じく乗機待機を命じられた私はハイネへ1対1の回線を開く。

 

<<良いんじゃないの。戦争中だ、全部上手く回る方がおかしいぜ>>

 

 相手がいることだしな。自分達の都合だけで戦えるはずもない、か。

 

<<それとも何? 若い燕に惚れたから戦えませんって?>>

 

『一言余計です』

 

 自分は散々遊んでいるから色恋沙汰で弄られないのに、私が()()()()口を滑らせ()()()()腕が絡まっただけでこの扱いは不公平だろ。

 

<<シンを大事にしろよ。アイツ、オーブで家族を失って以来独りぼっちだったからな。誰にも言えずに溜め込んでることもあるだろ。受け止めてやってくれ。>>

 

『え、えぇ……』

 

 もっと茶化すのかと思いきや、意外にも真面目な応援が返ってきたのでこちらも殊勝にならざるを得ない。

 

<<ミネルバクルーは粒揃いで見かけ上の戦力は大きいが、中身は問題だらけだ。アスランは俺が何とかするから、リゼラはシンの面倒を見てやって欲しい>>

 

 前大戦の英雄アスラン・ザラを始め、全員が赤服というミネルバ隊。

 こんなところに私達が加わる必要があるのかと半信半疑赴いてみれば、その内実は実力の半分も発揮できるか怪しいものだった。

 ハイネが着任早々そのカリスマを以て修復に当たっているが、効果が出るのは当分先だろう。もちろん私もハイネに手を貸すつもりだし、その過程で()()役得が生じてもしょうがない。

 

<<まぁ、とりあえずは目の前の戦闘だ。いつもどおり頼むぜ>>

 

 初めての重力下戦闘で普段どおりの実力を発揮しろとは、中々の無理難題では?

 それに、ミネルバに着任してから頭蓋の裏側にチリチリと電流が走るような嫌な感覚が絶えない。

 クルーゼと会った時ほど強いプレッシャーは感じないし、無視しようと思えば無視できる程度なのだが、慣れない環境で更に不快な症状が出るのは嬉しくない。無理をするなと言うことだろうか。

 

 

 

 オーブ艦隊をダーダネルス海峡に誘い込んだミネルバは、単艦ながらその強力な正面火力を以て海峡内の艦隊を一網打尽にするつもりのようだ。陽電子砲(タンホイザー)の発射シーケンスに入る旨のアナウンスが、格納庫内にも流れた。

 

 ――私達の出番はなさそうだな。

 

 そんな考えが脳をよぎる時程、楽はさせてもらえないものである。

 陽電子砲の発射カウントが0になるか否かの瀬戸際、ミネルバを大きな振動が襲った。

 

<<腔発?>>

 

<<まさか? 陽電子砲だぞ!>>

 

 外が見えない格納庫からでは想像する事しかできないが、混乱する通信を聞くには自爆ではないだろう。ミネルバ乗員がそんなヘマをするとは思えない。

 お誂え向きに、外の人間が答えを教えてくれた。

 

<<フリーダム……キラ!?>>

 

 回線から飛び込んだのはアスランの声。彼ならば見間違えることは無いだろう。

 陽電子砲を破壊したのは、()()フリーダムだ。

 

 

 

 戦場に乱入したフリーダムとアークエンジェル、そしてカガリ・ユラ・アスハの搭乗したストライクルージュは、Z.A.F.T.及び地球連合軍の戦闘行為を中断させることに成功した。だが、それも一時的なものだった。

 彼らの登場により一旦戦闘行為を停止していたオーブ軍がアスハらに攻撃を掛けると共に、それを好機と見た後方の大西洋連邦軍艦隊からMSが発進。それに対応するため、ミネルバ内で待機中の我々にも出撃命令が下った。

 

<<ハイネ・ヴェステンフルス、グフ、行くぜ!>>

 

『リゼラ・ガーランド、グフ、出撃します!』

 

 ミネルバ両舷のカタパルトからグフが2機射出される。1機はオレンジ色のパーソナルカラーに塗装されたハイネ機。そしてもう1機は――

 

<<どうだ? パーソナルカラーってのも悪くないだろ?>>

 

『何時誰が“塗って下さい”とお願いしましたか!?』

 

 格納庫内が薄暗かったので余り気にしていなかったが、陽の光の下に出ると否応なしに認識する。メインカメラ越しにはマニピュレーターの先しか映らないが、ご丁寧にハイネが私のグフの全貌を共有してくれた。

 

 いつしか「宙間迷彩に」と言ったのを誰かが覚えていたのだろう。映っていたのはダークブルーの宙間迷彩に塗装されたグフだった。ここは地球なので全く意味がない。強いて言えば夜間戦闘くらいだろうか。それも、右肩がオレンジに塗られているのであまり効果があるとは思えない。これはハイネの嫌がらせだろう。

 

<<0時方向よりアストレイ、ムラサメ多数! その奥からウィンダムも来ます!>>

 

 文句の十や二十ぶつけてやりたいところだが、戦闘に入るので切り上げざるを得ない。帰ったら覚えていろよ、ハイネのグフを全身ピンクに塗り替えてやる。

 

<<リゼラ。レイとルナマリアのザクと協力して母艦を頼む>>

 

『任されました』

 

 いつものね。しかし、彼らも赤服だが私が先任ってことでいいのか?

 

 

 

 誰かを指揮下に入れるのは慣れたことだが、赤服を指揮下に入れるのは初めての経験だった。

 今までも全員赤服で構成されたミネルバのMS隊はアスランの指揮下にあったのだけれど、彼はZ.A.F.T.らしく特に指揮をしているそぶりは無かった。そんな今までワンマンプレーで戦ってきた彼らを指揮下に組み込むことに、不安が無かったと言えば嘘になる。

 

『ルナマリア! 3時ウインダム!』

 

<<はい!>>

 

『レイ! 7時アビス!』

 

<<了解>>

 

 ちゃんとした赤服って凄いね。いや、ハイネも凄いんだけどさ。

 こんな雑な指示でも、私が前方で止められなかった敵機をしっかり押さえてくれる。

 

 レイはビームライフルの狙いが的確だし、ミサイルを使うタイミングも心得ている。ミネルバの火器管制も流石だ、標的の脅威度判別に無駄がない。ルナマリアは……ビーム砲に勢いがある。

 

「だったら、私もちゃんとしないと……ねっ!」

 

 グフは装備が接近戦を想定したものばかりで、バランスよく装備されていたゲイツから機種転換を行うのは不安だったが、何とかなりそうだ。

 特にこの4連装ビームガンはご機嫌で、実用的な距離からウィンダムやアストレイに痛打を与えられる上、大量の弾幕を張れるので複数機突っ込んで来られても対応可能。ムチや実体剣、念のため持ってきたビームライフルもしばらく出番はなさそうだ。

 

 私とザク2機、そしてミネルバ。

 こんなに頼れる味方が居るなんて、ここはヤキン・ドゥーエに比べれば天国だ。そう、地球連合軍の猛攻を凌げそうな布陣に少し気を抜いたところ、()()はやってきた。

 

 

 

***

 

 

 

<<リゼラ!>>

 

 この戦いの中、滅多に無かったレイの声に驚いて思わず母艦の方向を見ると、リゼラのグフがフリーダムに右腕を撃ち抜かれていた。

 クソっ、ミネルバの直掩までお構いなしって、一体何がしたいんだよ。

 

 大気圏内だと射程が怪しいけれど構わない。リゼラの援護のため、フリーダムに向けてビームライフルを放つ。しかし、フリーダムは最小限の動きでそれを躱すと、ビームサーベルを抜き放って突っ込んで来た。

 

「何だ、コイツ!?」

 

 早い!

 俺はビームサーベルに持ち替える暇もなく、インパルスはフリーダムにその両腕を切り飛ばされた。

 

<<シン!!>>

 

 ガイアを抑えていたヴェステンフルス隊長が、4連装ビームガンでフリーダムを牽制しながらこちらに駆け付けてくれる。

 

<<俺がフリーダムを抑える! シンは換装だ、インパルスならまだ戦える!>>

 

 これがヤキン・ドゥーエを戦い抜いたエースの対応力か。

 ヴェステンフルス隊長は呆気に取られていた俺を叱咤すると、盾からビームソードを引き抜いてフリーダムに相対した。

 ヴェステンフルス隊長が作ってくれた時間を無駄にはできない。ミネルバへ換装パーツの射出を要請する。

 

『メイリン! チェストフライヤー! フォースシルエット!』

 

 

 

<<ふざけるのも大概にしやがれっ!>>

 

 ヴェステンフルス隊長は4連装ビームガンをバラマキながらフリーダムに突っ込むと、ビームソードで切りかかった。

 凄い。俺が手も足も出なかったフリーダムと互角に戦えるなんて。

 

 しかし、出力と大気圏内での運動性に勝るフリーダムが徐々にグフを押し返し、体勢の崩れたところでグフの両腕を切り飛ばした。

 クソっ、俺が行くしかない。換装にかかる時間がもどかしい。

 

<<シン! 後ろだ!>>

 

「!?」

 

 ヴェステンフルス隊長の声で後方を確認すると、中破したガイアが海岸でビーム突撃砲を構えているところだった。

 インパルスは換装中無防備になる。その隙をつかれた。

 だが、死の光がインパルスを貫くことは無かった。だって――

 

『ヴェステンフルス隊長!!』

 

 ――両腕を失ったオレンジのグフが、間に割り込んでいたから。

 

<<だーかーら……ハイネだって>>

 

 動力部に致命傷を受けたグフは火花を散らしながら海面に落下。バッテリーと推進剤が誘爆したのだろうか、大きな水柱を上げた。

 

 

 

 グフが堕ちた後しばらくして、地球連合軍は信号弾を上げて撤退していった。

 もう戦闘は不可能だと思ったのだろう。俺達も地球軍も無事な機体はほとんどなく、無傷だったのはあのフリーダムだけだった。

 

「クソっ……!」

 

 ポートタルキウスで修理中のミネルバの欄干を殴りつける。

 その脇には、陽電子砲の爆発で犠牲になった兵装要員の遺体袋が並べられていた。そして、ハイネのも。

 ハイネの遺体袋は他のものと違ってぺしゃんこだった。乗機が海中に没した後爆発し、遺体がロクに回収できなかったからだ。今、副長がハイネの部屋から遺品を回収している。プラントの家族は、遺体すらないハイネの戦死に納得できるのだろうか。

 

「アイツらが変な介入してこなければっ……!」

 

 ハイネのグフが万全であれば、ガイアのビーム突撃砲を盾で受け止めるなんて朝飯前だったはずだ。だが、それは叶わなかった。

 あのフリーダムが、グフからその盾を両腕ごと奪っていたのだ。

 

 悔しかった。悲しかった。

 けれど、取り返しのつかないそれは、この場に居る他のミネルバのMSパイロット達に当たり散らしても解消しなかった。

 

「やめろ、シン。それは、俺も同じだ……」

 

 普段俺に同調しないアスランが、眉間にしわを寄せて歯を食いしばっていた。

 つい先日赴任してきたばかりのハイネが、自分達の中でこんなに大きな存在になっていたなんて。けれど、気付いた時にはもうハイネは帰ってこなかった。

 

 ハイネは俺を庇って死んだ。

 

 俺がフリーダムにインパルスの両腕を切り飛ばされていなければ、いや、左手の盾だけでも残せていれば、こんな事にはならなかった。

 

「俺が、俺がもっと強ければ……!」

 

 欄干に打ち付けた拳を更に握り込む。その痛みが、俺がZ.A.F.T.に入った初心を思い出させてくれた。

 父さん、母さん――そしてマユ。

 プラントに来てから今まで上手く行っていたから忘れていた。弱いと誰も守れない、それどころか、自分の弱さが誰かを犠牲にしてしまう。そんな、自分にとって当然だと思っていた信念を、再び確固たるものにする。

 

「シン、手が……」

 

 ルナが俺の手を取って拳を無理矢理開かせる。爪の形に血が滲んでいた。ルナの手を振り払い、適当に赤服の裾で拭った。

 

「……ハイネの死は辛く、悲しい」

 

 アスランが下を向いたまま、ポツリと言った。ルナも、そしてあのレイですら目線を下ろしたまま黙っている。

 

「だが、一番辛いのはここに居ない()()じゃないのか?」

 

「アスラン……」

 

 リゼラ・ガーランド。ハイネと共に本国から降りてきた元ヴェステンフルス隊副官。

 ハイネと共に立つ姿は恋愛に疎い俺から見てもお似合で、初対面で告白してきたときは何かの冗談だと思った。後からハイネに確認してしまったほどだ。

 そんな彼女は、あの戦い以来任務に必要な最低限度を除いてミネルバの自室から出ることが無くなった。

 

「行ってやれ、シン。彼女の心に寄り添えるのは、お前しかいない」

 

 

 

「シン・アスカです。リゼラ……さん居ますか?」

 

 リゼラの部屋の前で声をかけるが、返事は無かった。

 ただのお手洗いかも知れない。けれど、“万が一”という可能性もある。強引にドアを破ろうかと思った矢先、ロックされていないことに気が付いた。

 

 エアーの音と共に開いたドアの先で、リゼラはベッドに腰かけたままどこか遠くを見つめていた。

 

「……あぁ、シン。ごめんね、髪も整えていないんだ」

 

 こちらに気付き振り向いたリゼラは普段の彼女ではなかった。眼は虚ろで隈は濃く、そして自分で口にするように髪の傷みも激しい。

 

「こんな姿、シンには見られたくなかったかな」

 

 そう言って力なく笑う姿は、まるで、今にも消えてしまいそうなほど生気が無かった。

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう! とりあえず、何か食べないと」

 

 リゼラの部屋を見回すが、何か食べられそうなものは無かった。外で買ってくる時間も惜しいので自分の部屋から持ってこようとしたところ、リゼラが呟いた。

 

「……行かないで」

 

 

 

「ハイネは私の恩人でね、ヤキン・ドゥーエで漂流していた私を助けてくれた時からの付き合いなんだ」

 

 リゼラに言われるがままベッドに座る彼女の隣に腰掛けたところ、ハイネの話を始めた。おおよそのストーリーは以前ハイネから聞いたとおりだったが、リゼラの視点で聞くのはまた少し違った面白さがあった。

 

「ハイネはMS隊のほとんどを率いて行っちゃうから、極少数で母艦を守る私は重労働だったよ。航路警備でもしんどかったし、開戦時の防衛戦なんて酷いものだった」

 

 そうハイネを責めるものの、表情には毒が無い。リゼラもハイネからの信頼の証だと分かっていたのだろう。

 そう、幾つかの思い出話を語った後、リゼラは一息ついて溢した。

 

「でもね、私はそんな恩人の死に、涙1つ流すことが出来ないんだ」

 

 

 

「ミネルバに帰還した私をみんな気遣ってくれるんだけど、私は泣けない自分を誤魔化すように俯くことしかできなかった」

 

 リゼラは俺から眼を離して言った。

 今でも泣いていないのだろう。確かに、リゼラの目元には泣き腫らした跡が無かった。

 けれども、それは誰かに責められる事じゃない。俺達だってハイネを失ったことに消沈したけれども、誰も泣いてはいなかった。

 だから気付いた。リゼラは自分で自分を責めているんだと。

 

「自分でもビックリするくらい何とも思わなかった。私って、そんなに薄情だったのかな?」

 

 その台詞とは反対に、リゼラの声は湖に薄く張った氷の様に今にも割れて壊れてしまいそうだった。カラカラの喉から何とか絞り出したであろう声が、行き場を失った思いの存在を訴えていた。

 そんなリゼラを、俺はただ見ていることが出来なかった。

 

「泣いても良いです、泣いて下さい」

 

 瞬きもせず明後日の方向を見つめているリゼラの頭を胸に抱いた。きっと、泣き顔を見られたくはないだろうから。

 驚いたのか吐息の音も途絶えていたが、しばらくするとくぐもった声と共に嗚咽が聞こえてきた。

 

「少し……借りるね」

 

 その“少し”は、太陽が半周するほど長かった。

 

 

 

 




「ハイネェ!!」と書くだけで12000字弱……どういうことなの……?
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