夏の終わりの綺想曲(カプリチオ)~メモリーズー夏ー 作:飛鳥 螢
夏休みも後数日となったある昼下がり、
俺の知らない処で、事は起こっていた。
「ったく、模試の結果発表なんて、二学期が始まってからで十分だってのに。なんでわざわざ夏休みも後少しで終わりって日に、登校させてまで教えなきゃならないわけ?」
旧校舎三階にある演劇部部室で、弁当の一口大のハンバーグにドスッとフォークを突き立て、藤林杏が憤然と言い放った。
確かに、一学期の終わりにやった模試の結果の為だけに、わざわざ高校生活最後の夏休みの、それも
しかも、模試の全教科の模範解答の解説付きで丸々一日潰れるとなると、杏でなくとも文句の十や二十言いたくなる。
「でもわたし、クラスのお友達と会えて、とても嬉しいの」
と、ほんわりと一ノ瀬ことみが言う。
すかさず杏は、ハンバーグの刺さったフォークをことみに突き付けて、ツッコミを入れた。
「あんたね、クラスの子なんて後数日もすれば、また嫌でも毎日顔突き合わせなきゃならないのよ。休み返上してまで会う必要なんてないわよ」
「杏ちゃんや椋ちゃんや渚ちゃんとも会えて、とってもとっても嬉しいの」
「あんたねぇ……」
天才少女と言われて敬遠され、ずっと人と距離を取って独りで過ごして来たことみにとって、こうやって友達といる時間が何よりも嬉しい事だと知っているだけに、自分の鋭いツッコミにも動じず、本当に嬉しそうに言うことみに、流石に杏もそれ以上ツッコめずに溜息をついた。
パクリとフォークの先に刺さっているハンバーグを口に入れ、再び食事を再開する。
そして、ふとことみの隣で無心にジャムパンを食べている古河渚に目を向けた。
「そういや渚、朋也は? 今日は来てないの?」
「………」
急に訊かれ、渚は口をもぐもぐさせながら、目をぱちくりさせた。
口の中にパンがあるので答えられない。代わりに朋也と同じクラスである杏の双子の妹である椋がそれに応えて言った。
「お姉ちゃん、岡崎君は模試受けてないから」
「え? そうなの?」
ちょっと意外そうに杏は妹を見た。
岡崎朋也は遅刻常習犯で、授業態度も不真面目で落ちこぼれと言われているが、それでも中途退学もせずに、この町一番の進学校のこの学校に通い続けているのだから、模試くらい受けていると思っていたらしい。
「あ、はい」
漸く口の中のパンを呑み込み、渚が口を開いた。
「それで明也くん、今日は春原さんの所に居るんです。それでその——…終わったら、一緒に帰る事になってまして……」
「へぇ、朋也——くんねぇ……」
ちょっと恥ずかしげに答える渚の言葉に、杏はニタリと笑みを浮かべた。
学園祭後付き合い出したにも
「あれから随分進展したみたいじゃない。——で、渚。どこまでいったの? もうキスとかしちゃったワケ?」
「え、えぇっと…、その……」
二人の進展状況を知るのは当然の権利とばかり、ずいっと身を乗り出して興味深々に訊いてくる杏に、言い知れぬ不安を感じた渚はしどろもどろになって、助けを求めるように他の二人に視線を向けた。
だが、椋もことみも助け船を出してくれるどころか、ぐっと拳を握り締めてゴクリと固唾を呑み込み、期待に満ちた
「あ、あの、その……」
誰の助けも無いまま窮地に追い込まれた渚は、一人で抗する事など出来る訳もなく、また誤魔化すとか嘘を付くなどの高等技術が使える訳もなく、訊かれるままにこれまでの事を、洗いざらい馬鹿正直に喋ってしまった。
これはクラナドのアニメを見て、原作のルート別の話を無理なく繋ぎ合わせた上でのキレのあるストーリー展開、そして生き生きと動きまわる登場人物達に感動し、ついノリと勢いに任せて一気に書き上げたものです。
その後、アフターストーリーを見て「まどろみの向こう」を書いた後、どうせなら春夏秋冬それぞれ話を書いてまとめたらいいんじゃね。と、更に無謀な事を考えた結果生まれたのが先の春の話二作です。