夏の終わりの綺想曲(カプリチオ)~メモリーズー夏ー 作:飛鳥 螢
二人が去って暫くした頃。
突如ガサリと藪が大きく左右に分かれ、中からぬっと杏が姿を現した。
それに続き、椋とことみも姿を現す。
「あーっもうっ、なんであそこで止めんのよっ。あんの根性無しっ!」
「でもお姉ちゃん。岡崎くんなんだか気付いてたみたいだったよ。私達の事」
カメラを手に地団太踏んで悔しがる姉に椋が宥める様に言ったが、杏は気を落ち着けるどころか、憤然と捲くし立てる。
「なに言ってんのよ。気付いていたら何時までもあんな所でくつろいでないで、さっさと弁当食べてとんずらするわよ。あいつなら」
朋也の性格を熟知している杏は、ぐっと拳を握り締めた。
「ったく、こんなおいしいシチュエーション、あたしなら最低でも五回は渚の唇奪ってるわよ。それなのに全く手ぇ出さないなんて、何処まで根性無しなのよっ、あの馬鹿っ!
——ホントに股の下に付くもん付いてんでしょうね、あいつ。今度また同じ事やったら、ズボンひん剥いて確かめてやるわよ」
「お、お姉ちゃん……」
姉の過激な発言に、椋は真っ赤になって
そこへ、今まで黙って姉妹の会話を聞いていたことみが、ぽつりと呟くように言う。
「杏ちゃん。わたしここと、こことここ、とっても
見ると、ことみの色白の手足のあちこちが赤く腫れ上がっている。
やぶ蚊にでも刺されたのだろう。それも無理ない。朋也達があの木の下に来る前から、ずっとあんな藪の中でじっとしていたのだから。
「あーはいはい。これでも塗ってなさい、ことみ」
虫よけスプレーで全身をガードしていた杏は、ことみにかゆみ止めを放ると、腰に手を当てて二人に言い聞かせる。
「いい、あたしはバイクで近道して二人の先回りするから、あんた達も自転車ですぐ来るのよ」
——そうよ、まだチャンスはあるんだから。待ってなさい、朋也っ!
一体何のチャンスがあるというのか。まるで智代へのリベンジに燃える春原が乗り移ったかのように、杏は全身にメラメラと炎を燃え上がらせ、その姿に思わず引き気味になる妹とことみを置いて、猛然と隠しておいた
「うっ……」
ぞくぞくっと悪寒が全身を駆け抜け、俺は思わず自転車のブレーキを掛けた。
「どうしたんですか? 朋也くん」
急に自転車が止まり、渚は怪訝そうに俺を見る。
「あ、いや。今急に悪寒がして……」
と言うか、なんか身の危険みたいのを感じた。特に下半身に。
「風邪ですか? さっきもくしゃみとかしてましたし」
心配そうに渚は俺の顔を窺って言った。
「具合が悪いようでしたら、このまま家に帰りますか?」
「大丈夫だよ。別に熱はないし、今日は一日目一杯遊ぶって約束しただろ」
「でも……」
「いいんだよ。俺がそうしたいんだから」
そう言って、俺はペダルに足を掛けた。
「しっかり掴まってろよ、渚」
「あ、はい」
ぎゅっと渚が俺の腰に回した手に力を込める。
それを感じながら俺は勢いよくペダルを踏み込み、目的地目指して自転車を走らせた。