夏の終わりの綺想曲(カプリチオ)~メモリーズー夏ー   作:飛鳥 螢

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何時もの情景

 ——と、

 背後から驚きに満ちた杏の頓狂な声が聞こえてきた。

「ちょっ、ちょっと何よこれっ!?」

 写真を見るのは今が初めてなのか、かなり焦ったような声だ。

 それに続き、他の面々も次々と声を上げる。

「何でしょう、これ」

「これも、これにも写ってるの」

「手裏剣……か?」

「いえ、これは、ヒトデではないでしょうか」

 ——ヒトデ? 俺達のキスシーンじゃないのか?

 写真を見て、疑問符を浮かべながら言い合う皆の言葉に、俺は思わず振り返ってそれを見る。

 雑木林の崖下を背景に、望遠レンズで捉えた俺と渚が、顔を中心に様々な角度から撮られていた筈のそれは、何故か無数の星型をした木片で埋め尽くされていた。

 お陰で俺と渚の顔はそれに隠れ、俺達の決定的なキスシーンを撮った証拠写真にはなり得なかった。

 ——た、助かった……

 これで卒業するまでずっと杏にタカられる心配はなくなった。

 俺は胸を撫で下ろし、安堵の息を漏らす。

 一方、杏はというと——

「あぁもうっ、どーしてこんなモノが写り込んでるのよっ」

 と、脅迫のネタを台無しにされ、悔しがって喚く。

「あの時、こんなモノ何処にも無かった筈よ」

「ってことは、これ、ひょっとして心霊写真ってヤツですか?」

「ええ——っ」

 思わず恐々と漏らした春原の言葉に、藤林と渚が悲鳴を上げてお互いヒシと抱き合う。

「心霊写真?」

 小首を傾げてポツリと呟いたことみは、その言葉を吟味してから(おもむろ)に口を開く。

「心霊写真というと、撮った時無かったものが写り込んでいる不可思議な現象が現れた写真の事を総称して言い、それは一般的には霊が引き起こしたものとされているが、科学的にその原因が立証されているモノもあり、一概には霊の仕業とは言えないの。そして——」

「あーはいはい、解説はいいから」

 延々と心霊写真について講釈することみを、うんざりしたように杏が遮った。

 途中で話を切られたことみは不満そうに頬を膨らませ、拗ねたように杏を見る。

「杏ちゃん、いじめっ子」

「言っとくけど、いじめてないから」

 ことみの恨み言をあっさり返し、霊など信じてない杏は腕を組んで忌々(いまいま)しげに木製ヒトデだらけの写真を睨み付ける。

「っとに、一体誰の仕業よ」

「だから、霊の仕業だよ」

 恐怖に顔を引き()らせて春原が力説する。

「きっとその山のヒトデの霊が、山を破壊し、自然を壊し続ける人間に警告する為にやったんだよ」

「なんで山にヒトデなんかいるのよ。ヒトデって言ったら普通海でしょ」

「そ、それは……、そうだ、昔ここいらはきっと海だったんだよ。ほら、よく言うじゃないのさ。大昔ここは海だったなんていうの」

 冷ややかな視線を向けて鋭いツッコミを入れる杏に、春原は数少ない知識を総動員して反撃を試みた。

 確かにそういう話は聞いた事がある。だが、ここら辺が昔そうだったとは聞いた事がなかった。いずれにせよ、こんなはっきりとモノが写っている心霊写真など見たことがない。

 ——大体、どう見ても本物の木彫りのヒトデだぞ、これ。

 俺はなおも必死になって心霊現象を主張する春原の戯言(たわごと)を聞き流し、ふと机の下に落ちていた一枚の写真に目を留めて拾い上げた。

 そこには俺達の顔を覆う様に中央にでかでかと、存在をアピールして木製の星型の彫刻が写っている。

 ——でも俺達、なんでこれをヒトデだと思ったんだ? 普通「星」って思うよな、この形なら……

 これを見ていると、何かとても大切な事を忘れている気がして、胸の奥がざわめくような感じがする。そう、とても暖かくて切なくて、楽しくて好きだった——

『風子は岡崎さんも渚さんも大好きですから、幸せになって欲しいんです。だから、これは風子にできる、ちょっとしたお手伝いです』

「……っ!?」

 ハッとして、俺は辺りを見回した。

 ここには俺達以外誰も居る筈がない。なのに今の声は——

「朋也くん?」

 いきなり驚いたように辺りを見回した俺を、隣で不思議そうに渚が見ている。

「渚、今の声——」

「声?」

「あ、ああ、何でもない」

 どうやら渚には聞こえてなかったようだ。

 俺は小さく首を振ると、ぽんっと左手を渚の頭に乗せる。

 空耳……だとは思いたくなかった。誰の声か分からないのに、とても懐かしく感じた少女の声を。

 ほんのりと胸の奥が暖かくなるのを感じながら、俺は渚の頭を撫でて、ぎゃんぎゃんと言い合う何時もと変わらぬ仲間の馬鹿騒ぎの心地よさを味わい、何時までも飽きずにそれを見ていた。

 

 

                        〈夏の終わりの綺想曲(カプリチオ) 了〉

 




 次は秋の話になります。
 毎回(いじ)られている春原を不憫に思い、彼が学生寮内で抱えるトラブルを解決してあげようと書いた筈が、何故こうなった?
 という話です。
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