夏の終わりの綺想曲(カプリチオ)~メモリーズー夏ー 作:飛鳥 螢
一夜明けて、今日も朝からとても天気が良かった。最高のデート日和だった。
俺は窓を開け、何処までも晴れ渡る蒼い空を確認し、ひとつ大きく伸びをすると、早速着替えて部屋を出た。
居間に行くが、そこに渚の姿はなかった。既に起きている筈なのだが。
時計を見ると、七時半を少し回ったところだった。学生が夏休みのこの時期は普段より客足は落ちるが、会社に行く前にパンを買い求める客は割と多い。
オッサンや早苗さんは既に客の相手で忙しいらしく、店の方は結構賑やかだった。
——まさか渚のやつ、手伝ったりとかしてないよな……
両親の苦労を知っている渚は学校が休みの時など、よく店の手伝いをする。それでなかなか二人で遊びに行けずにいるのだが。
けど、今日は前々から約束してたデートの日だ。丸一日二人で思いっ切り遊ぶって。
それが分かってて、店の手伝いなんかしない……よな。多分。
——でも、あいつの事だからな……
ちょっと心配になってきて、俺は居間から顔を出し、廊下の突き当りの先にある店の方を窺い見る。
——と、
「朋也くん、おはようございます」
いきなり背後から声を掛けられた。
「あ、ああ、おは——」
——よと言いながら振り返って、俺は渚の姿を見た途端声を失った。
そこには何時もと違う渚が立っていた。
まず最初に目に付いたのは、頭のヘアバンドだ。普段渚は赤い髪留めを脇に留めているが、今は白いレースの幅広のリボンをヘアバンド代わりにしていた。
次に服。紐を肩や首の後ろで縛る肩出しの服を二枚重ね着している。髪のヘアバンドと似た柔らかそうな白いレースのゆったりとした服の下に、濃いピンクのやつを着ていた。ただ上の服の布が極薄なのか、下がうっすらと透けて見えるのだ。水着のブラのような、腹丸出しの超短い丈のやつが。
それに上着のレースの服の丈も、ヘソすれすれと短くふわりと裾が広がっているから、中に手を入れるのも脱がせるのもやり易そうだし、履いているホットパンツも短く、太ももから伸びやかな渚の足がばっちり拝める上に、ベルト代わりにこちらもレースのリボンを腰に巻いて脇で縛ってあるから簡単に解ける。
——って、何考えてんだ俺はっ。
昨日春原があんなコト言うから、それに影響されて、つい考えがそっち寄りになってしまった。
思わず頭を抱えて身悶えながら、俺は自分自身に心の中で盛大にツッコミを入れた。
無言でじっと姿を見られた後に、いきなり頭を抱えた俺を見て、渚は不安になったらしく、
「…——この服、昨日杏ちゃん達に選んで貰ったんです。折角のデートだから、朋也くんに喜んでもらえる様にって」
そう言って、渚は潤んだ目を俺に向る。
「あの、やっぱり似合いませんでしたか?」
「い、いや。そんな事ねぇよ。すごく良く似合ってる」
実際似合ってすごく可愛いのは事実だし、俺とのデートの為にわざわざ服買って着飾ってくれたというのも嬉しい。
ポンと渚の頭に手を乗せてそう言うと、渚は食い入るように俺を見た。
「本当ですか?」
「ああ、おまえも知ってるだろ。俺はお世辞は言わない」
「あ、はい」
それで安心したらしく、渚は瞳の端に浮かびかけた涙を拭うと、にっこりと
「じゃあ、朝ご飯食べたら出かけましょう、朋也くん」
「ああ、今日は一日、二人で目一杯遊ぼうな」
「はいっ」
嬉しそうに、渚は元気よく返事した。