夏の終わりの綺想曲(カプリチオ)~メモリーズー夏ー 作:飛鳥 螢
朝食を済ませると、早速俺達は出かけた。
別に何処に行こうと決めてなかったので、取り敢えず公園の方に行ってみる事にした。
といっても店の向かいの公園ではなく、通学途中にある大きな公園の方だ。
俺達にとって今日は休みだが、一般的には平日の午前中だ。休日には家族連れで賑わう公園も、今は夏休み中の子供の姿が見える程度だ。後は小さな子供を連れて遊びに来ている母親がいるくらいだろうか。
俺達は噴水のある池の周りをゆっくりと回り、その近くにあったベンチに座って暫く話をした。
「あの時、春原さんそんな目に遭ってたんですか?」
昨日春原から聞いた話を面白おかしくしてやると、渚は唖然としたように呟き、そして俺を軽く睨んだ。
「でも、朋也くん。どうして春原さんにそんな嘘付いたんですか?」
「いや、まぁ……」
おまえとキスするのに邪魔だったから。とは流石に言えない。大体あの時、こいつ俺がキスしようとしてたのに、気付いていたかどうか怪しいし……
「おまえと二人っきりになりたかったからだよ。あの日はほら、杏達が用事で部室に来れなかっただろ。春原もいなけりゃ、久しぶりにおまえと二人っきりになれるなぁと思ってな。それでつい」
「そ、そうですか……」
俺の答えに照れて、渚はかぁっと顔を真っ赤にした。
「で、でも、嘘はよくないと思います」
「ああ、今度からは気を付けるよ」
実際、未だに嘘だと気付かずにいる春原の姿は、滑稽を通り越して哀れ以外の何ものでもないからな。
「で、これから何処へ行く?」
こんな所でする事もなく、ただボーっとしているのはあまりにもジジババ臭い。
「あ、それなら」
心当たりがあるのか、渚は立ち上がって俺を見た。
「こっちに行ってみましょう」
と、公園の奥の方を指差す。
整備された小路が続き、その両脇には鬱蒼と樹々が生い繁っている。
この公園には学校の帰りとか時々立ち寄ったりするが、大体来るのはこの池の周りくらいで、その奥の方は行った事がない。
何があるのか、ちょっと興味をそそられる。
「ああ、わかった」
俺は立ち上がって、渚と一緒に公園の奥へと歩き出した。
午前中とはいえ、既に気温はかなり高くなって、うっすらと肌が汗ばむくらいだが、公園の奥に向かうこの小路は、頭上を覆うように枝が張り出し、ちょっとした木陰の散歩道といった感じで結構涼しいし、風に吹かれてさざめく葉擦れの音や時折聞こえてくる野鳥の
そんな雰囲気を楽しみ、暫く会話もなく歩いて行くと、突然視界が開けた。
かなり大きな池が目の前に現れる。
向こうにあった整備された人工の池ではなく、こちらは自然の池のようで、縁の周りに高さが一メートル程の柵がぐるりと囲ってあるだけで後は何もなかった。
「ここが終点か?」
「そうみたいです」
俺と渚は池に近寄ってみた。
ため池といった感じで、噴水などもなく、水も濁って中がよく見えないから魚がいるのかも分からない。ただ水面にアメンボが数匹呑気にスイスイと浮かんで小さな波紋を作っているだけだ。
あの小路が結構いい雰囲気だっただけに、終点がこれでは拍子抜けである。
「あ……」
いきなり渚が声を上げる。
「どうした?」
「今、あそこで何か跳ねました」
と、池の
見ると、確かに大きめの波紋が広がっている。
「魚がいるのか?」
暫く水面を眺めて待ってみるが、その後波紋は立たず変化はない。
「やっぱさっきのは見間違いだったんじゃないか。アメンボとかのさ」
「いえ、見間違いじゃないです。絶対何かいます」
きっぱりと言い切り、尚も渚はじっと僅かな変化も見逃すまいと、食い入るように水面を見ている。
——こいつ、頑固だからなぁ……
ハァっと息をつき、俺は柵の上に頬杖をついて渚の横顔を見た。
ふと、きゅっと引き結んだ小さな唇が、何時になく艶やかなのに気づく。
——口紅……じゃないよな。リップクリームか何かか……
俺はまじまじと渚の顔を見た。
別に化粧をしているようには見えないが、唇は確かに艶やかでちょっと色も付いている様に見える。とても魅力的だった。