夏の終わりの綺想曲(カプリチオ)~メモリーズー夏ー 作:飛鳥 螢
俺はゴクリと喉を鳴らす。
——これは、もしかして誘ってるんだろうか……
考えてみれば、こんな公園の外れで何もない所、人なんか来るわけもないし、ここに来たいと言い出したのは渚だ。
それにさっきの小路はいい雰囲気だったし、今もその余韻は残っている。
これはチャンスなのかもしれない。
俺はさり気なく柵から体を離すと、そっと渚に寄り添う。
顔を渚の顔に寄せようとして、俺はぎょっとした。
この上からの角度からだと、渚の胸元がモロ見えだった。胸の谷間までしっかりと。
あまりにも刺激的すぎる。
思わず俺はバッと顔を
正面や隣からじゃ気付かなかったが、考えてみれば上に着ている服はふんわりと首回りが開いたヤツだし、その下は一応隠れて見えない様になってはいるが、水着の様に胸元辺りが大胆にカットされている。上から覗き込むようにすれば、モロ見えなのは当たり前だ。
——杏のやつ、まさかワザとこの服選んだんじゃねぇだろうな。
猫耳に悪魔の尻尾を生やし、邪悪な笑みを浮かべる杏が目に見えるようだ。
『ほぉら朋也、嬉しいでしょ。わざわざ脱がさなくたって、お手軽に渚の胸元どころか谷間だってよぉく見られるのよ。それに、首の後ろで結んだ紐をちょっと解けば、労せずに胸丸々見放題だしねぇ』
——ぐわっ、ダメだ、ダメだっ、ダメだぁ~っ!
柵を握り締め、脳裡に響く杏の悪魔の囁きに心揺れながらも、俺はその誘惑を振り払うように心の中で絶叫した。
渚の生胸を拝んでみたい気は大いにするが、そんな事したら絶対渚に嫌われる。
そうだ、前に宮沢も言っていたじゃないか、いくら好きな人でも急に迫られたり、強引な事されたら、気持ちが引いてしまうと。
だから俺は渚の気持ちを考えて、ずっとタイミングを見計らって我慢してきたんだ。それなのに、今ここで誘惑に負けてそんな事して、渚に——
『信じてたのに、こんな事する朋也くんなんて嫌いです。もう朋也くんと一緒に居たくないです。さようならです』
とか言われでもしたら………
——絶対、俺立ち直れねぇぞ。
その場面を想像して、俺はぞっとした。そっと隣にいる渚を窺い見る。
渚は俺の葛藤などそっちのけで、熱心に水面を見続けている。
——こいつ、この服真上から覗くと、胸の谷間までモロ見えなの知ってんだろうか……
いや、きっと知らないんだろうな。じゃなかったらこいつの事だ。絶対着ようなんて思わないだろう。
教えてやるべきなんだろうか。けどこんな事、俺の口からはとても言えない。
ってことは、待てよおい。今日一日このまま俺は生殺し状態って事か?
——地獄だ……
さっきまでのうきうき気分など何処かに吹っ飛び、俺はどんよりとなった。
柵を掴んだままがっくりと
と、そこへ——
「朋也くん?」
渚が声を掛けて来た。
その不意打ちの声に、俺は心臓が口から飛び出さんばかりに驚き、思わず
「うわっ、ど、どうした渚」
「あ、いえ。朋也くんこそどうしたんですか? なんだか顔色悪いです」
「あ、あぁ。いや、ここ
「すいません。気付きませんでした。何か冷たいものでも飲みますか?」
何とか平静を装って誤魔化した俺に、渚は肩に掛けていた大きめのバッグを下ろして、その中から水筒を取り出した。
やけにバッグが大きいと思ったら、そんな物入れてたのか。ひょっとしたら弁当作ってきてるのかもしれない。だとしたら、あのバッグ結構重いんじゃないか。
「いや、いいよ」
そう言って俺は渚から水筒とバッグを取ると、水筒を仕舞ってバッグを自分の肩に掛けた。やっぱり重い。もっと早く気付けばよかった。
「それより、そろそろ戻るぞ。魚だって何度もそう立て続けに飛び跳ねたりしないだろ」
こんな人気のない所より、人が居る方がまだ自制が利く。
「あ、そうですね」
俺の言葉に納得したように頷いた渚は、すまなそうな表情で俺を見た。
「あの朋也くん、バッグ……」
「ああ、重いから俺が持つよ。弁当入ってるんだろ」
「あ、はい。折角のデートですから。普段作ってあげられないので、今日は朝早く起きて頑張って作ってみたんです」
「だったら出掛ける前に言えよ。そしたら俺が最初から持ってやったのに」
「その、朋也くんをびっくりさせようと思ったんです。今日のお楽しみってことで」
えへへと嬉しそうに笑う渚を見て、俺は思った。
たとえ嫌われなかったとしても、この笑顔を凍り付かせ、泣かせるような真似は、絶対にしたくないと。
そう思う事で、俺はさっきあんなに動揺していたのが、嘘みたいに落ち着きを取り戻した。
「じゃあ、行くか」
ふっと笑みを