選択師 作:お洗濯
───人生は選択の連続である
これはシェイクスピアの『ハムレット』で綴られている言葉である。誰でも一度は耳にしたことがあるだろう。
選択──それは何処の企業に就職しよう、今付き合っている子に結婚を申し込もう、などの大きな選択は勿論のこと。朝ごはんは何を食べよう、今日はどの服を着よう、などの小さな選択もある。
そう、我々は常に選択を迫られているのだ。繰り返しの選択が我々人間を構成していると言っても過言ではない。
かく言う俺──
突如、視界に映るものが動きを止め、ついでに俺の体も動かなくなる。更には脳内に二つのある選択肢が浮かび上がってきた。
【逆バニーで日本一周】
【両面宿儺と戦闘】
そう、これだ。俺にはなんと不思議なことに、脳内に二択が提示されるのだ。この二択を選ばなければ全身に筆舌に尽くしがたい痛みが走るのだ。故に選択肢を選ばない、ということはできない。更に選択後は必ず選択した通りに実行しなければならないし、選択肢によっては勝手に体が動いて実行させられる。
そして今の俺は【逆バニーで日本一周】をするか【両面宿儺と戦闘】するかを迫られているのだ。
因みに逆バニーとは隠すべきところが隠されていないバニー。両面宿儺は平安時代に猛威を振るっていた史上最強の術師とされているバケモノだ。
つまり俺は社会的に死ぬか文字通り死ぬかの二択なのである。
何故、両面宿儺が今の時代に……? と思ったが、恵が両面宿儺の指の回収の任務があると言っていた。選択肢は嘘をつかない。
つまり、両面宿儺が復活してしまったということだろう。
……最悪だ。
なんでこんな
天与呪縛とは簡単に言えば、生まれながら強大な力を得る代わりに何かを強制的に犠牲にする縛りを結ばされる、的なやつ。
俺は丈夫すぎる肉体を得る代わりに無理難題な選択肢を与えられて尊厳を犠牲にしている。
例えば、一週間排泄禁止や語尾を『にゃん♪』で統一しろ、などがあげられる。一週間排泄禁止なんて体に悪いに決まっている。しかし俺の丈夫すぎる体が病気から守ってくれる。言ってしまえば、この丈夫すぎる肉体はこの無茶苦茶な選択肢を実行するためのものなのだ。
赤ん坊の頃から付き合っているこの選択肢。未だに慣れない。俺が
とにかく、今の俺はこの二つの選択肢を選ばないといけない。当然、宿儺との戦闘を選ぶ。俺の逆バニーを見て興奮する奴なんていないし、俺自身も着たくない。一応、家に逆バニーはあるけど……。てか、選択肢が色々な衣装を買わせてくるせいで、家に自分が着る用のメイド服やレオタードなどがある。断じて趣味ではない。
……いや、こんな話どうでもいい。
怖いけど、凄く怖いけど、宿儺と戦った方がマシだ。逆バニーなんて着てたまるか!!
流石に指二十本取り込んだ、なんてことはないだろうし、勝つ可能性は大いにある。選択肢が邪魔をしなければ。
てか、任務終わったばっかりなんだから休ませてくれよ。肉体が丈夫すぎて肉体疲労はそこまで感じないけど、精神的にキツイんだわ。一週間前の黒閃十連発するまで、帰れない。なんてイカれた選択肢のせいでボロボロなんだわ。
はぁ……。文句ばっか言ってても仕方ないか。
取り敢えず、死にたくないから保険としてアイツを向かわせるか。俺の言うことなら基本的に聞いてくれるほど慕ってくれてるし。鬱陶しいけど。
俺はスマホを取り出し、電話をかける。
「もしもし、俺なんだけど。オマエにしか頼めな──落ち着け。今、言うから」
恵の元へ行ってくれ。特級呪物の回収に行ってるから手伝って。と伝えると、最速で……!! と喜んで引き受けてくれた。
俺も行くか。行きたくないけど。
▽
「(術式途切れた…!!)」
一人の青年は今窮地に立たされていた。眼前には伏黒の命を奪おうとする異形の怪物──呪霊がいる。
青年の名は伏黒恵。特級呪物『両面宿儺』を回収しに宮城県仙台市にある相沢第三高校へと訪れていた。この特級呪物は呪霊の源になる人間の負の感情が溜まりやすいとされる学校で魔除けのために置かれている。だが、その特級呪物の封印が薄れいてるために回収する必要があった。
そしてその特級呪物は紆余曲折あったが、回収することができた。しかし、回収した後が問題であった。特級呪物を得ようとする呪霊が突如、襲ってきた。
「クソ…頭回んねえ…」
伏黒は急襲により体が傷だらけ。激痛で思考が纏まらない。
「これなら無理にでも選羽先生に着いてきてもらった方が良かった」
伏黒の口から出た
伏黒自身は特級呪物という危ない物を回収するのを任せるなんてどうかしてる。他に誰か適任者はいなかったのか、と思っていたため着いてきてもらおうとした。しかし、そもそも選羽には大事な任務が控えているのを知っていたので断った。それと伏黒自身が選羽という男の相手をするのが面倒くさかったというのもある。
「いや後悔してても意味はない…」
取り敢えず、術式を使おうと準備──しようとしたその時、ゴンッ! と鈍い音が響き渡った。
「(なんつー馬鹿力!!)」
伏黒は呪霊を上から殴った青年──虎杖悠仁を見て思った。彼は伏黒が回収しに来た特級呪物を見つけ出した張本人だ。
「大丈夫か?」
虎杖は呪霊の動きを止めてから、伏黒の側に寄った。
「逃げろつったろ」
「言ってる場合か……今帰ったら夢見
──人を助けろ
たった一人の家族が口にした
「こっちはこっちで面倒くせえ呪いがかかってんだわ」
そう言うと、虎杖は攻撃を仕掛けようとしてきた呪霊に蹴りを入れる。しかし……
「(駄目だ。オマエがいくら強くても)」
虎杖は蹴りを入れるも、呪霊には全く効いていなく、反撃を受けて地面に叩きつけられた。
「呪いは呪いでしか祓えない」
抵抗できず、呪霊に殴られて転がってきた虎杖に伏黒は言った。
「早く言ってくんない?」
「何度も逃げろつったろ」
伏黒は立ち上がり、虎杖に向けて言う。
「今あの二人抱えて逃げられるのはオマエだけだ。さっさとしろ。このままだと全員死ぬぞ」
あの二人というのは、特級呪物により引き寄せられた呪霊の被害を受けた虎杖の先輩。
「呪力のねえ、オマエがいても意味ねーんだよ」
伏黒が自分を犠牲にして逃そうとしていることを虎杖は気づいた。と、そこで虎杖にある疑問が浮かんだ。
「なあ、なんで呪いはあの指狙ってんだ?」
「喰って、より強い呪力を得るためだ」
それを聞いた虎杖はこの状況を打破できる策を思いついた。
「なんだ、あるじゃん。全員助かる方法」
「あ?」
虎杖はポケットをゴソゴソと漁り、特級呪物を取り出して──口を大きく開き、口の中へと運ぶ。
「馬鹿!! やめろ!!」
伏黒が止めようとするも、虎杖はゴクリと飲み込んだ。
「(特級呪物だぞ!? 猛毒だ!! 確実に死ぬ!!)」
呪霊は大きな音を立てて虎杖に迫る。それに対して虎杖は動かない。
「(だが、万が一、万が一……!!)」
迫り来る呪霊に虎杖──否、宿儺が腕を一振り。すると、苦戦していた呪霊が消えた。文字通りに、だ。
「ケヒッ、ヒヒッ」
宿儺は口角を上げて、不気味な嗤い声を漏らす。そして遂には目、口を大きく開き、ゲラゲラと嗤い始めた。
「ああ、やはり!! 光は生で感じるに限る!!」
伏黒が恐れていた特級呪物の受肉。それが起こった。
「呪霊の肉などつまらん! 人は! 女はどこだ!!」
千年の時を経て、外の世界へ姿を現すことができた宿儺は大変気分が良く、ウキウキで歩き回る。
「いい時代になったものだな。女も子供も蛆のように湧いている」
宿儺は仙台の夜景を観て、感情が昂る。
「素晴らしい…!! 鏖──グッ……!!」
感情を体で表すように両手を大きく広げた宿儺であったが、横から顔面に大きく、重く、素早い一撃が与えられた。
それにより宿儺の体は大きく吹っ飛んでいき、その宿儺を飛ばした張本人が口を開いた。
「
──特別一級術師 禪院直哉がこの窮地に駆けつけた。