D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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ダ・カーポの世界って、ホントに好きなんですよ。

だから、そんな世界でこんな魔法使いがいれば……って思い始めてコツコツ去年くらいから書き始めたので、凄まじく遅筆ですが、よろしくお願いします。


-PROLOGUE-
PROLOGUE 1


 

 

 

 

 

 

 

 

『__ごめんね、あなたはもっと生きて、ね?』

 

 

 

 

 

 

それは、母親であり続けてくれた女性の最期の言葉。

 

 

 

 

 

 

『__さよなら、もう僕の視界に入らないでくれ』

 

 

 

 

 

 

それは、父親の責任を捨て去った野郎の最後の言葉。

 

 

 

 

 

 

『__ようこそ、芳乃の家へ。歓迎するよ』

 

 

 

 

 

 

それは、家族になってくれた爺ちゃんの最初の言葉。

 

 

 

 

 

 

『■■■■■■■■■■■■、■■■■■?』

 

 

 

 

 

それは、■■ゆく■■と最後に交わした約束の言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-PROLOGUE 1-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____夢を見ていた。

 

 

 

思い出したくもない夢と、クソみたいな夢と、そこから救われた夢。そして、約束の夢。

 

 

おれ____"芳乃 灯火(ヨシノ トウカ)"を構築するにあたって、始まりとも言える記憶の夢。

 

 

 

「……最初の2つと最後は明らかに悪夢だろう」

 

 

 

目が覚めてから、思わず溜息。

 

寝起きは最悪の一言に尽きた。

 

 

「まぁ、見ちまったもんは仕方ねぇわな。未来の夢じゃなかっただけ、まだマシか」

 

 

思わず二度寝したい衝動に駆られるも、それをなんとか振り切りベッドから出る。

 

時計を見ればいつもよりだいぶ遅く起きてしまったようだ。日課をやるのは、今日は家に帰ってからでも良いだろうか。

 

軽く身体を伸ばして調子を確かめる。

 

切り替えは大事だ。何時までも過去の記憶に引き摺られて今の時間まで台無しにしてやるつもりはない。

 

 

「さてと、それじゃ今日も元気に学生やりますかっと」

 

 

寮の自室の中、誰に言うわけでもなくそう呟いて朝の支度を始める。

 

 

 

夢のことなど、もう気にもならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼ △ ▼ △ ▼ △

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12/14 金曜日 天気は曇り空。

 

 

 

___私立・香々見学園(かがみがくえん)

 

 

香々見島(かがみじま)水鏡湖(みかがみこ)の湖畔に位置し、本校と付属の一貫教育となっている大規模学園。

 

学生個々の持律を促すことが教育のモットーで、校風はかなり自由。たまに自由過ぎる所もあるがこれでも全国的に有名だ。

 

早くから一人暮らしすることが自主性の育成にも良いという事から寮の規則も最低限になっている。

 

付属の1年の半ばの頃に転入してからは寮で暮らしているおれも、最初はその緩さと自由さに目を丸くしたものだ。

 

特に質の悪い奴もいないのだが、イベントの度に騒動を起こす奴がいたりするので、まぁ、程々に騒がしくもある。最も、それは好ましい騒がしさでもあるが。

 

 

「お」

 

 

その学園の入口まで来たところで、見知った顔を3つほど見つける。見つけたのだが、

 

 

「……相変わらず仲良いな」

 

 

なんか本校の制服来たお姉さんが、おれと同じ付属の生徒二人を抱き締めていた。

 

割とよく見る光景だが、取りあえず声をかけるか。

 

 

「おーす、一登。二乃と逢見先輩もおはようっす」

 

「おー、おはよ灯火」

 

「おはようございます灯火さん」

 

「ぎゅー♪ あ、おはよう芳乃くん」

 

 

同じクラスで親友で悪友な常坂一登、その妹の常坂二乃、二人の姉貴分で一つ先輩な逢見諳子先輩。

 

相も変わらず仲が良いらしく、3人揃って登校して来たらしい。

 

一登とはおれがこの学園に来た時から他の2名の悪友と合わせて波長が合うのか、よくつるむ様になった親友兼悪友の仲。杉並被害者の会メンバーとも言う。基本イケメン。中身もイケメン。世話焼き。お人好し。そして人誑かし。

 

二乃は当初「常坂妹」呼びしてたが、ねこ好き同士と分かって意気投合してからは名前呼び。多分、クラスメイトに見せてる顔とは別に一登達に見せてる素顔があると思われる。勘で分かった。ねこあるきは良いぞ。

 

逢見先輩とは常坂兄妹経由で知り合ったが、趣味がおれと同じ料理でおれより腕前が凄く、たまに商店街の安売りでも出会す事もある。常坂兄妹第一主義で主婦力パネェ機械音痴ののほほんお姉さん。

 

 

「相変わらず愛されてんなぁ」

 

「まぁな。ってか、なんか灯火がこの時間帯にここにいるの珍しいな」

 

「そうですね。いつも先に教室で叶多さんや杉並くんとお喋りしてるイメージがあるんですけど」

 

「嫌な夢見て寝起きが悪かったんだよ今日は。おかげで朝飯は食パンを一枚焼いただけだ」

 

 

料理が趣味なので、いつもならそれなりに朝食の支度はするが、今回はパン一切れだ。絶対に昼までに腹減るわこれ。

 

 

「珍しいこともあるんだねー? 芳乃くんなら夕飯の残りでもあれば短い時間で朝ご飯に仕上げそうなのに」

 

「その夕飯、昨日叶方にお裾分けしたから残ってなかったんすよ。味の感想聞くためにたまにやってたんだけど、今日は単純に間が悪かった」

 

 

悪友の一人でもある叶方はおれの隣室の住人だ。

 

そのため、おれが料理を作ってると、その匂いに釣られてたまにタカってくる。味の感想を聞きたいため、それに応じてるおれもおれだが。

 

 

「って、飯のハナシしてたら余計に腹減っちまったな……。売店でなんか買ってくるからまた教室でなー」

 

「そうだな、俺達も行くか。そら姉、そろそろ開放してくれ」

 

「仕方ないなぁ。ふたりともお勉強頑張るのよ?」

 

「はーい、頑張りますっ」

 

 

そこでようやく逢見先輩が常坂兄妹を開放し、本校の方へ向かう。逢見先輩は一瞬こちらを見て「ふたりをよろしくね?」と柔らかい笑みと視線で訴えてきたので軽く会釈して応えとく。

 

それから常坂兄妹と一緒に昇降口まで来て、おれは売店の方へ。常坂兄妹はそのまま教室へと向かうために別れる。

 

食堂と一緒に作られてる売店には、朝という事もあり品揃えは少ない。

 

こればかりはフライングで人気の高い商品を取らせない為だろう。とはいえ空腹を満たせればそれで良いので適当な菓子パンと牛乳パックを手にとって会計を済ませる。

 

流石に廊下で食べ歩きはよろしくないから、教室に戻るまで我慢するとしよう。

 

と、昇降口の階段まで来たところで上の方からタッタッ、人が走る音が聴こえてきた。その音はどんどん近づいて来ている。

 

なんだろう、なんか嫌な予感がする。そして、こういう時の予感は当たるものだ。

 

 

「……『視て』みるか? いやこんなことで使うのはアホ過ぎるだろ」

 

 

と、思わず口に出した選択肢を即座に否定する。いくらなんでも気軽に使うもんでもない。

 

そんな風に自問自答してる間に騒がしい音がすぐ近くまでやって来る。というか、この時間帯でドタバタする輩なんて2人ぐらいしか思いつかない。

 

なんとなく想像がつき、とうとう、おれのいる所まで足音が来たところで、

 

 

 

 

 

 

視界が、ブレて、切り替わる___

 

 

 

 

 

 

 

 

ツインテールの少女。

 

 

 

 

 

 

足を踏み外して、

 

 

 

 

 

 

焦りの表情を浮かべ、

 

 

 

 

 

頭から床に落ちていき、

 

 

 

 

 

 

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

___ズキリと、片目に痛みが走り、視界が戻る。

 

 

 

 

「チッ、世話の焼ける……!」

 

 

数秒だけ勝手に『視えて』しまった光景に悪態をつきながらも、荷物を放り投げ、階段を登りつつ周囲の“マナ”との波長を即座に合わせる。

 

それからコンマ数秒、今さっき視えた光景と同じ様に、上の階から走ってきた、見知ったツインテールの少女が足を踏み外す。

 

 

「あ、ちょ、ヤバッ……!?」

 

 

焦る声に反して、抑えは効かずに体は落ちる。それも変に踏ん張ったせいで頭から。

 

そこから数秒先の未来が想像出来たのか、彼女にしては珍しく本気で焦りを見せた所で、

 

 

「___ッ!!」

 

 

その動きを完全に捉えたおれが、その少女を抱える。

 

タイミングは完璧。

 

だが、勢いは予想以上。

 

……ああ、これは仕方ねぇな。と、半ば諦めの境地に至り、目に走る痛みも無視しつつ、少女を抱えたまま背中から床に落ちる。

 

ドン!と言う鈍い音と共に走る鈍痛。

 

ギリギリ受け身が取れたが、やはり痛いもんは痛い。

 

 

「〜〜〜痛ぅ、流石に効いたァ……!」

 

「……え、あれ? ボク、無事?」

 

「ギリギリセーフだ阿呆。身体能力高いのは良いけど過信し過ぎだ、おのれ」

 

 

背中から倒れる形。腕の中には先程の美少女__クラスメイトでトラブルメーカーが、無事な姿を見せていた。

 

白河ひより。

 

クラスメイトの一人で自らを恋愛請負人と名乗る恋愛相談の達人。請け負った相談は全て成功させてると言う、ある意味思春期の少年少女達にはトンデモナイ存在。

 

どこからともなく取り出す2丁拳銃を使ったパフォーマンスが特徴的だが、どういう訳か風紀委員に目を付けられており、日々鬼ごっこが繰り広げられている。

 

さっき階段から凄い勢いで降りてきたのも、恐らく風紀委員から逃げてたからだろう。

 

そんな普段は尊大な言動や人を食ったようや態度が目立つ残念美人は、自分に怪我が無いことを不思議そうにしていたが、下敷きにしてるコチラを見ると目を丸くしていた。

 

 

「って、芳乃じゃないですか? なんでこんなところに? と言うか、え、もしかして助けてくれたんです?」

 

「腹減って朝飯買いに行ってたら、いきなりおのれが落ちてきたんだよ。間一髪、間に合ったけどな。咽び泣いてから喜んでくれ」

 

 

取りあえず白河を立たせて自分も立ち上がる。

 

多少、背中に痛みがあるが、気にするほどじゃない。『強化』が間に合ったようだ。

 

見れば白河の方は怪我はないらしい。体張って庇って怪我があった。では流石に格好がつかんだろうが、その心配もなさそうだ。

 

一応、迷惑をかけた自覚はあるのか、白河の方は珍しくしおらしい態度をとってる気がする。

 

 

「不覚。ボクとした事が……最後の最後で油断しましたね。心から感謝ですよ芳乃」

 

「良いよ別に、でも気をつけろよマジで。恋愛請負をすんのも、風紀委員から逃げるのも、おのれの自由だが、いつか大怪我するぞ」

 

「実際、さっきのはちょっとどころか大分危なかったしね。と言うか、芳乃こそよくアレに対応出来ましたね?」

 

 

アレ。というのは白河が階段から落ちて来た事だろう。確かにまぁ、普通に見てたんなら反応出来てもギリギリ間に合わず、下手したら巻き込まれてたかも知れん。

 

が、勝手にとは言え、先が『視えた』以上は対応出来る。

 

 

 

 

今より未来を視る【先視の魔法】。

 

まがりなりにも、その使い手なのだから。

 

 

 

 

しかし、それをそのまま説明する訳にも行かないので、テキトーに誤魔化すしかないだろう。

 

 

「まぁ、何気に鍛えてるからな」

 

「……ふむふむ、確かにさっき庇われた時も腕とか結構筋肉付いてるの分かりましたし。キミ、見た目に反して実はゴリラだったりします?」

 

「誰がゴリラじゃ。仮にも恩人をゴリラとはなんだゴリラとは。ドラミングしてからバナナ食わせるぞコノヤロウ」

 

「やっぱりゴリラじゃないですかゴリラー!」

 

 

と、カラカラと笑う白河に釣られて苦笑で返す。コイツとのやり取りはしまいには漫才になるので何だかんだ楽しい。

 

そんな他愛のない話をしてると、先程白河が落ちてきた階段の上から、またバタバタと足音が、それも複数聞こえてきた。

 

 

「あちゃあ、追っ手かぁ。撒いたと思ったんですけどね。ごめん、また教室で!」

 

「ああ、次は気をつけろよ。流石に見えんところでは助けられん」

 

「了解! また後でちゃんと御礼しますから!」

 

 

いや別にそこは気にせんでもいい、と返す間もなく白河は改造制服のマントをはためかせて一気にこの場から離れる。

 

忙しねぇなホントに。と軽く苦笑しながら放り投げた荷物を回収してると、階段の方から先程からの足音の原因__数人の風紀委員が姿を現す。

 

 

「ここにもいない……!もう、ひよりちゃんどこ行ったの……! あ、そこの人、ちょっと良いですかー?!」

 

その中の一人、小柄な女子生徒がおれに話しかけてくる。

 

白河の起こす騒動には必ず姿を現す、年下ながらも風紀委員長代理をこなす少女、美嶋未羽だ。

 

 

「ここにひよ……白河ひよりさんが来ませんでしたか? 来たとしたらどちらの方に行ったか分かりますか?」

 

「白河ならあっちの廊下を走り抜けたよ。もう姿も見えんが」

 

 

別に隠す理由もないので白河の走り去った方を指で示す。当然の如く白河の姿はもう見当たらない。やはり足が早い。

 

 

「あ〜もう、ひよりちゃんってばぁ……っ!」

 

 

分かりやすく肩を落とす美嶋さん。言っちゃなんだが正攻法で白河を捕らえるのは至難の業だと思う。

 

イメージ的にアイツはムササビだ。いざとなったら木と木を伝って逃げそうだ……いや、流石にないか。

 

……あったら、どうしよう。

 

 

「ご協力ありがとうございました。……全員、散開してください! 哨戒ルートの人員に連絡を取って白河さんを補足しましょう!」

 

「「「了解!」」」

 

 

落ち込んでいたと思ったら一瞬で切り替えて次の策を実行。なんか同じ顔の三つ子っぽい風紀委員達もそれに習って散開する。

 

……なんだろう、練度がそんじょそこらの学校の風紀委員とは違う気がするが。

 

いやそれはそうか。香々見学園には白河以上のトラブルメーカー(と言う名の阿呆)もいるから、自然と練度が上がるんだろう。

 

だが、悲しいかな。うちのトラブルメーカーどもはそれ以上に賢しく厄介極まりないのである。それを思うと流石に同情心が芽生えてくる。

 

 

「それでは、失礼します先輩」

 

「ああ、まぁ頑張ってな」

 

「あ、は、はいっ」

 

 

返答されるとは思ってなかったのか、少し吃りながらも返事を返して美嶋さんが走ってく。

 

傍から見るとちっさな小動物をイメージさせるので、思わずほっこりしそうになる。これが、アニマルセラピーか。多分違う。

 

 

「……おかしいな。朝飯買いに行くだけで、なんでこんな疲れてるんだ?」

 

 

まぁ、結果としてクラスメイトの大怪我を防げたし後輩の小動物っぷりに癒やされたしWIN-WINで済むか。……いや無理か、勝手に発動した分と自力で使った分の魔力で余計に腹減ったわ。

 

兎にも角にも、さっさと教室に行くとしよう。ホームルームになる前に食いっぱぐれたら、お腹が悲惨なことになる。

 

割と足早に階段を登り、付属3年の教室を目指す。

 

ホームルームまでにはまだ時間があるためか、廊下で駄弁ってる奴も多い。耳に入る内容の殆どは、白河の恋愛執行についてだった。

 

やはり今朝も恋愛請負を成功させていたらしい。

 

近いうちにクリスマスもあるから、恐らく依頼もてんてこ舞いではなかろうか? パンクしねぇかな流石に。

 

学校らしい賑やかさに溢れてる廊下を歩きながら、そんな事を考えてるうちに教室に到着する。

 

ガラッと戸を開けると、先に教室に着いてたであろう一登に二乃、それから何時もの愉快な面子の顔が見えた。

 

 

「おや、存外に遅かったではないか同士・芳乃」

 

「おはよー灯火」

 

「おはよう芳乃君」

 

 

最初に話しかけて来たのはどこかキザっぽい雰囲気を漂わせる男。香々見学園のトラブルメーカーの一人にして悪友、杉並。この学園で起きるトラブルに大体関与してる変人。

 

次に挨拶してきたのは長い髪に付属の女子制服を纏った『男』。ガチャと女装と美容に命をかけてる変人の一人にして寮の隣室の住人、叶方。

 

それから最後は鷺澤有里栖。香々見学園の中でアイドルとされている小柄な美少女。そのあまりの人気っぷりに男子達の間では暗黙のルールとして不干渉の協定がされてるとかなんとか。

 

個性が爆発してるような濃い面子だらけだが、一登と合わせて、この学園に来てからなんだかんだで長い付き合いで人の良い連中だ。

 

 

「うーす。早速だが飯を食わせてくれ。腹減って仕方ねぇんだ」

 

 

そう言って席についてさっき買った菓子パンの袋を開けて口に突っ込む。あまり食わない類だったが、どうやら当たりだったようだ。結構美味い。

 

 

「菓子パン? なんか珍しくない。灯火なら昨日の夕飯の残りでも朝食にしてそうなのに」

 

「その夕飯の残りはおのれが食ったろうがい」

 

「……あ、そうだったそうだった。ごめんごめん。俺が美味しく頂いてたんだった」

 

「でも、売店に行ったにしては妙に時間かかってたな?何かあったのか?」

 

「ほう、何か面白そうな事でもあったなら是非とも教えてほしいものだな」

 

「んな大した事は起きてねぇよ。風紀委員から逃げてきた白河が、足踏み外して階段から落ちそうになってただけだから」

 

「「「「いやそれ大した事だろ(じゃないですか)(でしょ)」」」」

 

 

もっきゅもっきゅと菓子パンを頬張りながら先程起きた事を簡潔に説明すると一登と叶方、それから二乃と有里栖にもツッコミを入れられる。

 

流石に簡潔にし過ぎたか。頬張ってた菓子パンを一緒に買ってた牛乳で流し込んで一息ついてから注釈を加える。

 

 

「ホントにそんな大事じゃねぇって。咄嗟に庇えたから白河も怪我がなかったし、そのあと元気に走って風紀委員達から逃げ遂せてたからな」

 

「……なら、安心なんですかね?」

 

「まぁ、そこから風紀委員の包囲網を突破していたなら確かに大した問題にはなってないだろうけど」

 

「白河を助ける際にアクロバティックな動きでもしてたら、多少は面白いのだが」

 

「救助活動に面白さを求めんなアホ」

 

 

なんの役に立つんだよアクロバティック。どこを目指してんだよおのれは。

 

 

「正解。割とピンチな状況だったのに芳乃がそんな動きしてたら、いくらボクでも怪我してましたよ」

 

 

と、杉並の戯言にツッコミを入れてると、風紀委員を捲けてきたのか、白河が会話に混ざってくる。

 

再度確認してみるも、白河にはやはり怪我はなさそうだ。

 

 

「おかえりなさい、ひよりん」

 

「よ、ちゃんと捲けたようだな」

 

「ただいま鷺澤。それと芳乃、さっきはありがとう。素直に助かりましたよ、一瞬ホントにヤバいーって思いましたし」

 

「運動神経の良いひよりんがヤバいって思うくらい、危険な状態だったの?」

 

「正解。少なくとも、芳乃が庇ってくれなかったら頭から行ってたからね。大怪我まったなし」

 

「それを庇った灯火の方も怪我はなかったのかよ?」

 

「ギリギリ受け身取れたからな。セーフだセーフ」

 

 

日々の鍛錬はやはり大事らしい。魔法っていうズルも使っていたとは言え、大したダメージもなかったのは正直助かる。

 

 

「てか、そもそもなんで風紀委員があんなにいたんだ? 突発的に集まったにしては、やけに多かった気もするが」

 

「それに関しては、どうも情報を提供した曲者がいたようでね……」

 

 

その疑問に応えた白河は視線を杉並へ向ける。いつの間にか自席でTABを使って怪しいやり取りをしてた変人1号は、その視線にニヤリと答える。

 

犯人、発見。

 

というか寧ろコイツ以外誰がいるのかってハナシか。

 

 

「しっかりバレてるんですね……」

 

「杉並とは時に味方、時に敵という感じだからね。これで捕まるボクなら味方にもならないってことだろうし、それはボクの方でも同じかな」

 

「どういう関係なんだよ……」

 

 

げんなりした一登のツッコミに心底同意してると始業の鐘が鳴る。

 

 

「あ、始業の合図です」

 

「教師がまだ来てないのに?」

 

「今日の一限って誰だっけ?」

 

「泉先生だったはず……」

 

「泉ちゃんかぁ」

 

 

と、始業が完全に鳴り終えるか終えないタイミングで教室の戸が開く。ちょうど有里栖が言った通り、泉先生だ。

 

一登達も席につき、おれも食い終わった菓子パンの袋なんかをレジ袋にツッコんでカバンに入れておく。後で捨てるとしよう。

 

 

「よし、間に合ったな」

 

 

いやアウトだよ。

 

 

「先生、校則では始業のチャイムが鳴り出した瞬間が遅刻かどうかの分かれ目らしいですが……」

 

 

時計を確認してなんか呟く泉先生に一登がツッコむ。うん、ツッコミたい気持ちは分かるが、多分それは悪手だぞ一登。

 

 

「それはお前たち学生の話だ。我々教師はひとたび教室に入れば、その裁量においてあらゆる判断が許されている」

 

「許されてねぇから絶対に」

 

 

暴論にも程があった。どこのディストピアだそれは。

 

というか悪手と分かってたのに、おれもツッコミを入れてしまった。マジで何言ってんだこの人は。

 

 

「なんだ駄目か。残念だ。まぁいい。取りあえず常坂兄と芳乃は減点1として授業を始める」

 

「「なんで!?そしてなんの減点!?」」

 

「息が揃ってるのはよろしいが、やかましい。ああ、日直は礼とかはいらん、時間の無駄だ。では前回の続きから始めよう__」

 

 

一登とおれの悲鳴に笑い出す同級生達。

 

我関せず授業を開始するいつもの担任。

 

いつも通りの日常は、こうして始まる。

 

 

「(……平和だなぁ)」

 

 

苦笑しながら席に付き、泉先生の授業を聞きつつ、眠気と戦いながらも、なんでもない当たり前の日常を噛みしめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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___放課後。

 

 

 

無事に何事もなく学業も終わり、週明けまで自由な時間を得た学生達は各々それぞれの時間を過ごし始める。

 

それはおれも例外ではない。明日こそバイトの予定はあるが、それ以外は特に何も決めてないのだ。

 

教室の中、ちらほら帰宅やら部活に行く奴もいる中、まずは何をしようかと考えた所で、今朝の騒動のことを思い出す。

 

白河と遭遇した際の事。即ち『先視の魔法』が勝手に発動した時の事だ。

 

 

「(最終的に白河が怪我する事のない結果を引き寄せたけど、暴発した理由はなんだ……? これでも魔力コントロールには自信があるんだけどな)」

 

 

先視。つまり未来視。

 

未来を垣間視えると聞けば、さぞ便利なのでは無いかと思うが、実の所そうでもない。

 

未来を視ると言う事。それは幾つもある未来への選択肢を絞らせてしまい、逆に袋小路に陥らせてしまう可能性も秘めている。コントロールの出来ない先視(未来視)は、それ以外の可能性を潰してしまう事になりかねないのだ。

 

今回は良い結果をなんとか引き寄せられたが……もしもあの時、必要以上に未来を視る……例えば白河が頭から床に落ちる、と言う未来でも視てしまったら、そのカタチになった未来の通りになってたかも知れない。

 

たった数秒先の未来でさえも油断ならない。

 

この魔法は、そういう危険性と常に隣り合わせにある。

 

 

「(やっぱ、日課__魔法の修練は、朝に欠かさずやった方がいいのか)」

 

 

体内のマナと周囲のマナの同期。収縮。拡散。

 

魔法を使う上に欠かせない動作。基礎中の基礎。日課とはつまり修練。魔法使いとして重要なものでもある。

 

それに加えて、元々諸事情でこの魔法は完全に継承は出来ていない。

 

その上で他の魔法を習得するために、本来のカタチとは別のカタチに変質させたという都合もあり、数秒先の未来を視る事しか出来なくなってる。そうでもなければ、この魔法は人を簡単に狂わせてしまう。

 

無限の可能性のある未来を、ただの一本道にしてしまう。それはきっと、どうしょうもなく窮屈な生き方になってしまうだろう。

 

故に、そうほいほい使うことは許されない。

 

 

「(こんな魔法や師匠から教わった魔法より、爺ちゃんから教わった“あの魔法”のほうが、よっぽど魔法らしい魔法なんだけどな。……実用性はねぇけども)」

 

 

今はもういない大切な家族の一人。その人から教わった魔法は、おれにとっては大切な繋がりの一つだった。

 

 

「(取りあえず部屋に戻ったら改めて修練だな。自身の魔力と周囲のマナの同調の再チェック。収縮と発散。それから___)」

 

 

 

 

 

「……よしのー。芳乃ー? 聞こてます? もしもーし」

 

「___んぬぁ?」

 

 

ふと、後ろから声をかけられた事で思考が止まり、思わず変な声で応答してしまう。

 

あまりにも間抜けな声だったのか、振り向いた先にいた声の主___白河がおかしそうに笑っていた。

 

 

「ぷっ、あははっ、ちょ、なんて間抜けな声出してるんですか。思わず笑っちゃったじゃないですか……!」

 

「あー、悪い。考え事してた」

 

「ふふっ、どちらかと言うと、うたた寝してる所を起こされたような感じでしたけどね」

 

 

あー、確かに考えすぎて若干眠気混じってたかも知れん。放課後って事もあって疲れも溜まってたのだろう。学業は眠いのだ。ホントに眠たくなるのだ。

 

 

「で、何を考えてたんです? 女子寮の合法的な覗き方とかです? その場合、今から君を職員室に突き出さないといけなくなりますが」

 

「唐突にそんな変態のイメージを植え付けようとするのやめいッ!」

 

 

なんでそんな事を考えてると思った!? あと、割とマジでそういうのシャレにならないからなッ!?

 

 

「……はぁ。今日はこれからどうしようかって考えてたんだよ。せっかくの週末だしな。で、そっちはどうしたんだよ?」

 

「ふむ、もし暇があるならちょっと付き合ってくれません? 今朝の御礼、まだちゃんとしてなかったので、ボクの奢りで月見団子でもどうかなと」

 

 

今朝のドタバタの事だろうか。

 

成り行きでああなったし別に気にせんでも良いのだが、白河はなんだかんだで義理堅い所がある。まぁ特に断る理由もないのだが。

 

それに月見団子か……。確か春の新メニューが出てた筈だし、あそこのねこ達にも久し振りに会いたくなってきたし、ちょうどいいだろう。

 

 

「おっけー。甘味もねこも嫌いじゃない」

 

「お、分かる口ですね芳乃。それじゃ行きましょうか!」

 

 

おー。と相槌をうち、席から立ち教室を出る。

 

魔法のことについては夜に改めて考えようか。急ぐ程でもない、寧ろ落ち着いてから取り組んだ方が効率がいい。

 

新メニューの甘味が食えるからか、はたまた保護されて愛情たっぷりに育てられてるねこ達に会えるからか、隣を歩く白河はとてもご機嫌だ。

 

分かる。月見団子のねこ達、かわいいもんな。すごい分かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あのさ、キミって前世マタタビだったりなんかします?」

 

「なぜにそう思ったし?」

 

「この状況を見たら、そう思わずにはいられないからぁ!?」

 

 

商店街の月見団子にて、新メニューのパフェを堪能していたおれに向かって、白河が叫ぶ。ただし小声で。

 

小声なのは単純に、この店には保護されて人前に出てこれる猫が店にも出歩いてるからだ。

 

なのでここは猫カフェでもある。あるのだが、

 

 

「なんでっ、なんで芳乃の所にばっかりお猫様が来て! ボクの周りには寄らないんです、いないんです、来ないんです……っ!」

 

「いや寧ろおれが聞きたいわ。逆になんでそんな寄り付かねぇんだよ、ねこ」

 

 

半目で若干呆れてるおれの周りには猫、ねこ、ネコ。肩にもねこ、胡座の上にも猫、頭の上にもネコ。ねこです、よろしくおねがいします。

 

対して涙目で崩れ落ちる白河の周りにはねこは一匹もおらず、寧ろ近づかないようにしてる。

 

そんなあまりにも綺麗な対比に、看板娘の梓さんも苦笑している。はて、ねこはムササビが苦手だったろうか?

 

 

「おれは昔からねこには懐かれやすいっつーか、なんか寄ってくると言うか」

 

「全人類が羨む体質を、なんかって……! もしかしてケンカ売ってます!? 買いますよ! 叩き買いしてやりますよ!!」

 

「落ち着け、小声で叫んでるんだろうけど、気迫でねこがビビるだろ。あとキャラが崩壊してんぞ」

 

「〜〜〜〜ッッ!!?!」

 

 

白河ほどの美少女が涙目で顔真っ赤にしてるのは、それはそれで破壊力があるのだが、理由が理由なだけに苦笑せざるを得ない。

 

そんな白河は暫く怒りとか羞恥とかをなんとか耐えたあと、机にもたれ掛かる様に崩れ落ちた。

 

 

「はぁ……羨ましいねその体質。ボクなんか、おやつやチ○ール持ってても反応してくれませんのに」

 

「チュー○でも反応しない辺り、業が深いな」

 

 

既に最終兵器を使ってダメだったのか……こりゃ相当根深い。

 

取りあえず頭の上に陣取ってる黒猫を下ろして顔の前へ持っていく。

 

 

「オマエ、ちょっと白河の所にも行ってくれねぇか?」

 

「にゃ?……にゃにゃー」

 

「そっかー……。すまん白河、ダメそうだ」

 

「待って、なんでナチュラルにお猫様とコミュニケーション取れるんですか?」

 

「?」

 

「いやそんな「コミュニケーション取れねぇの?」みたいな顔してお猫様達と一緒に首傾げられましてもね!? ……あれ、なんかボク、さっきからツッコミしかしてないんですけどっ!」

 

 

ぜぇぜぇはぁはぁ、と、ツッコミ疲れて普段のキャラが完全に壊れてる白河。

 

普段の飄々とした態度が完全に消え去っている。なるほど、これがねこパワーか。

 

甘味も食い終わったので集まってきたねこ達を撫でたりしながらくつろぐ。もはや全身ねこのフルアーマーである。なにこの幸せ空間。癒やされる。

 

 

「……君、お猫様が絡むとIQ下がりません?」

 

「自覚はある。だってねこだもの」

 

「理由になってないですから。……でもまぁ、お礼する側としては上々ですかね」

 

 

そう言って、ねこにもみくちゃにされ始めたおれを見ながら、白河は柔らかく笑った。……そういう笑い方も出来るんだな、おのれ。

 

 

「別に気にしなくてもよかったぞ? 成り行きで、ああするしかなかったしさ」

 

「いえいえ、受けた借りは必ず返すのが筋ですし。あとはお猫様に弱いって事も知れましたしね」

 

「うわっ、悪い顔してら」

 

 

その情報で一体なにをしようというのか? 先程とは一転していつもの悪戯心に溢れた笑みを白河は浮かべる。

 

 

「恋愛請負人を名乗ってるだけあって、あらゆる老若男女の情報を仕入れる事も後の仕事に繋がりますからね」

 

 

ああ、そっちの方で活用する訳か。

 

 

「おれの情報を欲しがる奴がいるなら、逆に見てみたいわ。どんなもの好きやら」

 

「残念、芳乃は今の所、相談数ゼロですね!」

 

「いや、まて、それはそれで傷付くんだが……?」

 

 

思わぬ所でダメージを負ってしまった気がする。思春期の男子はガラスのハートなんだぞ。

 

それが分かってるのか、白河もクスクスと笑っていた。

 

 

「まぁ、そんなに心配しなくても悪用だけはしませんよ。どこかの自称探偵とは違いますし」

 

「ああ、奴の場合は何かしら悪用しそうな気しかしねぇもんな……」

 

 

ハーハッハッハ!!と高笑いする自称探偵なもう一人のトラブルメーカーが頭に浮かぶ。

 

想像の中でもやかましい。頼むから静かにしてくれ。シャラップ。ステイ。ハウス。

 

 

「そういやその恋愛請負、クリスマスも近いから相談数えらく多くなりそうな気がするんだが、大丈夫か?」

 

 

朝のドタバタでも少し思った事を思い出す。なにせ達成率100%なのだ。クリスマスを機に白河の力を借りたいと思う学生も多いハズ。

 

そして、その予想はどうやら当たってたらしい。おれの質問に白河は思わず遠い目をし始めた。

 

 

「正解。分かっちゃいますか。今の時点でも結構多いんですよねー……」

 

「やっぱりか。その疲れが残ってた結果が今朝のあれこれに繋がってるかも知れんし、あんま無理はすんなよ?」

 

「……かも知れないですね、気遣いありがとう。でも、これも好きでやってる事ですから」

 

 

まぁ、個人でやってる事にはあまり強く止める事は出来んが。

 

 

「あんまりしんどいなら、いっそ人の手を借りれば良いだろ。一登達なら、寧ろノリノリで引き受けるぜ?」

 

「常坂兄達ですか……確かに。実は依頼の中には常坂妹への案件もあってね、常坂兄妹の協力があるなら助かるかも」

 

「叶方は女子の趣味方面にも明るいし情報網もある。杉並に至っては言わずもがなだしな。おれも、出来る事があるなら手伝うし」

 

「……なるほどなるほど。確かにそうですね……ちょっと考えてみようかな」

 

 

おれの提案に真剣に考え出す白河。

 

もしも悪友どもと揃って白河の手伝いをする事になれば、それはそれで楽しいだろうが、恐らくそれだけに留まらない気がする。

 

 

「(先視を使った訳じゃないけど、なにか予感がするな)」

 

 

その予感には嫌なものを感じない。

 

楽しくなるならそれでいいか。と、相変わらずねこに囲まれながらそう思うのだった。

 

 

 

 

……っていうか、ねこが集まり過ぎてこれ、動けないんだけど。え、どうすればいいんだこれ? たすけて。

 

 

 

 




◇先視の魔法
所謂未来視。今より先の未来の光景を視る魔法。
本来【未来】とは不確かであやふやで正確に観測する事の出来ない概念であり、無限に広がり拡散しているものである。

先視こと未来視は個人の視覚で先の未来を視て、“視界に捉える”と言う概念でその未来への道筋を確かなカタチとすることで因果を強固にし、逆説的に術者の視た未来を確定させる因果律へ干渉する魔法である。

ともすれば無限に広がる可能性を一本道に変えてしまう危険性を秘めており、その扱いには最新の注意が求められる。
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