-PROLOGUE END-
____その後、帰宅客で溢れる前に一足早くワンダーランドを後にしたおれ達は、そのまま帰るのが名残惜しくて、早めに出たと言うこともありそのまま少し夜の散歩に出掛ける事となった。
行き先は特に決めてない。でも、なにかに導かれる様に水鏡湖へと、皆の足は向かっている気がする。
「鷺澤、今日はありがとう。ボクはとっても楽しかったよ」
「同感だな。一人で来たときよりも遥かに楽しませてもらった」
「杉並、一人で来てたことあるのか……それはそれとして、オレもすごく楽しませてもらったよ」
「協力してもらったのは本来ボクなのに、申し訳ない」
「ううん、ひよりんは一人で出来たかも知れないのに、私がみんなにお願いして大事にしちゃった感もあるから、これくらいさせてよ」
「言い出しっぺだし、おれもなんか考えとくべきだったか……? まぁ、それは置いといて。初めての遊園地がワンダーランドで良かったよ。な、海央」
「はい! あたしも初めての遊園地がワンダーランドで良かったって思ってます!とても楽しかったです!一生残る思い出です!」
「とっても感謝! ね、いっちゃん、二乃ちゃん」
「え、ええ。……ええ、そうですね。とても楽しかったです。ありがとうございます」
「だな。サンキュー、有里栖。これでみんなもさ、次に他の友達やら家族やらと来たときのオススメとか気になるアトラクションとか判ったしな」
「うんうん、次はちょっと怖そうなアトラクションにもチャレンジしてみようかなあ」
その道中、ワンダーランドのチケットを確保してくれた有里栖に皆で感謝しつつ、各々が感想を述べていく。
当然、おれと海央もだ。忘れられない思い出になったのだ。特に海央は今回の件はなにも関係なかったのにチケットを用意してくれたのだ。心から感謝して当然だろう。
「ん?」
「? どしたのお兄ちゃん?」
ふと、おれ達とすれ違ったカップルに目を向ける。
記憶が正しければさっきの二人、白河のリストに載ってた人達じゃねぇかな?
「あ、あの二人。最後の追い込みでオレ達で仲を取り持った二人じゃないか?」
叶方も気づいた様で補足が入る。ああ、おのれらが担当してたのか。
「ん……そう言われて見ると記憶あるな」
「私も覚えてます。確か男子の方は兄さんと叶方さんで、女子の方は私と鷺澤さんとで話を聞いたんですよね」
「うんうん。それで、ひよりんが最終的に見極めて、この二人には充分に縁があるって判断して、最後の一押しをしたんだよね」
「例の光の発砲ショーというわけだな」
「超微妙。その表現はよろしくないね。あれはショーではなく儀式(セレモニー)なのだよ」
「ねぇ、お兄……トーカ先輩」
突然、海央が服の袖を引っ張ってきたので少し身を屈む。犬耳パーカーの妹分は耳元で囁くように問いかけてきた。
「トーカ先輩はひよりん先輩の銃でバーンって見たことあるの?」
「いや、なんだかんだで直接はまだないな」
「なんだか、話を聞いてると魔法みたいじゃない……?」
……確かにな。一見縁のない二人が白河の銃での___本人曰く儀式を経たら、まるで運命の出会いかのように仲睦まじくなる。
【正義の魔法使い】を志す海央からすれば、気になってしまうのだろう。
無論、おれもその不可解さは勿論理解してる。してるが、
「……魔法じゃない、と思う。それならマナの動きで、おれは絶対に気づく。直接は見てないが、白河が銃を使った後に会ってもマナの残り香みたいなのは特に何も感じなかったから間違いない」
「……あたしが使った人払いの結界魔法にもすぐ気付けたもんね、トーカ先輩は」
修練の成果か、おれは周囲でマナが動くと感知できる。香々見学園内なら気付かないことはないのだが、白河にはそういうのは一切感じたことがない。
それもあって、白河の活動には魔法は関与してないと考えている。
「一応、心理学の応用だろうか、と思ってる。……万が一魔法だとしても洗脳とかの類じゃなさそうだしな。
___なにより、白河には悪意がねえ。そこだけは断言できる」
昨日の白河の笑顔を思い出す。他人の幸せで、あんな同じくらい幸せそうな笑顔になれる奴が、悪意で動いてる訳がない。
他人の幸せのために全力を尽くす白河だからこそ、おれはアイツの力になりたいって思ったんだ。
だから、それだけは間違いなく言い切れる。
「……ん、そっか。仮に万が一何かあってもトーカ先輩なら対応できるかな。
……にしても、これ、無自覚かな……?」
納得したのか。穏やかな笑みを浮かべる海央。最後の方はなにか聞こえなかったが、何を言ったのだろうか。
「でもそうだなぁ……幸せそうなのを見るのは良いな」
ふと、先程のカップルが手を繋いだところを見て、一登がそんなことを呟く。それを聞いて、杉並が興味深そうな表情を浮かべる。
「うむ、同士よ。往々にしてそういう呟きには重要な真実が含まれていたりするものだ」
「真実って何だよ……?」
「同士・常坂兄。もっと本格的に今回のようなことをしてみるというのはどうだ……?」
杉並の言葉に「は?」と呆気に取られる一登。しかし他の面子は違う。杉並の言葉を理解した瞬間に、皆が沸き立った。
「あー、それいいじゃん! もういっそさ同好会みたいなのにしちゃってさ! 一登って割とピュアだし、人の幸せの追求みたいなの、オレは良いと思うなあ」
「おいおい、待て待て……」
「なるほど。ボクの活動は恋愛成就。常坂兄はより広い幸せを追求したい、か。……うん、おもしろそうだ! その同好会、ボクも参加するよ!
鷺澤もやるよね? 最近のキミ、昔よりもお節介な感じあるし、向いてると思うんだ」
「そ、そうかな?」
「うん、良いと思うよ。……そして、キミも勿論やるんだよね?」
そう言って有里栖からおれに視線を向ける白河。
一瞬、虚を突かれつつも、次には笑う。
「ああ、そりゃこんな面白そうなの、逃す訳がないだろ」
そう応えると白河も笑顔を浮かべる。楽しそうな笑顔だ。
多分、おれも今同じ表情を浮かべてる気がする。
「はいはーい! あたしも! 海央も手伝いたいと思います!」
「いやおのれは香々見学園の生徒じゃないだろ」
「外部協力者。ならいいんじゃないかな?」
「そこはちょっと考えがあるというか、大丈夫というか……まぁ楽しみにしててください!」
「?」
「兄さんがどうしても同好会を始めると言うなら、私も手伝わないことはないですけど……」
「いっちゃんと二乃ちゃんがやることなら、もちろんお姉ちゃんも手伝うよ! 世のため人のため、ってね♪」
「待て、なんで俺がやりたいから渋々やります、みたいになってんだよ二乃は。というかそら姉まで……!」
あれよあれよと言う間に追い詰められていく一登。しかし、追い詰められてると言うには一登自身も楽しそうな雰囲気を醸し出している。
この空気を、おれは……いや、おれ達は知っている。白河の活動の手伝いをしてた時の一体感そのものだ。
そんな空気にあてられてる間に、水鏡湖の湖畔の、あの桜の所に辿り着く。
相変わらずの存在感。冷たい夜風に吹かれても、今はその身になにも咲いてなくても、それは変わらない。
安堵すら覚えるほどに、桜の大樹は変わらずそこに在った。
「で、一登どうすんの? やるんでしょ?」
「どうせやるのならば、同好会と言う形が良かろう。校内のイベントでも動きやすくなるし、部活動よりかは縛りが緩くなるはずだ。何より同士には向いている」
「部室ってか拠点はどうするよ? やっぱいつもの屋上か?」
「フッ、安心しろ。こんなこともあろうかとテントを用意してある! それを部室代わりにすれば良かろう」
「前々から何か企んでると思ったらそれかよオイ。……まぁ、台風対策に保管用の倉庫作れば行けるか。力仕事は任せとけ」
「なんかもう、やる前提で話が進んでるよな?」
みんなで顔を見合わせる。それから笑って一登の方を見る。
もちろんやるよね?っていう期待と、やるなら付き合うよっていう理解を込めて。
「……みんなもお人好しだな」
この中で一番のお人好しが、笑顔を浮かべる。おのれにだけは言われたくねぇんだよなぁ。
前々から人の笑顔が自分の幸福みたいな善意の塊のクセしてさ。
だからみんな、おのれのこと大好きなんだろうがな。
「___しょーがないな! 人を笑顔にするの、楽しかったしな。もう少し見ても良いかもしれないよな」
そして、一登のその呟きで更に沸き立つおれ達。
うん、そうこなくっちゃな!
「うむ、それでこそ同士・常坂兄だ!」
「うんうん、一登ならもちろんやると思ったよ! な?」
「おう。これからまた忙しくなるな。まぁ楽しいけどさ」
「まったく、兄さんはお人好しですね……」
「ふふ、二乃ちゃんもね? 二人とも、お姉ちゃんがついてるから安心だよ」
「活動の幅が広がるなぁ。もちろん、広い意味での人助け、恋愛相談はボクに任せてほしい」
「そっか、みんなの笑顔が見たい……か。ふふ、そうだね。うん、私も賛成」
全員が賛同する。
みんなもやっぱり思ってたんだろう。あの活動が楽しかったってことを。
「…………こうなると、このタイミングでお父さんからのあの申し出、もしかして視てたのかな……?」
「? なんか言ったか海央」
「ううん。当然あたしも手伝うよって話」
って、おのれは【防人】の仕事もあるだろうが。と思ったが、わざわざ水を差すのもアレか。本人がやる気になってるならまぁ良いだろ。
「さて、そうなればまず一番最初に決めねばならないことがあるな」
「ん、早速何かあるか?」
「判らんか同士よ? 新たな同好会、その名前だ」
あー、確かに。名前は大事だわ。
他のみんなも頷いて納得する。名前がなければ確かに不便だし、学校への申し出にも必要だしな。
類似の部活や委員会では奉仕委員会などがあるらしい。
奉仕同好会……だと、流石に名前が固すぎる事もあり、みんなであーでもない、こーでもないと案を述べ続ける。
一登も流石に「うーん」と悩んでいるようだ。
「兄さんには何かいいアイデアがあったりしないんですか?」
「そんなピンポイントにはないぞ、流石に。でもそうだな、笑顔に関する何かが良い気もするな」
「笑顔ですか……笑顔同好会とか?」
「ド直球だな……」
「ねぇねぇ二乃ちゃん。最近なにか一登が満面の笑顔になったことってあったりしない?」
と、叶方が二乃に尋ねる。今のままでは手詰まりなのは間違いない。何かヒントがあれば万々歳だが。
「あ! ありました。多分一番喜んでいたこと」
「お、なになに? どんなこと?」
「風が吹いて、目の前の女子のスカートが捲れたとか?」
「好みのエロ本をたまたま拾ったとか?」
白河がボケに入ったので便乗してボケ倒す。当然ながらそんな訳がないので二乃は顔真っ赤に。一登は青筋を額に浮かべる。
おっと、笑顔とは真逆の顔になっちまった。確信犯である。
「な訳がないですから!?」
「灯火と白河、後で覚えてろよ……!」
「全くもう……。話を戻しますと、兄さんがやってるソシャゲでSSRを引いた時に、やたらいい笑顔で機嫌も良くなりましたね」
「あはははは! それはでも、うん。気持ちは超わかる」
まさかの理由に思わず苦笑する。そう言えばソシャゲ無課金勢だったな、コイツ。叶方もガチャ狂いな面あるからか、理解を示してやがる。
「まさか同士よ、例の期間限定の……?」
「ああ、まさにそれ」
「なるほど。それは笑顔を隠すのは難しいな」
ここら辺はソシャゲをしていないおれには判らない感覚である。
「でも、そういうことで良いんじゃない?」
「正解。そこから何か考えれば良い線行くんじゃないかな?」
「SSR、えすえすあーる……うーん」
「なぁ、それならいっそのこと、【SSR】で良いんじゃないか?」
「同好会の名前が?」
「ああ。SSR、例えば__」
言いながら一登はTABを取り出して文字を打ち込んでいく。
打ち込まれた文字は【Special Smile Realize】。
「スペシャル スマイル リアライズ。略して【SSR】」
直訳すると、特別な笑顔に気付く、だろうか。
「こじつけだけどさ、笑ったこと無い人間なんてそういないわけだろ? 本来の持ってるはずの自分の笑顔を忘れてしまってることとかあるじゃん?
それを再確認というか、気付いて貰う。って意味なんかも込めてみて、って感じ。どうかな?」
どうかなって、おのれそれ……ピッタリじゃねぇか。
一登の身内である二乃とソラさんも納得している。
「良いんじゃないかな、SSR。ガチャ運も急上昇しそうでおめでたい名前じゃん」
「賛成。お堅そうな感じもしないし、依頼してみようかな?と思ってもらえる気がするね」
「呼びやすくて気安くて……うん、しっくり来ます!」
「だな。そういう気安さは依頼する側の心理的なハードルを下げそうだし。響きもなんか良い」
「私も好きな名前かも。SSRって語感も良いよね。常坂くんが笑顔になったエピソードが実はあるっていうのが面白いよね、ふふ」
「うむ。目に浮かぶというものだ。同士がSSRを引いて鼻歌混じりに小躍りしながら大はしゃぎする様子が」
「そして隣で見てた叶方が血涙を流す様を」
「そこまでじゃねーよ!?」
「それ絶対にオレ爆死してるよね!?」
一登と叶方の渾身のツッコミで、静かだった湖畔に笑い声が響く。
こうして、おれ達の同好会の名前は決まった。満場一致っていうのも珍しいが、これもまたいい思い出になるだろう。
SSR。誰かの笑顔のために動くお人好し集団はこうして結成された。大変なこともあるだろうが、楽しくなりそうで仕方ない。
___それから暫く、ワンダーランドの感想戦の続きや、SSRの活動についての話を少ししてから、名残惜しくも夜が更ける前に解散となった。
色々と楽しかったクリスマスイヴ。
実家暮らしの常坂一家と+αの海央達、有里栖と別れ、寮暮らしの4人で帰路につく。
寮に着くまでの間も、今日とこれからの話題は尽きず、あっという間に寮に辿り着いた。
女子寮に戻る白河を見送り、野郎3人も男子寮へ、そして自室へとそれぞれ戻る。
明日からは、また学生生活だ。
でもきっとまた、あの屋上でみんな集まるだろう。
これからの活動に必要なものを話し合うために。
それを楽しみにしながら、風呂なども済ませて眠りにつく。
幸いにも眠気はすぐに訪れた。
暗くなる視界の中、今度はマシな夢を見ますようにと、らしくもなく祈りながら____
△ ▼ △ ▼ △ ▼
____桜の花びらが、延々と散らしていく。
散った先から、また咲いて散る。それを永遠に繰り返している。
まるで終わりから始まりへと戻るD.C.− ダカーポ−のように。
その場所には空はなく、空のある場所には水面。
眼科に広がる足元も、延々と鏡のような水面が広がっている。
合わせ鏡の中にいるような感覚。
そんな不可思議な世界の中心には、満開の桜の樹。
…………ああ、そうか。
と、その桜の樹を見て、ある魔法使いと交わした“契約”により封じていた記憶が蘇る。
珍しいな。“呼ばれた”のか。
「こんばんわ。こんな時間に呼んじゃって、ごめんなさい」
桜の樹の下から、鈴の音のような声。
やはりというべきか、そこにいたのは可憐な少女。
いつもと違うのは、その髪の色を鮮やかな金に染めてる事か。
____随分と急な呼び出しだな。なにかあったのか?
「うん、私のほうがと言うより、ここ最近魔法使い関連で変なことが多かったから、一応聞いておいたほうがいいかなって」
なるほど。そう言えば説明してなかったか。
いや、普段はこの世界の事も、目の前の少女の事も、契約で忘れてしまっているから、仕方ないっちゃ仕方ないが。
なので、軽く概要を説明する。
ここ最近で何があったのかについて。
……最も、おれが直接関わったのはあのクソトカゲの一件くらいなのだが。
「私の知らないところで、そんなことがあったんだ……」
____知らなくて当然だ。クソみてぇなことを考える奴らは、必ず潜む。影に隠れて人に害をなす。それを炙り出す為に【先視の魔法】は生み出されたのだからな。
「【防人】かぁ。私のしようとしてること知ったら、止めてくるかな?」
____どうだろうな。アイツの夢は『正義の魔法使い』だからな。おのれのやろうとしてることが受け入れられないなら止めに入るかも知れないが、その時は“契約”に基いて、おれが止める。
「うん、ごめんね? すっかり巻き込んじゃってるや」
____だけど忘れんな。おれも、おのれのプランAとやらには納得してないってことを。
「……うん」
少女が頷くと同時に、その少女との距離が遠くなる。
……どうやら時間のようだ。
おれはあまりこの世界___少女が【カガミの国】と呼んだ場所には長くいられないらしい。
体質的な問題なのか判らないが。まぁ、だからといって不便って訳でもないが。
「また、学校でね。SSRの活動もがんばろう」
____ああ。……つっても、目ぇ覚ましたら、おのれのことも、この世界のことも、全部忘れちまうんだけどな。
「うん、そこは本当にごめんね」
別に謝らなくていいのに。
いちばん大変なのは、おのれだろうが。
少女が更に遠くなる。
感覚的に、もうそろそろ目覚めだろうか。
と、ふと、おれと入れ替わるように、遠くなるあの世界に現れた人影に気付く。
それが見慣れた親友の姿なのにも気づいて、思わず笑った。
____なんだよ。やっぱりくっつきそうじゃねぇか、あの二人。
その先の未来を思わず想像してしまった。
どうか、あの子を助けてやってほしい。
真っ白に染まり、無限大に収束した因果の中、遠くなった意識で親友にそんなことを願うのだった____