D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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SSR主催 〜恋のレジェンドバトルパーティ〜 編
EPISODE 1


 

 

 

「せやぁぁぁあああ!」

 

 

___右から、左から、ステップを絡めて犬耳パーカーが特徴的な女の子が、その両手足に付けた手甲と足甲を縦横無尽に振るう。

 

魔法的な防御が施されたそれは、2ヶ月くらい前にトカゲの魔法生物と戦う際に、アイツが持ってきてなかった武器である。

 

生半可な魔法や呪いを弾き飛ばしてしまう代物であり、武器でありながら防具としての側面も持っているという、魔法使いからしてみればやっかいな装備だ。

 

更に特別な機能も隠し持ってるとかなんとか。

 

その攻防一体の装備による、息もつかせぬ怒涛の連続攻撃。

 

それが、コイツ___妹分の咲三海央が得意とする戦法だった。

 

 

「だぁぁぁぁぁ!!あーたーれー!」

 

「言われて! 当たる奴が! いるかぁ!」

 

 

その嵐のような猛攻を掻い潜りながら、一瞬の隙をついて右手に持つ化け物リボルバー拳銃、【シリウス】と名付けたそれの銃口を突き付け___引き金を引く。

 

ドパァン!という火薬の音と共に、人体への影響を極力減らしたゴム弾が、海央の眉間へと向けて放たれる。

 

ゴムなので当たっても死なないし、弾薬も弱い奴なのだが、痛いことは痛い。まぁ、身体強化の魔法を使ってるのでさほどダメージにはならないだろう。

 

しかし当たればいいのだ。これは組手であって、殺し合いではないのだから。

 

 

「あぶにゃい!?」

 

 

それを変な言葉遣いと共に間一髪で躱す海央。

 

反応力はやはりというか流石だ。

 

しかし、そのせいで距離を取ったのはいただけない。

 

海央のようなインファイターが、おれみたいなガンナーを相手にするなら距離を取らせてはいけないのだ。

 

 

「____ッ!!」

 

 

拳の届かない距離。残り弾数5発。

 

弾数に余裕があるため、リロードをせずにそのままシリウスを構えて、引き金を引く。

 

弾ける火薬の音と共に再び放たれるは牽制のための弾丸。

 

避けた瞬間を連続の早撃ち(クイックドロウ)で仕留める算段だった。

 

 

「ふぁいとーー!!」

 

 

所がギッチョン。

 

その弾道を見切った海央が、振りかぶってた拳を放たれた弾丸に向けて振るう。

 

 

「いっぱぁぁつっ!!!」

 

 

で、あろうことか、某栄養ドリンクのCMに出て来る掛け声と共に、撃たれた弾丸を手甲にぶつけて、おれの方へと弾き返して来やがった。

 

……この前、貸した漫画の技だったなアレ。

 

おれもその漫画の主人公の技をリスペクトしてるけど、妹分もとうとう人外の領域に足を踏み入れたらしい。喜ぶべきか嘆くべきか。

 

兎にも角にも弾き返された弾丸を避けつつ、バックステップで下がる。

 

弾丸を弾き飛ばした海央は「むふー!」と自慢げに腰に手を当てながらドヤ顔をさらしてた。

 

 

「どうですトーカ先輩! とうとう出来るようになりましたよ弾丸返し!」

 

「……流石はおじさんの娘だわ。人外の領域にまた一歩近づいたか」

 

 

もっともコイツの父親にして、魔法使いの自衛組織でもある【防人】の当主なら、素手で弾丸を掴んで無効化させそうだが。それも魔法無しで。

 

やはり化け物である。

 

 

「どやぁ。これでもうトーカ先輩の化け物リボルバーなんか怖くありませんよー!どやどやぁ!」

 

 

よほど嬉しかったのだろう。わざわざ口でドヤ顔を表現しつつも煽ってきやがった。

 

……なので、弾数にはまだ余裕があったが、リロードを済ませる。

 

 

「……ほう、言ったな。いいだろう。なら次は早撃ち(クイックドロウ)使うから、全弾弾き返してみせろ」

 

 

渾身のドヤ顔と煽りに割とカチンと来たので、大人げない真似をしようか。

 

おのれ今から的な?

 

 

「あ、まって? それはまだ無理。ほぼ同時に数発来るようなのまだ弾き返せません。まって、ホントに無理無理無理ぃいいいいい!!?」

 

 

なんか悲鳴を上げる駄後輩に向けて、リロードを終えて構えたシリウスのトリガーを3連続で引く。

 

三連・早撃ち(トリプル·クイックドロウ)。好きな漫画に出て来る主人公が使う技をリスペクトしたものだ。

 

一発分の銃声で三発も撃たれる弾丸には、流石にまだ対応出来ないらしい。海央は悲鳴を上げながら逃げに入る。

 

そんな妹分の情けない姿を眺めながら、追撃で三発。また早撃ちでぶっ放して、即座にリロードしてまたぶっ放す。

 

その内、海央は本気で悲鳴を出し始めた。

 

人払いと防音の結界がなかったら間違いなく通報事案の光景だ。

 

 

 

「いやぁぁぁぁ!?お助けぇぇえええええええ!?」

 

 

 

早朝の訓練は、それなり充実することとなった。

 

 

 

……主におれの嗜虐心が、と言う意味で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 1-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に2ヶ月も同じ相手と戦ってたら、変な癖が付きそうだな」

 

「もきゅもきゅ……もきゅ?」

 

 

 

 

2/4 月曜日 快晴、早朝訓練を終えて。

 

 

 

 

早起きからの魔法の修練に肉体の鍛錬、それから2ヶ月前から始めるようになった模擬戦を終えて一息吐く。

 

場所は水鏡湖付近の森の中にある自然の広場。人気も少ない穴場であり、人払いと防音の結界を使えば魔法を使った模擬戦も出来るくらいには広い。

 

隣にいる海央は朝ご飯として持ってきたサンドイッチを頬張りながら、首を傾げる。行儀が悪いからやめなさい。

 

 

「もきゅもきゅ……ごくん……確かにそうだね。あたしなんか魔法使い相手にするのに、トーカ先輩とばっか戦ってると感覚がズレそう」

 

「つっても、おのれの場合は銃弾の速度に慣れたなら大抵の魔法や呪いとかにも対応出来んだろ」

 

「あー、うん。悲しいことにそうなんだよね……それ見越してお父さん、あたしを此処に送った節あるし」

 

 

犬耳パーカーの下に香々見学園指定のジャージを着た海央がそう呟く。

 

 

 

 

___約2ヶ月前、一登達と立ち上げたSSRの活動が始まると同時に、海央が香々見学園付属2年に転入生として編入してきていた。

 

当然ながらお人好し集団であるSSRの面々は大歓迎であった。なんだかんだで海央は人懐っこいうえに明るい性格をしてるからな。陽キャの波動を発してる。

 

今ではワンダーランドで遊んだ時以上に打ち解けており、その素直さからか可愛がられてる。おれとしても嬉しい限りだが、送られた理由が「鍛え直しの為」と聞くと流石に苦笑せざるを得ない。

 

 

「一応、おれは魔法使いとしては異端の類なんだがな……」

 

「あははは……でも、おかげで予想外の一手に対する対応力はなんとか上がってるかも。……流石にまだ早撃ちとかには対応出来ないけど」

 

「同年代の後輩にそうそう対応されてたまるか。これでも魔法と同じくらい、体術以上に銃技を磨いてたんだからな」

 

「お兄ちゃんは一体どこを目指してるの……?」

 

 

それはおれにも分からん。ぶっちゃけクソオヤジに対抗する為の力なので、奴に通用するならなんでも良いという心境だ。

 

それは海央には内緒なので言わんが。

 

 

「さて、クールダウン済ましたら結界解いて一旦寮に戻って、今日も元気に学生生活だ」

 

「友だちは出来たけど、勉強は苦手だなぁ……」

 

 

遠い目をする後輩に苦笑する。勉強苦手だったか、おのれ。

 

がんばれ後輩。つか、香々見学園の転入試験を突破出来るなら大抵の学業はどうにかなんだろうが。

 

げんなりする妹分に笑いながら、揃って一旦寮へと帰路につく。

 

因みに海央も寮暮らしだ。流石に何時までもソラさんのところには世話になれない。なので必然的に香々見学園に通うなら寮で暮らす事になる。

 

……ただ、晩飯の時にはおれの部屋に来るので、自室がより一層無法地帯と化してしまっているのだが。

 

最近では海央に便乗して白河もたまに来る始末だ。おれの部屋は食堂ではないのだが……つか、定員オーバーだろこれ。

 

杉並に叶方、海央に白河、でもっておれ。5人での運用は流石に想定外だろ学校側も。

 

そんなことを考えつつ、兎にも角にも走りながら寮へと向かう。流石にジャージのままでは学校に行けんしな。

 

女子寮の海央と別れてから自室で汗を拭って手早く制服に着替える。

 

鍛錬自体は朝早くやってるので、今から学校行ってもちょうどいい時間になるだろう。

 

とりあえず自室を出て寮の入り口に行くと、付属の制服の上にさっきとは違う犬耳パーカーを羽織った海央が待っていた。

 

どうやら複数持ってるらしい。もはや犬耳パーカーは海央のトレードマークと化している。

 

 

「遅いよお兄ちゃん! 遅刻遅刻!」

 

「タッチの差だろうが、つか学校すぐそこだから待たんで良いだろうに」

 

「いいんです。短くても一緒の登校に意味があるんだから!」

 

 

なんじゃそりゃ? と思いつつも海央と並んで校舎のある方へへと向かう。

 

 

「今日も放課後はSSRでみんなとお喋りかな?」

 

「いや、どうだろうな。そろそろバレンタインあるし、白河の依頼が殺到しそうな感じもする」

 

「あ、そっか。じゃあそれについての話し合いがあるかもね」

 

「あるならあるで、とうとうデスマーチ第二弾の始まりだぜ」

 

 

うへぇ。と思う反面、2ヶ月前にみたいに楽しみでもある。忙しくてもみんなで一緒に何かをするってのは充実してたからな。

 

それを話だけでしか知らない海央は、実に羨ましそうな表情を浮かべていた。

 

 

「あーあ、あたしもっと早くここに来てたらなぁ」

 

「なんだよ藪から棒に」

 

「だって、みんなと一緒の学園生活、すっごく楽しいもん。同じクラスで友だちも出来たからね。……【正義の魔法使い】って夢は諦めてないし、【防人】の責務も忘れてないけど、ちょっともったいない事したかなって」

 

 

【防人】として早くから実戦経験をしていた海央にとっては、ここでの生活は2ヶ月間だけの間とも言えど、かけがえのないモノとなってるようだ。

 

短い付き合いだが、そう思われるくらいにはSSRの連中は面白くて賑やかだからな。

 

……うん、それはおれも心の底から同意する。

 

なんでもない日常のやり取りだけでも、アイツらと一緒ならすごく楽しいもんな。

 

 

「これからまだまだチャンスがあるさ。アイツらといるだけで退屈とは無縁になれるしな」

 

「ふふ、そーだね。……っと、はい到着! 」

 

 

そんなこんなで、短い時間だったが校舎に到着。やっぱり寮からだと早い早い。

 

学校の敷地内にあるのだから当たり前なのだが。

 

 

「ん?」

 

 

ふと、校舎内の雰囲気が浮ついてる感じがした。

 

覚えのある雰囲気だ。

 

 

「もしかして、ひよりん先輩?」

 

「多分な」

 

 

海央も、何かしら気付いたのだろう。

 

せっかくだ。揃って見学するとしようか。

 

直で見たこともなかったしな、白河曰くの儀式(セレモニー)とやらを。

 

 

「……因みに、今の段階で何か感じたりする? あたしはさっぱり」

 

「おれもだ。周囲のマナからも何も感じない」

 

 

特化型と異端の魔法使い二人ではあまり判断材料にはならないだろうが、少なくとも今の段階ではやはり魔法が絡んでる気配はない。

 

兎にも角にも、直接確認するほうが早いだろう。

 

海央と一緒にざわつきの大きな階層を探し出すと、人混みが特に多い一団を見つける。

 

 

「あ、一登先輩と二乃にゃん先輩、それに有里栖先輩を発見!」

 

 

「海央、突貫します!」と、知り合いを見つけて一目散に突撃を開始するワンコ系後輩。犬耳のパーカーを纏ってるせいでブンブン振られる尻尾を幻視してしまう。

 

というか二乃にゃん先輩ってなんだ二乃にゃん先輩って。二乃がねこ属性なのは確かだが。

 

そんな海央に気づいた有里栖が振り向いた瞬間に海央に抱き着かれて、グリグリと頭を押し付けられる。

 

 

「ぎゅーっ♪」

 

「わわわっ、海央ちゃん!?」

 

「おはよーございます! ぐりぐり……ぐりぐり……」

 

「もう、くすぐったいってばぁ」

 

「よっ、おはよーさん」

 

「よう、灯火。海央ちゃんは相変わらずだな」

 

「見ての通り、いつも通りのワンコっぷりだよ」

 

「二人とも、おはようございます。……海央ちゃん、あんまりやり過ぎると有里栖さんが困りますよ?」

 

「じゃあ二乃にゃん先輩に!」

 

「いや、私ならオーケーって意味合いでもないですよ!?」

 

 

とか言ってる間に海央が二乃にじゃれつき相手を変える。

 

「全くもう」と言いながらも二乃は二乃で、じゃれてくる海央の相手を満更でもなさそうな辺り、アイツはホントに人懐っこいというか。懐に入るのが上手いというか。

 

無邪気属性恐るべし。

 

 

「で、この騒ぎは白河のアレか?」

 

「多分な、で、そろそろ来るはずだ」

 

 

「___止ぉおおまってぇ!くだぁさああああああああい!!!」

 

 

と、何処からか聞こえてきたのは風紀委員長代行の叫び声。

 

そちらの方を向けば、美嶋さんと三つ子の風紀委員ズが見慣れたツインテールを追っていた。

 

その大物獲りを見つけて一登達や他の生徒がそちらに向かう中、おれと海央はその一団の後ろから一部始終を見ることに。

 

背丈の低い海央は、最初はジャンプしながら見ようとしたが疲れたのか、なんかおれの背中から首に腕を回して強制おんぶの体勢で視界を確保した。首が極って地味に苦しい。

 

 

「きょ、今日という今日こそは、絶対に阻止しますからねー!」

 

「「「からねー!」」」

 

「ふふ……、お生憎様! 止まれと言われて止まるボクだと思ったかい!? ここでボクが捕まれば、誰がこの大義を果たすというのか! いるわけがなぁい!」

 

「その大義を! 認めない! と、言ってるんですぅううう!いいから止まりなさーい!!」

 

 

高らかに響く声の主は、風紀の追跡もなんのその、人混みすらも軽やかに避け続けて走り続ける。

 

その両の手には見慣れない2丁拳銃。銃使いでもあるおれでも見た事がない。ハートや羽の意匠からして、改造してるのだろうか。

 

いや、見慣れてないのはおれと海央くらいで、ここの学生なら恐らく見覚えがあるのだろう。

 

 

「ねぇお兄ちゃん」

 

 

背中からぶら下がってるからか、耳元で海央の声が響く。

 

 

「……海央も気になるか? 初めて見たが、既存の銃でも見ない形状だ。単発式か? 弾丸の装填口が分からんし、元の形も分からんぞアレは」

 

「風紀委員の三つ子ちゃん達がすっごく可愛くて仕方ないんだけど」

 

「おのれは何処を見ていやがる?!」

 

 

見るべきところはそこじゃねーよ!?

 

いや三つ子の風紀委員もある意味名物なんだろうがよ! 今はそこじゃねーんだよ!

 

 

「目標補足! 不肖、白河ひより! 恋愛執行に入ります!」

 

 

とかなんとか言ってる内に、白河が執行対象を発見したようだ。

 

風紀委員長代行の美嶋さんとの距離は遠い。恐らくだが、美嶋さん達が追いつくよりも白河は自分の仕事をこなすだろう。

 

 

「はいそこの男子! あ、違う、キミじゃなくてその隣! ちょーっとだけ足を止めて? 照準がズレちゃうといけないからね。

 

大丈夫、痛くないしあっという間に終わるから!」

 

 

捕捉したターゲットに向けて左の銃を、自分の脳天に向かって右の銃を突き付けるという独特な構え。

 

2丁拳銃というから、てっきりその2丁を対象に向けて撃つのかと思っていたが違うようだ。

 

左の銃の銃身は白河の視線と見事に被っている。あとは引き金を引くだけでいい。

 

 

「さぁさぁ皆さんご覧あれ! 白河ひよりによる恋愛執行!いざ、ここに! エグゼキューション! 青春を歩むキミに溢れんばかりの幸あれ!」

 

 

詰め込みすぎな気もする決め台詞と共に、白河の銃から色鮮やかな光が放たれて、執行対象の男子が光に包まれる。

 

 

「 春近し 迷う心を 導けり 」

 

 

その光が晴れてから、白河はポーズを決めての五・七・五。

 

……バッチリとキメやがったな。

 

 

「ま、また間に合わなかったあ……」

 

「「「間に合いませんでした……」」」

 

 

遠くで肩をガックリと落とす美嶋さんと風紀委員ズ。

 

彼女達には悪いが、これもまた学園の名物となっているそうだ。

 

 

「……お兄ちゃん、どう? あたしは、さっぱり」

 

「……同じくだ。マナの動きも魔力も感じない」

 

 

おれ達二人は、その一部始終を魔法使いの視点から見ていたが、直で見ても仕組みが分からなかった。いつの間にか拳銃も消えてるし。

 

仮にも基本は抑えてる魔法使い二人が揃ってマナの揺れ動きを感じないのなら、魔法ではないのは確かだろう。

 

ただ、なんだろうか。

 

……言葉に出来ない何かを感じた。

 

海央には分からないみたいだが。

 

 

「……まぁ、魔法ではないなら、おれ達がどうこう言うことでもないか」

 

「ん、そうだね」

 

 

兎にも角にも直で見て魔法じゃないって分かったし、今は違和感も棚上げしとくしかないだろう。

 

それに、実際に人が幸せになってるってのがな。

 

実害がないのなら、これ以上気にしても無駄だ。

 

そこら辺も特に心配していない。なにせ白河だしな。

 

誰かの害になる事だけは絶対にしないだろう。……人の幸せであんな笑い方する奴なんだから、それだけは確信していた。

 

 

「よっ、お疲れさん白河」

 

「おはよーひよりん先輩!」

 

 

検証も一応済んだので魔法使いモードは一旦解いて、一登達と先に合流してたらしい白河に声をかける。

 

なお、海央を背中にぶら下げたまま。……地味に苦しいからそろそろ降りてほしいんだが。

 

 

「おや、芳乃と海央ちゃんじゃないですか、おはよう! 二人はボクの恋愛執行を見るの初めてじゃないです?」

 

「ああ、直で見たのは今が初めてだったよ。噂やら、おのれ本人の申告では聞いてたが、ホントに派手だったな」

 

「えへへ。颯爽と現れて、颯爽と恋愛執行! ヒーローみたいで結構カッコいいでしょ?」

 

 

改造マントを靡かせて一回転してキメポーズ。

 

思わず海央と一緒に「おー」と拍手を送る。随分と様になってるものだ。

 

 

「それで、今回の相手も無事に幸せになりそうか?」

 

「ふふ、それは愚問というものだよ常坂兄。このボクが失敗することは有り得ないからね。なんなら常坂兄が直々に体験して確認する?」

 

「お、俺がか!?」

 

 

一登が驚く。お、一登にようやく春が来るのか?

 

 

「…………と、言いたいところですけど、ん〜〜〜」

 

 

と、思っていたが、ふと、白河の視線が一登の……それも頭上辺りに向けられる。それから困ったように唸りだした。

 

当然ながら一登の頭上にはなにもない。十円ハゲみたいなのもない。あったら杉並と叶方に密告して盛大にイジれるのだが。

 

 

「残念ながら、常坂兄はよく分かりませんね……なんだろう、これ?」

 

「なんじゃそりゃ」

 

「まぁ、こういうのは千差万別。個人差があるのでお気になさらず。その時が来たら全力で背中を押しますとも。常坂兄の恋愛は、ボクの想像以上に面白そうだし。……面白そうと言えば、鷺澤もかな」

 

「ふえ!?」

 

 

いきなり話を振られた有里栖がビクッと驚く。

 

 

「鷺澤の恋愛成就させたら、それはそれは面白きことこの上ないかなーって」

 

「え、ええ!?」

 

「あー、なんとなく分かるわ。嫉妬と怒りで狂った男子が湧き出て阿鼻叫喚になりそうだな」

 

「ゾンビゲームみたいなことになりそうだよね♪」

 

「それを面白いって思えるお前らが怖えよ」

 

 

傍から見てる分には面白いんだよなぁ。当事者は大変そうだが。そしてその当事者候補は間違いなくおのれなんだよ、一登。

 

それから、あわあわとする有里栖に白河が安心させるように笑いかける。

 

 

「あはは、焦らなくても大丈夫。安心していいよ、鷺澤もまだっぽいし」

 

「ちょっと、ひよりん、ビックリさせないでよ……」

 

 

それでようやく安堵の溜め息を吐く有里栖。……だが、一瞬視線が一登の方に向いてたのは気の所為じゃないだろう。

 

これでもまだくっつかないのか……。と思わないでもない。

 

 

「ひ〜よ〜り〜ちゃ〜〜〜ん……!」

 

 

そこでようやく再起動に成功したらしい美嶋さん達風紀委員が、白河をロックオンする。

 

 

「おっと残業か、それじゃあボクはこの辺で!」

 

「おう、気をつけてな。ホームルームまでには戻れよ」

 

「怪我はすんなよ。階段から落ちても、居なかったら助けられんしな」

 

「大丈夫!今日の逃走経路は既に確立済み! あとヤバかったら最終手段で芳乃呼びますし! アデュー!」

 

「おいコラ最終手段ってなんだ最終手段って!? ……行っちまったし」

 

 

相変わらず足が早ぇ。

 

そんな逃走した白河に風紀委員達も慌てるが、始動が遅かったな。あれじゃ追いつけんだろ。

 

 

「常坂先輩! 芳乃先輩も! こうなるの分かってるんですから、止めてくださいよぉ!」

 

「あ、みうたんおはよー!」

 

 

背中の海央が美嶋さんに話しかける。

 

そういや、なんか美嶋さんともう一人、同じクラスの面白い子と仲良くなったらしい。昼ご飯は一緒に過ごすことも多いそうだ。

 

 

「あ、おはようございます海央さん。……ホントに芳乃先輩と仲良いんですね」

 

 

おれにぶら下がってる海央を見て、美嶋さんがそう呟く。

 

まぁ距離感がバグってる気もしなくもないが。

 

 

「えへ、あたしはトーカ先輩の妹だからっ」

 

「正確には従姉妹だが、まぁその括りで別に問題もないしな」

 

「二人を見てると兄と妹の概念が揺らぎそうになりますね……」

 

「そこはもう名乗ったもん勝ちじゃね?」

 

「……どうしよう兄さん、否定出来ないどころか私だと頷くことしか出来ない暴論が出たんですけど」

 

「諦めてくれ」

 

 

それで困る事も特にないしなぁ。立ち位置ぐらいはコイツの自由にさせても良いだろう。

 

というか、おれもおれで海央の事は本当の妹だと思ってるしな。この二ヶ月で、離れてた分を取り返した感あるし。

 

もう兄妹ってそんなもんで良いんじゃねぇか?

 

 

「つか、いいのかよ、ここで世間話してても。白河、そろそろ見えなくなるぜ?」

 

「あ、え、ちょ、し、白河ひよりさあぁ〜〜ん!」

 

 

その指摘に自身の立ち位置を思い出したのか、慌てて白河を追う風紀委員長代行。

 

「みうたんがんばれー!」と背中の妹分の呑気な応援に苦笑しながらも、その逃走劇を見守る。

 

傍から見てる分には面白いものだ。

 

 

「さて、教室行くか。海央、おのれもそろそろ降りんかい」

 

「はーい。あ、お昼は友達と一緒に食べるね!」

 

「あいよ。授業もがんばれよー」

 

「勉強は苦手だなぁ……」

 

「これもまた修行だ、駄後輩」

 

 

げんなりしたまま犬耳パーカーの妹分が、ようやくおれの首を開放して、自分の教室のある階にまで向かっていく。

 

 

「海央ちゃん、だいぶ学校慣れてきたよね」

 

 

そんな駄後輩を見送っていると、有里栖がそんなことを言ってきた。

 

見れば、一登や二乃も頷いている。

 

 

「紛いなりにも兄貴としては安心してるよ。……その内、変なドジかませねぇかだけは心配だけどよ」

 

「そんなにドジっ子って感じはしませんけどね? 天真爛漫ではありますけど」

 

「アイツのドジを甘く見るなよ二乃。ここ一番って時にとんでもないドジを持ってくるのがあの駄後輩だ」

 

「……一体、過去になにをやらかしたんですか、海央ちゃんは……?」

 

 

クソトカゲの時にも武器を持ってきてなかったり、自分の宿を取ってなかったりと、油断した所でやって来るのが奴のドジだ。

 

小さい頃も道場に人型の穴を空けたりと、それでオマケにおれまでおじさんの説教食らったりと散々だったな。おじさんがやりすぎて母さんとおばさんに怒られてたが。

 

それらを思い出して遠い目をしてると、一登達が苦笑した。色々と察してくれたらしい。

 

そんなこんなで朝の大捕物を見終えて、自分達の教室へ向かう。

 

いつもいるはずの杉並と叶方がいなかったのが気になったが、ホームルームまでには白河共々戻ってきていた。

 

杉並の事だ。どうせ碌なこと考えてないんだろう。

 

それで案の定、ホームルームが終わったあと、一限の授業前に何をしてたか白状しやがった。

 

どうにも新しく転校生が来ると言う情報を掴んでたみたいで、それの情報収集をしてたそうだ。

 

女子の制服を着てたので女子だろうと叶方が言っていたが、おのれが言っても説得力はねぇよ万年女装め。

 

……しかし、転校生か。海央が来たときも思ったが、自分もまた転校生という形でこの学校に来たことを思い出す。

 

その時のことを考えると、なんとなくまた一騒動ある気がして思わず溜め息を吐かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____その日の昼休み。

 

 

 

 

まぁ、案の定と言うべきか。杉並と叶方が足早に教室を後にした。

 

気になって隣のクラスを覗いてみると、教室の前には人集り。

 

その中心にいるのは、小柄で片目が髪で隠れた少女だ。

 

この学園では見覚えがないので、あの子が転校生で間違い無いだろう。

 

 

「どうした灯火?」

 

 

背後から一登が声をかけて来たので、無言でその人集りを指差す。それで一登も察したみたいだ。

 

 

「杉並が言ってた転校生って奴か」

 

「みたいだ。……しっかしアイツら、おれの時もそうだったが、いちいち顔を突っ込まないと気が済まねぇのか?」

 

「そう言えば、灯火も付属一年の時の転校生だったな」

 

 

正確には編入生。と言うべきか。

 

本来なら通常通り入学するはずだったが、修行の仕上げやじいちゃんの葬式とかと被って、バタバタしてる間に遅れちまったって感じなんだよな。

 

その時の事を思い出したのだろう。一登がおれを見て苦笑しだした。

 

 

「転校したての頃と今の灯火じゃ、キャラが違うよなぁ。もっと刺々しいというか、人を寄せ付けない感じだったし」

 

「……我ながら否定できねぇ」

 

 

今でこそ丸くなったが、ここに来た頃は同世代との接し方が分からなくて、面倒くさくなって遠ざけようとしてたからな。

 

それが、杉並の策略に巻き込まれて、叶方に引っ張り出されて、一登と一緒にあまりの滅茶苦茶振りに辟易としてる間に、気がついたら普通に話せるようになった。

 

……なんだかんだで、ありがたい友人共である。

 

 

「まぁ、おれはどっかのお人好しどものせいで、すっかり絆された訳だが。あの転校生もどこまで持つやら」

 

 

今の所、杉並や叶方、そして白河の猛攻を一言でバッサリと切り捨てており、見てる分には良い見物となっている。

 

杉並と白河を軽くいなす辺り結構できるな、あの転校生。

 

 

「よし、俺もいっちょ行ってみるか」

 

「…………程々にしとけよ?」

 

 

一応釘だけ刺しておく。多分、無駄だろうが。

 

興味心が勝ったらしい一登が向かっていく。が、タイミングが悪かったらしい。ちょうどその件の転校生が群がる一団から抜け出したようだ。

 

しかしそこは我らが常坂一登。その転校生とばったり道が被る。

 

一登が窓側に避けようとしたら、転校生も窓側に避けようとする。

 

なので一登は教室側に避けようとして、いやフェイントかけて窓側か。なるほど、転校生が教室側に避けると予測しての行動だろう。

 

しかし、それは転校生も同じ事を考えていなければの話である。

 

 

「ふぎゅっ」

 

「おふ……っ!」

 

 

全く同じ動きをした転校生が一登とぶつかり、そのはずみで二人一緒にすっ転ぶ。いやいやいや。

 

 

「……おのれら、仲良しか?」

 

 

思わず呆れて脱力する。

 

寸分違わずに全く同じ行動だった。

 

鏡合わせを見ていた気分だな。

 

勢いは転校生の方が強かったのか、倒れた一登の腹の上に乗っかる形で転けたようだ。

 

……いや、どんな風に倒れたらそんな状態になるんだよ。

 

 

「っと、ごめん、大丈夫だったか? どこか怪我してないか?」

 

「け……怪我は多分ないけど……じゃなくて、こちらこそすみませ___あ、れ?」

 

 

ふと、一登の顔を見た瞬間に転校生が固まる。

 

 

「ええと……あなた、もしかして……?」

 

「え?」

 

「あ、いえ、なんでもない、です。なんでも……」

 

 

何か言葉を口に出そうとして、それを直前で呑み込んだようだ。

 

何を言おうとしたのか、なぜそれを呑み込んだのか。気になることは幾つかあるが、それより気になってる事がある。

 

現在の転校生の体勢は倒れた一登の腹に乗っかってる状態で、膝も立てていて、つまり、なんだ、見えちゃいけない感じの部分が見えそうになっている。

 

……というかもう完全に見えてるので、脳が認識する前に視線を逸らしておく。

 

頼むから気づけ、転校生。

 

 

「あ、灯火さん、兄さんどこに行ったか知りませ……って、どんな状況ですか、これ?」

 

 

目を逸した先で二乃がちょっと怖い感じになったのを目撃した。……前々から思ってたがこの妹さん、一登のこと大好きだよなー。

 

なんて思いながらも、この状況をどう説明するか悩む。

 

 

「あー……うん、成り行き?」

 

「どんな過程を経たらこんな成り行きになるんですか……?」

 

「それはおれが聞きてぇよ」

 

 

「またかわいい女の子と仲良くなったんですかこの兄さんは?ふふふ、ホントにしょうがないなぁ。どうしてくれましょう?」と、何故か視線だけでそう語ってるような気がして背筋が寒くなる。

 

ブラコンも抉らすと怖いようだ。と、二乃の光の消えた瞳を見ながら、また一つ知らなくてもいい知識を学んでしまった。

 

新しいトリビア(雑学)を学んだ所で、転校生が一登と何度かやり取りをする内に自身の状況に気づいたらしい。

 

顔真っ赤で、慌てて一登の上から降りて、脱兎の如くこの場から離脱していく。

 

二乃の怖い面を見せられてる間、何を話していたかは分からないが、どうせこの親友がまたフラグを立てたのだろうと考える。

 

向こうの反応からして、どうも一登のことを知ってる感じがしたし。

 

 

「お・に・い・さ・ま ?」

 

 

気がつくと、二乃が音もなく一登の背後に移動していた。

 

……ばかな、この至近距離で移動に気づけなかっただと……?

 

 

「うわ、どうした二乃!?」

 

 

当然、背後から殺意とか怒りとかそんなのが入り混じった声がすれば、誰だって驚く。一登も例外じゃない。

 

 

「どうしたもこうしたもありませんっ。全くもうっ。ちょっと目を離すと女の子にセクハラなんてしてっ」

 

「いやまて、誤解だ! セクハラなんてしてないから!」

 

 

目に炎が灯った二乃と、慌てて弁明する一登。

 

そんな兄妹の微笑ましいやり取りを、とりあえず溜め息を吐いてからまるっとスルーして、食堂に向かう。

 

流石にこれ以上時間をかけたら飯を食いっぱぐれる。あと兄妹の痴話喧嘩にまで付き合い切れん。

 

欠伸をしながら、とりあえず何を食おうかなと考える。まぁ、定番の定食で良いだろうか。

 

朝飯は食ったが、海央との朝の鍛錬で割と激しく動いたし結構腹減ってる気がする。

 

兎にも角にも飯だ飯。ガッツリ行くとしよう。

 

 

 

……階段を降りる頃には一登の悲鳴が聞こえてきたが、もちろん無視した。おれだって命は惜しいのである。

 

 

 

 

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