D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

14 / 55
EPISODE 2

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン。と、本日の授業が終わりを告げる。

 

 

 

 

 

うだぁーっと、軽く体を伸ばしてから、鞄を担いで教室から出る。行き先はSSRの溜まり場となってる屋上だ。

 

教室を出たのは白河が先で、次いで杉並と叶方。他の面子も後で来るだろう。

 

朝に海央に話したとおり、恐らくはバレンタインに伴う依頼増加の件についての話し合いになるはずだ。

 

長い階段を登りきり、屋上へと出る鉄扉を開く。

 

夕日に染まった屋上には、見慣れたツインテールと改造マントを纏った白河が先客として来ていた。

 

ソイツはおれの姿を確認すると、いつもの不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「おや、まずは芳乃からですか」

 

「おのれは来るの早すぎだろう。さては走ってきたな」

 

「正解♪」

 

 

そんな白河が座っているベンチは、元々ここにあったものじゃない。

 

SSRが正式稼働する際に、ここを部室代わりに決めたのだが、まず杉並がテントを持ち込み、ベンチやら椅子やらも各自で持ち込んだ結果、居心地の良い空間へと変貌した。

 

おれもおれで、自分で持ち込んだキャンプ椅子に座りながら、とりあえず他の面子が揃うまで待つとする。

 

白河と雑談でもしてれば、そのうち来るだろう。

 

 

「さて、他の奴らはどれぐらいで来るかな」

 

「常坂兄達はすぐ来ると思うけど、杉並と叶方が分からないね」

 

「おれはてっきり奴らもこっちに来てるもんだと思ったが」

 

「教室を出るタイミングは同じだったんだけど、なんかいつの間にか姿を消してましたよ」

 

「あの二人らしいっちゃ、らしいけどな」

 

 

元々独立愚連隊みたいな感じだしな。おれと海央も似たようなもんだし、白河も恋愛請負で単独行動が多い。

 

今回屋上へ来てるのは、やはりバレンタインが絡んでるからだろう。

 

……しかし、叶方はともかく杉並は放置してたらしてたで、どんな地雷を埋め込んでくるのか分からないのが恐ろしいのだが。

 

言ったところで、行動を制限出来るような妙案などあるはずもない。

 

あったら教えてくれ切実に頼む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 2-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お」

 

 

そのまま暫く白河と雑談をしていると、一登が二乃と有里栖と一緒に来たようだ。

 

 

「あ、やっと来た。遅いよもう」

 

「いや、おのれが圧倒的に早すぎるんだよ」

 

「そういう芳乃君もだよー? 二人とも早すぎ!」

 

「同感だ。灯火は多分早歩きだろうが、白河はチャイムと同時に走ってきただろ」

 

「ちっちっちっ、分かってないね常坂兄は。時は金なり。一秒に泣くものは人生に泣くんです」

 

「後半は初めて聞いたぞオイ」

 

 

言わんとしてることは判るがな。

 

 

「実際のところ、本腰を入れて取り組まないといけない時期が来たからね。中心のお二人が誰よりも真っ先に乗り込むくらいしてくれないと、SSRは動き出せないんですからねっ!」

 

「まぁ、実際に言い出しっぺだからな」

 

 

このSSR、一応代表は一登と有里栖だったりする。

 

一登は言い出しっぺ故に。で、有里栖は……誠に申し訳ないが、おれ含め問題児だらけのこのSSRにおいて、貴重な常識人枠かつ優等生と言うこともあって、書類の提出などにその名前を使わせてもらっている。

 

同じ優等生で常識人枠は二乃もいるが、二乃は一登の妹だと言うこともあって警戒されやすいんじゃないか?と言う考えもあり、有里栖に白羽の矢が放たれた。

 

二乃がこっそり安堵の溜め息を吐いてたのは余談で良いだろう。

 

 

「……で、そら姉はまだそうか」

 

「本校生徒はカリキュラムの選択で忙しい時期ですし、まだ来れないんじゃないでしょうか」

 

「杉並と叶方は……」

 

「教室出た時点で行方が分からん。まぁ、色々やってんだろ」

 

「奴らの色々ほど怪しいものはないな……」

 

「激しく同感だわ……」

 

 

まぁ、奴らは放っておいても、その内勝手に来るだろうしな。何してるか分からんから不安も大きいが。

 

で、あとここにいない海央だが……と、噂をすればなんとやらか。

 

駄後輩の気配が強くなり、走ってくる音が聞こえてきた。

 

 

「お待たせしましたー! 海央、参上! です!」

 

 

バンッ!と鉄扉を開けて飛び込んできた駄後輩が、おれ達の前でドリフトしながら急停止して、仮面でライダーみたいなキメポーズを取る。

 

無駄に無駄のないキレッキレでクオリティが高いポーズな辺り、恐らく拘りなんだろう。

 

 

「…………よし、とりあえず今いるのはこの6人だな」

 

「だな。とりあえずこの面子で先に始めておくか」

 

「おっけーだよ。……っということで、ひよりん。さっき時期がどうとか言ってたけど、それってやっぱり?」

 

「正解! バレンタインだね!」

 

 

やっぱりな。

 

と、朝の内から予想してたおれと海央は頷く。しかし一登だけはまだ理解が追いついてないようだ。

 

 

「バレンタインって、早すぎないか? 2月14日は再来週だろ?」

 

「分かってませんね兄さんは。乙女の戦いを甘く見ないでください」

 

「残念ながら俺は乙女じゃないんだよ」

 

「おれも乙女じゃねぇが、察しは付いてたぜ?」

 

「チクショウ俺に味方はいねぇのか……!」

 

 

崩れ落ちる一登。

 

実はこっそり目を逸らしてる海央が「あたしも乙女なのに……乙女なのに……」と呟いている。自分から気づけなかった事でどうやらダメージを受けているらしい。仲間がいたようだぞ親友。

 

 

「そう言えば、芳乃は作る側だったね」

 

「まぁな」

 

 

一年のこの時期は一登達のおかげで他の同じクラスの連中とも打ち解けた頃だった事もあって、簡単なチョコクッキーなんかをクラスの連中に配ったし、二年のバレンタイン時にはワンカップケーキ作ってたしな。

 

男子にも女子にもウケは良かった記憶がある。

 

芳乃の家だと、ばあちゃんがじいちゃんに毎年凝ったチョコレート手作りして渡してたしな。何回かはおれも手伝って、そのせいで菓子作りも一応出来るようになったし。

 

なお、余談だが二年のハロウィンの時にはパンプキンケーキにチャレンジしていたりする。勿論、クラスの皆には喜ばれた。

 

 

「今年は海央の分も作ってやらなきゃな」

 

「え、ほんと? やったー♪」

 

 

まだ貰ってないのに、この気の抜けた幸せそうな笑顔である。……よし、とびきり美味いやつ作ろう。

 

今まであげれなかった分くらい、力を入れてもバチは当たるまい。

 

 

「ふふ、作る側に回る芳乃くんは例外だとして、この時期はワクワクする男子も多いと思うよ? ほら、好きな女の子からチョコ貰えないかなーって」

 

「ああ、なるほど。それはちょっと納得だ」

 

 

まぁ、普通はそうなんだよな。贈る方だけじゃなくて、貰う方も期待するんだよ。義理とか本気とかはまた別としてさ。

 

 

「捕捉するなら、ちょうど今辺りにチョコ作りの準備を始めたりするんだよ。材料集めたり、各種道具揃えたり、デザイン考えたりとか、やる事は多いからな。

 

……一登、去年や一昨年くらいの逢見先輩とか思い出してみな? 多分、今くらいの時期にチョコ関係の材料とか買ってたはずだぜ」

 

「……言われてみれば確かに。そら姉、ウキウキで色々と準備してたなぁ」

 

 

逢見先輩(ソラさん)の事だ。常坂兄妹の二人には見た目も拘った美味いチョコ菓子を作ったに違いない。

 

 

「芳乃正解! 鷺澤もご明察! そういう理由もあってボクのところに相談が山ほど来てるんだよね。女子からはあの人に贈ったら喜んで貰えるか? 男子からは気になる子から贈られるのか? で、男女ともに、あわよくばその先に発展出来ないかー?って」

 

「なるほどなぁ」

 

「まぁ、バレンタインってそういうイベントだからな。……で、問題はその相談数がハンパないくらい多いってところか」

 

 

なにせ青春を生きる少年少女には待望のイベントだ。白河のこれまでの活躍もあって相談に来る生徒も多いだろう。

 

 

「大正解ー! ……正直ボクが10人いても足りません! キャパオーバーです助けてー!?」

 

「…………クリスマス以上の修羅場じゃねぇか」

 

 

素直に涙目になりながら助けを求める白河の台詞に、思わず表情が苦笑いのまま引き攣る。

 

白河が10人いても足りない相談数なのは流石に想定外だわ。

 

ついでなので白河のTABを借りて依頼内容を見せてもらう。……そこにはびっしりと書かれたリストがあった。

 

確かにキャパオーバーになるわこれ。そして、そりゃいち早く屋上へ来るわ。一番乗りの理由はまさにコレだろう。

 

……さて、それならそれで、気合い入れて臨むとするか。

 

 

「相談の内容も多種多様。どんなお菓子が喜ばれるんだろう、どこで渡せばいいんだろう、とかね。だから今のうちにやることを纏めておかないと、依頼を全て消化するのは難しいね」

 

「なら、クリスマスの時みたいに裏技を使うか?」

 

「ってことは、ワンダーランド?」

 

「…………いや、クリスマスと状況が違うから難しいな」

 

 

白河のTABの依頼内容を流し読みしながら、一登の案を却下する。

 

クリスマスの時はワンダーランドのプレオープンに合わせたデートを成功させたり、クリスマスでの告白相談が主だった。

 

けど、今回の依頼内容を見る限り、気になる人の気持ちを知りたいってのが割合的には多い上に、ワンダーランドはバレンタインに関するイベントもやってなかったはず。

 

ワンダーランドを活用しようとしても、さしたる効果は得られないだろう。

 

 

「……ついでに言っちまうなら、今の段階でもキャパオーバーだってのに、ここからさらに依頼数が増えるだろうしな。マジで今の段階で動かねぇと死ぬぞホントに……!」

 

「大正解。真面目に大ピンチです」

 

「あー……クリスマスの時も増えてたしな、依頼」

 

「今回はバレンタインだから……あげたいお菓子が上手く出来なくて、いよいよ焦っちゃって相談しようって、感じかな?」

 

「「なるほど……なるほど……」」

 

 

有里栖の捕捉に二乃と海央の妹コンビが痛感したような表情を見せているが、おれの知る限り二人とも、それ以前の問題ではなかっただろうか……?

 

藪蛇になるので声には出さないが。

 

出したらおれは死ぬ。

 

多分、死因は未知の毒を使った毒殺。

 

 

「むずかしいね。早めにプランを立てたいけど、これからどれだけ依頼が増えるか予想しておかないと……」

 

「こっちとしても動きづらいですよね」

 

 

うーん。と考え出す皆。まぁ、普通に予測するのが難しいもんな。

 

 

「お兄ちゃん、どうにかならない?」

 

「……なるっちゃなるな」

 

「え、なるの!?」

 

 

皆が揃ってこちらに視線を向ける。一斉に首がこっちに向いたから少しビックリしつつも、答えを言う。

 

 

「正確に言うなら、どうにか出来そうな奴に任せるしかないな。___つー訳で、そろそろ出て来い杉並!」

 

「ファーハッハッハッ! お困りのようだな諸君ッ!!」

 

「「「「うわぁ(きゃあ)!?」」」」

 

「むむっ、来たな曲者と書き好敵手と読む杉並!」

 

「絶対に読めねぇよそれ」

 

 

ぬっと音もなく背後から現れるトラブルメーカーの片割れこと悪友・杉並に、おれと白河を除いた四人が驚いて跳び退く。

 

そんな杉並の登場を皮切りに、乾いた笑いを見せる叶方と逢見先輩(ソラさん)も出て来る。

 

 

「お、お前はいちいち人を驚かさないと気が済まないのか!?」

 

「愚問だな同士よ。そんな当たり前のこと、わざわざ聞いて楽しいか?」

 

「楽しくてツッコんでる訳じゃねぇよ!」

 

「怖いよぉ……! 杉並先輩、ホントに気配が分からなくて怖いよぉ……!」

 

「変なことしちゃってごめんね、いっちゃん。海央ちゃんもだいじょうぶだよー」

 

 

実は結構な頻度で唐突に現れる杉並に驚かされてる海央が、逢見先輩に抱きついて未知の恐怖に涙目でガタガタブルブル震えてる。

 

外道の魔法使い相手なら勇ましい駄後輩も、未知の存在には弱いらしい。

 

修行が足りねぇぞ駄後輩。……つっても、おれも気配を感じ取った訳では無いが。

 

 

「っていうか、灯火さんはどうして分かったんです?」

 

「ぶっちゃけ杉並の気配は分からんが、叶方と逢見先輩の気配は分かったからな。しかもわざわざ隠れてるんだ。杉並がなにかしてるとしか思えないだろ?」

 

「フッ、やるではないか芳乃」

 

「うるせぇアホ。それより話は聞いてたか?」

 

「俺はな。叶方と逢見先輩は遠くにいたから聞こえなかっただろうが」

 

「なら、改めて状況の説明からだな」

 

 

という訳で事の経緯を二人に説明していく。

 

その間、ライバル関係であるらしい杉並と白河が挑発合戦を繰り広げていくが、それはスルーする。本筋とはなんの関係もないし。

 

 

「難しいね、考えなしには動けないし、かと言ってモタモタしてたら手遅れになる」

 

「画期的な手段があれば良いけど、流石にそう簡単には行かなそうか?」

 

 

流石の叶方も「うーん」と難しい顔をする。

 

 

「……ちょっといいかな? 一発で解決出来る案じゃないんだけど、お菓子のレシピを廊下に置いて、無料で配布するのはどうかな?」

 

 

と、逢見先輩が案を出してくれる。

 

なるほど、お菓子作りが苦手だったり初挑戦する奴には有効な手段だな。それも普段から料理上手で通ってる逢見先輩のお墨付きなら、信用度も高いだろう。

 

レシピもチョコレートに限らずにスコーンやクッキーなんかも入れれば読む人も増えそうだし。と先輩が捕捉する。

 

寧ろそれ、おれが読みたいわ。………今年のクラスへのバレンタインはソラさんのレシピから考えるか。

 

 

「手作り以外にも、お店のレポも良さそうですね。どこどこのお菓子がイチオシ! 的な」

 

「あ、それいいかも! この島の商店街って、結構色んなお店があるし!」

 

「じゃあ、その辺はオレがリサーチしておきますよ。そういうのに詳しそうな女子の知り合いも多いので」

 

 

叶方の案も中々だ。頑張っても菓子作りに失敗した場合の打開策にもなり得るだろう。

 

……ただ、逢見先輩の案も含めてだが、これだとあくまで少し手助けするだけに留まり、根本的な解決策にはならない。

 

二人もそれが分かってるので難しい顔を継続している。

 

まぁ、そこでこの男の出番なのだが。

 

 

「とりあえず、杉並」

 

「分かっているさ。今後の相談数の増加の推測だろう?」

 

「そんなこと出来るのか?」

 

 

皆を代表して一登が杉並に尋ねる。

 

 

「聞き取りなどは手間と時間が掛かるからな、フェルミ推定を用入ればいい」

 

「ふぇるみすいてい?」

 

 

聞き覚えのない単語なのだろう、海央が首を傾げる。

 

 

「一見して計算が難しい問題を論理的思考に基づいて導き出す計算方法だ。『シカゴにはピアノ調律師は何人いるのか?』は、聞いたことあるんじゃないか?」

 

「はい、ありませんっ!」

 

「うむ、元気があってよろしいが減点だ!」

 

「あうっ!?」

 

 

勢いに任せた海央、撃沈。

 

純粋な知識量は流石にまだまだか。海央を学校に行かせてるのは、そこら辺の修行も兼ねてだろうか?

 

 

「あー……昔なんかのテレビで見たっけなぁ。てか、そんなことまで出来るのかよお前」

 

「やってみると意外と面白い。意識していなかった意外な発見があるからな。……だがこの俺様を以ってしても時間が掛かる。最短でも結果が出るのは明日だ」

 

「おのれは元々独自の情報網があるみたいだしな。そこからの数値も入れれば、推定でもそれなりに実数値に近い値が出るはずだろ」

 

 

だからこそ杉並に任せる訳である。その手の情報の扱いなら、このメンバーの中では、間違いなく随一だからな。

 

 

「フッ、任せておけ。俺も本来見据えているその先のイベントにも掛かりたいのでな。手早く終わらせるとしよう」

 

「その先って、杉並お前まさか……」

 

「うむ、独自に得た情報によると、今年も『恋パ』が開催されるとのことだ。去年あれだけ引っ掻き回したにも関わらずだ。……フッ、うちの生徒会も中々に見所がある」

 

 

香々見学園はお祭り好きな一面もあって、なにかとイベントが多い。『恋パ』もその一つだ。

 

 

「色々やったなぁ……」

 

「かなり怒られたよね。2時間膝詰めで。思い出すだけで膝が痛いよ」

 

「おのれらまだマシな方だろうが。おれなんか、それに加えて反省文十枚提出だぞ?面倒くさいったらありゃしねぇ」

 

「なにやったの、お兄ちゃん達……?」

 

 

ドン引きする妹分。

 

そりゃまぁ……色々とやった。野郎共で揃って去年の恋パを思い出してしみじみとする。なんかもう色々とやり過ぎて言葉に出来んな。

 

で、色々とやったんで逃げようとしたが、よりにもよって泉ちゃんが来たのでおれは早々にダウン。

 

ぶっちゃけ本気を出せば逃げられたが、あの人には逆らえん。より面倒くさい事になるので誰よりも早くに諦めた。

 

残る3人もめでたく捕まり、生徒会と風紀員と教師による説教が開始されたのだった。

 

なお、ばあちゃんにも話は通っており、なんか苦笑したあとばあちゃんからも説教。

 

今となっては、懐かしい思い出の一つだ。

 

 

「……で、今年もやるつもりか?」

 

「当然だろう」

 

「今年も巻き込まれるの確定か……」

 

「あーあ、今のうちに言い訳用意しとかないと」

 

「今年は逃げ切りたいけどな」

 

 

おれは泉ちゃんと出会さなければワンチャン行けるはず。

 

 

「あの、杉並君? あんまり兄さんに無茶させないでくださいね? 兄さんが怒られると私まで迷惑しますから」

 

「安心するがいい常坂妹。今年は安全な逃走ルートを用意する手筈だ」

 

「よくやった杉並!」

 

「うん、これで安心して無茶が出来るね!」

 

「そういう問題じゃないですから! 兄さんと叶方さんもどうしてそっちの発想に行っちゃうんですか!? 」

 

「杉並、泉ちゃんに出会さないルートなんだろうな?」

 

「当たり前だ。去年の反省も兼ねてそこら辺は徹底している。狙うは完全勝利だ」

 

「よっしゃ、張り切って行くぜー!」

 

「灯火さんまでーー!?」

 

「無駄にイキイキとしてるねー、この男どもは」

 

 

「だから4バカなんて言われるんですよう」と嘆く二乃。「ホントに何をするつもりなんですか、お兄ちゃん達……?」と慄く海央。

 

スマンな。面白い方に思考がよるのは、おれ達の性(サガ)なんだよ。あとなにするかについては杉並に聞いてくれ。多分、答えないだろうけど。

 

……たまには杉並と敵対するのも面白そうではあるが、それはまた今度の機会に考えるか。

 

それはそれとして、話が脱線したがある程度の方針は定まったので一登に視線を向ける。意図を察した一登が頷くとパンパンッ!と手を叩いて注目を集める。

 

 

「それじゃあ相談の窓口は白河。今後の依頼増加数の予想は杉並。で、レシピ作りはそら姉で調査が叶方」

 

「あ、じゃあ私もレシピに参加で」

 

「………………………………………大丈夫か?」

 

「なんですかその長い沈黙はぁ!?」

 

 

二乃と一登がまた兄妹仲良くギャーギャー騒ぎ出したので、こっちはこっちで決めておこうか。

 

二乃がレシピに参加するのは確かに不安点もあるが、それを口に出せばやはりコロされるので、逢見先輩に頑張ってもらうしかあるまい。

 

 

「なら、あたしは調査の方で! 体力には自信あるので実地調査行ってきます!」

 

 

むんっ。と力こぶを見せるポーズをする駄後輩。

 

……調査に腕力は必要ないぞ、腕力は。

 

 

「助かるよ海央ちゃん。人手があるとやっぱり心強いからね」

 

「食べ歩きだけして調査の本懐とか忘れねぇ様にな」

 

 

「はーい!」と元気良く返事する妹分はとりあえず叶方に任せつつ、おれはどうしようかと考える。

 

 

「おや、芳乃はレシピの方に回ると思ってましたが」

 

自分の立ち回りに悩んでいると白河が話しかけて来る。

 

いや、それは確かに考えたんだけどさ。

 

 

「レシピに回ってもいいが、二乃も入ってるんなら他に回ったほうが効率的に良さげかと思ってな。……ぶっちゃけ逢見先輩だけで十分だろうし」

 

「なるほどなるほど……それならボクを手伝ってくれません? 人手がちょっと欲しかったんですよね」

 

 

ふむ、確かに白河の作業量が一番多そうだしな。

 

やれることは少ないだろうが、そっちに回ったほうがいいか。

 

 

「了解した。白河の作業を少しでも減らせるよう、がんばるさ」

 

「大感謝! 助かりますよ!風紀委員から逃げる手段も増えますね!」

 

「前見たく飛び降りるのだけはやめろよホントに……!」

 

 

大分焦ったからな、何時ぞやのあれは。

 

もしかしたらその前に飛び降り披露したおれのせいかと思って、あれ以来自粛してたが…………手遅れだったかも知れん。

 

 

「それで残るは有里栖と一登か」

 

「んーそうだなぁ……。とりあえず私は、その時に人手が足りないところを手伝うって形で」

 

「俺もそれで行くよ。遊撃隊ポジションって奴」

 

「ピンチの時にちょろっとお助けする美味しい立ち位置だね!」

 

「戦隊モノで言うと追加戦士とかが担当する奴だな」

 

 

追加戦士ってなんであんなにカッコよくて美味しい役所なんだろうな?

 

特に一際目立つ銀色系の追加戦士。あれの浪漫は測り知れん。

 

 

____と、話がちょくちょく脱線しつつも大まかな流れは決定された。

 

クリスマス以上に慌ただしくなりそうだが、それに負けないくらいやり甲斐があって楽しくなりそうだ。

 

根拠はないが、このメンバーだと不思議とそう思ってしまう。

 

それはきっと、おれ自身も楽しんでいるからだろう。

 

……仕方ないよなぁ。だって、ホントに楽しいし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼ △ ▼ △ ▼ △

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____その日の夜。

 

 

 

「さて、冬って言ったらやっぱり鍋だろ」

 

 

刻んだ白菜やネギ、人参にえのき、豆腐、そして豚肉や鶏肉など、一通りの具材を土鍋に放り込んで、灰汁もしっかり取りつつ煮込んでいく。

 

味付けは特にしない、いわゆる「水炊き」って奴だな。 ポン酢は各人のおまかせで。

 

持ち運び可能な携帯ガスコンロの上に各種具材を乗せた土鍋がグツグツと煮滾っている。なお、道具各種は【取替の悪戯(チェンジリング)】でバレないよう取り出したものだ。

 

 

「うむ、風情があっていいではないか」

 

「だからって屋上で鍋をするとか普通は考えないでしょ」

 

 

いつも通りの不敵な笑みの杉並とは対象的に、叶方は若干苦笑している。

 

叶方の言う通り、現在地は寮の屋上であり、そこの一角に陣取って鍋の準備をしていた。

 

 

「あ、おーいお兄ちゃーん!」

 

「驚愕、ホントに屋上で鍋してますよこの男」

 

 

そこに声をかけてきたのは同じく寮暮らしで女子寮にいる白河と海央。防寒着も着て寒さ対策もバッチリだ。

 

最も、人工妖精のお陰で寒さもあまり心配ないだろうが。

 

 

「よう、来たな」

 

「来ちゃいました。海央ちゃんから屋上で鍋するからひよりん先輩もどうですか?って言われたから、一瞬困惑しましたよ」

 

「そんなに変か? 屋上での鍋って」

 

 

ばあちゃんとじいちゃんの、血の繋がった実のお孫さんの兄妹さん達の友達姉妹なんか、学校の昼休みに鍋囲んでたらしいし、それに比べたら寮の屋上で、それも夜に鍋するのは常識的だと思うが。

 

 

「どんな姉妹なんですか、どんな」

 

「おれも話で聞いたことしかねぇけど、妹はともかく姉が常に寝てる人らしくて、寝ながら木琴叩いて登校してたとかなんとか」

 

「待って待って、一部の情報量がおかしい」

 

 

堪らずといった様子で叶方が止めに入る。

 

なお、嘘はついていないが、実際に確認した訳でもないのでホントに寝ながら木琴叩いてるかは分からない。

 

なんか白河が「あれ、それどこかで聞いたような、ないような……」と首を傾げているが、もしかしたらただの噂話かも知れない。

 

朝倉の兄ちゃん、一登と同じで面白い事好きな愉快な人だしな。恋人な義理の妹さんは大変そうだったが、なんだかんだで仲良いんだよな。ある意味で理想的なカップルと言うべきか。

 

……なんとなく、一登と二乃の顔が頭に浮かぶ。最も、あの二人がくっつくかどうかは神のみぞ知る話だ。

 

そんなことを考えてる間に鍋がいい感じに煮終わったので、蓋を外す。各具材の出汁が良い具合に染み込んでいて、大変美味しそうだ。

 

うむ、これぞ鍋だな。

 

 

「水炊きだから、味付けはポン酢とかで好きな感じにやってくれ。なお、シメは雑炊の予定」

 

「はーい!それじゃあ、いただきまーす!」

 

「「「「いただきます」」」」

 

 

フライング気味の海央に続いて全員で手を合わせて食物へ感謝をしてから、思い思いに具材を小皿によそって口に入れていく。

 

しっかり煮込んだだけあって、白菜に肉やえのきなどの旨味が染み込んでて美味い。ポン酢もつけると何処までも食べれそうだ。

 

 

「……にしても、海央ちゃんが来てからボクも芳乃の作る食事に誘われるようになりましたけど、こうやって集まって食事するのも良いものですね」

 

「だって一人ぼっちのご飯は寂しいもん。せっかくお兄ちゃんも寮にいるなら、一緒に食べたほうが楽しいし、ごはんも美味しいもん」

 

 

白菜と鶏肉に舌鼓をうちながら、白河と海央がそんなことを言う。……まぁ、一理あるな。

 

一人で食う飯より、皆で食う飯の方が確かに美味く感じる。味覚はなにも変わってない筈なのにな。

 

 

「オレも杉並も、気がついたら灯火のところで食べてるしね」

 

「気がついたらどんどん人数増えてるなぁ。だからまぁ、鍋だと寮の自室じゃ狭いんだよな……」

 

「あぁ、だから屋上なんだ」

 

 

この人数で鍋を囲むとなると自室じゃ狭すぎるからな。だから寮の管理人にも断りを入れて屋上で鍋をしてる訳だが。

 

……流石にないと思うが、これ以上増えたらどうしようか。

 

 

「ふむ、次は何かしら食材を持ち寄ってみるのも悪くないかもしれないな」

 

「……おのれな、それで宇宙人の肉とか言う奴をこの前持ってきたんだろうが」

 

 

見た目が冒涜的だが、やたら美味い肉

 

以前食ったことのあるおれと叶方、話だけは聞いていた白河も、微妙な表情を浮かべる。何も知らない海央だけは鶏肉をもっきゅもっきゅしながら首を傾げている。

 

 

「フッ、気になるか? あの肉の正体が」

 

「知りたいと言えばイエスだけど、知ったら知ったでSAN値無くなりそうだから永遠の謎にしてくれ頼む」

 

 

きっと死ぬまで、いや死んでも知る必要はないと思うんだ。割とホントに。本気で。大真面目に。

 

そんなこんなで途中微妙な空気になりつつも具材を全て平らげてから、米とその上に卵を投入して、雑炊にしてシメる。

 

具材の旨味が染み込んだ出汁で作る雑炊は、やはりというか美味い。5人もいればお残しなど在るはずもなく、土鍋の雑炊は綺麗サッパリ全員の胃の中に消えていった。

 

ごちそうさまでした。と、しっかり食材への感謝をしつつ後片付けに入る。

 

で、片付けしながら雑談する訳だが、自然とその内容はSSRの活動についての内容となる。

 

 

「で、杉並。進捗どうなってるよ」

 

「まだ計算の途中だ。白河から送られたデータも加味して、これから本番という所だな。やはり明日まで掛かるからそれまで待て。なに、鍋の分の仕事はするさ」

 

 

なら待つしかねぇな。とりあえずやれることをやっていくとするか。

 

という訳で、今回の相棒となる白河に今度は話を振る。

 

 

「白河、具体的にはどういう手伝いをすればいいんだ?」

 

「そうですね。来た依頼の整理とかの事務作業が主にってところかな?」

 

「ああ、明日も増えそうだもんな。整理すんのも大変か」

 

「正解。あと、風紀委員に追い詰められたときの緊急避難先」

 

「……最後の奴はマジで最終手段にしとけ。頼むから」

 

 

以前2階から跳び下りたのをギリギリでキャッチした件。地味にトラウマなんだよ。

 

いやホントに自重してくれ。

 

後生だから。

 

 

「叶方先輩、とりあえず明日はどこから調査します?」

 

「うん、まずはその分野に詳しい子から話を聞いて、そこから実際に見て回る感じになるかな。結構足を使うかもだね」

 

「りょーかいです! もう、バシバシ走り回りますよー!」

 

 

張り切る海央。おのれ、身体能力はおれ以上なんだから少しは自重しろよホントに……。

 

鍋の余韻に浸りながら、それぞれ明日からの活動の確認をする。

 

作業量は膨大で、それぞれやることも違うのだが、不思議なことに皆の顔は楽しそうだったのが印象深かった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。