D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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EPISODE 3

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

 

___早朝、場所はいつも訓練で使ってる森の中。

 

 

 

スッと、ターゲットとなる空き缶へ、愛銃たる【シリウス】の銃口を向ける。

 

背後には無言で見守る妹分。

 

集中力を高めながら、まずは撃鉄を下ろしシングルアクションの引き金に指をかけ、一呼吸。

 

 

「スゥ……ハァ………………ッ!」

 

 

そして、その引き金を引く。

 

ドパァンッ!と、一発目の弾丸が缶のド真ん中に当たり、勢い良く空中へと弾き飛ばす。

 

 

「次ッ!」

 

 

踊るように乱回転する空き缶から狙うべき場所を見定めて引き金を連続で引き、次々に弾丸を空き缶へと当てていく。

 

 

「わ、わ、わー!?」

 

 

弾丸が缶に当たる度に妹分が驚きの声を上げる。

 

装填した6発分。その全てが缶に当たると、ようやく地面に落ちる。

 

 

「……2発、いや3発外したな」

 

「え? 全部当たった様に見えたけど」

 

 

おれの呟きに疑問で返した海央。

 

分かりやすく説明する為に的に使った缶を拾って、それを海央に投げ渡す。

 

 

「見てみな。穴が3つあって、1つは穴から少しはみ出してる。最初に空けた穴に全弾通すつもりだったけど、3発分外しちまってるんだ」

 

「……あの漫画をリスペクトしてることは知ってたけど、そんな所までリスペクトしなくても」

 

「あの主人公は2発しか外してねぇから、おれはまだ修行不足だな」

 

「あのね、あのね、あのヒロインの子と同じこと言うね。……これで満足しないの……?」

 

 

満足出来る訳がないんだよなぁ。修行に終わりなどないのだ。

 

どうせならリスペクト先を凌駕出来るほどになりたい。つーか、鈍ってやがる。

 

 

「鈍ってるのが分かった所で、このまま射撃訓練したいが、そろそろ学校か」

 

「今日からSSR本格始動だもんね。がんばるぞー!」

 

 

バレンタインに備えての恋愛請負。SSR結成前のクリスマスの時よりも多い依頼。

 

杉並による依頼数の予測も今日出るだろうし、前回のノウハウもある。なんとかなるだろう。

 

……ただ、おれはそれだけで終わらない気がしていた。

 

なんの確証もない予感だが、何故かそう思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 3-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2/5 火曜日 天気は晴れ時々曇り模様。

 

 

「よし、準備かんりょー!」

 

「んじゃ行くか」

 

 

寮の入口で、制服といつもの犬耳パーカーを羽織った海央と合流してから校舎に向かう。

 

朝飯は今日はおにぎりで、訓練を終えた後に手早く食えるよう作ったやつ。なお、以前食べた逢見先輩のおにぎりを参考にしてる……あそこまで美味くは作れなかったが。

 

やはりソラさんはすげぇのだ。

 

で、魔法の修練と肉体の鍛錬は終了。飯は食った。準備も済ませた。時間には余裕もある。なのであとは学校に向かうだけ。

 

……のはずだったが。

 

 

「あーーーーー!!?」

 

「わふう!?」

 

「うおっ、びっくりしたっ」

 

 

突如として背後から響いた、悲鳴染みた声に驚いて動きを止める。海央に至っては尻尾を踏まれた子犬みたいな声を出していた。

 

敵意とか感じなかったが、なんなんだ? と後ろを振り向くとこっちを指差してる一人のサイドポニーの女子生徒。

 

……いや、誰?

 

少なくともおれには覚えがない女子だ。

 

そんなおれの疑問を他所に、海央がそのサイドポニーの女子を認識すると、「にへーっ」と気の抜けた笑みを浮かべる。

 

身内と認定した奴にしか見せない、海央の素の笑顔である。

 

 

「おはようっ、ちょこ!」

 

「みおーん、おはよー!」

 

 

お互いに笑顔でハイタッチしながら挨拶を交わす。どうやら海央にとってはかなり気安い仲らしい。

 

もしかしたら転校してからすぐに仲良くなったという同じクラスの友達とやらだろうか。

 

 

「……知り合いか?」

 

「うんっ、同じクラスの友達! ちょここと日野原ちよ子ちゃん!」

 

「はじめまして! 私、日野原ちよ子って言います! ちよ子ってそのままだと少し可愛げがないので、ちょこって呼んでください!」

 

「あ、ああ」

 

 

グイグイと来るその勢いに、思わず気圧される。

 

なんだ、この圧倒的な陽の気配は……!

 

どちらかと言えば陰に属するおれには眩しすぎるぞ、おい。

 

 

「それでそれで……芳乃灯火、先輩ですよね? みおーんの従兄弟でお兄さんで、あのSSRに所属してる」

 

「ああ、それで間違いないが」

 

 

そう答えるとパァァ……!と笑顔を浮かべる日野原。

 

それからスッと懐から取り出したのは、スタビライザー付きの本格的なハンディカメラ。

 

いや、なんでカメラ?

 

 

「いきなりでなんですけど、インタビューいいすか?」

 

 

そしてインタビュー!? え、なに、どういうこと?

 

勢いにのる後輩女子の猛攻により、話の流れが見えなくて素で混乱する。

 

 

「はいはい、ちょこ落ち着いて。説明とか色々と抜けてるよ?」

 

「あ、ごめんなさい。みおーんによっしー先輩」

 

「なんだその、ヒゲの配管工がよく足場にする緑の恐竜みたいな呼び方は!? おれの事なのかそれ!?」

 

「おおー、ナイスツッコミです!正直私もこの呼び方だと緑の恐竜にしか見えないなぁって思ってました!」

 

「思ってたんかい! と言うか結局どういう話なんだよこれは!?」

 

「そうですね。実は___」

 

 

どう考えてもゲーム会社の最強法務部にコロされかねない呼び名にツッコミを入れてから、ようやく本題に入る事が出来た。

 

なんでもこのちょこ(日野原と呼んだらちょこ呼びで良いとのこと)、動画投稿サイトのマイチューブでマイチューバーとして配信をしてるとのことで、気になった事とかすぐに撮影する癖がついてるらしい。

 

海央が転校してきた時にもそんな事をして、それが切っ掛けで、性格的な波長も合って仲良くなったそうだ。

 

で、今回はSSRに所属してて、なおかつ仲のいい友達の兄でもあるおれがいたので、撮影したくなったそうな。

 

 

「撮った動画は全部アップする訳じゃなくて、もちろんアップするならちゃんと許可を取った上でやりますから」

 

「なるほどな。まぁ、それなら別にいいか。最も答えられるもんなんてあまりないが」

 

「おおー!まじっすか!ありがとうございます! ではでは、遠慮なく……!」

 

 

そう言うとちょこはカメラを起動して、そのカメラに視線を向けながら録画を開始する。

 

 

「はい、どうもこんにちわ! CHOCOちゃんネルのCHOCOです! 今日は友人のみおーんの兄にしてSSR所属、学園の武道部の助っ人としても有名な芳乃灯火先輩にお会い出来ましたので、早速お話を伺ってみたいと思います!」

 

 

その勢いある姿勢はそのままに、言葉遣いはすごく流暢。

 

必要な情報を確実かつ最短で伝える様は、大分手慣れていると言えるだろう。

 

 

「という訳で芳乃先輩、突然申し訳ありませんが、お話を聞かせてください!」

 

「まぁ、答えられる範囲なら」

 

「ありがとうございます!……では、質問です。

 

SSRが始まる前から常坂先輩や叶方先輩、そして杉並先輩と行動を共にする芳乃先輩ですが、どういった経緯で他の三人と仲良くなったのでしょうか?」

 

 

4バカと呼ばれるほどイベントの度に色々と騒動を起こしてたせいで、基本的にセット扱いされるおれ達の始まりか……。

 

 

「……おれも元々は転校生でな。最初はあまり人と関わろうとしなかったんだが、あの三人がしつこいくらい構ってきてな。イベントの度に乗せられて、気がついたら一緒に行動してるのが当たり前になってたわ」

 

 

溜め息を吐きながら思い出すのは、大体杉並の悪行か。奴の仕出かす悪戯に巻き込まれてく内に気がつけば、あの四人で一体感みたいなのが出来上がっていたのだ。

 

そのせいで普段からも一緒に行動したりして、寮でも飯を一緒に食ったりしてと、ホントに気がつけば隣にいるんだよな、アイツらは。

 

口には出さないが、おれにとってはありがたい事なんだろう。それを考えると思わず笑ってしまった。

 

 

「だからまぁ、答えとしては気がつけば、かな? 杉並辺りが聞けば「これは必然だ」とか無駄に決め顔で言うんだろうが」

 

「なるほどなるほど……気がつけば重ねた時間が多くなってた。みたいな感じですね! なんというか、私から見ても友情をとても感じます」

 

「腐れ縁、って言うんだけどな」

 

「ふふふ、そういうことにしておきましょう! それでそれで、そんな三人と学園の中でもトップクラスの美少女達と去年のクリスマス明けに結成したSSR!切っ掛けはなんだったのでしょうか?」

 

 

SSR結成の切っ掛け……まぁ、別に話しても良いだろ。

 

 

「元々は白河の手伝いからだな。恋愛相談で有名なアイツ」

 

「来ましたねビッグネーム! 香々見学園が誇る恋のキューピッド! 風紀委員とのドッグファイトも名物な白河ひよりさん!」

 

「その白河の恋愛相談でな、クリスマスを前にしてキャパオーバーなくらい依頼が来てたらしい、それの手助けの為にいつもの面子で集まって、各々やれることをやってたんだよ」

 

「香々見学園、付属と本校に分かれてて、それなりに生徒の多いマンモス校ですしね」

 

「実際に多かった。で、なんとか皆で依頼を完遂させてから、一登の発案を皆で持ち上げて出来上がったのがSSRだ。……と、こんな感じでいいか?」

 

「バッチシです! 以上、芳乃先輩のインタビューでした!……ふぅ、ありがとうございました!」

 

 

しかし、思ったよりも話しやすかったな。理由はちょこの合いの手が上手いこと話を引き出しやすかったからか。

 

マイチューバーをしてるからだろう。トークはそれなりに得意なのかも知れない。

 

区切りがついた所で録画を終了してカメラをしまうちょこ、それからコチラに振り返り笑顔を浮かべる。

 

 

「ありがとうございました! と言うかよっしー先輩、インタビュー受けるのホントに初めてなんですか!? 私が言うのもなんですけど、普通はもっとあたふたしちゃうんですよ。転校時のみおーんもそうですし」

 

「あう、思い出すと恥ずかしい……」

 

「つか、その呼び名は固定なのか、そうなのか」

 

 

どうやらインタビュー受けてたらしい海央がフードを深く被って顔を隠す。どうやら相当わたわたとしていたようだ。

 

 

「初めてだよこんなもん。でも受けた質問に答えればいいだけだろ? わざわざ飾る必要もねぇのに、いちいち変なリアクションも取る必要がねぇよ」

 

「お、おぉー……なんというか、強者のオーラを感じます……!」

 

 

なんのオーラだ、なんの。

 

 

「それよりとっとと校舎に行くぞ。寮の入口にいたせいか無駄に人目集めてる気がするし」

 

「……うわぁ!? 気がつけば見世物に!?」

 

 

という訳で、そそくさとその場を後にして三人で学園へと向かう。

 

その短い間で話すのはちょこのマイチューブとしての活動だったり普段見てる動画だったりだ。

 

 

「どうせKotoRIしか登録してなかったしな。ちょこのチャンネルも後で登録しとくか」

 

「マジですか!?ありがとうございます!ゲーム配信とかもしてるんで、よろしかったらコメントとかもお願いします!」

 

「と言うか、お兄ちゃんってマイチューブの動画見てたの?」

 

「一登にKotoRIを教えてもらってからは見てたな。あとは銃とか兵器の説明動画ばっかり」

 

「おお、男の子っぽいですね! やっぱり銃って憧れるもんです」

 

「憧れっつーか、なんというか……参考に?」

 

「あ、あははは……」

 

「?」

 

 

実際に改造したリボルバーをおれが使うことを知ってる海央が苦笑する。と言うか今朝もブッ放したばっかだったし。

 

妙な気配がしたのか、ちょこが首を傾げるが気にしないでほしい。

 

 

PiPiPiPiPiPi

 

 

「……ん?」

 

 

ふと、鞄の中のTABに着信が入る。

 

取り出してから見れば白河からのメッセージだ。

 

 

「『脱出ルートの確保のため、指定する場所で待機していてください……?』おい、猛烈に嫌な予感がするんだが」

 

 

この時間の白河は何時もの奴を____恋愛執行をやってる頃だろう。

 

そうなると必然的に発生するのが白河の幼馴染らしい風紀委員長代理、美嶋未羽率いる風紀委員達との追いかけっこだ。

 

今の所、百戦錬磨の白河が逃げ切ってるみたいだが、風紀委員もレベルを上げてるし、逃走に苦戦してるのかも知れない。

 

 

「……仕方ねぇ。放っておくことも出来ねぇよな」

 

 

その内ホントに痛い目見そうで怖いんだが、放っておくことも出来ん。変なルート使って怪我でもしたら目も当てられんしな。

 

溜め息を吐きつつも仕方ねぇな、と諦めつつ「了解」と返事をしておく。これも鍛錬の1つと思うとしよう。

 

よほど酷い頼み事でもない限りは断らん。って言ったのはおれだしな。言い出しっぺの法則は絶対なのだ。それに白河に協力するって言ったしな。

 

 

「どしたのお兄ちゃん?」

 

「あー、白河からのヘルプ依頼あってな。脱出ルートの確保の手伝い…………っていうか多分、“跳ぶ”んだと思う」

 

「……跳ぶ?」

 

「うん、跳ぶ」

 

 

おれや海央は魔法使いの中でも身体強化に秀でてたり、元の身体能力が日頃の鍛錬によって学生の範疇に留まらないからまだ判るが、白河は恋愛執行を除けば普通の女の子である。

 

いくらなんでも覚悟ガンギマリ過ぎでは無いかと思うんだが?

 

 

「……それだけ、ひよりん先輩もお兄ちゃんを信頼してるってことなのかな?」

 

「こんな信頼は全く持っていらん」

 

 

というか少しは躊躇しろよアイツ。バッサリと切ると海央も苦笑する。

 

話について行けてないちょこが首を傾げるが、まぁ全部説明することはないか。

 

 

「何の話してるんですか?」

 

「これからちょっと用事が出来たって話さ。そういう訳で、おれは指定された校舎裏で待機するから、おのれらは自分の教室に行ってきな」

 

「ん、そうするね。お兄ちゃんも授業遅れないようにね」

 

「安心しろ、万が一にもねぇよ」

 

 

だよねー。と、苦笑しつつも手を振って校舎に入る海央と、また機会があればお話しましょう! と言うちょこを見送った後、校舎入口から大きく迂回してその真逆の校舎裏へと辿り着く。

 

指定された予測時間まではまだ間があるので、怪しまれない程度に木陰の中で待機しておく。

 

暫くすると、校舎内の空気が浮つくのを感じた。白河が恋愛執行に成功したのだろう。とすると、もう風紀委員との鬼ごっこも始まったはずだ。

 

さて、そうなるとそろそろ来る頃か、と木陰から出て校舎を見上げると、見慣れたツインテールと改造マントが二階の窓辺を走ってるのが見えた。

 

視線がこちらを射抜く。

 

おれがしっかり下に来てるのを確認したそれは、2ヶ月前と違って迷いなく窓から跳び出る。

 

……いや、そこは少しくらい躊躇しろよ人として。おれが言っても説得力ねぇけどさぁ。

 

とにかく、その着地位置を見極めてから落ちてくるそれをしっかりキャッチ。衝撃を完全に殺してから安全に下ろし、ソイツの頭に軽く拳骨を入れておく。

 

 

「あいたっ!?」

 

「無茶すんなって言ったろーが、このアホ」

 

「暴力はんたーい! ……それはそれとして、ありがとう芳乃。これ慣れちゃうと、ちょっと楽しくなりそう」

 

「慣れんなアホ! いい加減に危険なことしてる自覚を持ておのれは!?」

 

 

テヘッ。と全然反省してないソイツ___香々見学園の恋のキューピッドこと白河ひよりに溜め息を吐く。

 

この恋愛請負人、SSR結成する前に風紀委員達から逃げるために校舎から飛び降り、それをおれがキャッチするという事があったのだが、味をシメてしまったらしい。

 

やはりいっぺん悔い改めるべきなのでは?と思わなくもない。

 

 

「しーらーかーわーひーよーりーさぁぁぁぁぁぁん!!! それと、芳乃先輩もー!?」

 

 

と、聞こえてくる風紀委員長代理の声。おおう、まさか白河の飛び降りに対応しやがったのか?

 

 

「おっと流石に早いね」

 

「つか、おれまで捕獲対象になってねぇかアレ?」

 

「とうとうお尋ね者ですね。誉れですよ芳乃」

 

「なんの誉れだ、なんの」

 

 

むしろ不名誉極まりないだろう。杉並と同類扱いってことだぞそれ?

 

 

「となると、この逃走ルートも使えなくなるなぁ」

 

「いっそ、いっぺん捕まって悔い改めて来い」

 

「あっはっはっ。それは出来ない相談だね!」

 

 

とかなんとか言ってる場合じゃねぇな。美嶋さんを始めとしていつもの風紀委員ズこと三つ子も出て来た。

 

 

「「「白河ひより!芳乃灯火!お覚悟!!」」」

 

 

解せぬ。とは言え、まぁ捕まらなければいいか。

 

白河に視線を向けるといつもの不敵な笑みを浮かべるので、同じ様に不敵に笑い返す。

 

 

「それじゃボクはあっちから逃げるから!また教室で!」

 

「あいよ。反対方向に逃げるからヘマすんなよ」

 

「!? 各員! 二人が分散する前に捕まえてくださーい!」

 

 

美嶋さんがこっちの意図に気付いて指示を出すが、遅い。

 

その時には既におれと白河は二手に別れて走り出しており、風紀委員は戦力を分散せざるを得なくなる。

 

おれの方にも数名……と言うか三つ子達が来ている。

 

 

「だがしかし、それは悪手だぜ ?」

 

 

ニヤリと笑ってから反転して、追いかけてくる風紀委員の三つ子達の方へ走り出す。

 

 

「こっちに!?」

 

「向かってきた!?」

 

「自爆行為ですか!?」

 

「残念、不正解だ___!」

 

 

白河の真似をして呟いてから、更に速度を上げる。

 

最高速に達し、あわやぶつかると思う所で思いっきり跳躍して追いかけて来た三つ子や数名の風紀委員達を軽々と跳び越える。

 

 

「「「嘘ーー!?」」」

 

 

驚愕する三つ子をよそに、しっかりと着地してから悠々と走り出す。

 

そりゃ白河を捕まえられないなら、おれなんてもっと無理だろう。魔法での強化を使わなくても普通に逃げられる自信あるし。

 

 

「美嶋さんに伝えといてくれ。戦力分散すると余計に白河を捕まえられなくなるぞーって」

 

 

それだけ三つ子に伝えてから、全力で一気に離脱する。

 

身体能力の差を見せつけられた風紀委員達は、啞然としたまま、追ってくることはなかった。

 

とりあえず、これで大丈夫だろう。あとは遅刻しないように教室に行くまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼ △ ▼ △ ▼ △

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___キーンコーンカーンコーン。と、昼休みを告げる鐘が鳴る。

 

 

白河の手伝いでもするか。と思ったが、その白河曰く今はまだ手伝いは不要だそうだ。

 

もっと忙しくなってからが本番らしい。と言うか早々におれも風紀委員に目を付けられたので大人しくしておいた方がいいらしい。

 

なら今は大人しくするとしといて、とりあえず昼飯でも食うか。と考えていると、杉並と叶方が足早に教室から出ていった。

 

これはもしや? と思い、廊下に出てから隣のクラスの方を確認する。

 

 

「あの、休み時間になる度にここに来るの、いい加減に止めて貰えませんか? あなたと話す度に周りから好奇の目を向けられるんですけど……」

 

「ふっ、大衆の目を気にするなどまだまだだな。それくらい受け流さないとこの先いらん苦労をするぞ?」

 

「いや、今まさにいらない苦労をしてるんですけど」

 

 

……案の定というべきか、性懲りも無く隣のクラスの転校生の所に行っていたらしい。

 

 

「よう、灯火。杉並と叶方は……またあの転校生のところか」

 

 

後ろから一登が声をかけて来た。おれと同じで一目散に教室から出て行った悪友二人が気になって来たのだろう。

 

 

「よくもまぁ飽きずにやるなアイツらも……」

 

「とは言っても取り付く島もなさそうだしな。放っておいても良いと思う」

 

 

あんまり目に余る様なら介入も考えたが、あのキレッキレの弁舌なら放っておいても問題はなさそうだ。

 

杉並と叶方も頑張って取り入ろうとしてるが、転校生はスルーすべき所はスルーしている。

 

貴重な昼休みだ。あの二人もそのうち観念するだろう。

 

って、そういやあの転校生の名前、まだ聞いてなかったな。

 

何時までも転校生呼びは流石に駄目か?と思っていると、渦中の転校生もその呼び方に辟易としていたのか、杉並と叶方に名前を明かしていた。

 

 

___鳳城詩名。それがあの転校生の名前らしい。

 

 

 

「とりあえず飯でも買いに行くか。今から行っても菓子パンくらいしかなさそうだけどな」

 

「……まぁ、食わねぇよりはマシか。サンドイッチくらいはあんだろ多分」

 

 

とりあえず杉並と叶方は放置して一登と飯を買いに行く。出遅れたので人気の奴は無さそうだが、掘り出しもんくらいはあるだろ、多分。

 

 

「ん?」

 

 

ふと隣にいた一登が立ち止まる。

 

なんだなんだ?とそちらに視線を向けると、そこには有里栖と……見知らぬ男子が談笑していた。制服と体格からして、本校の生徒……それも2年生か3年生か?

 

いや、談笑の雰囲気を出してるが、絡まれてるって感じだな。

 

 

「うん、先輩が言いたいことも分かるんだけど……。あー、そうじゃなくて……次の休みって、うーん」

 

 

有里栖も有里栖で表情こそ笑顔だが、それは困っている感情を圧し殺すためのものだろう。

 

普段から素の有里栖を見ているSSRのメンバーなら、すぐに分かる。

 

 

「なぁ灯火」

 

「行って来い相棒。フォローは任せとけよ」

 

 

そしてこういう時、この親友は絶対に動く。それも迷わず。

 

なので、おれはサポートだ。……万が一にも荒事になるなら、おれが介入する。何時ぞやのひったくり犯の時にも言ったが、荒事はおれの分野だからな。

 

おれの言葉に頷いた一登が有里栖の方へ向かう。同時におれは気配を消して、有里栖に絡んでいた本校男子の背後に回っておく。

 

 

「有里栖、ちょっといいか?」

 

「え、あ、常坂くん?」

 

「話してるとこ悪いんだけど、SSRの例の件について相談がしたいんだ。放課後までには決めておきたくてさ」

 

「例の件って……あっ、あぁうん、了解」

 

 

一登の意図を察したのか、貼り付けの笑顔に安堵の色が浮かぶ有里栖。それとは反対に不機嫌そうな表情を浮かべる本校男子。

 

 

「大事な話だもんね。早くしないとねっ。……それじゃあ、ごめんなさい。また今度」

 

 

そう言って、一登の所へ行く有里栖。心なしか、足早だ。内心やはり受け付けない感じだったのだろう。

 

……まぁ、ここで済めば話は早いんだけどなぁ。

 

 

「おい、先に話してたのはこっちなんだけど?」

 

 

と、反射的にか、離れる有里栖に手を伸ばす本校男子。

 

流石に無粋なので、その手を掴んで止める。

 

しつこい男は嫌われるってな。

 

 

「なっ!?」

 

「サーセンっす、先輩。……おれのダチになんか用っすか?」

 

 

そのまま、一登と有里栖の前に塞がるように立ち位置を変える。

 

で、掴んでる手とは逆の手で、相手に見えないよう一登と有里栖に「はよ行け」とハンドサイン。

 

意を汲んでくれたのか、一登と有里栖の気配が遠のく。

 

それと同時に掴んでた手を離すと、掴まれた手を抑えて本校の先輩が二・三歩下がって、おれを睨む。ふむ、少し強く握りすぎたか?

 

 

「……チッ、なんだお前。いっちょ前に正義の味方気取りか? うっぜぇな」

 

「そりゃどーも。それよか、わざわざ付属校舎まで来て相手の事も考えないで延々と絡んでるの、少しどころかかなりダサいっすよ? ……まず鏡でその冴えねぇツラ、見直して来たらどうっすかね」

 

 

あ?と、おれの態度と売り言葉が気に食わなかったのか、メンチを切りにかかる本校の先輩。

 

付属と本校の両方に割と悪評が広まってるはずのおれだが、どうやらそれを知られてない先輩のようだ。逆に珍しい。

 

だが逆に好都合だ。年下だと舐めてかかって殴りかかってくるなら、その瞬間にブッ飛ばせばいい。

 

そんなことを考えていると、本校男子が「チッ」と舌打ちを打って踵を返した。

 

……どうやら、不穏な気配が伝播したのか、ギャラリーが増えてきたのが原因らしい。目撃者が多くなって分が悪いと察したのだろうか。

 

どうでもいいけど荒事にならないなら、それはそれで何よりだ。……無駄に、バカをぶっ飛ばさなくて済むんだし。

 

 

「……なんか灯火って、気がついたら渦中の中にいるんだよなぁ」

 

「うむ、まさに歩く火薬庫だな」

 

「その表現はどうなんですか……?」

 

 

聞き覚えのある声に振り向くと、いつの間にか叶方と杉並、それから転校生こと鳳城がなんか一緒にいた。

 

 

「いつの間にか仲良くなってる。……想像より早くデレたか?」

 

「デレてませんから! と言うかその口ぶりだといつかはデレるみたいな言い方じゃないですか!例え世界が滅んでもありえませんから!!」

 

 

おれの指摘をコンマ一秒で、更に倍以上にしてツッコみ返す鳳城。

 

……なるほど。これはかなり上等なツッコミ気質だな。杉並がしつこく勧誘する訳だぜ。世界を取れるツッコミの逸材だろう。

 

 

「なんだかすごく不本意な評価をされてる気がします」

 

「あながち間違いじゃないね。こういう時の灯火はすごく顔に出やすいし」

 

 

解せぬ。

 

 

「それで、なぜ本校の生徒が付属の校舎で、それも芳乃と一触即発になってたのだ?」

 

「ああ、実はな___」

 

 

とりあえず、かくかくしかじか。と状況を説明する。

 

叶方が呆れたような、でもなんか納得したような表情で頷く。

 

 

「ホント、一登らしいね。灯火も相変わらずだよ」

 

「うっせーよ。……とりあえず有里栖は一登に任せといていいだろ」

 

「とは言え、話を聞く限り不躾過ぎる気もするがな、先程の男は」

 

「まぁ、チンピラなのは間違いないか」

 

「……すごく呑気に話してますけど、ああ言うのって後で報復みたいなのが来るんじゃないですか? 大丈夫なんです?」

 

 

「私が言うのもなんですけど」と、前置きをつけて鳳城がそんな事を聞いてきた。

 

それに対して左手に拳をぶつけながら答える。

 

 

「来るならそれでいいよ。……二度とふざけたマネが出来ねぇ様に返り討ちにすれば済む話だ」

 

「すごい自信ですね……。一応、さっきの人、年上で上級生なのに」

 

「あー、椎名ちゃん。灯火ならホントに心配いらないよ。体力バカで、武道部相手でもナイフ持ったひったくり犯でも圧倒できるし。寧ろ相手の方を心配するべきかも」

 

「そうだな。同士・芳乃ならば、あの程度の相手、例え10人いても足りんくらいだ」

 

「…………もしかして、あなたかなり危険人物なんじゃ」

 

「地味に否定出来ねぇな」

 

 

ええ……?と若干引く鳳城。おれはおれで今までの自身の行いに思わず遠い目をする。

 

ギュ〜……。

 

と、どこからともなく聞こえる音。なんとなくお腹の音なのではと思ってると、鳳城が顔を赤くして俯いた。

 

……なんか、申し訳ない。杉並と叶方が絡んだ上でこの騒ぎだからな。昼飯もまだなんだろう。

 

 

「昼休みももう半ばだからな。購買の商品が買い尽くされる前に確保しないとマズイだろう」

 

「だね。椎名ちゃんも購買に行く?」

 

「あ、わ、私は……」

 

 

流石にこの二人とはまだ距離感があるのだろう。とは言え、出遅れた原因がおれなので、助け舟を出すとしようか。

 

 

「おれが原因で出遅れちまったもんだし、詫び代わりにパンくらいなら奢るが」

 

「行きます」

 

 

…………まさかの即決だった。

 

コンマ一秒も迷う素振りすらなかった。

 

そのあまりの清々しさに思わず野郎三人で面食らう。

 

 

「どうしたんですか? お昼休み終わっちゃいますし、購買のパンもなくなっちゃいますよ?」

 

「あ、ああ」

 

「……まさか、こんな手が効くなんて……」

 

「……ふむ、学生の身分だし金銭面で不安でもあるのだろうか……?」

 

 

好き勝手言う後ろの二人に溜め息を吐きながら鳳城の後を追おうとして、鳳城がピタッと立ち止まる。

 

後ろ二人の失礼な会話が聞こえたのか?と、若干構えるも、振り返った視線の先はなぜかおれ。

 

 

「あの、聞きそびれてたんですけど、あなたの名前は……?」

 

「ん、あー……そういや名乗ってなかったか。おれは芳乃灯火だ、よろしく」

 

「よしの……とうか………?」

 

 

何故かおれの名前を聞いて首を傾げる鳳城。なんだなんだ?と思っていると、熟考していたことに気がついたのか、ハッとする。

 

 

「あ、す、すみません。なんでもないです」

 

「ん、そうか。まぁ芳乃も灯火も珍しい名前だしな」

 

 

テキトーに理由を付けて納得しておく。詮索するのもアレだし、そろそろホントに時間も心許ない。

 

そこからは特に何もなく、奇跡的に残ってたサンドイッチを四人で買って、鳳城にはしっかり奢っておく。

 

財布が少し軽くなったが、一人分ならさしたる問題ではないだろう。

 

それなりに騒がしかった昼休みは、それで終わった。

 

あとは放課後まで、授業を耐えるだけだ。

 

 

 

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