D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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EPISODE 4

 

 

 

 

「いやぁ、悪いな芳乃。多少どころかかなり荷物持たせてしまって。……というか、相変わらず体力バカだな。私の3倍も持ってるのに姿勢がグラついてもないとは」

 

「まぁ、体幹も鍛えてるし力仕事は実際得意っすから」

 

 

 

___放課後。

 

 

授業の終わりと同時に、さぁSSRの活動やるかー。と思った所で泉ちゃんからの強制呼び出し(ラブコール)により、大量の資料を持って職員室へ向かうことに。

 

泉ちゃんじゃ、この量は持てないしそれはまぁ仕方ない。

 

たまには、この面白い担任の力になるのも悪くないだろう。

 

一登達にもSSRに遅れる事を伝えてるし、なんならすぐに向かえば問題はない。

 

 

「それで、お前たちは今日も例の活動か?」

 

「うっす。杉並の試算終わったら、おれは白河の手伝い。二乃は逢見先輩と一緒にレシピ制作。叶方と海央はショップ調査。一登と有里栖はそれぞれ遊撃隊。って感じでもうやること決まってるんで、あとは進むだけっすから。……杉並がまたなにか企んでそうだけど」

 

「相変わらずだな、あいつは」

 

「とりあえず泉ちゃんの迷惑にならないよう気を付けますよっと」

 

「泉先生だ、バカタレ」

 

 

やることが定まったら、あとは動きが早くなるのもSSRの特徴だ。なんだかんだで個性豊かだけどスペックの高い連中の集まりでもあるし。

 

 

「まぁ、あまり羽目を外さないようにしてくれれば私から言うことはない。存分に励むと良いさ。……ああ、そうだ、バレンタインで面白い話があってだな___」

 

 

ってな具合で泉ちゃんと雑談しながら職員室まで荷物を運ぶ。

 

流石は香々見学園の雑学王と呼ばれるだけあって、話のレパートリーは豊富だ。

 

職員室まで飽きることなく面白い話が聞けて、中々に楽しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 4-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

滞りなく職員室まで辿り着いたので、持ってきた資料各種を泉ちゃんの机に置いて任務完了。

 

 

「よし、お疲れ。助かったよ芳乃」

 

「おっす。にしても結構な量っすね」

 

「私は今からこれを捌く必要があってな。流石にそれは教師の仕事だ。だから、もう行っていいぞ」

 

「了解」

 

 

という訳で泉ちゃんの手伝いも終わったし、早速SSRの溜まり場に向かうとしよう。

 

杉並の試算も終わってるだろうし、あとはひたすらタスクの消化だ。

 

なんだかんだでやることが山積みだが、前と同じでやはりどこかやりがいを感じる。

 

やっぱり、あの面子で一緒に活動するのは楽しいからだろうか?___そう、思った時だった。

 

 

「…………!」

 

 

思わず立ち止まる。

 

その理由は、極小だが魔力を感じたからだ。

 

それも学園内。この付属校舎の中で。

 

この学園内でおれが知る魔法使い、もしくは魔法を使える可能性のある人物は限られている。

 

この魔力の感じはその誰でもない。

 

軽く舌打ちしてから感覚を全開にして、魔力の元を辿る。

 

 

「……おれらの学年の階か」

 

 

存外に近いようだ。

 

位置的には普段はの人気のない視聴覚室の方向か。

 

……SSRの活動は、今は後回しにするしかないと舌打ちする。

 

万が一にも悪意のある魔法使いが紛れ込んでるなら、すぐに対処しなければ一登や白河にも害が及ぶかも知れない。

 

だから、早急に確かめる必要があった。

 

 

《PiPiPi!》

 

 

TABから着信が入る。相手は海央。

 

 

『トーカ先輩!』

 

「海央、おのれも感じたか?」

 

『うん。……どうしよう、あたしも行こうか?』

 

「万が一のこともある。おのれはもうSSRの溜まり場までいるんだろ? そっちでみんなを守っててくれ。おれが確かめてくる」

 

 

海央もさっきの魔力を感じていたらしい。

 

魔法使い二人が感じ取ったなら、間違いないだろう。

 

その上でSSRの溜まり場にいるなら、守りを任せた方が早い。

 

 

『……分かった。でも気をつけてね?』

 

 

海央もそれが分かってるのだろう。

 

渋々だが納得してくれた。

 

そのまま通話を切って階段を駆け上がり、廊下を走る。存在感を消す魔法も併用してだ。見つかるとめんどいしな。

 

泉ちゃんの手伝いをしてる間に、教室周りには人がいなくなったようだ。とは言え数名くらいはチラホラいる感じだろう。

 

しかし件の視聴覚室の周りには人影もない。

 

 

「………………」

 

 

魔力を感じたのは確かにここだ。それを裏付けるかのように今も極小だが魔力の動きを感じる。

 

ポケットから【取替の悪戯(チェンジリング)】を使うためのビー玉を取り出して、いつでも愛銃を取り出せる万全の体制で視聴覚室の戸を開ける。

 

夕日に照らされた視聴覚室の中、そこにいたのは___

 

 

「鳳城、詩名……?」

 

「え……?」

 

 

手に鏡を持った水色の髪の小柄な転校生・鳳城詩名が、おれの声に振り返る。

 

見れば、魔力の原因はその鏡みたいだ。更に言えば、一瞬しか見えなかったが、その鏡に映ってたのは鳳城自身じゃなく、どこか見覚えのある人物だった。

 

 

「あ、あなたは、芳乃さん……? こ、こんにゃところでどうしたんですか」

 

 

慌てて鏡を後ろに隠す鳳城。あからさまに、見られたくないものを隠す様な仕草だった。

 

……つか、噛んだよな? 今、思いっきりセリフ噛んだよな?

 

なんだろう。危険度が一気に低くなった気もするが、万が一のこともある。

 

ここは、心を鬼にして聞き出すしか無いだろう。

 

 

「……単刀直入に言うが、鳳城、おのれ魔法使いか?」

 

「ッ!?」

 

 

……いや、あの、うん、リアクション、めっちゃ分かりやすいんですけど。

 

めっちゃわたわたし始めてるんですけど。めっちゃ小動物っぽいんですけど。

 

おのれ実は隠す気ないだろ? いや、本人は至って真剣かも知れんが。

 

なんだろう、張り詰めていた糸が一気に緩む感じ。脱力感が半端ない。

 

 

「にゃ、にゃんの話れす!? わ、わたしが、まほー使いって、にゃ、にゃにを根拠に!?」

 

 

そんなおれの思考を知ってか知らずか、鳳城は更にわたわたと目すらも回し始める。

 

これは見事にドツボにハマってらっしゃる。酒の気配もないのに呂律が回らない人間なんて初めて見た。いや、そんな事言ってる場合じゃなくてだな。

 

……え、コレ、おれがどうにかしないと行けないのか?

 

 

「……おーけー分かった、おれが全面的に悪かった。だから頼むから落ち着け。もうめちゃくちゃ噛みまくってて見てる方がいたたまれねぇんだわ……!」

 

「か、かか噛んでましぇんから! 普通に、はにゃしてましゅから!? 落ひ着いてましゅからっ!?」

 

 

オイコラ落ち着けてねーぞ全然!? 寧ろ噛み具合が悪化してんじゃねぇか!

 

いやほんとに落ち着け!? もはや言語ですら無くなりかけてるぞ!? つーか噛み過ぎだろ!?今の一瞬で何回噛んでんだよおのれ!?

 

しかし、鳳城は更に慌てるばかり。

 

これ以上は流石に可哀想だ。

 

 

「こうなったら……!せいっ!」

 

「むぐっ!?」

 

 

もうなんか、ぐだぐだになってるが、流石にこのまま放置する訳にもいかない。

 

それで咄嗟に思いついた手段が、【手のひらから和菓子を出す魔法】で、手の中に出現させたヒヨコの一口饅頭(こし餡)をわたわたしてる鳳城の口の中に投げ込む。

 

じいちゃんばあちゃん監修の元で覚えた魔法で出した和菓子だ。料理を趣味とする身としては誠に遺憾だが実は手作りするより美味かったりする。ホントに、誠に遺憾だが。

 

 

「! ……もっきゅもっきゅ……ゴクン……甘くて、おいしい……!」

 

「そりゃ結構。……で、落ち着いたか?」

 

「は、はい……お見苦しいところをお見せしました」

 

 

顔真っ赤で、ただでさえ小柄なのにさらに小さくなる鳳城。

 

噛み具合が半端なかったもんな。なんかスマン。

 

 

「で、だ。話を戻すが、おのれ魔法使いだろ」

 

「………………なんで、そう思うんですか? と言うより、魔法使いなんて、そんなのいる訳ないじゃないですか」

 

「この期に及んで誤魔化すんかいっ」

 

 

あまりの強情さに溜め息を吐く。

 

仕方ない、この際こっちの正体を先にバラしてもいいだろう。

 

コイツ、絶対に悪い奴じゃないし。

 

 

「……あー、もういいや。早い話、おれも魔法使いなんだよ。それでおのれの使ってた魔法に気付いて此処に来た。っていうか今、おのれが食った和菓子、あれも魔法で出した奴だぞ?」

 

 

言いながら鳳城の目の前で再度手のひらから和菓子を出す。カロリーを消費するのであまりやりたくないが、必要経費だ。

 

で、鳳城はおれの魔法を直に目にして、相当驚いていた。……おのれ、一度目に出した時はホントに混乱して見てなかったんだな。

 

それから鳳城は「うー!」だの「あー!」だの何かしら葛藤をしていたが、暫くして観念したのか、項垂れてから頷いた。

 

 

「……まさか、こんな所でバレるなんて思いもしませんでしたよ」

 

「魔法使いとしては小さい頃から長いこと修練を重ねててな。周囲の魔力の動きはすぐ判るんだ」

 

「……納得しました。私みたいにほんのちょっとしか魔法の使えない存在とは土台そのものが違ったんですね」

 

 

諦めから来る笑い。でもそれには、少しだけスッキリした様な感情も混じっている。

 

 

「……まぁ、それでもしかしたらタチの悪い魔法使いかもと思って来たんだが、取り越し苦労だったな」

 

「どうしてそう思うんです?」

 

「どう見ても、おのれは悪人には見えんだろうが」

 

 

さっきの慌てっぷりを見たら余計にそう思うわ。

 

溜め息を吐きながらそう答えると鳳城が目を見開いて、それからおかしそうに笑い出した。

 

 

「なんですかそれ。もし私が悪い魔法使いだったらどうしてたんですか?」

 

 

なんて言うので、少しだけ魔が差してしまった。

 

 

「___こうしてたな」

 

 

スッと、コンマ一秒より早く【取替の悪戯(チェンジリング)】で取り出した【シリウス】の銃口を鳳城の眉間に突きつける。

 

ピシッと、笑顔のまま固まり冷や汗を流し始める鳳城。……いかん、冗談が過ぎたか。

 

シリウスをガンスピンしながらビー玉と取り替えて、両手を上げる。

 

 

「……し、心臓が止まるかと思ったじゃないですかぁ!? なんですか今のヤバそうな銃はー!?」

 

 

それから顔真っ赤にしてがーっと怒り出す。むう、やはり冗談が過ぎたか。

 

 

「スマン、悪ノリが過ぎた。まぁ、場合によってはさっきのを突き付けてたって事だ」

 

「ホントにホントに危険人物でしたね! 堂々と銃刀法違反じゃないですか……!」

 

「バレなきゃ問題ねぇよ。バレなきゃ。そもそも質の悪い魔法使いか、危険な魔法生物、もしくは怪異くらいにしか使わねぇし」

 

「どんな事態を想定してるんですか……!」

 

 

主に魔法を使う思想犯(血の繋がったクソオヤジ)が大暴れしたときを想定しているのだが、それは言う必要がないだろう。

 

これ以上は無駄に怖がらせるだけだし。

 

流石に疲れたのか、鳳城が溜め息を吐く。

 

 

「で、おれとしては、鳳城が使ってた魔法が危険でさえなければ、あとはどうでもいいと思ってる。この学校には他にも魔法使いがいるしな。自覚あったり無自覚だったりするが」

 

「……そういうことですか。だったら大丈夫です。私が使ってたのは、【会いたい人を鏡に映す魔法】ですから」

 

 

また一見するとファンシーだが微妙な魔法が出て来たな。

 

一登の【笑顔を鏡に映す魔法】とか、じいちゃんから教わった【手のひらから和菓子を出す魔法】とかと同じ分類だろ間違いなく。

 

魔法らしいけど【取替の悪戯】や【先視の魔法】などと比べると、あまり役に立つことはないっていう。

 

しかし【会いたい人を鏡に映す魔法】か……。ふと、先程視聴覚室に入った際に、鳳城の鏡に映ってた人物を思い出す。

 

あれが鳳城の会いたい人って事なのだろうか。

 

……いや、今はそれは置いておこう。

 

鳳城の言葉には嘘がないみたいだし。これなら放っておいても大丈夫だろう。

 

 

「用件としてはそれだけなんだ。……悪かったな、無駄に脅かしたりして」

 

「……いえ、事情は分かりましたから。それに、他にも魔法使いがいるって知れたのは、ある意味良かったと思いますし」

 

「一応言っておくと、おれの妹分……付属2年の咲三海央も魔法使いだ。魔法関連で何か聞きたければ、妹に聞けばいい」

 

 

まぁ普段は人懐っこいワンコという感じなので、全くそう見えないのが難点なんだが。

 

あれでも正式な咲三の継承者でもあるし、魔法使いとしてのスイッチが入れば頼もしいのである。

 

兎にも角にも、危険性もないって分かったんだ。そろそろSSRに向かうか。

 

 

「じゃ、おれはそろそろ行くな」

 

「……あ、ちょっと待ってください。少し聞きたいことがあります」

 

 

視聴覚室を出ようとした所で鳳城に呼び止められる。

 

答えられる範囲なら別に問題ないが、改まってなんだろうか?

 

 

「芳乃さんは……いつからこの学校にいるんです?」

 

「付属の一年の5月頃ぐらいだが、それがどうかしたか?」

 

「……杉並さんや叶方さん、それからもう一人と、一緒に行動するようになったのもその頃ですか?」

 

「? ああ。おれも転校生だったんだが、最初はあまり人と関わる気がなくて。でも、あのお人好しども、今のおのれと同じ様にことごとく構ってきて、気がついたら絆されてるわ、纏めて4バカって呼ばれてるわで散々___」

 

 

そこで気づいた。

 

鳳城の様子がおかしい。なにか深く考え込んでいる。

 

 

「……3バカじゃなくて、4バカ……? もう一人いたなんて、私、聞いてない……どういうこと……?」

 

「……鳳城?」

 

「!? あ、しゅ、しゅみましぇん、考え事してました!」

 

「いやまた噛んでるし……。もう質問は大丈夫そうか?」

 

「は、はい! お手数お掛けしました!」

 

 

そのまま話を終えて視聴覚室を出て戸を閉める。

 

……今の質問で、一体何が分かったんだろうか。

 

それに鏡に映ってた鳳城の「会いたい人」の姿。

 

 

「……なんか、結構な大事(オオゴト)な気配がするな」

 

 

気にはなるが、何にせよ想定するための情報がまだまだ足りない。現状は放置するほかないだろう。

 

鳳城が魔法使いだと知れた事。彼女が使う魔法には危険性がない事。……今はこれだけ分かれば十分か。

 

兎にも角にも、盛大な遅刻だ。

 

SSRのみんなに謝るための言葉を、考えなければならない。

 

特に白河。アイツの手伝いをするってのに、遅刻してたんじゃ流石に申し訳がねぇな。

 

小さく溜め息を吐きながら、屋上へと向かう。

 

遅れた分は働きで取り返そう。そう考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「だはぁー……、疲れた……!」

 

 

 

___夜、自室にて。

 

 

あのあと、遅刻した分白河に徹底的にこき使われ、それなりに溜まった疲労感に誘われるまま、ベットに沈み込んでいた。

 

元々、泉ちゃんの手伝いで遅れてたので上手いこと誤魔化す事は出来たが、流石にアレだ、疲れた。

 

オマケに有里栖の様子も気になった。というのも昼休みの空気の読めない先輩にも関連してそうだが、有里栖の方は我らが一登が様子を聞きに行ってるので、なにかあれば明日辺りに相談があるだろう。

 

だから、もう今日はこのまま眠りたいけど、生憎そういう訳にも行かなかった。

 

 

「あ、珍しくトーカ先輩がお疲れだ」

 

 

ヒョコっとベランダから、何でも無いかのように顔を出してきたのは妹分にして駄後輩。

 

いつもの犬耳パーカー姿だが、その両手足には偽装の魔法を施した手甲と足甲が付いており、いつでも戦闘可能となっている。

 

 

「いやドアから入れよ」

 

「だって、こっちのが早いもん」

 

「雨降ってたろうが」

 

「今は晴れてるもん。……朔月だから、星がよく見えるよ」

 

 

ベットから降りてベランダに出る。朔月……つまり新月、月の見えない夜。

 

いっそう暗いはずなのに、代わりに海央の言う通り星がよく見える。

 

だが、魔法使いにとってはそれだけではない。満月の日は魔力そのものが上がるが、朔月の日には魔法による世界への干渉が通りやすくなる。

 

……それもあってか、悪意を持つ魔法使いが何かしら企むのも満月の日より多いとされている。

 

なので海央が来てからは、こういう日は自炊はせずに島を見回る事にしている。自警活動って奴だ。

 

 

「前々から気になってはいたが、この島、魔法使いからすれば魅力的なんだよな」

 

「お父さん……当主から聞いた限りの話だけどね。この島自体になんかマナが集まりやすいみたい。水鏡湖とか特に」

 

 

元々は師匠……というか常坂の家とかが管理してたんだろうが。今はもう師匠もいないせいで管理する人もいなくなってるだろうし。

 

……いや、だからか。やたら妙に悪意の強い魔法使いがこの島に寄ってくるのは。

 

 

「だからあたし達で朔月や満月の時だけでも見回りをすれば、事前に被害も減らせるかも知れないのです。先視があるって言っても、現地調査は必須だもん」

 

「……まぁ、これも修行の1つって事だな」

 

 

何もなければそれでいい。ただの散歩になるだけ。

 

でも変なことをしてる魔法使いがいればシバき上げて防人に突き出す。

 

さて、そうと決まればサクッと用意するか。

 

最も、おれは【取替の悪戯(チェンジリング)】用のビー玉を用意すれば良いだけなので、動きやすい服に着替えればそれで済む。

 

準備を済ませたら、先に屋上へと向かった海央を追っておれもベランダから屋上へと向かう。隣室の叶方にバレないように。

 

雨自体は止んでいるが、まだ乾き切ってないらしく、所々濡れている。

 

海央は後ろ手を組んで星を見ながら待っていた。

 

妹分と言うことであまり気にしてなかったが、改めて見るとやはり海央も美少女だよなって思う。本人に行ったら絶対に調子に乗ってドヤ顔するから言わんが。

 

……というか、周りの女子みんなレベル高い。有里栖は言わずもがな。二乃や逢見先輩、そして……白河も。

 

そりゃ日常的にそんな美少女達と関わってたら顰蹙を買うわな。昼休みの空気読めない先輩とか、空手部の雑魚後輩四人(一人変態)もその類だったし。いや今更な話だが。

 

 

「あ、来たなら言ってよ、もー」

 

 

そんなどうでもいい事を考えていると海央がおれに気付いて近付いてきた。頬をプクーっと膨らませて「あたし怒ってます」とアピールしている。

 

ふと魔が差して、その頬を両手で突くと「ぷふー」と空気を漏れ出させる。普通に変顔になって笑っちまった。

 

 

「なにしてるのー!?」

 

「いやぁ、つい」

 

 

首元を掴んで脳髄をグラグラ揺らす海央。

 

コイツの力でやるとその内むち打ち症になりそうなので、とりあえずほどほどにしてもらいたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、あれから何回か見に来たが、流石にトカゲの残党はいねぇよな」

 

「いたらいたで騒ぎになってるよ絶対」

 

 

そんなこんなで、ぐだぐだになりつつも見回りを開始。

 

島の東側から逆時計回りに外周を巡り、森を超え、辿り着いたのは以前クソトカゲがいた海岸。

 

絶命したトカゲは勝手に塵になって消えたし、ここで何があったかは誰にも知られてないはずだ。

 

それに残党みたいなのもいないらしい。もっとも、人肉が好物らしいので、残党がいたら必ず目立つだろうが。

 

 

「ここであたしはトーカ先輩が銃刀法違反を堂々と犯してることを知った訳なのです」

 

「バレなきゃ問題ねぇよバレなきゃ」

 

 

そもそもあの化け物リボルバーだけなら、まだかわいいもんだから。

 

その気になれば、“もっとやべぇ”のも取り出せるし。

 

 

「結構用意周到な奴だったし、他にもなにか仕込んでてもおかしくないかなーって、思ったけど……この分ならだいじょぶかな」

 

「二ヶ月前は二人ほど潜んでたんだったか」

 

 

あんなトカゲを用意できるほどのヤバい奴と、更にもう一人が島に潜んでいたのに気が付かなかったとは、修行不足にもほどがある。

 

 

「……仕方ないよ。あいつら、隠蔽が得意で【防人】でも【先視の魔法】を使ってようやく見つけたほどだもん。それに魔法使いって言うより研究者気質だし扱う魔法も最小限にしてたみたいだし、トーカ先輩でも気づけなくて当然だと思う。というか気づかれてたらあたし達の立場がないよー」

 

 

そんなにヤバい奴らだったのかよ……。

 

 

「一応、防人で……つか、海央が捕縛はしてるんだよな」

 

「拳で沈めました」

 

 

ぶいっ、とピースサインを決める妹分。……コイツのバカ威力の拳を受けてたのに、まだ生きてる事のがビックリだわ。普通に死ぬだろ。人体がミンチになって。

 

まぁ、とっくに防人の手でお縄になってるなら、今更言うこともないか。

 

 

「さて、ここも異常なかったらあとは内陸側の海岸だな」

 

「街中だと、あたし達は警察に補導されそうだしね……」

 

 

まぁ、町中で魔法をぶっぱするなんて魔法使いはまずいないだろうし気にしなくてもいいと思う。都心みたいに地下がある訳でもないから隠れる所もないし。

 

もはや見回りと言うより、息抜きの散歩みたいな感じになってるが、それならそれで良い。

 

別に好き好んで銃器をぶっぱしたい訳でも、バーサーカーじみた戦いを所望してる訳でもないんだし、平和なのが一番だ。

 

___なんて、フラグを建ててしまったのが悪かったのだろうか。

 

突如、地面の下から気配が膨れ上がった。

 

 

「「___ッ!」」

 

 

同じタイミングで気づいた海央と共にその場から跳んで離れる。それと同時に触媒のビー玉を【取替の悪戯(チェンジリング)】で愛銃である化け物リボルバーと取り替えて右手で構える。

 

海央は海央で異常を確認した時点で人払いと消音の結界を発動していた。流石に状況判断が早い。

 

 

 

___■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!

 

 

 

砂浜を押し出る様に現れたのは、やはりあの時見たクソトカゲと同型の魔法生物。

 

相も変わらず不快な叫び声を上げるソイツに対して、一瞬で意識を切り替えたおれはクソトカゲの眼前に一気に迫る。

 

 

「出オチで悪いが、くたばれ」

 

「え?」

 

 

あの時と同じ様にゼロ距離でクソトカゲの頭にシリウスの銃口を突き付け、迷いなく引き金を引いた。

 

ドパァンッ!と言う、もはや聞き慣れた357マグナム弾の発射音と、グチャアと言う肉の抉れる不快な音と共に、脳天に風穴を開けたクソトカゲ2号が倒れ、塵となって消える。

 

その様子を間近で見てドン引きする妹分が一言。

 

 

「……よ、容赦なさすぎるぅ……!?」

 

「地味に素早くて厄介だからなコイツ。先手必勝で脳天ブチ抜いたほうが手っ取り早いだろ」

 

「先輩、先輩、やっぱり空気読めないってよく言われるよね? 絶対に言われてるよねぇ!?」

 

 

失礼な。おれほど空気を読める男なぞいない。

 

などと戯言を思いつつシリウスを肩に担ぎ溜め息を吐く。

 

つか、このクソトカゲ、なんで今になって現れたのか。

 

 

「ちょっとお父さ……当主に確認してみるよ。生みの親の外道も防人が幽閉してるし、なにか情報を得られるかも」

 

「頼む。おれはとりあえず、その間___」

 

 

シリウスに弾丸を装填し直して構えを取る。

 

気配が複数___どうやら、トカゲは一匹だけじゃなかったみたいだな。

 

 

「___露払い、やっとくわ」

 

 

別に好き好んで銃器をぶっぱしたい訳でも、バーサーカーじみた戦いを所望してる訳でもない。それは本音だ。

 

平和なのが一番なのも確かだが、……放っておいたら友人知人達に害をなして平和を乱す化け物共を放置する理由もない。ましてやそれをなんとか出来る力もあるのだ。

 

……戦いに身を任せる理由としては充分だろう。

 

 

TABを使っておじさんと連絡を取り始める海央の声を聞きながら、シリウスを構える。

 

一度見切った相手だ。例え複数いても負ける道理はない。

 

意識を切り替える。

 

体を、思考を、戦う事に特化させたものへと変質させる。

 

人里に向かわないよう気をつけながら、確実に仕留めようか。

 

 

「来いよ化け物ども___テメェらの結末は、もう視えている」

 

 

そう言いながら、シリウスの引き金を引き、トカゲの群れへと飛び込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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___敵を認識した瞬間、兄の気配が一瞬で変わる。

 

 

それは、二ヶ月前にも感じたもの。

 

あたしの本能が警鐘を鳴らすほどの変化。

 

普段学園でSSRの皆と心から楽しく笑ったりしてる時と比べると、本当に同一人物なのかと疑ってしまうほど。

 

少なくともそれくらいの変化を、あたしは感じていた。

 

なにより敵と認識したら、引き金を引くのを全く躊躇わない。きっと、相手が人間でも同じ対応をするんだろう。

 

魔法使いとして修練を重ねてたとしても、そんな戦闘者としての在り方を、この兄はどこで身に着けてしまったのだろう?

 

 

「来いよ化け物ども___テメェらの結末は、もう視えている」

 

 

迫りくるトカゲの大群を前にして、そう言って不敵に笑いながら右手に持った化け物リボルバーで、一匹一匹を確実に処理していく。

 

基本的にはゼロ距離での発砲。

 

それが叶わないなら一度撃った場所に正確に二射目を叩き込んで、トカゲの強靭な鱗を無効化してる。

 

今朝も見た正確無比な射撃は、実践でより鋭さを増してトカゲ達を確実に仕留めていく。

 

……恐ろしいのはあれだけの精度で、まだ【先視の魔法】を使ってないこと。素の予測でとんでもない命中精度を叩き出していた。

 

更にトカゲ達の攻撃は掠りもしていない。背後からの攻撃でさえ、まるで背中に目があるかのように躱して、逆にカウンターで銃弾を叩き込めるほど。

 

本当ならあたしも戦うべきなんだけど、これじゃ援軍は必要なさそう。

 

 

『よう、ミオ。学生生活楽しんでるか?』

 

 

そこでようやく連絡が繋がった。

 

大好きで、尊敬してる父親で、所属する組織の長、咲三灯夜。

 

 

「お父さん……じゃなかった。当主、聞きたいことがあります。二ヶ月前に捕縛した爬虫類型の魔法生物を生成した魔法使いについてです」

 

『ん? ……ああ、奴についての連絡ってことは、今日か。トカゲ共が一斉に孵るのは』

 

 

あからさまに引っかかる言い方。

 

その原因は、あたし達がどんな魔法使いかを考えれば、すぐ判ることだった。

 

 

「【先視の魔法】で既に視てたの!? だったらちゃんと言ってよ!?」

 

 

思わず敬語から普段の言葉づかいに戻って叫ぶ。

 

寧ろ、そういうのを防ぐ為の魔法だよね【先視】ってぇ!?

 

 

『悪い悪い。基本的に雑魚しかいないうえに、アイツ一人で片付けれたから連絡入れなかったんだわ』

 

 

アイツ、と聞いて思わず兄の方を見る。既にトカゲの半数を仕留めていて、あとは逃げない様に足などにダメージを与えている所だった。

 

戦っても敵わない。逃げることも叶わない。トカゲから見れば最悪の状況。

 

流石に可哀想になってくるけど、確かあのトカゲって人肉が好物だったし……うん、やっぱりここで絶滅させなきゃ。

 

がんばれお兄ちゃん。

 

 

『あと、例の魔法使いからもそれについては聞き出してるから安心しろ。次の繁殖が始まる前に防人を数名派遣して浄化するつもりだ』

 

「防人数名での浄化が必要なほど危険な感じなの?」

 

『どうにも単体で繁殖する機能があるみたいでな。最初は一匹だけでも今は結構増えてるだろ? あれだ、つまりトカゲでゴキブリ』

 

「最悪だぁ!?」

 

 

ゾッとする話だった。

 

一匹見たら三十匹はいると思えと言われる害虫と同じレベルで厄介だった。

 

本当になんてものを創ってくれたんだ、あの外道。

 

やっぱり後一発くらい本気の拳を叩き込めば良かったかも。

 

 

『それも安心しろ。既にオレが一発ブチ込んどいた』

 

「いや通信越しに心を読まないでー!?」

 

『それで、どうだトーカの方は?』

 

 

まるっと人の話を無視する当主。流石お父さん、我の強さも半端なかった。

 

こんなんでもお母さんには滅法弱かったりします。惚れた弱みはなんちゃら。

 

母は強し。でも二人ともホントに仲良くて大好き。

 

 

「……あのトカゲの化け物程度じゃ歯が立たないのは間違いないです。というか今、最後の一体を仕留めました。弾丸を同じ箇所に寸分の違いなく撃ち込んで、あの鱗を無効化してるんだけど……ホントにどんな訓練してたんだろう?」

 

 

この戦闘だけに限れば百発百中。

 

狙った所は一切外してなかった。

 

……どこが鈍ってるんだろう、アレ。

 

 

『予想よりぶっ飛んでんなァ……。まぁ、アイツが強ければ強いほど、こっちは安心出来るが』

 

「? どういうこと?」

 

 

聞いても当主は答えない。

 

がっはっは!と笑うだけ。

 

……むぅ、なにか隠し事をされてる気配がするぅ。蚊帳の外に立たされてる気がするぅ。

 

 

「よし、とりあえず気配のある奴の処理完了っと。海央ー、おじさんと連絡取れたかー?……って、また頬を膨らませてるし」

 

 

処理を終えたからか、化け物リボルバーをその手に持つものの、いつもの兄の表情を浮かべている。

 

相変わらず切り替えも早い。

 

でもそのいつもの声に少しだけ安堵してる自分がいることを自覚しつつ、とりあえず父との通話を打ち切り聞いたことを話すことにする。

 

 

 

……余談だけど、ゴキブリみたいなトカゲの話には、流石の兄もドン引きしていた。料理好きにはやっぱり天敵なんだろう。あの黒光りする虫は。

 

 

 




◇蜥蜴型試作魔法生物
香々見島に潜んでいた魔法使いが製作した、複数の爬虫類の因子を併せ持つ生物兵器の試作型。

物理攻撃を無効化するゴムのような鱗を持っており、危機判断が出来るくらいの知能に加え、強靭な筋力を持つ四肢と鋭い爪が武器。単体で繁殖する厄介な特性を持っている。

このキメラを作った魔法使いは、キメラが完成したら新手の生物兵器として売り出そうとしていたが、その前に【防人】としての任務で来た海央により顔面を崩壊させられて御用となる。今は、【防人】にて捕縛され事情聴取中。なお、やってる事がアレだったので人権はないもよう。
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