D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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EPISODE 5

 

 

 

___早朝、学生寮から学園までの道のりにて。

 

 

 

昨日は鳳城が魔法使いだと判明したり、SSRの活動があったり、クソトカゲどもがまさかのゴキブリ染みた繁殖能力を持って密かに増えてたことが判明したりと、それなりに……いやもう激務だった事もあって、今日の修練は基本のみとなった。たまには休みも必要である。

 

クソトカゲ改めゴキブリトカゲの方は次の繁殖次期の前に【防人】が片付けるそうなので、それまでは経過観察のうえで放置で良いだろう。

 

鳳城の方も基本的には無害そのもの。なら、予定通りSSRの活動に集中すれば良いのだろうが……。

 

 

「ところで海央、有里栖の様子には気づいてたか?」

 

「うん。……なにか話したそうにしてたけど、躊躇ってた感じだよね」

 

 

いつもより早い時間。

 

寮から学園の短い道のりで話すのは、気になっていた有里栖の様子の事だ。

 

 

「あのあと、一登が有里栖と話してたろうから、今日辺り有里栖から直接相談があるんじゃねぇかな」

 

「……お兄ちゃん、数秒先しか【先視】が使えないのに、よく先が分かるね」

 

「寧ろ数秒先しか視れないから、逆に先を読む力を鍛えてたんだよ」

 

 

【先視の魔法】の危険性も理解してる分、それに頼らない力を鍛えるのは半ば必須だ。

 

……つーか、おじさんはおれ以上にその力を鍛えてるし、おのれも見習え駄後輩。

 

おのれに圧倒的に不足してる力だからな。

 

 

「これもまた修行の1つだね」

 

「日々の営みにこそ修行ありってな。で、兎にも角にも、有里栖が困ってるってなら助けるつもりだ。例えクソ忙しくてもな」

 

「もちろん! 出来ることはなんでもするよ!」

 

 

なんて話をしながら短い登校を終える。

 

昨日見たく非日常はどこにでも潜んでいるが、それはそれである。

 

基本的には日常を過ごせる時に過ごすのがいい。

 

だから、今日も元気に学生やるとしますか。

 

学園を見上げながら、そんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 5-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2/6 水曜日 晴れ。晴れ。晴れ。

 

 

 

 

海央と短い登校を終えてから別れて、階段を登って自分の教室に向かう途中、親友と見慣れたツインテールと珍しい顔が揃って談笑してるのが見えた。

 

 

「よ、おはよーさん」

 

「よう、灯火」

 

「おや、おはよっす、芳乃」

 

「あ、お、おはようございます、芳乃先輩」

 

 

親友こと一登、見慣れたツインテールこと白河に、普段は白河を追いかけてる美嶋さん。

 

一登はともかく、白河と美嶋さんはいつも追い追われると言う関係だ。

 

なので、この二人が揃ってると、とうとう白河が捕まったのかと思ってしまう。

 

 

「なんだ、とうとうお縄についたのか白河。余生は塀の向こうで頑張ってくれ」

 

「不正解! ボクが捕まるより宇宙の終焉が来るがほうが早いというものだよ」

 

「まさかの宇宙大スケールかよ」

 

「俺の時よりパワーアップしてやがる」

 

 

まさかの概念レベルでのスケール違いだった。

 

つか、それだと人類が滅びるほうが早そうだ。

 

あと、美嶋さんがぷくーっと頬を膨らませてる。恋愛請負について不満を表してるんだろうが、余計にハムスターっぽく見えてしまう。なんだ、このかわいい生物は。

 

……まぁ戯言はここまでとして、そもそもが幼馴染らしい二人の事だ。たまには普通に話すこともあるのだろう。それに一登とおれが加わると、いつぞや……SSR結成前の買い物の時を思い出す。

 

美嶋さんがいるのに、わざわざナイフ持ったひったくり犯のことを想起させたくもないので口には出さないでおくが。

 

で、一登がいるのは偶然だろうか。二乃がいないのは珍しいが、確か当番だったので早めに教室に行って準備をしてるのだろう。

 

 

「で、この面子でどんな話をしてたんだよ」

 

「ゲームの話ですよ。芳乃はなにかゲームやってないんですか?」

 

「全然やらねぇ。せいぜい一登の家に遊びに行った時にやるスマ◯ラとか、皆でゲーセン行った時ぐらいだよ」

 

 

基本、趣味と言えるのは料理と鍛錬、昼寝に散歩。あとは人に言えないもので言えば、愛銃である化け物リボルバーの手入れか。

 

ゲームなんかは咲三の家にいた頃からやってない。

 

一登や叶方に進められたソシャゲは一応インストールしてるものの、そちらもほぼTABのなかでデータ容量の肥やしとなっている。

 

そんなおれの様子を見てた白河が、いつもの悪戯めいた表情を浮かべる。大体、次の流れは読めた。

 

 

「やっぱり、ジャングルの王者は超アナログだったんですね」

 

「遠回しにゴリラって言ってやがるなテメェコノヤロウ。おのれの部屋の中をバナナの皮で埋め尽くしてやろうかコラ」

 

「それもうゴリラって認めてるじゃないですかゴリラー!」

 

「も、もうっ、ひよりちゃんってば……!」

 

 

そんないつも通りのやり取りをしてから、ふと思う。

 

一登はともかくとして、白河もゲームをする方だろうが、美嶋さんもなにかゲームをしてるのだろうか? 少なくともおれが知ってるゲームをやるイメージは湧かない。

 

 

「キミも常坂兄と同じで偏見なさそうだし話しますけど、ボクと未羽がやってるのは、いわゆる乙女ゲーって奴ですよ。女の子が男の子との恋愛を楽しむゲームです」

 

「へぇ、そんなんもあるんだな」

 

「……って本当に知らない感じですねこれ。今どき逆に珍しいですよ?」

 

「ゲームそのものをあまり知らねぇからな。直近でゲームで遊んだ記憶とか、さっきも言った一登ん家でのゲームや、一登や叶方や杉並とゲーセン行ったくらいだな」

 

 

まぁ、一般的な男子とは違う生活を送ってたからな。

 

そのせいもあって、一登達に連れられて行ったゲーセンとかは中々刺激的だった。ガンシューティング? とやらでトップを取ったのはいい思い出である。

 

杉並辺りはゲームにも精通してるらしくて、色々と動画を見せてもらったこともあるが、重火器を使うロボのゲームとかには興味を覚えたぐらいか。

 

機会があるならロボゲーはやってみたいもんだ。

 

 

「で、乙女ゲーとやらか。……おのれ、まさかそれを恋愛請負の参考にしたりしてるんじゃ」

 

「大正解! 相変わらずいい勘してますねー。結構面白いんだよ? ゲームで描かれる恋愛は例外なく劇的だからね! いつかこんなカップルを是非この手で演出してみたい!とか考えるとそれはもう楽しくて楽しくて!」

 

「……もしかして、いつぞやの空手部の部長殿の告白も?」

 

「大・大・大正解ー! 夕日での告白シチュエーションとか燃えるじゃないですかー!」

 

 

「これがいわゆる沼ってやつかもしれないね!」なんて、テンションマックスで語る恋愛請負人。決して部長殿達には聞かせられない裏話である。

 

なお、そんな部長殿達は今ではすっかり仲のいいカップルになっている。下手に今部室に行けば、惚気話が炸裂するだろう。

 

 

「で、美嶋さんも同じゲームを楽しんでると」

 

「はい。ゲームクリア後の声優さん達の雑談なんかも、楽しみなんですよね」

 

 

ああ、その手のシュミレーションゲームにならアニメみたいに声優は当然付いてるか。収録時の裏話とかもやるのなら、確かに面白いのかも知れない。

 

 

「常坂先輩は、そういうゲームをプレイしたりしないんですか?」

 

「え? 乙女ゲーとか?」

 

「というよりか、恋愛シュミレーションゲームとかだね」

 

 

美嶋さんと白河に聞かれて「うーん」と頭を捻る一登。

 

 

「遊んだことはないなぁ……。アクションやRPG、経営SLGに戦略モノまで大体やってはいるし、ソシャゲも据え置きゲームもどっちも結構やってるけど、恋愛ゲームは盲点だったな……」

 

 

いや、おのれの場合、リアルが恋愛ゲームみたいな感じだからな……。本人に自覚はなさそうだが。

 

それはそれとして、一登も結構ゲームをやってるが、普通の男子っていうのはこんなものなんだろうか?と、考えるも、他の友好関係が変人(杉並)と変人(叶方)なので分からんという結果になる。

 

普通とはこれ如何に。

 

 

「これを機に、試しにプレイしてみてはどうかな? 芳乃もさ」

 

「恋愛ゲームをか?」

 

「いえ、乙女ゲーに」

 

「「そっちかよ!?」」

 

 

一登と息のあったツッコミを白河にかます。

 

流石に、乙女ゲーをやる機会はないと思う。

 

一登辺りなら「どうせなら可愛い子を攻略したいし」とかのたまうだろうが、リアルの事を考えるとやはりコイツ恋愛ゲームの主人公では?と思わなくもない。

 

 

____とかなんとか言ってる間に始業のチャイムが鳴る。

 

 

気がつけばこんな時間か。思ってたより話し込んでたみたいだ。

 

この中で唯一学年の違う美嶋さんが慌てだす。

 

 

「あ、それじゃあ私はこれで失礼します!」

 

「ああ、うん、またね」

 

「クラスは違うだろうけど、海央のこと頼むなー」

 

「ふふ、海央ちゃん、勉強苦手だー!って言ってますけど、ちゃんとがんばって学生してるんですよ?」

 

 

だろうな。アイツ、口ではなんだかんだ言ってもやることなすこと全力だからな。勉強もいやいや言いながらしっかりやるだろう。

 

それより、ちゃんとアイツのことを見てくれる奴がいてくれるのは、曲がりなりにも兄貴としてはありがたい。美嶋さんもだが、同じクラスのちょこもだな。……今度、改めて礼を言っとこうか。

 

 

「あとひよりちゃん、今日は大人しくてしていてね? 芳乃先輩も」

 

「ふっ、約束はできないな。何故なら恋とは常に唐突に始まるからね」

 

「言葉のキャッチボールが出来てねぇよ。……まぁ、おれも普通に逃げるけど」

 

「も、もう!絶対つかまえるからね、じゃあね!」

 

 

最後にいつもの風紀委員長代理の表情を浮かべて、美嶋さんは去っていった。

 

しかし、まぁ、アレだな。

 

 

「……不思議な関係だよな。普段は追いつつ追われつつの間柄なのに」

 

「だよな……」

 

 

思った言葉を一登が代わりに言ってくれたので便乗して頷く。

 

 

「ボクと未羽は、それだけお互いを信頼し合ってるってことだよ」

 

「そう思ってるなら、あまり困らせるなよ」

 

「難問。その保証は出来ませんね。何故ならボクは恋愛請負人ですから」

 

「即答しやがったよコイツ」

 

 

苦笑しながらもその理由に納得する。

 

ただ、いつかは終わりが来るものだ。

 

その終わりが来た時に、美嶋さんと白河の関係性が変わってなければ、さっきみたいな仲睦まじい姿もいつも見れるだろう。

 

その日が来るのが、本人の言う通り宇宙の終焉までかどうかは、定かではないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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____その日の夕方。

 

 

泉ちゃんの生命の起源についての授業(本来は生活習慣病の授業だったが、脱線はいつものことなので気にしない)も終えてから、いつものSSRの活動。

 

目的を決めて動き出したら早いハイスペック集団なので、バレンタインデー当日までの予定の目処はもう立っていた。

 

今は一登が全体の進行度をチェックしている。

 

恋愛相談の方も杉並の試算データを元にしたプランニングで期日までは問題なく消化は出来そうだ。

 

レシピの方もソラさん……じゃなくて逢見先輩が張り切っているし、ショップ関連の調査も叶方は女子への聞き込み、海央は現地調査をしていたので問題無しとのこと。

 

適材適所。各員の得意分野を思う存分に生かした結果だろう。滞りなく進みはしてる。してるのだが、

 

 

「………………」

 

 

そこで気になるのが、何か言いたげな学園のアイドルこと有里栖である。

 

いや、言いたげと言うより、言いたいのを我慢してるって感じか。お人好しなのが祟っておれらに遠慮するとか本末転倒である。

 

仕方ない、いっちょ発破をかけるかー。と、考えるが、その前に適任者がいたと思い直す。

 

その適任者こと、全体のチェックを終えた一登が有里栖の下へ向かう。……うん、それでこそ親友。

 

 

「……鷺澤の方は大丈夫ですかね?」

 

 

有里栖に話しかける一登に意識を向けていると、白河がおれに声をかけてきた。やはり白河も気づいてたか。

 

いや、白河だけじゃない。他のみんなも有里栖の様子には気づいてるようだ。

 

いやまぁ、いつもより口数少なかったので寧ろ気付いて当然か、ここの連中なら。

 

 

「一登なら、なんとかするだろ」

 

「芳乃はなんだと思います? 鷺澤の悩み」

 

「まぁ、昨日のあれ見てると、なんとなく想像つくな」

 

「え? 本当ですか?」

 

「ああ……って、言ってる間に、ほれ」

 

 

一登との話し合いが終わった有里栖が、心なしか少しスッキリした表情を浮かべてコチラに向き直る。

 

 

「あの、ちょっとだけいいかな? 少しだけ、みんなに相談したいことがあって」

 

 

少し控え目に手を挙げてから有里栖は語りだす。

 

当然、それを聞き逃す奴はここには誰にもいない。

 

 

「相談って、何か大変なことでも……?」

 

「個人的には大変かな……。ジャンル的には一応、恋愛相談ってことになるかな?」

 

 

瞬間、SSRに衝撃が走った。

 

 

「ええっ!?」

 

「お、おおっ!? それってつまり、ようやく鷺澤に春が来たってこと!?」

 

「いや、落ち着けおのれら」

 

 

なんとなく予想がついてたおれは沸き立つ一登や、特に白河にツッコミを入れる。

 

うん、ホントに落ち着け?

 

 

「やっぱり、芳乃君は分かっちゃう?」

 

「昨日の件を考えれば、まぁなんとなくだが。……ただ、原因までには思い至らなかったな」

 

「昨日の件って……あっ」

 

 

叶方もそこで思い至ったようだ。

 

杉並は最初から表情が変わってない。コイツはいつも通りである。

 

 

「えっとね、一言に恋愛相談って言っても、私に好きな人が出来たってことじゃなくて……むしろ、その逆になるのかな? ちょっと困ったことになってて」

 

「その逆?」

 

「うん、とりあえず最初から話すね?」

 

 

ただの相談じゃないことを察して皆が姿勢を正す。

 

 

「まず、ワンダーランドが開園して、最近【アリス】の顔も広まって来てるでしょ?」

 

 

ここで言う【アリス】とは、ワンダーランドのメインキャストを務め、人工妖精を通じて島中どこにでも投影することの出来る少女型のAIで、その姿は目の前の有里栖そのものだったりする。

 

商店街とかで見かけたりはしたが、直接は話したことがないな、そう言えば。

 

……流石に実在する人物をモデルにするのはどうなのか?と思わないでもなかったが、どうやらその弊害が出たらしい。

 

つか、なるほど。原因がどうにも分からなかったが、間違いなくコレが原因だわ。

 

 

「見たら一目瞭然なんだけど、私とアリスの見た目ってほとんど同じでしょ? そのせいでって言ったらアリスには悪いんだけど、最近間違われることが多くて」

 

「ああ、そういうことか。……俺や二乃も、アリスと有里栖を間違えたことあるし」

 

 

一登が納得したように頷く。

 

有里栖とアリス、同じ格好をしたらそれこそ見分けがつかなくなるだろう。それくらいに同じ姿なのだ。

 

それに、どうにも件のアリス、いきなり気配もなくポーンっと現れるらしいし、余計に混乱するはずだ。

 

 

「それで声をかけられて困ってるってこと?」

 

「恐らく、男子からの声掛けが多くなったんだろ。アリスの地道な活動の結果、声を掛けづらかったはずの敷居が低くなった。……それで、ついでにデートなんかへ誘われるんじゃないか?」

 

「そうなの。今度遊びにどう? とか、よかったらワンダーランドに……とか……」

 

「あの無粋な先輩とやらもその類だったって訳だ」

 

 

それで合点が行ったSSRメンバーが頷く。

 

有里栖本人の性格はまた別として、有里栖は学園のアイドルという暗黙の共通認識があった。

 

それもあって基本的には話しかけ辛い風潮が出来上がっていたが、アリスと間違われることで、その「話しかけ辛い」ハードルが一気に下がり、男共から誘われる様になったって事だな。

 

 

「デートをお願いされる回数も、やっぱり困っちゃうくらいなの?」

 

「そうですね……以前より、かなり……って感じです。断るには何かと理由を付けないと行けませんし」

 

 

そのまま断ればいいと思うが、有里栖の性格の事を考えれば、なるべく角の立たない様にやんわり理由をつけて断ってたのだろう。

 

だが、今はその有里栖の優しさが逆に枷となってしまっている。と言った所か。

 

 

「……しかも、それだけじゃないよね? 鷺澤さん、もっと深刻そうな悩みがあるんでしょ?」

 

「あぅ……鋭いですね、逢見先輩」

 

 

そう切り出した逢見先輩の言葉に、有里栖が苦笑しながら認める。

 

有里栖の切羽詰まる感じといい、デート以上ってことは…………やはりそういうことなのだろう。

 

 

「その、デートのお願いより、もっとエスカレートしたのがありまして……」

 

「それって、もしかして……」

 

「うん……良ければ付き合ってくださいっていう、告白もあるんだよね……」

 

「なんてこった……」

 

「やっぱり、ついに暗黙協定が破られちゃったかぁ……」

 

 

男子生徒には有名だった暗黙協定。有里栖に手を出したら裏切り者だっていうよく分からんアレ。

 

よく分からんが曲がりなりにも機能してたそれがあっさり破られたとなると……やはり深刻に考えるべきか。

 

 

「勿論断ってるんだけど……これも難しくて。男子も女子も関係ない話なんだけど。告白って、とっても勇気が要るものでしょ? だからどう断っても相手を傷つけちゃうし……。私としても、相手に嫌な思いはさせたくないんだけど……」

 

「難しいよな、そこは……」

 

 

性格もあるんだろうがな、有里栖の場合は。

 

だが、どう足掻いた所で到着点は1つ。

 

有里栖に誰かと付き合う意志がない以上、告白した方が傷つく結果に終わるのみ。

 

当然の事なのだが、有里栖は出来たらそれを緩和させたいらしい。

 

 

「本当に相談したかったのは、そこなんだよね。私、どうすればいいのかなって……」

 

「これは……とんでもない難問ですね……!」

 

「そうねぇ……恋とか愛にはどうしたって付いてくる話だけど、完璧な答えなんて見つかってないし……」

 

「はっきり断っても、優しく断っても、相手の人は落胆しちゃいますもんね……」

 

「それで、曖昧な聞き方になっちゃって申し訳ないんだけど、何かいいアイデアとかないなかな……?」

 

「ん〜……ちなみにだけど、鷺澤的には、今恋人を作るつもりはないの? ううん、この場合恋人じゃなくてもいいし」

 

「お約束ですけど、お友達からーって断り方とかです?」

 

 

「はいっ!」と手を挙げた海央が白河に言う。

 

確かに、割と妥当な断り方だと思う。思うが……。

 

 

「海央ちゃん正解。友達からスタートして、仲を深めて、もし気が合う相手だと分かったら、そこから恋愛スタート。もし恋愛まで発展しないなーって分かっても、悪い終わり方にはならないんだよね、これって」

 

「………………」

 

「でも、鷺澤の話を聞いていると、お友達からーって断り方もしてないように聞こえるんだけど……」

 

 

そう、有里栖の断り方にはその曖昧で便利とも言える断り方をした感じがなかった。明らかに意図的にそれすらもしてないのだろう。

 

白河の指摘に、有里栖は認めるように頷く。

 

 

「……うん、ひよりん正解。その断り方もしないようにしてるんだ」

 

「その理由は聞いてもいい?」

 

「だって……そんな言い方したら、相手の男の子に期待させちゃうでしょ? “絶対”にそういう関係にならないのに、先にあるものを匂わせるって……いけないと思うの」

 

「絶対って……断言しちゃうの? 未来のことなんて誰にも分からないのに。試しに付き合った結果、思ってた以上に相性がいいって分かるかもしれないんだよ?」

 

「ううん、私の場合、それ以前の問題かな……。

 

___だって、私は恋愛しちゃいけないから」

 

「…………ッ」

 

 

絶対とまで言い切る有里栖。決意すら感じる強い意志。それに違和感を感じた所で___頭痛が走った。

 

まるでそれ以上考えることを許さないと言わんばかりのタイミングでの痛みは、思考しようとしたおれの意志をまるで押し留めようとしてるようだ。

 

表情に出さなかったのは不幸中の幸いか。

 

しかし、なんで頭痛が、このタイミングで?

 

それを考える間もなく、有里栖の話が続いていく。いかん、集中しろ。

 

 

「? どういう意味?」

 

「……あは、ううん、深読みしないで。単純に今は恋愛に興味ないって意味だから」

 

 

有里栖がそう言うと、白河も納得しつつも「もったいないなー」と呟く。

 

ただ単に恋愛に今は興味がないだけか? と、先程の違和感に一応の答えを出しておく。

 

 

「それで、これからどうしたらいいのか、ちょっと相談したいんだけど……やっぱり、タイミング悪いかな?」

 

「……だから最初は遠慮してたのか」

 

「うん、だってほら、忙しくなるのは分かってたし。相談内容だって、あくまで私個人の問題だから。内容もちょっと面倒だなって私でも思ってるし、他にやることがいっぱい___」

 

「はい、そこまで」

 

 

有里栖の言葉を一登が強制的に止める。

 

うん、良いタイミングだ親友。おのれが止めなきゃおれが止めてたぜ。

 

有里栖、おのれ言ってはならないことを言ってしまったな。

 

面倒? 他にやることがある? それは流石に聞き捨てならないっての。

 

「え?」とポカーンとする有里栖に対して、とりあえずその頬をモチのように伸ばす刑に処す。

 

びよーんっと。柔らかい頬が面白い様に伸びる。

 

 

「いひゃい!?ひゃに?ひゃにひふのぉ!?」

 

「おのれが聞き捨てならないことを言うからだよ。海央、おれが許す! 思いっきりやれ!」

 

「はいっ! みおーん突貫します!」

 

 

有里栖の頬を離して、阿吽の呼吸で全てを察して敬礼をした海央と入れ代わる。海央は突撃していつものグリグリ甘えるアレを有里栖に対して実施する。

 

 

「わわっ、海央ちゃんまでぇ!?」

 

「フライングしたこの兄妹は取りあえず置いておくとしといてだな……あのな有里栖、有里栖が色々考えてることは分かるし、そのほとんどは正解だと思う」

 

 

溜め息を吐きながらも有里栖を真っ直ぐ見る一登。

 

その視線を、ドギマギしながら受け入れる有里栖。

 

 

「たけどな、困ってる人間を面倒だとか、後回しにしようとか、ここのメンバーが考えたりすると思うか?」

 

「あ……」

 

「有里栖だってSSRの一員だろ。それって俺たちの身内ってことでもあるんだよ。だから、遠慮すんなって」

 

 

一登の言う通り、有里栖だってSSRのメンバーだ。

 

そしてここの面子は、ひと味もふた味も違うお人好し集団であることを忘れてはならない。

 

 

「そうですね……このまま鷺澤さんが困ってるところを放って置くわけにもいきませんし。私たちに出来ることがあったら手伝います」

 

「二乃ちゃんの言う通り。このまま放っておける問題じゃないでしょ? 鷺澤さんがなんとかしなくちゃって思ってるなら、なんとかしないとね?」

 

 

だからほれ、事情を聞けば黙ってることなんてない。寧ろ率先して手伝うんだよ。

 

クリスマスの時からそうだ。ここの連中のお人好しっぷりを舐めちゃいけない。

 

 

「本当に……いいのかな」

 

「いやいや、むしろなんでもっと早く話してくれなかったのかなーって思ってるくらいだって。今回の話だって、ボクのキャパが爆発しそうだーってところから始まってるんだよ?

 

問題があるなら早いうちに相談してくれないと。ほら、ここってそういうところじゃん」

 

 

呆れたように、怒ってるように、けれどもどこか心配そうに、白河が更に言葉を紡ぐ。

 

 

「それに、前にも言ったじゃないか。『鷺澤も困った時はボクたちに言ってほしい。きっと力になるよ』って」

 

「あ……」

 

 

それはSSR発足前、最初に有里栖の力を借りて一登に相談をした時の台詞だ。

 

 

「確か「めいいっぱい頼りにするね」って返したな、その時の有里栖は」

 

「だよね? ただの恋愛相談も歓迎だけど、身内の恋愛相談ならもっと大歓迎! 真っ先に解決してあげないとね♪」

 

「そうだね、あまり優劣はつけたくないけど、他人と友人だったら迷うことなく友人だし。有里栖ちゃんが本気でなやんでるんだったら、こっちも本気で取り組まないとだね」

 

「鷺澤嬢を悩ます問題となると、気合を入れて臨まねばなるまいよ。これほど面白い……いや、興味深い……いやいや、難しい問題は他にないからな」

 

「おい、コラ、杉並、おのれ……」

 

「杉並……ポロリしたのは冗談だよね?」

 

「安心しろ、冗談だ」

 

 

絶対に冗談じゃないと思ったおれは間違ってない。

 

 

「とにかくだ、鷺澤嬢が本気で解決したいと言う以上、俺も本気を出して取り組む。それだけは誓ってみせよう」

 

「あたしからも一言あります!」

 

 

グリグリ甘え攻撃を継続していた海央が、それを中断して有里栖に向き直る。

 

 

「あたしも、有里栖先輩が悩んでるなら力になりたいと思います。というか、忙しいから、面倒だからって、抱え込まれるのは、……とても寂しいって思うんです」

 

 

寂しい。うん、その表現はおれも同感だな。

 

 

「海央と同感。水くさいんだっての。というかそのまま抱え込まれてたら、気になって逆に今の仕事に手がつかなくなるだろうが」

 

 

便乗しておれも一言言っておく。

 

他の言いたいことは大抵言われちまったからな。

 

みんなの言葉を受けて、有里栖の目にも力が宿る。

 

 

「うん、ありがとう。私……みんなに頼っていいのかな?」

 

「勿論だ」

 

 

一登の肯定の言葉に皆頷く。ここで頷かない人間など、ここにはいないのだ。お人好し集団を舐めるでない。

 

そもそも、SSRの目的は困ってる人を笑顔にする、だ。

 

だから___

 

 

「じゃあ……よろしくお願いします!」

 

「了解、それじゃあ早速対策を考えるか」

 

 

___身内を笑顔にするためなら、いくらでも頑張れる。

 

 

……そうして、有里栖の悩みを解消するための相談が始まった。

 

とは言え、今日はもう時間が遅く、下校時間まで頑張ったもののパッとするような解決案は出なかった。

 

最もすぐに解決策が出るなら有里栖も苦労しないだろう。

 

話し合いは明日へと引き継ぎになり、今日は解散となった。

 

明日までには、なんとかいい案を考えたいものだ。

 

 

 

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