D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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PROLOGUE 2

 

 

 

 

 

『おはよーございます!せんぱーい!』

 

 

 

 

 

___それは、まだ芳乃の家に来る前の記憶。

 

 

 

 

 

『せんぱいせんぱい! せんぱいって、あたしの”いとこ“って、ほんとう?』

 

 

 

 

 

___一つ下の女の子。同じ魔法を学ぶ後輩。

 

 

 

 

 

 

『せんぱいは、あたしのひとつうえで、いとこ! しんせき!』

 

 

 

 

 

___今も思い出せる無邪気で無垢なその姿。

 

 

 

 

 

 

『だから、せんぱいは、あたしのおにーちゃん!』

 

 

 

 

 

 

___彼女は今も、おれと同じ夢だった【正義の魔法使い】を目指しているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-PROLOGUE 2-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……また昔の夢かよ」

 

 

休日でバイトもないため、寮の自室で惰眠をむさぼっていた所、一昨日みたく懐かしい夢を見てしまったらしい。

 

もっとも前回の2つの悪夢に比べたら月とスッポンの差もあるが。

 

 

「芳乃の家に来てからは会うこともなくなったが、アイツ、ちゃんと魔法使いとして大成できるのか……?」

 

 

同門の後輩にして親戚、従兄妹、妹分。

 

素直だがおっちょこちょいで、目を離すと危なっかしいのでいつも面倒を見ていた少女。

 

いくら親戚だと分かって、おれが一つ年上とは言え、いきなり「お兄ちゃん」呼びは如何なものか? と思わなくもないが、そういう単純さはアイツの良いところでもあった。

 

おれとは違って恐らく魔法の完全な継承を果たしているだろう彼女は、どんな成長をしてるのだろうか? 夢は叶えられただろうか?

 

既にあの一門と関係を断った自分が、それを知ることは恐らくないだろう。

 

願わくば健やかに育ち、もうそのおっちょこちょいで物を壊したり壁をブチ破ったり奇跡のようなドジを連発しないことを祈る。いや、本当に心から祈ってる。マジで。

 

 

「さて、目ぇ覚めたし、日課も兼ねて起きるとするか。朝飯は……まぁ、テキトーにすっかねと」

 

 

そこで取りあえず思考に区切りを付け、目覚めたての身体を伸ばすと、バキバキと肩から変な音が出てる気がした。どうやら変な体勢で寝てたらしい。

 

柔軟してから再度体の調子を確かめ、そして、

 

 

「…………!」

 

 

一呼吸の後、目を閉じて体内の魔力と周囲のマナを同期させる。

 

自らの世界と外界を一体化させるイメージ。

 

魔法は想いの力。想いはマナを伝い世界を改編する。

 

想いが強ければ強いほど、確かに強い魔法にはなるが、それだけではなく、想いと同じくらいマナと、マナから変換した魔力の扱いでも魔法は精度やその大きさも変わっていく。

 

 

「同調、問題無し。次だ」

 

 

次にマナの収縮と拡散。内外のマナを等しくするための、まぁ言ってみればマナの呼吸の様なものを行う。

 

マナは万物に宿る。そして世界を満たす。

 

魔法使いの魔法は己の想いと魔力の操作により行う世界の改編そのもの。故に、己と世界のマナを淀みなく一体化させることが重要となる。

 

これらはその為に必要な、基礎の中の基礎。魔法使いとして欠かせない重要な修練でもあるのだ。

 

一昨日の【先視の魔法】が暴発した事による反省も兼ねて、この日課……というより修練は朝に行うことにしている。

 

おかげで早寝早起が習慣付けられてしまいそうだが、まぁいいだろう。早起きは三文の徳らしいし。

 

 

「……余計な雑念が入ったな」

 

 

意識を改めて切り替え、修練に集中する。

 

繰り返すが、魔法は想いの力である。

 

故に、その想いが何かの弾みで暴走した時、魔法もまた暴走する。

 

世界に対しての改編事象である魔法の暴走が、なにを意味するのか。魔法使いは、魔法を学ぶ前にまずはそこを知らなければならない。

 

それが、おれの持つ【先視の魔法】のように、著しい危険性を持つ魔法だと、どうなるのか?

 

もし、先視の魔法が暴走して、目も当てられない未来を視てしまい、その未来を引き寄せてしまえば……と、考えるだけでも恐ろしい事になる。

 

あの一門から離れた今も魔法使いとしての修練を欠かさずにいるのは、その危険性を理解していたからだろう。

 

 

 

___あんな未来を視るのは、二度とゴメンだ。

 

 

 

 

「スゥ……ハァ……」

 

 

 

一呼吸、それから集中力のギアを上げて修練に没頭する。

 

 

誰よりも、この魔法の危険性を理解してるが為に。

 

 

何よりも、今この瞬間だけはそれと向き合う為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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12/16 日曜日 天気は快晴。散歩日和。

 

 

 

___香々見商店街。

 

 

 

修練を終えて、朝食を食べて、一息ついて寛いで、昼食を叶方と杉並と騒がしく取り、そして午後。

 

日用品などの雑貨類や夕飯の食材などの買い出しのために、寮を出てプラプラと歩く。

 

大型スーパーがない香々見島において、島民は基本的に商店街で買い物をする。

 

まぁ、映画館とかもあるし、ゲームセンターも兼ねたボーリング場のオールインワンなどもある。遊びに飢えた学生なんかもこの商店街にはよく来るはずだ。

 

だからその内、知り合いにでも出会っても別に不思議ではなかったりする。

 

 

「……やっぱ、人工妖精のおかげでそんな寒く感じないよな」

 

 

冬と言えど鷺澤グループが香々見島全域に配布してる【人工妖精】によってそこまで寒くはない。なので着込む必要がないのは地味に助かる。

 

有里栖や杉並によると、この人工妖精を改良することで真冬で常夏の気温を、真夏に真冬の気温で調節出来るようにある研究所と研究を重ねているらしい。

 

……なんで大企業の鷺澤グループの内情を、関係者である有里栖はともかくとして、一学生である杉並が知ってるかについてはもう気にしない。

 

奴は色々と規格外なのだ。考えるだけ無駄なのである。考えても疲れるだけとも言うが。

 

 

「調味料の補充もしたいしな。先に軽い雑貨から買って行くとするか」

 

 

奴の高笑いが脳内に響く前に思考を振り払い、取りあえずの目的地を決める。

 

雑貨と言うならやはり百均だろう。菓子類も場合によってはこっちで買ったほうが安上がりだ。

 

___という訳で商店街の百均ショップに入り色々と見て回る。

 

調理用の面白そうな便利グッズなんかも均一100円なのは、料理を趣味としているおれにとっては大変興味を感じるのと同時にちょっとしたトラップなのである。

 

便利だから、面白いから、と言って何でもかんでも買ってたら後で大変な事になる。主に、片付ける場所の問題で。

 

なにより今いるのは学生寮だ。まだ先とはいえ、いつかは出て行かなければならない。その時に荷物が大量にあるとそれはそれで、かったるいのだ。

 

……とは言え、とは言えだ。

 

それらのデメリットを理解してなお、気になる商品が沢山ありすぎるのが百均ショップなのだ。

 

例えばそこのシリコン素材の製氷皿とか上手く使えばジュースを凍らせてアイスが作れるし、向こうのカラビナ付きスチールマグカップとかオシャレと言うか男心をくすぐるフォルムだしだな……!

 

 

「あれ、灯火?」

 

「……んぬぁ?」

 

 

ぐぬぬ、と、百均グッズの魔力と戦っていると、後ろから聞き慣れた声がかけられる。

 

思わず変な声で応答すると、「ぶふっ!?」と噴き出すような音も聞こえた。なんだなんだと後ろを振り返ってみると、そこには見慣れた顔があった。

 

 

「一登に白河に、風紀委員長代理? なんか珍しい組み合わせだな」

 

 

相変わらずのイケメンな親友兼悪友に、なぜか肩を震わせて何かを堪えている白河。そんな白河を心配そうにかつ不思議そうに見ている小動物系少女。

 

……で、そこの恋愛請負人は何をそんなに笑いを堪えてるんだ? おのれ、そんなに笑いの沸点低かったっけ?

 

 

「だ、誰のせいかと思ってるんですかっ!? 一昨日と全く同じ間の抜けたような声を不意打ちで聞いたらこうなりますから……!」

 

「ひ、ひよりちゃん、流石に失礼だよ……!ご、ごめんなさい先輩」

 

「あー、いいよいいよ。大体察したわ」

 

「いやまぁ確かに変な声だったけど、言うほどか?」

 

 

そこはそれ、昨日、白河に声をかけられた時と同じ様な反応だった気がするし。変なツボにでもハマったんだろう。

 

それから白河が落ち着くまでしばらく待とうかと思ったが、ふと魔が差す。コホンコホン。と、わざとらしく咳をしてから

 

 

「んぬぁ〜〜〜〜〜ぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜ぁ」

 

「ぷふぅっ!?」

 

 

と、先程の声を更に間抜けに再現しつつ、オマケに必要以上に伸ばして発声する。

 

 

「ぷ、あは、あははははっ!くぅっ、よ、芳乃ぉーーぉ!?」

 

「白河、討ち取ったり」

 

「何やってんだよお前は……」

 

 

少し落ち着こうかと言う所でまさかの追撃をくらい、噴き出して完全に崩れ落ちる白河。こうか は ばつぐんだ。

 

釣られて笑いながらもツッコむ一登。

 

ちょっと状況についていけずに目をパチパチと瞬きさせる小動物系風紀委員ガール。

 

控え目に言っても、状況はカオスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___で、何か言うことは?」

 

「すいません、魔が差しました。反省はしないが悪いとは思っている」

 

「そこは反省もするべきでしょうがっ!!」

 

 

流石に店内では迷惑なので、店外に出たところで白河から「正座」と、言い渡される。

 

一仕切り笑ってから落ち着いた白河は仁王立ち&ジト目でおれを睨んでくるが、流石にこれはおれは悪くないと思うんだよ。

 

 

「悪いに決まってんでしょうが全くもうっ。杉並とは別の意味で芳乃はホントに油断ならないですね……!」

 

「待て、流石にあんな変人の中の変人と同列に語られるのは意義を申し立てたいんだが」

 

「却下です! 大・却・下! そしてシャラップ!キミはもう暫く正座ですよ正座!」

 

「解せぬ」

 

「いや、妥当だと思うぞ……?」

 

「ひよりちゃんが振り回されてるの、なんだか珍しいなぁ」

 

 

ぷりぷりと怒る白河。呆れる一登。白河の一歩後ろでなんか呟いてる風紀委員長代理の順である。

 

取りあえず白河のお許しが出るまで正座は継続するとしようか。地味に辛い。主に周りの視線が。

 

 

「で、珍しい組み合わせだが、どんな集まりだそれ?」

 

「ああ、たまたま商店街で二人と出くわしてさ。気が付いたら買い物を一緒にする流れになってた」

 

 

へぇ。と言うか相変わらずだな一登は。コヤツ、行く先々で女子にモテてる気がするんだが。本人に自覚が全くねぇのはなんの素質かね?

 

しかし、白河と風紀委員長代理って、敵対関係なんじゃないのか? って思ったが、どうにも気安い仲なのか。さっきから風紀委員長代理は白河の後ろで小さく収まっている。

 

 

「実は未羽とは幼なじみでね。学園で鬼ごっこをしてない時は結構一緒に行動したりしてるんだ」

 

 

そんなおれの疑問に気付いたのだろうか、白河が肩を竦めて説明してくれた。

 

なるほど、そういや白河の事を名前で呼んだりしてたっけか。元々気安い仲だったなら納得だわ。

 

 

「あの、ひよりちゃん、この人って」

 

「あれ、未羽に言ってなかったっけ? この絶賛正座中の男は芳乃灯火。クラスメイトだよ。芳乃、この子は美嶋未羽、見ての通り恥ずかしがりやだから気をつけて」

 

「ドーモ、ミシマ=サン。ヨシノトウカです」

 

「正座して反省中なのに更にボケを被せてくるなっ。あとそれ元ネタ多分美嶋さん分かんないからな?」

 

 

合掌してお辞儀をするアイサツをしたところで一登に頭を叩かれる。

 

そんな風紀委員長代理__美嶋さんだが、彼女は何故かおれを見て目を丸くする。

 

 

「あなたが芳乃先輩だったんですね。後から話を聞いたんですけど、この前はひよりちゃんがお世話になりました」

 

「白河が頭から落ちかけた件か? あれなら、そもそも成り行きだったし、御礼ならもう本人に貰ってるよ。月見団子での奢り」

 

「奢るのは良いんですけど、お猫様の件でボクは敗北感を得てしまったんだよね……。芳乃、正座、更に続行で」

 

「解せぬ」

 

 

それ八つ当たりじゃね?って思ったが逆らわないことにする。こういうときは大人しくしているのが正解なのである。

 

 

「で、大分話が逸れたけど、灯火も買い物か?」

 

「ああ、雑貨とか晩飯の食材とかな。先に軽い方の雑貨とか見ようと思ったら……百均の魔力に取り込まれかけてだな」

 

「あー、分かるわー。便利そうな物を思わず買いそうになる奴だよな」

 

「それそれ」

 

「ほほう……」

 

 

同じ経験があるのか、一登がしきりに頷く。

 

そこで白河が何かを思いついたかのようだ。なんか白河らしい悪戯顔をしている。

 

 

「なら、芳乃も買い物に付き合ってくださいよ。寮暮らしで、料理が得意なキミなら、常坂兄とは別方向で参考になりそうなんで。あと、寮までの荷物持ちとして」

 

「ぜってぇ最後のが主な理由だろ」

 

 

おれのツッコミにそれはそれはイイ笑顔で肯定する恋愛請負人。……まぁ、いいか。それでこの正座から開放されるならもうなんでもいいや。

 

 

「なら、もう勘弁してくんね? 流石に衆人環視の中の正座はキツイんだが」

 

「契約成立♪ そんじゃ改めて買い物に行きましょう!」

 

「あう……ひよりちゃんが巻き込んでごめんなさい……」

 

 

流石に申し訳なさがあるのか、美嶋さんが頭を下げてくるが、気にしなくていいぞー。白河がこういう奴だってのは分かってるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___で、俺と灯火のアドバイスも虚しく、ものの見事に買物の魔力に負けてしまったと」

 

「……正解。返す言葉もないね、これは」

 

「あはは……お料理系の便利グッズって、面白いのが多いんですね。それに、調味料とかも種類がいっぱいで」

 

「それでも買いすぎなんだよなぁ……」

 

 

百均ショップを、そこからの食料品などの買物を経た女子二人の手には、それなりに膨らんだ買い物袋。便利といえば便利だが、使い道が限られてその内存在を忘れそうなグッズや、あると味付けに便利だが普段使いのない調味料などがほとんどだ。

 

実際、今日買い込んだグッズの殆どは使われることなく埃を被るのだろう。

 

なお、契約に従い、重い荷物は既におれが持っていたりする。

 

 

「取りあえずこれで買物は終わりか。一登も逢見先輩から頼まれてた物確保出来たよな?」

 

「ああ、みりんがウチとそら姉の家の両方で切れそうでさ。で、灯火は今日も叶方と杉並と飯か」

 

「まぁな。休日はなんだかんだバイトも何もなければアイツらから勝手に来るし。麻婆豆腐とレバニラ炒めでも多めに作るつもりだよ。中華は得意だから気持ち楽で済む」

 

 

自分の買い物袋に入ってる挽肉やら豆腐やらを見て答える。バイト先が中華料理店と言う事もあって、経験値もそれなりに上がってるからな。

 

一登の所は多分和風かな。いや、逢見先輩は基本的に万能で和洋中どれでも美味しく作れるから読めないか。みりん一つでもトンデモナイ味に変えてそうだし、逢見先輩。

 

 

「叶方と杉並、もしかして店に出せるレベルの料理をいつも食べてるんですかね?いや、それは常坂兄妹も同じかな」

 

「一登ん所は逢見先輩が張り切って作ってるだろうが、おれは毎日って訳じゃないぞ? 食費も馬鹿にならねぇし。アイツらはアイツらで食材持ち込んで来る時あるから、そん時は闇鍋パーティーになるが」

 

「叶方はともかく、杉並が碌な食材持ち込みそうにないんだけど、それ」

 

「……その通りだ一登。奴はこの前「宇宙人の肉」とか言う謎の肉を持ってきてだな」

 

「食べたんですかそれ!? ねぇ、ホントに食べちゃったんですかそれぇ!?」

 

「怖いもの見たさに食ってみたが……悔しいことに、クッソ美味かった」

 

「「「えぇ……」」」

 

 

ドン引きする他3人。おれもその時のことを思い出して冷や汗を流している。

 

見た目のビジュアルが冒涜的な事を除けば高級霜降り肉にも負けない美味しさであり、叶方と揃って恐怖しながら食ってた。

 

杉並?奴はいつも通りの高笑いだよ。

 

 

「よし、宇宙人肉の事は取りあえず忘れて話を戻そう」

 

「お、おう。って言っても、あとはもう帰るだけなんじゃね」

 

「正解。流石に買いすぎたしね。芳乃にも想定以上で荷物を持ってもらってるし、今日はここまでかな?」

 

「う、うん。あの、大丈夫ですか芳乃先輩? 私の荷物も持って貰ってますけど」

 

「問題ねぇよ。これでも鍛えてるし」

 

「そうそう。この男、見た目とは裏腹に結構ゴリラだから大丈夫だよ未羽」

 

「誰がゴリラじゃ。ドラミングしてから木に登ってヤシの実をこれでもかと投げつけるぞコラ」

 

「やっぱりゴリラじゃないですかゴリラー!」

 

 

一昨日にもやったようなやり取りをすると一登が吹き出し、美嶋さんも控えめだが笑い出す。

 

しゃあねぇなぁ。と、おれも笑っていると、ふと違和感を感じ取る。

 

 

「……ん?」

 

「? どうかしました?」

 

「いや、なんか違和感が」

 

 

一瞬だけ、本当に一瞬だけだが、視線のようなものを感じた気がした。

 

それも何か、懐かしいと思える感じの。

 

ただ、足を止めて周りを見回すも、何もなく。

 

気のせいか?と思った所で___

 

 

 

 

「誰かぁ!!ひったくりよぉ!!!」

 

 

 

 

商店街に響き渡る悲鳴。

 

は? とそちらの方に視線を向けると、路地裏に繋がる道から出て来た二人組の男が走り出していた。

 

その後ろには妙齢の着物のおばあちゃんが倒れていて、男の一人が女性の物らしきのバッグを抱えている。

 

もう一人は得物らしいナイフを持っている。アレで女性を脅したって感じだろうか。

 

加えて言うならその二人の向かって来る先はこっちであると言う。

 

それを理解して、思わずげんなりとする

 

 

「……おいおいおいおい。白昼堂々と、それも人目に付く商店街のど真ん中でひったくりって、勇者なのか阿呆なのか」

 

 

少なくとも頭が悪いのは間違いないだろう。

 

 

「いや言ってる場合か!?こっちに来てるぞ!」

 

「芳乃も早く離れて!」

 

「せ、先輩!」

 

 

一登がツッコみ、白河が美嶋さんを連れて脇道へ逸れる。流石に動きが早い。普段から風紀委員達と壮絶な鬼ごっこを繰り広げてるだけはある。

 

……ただまぁ、あまりよろしくないのは、向かってきてる強盗二人の視線が白河と美嶋さんに向けられていることか。

 

下卑た目付きに加えて薄く笑う顔……非力そうな女子二人を人質に取ろうって感じかね。うわぁ、おれが最も嫌いなクソヤロウだわコイツら。

 

一登もそれに気付いてるのか、冷や汗を流しながら二人の前にそれとなく立っている。やっぱりおのれイケメンだよ。怖いくせに、逃げる気もねぇんだからさ。

 

 

「一登、荷物とそこの二人、任せた」

 

「え、ちょ、灯火!? うわ重っ!」

 

「芳乃!?」

 

 

なので、その一登に女子二人の分と自分の荷物を押し付けて、前へと進む。荒事はおれの分野だ。おのれみたいなお人好しの出る幕じゃないよ。

 

首に手を当ててポキポキと鳴らして、ある程度距離を取った所で立ち止まる。

 

ひったくり犯二人は、そんなおれを見て鬱陶しそうに睨み付けてくる。うわぁ、目が血走ってるぅ。額に血管が浮かんでるぅ。

 

 

「どけやクソガキャぁ!!!」

 

「ケガしたくなかったら引っ込んでろやァ!!」

 

「おーおー、厳つい面してんなぁ」

 

 

あからさまにカタギには見えねぇなこれ。つか、こんなの香々見島にいたか?

 

男達は割と足が早いらしく、距離はどんどん近付いていく。

 

 

「まぁ、つっても」

 

 

ある程度距離が縮まった所、相手が反応出来ないギリギリの距離に入り込んだ所で、意識を切り替え、駆け出す。

 

 

「こんな雑魚じゃ、物足りねぇにも程があるわな」

 

 

間合いに入り込むと同時に、右の拳を固く握って踏み込み、その拳を男の一人の顔面に叩き込む。

 

 

「ご、ぱっ、?」

 

「なっ?!」

 

 

体重を乗せた一撃は、肉を叩きつける嫌な音を出すと同時に、鼻を潰し、歯を何本かへし折り、的確に相手の意識を奪い、地面に転がす。

 

まずは一人。右手に付いた血を払いながら構え直す。

 

 

「て、てめぇ!?」

 

 

そして残ったもう一人、こっちはナイフを持っている。

 

仲間がこんなガキにやられたことで混乱してるものの、頭に血が上ってるって所だろうか。

 

血走った目にはおれしか写ってない。視野が狭まっている。……やっぱり素人の半グレ辺りか。

 

 

「死ねやァ!!」

 

 

そのナイフがおれに向かって来る。鋭利に研がれたそれは、突き刺されば肉を易々と貫き重症を負うだろうし、下手したら死ぬだろう。

 

白河と美嶋さんが息を呑む。一登が「灯火!」とおれの名前を叫ぶ。……だから、大丈夫だってば。

 

当然な話だが、バカ正直にそれに当たる気はないのだ。

 

そもそも、ド素人が振るうナイフなんざ簡単に軌道が読める。先視の魔法どころか魔力による身体強化も使うまでもない。

 

だから、振るわれるナイフを左手でいなすと同時に踏み込み、隙だらけとなった腹に抉るような角度で、踏み込みの勢いを殺さずに伝える様に右のフックを放つ。

 

ドンッ!!と、さほど鍛えてもいないらしいそのボディに突き刺さった拳は、違えることなく鳩尾を打ち抜いた。

 

 

「ごぁ、あ……は、え……?」

 

 

鳩尾は人体急所の一つ。腹腔神経叢とも言われるそこは多数の交感神経が走っている。そこに衝撃が走ると人間は激しい痛みと共に呼吸困難に陥るのだ。

 

その鳩尾を打ち抜かれた男は思わずといった様子で数歩下がってから膝を付き、得物であるナイフも取り落とす。こうなったら、もう終わりだ。

 

そんな隙だらけの男に歩いて近づき、落ちたナイフを遠くに蹴飛ばしてから、右足を頭上より高く振り上げる。

 

終わりと言っても容赦はしない。確実に意識を奪う。

 

 

「ま、まて、やめ……!」

 

 

膝を折り、痛みに悶えながらも顔を上げた男が、次におれがする行動を察して、顔を青ざめさせる。

 

だけどおれは止まらない。止まる理由もない。

 

と言うかだな、

 

 

「人を殺せる得物振り回しといて、今更命乞いはねぇだろ……ゴミクズが」

 

「____!?」

 

 

殺気も込めて言い放つと、相手はその顔面を、鳩尾からの痛みと、そしてなにより恐怖でより青く染まらせる。

 

その頭の天辺に勢いをつけた踵を落とす。

 

 

「安心しろ、殺しはしねぇ。……死ぬほど痛い目には会ってもらうけどなッ!!」

 

 

ゴッ!!と、打撃特有の鈍い音、次いで肉が地面に叩き付けられる音が響く。

 

地べたに顔面をぶつけて鼻も歯もぐちゃぐちゃになった男は、痛みからか、そのまま白目を剥いて意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「こ、の、大馬鹿たれぇーー!? なんであそこでナイフ持った人達に立ち向かっちゃうのかな!?アホなのかな?!アホですよね、アホでしたよこのアホーーー!!」

 

 

うがーー!!と怒涛のアホ4段活用をする恋愛請負人。

 

商店街から少し離れた道すがら、目の前には怒髪天を衝く勢いの白河と、困った様子でオロオロしてる美嶋さん、呆れてる一登の姿があり、おれ自身は頭に白河によるタンコブを拵えて正座をさせられている。

 

取りあえずひったくられたバックをおばあさんに返して、ひったくり犯は縛り上げて、あとは道行く人に警察に伝える様言い残して、おれ達はそこから逃げた。

 

うん、逃げた。

 

いやだって割と大立ち回りしちまったから、あのまま、あそこにいると目立ってしゃーないし。警察に事情説明すんのも面倒臭かったし。

 

で、取りあえず逃げてきた先でまたもや白河より「正座」を言い渡された次第である。

 

解せぬ。

 

 

「解せぬって、顔してるけど白河の言う通りだぞ? 全く無茶しやがって」

 

「いや無茶はしてねぇし。相手の実力見抜いたから相手したんだし。てか、無茶ってなら先に白河達の壁になろうとした一登のが無茶だろうが」

 

「とーきーさーかーあーにー? キミももしや正座が必要なのかな?」

 

「まて、俺は無実だ。……なんか向かって来てたし、いざって時は壁役にでもなろうとしただけで」

 

「正座」

 

「はい」

 

 

白河の圧に屈して一登もおれの隣で正座を始める。

 

大の男二人が華奢な女子相手に正座するという、なんともシュールな光景が完成してしまった。

 

杉並に見られたら腹を抱えて笑われるだろう。……奴のことだから、既に状況を把握してる可能性が高いのだが。

 

 

「ひよりちゃん、先輩達、もう許してあげよ? その、悪いのはさっきの人達なんだし。……ちょっと怖かったけど、寧ろ助けてくれたんだし」

 

「……むう、それはそうなんだけどさ。と言うか、常坂兄にもだけど、芳乃にまた借りを作った気がしてならないんだけど」

 

 

気にするところはそこなのかよ。

 

 

「別にそんな風に思わんでも良いだろうに。そもそもおれはアイツらが向かってきたから、しばき倒しただけだ」

 

「右ストレートと踵落としで顔面崩壊してたけどな。オーバーキルだろ、どう見ても」

 

「奴らがあまりに弱すぎたんだよ。想定だと、あと2、3発くらい打つつもりだったんだが」

 

 

まさかの初手一発KOと、ダウンからの踵落としで済んだからな。拍子抜けにも程がある。不完全燃焼だ。とも思っていると、一登が今日一番のジト目をしてこっちを見てくる。

 

 

「……流石にあの連中が不憫だわ……相手が悪すぎただろ。最初の道中のゴブリンがラスボスに挑むもんじゃないか」

 

「キミ、やっぱりホントにゴリラじゃないです?」

 

「誰がゴリラじゃ。巨大化してニューヨークのビルの上でドラミングしてやろうかコノヤロウ」

 

「ゴリラじゃなくてキング○ングですよそれ?! ……あーもう、分かりましたよ。正座はもう勘弁してあげますから。全くもう」

 

 

お許しを得たのでヨッコイショと立ち上がり、身体を伸ばして一息つく。一登は少し足が痺れたらしい。

 

とんだ日曜日になったものだ。杉並や白河が起こす様なものならともかく、こんなトラブルは流石にゴメンである。

 

 

「そんじゃお開きとするか。気づいたら日も傾いてるしな。一登も逢見先輩が心配してんじゃねぇか?」

 

「……みたいだな。今TAB見たらめっちゃ着信来てたわ。ちょっと連絡してから帰るよ」

 

「おう、また明日なー」

 

「今日はお世話になりましたよ常坂兄」

 

「ありがとうございました、常坂先輩」

 

 

と、ここで帰る場所の違う一登が先に離脱する。

 

TABで通話してる辺り、逢見先輩に謝ってるのだろう。あの人はホントに愛が深いからなぁ。

 

 

「さてと、ボク達も帰りますか。……確認しますけど、荷物大丈夫です? 結構持たせてますけど」

 

「問題ねぇよ。寮の入り口までなら持っててやる」

 

「一暴れした所で申し訳ないけど、まぁ芳乃なら大丈夫でしょう」

 

「どうせまたゴリラだし、とか考えてんだろ」

 

「正解」

 

「ひ、ひよりちゃんってば……!」

 

 

「誰がゴリラじゃバナナの皮を投げつけるぞコラ」「そう言う所がゴリラなんですよゴリラー!」と、軽口を言い合いながら寮への帰路につく。

 

とんだ休みになっちまったが、それを差し引けば割と楽しい休みになったと思う。

 

また明日から学生生活だが、直に冬休みにも入るし、もう少し頑張るとしよう。

 

白河の軽口と、控えめに笑う美嶋さんの笑い声をBGMに、寮までの道程を歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__はい、あたしです。……はい。『先視』で視た通り、あたしが何もしなくても解決したみたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだった? って、背丈も大きくなってるし、多分、鍛え続けてたんじゃないかな? 魔法は分からないけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも中身は変わらないみたい。……あたしの知ってる先輩そのものだったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、分かった。後始末はしとく。これでも『正義の魔法使い』だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ホント、お兄ちゃんは変わらないなぁ……えへへ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




友人達狙われたら、そりゃ容赦なんかしねぇよなぁ?と言う思考。
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