D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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EPISODE 8

 

 

 

「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃー!!!」

 

「ほっ!はっ!せいっ!」

 

 

 

迫りくる海央の拳のラッシュを素手で捌き続ける。流石に海央の方もおれの動きに慣れてきたのか、その鋭さは尋常じゃない。

 

下手に一発でも喰らおうものなら、そこを基点に瞬く間にコンボを喰らう羽目になるだろう。

 

 

「チッ、やっぱ、得物なしの、素手だと、キッツい、なァ!!」

 

「わぁあっと!?」

 

 

一発、踏み込みが甘い拳を見破って返す刃で一本背負いを決めようとするも、海央は空中で自分から更に勢いをつけて地面に叩きつけられる前に力尽くで脱出し、休む間もなくラッシュを再開する。

 

デタラメも大概にしろ。と思わないでもないが、これくらいで文句言ってたらキリが無くなる。

 

そもそも、フィジカルは向こうが上なのだ。

 

得物なしの立ち合いなら、おれは受けに徹してしまうと防戦一方になってしまう。

 

 

「つってもそれは、あくまでフィジカルだけ見たらのハナシだけどなァ!!」

 

「____ッ!?」

 

 

海央の攻撃パターンから、次の拳、そしてそこから続く連撃の位置を予測して、受けるんじゃなくてすり抜けるように躱して踏み込み、掌底を出す。

 

咄嗟に両腕で防御されたが、これで距離は離した。それと同時にこの立ち会いは終了となる。

 

 

「はい、ここまで!」

 

「あ、あうぅう……!逃がしちゃった……!」

 

「一本背負いを力尽くで攻略した時は焦ったけどな」

 

 

今回の模擬戦は制限時間まで海央がおれから離れず攻撃を続けるか、おれをKOすれば海央の勝利で、逆におれは制限時間までに海央から距離を取れば勝利。というルールでやっていた。

 

海央の持ち味は無尽蔵の体力から繰り出される超超超近距離のインファイトだ。当然、距離を離されたりしたらその持ち味は半減してしまう。

 

なので距離を取られない工夫をしてもらうために条件を付けて立ち合っていた。……とは言え、一手でも読み間違えれば拳をマトモに受けておれの方が負けていたのは想像に難くない。

 

さっきも言ったが一本背負いを力尽くで攻略された時が一番危うかったと言える。……油断、慢心、ダメだな。海央だって成長してるんだ。

 

 

「んー……本気の読み合いになるとやっぱりまだ敵わないぃー……!」

 

「それでも二ヶ月前に比べたら確実に進歩してるさ」

 

 

元々学習能力は高いしなコイツ。

 

あとは実戦のときにこの経験をどれだけ活かせられるか、だな。本気の海央がどれだけ強くなってるやら。

 

 

「そう言えば、今日は随分とゆっくりだね。いつもならもう学校に行ってるのに」

 

「一応、連休の初日だからな授業自体は休みだし、集合時間もまだまだ余裕がある。……つっても、今日も忙しくなるだろうし、切り上げて飯にするか」

 

「はーい!」

 

 

元気よく返事した海央はタタタタッと犬耳パーカーを揺らしておれの背中に軽くタックルすると、そのままホールドしてグリグリと頭を押し付けている。

 

 

「にへへー♪」

 

 

そんな幸せそうで間の抜けた声も聞こえてきた。

 

きっと、その顔も気の抜けただらしのないものになってるのだろう。相変わらず何と言うか、わんこっぽい奴だ。

 

まぁ、いつもの発作なので気にはせず、そのまま海央を引きずって寮まで行こうか。それから飯食って、着替えてSSRの溜まり場まで行こう。

 

それじゃあ、今日もがんばっていこうか。バイトも予め休むって伝えてるから今日はフルに時間を使えるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 8-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2/9 土曜日 晴れだけど雨にもご注意。

 

 

 

 

____SSRの溜まり場にて。

 

 

 

 

 

「……というわけで、今日の分担はこんな感じか」

 

 

問題なくメンバーは集まり、早速今日の作業の担当を分けていく。

 

小道具や飾りの製作や買い出しは、二乃、逢見先輩、海央の3人。

 

 

「作業の方は家でやっちゃっていいの?」

 

「うん、別にここでやる必要はないしな。家なら必要な道具も一通り揃ってるし」

 

「分かりましたー」

 

「りょーかいです!」

 

 

買い出しなら海央の足があるのですぐに済む。

 

妹属性二人の面倒ならソラさんがうってつけだ。

 

最も手が掛かるのは海央だけかも知れんが。主に突発的なドジの発生で。

 

それで次は恋愛相談。ここは変わらずに白河とおれ、なのだが……。

 

 

「………………」

 

 

珍しく、白河が何も喋らずに考え込んでいる。

 

こういう時は真面目に頭を働かせているので、暫く様子を見るか。考えが纏まれば、ちゃんと相談してくるだろうし。

 

まぁ、恐らく有里栖についての相談件数の増加の件だろう。機能COMUでそんな嘆きを呟いてたし。

 

で、そんな白河の様子が気になった一登が先におれに声をかけてくる。

 

 

「灯火、白河は大丈夫か……?」

 

「ん、ああ。今は頭ん中で色々と計算してるんだと思う。恋愛請負自体は滞りなく進んでるから、何か相談事とか報告あったらコッチから言うよ」

 

「オッケー、了解だ。……それじゃ、昨日出来たチラシの入稿についてだけど___」

 

 

と、一登が分担の確認に戻る。

 

チラシの入稿は杉並がやるようだが、なにか不穏な会話になっている。印刷屋の弱みとかどんな生活してたら握れるんだよ。杉並だからで納得出来るのがもう完全にアレだが。

 

と、そこで白河の考えが纏まったようで視線がおれの方を向いてくるので、取りあえず近くに移動する。

 

 

「考えは纏まったか?」

 

「纏まりましたとも。……いやー悪いね、待ってもらってさ」

 

「気にすんな。それで、どんな悪巧みを考えたんだ?」

 

「不正解。悪巧みではありませんよ。歴とした交渉です」

 

 

交渉って……誰と交渉するのさ?

 

 

「それは後で説明しますよ。まぁ、先に言っておくと芳乃にはメチャクチャ働いてもらうことになります」

 

「あいよ。そんじゃ気合入れるとすっかな」

 

 

説明があるならその時に聞けばいいか。

 

そう考えてSSRの分担の振り分けに耳を傾ける。

 

一登は今日も有里栖の手伝いになりそうだ。順調に交流を重ねて行ってるなぁ……と、思わずにはいられなかった。

 

叶方は台本で後に杉並が合流予定。メチャクチャ面白いのを期待しておく。

 

そんな感じで分担も終わり、各々がそれぞれの作業を開始する。

 

おれと白河もお互いに顔を頷かせてその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あー、おのれらー、今日はちょっと話し合いするから少し離れててくれよー。今度来た時にめいいっぱい構ってやるから。というか他にお客さんいるからそっちで遊んできな」

 

「「「にゃー」」」

 

「…………相変わらず、お猫様にはメチャクチャモテてますね、キミ。というかやっぱり意思疎通できてません?」

 

「そりゃねこだもの」

 

「だから理由になってないんですよ!?」

 

 

____月見団子にて。

 

 

道中で白河からある程度の概要を聞き、交渉相手との待ち合わせ場所である月見団子に揃って足を運ぶ。

 

体質なのか猫が一切寄り付かない白河とは真逆に、いるだけでねこフルアーマーを纏ってしまうおれは、予めねこ達に頼むことでフルアーマーを回避していた。

 

 

「それでも頭に一匹だけ黒いこどものお猫様が残ってますね。というかいつもその子、芳乃の頭に乗ってません?」

 

「コイツはまぁな。大人しくしてくれるならコイツはいいよ」

 

「うにゃー」

 

 

と、頭の上の黒ねこが欠伸をしてそのまま器用に寛ぎだす。その様子を見てた白河の視線が微笑ましいものを見るそれになる。

 

 

「……ふふ、寛いで安心しきってますねー。とてもお気に入りなんですね、芳乃のこと」

 

「にゃ」

 

 

白河の言う通り、おれの頭の上には一匹の黒い子ねこが乗っているが、コイツはいくら言っても退いてくれないので放置している。

 

月見団子に来る度にここに陣取る奴だ。なぜかコイツには特に懐かれてる気がする。嫌ではないので別に構わないのだが。

 

 

「取りあえず、なんか頼もうぜ。白河は決まってるか?」

 

「んー……芳乃はもう決まってる?」

 

「抹茶オレと水鏡餅。月見団子のメニューで迷ったら水鏡餅が一番だ」

 

 

【手のひらから和菓子を出す魔法】でも、完璧な再現が難しい月見団子の看板メニュー。それが水鏡餅。

 

なんでもその昔、月見団子の初代店長が見出した看板娘が作り出して、それ以来この店の看板メニューの一つとなっている。

 

桜色の綺麗な色で見た目も楽しめる絶品である。

 

 

「以外……でもないか、キミ結構甘味好きでしたね。あと水鏡餅はボクも好きなんですよ。だから同じメニューで行こうかな?」

 

「にゃー」

 

「同じ奴な、了解。で、おのれも? 流石にやめとけ。ねこ用の餌貰ってやるから、それで我慢しときな。あ、すいませーん」

 

「んにゃっ」

 

 

看板娘の梓さんに同じメニュー二人分とねこ用の餌を注文する。

 

運ばれてくるまでは少し時間がかかるだろうから、今のうちに話を煮詰めておくか。と、頭の黒猫を撫でつつ白河に尋ねる。

 

 

「で、昨日のCOMUでも聞いた通り、おのれの所に有里栖への恋愛相談が多発してるって訳か」

 

「正解。『神様仏様ひより様、どうか手前の小指に、鷺澤有里栖嬢との赤いご縁を結んでくださいまし!』って具合のやつが殺到していまして……」

 

「問題は、その数って訳だな」

 

 

ここら辺は杉並の予測通りか……誤算があるとすれば数がそれ以上って事だろうか。

 

 

「鷺澤本人にその気もないですし、はっきり断っても良いんですけど、この際レジェパのこと教えても良いんじゃないかなって思って」

 

「合点がいった。そうすると参加者が想定の倍を行って、ちょっと危険になるかもって訳か。で、その際の対応策を今から交渉するんだな」

 

「正解。いくら学園挙げてのお祭りテンションだからって、大の男が大勢でレースをやってたら廊下が溢れかえっちゃうからね。流石に、こればかりはボクたちだけではどうしようもないですし」

 

 

さて、そうなると交渉相手が誰なのかも予想がつくし、おれにメチャクチャ働いてもらうって意味も理解出来てくる。

 

 

「……なるほどな、おれは「交渉材料」って訳か」

 

「驚愕、そして大正解。……というか分かっちゃうんですか? ホントにキミの頭の回転どうなってるんです?」

 

「慣れだよ、慣れ。ま、杉並ほどじゃないけど。……それに単独行動には慣れてるし、今回はイベント成功させるためにもそっちのほうが良さそうだ」

 

「……無理言っちゃうし、申し訳ないですけど、お願いしますよ芳乃」

 

「任しとけ」

 

「にゃにゃ」

 

 

それからやって来た抹茶オレと水鏡餅に舌鼓を打ち、黒ねこにも餌をやって(餌を食べたらまたおれの頭の上に陣取った)、交渉についての細かいところも共有したところで、待ち人がやってきたようだ。

 

 

「はぁ、はぁ……遅れてごめん、ひよりちゃん」

 

「未羽、こっちこっち!」

 

「こんちわ美嶋さん」

 

「にゃー」

 

「あ、あれ? 芳乃先輩も? って___!」

 

 

白河だけじゃなくて、おれもいることに意外そうな顔をする美嶋さんだが、おれの頭の上に黒ねこが乗ってるのを認識すると、なぜか噴き出しそうな表情を浮かべる。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいね……!その、芳乃先輩の頭の上の猫ちゃんが、芳乃先輩とおんなじ動きしてて……!」

 

「ああ、うん。未羽には耐えれなかったか……。斯くいうボクもギリギリで噴き出すの耐えてたんですけども」

 

「なんかよく分からん内にウケてる」

 

「にゃにゃ」

 

 

という訳で、来てそうそう噴き出すのを我慢した美嶋さんが落ち着くのを待ってから、改めて話し合い、もとい交渉開始である。

 

 

「お、おまたせしました……! それで、ひよ___こほん、白河さん、大事な相談って一体……」

 

「うん、実は未羽に、と言うか風紀委員に先に通しておいた方が良さそうな話があってね」

 

「…………ま、まさかそれ、恋愛請負のこと!? ダメ、絶対ダメ! 許さないからね!」

 

「あ、美嶋さん、ねこ達が驚くから、もうちょっと声は抑えめにな」

 

「にゃー」

 

 

おれと黒ねこに指摘されてハッとする美嶋さん。

 

「だから動きがシンクロしてますよ」とこっそりツッコむ白河。

 

うん、この黒ねこ、芸達者だよな。頭を撫でてやると喉をゴロゴロいわす。かなりご機嫌のようだ。

 

そして指摘された当人である美嶋さんは羞恥心からか、縮こまってしまう。完全に小動物の生態だった。

 

 

「あ、あう、すみません……」

 

「安心してくれていいよ、今回相談するのは恋愛請負じゃないんだ。まぁ、無関係ってわけでもないんだけど……」

 

 

「とりあえず話を聞いてほしい」と白河が前振りを入れてから、かくかくしかじか、これこれうまうまと、【恋のレジェンドバトルパーティー】を開催する経緯を話す。

 

聞いた当初は、優勝商品が有里栖への告白権だというのに難色を示していたが、そこは白河の説得と既に中央委員会(生徒会)に許可を貰ってることで事無きを得た。

 

 

「……っていう概要を分かって貰った所で、本題に入るんだ」

 

「あ、はい。それが、私に相談したい内容なんですね?」

 

「正解。この【レジェパ】なんだけど、こっちが思っている以上に参加人数が膨らみそうなんだ。場合によっては大勢の人間が、学園内を走り回るかも知れない」

 

「う……全員、男の人、なんだよね? ……想像するだけで怖いかも……」

 

「優勝商品がアレだからな……。有里栖狙いのヤロウ共が血走った目で走り抜けるのは容易に想像出来るな」

 

「にゃっ」

 

 

パッと考えただけでも地獄絵図なんだよな。死物狂いでヤロウ共が廊下を駆け抜けていく様子は。

 

それでも想定通りの人数だったなら、問題が起きても、おれと海央でギリギリ対応出来たと思うが……。

 

想定の倍、下手するとそれ以上と考えるといくらなんでも対応しきれないだろう。個の力じゃ問題なくても数が圧倒的に不足してるから、どうしても綻びが出る。

 

 

「そこでなんだけど……風紀委員の中で当日仕事がない人を数名貸してくれないかな? 参加者があまり羽目を外し過ぎない様に警備員的な形でさ。そういう人間がいるってだけでも抑止力にはなるし」

 

「……無理かもって言ったら、どうなっちゃうの?」

 

「ボクが困るかな。生まれて初めてクレームが来るかも」

 

 

まぁ、白河のネームバリューにも傷が入るが、失敗した時の一番の懸念は目的である有里栖の意思表示が上手く行かない事だろう。

 

それは絶対に避けるべき事態だ。なので、更に手札を切る。

 

 

「当然、そのまま風紀委員の人員の貸し出しするんじゃ、そっちもしんどいだろうし、交換条件を出そうと思う」

 

「にゃーう」

 

「交換条件、ですか?」

 

 

美嶋さんが食いついた所で、白河が視線をこちらに向ける。それを受けておれも頷いた。

 

 

「恋パの当日、そこの芳乃を運営側に貸し出しするっていうのはどうだい?」

 

「芳乃先輩を、ですか?」

 

「そう! 未羽もよく知ってるだろうけど、ナイフ持った暴漢二人相手にしても即座に制圧できる格闘能力!

 

複数名の風紀委員相手にも余裕で逃げ切る脚力と体力!

 

そして目立ってないけど実は頭の回転も早ぁい!

 

……そんなハイスペック体力おばけゴリラをメチャクチャ忙しい恋パ当日に運営側の戦力として好きに動かせる! お得だと思わないかい!?」

 

「やっぱゴリラ扱いかよテメェコノヤロウ」

 

 

つか、通販の目玉商品の紹介か。ゴリラ扱いは流石に意義を申し立てるが、交渉の最中なのでツッコミのみに留める。

 

……そう、これはレジェパの不安定さを風紀委員で補ってもらう代わりに風紀委員にも特大の戦力を送るっていう交渉だ。おれが言うとなんかアレだが。

 

とにかく、この話が通れば白河のところに来た相談者達を誘導して、レジェパを受け皿として使用するとことが出来る。

 

 

「で、でもそれだと芳乃先輩が大変じゃありません? と言うか当日はそのイベントに関われなくなるんじゃ……」

 

「おれとしてはイベントを成功させて、有里栖の悩みを解消するのが優先だからな。寧ろイベント当日にトラブルが出ない様にしたほうが遥かに合理的だ。……あと、おれがいなくても海央がいるし、荒事が起きても任せられる」

 

「あー……、それもあるから結構乗り気だったんですね」

 

「単純なフィジカルと近接戦闘能力だけ見れば、アイツのが上だからな。寧ろやりすぎないか心配なレベルだ」

 

 

それを聞くと美嶋さんが目を丸くする。

 

美嶋さんが知ってる海央は人懐っこいわんこな姿だけだろうし、無理は無いだろうが。

 

本気を出すと格ゲー真っ青の連続コンボもしてくるからな、アイツ。殺意が隠しきれてない。

 

 

「って訳で、当日なら幾らでもコキ使って構わないから、なんとか頼めないかな?」

 

「にゃー?」

 

 

黒ねこを頭から下ろして、美嶋さんに頭を下げる。

 

ついでに黒ねこも頭を下げる。

 

とうとう白河が噴き出しそうになった。はいそこ、今真面目な所だからな。踏みとどまってな?

 

 

「あ、頭を下げないでください、困ります……! その、あの、うぅぅぅぅ〜……は、話だけなら!してみます……」

 

「ん?」

 

「にゃ?」

 

「い、委員会の会議で、まず話すだけなら……してみます。恋パ当日も、風紀委員は仕事がありますけど、全員が忙しい訳ではないので……多分、大丈夫だと思います」

 

「ほんとか!? ありがとな美嶋さん!」

 

「にゃー!」

 

「や、約束は出来ませんよ? まだ、話をしてみるだけですから……」

 

「や、それだけで十分だよホント」

 

 

まだ本決まりではないけど、とりあえず話は通してくれる様なので一安心か。

 

風紀委員会のことだ。今年も杉並がやらかすかも知れないってことは分かってるだろうし、4バカの一人を実質封じるって意味でもこの交渉は美味しいはずだ。高確率で採用されるだろう。白河もそれを狙ってたのは間違いない。

 

兎にも角にも、これでイベントをヤロウどもの受け皿として使っても問題ないだろう。

 

ほっと息を吐くと、同じタイミングで白河も一息吐いていた。視線を向ければウィンクしてきたので、ニッと口角を上げて笑って返しておく。

 

 

「ふぅ、良かった良かった……。ボクからも感謝するよ、未羽」

 

「これくらいなら全然いいよ。それにひよりちゃんに恋愛請負をさせないためにも繋がるし」

 

「はっはっはっ、それとこれとは話が別さ! 今回は鷺澤の件で無理が生じただけって話だし」

 

「もぅ、ひよりちゃんってば……」

 

 

相も変わらない唯我独尊っぷり。

 

こういうハチャメチャさが白河だよなぁって、頬杖つきながら思う。残念な美人だの、散々な異名が付いてるだけある。

 

 

「いやぁ、それにしてもモテるって良いことばかりじゃないんだねぇ……。それなりの苦労があるっていうか、こういうの、税金に近いものを感じるね」

 

「ちょっと違う様な気がするけど……」

 

「有名税って奴か。……それなら、白河にも浮いた話の一つや二つくらいありそうだけどな」

 

「……ボクに?」

 

 

あぐらの上に移動して気持ち良さそうに丸くなって寝始めた黒ねこを優しく撫でながらそんなことを呟くと、白河がキョトンとした表情を見せ、次の瞬間には大笑いしていた。

 

 

「……あはっ、あははははははっ! 芳乃も中々気の利いた与太話を持ってきますね ! ボクにどんなあだ名が付いてるか知らない訳じゃないでしょう?」

 

「確か、残念な美人だったか」

 

「他にも、ダイナマイト暴走列車、全力のスーパーセル、疾風怒濤の恋愛請負人とか」

 

「絶対に、今考えただろ奴だろそれ?」

 

 

明らかに聞いたことのないのばっかりなんだが。

 

 

「あはは、とにかく浮いた話は一つもないので」

 

「チッ、いたらいたで徹底的に弄り倒す方向だったがな」

 

「油断も隙もないですねこのゴリラ!?」

 

「誰がゴリラだ誰が。おのれの頭の上に新鮮なバナナの皮乗っけてやろうかコラ」

 

「やっぱりゴリラじゃないですかゴリラー!」

 

 

なにかもう御約束となってるゴリラ弄りからのツッコミのやり取り。それを見た美嶋さんはなんだか目をパチパチとさせて、ふいに小さく笑った。

 

 

「……ふふ、ひよりちゃんと芳乃先輩って、仲良いよね」

 

「……まぁ、なんだかんだ最近はずっと一緒に行動したり夕飯一緒に食べたりしますしね」

 

「いつの間にか海央が連れてきてたもんなぁ……。あ、今日の晩飯どうっすかな。どうせおのれも食うだろ?」

 

「リクエストありなら……。あっ、海央ちゃんから聞きましたけど、麻婆豆腐も得意なんでしたっけ」

 

「ああ。それじゃ、それにすっか。美嶋さんも来るか?」

 

「え?! い、いいんですか?」

 

「今更一人二人増えても変わらんさ。つか、今日は海央の奴、一登ん所で飯食うからな」

 

 

予めソラさんから海央を夕飯に誘う……つか泊まるって聞いてたからな。1人分空くから丁度いい。

 

 

「芳乃の炒飯もすっごく美味しかったから、期待していいと思うよ?」

 

「ひよりちゃんがそこまで言うんだ……なら、ご馳走になって、いいですか……?」

 

 

控えめなその返事にサムズアップで返す。腕によりをかけないとな。

 

 

 

そんな感じで美嶋さんとの交渉は無事に終わり、【レジェパ】の開催への不安要素を取り除くことに成功した。

 

その代わり、おれは当日イベントに関われなくなるが、あまり大した問題ではないだろう。

 

おれがいない時に荒事が起きても、海央なら対応出来るし。

 

その後暫く当日の流れを聞いて、白河と美嶋さんと一旦別れ、商店街で麻婆豆腐の材料、その他必要な物を買い集めながら、当日に思いを馳せるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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____その日の夜。

 

 

 

 

『ピリッとする辛味の中に封じ込められた確かな旨味……ホントに絶品でしたね、芳乃の麻婆豆腐……!』

 

『うん。辛いのに、次の一口が止まらなくて、自分でビックリしちゃった。芳乃先輩、ホントにお料理が上手ですね』

 

 

夕飯は宣言通りの麻婆豆腐。海央を抜いた、いつもの面子である叶方と杉並に白河に加えて、今日は美嶋さんもいた。

 

最初は男の部屋に入るからか、緊張していたみたいだったが白河と見た目だけ女子な叶方がいたのですぐに緊張は解けたようだ。なお、杉並は飯ができた時点でいつの間にかいた。奴は忍者か。

 

で、せっかくなので本気出して調理をした結果、上記の感じで高評価だったのは、作った側としては嬉しい限りだ。

 

取りあえず、美味しく食べてもらえたので作る側としては大満足の夕飯を終え、またまたジャンケンで負けた叶方が食器を洗い、食後の一息をついてから解散となった。

 

いつもよりどこか静かな自室の中、課題をさっさと終わらせてのんびりとベットで寛ぐ。

 

静かに感じるのは、いつもは就寝ギリギリまで、下手したら朝までこの部屋で寛ぐ妹分がいないからだろう。

 

普段はベッドを占領しているからな、あのアホ。……おれの部屋なのにな、ここ。

 

 

PiPiPiPi♪

 

 

と、そんな事を考えているとTABの着信音が鳴る。

 

誰もいないので【取替の悪戯(チェンジリング)】でパッと手元に取り出して画面を見ると、その騒がしい妹分からだった。

 

 

「はいコチラ中華料理店【泰山】学生寮支店」

 

『なに言ってるのお兄ちゃん……?』

 

 

なお、【泰山】はおれのバイト先でもある。今日は休んだが。

 

 

「麻婆豆腐作った後だったから、ついな。で、どした?」

 

『あー!麻婆豆腐、あたしも食べたいー! ……じゃなくて、例のトカゲ処理、明日の夜に決まったんです』

 

「ああ、ゴキブリトカゲ共か」

 

 

まさかのゴキブリみたいな特性も持ってるとか傍迷惑にも程がある。この前はおれ一人で殲滅出来たが、流石にあれ以上の数だと化け物リボルバーだけじゃ心細い。

 

 

『【防人】からも2人ほど来て、あたしも入れて3人。で、当主様がトーカ先輩にも手伝って欲しいって。報酬も出すから絶対に来い。来ないとシメる。だってさ』

 

「ハナから拒否権ないのかよ」

 

 

まさかの脅しだった。それで良いのか当主(おじさん)。

 

まぁ、報酬も出るっぽいし、放っておくのも目覚めが悪そうだし。他の【防人】がどんな奴らか気になるが、それは当日に確かめるしかないか。

 

 

「仕方ない。さっさとやって、さっさと終わらせようぜ」

 

『……正直、トーカ先輩がいると心強いけど、妹としてはお兄ちゃんが心配かも』

 

「まぁ、いざとなったら手札の一つや二つに三つ取り出すしな」

 

『その手札が! あたしは心配なんですよぉ! 主に被害の拡大的な意味でぇ!!』

 

 

一度だけ海央にはその手札を見せた事があったのだが、案の定宇宙を背負う猫みたいな表情になっていた。

 

反則中の反則みたいなもんだし、仕方ないっちゃ仕方ないが。

 

 

『要件はそれだけなんです。……という訳で、明日はがんばろうね?』

 

「後処理のがぶっちゃけ大変な気がするけどな」

 

『それは仕方ないです……って、あ。二乃にゃん先輩と一登先輩が呼んでるから通話切るね?』

 

「ああ、おやすみ」

 

『おやすみ、お兄ちゃん』

 

 

そこで通話が切れる。

 

さて、明日はレジェパの準備も恋愛請負も休みだし、話通りだと夜までは暇になるが、なにをしようか。

 

そんな事を考えてると、またTABから着信音が鳴る。海央がなにか伝え忘れたのか? と思ったが、発信者はなんと有里栖だった。

 

 

『こんばんわ。夜遅くにごめんなさい、芳乃君』

 

「よっ。どした、こんな時間に」

 

『うん、明日暇があるかなって』

 

「暇っちゃ暇だな。夜にちょっと海央の手伝いでゴタゴタがあるが、それまでなら暇だ」

 

 

最悪、寝溜めするつもりだったが、なにかあるならそっち行くのも悪くないな。暇つぶしにはちょうどいいだろう。

 

 

『良かったー……。実はね、ワンダーランドの新アトラクションのモニターを頼まれて、友達を誘って欲しいってお願いされてね』

 

「……マジか」

 

 

暇つぶしにちょうど良いどころか、かなり貴重な体験だろ、それ。

 

行くしかねぇじゃん。行く以外の選択肢ねぇじゃん。

 

 

『さっき常坂君を通じて海央ちゃんも誘ったから、良かったら来てくれる?』

 

「おっけーだ。楽しみにしとく」

 

『ふふ、明日はよろしくね。あ、ひよりんも来るから、そこは安心してね』

 

「? 何故に白河がいると安心に繋がるんだ?」

 

 

いや、最近はずっと一緒に行動してるせいで、白河いると会話が弾むし居心地いいから良いんだけどさ。

 

 

『……うーん、これはまだ自覚ない感じかな……?』

 

「何の話だよ?」

 

『あ、うん、こっちの話。それじゃ、私は今から杉並君も誘ってみるね』

 

「……奴も誘うなら十二分に警戒しとけよ。絶対にやらかすぞ、奴は」

 

 

断言してそう言うと有里栖が乾いた笑い声を出してきた。日頃の行いが故に容易に想像出来たらしい。

 

 

 

____そんな感じで明日の予定が決まった。

 

 

 

昼はダチとワンダーランドの新アトラクション。

 

 

夜は【防人】達とゴキブリトカゲの駆除。

 

 

日常と非日常が入り交じる日になる。

 

 

なので、有里栖との通話を終えたおれは英気を養うために早めの就寝を開始する。

 

 

ゴキブリトカゲ駆除は大変そうだが、新アトラクションとやらは素直に楽しみたい。

 

 

そんな事を考えながら、おれの意識は眠りにより閉ざされて行った____。

 

 

 

 

 

 

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