D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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オリキャラ二名投入。


EPISODE 9

 

 

 

 

 

「____はいっ、香々見島に到着〜〜〜!あー!フェリーの船旅、長かったわぁーーー!」

 

 

香々見島の港口にて、そう元気よく呟いたのは一人の少女だった。

 

長旅だったのだろう、背伸びしながら少女は体を解していく。

 

スタイルがいいらしく、色々と揺れるモノに他の乗客……主に男性の視線を掻っ攫っていくが、幸か不幸か本人はそれに気づいていない。

 

 

「お仕事までは時間もあるしー、ちょっと観光を楽しむのもええよねー♪ 噂のワンダーランドとかー♪」

 

「……相変わらず呑気ですね、先輩」

 

 

その様子をどこか呆れた様子で見るのは、その少女とほぼ同年代の少年。

 

冬らしい厚着にマフラーを首にかけていて、表情は少し読み辛いが、その視線だけは凍てつくように冷たい。

 

 

「そりゃお仕事もあるけどねー。でもでも、あの娘に会えるってなったら、元気とか活力とかでるもんよー?」

 

「当主の娘ですか……確か、今はここで学生してるんでしたね」

 

「そうそう! んー!学生服着たミオちゃんも可愛いんやろうなー♪ 写真に収めへんとなー!」

 

「……ほどほどにしてください、いやマジで」

 

 

ため息を吐く。

 

言った所で聞かないのは目に見えてるので、ため息を吐く事しか出来ないとも言う。

 

 

「何事もなく、終わればいいけど」

 

 

浮かれてる少女を尻目に、少年は歩き出す。

 

そんな少年に気づいた少女も慌てて少年を追う。

 

 

「なになにー? ジン君は不安なことでもあるん?」

 

「分かってるでしょう、先輩も」

 

 

更にため息一つ。心配事は絶えない。

 

 

「【裏切り者】の息子、咲三灯火……今は別の名前か。当主が推薦してきたとは言え、実力は未知数……というより、【裏切り者】直々に幼い時に関係を断ち切られてるのに、使えるのですか?」

 

「んー。そこはウチも気になったなぁ。“トーカ君”の動向、あれから分からんかったし。けど、当主様がやたら自信満々でなー?」

 

「知り合いだったんですか?」

 

「一度か二度だけ、会ったことある程度やけどね。お師匠……今の当主様から見ても才のある子やったって言ってたわぁ」

 

「……まぁいいです。実際に会った時に確かめればいいんですから」

 

「ん、それでええと思うわー。ほな、早速ワンダーランドにレッツラゴー♪」

 

「任務前なのにワンダーランドに行くのは確定なんですかそうなんですか、というか僕も巻き添えなんですか」

 

 

お気楽極楽トンボな少女に、ため息の絶えない少年。

 

二人の“魔法使い”は、同じ様に入港した人々に混じり、町中へと消えていった___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 9-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2/10 日曜日。降水確率は低い、念のため洗濯物は部屋干し。

 

 

 

 

 

「……叶方ェ、よりにもよってこういう時に用事か」

 

「ふむ、間の悪さは拭えないな。まぁ、その分我々で楽しむだけだが」

 

「杉並の楽しみ方には、なにか含みがある気がするけどね」

 

「何を言う。堂々と大企業の心臓部に潜り込めるのだぞ? これが心躍らずにいられるものか!」

 

「「そう言う所だよ!(ですよ!)」」

 

 

何時もの寮暮らしのメンバーだが、一人足りないのは用事があると言うことで不参加の叶方だ。本人もたいそう悔しがっていたが、どうにも外せない用事らしいので仕方ない。

 

場所は既にワンダーランドの入場口前。

 

指定された約束の時間より大分早いが、おれも白河も早起きが癖になってる奴なので、自然と早く出てしまったのだろう。

 

杉並は知らん。奴はいつの間にかいた。

 

なお、海央が常坂家で泊まってたので、今日の日課は魔法の修行に加えて軽い筋トレにのみ留めている。

 

 

「分かってて、なおやらかすだろうけど、一応釘刺しとくわ。自重しろよ杉並」

 

「はーはっはっは! その言葉は俺の辞書には存在しない言葉だな! 止まれと言われて止まる俺ではない!」

 

「ホントにブレませんね、この男は。ファイトですよ芳乃」

 

「心の底から言わせてくれ。かったりぃ……」

 

 

いやまぁ、ブレないからこその杉並なので、どうしようもないっていうか。一応は有里栖の誘いだし迷惑かけんのもアレだからな。

 

いつもブレーキ役の叶方がいない以上、おれか一登でどうにかするしかないか…………なんで初手からこんなに気疲れしてるんだ。

 

 

「___おっはようございまーす! 早いですね皆さん!」

 

「うわっと!?」

 

 

ふと、突如として眼の前に現れた人影に思わず驚く。

 

……気配を、まるで感じなかった。

 

驚いてしまったのはそれが原因だろう。生命としての気配を全く感じないとは、杉並とはまた別レベルでの驚愕だった。

 

 

「おや、もしかして芳乃は“アリス”を見るの初めてだったのかい?」

 

「アリス……? ああ、これが人工妖精を使ったホログラムのAIか……」

 

 

視界に映ったのは、おれの知る有里栖そのもので、違う点はその洋服と気配がしない点か。

 

話には聞いてたが、実際に相対するのは確かに初めてだ。

 

 

「はじめまして! 私は香々見ワンダーランドのメインキャスト! 不思議の国のアイドル! アリスです!」

 

「ああ、こんちわ。……って、妙な感じだな。視界では確かにそこにいるのに、存在感が全く感じられねぇってのは。てか、ホントに有里栖そっくり……つか、見た目は有里栖そのものだな」

 

 

気配……と言うか魔力と言うべきか、あるはずのものがないと言う違和感が大きい。

 

実際に眼の前で確認したからこそ改めて思うが、技術の進歩が目覚ましいな。見た目は有里栖なのに性格のテンションが違い過ぎて脳が混乱しそうだ。

 

しかし、そのテンションや性格を除けば……なるほど、これは確かに有里栖とアリスの見分けが付かなくなる訳だ。有里栖の悩みの原因でもあるが、当の本人も仕事だしな。

 

……本人? 本AI? いやもう本人でいいか。

 

 

「……む? むむ? んー? んーーーー?」

 

 

その当のアリスは何故かおれの顔をまじまじと見つめて何かを考えている。

 

なんだ? つか、首を傾けて考える仕草もなんか普通の人間っぽいんだが。

 

と言うか有里栖とほぼ同じ顔でじーっと見つめられると、流石におれでも照れるぞ? もしかしてこういう行動を割とよくしてるのか? だとしたらやっぱり元凶コイツじゃねぇか???

 

そのアリスの行動に杉並は興味深そうに、白河は……なんか悪戯顔になってる。あ、コレ後でイジられる奴だ。かったりぃ。

 

 

「……お兄さん、お兄さん。変なことを聞いちゃいますけど、民家の屋根とかを爆速で移動したこととかあります?」

 

「…………………………………………………いや、ない」

 

「その間はなんなんですか、その間は」

 

 

アリスの視線と白河のツッコミから全力で目を逸らす。冷や汗をダラダラと掻きながら、だ。

 

はい、思いっきり爆走したことあります。

 

強化魔法使って思いっきり走りました。二ヶ月前に。

 

でもなんでそんなこと、このアリスが知ってるのやら。

 

……もしかしたら人工妖精の集めたデータで判別したとかだろうか。だとしたら想像以上に性能が高いな。

 

 

「なにか妙な間があった気もしますけど、いくらなんでもただの人間にそんなことは出来ませんよね」

 

 

まさか魔法使いだ。なんて言えるわけもなく、苦笑いで返す。……いかん、次からはもう少し気をつけよう。

 

 

「いえ、芳乃はゴリラなので、やろうと思えば出来るかもしれません」

 

「間髪入れずに何デタラメを吹き込んでやがるテメェコノヤロウ」

 

 

面白がってボケを挟むな! ややこしくなるだろうがっ!? つか、誰がゴリラだゴルァ!

 

 

「わ、学生寮メンバーは流石に早いね! おはようみんな!」

 

 

とかなんとか言ってる内に、有里栖本人もやって来たようだ。ちょうどいい。追及されても面倒だからこのまま有耶無耶にしてしまおう。

 

で、その有里栖だが、こっちは普通に私服だ。しかし、アリスと並ぶとやはりパッと見は見分けが付かなくなる。

 

……いくら人工妖精のおかげで気温が保たれてるとは言え、肩出してるのは勇者じゃなかろうか?

 

 

「おはよう鷺澤。今日は誘ってくれてありがとう」

 

「おはよーさん。……取りあえず有里栖、杉並にはマジで警戒しとけ。絶対にやらかすから」

 

「うん、それはもうよく分かってるから」

 

「心外だな。俺ほど清廉潔白な存在など存在しないというのに」

 

「清廉潔白な奴は、んな胡散臭いことわざわざ言わねぇんだよドアホ」

 

 

杉並の戯言にツッコミを入れてからため息を吐く。

 

取りあえずコイツは絶対に信用しないように、と。

 

 

「あ、そうだアリス。常坂君達を迎えに行ってくれる? もうそろそろ来る頃だし」

 

「了解です!このアリスにお任せあれー!」

 

 

と言って、姿を消すアリス。元々気配も魔力も感じなかった事もあり、その場には残滓すらも残らない。

 

魔法を使った分身や投影でもマナの残滓くらいは残るので、こういう感覚はあまりにも新鮮だった。

 

おじさんの身体能力ゴリ押しの瞬動ともまた違うし。……いや流石にキングコングと比べるのはアレか。あれは物理法則に真正面から喧嘩売ってる類だし。

 

 

「つか、同じ服着てたら目視だとマジで分かんねぇな有里栖とアリス。気配のある無しでようやく分かりそうだ」

 

「あはは……。まぁ、私をモデルにしてるからね」

 

 

そのせいで色々と有里栖の方に問題が起きてるので、儘ならないよな。せめて髪色を変えるとかして、少しくらい実在する人物への影響を考えろよとも思う。

 

……ワンダーランドってか鷺澤グループの社長でもある有里栖の親父さんて、もしかして親バカか?口に出したら流石に失礼なので絶対に言わんが。

 

そんな事を考えつつ、白河や有里栖、杉並とテキトーに雑談しながら常坂一家+αを待っていると、暫くしてその姿が見えてきた。

 

 

「やっほー! こっちーだよー!」

 

 

と手をブンブン振りながら有里栖が呼び掛けると、一人がこっちに向かって光の速さで突っ込んできた。

 

予測は出来ていたが、これはもうアイツの何時もの病気なので、全てを諦めて悟りを開いた上で受け入れる。もはやツッコむのも無駄だとも言う。

 

 

「おっ兄ちゃーーん!おっはよーーーっ♪」

 

「ぐふぅっ」

 

 

ドゴォン!と、およそ人体が出してはならない音と共に1日ぶりの駄後輩がおれの腹部に突撃し、何時ものように、そして何時ぞやのように、そのまま抱きついてホールドして、おれの胸元辺りに頭をグリグリとして甘えてくる。

 

被害は鳩尾の直撃。それによる口からの吐血。

 

寧ろ吐血で済んで良かったと思うべきか。何時ぞやよりも海央もレベルアップしてるので寧ろ助かったと言うべきか。

 

 

「芳乃ーーーー!?」

 

「いやいや、海央ちゃん早っ!?」

 

「まるで飼い主を見つけたワンコのような勢いだったな。勢いよく振られる尻尾をまたしても幻視してしまったぞ」

 

「……なんか既視感を感じるんだが?」

 

「……完全に、前にワンダーランド来た時の焼き回しですよね。これ」

 

「あらあら、ほんとに元気だねー♪」

 

 

各人それぞれが海央の突撃に感想を述べる。いやほんとに既視感(デジャヴュ)が酷い。

 

そんな死に体のおれを思う存分ぐりぐりとした後、満足した海央は離れてから「むふー!」と、これまた何時ぞやと同じ様に満足した表情を浮かべている。

 

 

「充電かんりょー! 海央、いつでも暴れられます!」

 

「頼むからワンダーランド内では大人しくててくれ」

 

 

そのやる気と充電とやらは、夜に行われるトカゲ狩りに使ってくれ。頼むから。あと、一体何を充電してるんだ、何を。

 

 

「って、叶方はどうした? もしかして遅刻?」

 

「叶方君はお休み。今日は用事があったんだって」

 

「そうだったのか、もったいないな」

 

「という訳で、一登。おれとおのれだけで今日は杉並のストッパーだ」

 

 

そう言ってから揃って杉並の方へ視線を向けると無駄にいい笑顔をおれ達に向けてくるトラブルメーカー。……殴りたい、この笑顔。

 

 

「正直に言っていいか、灯火。……止められる気がしない」

 

「おれもだよ。でもやるんだよコンチクショウ」

 

 

野郎二人揃ってため息。それを見て杉並はまた愉快そうに笑う。

 

 

「だらしないぞ同志達! 特に芳乃! 恋パ当日運営側として活動するなら、これくらいどうにかせねばなるまい」

 

「なんで昨日関係者にだけ話した内容をテメェが把握してんだよ!?」

 

「なに、つい先程有志から情報が入ってな。無事に風紀委員会から生徒会に受理されたそうだぞ」

 

 

ああ、そういや今頃、美嶋さんが風紀委員会に例の話を報告してる頃か。つか、それだとスパイいるじゃねぇか風紀委員か生徒会に! もしくは盗聴器!?

 

 

「なんの話だ?」

 

「あー、そうだな。あとでCOMUに共有しとく」

 

 

白河に視線を向けるとこっちの意図を察して白河が頷いた。隠す意味も別にないしな。

 

という訳で、あとでCOMUに詳細を書き込むとしよう。

 

 

「アリスも、もう持ち場に戻っていいよ。案内ありがとね」

 

「はーい! それでは皆さん!新型を思う存分お楽しみください! あ、もし夕方まで満喫するようでしたら、私のステージを是非観に来てくださいね!

 

本日はなんとー!キャスト総出で送る、それはそれはもうとびきりのステージで___」

 

「はいはい分かった分かった、また後でねー」

 

「あはは、ではさよならー!」

 

 

営業トーク、無慈悲にも強制終了。

 

アリスはもともといなかったかのようにその存在を消した。それを眺めながら取りあえず呟く。

 

 

「商魂、逞しいな」

 

「あはは……はは……」

 

 

有里栖の乾いた笑いが虚しく響く。

 

ある意味で、あれは有里栖の天敵なんだろうか。

 

 

「それじゃあ仕切り直して、これで全員揃ったね」

 

「鷺澤、新型のモニターっていうのは聞いているけど、具体的にはどんなアトラクションなのかな?」

 

「ふふっ、便宜上はアトラクションってことになってるけど、実際は少し違うの」

 

「他のアトラクションとは一線を画すってことか?」

 

「うん、そういうこと。後は……実際に体験してもらった方が早いかも」

 

 

ふむ、有里栖がここまで言うってことは、相当期待出来そうだな。

 

隣の駄妹も同じ事を考えてるのだろう。

 

もう一目で分かるほどにワクワクしてる。

 

 

「はい、じゃあ関係者用の通路に行くから着いてきてね。……くれぐれも、勝手に散策したりしないこと。特に杉並君、迷子になったりすると大変だから、絶対やめてよね?」

 

「はーっはっは、言われずとも重々承知している。つまり鷺澤嬢、この世には暴いてはならないものもあるということだな」

 

「バカな事言ってねぇで大人しくしとけ、このバカ」

 

 

場合によっては実力行使もやむ無しか。

 

などと物騒な事を考えつつ、有里栖の先導に従って関係者用の通路へと向かっていく……その前に。

 

 

「………………」

 

 

……さっきからなにか妙な視線を向けて来る奴らの方を一瞥する。

 

しかしそれを察してか、フッとその視線と気配が消える。

 

入場口からワンダーランド内へと入っていくのは確認したが、悪意を持った気配ではない。ないからこそ、ため息を一つ吐く。

 

 

「……おいおい、援軍の【防人(サキモリ)】、ワンダーランドで遊ぶ気満々かよ」

 

「あ、あはは……なんかもう、誰が来たのか分かったかも」

 

 

同じく視線に気付いていた海央が苦笑いをする。

 

どうやら顔馴染が来てるらしい。

 

 

「多分、一人はトーカ先輩も知ってる人だと思いますよ?」

 

「どーでもいいし興味ねぇ」

 

 

海央やおじさん以外の【防人】の事なんて割とどうでもいいので、取りあえず皆の所へ戻る為に歩き出す。

 

少し遅れてから慌てて海央も着いてくる。

 

……まぁ、今のは様子見って所だろうか。使える奴なら良いんだけどな。

 

無駄にプライドが高いだけの奴は勘弁願いたいもんだ。そういうのは思わずドタマ吹っ飛ばしたくなるし。

 

それから有里栖と顔見知りらしいスタッフの案内により、ワンダーランドの裏側へと到着する。

 

一般人は入れないその区画には、パレードの際に使うキャストを乗せるための特別車両が置いていたり、スタッフ達が忙しく動いている。

 

テーマパークの裏側にいるんだと考えると、少しワクワクしてしまうのは、おれもまだまだ子供ということなのだろうか。いや、割と一登やソラさんもワクワクしてるみたいだからそんなこともないか。

 

で、暫く歩いていると、廊下になにか放置されてるのが見えた。

 

アリス以外のキャストの着ぐるみだ。

 

 

「あー、やっぱりこういのもあるんだな……」

 

「あ、あはは……見なかったことにしてね……」

 

「えーと、ウサギが『白兎』ちゃん、お姫さまが『ハートクイーン』さま、ねこちゃんか『チェシー』ちゃんでしたっけ?」

 

「海央、よく名前覚えてるな」

 

「パンフレット読み込みましたから!」

 

 

「どやぁ」と、渾身のドヤ顔と共に、相変わらず成長する兆しのないペチャパイな胸を張る妹分。

 

牛乳毎日飲んでるらしいが背も伸びないので不思議である。多分、全部体力に換算されてるんだろうけど。

 

 

「……お兄ちゃん、絶対に変なこと考えてるでしょ」

 

 

……そんなおれの考えを察したのか、ジト目になった海央が高速で脇腹を突いてくる。地味に痛い。

 

 

「まぁ、ずーっと園内にいるのも大変だからな。中の人とか、かなり疲れるだろ「常坂君」う、し……?」

 

 

一登のセリフを食い気味に有里栖が制する。

 

笑顔。有里栖はメチャクチャ笑顔だが、その笑顔に圧を感じて、思わず一歩後退る。

 

 

「中の人なんかいないよ?」

 

「いや、でもこれ「中の人なんていないの。……いいね?」アッハイ」

 

 

一登、圧に屈する。

 

いやこれは仕方ない。おれもビビってるし、海央に至っては涙目でガタガタブルブルしておれにしがみついてる。

 

なるほど、着ぐるみ相手に『中の人』は禁句なんだな。また一つ学んだわ。

 

 

「ふっ、夢は夢のまま壊してはいけないということか。鷺澤嬢も大変だな」

 

「そうだな、立場もあるだろうしな。……でも、取りあえず今起動したTABのカメラを切れば有里栖の苦労も少しは減ると思うぜ?」

 

「ちょっと杉並くーん!?」

 

「むぅ、流石に芳乃の視界にいる間は何もできないか」

 

 

そう言ってから素直にTABのカメラを切るトラブルメーカー。……素直過ぎるな。他に何か仕込んでると見るべきか?

 

一応はテーマパークの裏側、企業秘密の宝庫なのだ。流石にこのアホのアホ過ぎるアホな行動でアホみたいに迷惑をかけるのはあまりに忍びない。

 

取りあえず警戒は継続するとしよう。油断してるとミスディレクションの応用で視界から消えようとするのでホントに油断できない。どこの幻の六人目なんだコイツは。

 

____そんなこんなで杉並の警戒をしつつも歩き続け、辿り着いたのは『開発室』とドアプレートに書かれた自動扉。

 

先頭に立っていた有里栖を認識すると自動扉は開き、おれ達は有里栖を先頭に中へと入っていった。

 

 

「おぉ……ここが……!」

 

「雰囲気ありますね……。大企業の秘密のオフィスって感じです」

 

 

大きいモニターにはワンダーランドの様子が恐らくリアルタイムで映されており、部屋中にあるパソコンには数人のオペレーターが忙しなくキーを叩いてる。中には目に隈がある人もいる。お仕事お疲れ様です。

 

 

「ちょっと緊張しちゃうな」

 

「はは、今日やってもらうのは、ただのゲームみたいなものだからリラックスしてもらって大丈夫だよ」

 

 

と、一登の呟きに答えたのはスタッフらしき男性だった。その胸元には「日下」と書かれた、社員証も兼ねてるらしいネームプレートがある。

 

 

「あ、尚純さん、今日はよろしくお願いしますね」

 

「開発担当の日下尚純です。今日はモニターへのご協力ありがとうございます」

 

 

有里栖の呼び掛けから丁寧におれ達に挨拶する日下さん。なんというか真面目で話しやすい印象の男性だ。

 

 

「VRを体験してもらいますので、身体を動かしやすい様、荷物を預からせて貰っても大丈夫かな?」

 

「あ、分かりました」

 

 

一登の返事を皮切りに、おれ達も持っていた私物を日下さんが持ってきた小物入れに入れていく。主にズボンのポケットに入れてたサイフやTABだな。

 

あと持ってるのは【取替の悪戯】で使うビー玉くらいだが、それはまぁ邪魔になる訳でもないので別にいいか。というかなんでビー玉持ってるのか聞かれたときに説明がメンドクセェ。

 

で、持ち物を預け終えると交換する形でまずは一登にVRゲームなんかで使うヘッドマウントディスプレイって奴が渡される。

 

おれは何時もの面子でゲームセンターや一登の家に遊びに行った時くらいしか使った事がないが、記憶にある奴よりも一登に渡された奴は高性能な気はする。

 

なるほど、今回の新アトラクションはバーチャルリアリティって奴か。

 

 

「今回の新アトラクションは、VR機器で体験するようになってるの。その名も、カガミの国」

 

 

カガミの、国……?

 

何故だろう、どこかで聞いたことのある響きだった。

 

 

 

____ズキリと頭が痛む。

 

 

 

いつかどこかで感じた頭痛。

 

一瞬だけの痛みなので、そこまで気にすることはないだろう。それより、今は有里栖の話に耳を傾けよう。

 

 

「この名前はまだ仮だから、実装する時は少し変わっちゃうかもしれないけど……。あとは……ふふ、実際に体験して貰った方が早いかな?

 

___という訳で、まずは常坂君から始めよっか。ディスプレイの付け方は分かる?」

 

「大体はな。うちにも家庭ゲーム用のヘッドマウントディスプレイあるし。……被ってから、バンドで固定してっと……こんな感じか?」

 

「うん、ばっちり。それじゃあ尚純さん、お願いします!」

 

「OK。では、稼動させるよ」

 

 

有里栖の合図に応えた日下さんが、キーボードに何かを打ち込み始める。プログラム起動の操作だろう。

 

今の一登の視界や聴覚には【カガミの国】とやらが映し出されているのだろう。順番待つ間は流石に暇になるが、まぁ何時もの面子がいるので雑談でもしてたらすぐに順番が来るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……技術の進歩ってすげぇな」

 

「だねぇ。もう、すっごかった……!」

 

「ああ、なんかもう、スゴかった」

 

「いや語彙力」

 

 

呆れた様子で一登にツッコミを入れられる、おれと海央。

 

時刻は夕暮れ。

 

最新型のヴァーチャルリアリティを体験したおれ達は興奮冷めやらぬ中、それを話題に盛り上がりながらブラブラと街を歩いていた。

 

いやもう、ホントにスゴイっていう、そんな言葉でしか表現出来ないのだ。魔法を使った幻惑でも、あそこまで完成度の高いものは出せないだろう。

 

アリスを案内役とした、現実ではあり得ないような美しい世界。その表現力と来たら、とても言葉で言い表せるものじゃなかった。

 

二乃や逢見先輩、白河すらも未だに興奮気味で感想を話しまくってる辺り、相当お気に召したのだろう。あ、海央も混じりに行った。

 

 

「あれ、新アトラクションとして実装されたら、またワンダーランドの人気が上がるだろうな」

 

「ふふ、気に入ってもらって良かったよ」

 

 

今回誘ってくれた有里栖も、おれ達の反応には大満足らしい。いつもより2割増でニコニコしてる気がする。

 

 

「まぁ、それに気を取られて杉並から意識を外したのは一生の不覚だったが……」

 

「あ、あはは……」

 

「ハーハッハッハ! 修行が足りなかったな芳乃!」

 

「うるせぇ黙れ! もういっそ出禁になっちまえ!」

 

 

恥ずかしい話だが、新型VRに意識を向けた瞬間に杉並はこっそり抜け出して開発室を色々と嗅ぎ回ったらしい。

 

油断も隙もない。というかそれが分かってるのに防ぎ切れなかった自らを責めるべきか……。いや、やっぱり杉並が全面的に悪い。

 

 

「……で、おのれはどこか浮かない顔だが、どした一登?」

 

「ん? ああ、ちょっとな」

 

 

なんか一番最初にVRを体験してからどこか上の空な親友。

 

なんだろうか、同じ話をしてるはずなのに噛み合ってない感じ。……そういやVRの感想も一登だけは聞いてないな。

 

他の皆がVRの感想を語り合い始めると、上の空具合もより強くなった気がする。と、言うことは____

 

 

「おのれだけ、おれ達と違うモノを見たとかか?」

 

「…………さすが灯火、よく分かったな。まぁバグみたいなもんだろうし、アンケートにもしっかり書いたし」

 

 

なるほど、バグか……。

 

確かにまだ開発段階だろうから、そういうのもあるかも知れん。原因が分かれば日下さん達も改善するだろう。

 

と、こんな感じで暫く駄弁りながら帰路に着いていたが、ふと背後から気配を感じて、立ち止まる。海央も同じくだ。

 

海央とアイコンタクトを交わして状況を共有する。

 

……仕方ないな。

 

 

「ん? 芳乃に海央ちゃん、どしたの?」

 

「……ああ、ちょい夜から用事があってな。海央の家の家業の手伝いなんだが、そろそろ時間だからな」

 

「だから、あたし達はここで。また明日、学校でね」

 

「そう言えば、昨日誘った時に言ってたね」

 

「海央ちゃんの家業って……灯火は大丈夫なのか?」

 

 

魔法使い云々の事は省いて、実家から捨てられた事は言ってたので一登が心配してくれてるようだ。

 

 

「あの家に戻るわけでもねぇし、どっちかって言うと海央個人への手伝いみたいなもんだから、大丈夫だよ」

 

「まぁ、お兄ちゃんに何かしようとしたら……あたしが怒る(ぶっ飛ばす)し」

 

 

その一瞬だけは、魔法使いとしての側面を見せる海央。

 

なにか単語の中に、その意味とは違う物騒な響きが入ってた気がするが、そこには触れないでおこう。触らぬ神になんとやら。

 

 

「それじゃ、またね二人とも!」

 

「芳乃はちゃんと海央ちゃんを無事に送り届けるんですよー?」

 

 

SSRの皆を見送り、その姿が見えなくなったのを確認してから海央と揃って気配のする方へ視線を向け____その場から飛び退く。

 

次の瞬間、人除けと認識阻害の結界が貼られると同時、おれ達のいた場所に大きな氷の槍が、幾つも降り注ぐ。

 

 

「町中でいきなりかよ……!」

 

 

悪態を言いながらも、【取替の悪戯】で出した愛銃を構え、迷わず気配のする方へ撃つ。

 

先に撃ってきたんだから文句は言えまい。

 

357マグナムの弾丸は狙った場所へと向かい……その途中、虚空で弾丸が止められる。

 

防御壁型の結界のようだ……恐ろしいのはその硬度か。

 

展開速度も凄まじく早い。

 

 

「硬いな。けど___」

 

 

半ば障壁に埋まった形になってる弾丸に、更に2発。

 

早撃ち・二連(ダブル・クイックドロウ)】で、寸分違わず同じ場所にマグナム弾を連続で叩き込み、2発分のパワーで無理やり弾丸を押し通す。

 

 

「嘘っ!?」

 

 

と、大昔に聞き覚えのある声が聞こえると同時、結界をブチ抜いた弾丸がその下手人の方へ向かうも、それを横から生えてきた氷の刃が遮る。

 

結界と氷。

 

性質の違う2種類の魔法。

 

両方とも練度が高いけど、込められてるマナはそれぞれ違う。最低でも二人は魔法使いがいる。

 

まぁ、いきなり撃ってきた理由にも察しがつくが、喧嘩を売られたら十倍で買うのが礼儀と言うものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___つまり、ブチ殺して良いって事だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

 

意識を戦闘用に完全に切り替えると同時に、相手の方もおれが本気で来ることを察したのか、即座に戦闘態勢を取る。

 

思考を加速させながら、牽制で【シリウス】残りの弾丸を撃ち切りつつ、即座にリロードを終える。

 

それから、距離を縮める為に身体強化の魔法を使おうとして、

 

 

「はい、そこまでーーーーー!!!」

 

 

そのタイミングで静観していた妹分が、おれと下手人達の間に割り込んで両拳を地面に叩き付ける。

 

 

大牙拳砲。

 

 

咲三式の体術の一つにして大技。

 

一撃の威力に特化したそれが地面に放たれた結果、コンクリの地面にクレーターが出来上がる。

 

……ちょっとやり過ぎじゃね? なんかもう小規模な爆心地になってるし。後片付けどーすんだこれ?

 

 

「トーカ先輩ステイ! とにかくステイ?! その物騒な殺気は抑えて!? そっちの二人も悪ふざけはやめてさっさと出て来てください!!出て来ないと吹っ飛ばしますよ!?」

 

 

キシャーッ!と割と怒りに満ちた表情で海央が叫ぶ。

 

それから海央の叫びに観念したのか、ようやく下手人が姿を現す。

 

……現したんだが。

 

 

「いやぁ、ごめんなぁ。当主様の推薦とは言え、今のトーカ君の実力が気になってなー?」

 

「………………」

 

 

姿を見せたのは二人。

 

一人はおれと同年代らしき、防寒着に身を包んだ見覚えのない少年。もう一人は逆に見覚えのある少女。

 

因みに少女はワンダーランドのチェシーの耳を模したカチューシャを付けて、その両手一杯にはワンダーランドで買っただろうお土産を抱えてる。

 

誰がどう見ても不思議の国に浮かれた観光客である。そんな格好で喧嘩売ってきたのか、コイツ。

 

防寒着の少年も、海央も、おれも、その姿を見て揃ってげんなりする。

 

 

「あ、これ気になる? チェシーちゃんの猫耳カチューシャ!可愛くてな、一目惚れしてもうたから、お気に入りなんよぉ」

 

「「いや誰も聞いてねぇよ」」

 

 

誰がテメェの趣味嗜好を語れっつったよ。つか、なんか防寒着の奴とツッコミ被ったじゃねぇかよ。

 

 

「あ、アキ姉ってばぁ……!」

 

 

海央の嘆きを皮切りに、先程の殺伐とした状況から一転、緩みまくった空気にその場でため息を吐く。

 

……ホントにこんなんで、トカゲ退治完遂出来るのか?

 

そう、思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

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