D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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EPISODE 10

 

 

 

 

『___早速だが報告させてもらおう。血を分けた息子、彼を咲三から追放する事にした』

 

 

 

これは【防人】達の定例会、隠蔽された議事録だ。

 

その時に当主の座に着いていた男___後に【防人】最大の裏切り者と呼ばれる男、咲三灯真は、まず始めにそう口を開いた。

 

その傍らには俯く少年……咲三灯真の息子。

 

記録によれば、母を失ってからまだそんなに日は経っておらず、心の傷も塞がってないだろう。

 

当時の名前は___咲三灯火。【防人】の次期当主として修行を重ねられていた先視の魔法使いだ。

 

 

『おい、兄貴……自分が何言ってるか分かってるのか?』

 

 

咎めるのは裏切り者の血縁者、後に裏切り者に打ち勝ち、新たに【防人】の当主となる男、咲三灯夜。

 

裏切り者とは血を分けた弟でもあり、少年の師でもあった。

 

 

『分かっているさ。彼は咲三の魔法使い、そして【先視の魔法】を持つには不適格と判断した』

 

 

自らの弟の言葉に、後の裏切り者は淡々と答える。

 

それが癪に触ったのか、はたまた不可解と判断したのか、咲三灯夜の表情が歪む。

 

 

『ふざけんな。コイツの師匠は誰だと思ってやがる。オレだぞ? コイツの才能ならアンタよりも知っている』

 

『だとしたら、君は何を見てきてたんだ? ……妻が死んでから、彼の魔力は安定していない。そんな不安定な状態の彼に、【先視の魔法】を受け継がせる訳には行かない』

 

『母親を失ったばかりの子供に何を求めてやがるんだ。……魔法は想いの力そのものだ。扱うものの心の状態によっては大変な事になる。アンタも分かってるだろ?』

 

『だからだよ。私達の魔法は恐ろしい魔法だ。その気になれば無限の可能性を狭める劇薬になりかねない。……母を失ったからと言って、心を乱す者には相応しくない』

 

『ッ……それをアンタが言うのか! 義姉さんを失ってからおかしくなったアンタが!! ……クソ、話にならねぇ! アンタ達もさっきからなんで黙ってるんだ!?』

 

 

その言葉にとうとう我慢出来なくなったのか、沈黙を貫いていた他の魔法使い達へと吠える。

 

だけど、それに応える者は誰もいなかった。

 

それを察して、後の当主の表情が怪訝なものとなる。

 

 

『……私は当主の言葉に賛同する』

 

 

一人がそう呟く。

 

 

『私達【防人】にとって咲三の魔法は必要不可欠だ』

 

『それを受け継ぐ資格がないと言うなら、咲三の家にいる資格も、またないだろう』

 

 

一人、また一人、裏切り者の言葉に賛同する声が上がる。

 

そのどれもが、当時まだ幼い少年にぶつけるには早すぎるほどの否定の数々。

 

生きてることを、存在そのもの否定される。……記録を見ているだけの僕にだって分かる。

 

これは明らかに【防人】にあるまじき所業にして、異常そのものだった。

 

 

『テメェら……正気か!?』

 

『正気だとも。いいかい灯夜、これは決定事項だ。【防人】に、彼は必要ない。彼にはその資格がないのだから。君もそろそろ弁えようか。あまり聞き分けがないなら……君の家族にも責が及ぶという事を理解したまえ』

 

『___ゲスに成り下がったか、クソ兄貴ぃッ!!』

 

 

ただ一人、正常な者が吠えた所で既に流れは変わらない。

 

咲三灯夜の必死な叫びは、この場の誰にも届かず、遂に結論が出された。

 

 

『話は以上だ。この定例会の終わり次第___彼を追放する』

 

 

異常な定例会はこうして最悪の終わりを迎えた。唯一正常な者も、裏切り者の賛同者達に抑えられる。

 

 

 

 

最後の最後まで、裏切り者は自らの息子の名前を呼ばなかった。

 

 

 

【防人】に残された記録では、これ以上、咲三から追放された子どもの行方は分からなかった。

 

ただ、今回の任務を受けた際、現当主の推薦で現地協力者として【芳乃灯火】と名を変え、共に任務をこなす事になる。

 

【防人】から、そして咲三の家から追放され、野に下った魔法使いが、果たして使い物になるのかと思っていた。

 

……実際に、相対するまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 10-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………で、おのれらがトカゲ退治に派遣された【防人】の魔法使いって事で良いんだよな?」

 

 

愛銃はまだ仕舞わず、微妙になった空気を掻き消すように、あとなるべく浮かれた観光客スタイルのイカれた女を視界に入れないように、厚着をしている少年へと聞く。

 

アレには触れない。

 

絶対に今は触れない。

 

アレに触れたら最後、収拾がつかなくなる気がする。

 

……とにもかくにもだ。微かに感じるマナの匂いから、コイツが氷の魔法使いなのだろう。

 

 

「ああ。不意打ち気味に襲撃した事には済まないと思っている。僕達は君の実力が分からなかったものでね」

 

「言いたい事は分かった。……まぁ、確かに得体の知れないどころか、あのクソオヤジの血縁者相手だし、そんな対応も取っちまうか」

 

 

前に海央にも言ったが、あのドクサレイカレ親父のやったことは、【防人】という曲がりなりにも治安維持の為の組織としては絶対に許されない行為だ。

 

その実の息子な上に咲三からも追放されている魔法使いなんだ。

 

武闘派が集まる【防人】からすれば、そりゃ不意打ちもするだろう。

 

うーん、脳筋極まりない。

 

 

「で、お眼鏡に適ったのかよ?」

 

「……正直に言えば驚いた。妙な魔法と魔法使いらしくない戦い方だったが、現状見た限りでも戦力としては十分だと思う」

 

 

……なんか、やけに素直に認めるな。

 

なんか企んでるのかって考えちまう。

 

それを察してか、厚着男はため息を吐いた。

 

 

「君が現当主とそこの彼女以外を信用してないのは分かる。僕も議事録で確認したが、僕から見てもアレは酷い」

 

「……チッ、残ってたのかよ、あの時の記録」

 

「裏切り者のシンパを炙り出す材料としてだけどね。一応言っておくと、奴に協力した者達は例外なく処分されてる」

 

「……処分してなきゃ、おれが直々にブチ殺してるさ」

 

「血の気が多い……が、寧ろ当然の反応か」

 

 

若干引き気味にツッコまれる。

 

まぁ、クソオヤジの協力者のクソ共のことは今更どうでもいい。

 

今は目の前のコイツのことだ

 

 

「おじさん……当主から話を聞いてるだろうけど、一応自己紹介しとく。今回のトカゲ退治の外部協力者、野良の魔法使いの芳乃灯火だ」

 

「咲三、じゃなくて芳乃か……承知した。僕は氷室 仁。それであっちの浮かれポンチが___」

 

 

意図的に思考からも省いていた浮かれポンチ女を見る氷室。しかしその表情は苦虫を噛み潰したようだ。

 

で、問題の浮かれポンチだが、なんか海央に抱き着いてスリスリしていた。

 

海央とは真逆のスタイルで、豊満な胸部装甲に海央を埋まらせている。

 

あれ、窒息しねぇかなぁ。って思わないでもない。というか実際に海央は窒息しそうになってる。

 

目を離した隙になにやってんだホント。というかさっきから妙に静かだと思ったら捕まってたんかい駄妹。

 

正直、アレには関わりたくないが、そろそろ海央が死にそうなので助け舟を出す意味も込めて、さっき思い出した名前を言う。

 

 

「知ってる。てか思い出した。 ……盾石 晶だな」

 

「あ、覚えててくれたん? うれしいわぁ!」

 

 

と、海央からターゲットをおれに変えて突撃してくる浮かれポンチ観光者をサッと避ける。

 

それから、ゴンッ! と、中々派手な音を立てて電柱にぶつかる浮かれポンチ。

 

……なんでやることなすことギャグが絡むんだ、この女。

 

呆れながらも改めて、この浮かれポンチ観光者の事を思い出す。

 

 

___盾石 晶(タテイシ アキラ)

 

 

 

【防人】の中でも代々結界や防御に秀でた魔法に加えて、マナを結晶化させて物理干渉を可能とさせる独自の魔法を得意とする盾石の魔法使いの後継者。

 

それから、おれと海央にとっては兄弟子、いや姉弟子と呼ぶ存在。

 

おじさんこと【防人】の現当主の教え子の一人。

 

海央と違って一度だけしか会ったことが無かったため、咲三を追放されてからはすっかり存在を忘れていた。

 

 

 

それから厚着男こと___氷室 仁(ヒムロ ジン)

 

 

 

コイツのことはおれは知らない。

 

ただ、咲三の家にいた頃に【氷室】の名前は聞いたことがある。

 

氷や雪、水分、温度などを操作出来る、環境への干渉・操作の魔法を得意とする一族。

 

妙に厚着なのは氷の魔法から自身を守る為だろうか。

 

 

「ひぃーん。頭打ったぁ! 思いっきり打ったぁ!なんで避けるんよトーカ君!?」

 

 

思考を遮るように浮かれポンチ観光者が喚き出す。

 

やかましいわ、自業自得だろ。

 

 

「妹分が窒息仕掛けてるの見た後で避けないバカがどこにいやがる。つか、思いっっっっっきり観光楽しんでるじゃねぇか何しに来たんだ、この浮かれポンチ!?」

 

「もう、いけずやなぁ。でもでも、このスタイルは気に食わへん?」

 

 

もう見て見ぬフリをするのも限界だったので、ビシッと指差して浮かれポンチの格好にツッコミを入れる。

 

この浮かれポンチ観光者、性格は昔一度だけ会った時から変わっていないらしい。

 

人を振り回す類の天然は相変わらずか。散々振り回された記憶をつい思い出した。

 

というか海央も海央で天然ボケ入ってるから、おれは天然ボケに囲まれて育っていたのか。解せぬ。

 

で、指摘された当人は首を傾げて頭の上に?マークを浮かべるも、すぐに?マークを!マークに変えて、お土産の入ってるだろう紙袋からゴソゴソと何かを取り出す。

 

取り出したのはワンダーランドのキャストの一人【白兎】のウサ耳カチューシャ。

 

最初から付けていたネコ耳カチューシャを取り外して、浮かれポンチはウサ耳カチューシャをシュタッと装着。

 

 

「トーカ君は、ねこよりウサギのが好きなんやなぁ。ほら、ぴょんぴょん跳ねそうやろ? ぴょんぴょん♪」

 

「誰がカチューシャの好みについて言及しろっつったよ喧嘩売ってんのかテメェ……!?」

 

「お兄ちゃん、どうどう。ステイ、ステイ」

 

「盾石先輩、ふざけんのも大概にしてください。……いや、ホントに大概にしろ。話が進みません」

 

 

やっぱり愛銃でそのカチューシャごと頭を吹っ飛ばそうとするも、窒息から回復した海央に羽交い締めで止められる。

 

氷室も氷室ですんごく疲れた様子で浮かれポンチに苦言。もはや哀愁すら漂っている。

 

よもや苦労人枠か、おのれ。いやこんな浮かれポンチに関わったら苦労もするだろう。

 

そんなおれ達の様子を一頻りニコニコと眺めたその女は、徐ろに観光者スタイルをパパッと外して、改めるように頷く。

 

 

「うん、良い具合に暖まってきた所で___そろそろ、お仕事の話しよっか」

 

「誰のせいで拗れたと思ってやがるテメェコノヤロウ」

 

 

唐突に、脈等なく、いきなり真面目になるもんだから思わずツッコミを入れる。

 

いや、その意見には賛成だが。

 

賛成なんだけど、今の今までボケ倒してた奴が言うと釈然としないのである。いや、ホントに、マジで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「それじゃあ、確認からしよっか。ウチらの目的は密かに繁殖してるであろうトカゲ型の魔法生物の完全駆除、で間違いあらへん?」

 

「ああ、間違いない」

 

 

時間は既に日が沈み、夜の帳が下りていた。

 

紆余曲折ありながらも、例の海岸近くまで魔法使い4人でやって来て、今回の目的を確認する。

 

二ヶ月前までこの香々見島に潜んでいた魔法使いの創り上げたトカゲ型の魔法生物。単体で繁殖出来る特性をもったソイツらの完全駆除が、今回の目的だ。

 

 

「基本的にはウチ、ジンくん、ミオちゃんの3人で対処。外部協力者のトーカ君は後詰めをお願いするわ」

 

「外部協力者で戦闘力もあるとは言え、基本的に芳乃は部外者だ。僕達だけで片付けられるなら、それがいい」

 

 

さっき実力云々は認めてるとか言ってる気がしたが、それとこれとはまた別らしい。

 

曲がりなりにも【防人】と言うわけか。鉄火場に一応民間人は巻き込みたくないんだろう。

 

 

「んー……。あたしもそれがいいかな。トーカ先輩、距離を選ばないから、ぶっちゃけどの位置でも的確に援護出来るだろうし」

 

「まぁ、そっちが良いなら別に良いけどな」

 

 

……ただ、おじさんが無理矢理でもおれを入れたことを考えると、【先視の魔法】で何かを視てる可能性がある。

 

あの人のことだから、鍛錬ついでに面倒事を放り投げても不思議じゃない。幼い頃に師事してた時からそんなのが多かったしな。……そのお陰で、不測の事態にも対応出来る心構えも身に付いたのだから文句も言えん。

 

 

「で、例のゴキブリトカゲ共はどうやって引っ張り出すんだよ? 今日は満月でも朔月でもないだろ」

 

「当然、無理矢理起きてもらうんよ」

 

 

そう言ってから浮かれポンチこと盾石晶は懐から何かを取り出す。

 

手のひらに収まるほどの水晶玉。でも、一目見ただけで分かった。あの中にはマナがたっぷり込められている。

 

水晶玉を砕くと込められたマナが瞬く間に拡散されるだろう。

 

 

「例のトカゲさん達、マナに反応して起きるんよ。だからこれを砕いてマナをこの周囲に拡散させたら、冬眠状態のトカゲさん達も起きるって訳やね」

 

「そこを一網打尽に仕留める。奴等の弱点も調べてあるから、正直消化試合だろう」

 

「弱点?」

 

「トカゲなだけあって、奴らは変温動物の特性もそのままらしい。一定以上の温度変化には弱いんだ」

 

 

ああ、だから氷の魔法を使える氷室がいるのか。なるほどな、奴らにとっては特効になるって訳だ。となると、その真逆も奴らにとっては弱点になるな。

 

てか、そんな弱点あるなら先に言ってほしい。真正面から攻略したおれがアホみたいだ。

 

 

「オマケにな、著しい温度変化でトカゲさん達の頑丈な鱗も無効化してまうみたいなんよ。衝撃の吸収が出来んようになるみたい」

 

「それなら、素手のあたしでも倒せそう。いや、ちゃんと武器使うけど。……あ、トーカ先輩、お願い」

 

 

あいよ。と、海央の頼みを受けて、予め取り出していたビー玉を【取替の悪戯】でパッと、海央の装備と取り替える。

 

念の為に、海央の手甲と足甲にも印を付けて、対応出来るようにしていたのだ。

 

今日は昼間はワンダーランド行くから、ちょうど良かった。海央の装備はどうしても嵩張るからな。

 

 

「ほえー、便利な魔法やね」

 

「使いこなせればな。……ほれ海央」

 

「ありがとっ!」

 

 

受け取った手甲と足甲をパパっと身に付けて海央の準備は完了。

 

軽くシャドーしながら調子を整えている。海央からすれば雪辱を晴らす戦いでもあるか。前は素手で戦って苦戦する羽目になったし。

 

おれも改めて【シリウス】を取り出して戦闘準備を整えると、【防人】二人もその身に秘めたマナを高めていく。

 

 

「それじゃあ始めよっか。___複合結界、広域展開」

 

 

パンッと盾石が両手を合わせた瞬間、人除けや消音、更に中にいるものを逃さない効果も含めた結界が展開されて、西の海岸を覆い尽くす。

 

……これだけの広さの結界を、それも複数の効果を入れ込んだものを一瞬で展開するとは、流石に驚いた。

 

おれや海央も人除けと消音の複合結界は体得してるが、比べ物にならないな。

 

 

「ふふっ、ウチもこの十年、遊んでた訳やないんよ?」

 

「……そういや、元々結界が得意な家系だったか」

 

「思い出してくれた? 魔法だけやなくて、めっちゃ魅力的になったやろ、ウチ」

 

「それは知らん」

 

 

なんか胸部装甲を強調するような悩ましいポーズを取る年上のアホ女の戯言をテキトーに流す。や、確かに凄まじいかもだけど、今はそれどころじゃないからな? 一応、鉄火場だからな?

 

 

「んもう、いけずやなぁ」

 

「うるせぇ、その水晶玉をとっとと海央に渡せ。で、海央は思いっきり投げろ。それをおれがブチ抜く」

 

「はーい。……それじゃあ、せーのっ!」

 

 

海央は浮かれポンチから受け取った水晶玉をしっかり掴んでから、「とうっ!!」と、オーバースローの大遠投を行う。

 

それを確認してから【シリウス】の撃鉄を下ろし、照準を合わせ、引き金を引く。

 

ドパンッ!!と言う発射音と共に、マグナム弾が狙い通りに大遠投から落ちてきた水晶玉を貫く。

 

貫かれた箇所から一気に破裂した水晶玉は、その目論見通りに貯めていたマナを一気に開放し、周囲に降らせていく。

 

 

「……一発で当てるのか」

 

「わぁ、すっご!」

 

「どやぁ」

 

「なんで海央がドヤ顔してんだよ。……それより来るぞ」

 

 

【シリウス】に弾丸を装填しながら、マナの降り注いだ辺りに意識を向ける。

 

地面に降り注いだマナが浸透し始めた所で、一気に気配が湧いて出、て…………え?

 

 

「………………え?」

 

「どしたんミオちゃん?」

 

「芳乃、君も何か気づいたのか?」

 

 

海央も気付いたらしい。揃って顔を合わせる。

 

___これは、ヤバイ。

 

と言うか嘘だろ!?

 

 

「退避!!」

 

「急げ!下がるぞ!」

 

「「!!?」」

 

 

おれと海央の切羽詰まった声に只事ではないと理解したのか、【防人】二人と共にその場から一気に退避する。

 

それとほぼ同時に、地面から例のゴキブリトカゲ共が涌き出して来る。

 

問題なのは、その数だ。

 

さっきまでおれ達がいた所も埋め尽くす勢いで、トカゲ共が、地面から涌き出てるのだ。

 

その数、数日前のが可愛く見えるほどだ。

 

そんな終末も真っ青な光景に、取りあえず一呼吸置いてから、他の3人とアイコンタクトを交わし、揃って思いの丈をブチ撒ける事にした。

 

というわけで、さん、ハイッ。

 

 

 

 

 

「「「「いや多過ぎるわァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」」」」

 

 

 

 

 

そのあまりの威容に、あまりの数に、魔法使い四人揃って本気で叫び倒す。

 

いやもうコレは叫ぶしかない。

 

マジで多過ぎる。

 

マジで馬鹿過ぎる。

 

大体1000から2000くらいか……?数えるのも馬鹿らしいぐらいに気配が溢れてる。

 

ゴキブリやんのも大概にしてほしい。視覚でダメージを与えようとしてんじゃねぇよ。

 

 

「え、えー? ちょっとホンマに多すぎひん? 流石に想定外なんやけど!想定外なんやけどっ!?」

 

「……参ったな。これだけの数だと、全部凍らせたとしても魔力が持たないかも知れない」

 

「繁殖し過ぎだろ!? 限度を考えろよ限度を! 香々見島乗っ取るつもりか、このクソボケトカゲ共!?」

 

「トリハダがメチャクチャ立ったんだけど。視覚からもうダメージ入るんだけど。ゾワゾワってくるんだけどぉ!」

 

 

本職の【防人】3人も冷や汗をかくレベルかよ。流石にこの数は想定外らしい。

 

冷や汗を流す【防人】達と蠢くゴキブリトカゲどもを交互に見て、おれは思わず溜息を吐いた。

 

……何と言うか、察したからだ。

 

具体的には【防人】の当主がなんでおれをこの任務に捩じ込んだのか分かった。

 

手の内はあまり晒したくないが、そんな事も言ってられないだろう。

 

今いる面子だと、この数に有効打を与えられるのは、おれにしか出来ないからだ。

 

 

「……作戦変更だ。先におれメインで大半を片付ける。他の3人はサポート頼むわ」

 

 

それを聞いた魔法使い二人がギョッとした表情を浮かべる。

 

逆に海央だけは全てを察して項垂れてるカタチとなった。

 

 

「……トーカ先輩、ほどほどにお願いね? 多分無理だろうけど」

 

「君、あれをどうにか出来るのか?」

 

「出来るっちゃ出来る。てか、多分おれが呼ばれたのはそのせいだろうし」

 

 

愛銃をビー玉に取り替え、そのビー玉を更に大型のポーチへと取り替える。

 

取り出したポーチを手早くベルトに装着してから、その中身を取り出す。

 

取り出したのは先程と同じビー玉二つ。

 

 

「またビー玉……?」

 

「ちょっと大型の奴を取り出すとなると、一つじゃギリ足りなくてな。必要に応じてポーチごと予備を持ち込むんだ。……さて」

 

 

まずは奴らを弱体化させることからだな。

 

変温動物の特性も引き継いでて極端な温度に弱いってなら、うってつけの兵器がある。

 

普段より倍の魔力を使っての【取替の悪戯】を発動。

 

取り替えたのは、大型の火器。

 

満載重量:12.07kg。

 

第二次世界大戦前の火炎放射器を代替する焼夷兵器の一つ。

 

 

___M202 FLASH。

 

 

いわゆるロケットランチャー砲だ。某ターミネーターな俳優が主演の映画にも出たアレである。

 

 

「え、ええええええええええええ!?」

 

「……そんなものまで持ってたのか……?!」

 

 

魔法使い二人が驚いてるのを無視して、照準を定める。

 

ギリギリ全弾撃ち放てば、カバーできるだろう。なにせ弱体化が目的なのだから。

 

 

「盾石! 自分達の前にも結界張って下がってろ!」

 

 

言いながら引き金を引き、搭載されていたM74焼夷ロケット弾を撃ち放つ。

 

ナパームではなく、それより更に火力の高い増粘自然発火剤(thickened pyrophoric agent)……TPAと略される燃焼剤が入れられている。

 

細かい理屈は省略するが、このTPAに含まれる有機金属化合物が自然発火性を持ち、空気中に暴露されると約1,200℃の温度で燃え上る。ガソリンやナパームより火力が高い。

 

距離によっては直接火に当たらなくてもその放射熱で火傷を引き起こす。つまり極端な温度変化に弱いクソトカゲ共にはうってつけの武器という訳である。

 

さて、放たれたその焼夷ロケット弾は、蠢くクソトカゲ共の一角に弾着。

 

 

「「■■■■■■■■■■■■ーーーッッッ?!?!」」

 

 

1,200℃の炎が弾着地点のトカゲを燃やし尽くし、その余波で周囲の奴らにも延焼のダメージが入る。

 

確かにダメージが与えられてる事を確認してから、更にもう一発、続けて残りのニ発の焼夷ロケット弾を発射する。

 

発射音と着弾音により鼓膜が震える中、地獄と化した戦場を見やる。恐らくおおよそのトカゲに熱ダメージが入っただろう。

 

あとは、弱った奴らを一掃すればいい。

 

 

【取替の悪戯】を再度発動する。弾を打ち終えた焼夷ロケットランチャーと取り替えるのは、これまた重武装の兵器。

 

 

___M134。

 

 

通称『ミニガン』。6本の重心を持つ電動式ガトリングガンで、毎分2000〜4000の弾を放てる化け物兵器。

 

M202 FLASと違って、本来は携行兵器ではないそれを、無理矢理手持ち運用するので、電源も含めて非常に重い。しかし身体強化を使えるので問題はないだろう。

 

熱でご自慢の鱗がマトモに機能してないなら、コイツで掠るだけでも十分に致命傷を与えられるはずだ。

 

キュィィイン……とモーター音が響き、砲身が回転を始める。

 

ある程度の照準を定めてから、戸惑いなく引き金を引き、その暴威を開放する。

 

……極論になるが、数の暴力には同じく数の暴力で対抗するものだ。

 

ズガガガガガガガガガガガガガガガッッッ!!!!と次々に放たれる7.62x51mm NATO弾は、弱体化したトカゲの鱗を突き破り、次々と肉片へ、そして塵へと変えていく。

 

最早これは戦いではない。

 

一方的な、蹂躙である。

 

 

「ちょ、まっ、え、ええええええええ!?」

 

「……彼は、一人で戦争でも始める気なのか……?」

 

「うん、そうだよね……初見で見たらドン引きするよね……あたし間違ってないよね……?」

 

「そこ!ドン引きしてる暇があったら、今のうちに魔力でも練ってろ!」

 

 

ミニガンをぶっぱしながら後ろで呆然としてる魔法使い達に活を入れる。

 

焼夷ロケットランチャーだのミニガンだのは確かに火力も高いが、その分狙いが雑になる。撃ち漏らしは間違いなく出てくるだろう。

 

この戦闘はあくまで殲滅戦。

 

一匹も逃してはならない。

 

 

「ミニガンの銃身が焼き付くまで撃つつもりだが、それでも撃ち漏らしが出てくるだろうから、そこは手分けしてやるぞ!」

 

「……そう言うことなら任せろ。いや、寧ろ大半をやってもらってるのは申し訳なくあるが」

 

「と言うより、流石にこれで頼りっぱなしは【防人】として情けへんよなぁ」

 

「あたしも同感!」

 

 

この感じだと、おれだけで3/4は片付けられるだろう。

 

あとは、それこそ消化試合だ。

 

兎にも角にも、おれはミニガンの銃身が焼き付くギリギリまで撃ち続けた。

 

取りあえず思ったのは、もうしばらくトカゲを見るのは嫌だなっていう、ある意味至極真っ当な感想であった。

 

 

 

 

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