D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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EPISODE 12

 

 

 

 

 

「はーい、こちら晶ちゃんのケータイやでー。って当主様?」

 

 

 

 

 

「昨日の後片付けならもう終わってますよー。え? また別件?」

 

 

 

 

 

「ふんふん……ふんふん……ん? んんっ?? マジですの? ……マジですかぁ」

 

 

 

 

 

「んー、でも考えようによっては、そっちのが面白いかもなぁ」

 

 

 

 

 

「うん、ウチは了解ですわぁ。ジンくんにも言っときます? ……当主様から言うと。了解ですー」

 

 

 

 

 

「それじゃあ、その流れで。はい、はい。分かりましたわー。ほな、休暇を楽しんできますー」

 

 

 

 

 

 

「……ふふっ、面白くなってきたなぁ。そうと決まったらちょっと島を散策しよっかなと♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 12-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___疲れた」

 

「まだ昼前なのに何を言ってるんです、このゴリラは?」

 

 

 

 

2/11 月曜日。晴れ。散歩日和のいい日。

 

 

 

 

トカゲ退治を無事に済ました翌日の朝。流石に千を軽く超える化け物退治は、奥の手の兵器を使ったとしても体力的にも精神的にも堪えた。

 

初手で大部分を、そしてオオトカゲを片付けた功績からか、残った後始末の大半は【防人】の二人が引き受けてくれたのが、不幸中の幸いだろうか。

 

アレだけいたトカゲの残滓である塵の後始末は……ホントに大変だろうが、正規の魔法使いが二人もいれば大丈夫だろう。というか何とかしてくれ。

 

なお、海央は海央で自前の【先視の魔法】を使って、トカゲがホントに撲滅出来たかを調べてようとしたが、それはおじさんこと当主がやるという事で落ち着いた。

 

当主の【先視の魔法】なら数年先の未来も視えるとはいえ、余計な事まで未来を確定するのもアレだし、まずは数週間先ほど視たらしい。結果は異常なし。

 

……時期が近いこともあって、おじさんも警戒してるみたいだ。だからこそ海央に先視を使わせなかったんだろうが。下手すればおれの“奥の手”の巻き沿いになるしな。

 

とまぁそんな感じで、昨晩の疲れがそれなりに残っている事から、普段なら即座にツッコミ返すゴリラ呼びにも返す気力が無かったりする。というか眠くて意識が半分寝てる。多分、海央も似た感じだろう。

 

 

「……ゴリラ呼びしてツッコミがない辺り、ガチのお疲れモードですね。海央ちゃんの手伝い、そんなに大変だったんです?」

 

「んー……まぁな。詳細は話せんが、取りあえず大変だったわ」

 

 

まさかトカゲが自己進化するとは予想外にもほどがあったしな。おかげで【防人】の前で手札を幾つか切っちまったし。

 

 

「海央ちゃんも今朝は似たような感じだったしね。……何をしたかまでは聞きませんけど、あんまり無理しちゃダメですよ?」

 

「大丈夫、大丈夫。少し眠いだけzzz。歩いてたらその内起きるzzz」

 

「話しながら寝てたら説得力ないからね!?」

 

 

白河とそんなやり取りをしながらも、歩む足は止めない。

 

恋パも近いので今日も元気にSSRの活動なのだ。

 

白河の恋愛請負もそろそろ佳境だしな。疲れはあれど、止まる理由にはならない。

 

なによりさっさとトカゲの事なんて忘れたいのだ、こっちは。あんな非日常よりいつもの日常のが大事に決まってるだろう。

 

 

 

 

 

____で、それから眠気も覚めた昼頃。

 

香々見学園の制服を纏ったおれと白河はアッチをふらふら、コッチをふらふら、と、香々見学園内を駆け回っていた。

 

今回はある男子生徒の趣味嗜好を探る為の偵察だ。

 

その男子生徒は生徒会の監査役。各部活の見守り役と言うべきか、部活動でなにか良からぬ事をしてないか探る役職だ。香々見学園が広い事もあってか、行動範囲がとにかく広い。

 

まぁ、香々見学園はそれなりに平和なので、変なことは滅多に起きないだろうが。起こすとすれば……ほら、杉並とかおれ達4バカがイベントではっちゃけるくらいだし。あと不穏な奴らはおれと杉並が既に片付けてるし。

 

しかし監査役を偵察って、傍から見るとシュールにも程があるな。

 

 

「にしても、こんな探偵みたいな事もしていたなんてな」

 

 

白河の恋愛請負にはそれなりに長く関わってるが、やはり本人の言う通り、ただ銃を撃つだけのトリガーハッピーではないってことだろう。

 

 

「まぁ杉並ほどではありませんけどね。あくまで必要な事だからしているだけなのです」

 

 

中腰をキープして茂みからひょっこり頭だけだして、ターゲットを観察する白河がそう応える。

 

やってることは覗きだが、本人曰く偵察であるとのこと。違いは特にない。

 

取りあえず思うのは、その改造マントがあって良かったなって事だろうか。無かったらその格好、後ろから見たらスカートの中身が丸見えだぞ貴様。いや、それ以前に今の状態は完全に不審者そのものなんだが。

 

今のところ実害はないし、下手に指摘したらそれをネタにイジられそうだから触れはしないが。

 

……さて、この杉並(自称探偵の変人)みたいな行動が恋愛請負と何が関係があるかについてだが、一言で言えば依頼者との相性を図ってるって所だろう。

 

 

「……確かに、ただくっつかせるだけだと、後々当人の趣味や好き嫌いの相違とかで大変な事になっちまうよな」

 

「正解。ですのでこういう活動もしっかり必要なんです。恋愛は付き合ってからスタートとは言え、それはある程度準備が出来てるケース、お互いに面識がある場合に限りますし」

 

 

そういう付き合った後のアフターケアまで考えてる辺り、白河の恋愛請負人としての本気度が分かるというものだ。それなりに長いこと白河の活動に関わってるが、こういう新しい事実を知るたびに感嘆している。

 

なんというか、どこまでもこれから生まれるだろうカップルのための行動をしているんだよな。それも一所懸命にさ。

 

かつて「正義の魔法使い」を目指していた身としては、素直に尊敬する他ない。

 

 

「あ、芳乃、ターゲットが別の部室に移動するみたいですよ?」

 

「っと、危ね。見失う前にホシを追おうぜ」

 

「はっ、了解ですデカ長!」

 

 

なんかいつの間にかデカ長に昇進してら。と思わず笑いながら、どこか楽しそうにターゲットを追う恋愛請負人の後に続く。

 

……しかし、どうしたものか。と頭を悩ます。

 

監査役を追うおれと白河の後ろを、明らかに追ってる気配があるんだよなぁ。しかも知ってる気配。

 

感じる小動物的な気配からして、追ってるのが誰なのかは分かる。分かるが、流石にそのままバラすのは可哀想な気がしてならない。

 

多分、向こうはおれが察してる事には気付いて無いのだろうが。白河はどうだろうか? コイツの事だから、もし気付いてたら敢えて泳がしてる説が濃厚だが___いや気づいてんなこれ。一瞬だけどいつもの悪戯顔で追手が隠れてる所を見たな今。

 

 

「……芳乃なら気付いてるでしょうけど、まだ気付かないフリしといてくださいね♪」

 

「……悪そうな顔で楽しそうに言うよなぁ……」

 

 

いつもの逃走劇すら楽しんでるよな白河。追っかける側は溜まったもんじゃなさそうだが。つか、おれもここ最近は逃げる側だし。

 

取りあえず徐々に歩く速度を上げつつ、ホシを追う。

 

暫くバレないように行動していると、ターゲットが手芸部の部室の前で、その手芸部の部長の女子生徒と話を始めた。

 

 

「ほうほう……今度は手芸部の調査ですか……」

 

 

おれと白河は廊下の角からそれを覗く形となっている。が、

 

 

「ちょっと身を乗り出し過ぎじゃね? バレるぞ」

 

「ふふ、甘いですよ芳乃。このような調査なら日常茶飯事。バレるバレないのラインはとっくに把握しているのです」

 

「……つまり過去に何度か失敗してるって事か」

 

「不正解。ライン上は、です。つまりセーフです、セーフ」

 

 

ライン超えたらアウトではなかろうか? いや、まぁ、バレた所であまり害はないだろうし、白河ならすぐに逃げれるだろうが。

 

それよりも、対象の些細な雑談からでもヒントを得るほうが大事なんだろう。離れていたら声を拾うのも大変だからな。

 

……さて、それならこういう時こそ力を貸すべきだろう。

 

 

「唇読む限りじゃ今はまだ監査としての仕事をしてるだけって感じだな。……ただ、口ぶりからしてクラスの友人みたいな感じだ。もう少し待てば雑談でもするんじゃないか」

 

「これだけ離れてるのによく聞こえ……待って、今唇読んだって言いませんでした? え、分かるんですか、この距離から?」

 

「読唇術って結構便利だよな。その一点だけは杉並の奴と同意見なんだわ」

 

「……たまに芳乃って、妙な技術持ち出して来ますよね?」

 

 

元々の体質的に“眼”が良いからな。加えて死にものぐるいの鍛錬もしている。数キロ先の的に弾丸をブチ込めれるこの眼なら、やろうと思えば出来なくもないんだよ、読唇術。

 

まぁ、唇の動きだけを見れれば良いって訳じゃなくて、それを即座に意味ある言葉に変換出来ないと駄目だが、その手の思考作業も得意分野だしな。それでも杉並(変人代表格)ほどではないが。

 

 

「身に付いた技術ってのは、どこで役に立つか分からねぇもんだ」

 

「ボクの中では杉並に次ぐレベルで謎が多くなってきましたよ、キミって」

 

「奴より下なのを嘆くべきか喜ぶべきか」

 

 

いや寧ろ同じ土台に立たされた事を嘆くべきか。

 

思わず頭を悩ましていると、背後の小動物の気配が強くなってきた。

 

なのでつい、そちらの方を向くと……いや待て、ちょっと待って。隠す気ないだろアレは。

 

 

「じぃー………………」

 

 

監査役を偵察している白河を、更に監視する小動物系風紀委員がそこにいた。というか美嶋さんだった。うん、知ってた。

 

問題はその隠れ方だ。体と顔を半分だけ隠して入るものの、もう半分は完全に見えている。本人は恐らく隠れてるつもりなのだろうけど隠形の意味が全くない。バレバレ過ぎる。

 

一瞬だけ目があったものの、基本的にその視線はしっかり白河をロックオンして離さない。白河が悪さをした瞬間に飛び出す算段なのだろう。いや、うん。気配で分かってたが、ここまで分かりやすいとは思わなかった。思わず冷や汗が流れる、

 

あれはもしかしたらツッコミ待ちなのか? と、思わないでもなかったが、美嶋さんの性格を考えればそれはまずないだろう。つまり徹頭徹尾マジだ。マジで隠れてるつもりだ。

 

……流石に、ここまで完全に認識してしまえば、これ以上無視する事も出来ないか。

 

仕方ないので白河に逃げる様言おうとするも、当の恋愛請負人はダッシュで廊下の端まで、既に走って逃げていた。

 

 

「___判断が早い」

 

「なっ、ま、待ってよひよりちゃん!」

 

「そして判断が遅い」

 

 

美嶋さんが声をかけるも既に白河は廊下の端で姿を消す。元々美嶋さんの気配には気付いていたので、逃走ルートは織り込み済みだったのだろう。

 

逃げられた事を理解出来た美嶋さんはガックリと肩を落とす。それから間を置かずにおれの方に視線を向ける。

 

ぷくっと頬を膨らませて私怒ってますと分かりやすく表現。ホントに何なんだろうかこの可愛い小動物は。どんぐりを頬いっぱいに詰め込んだリスの様である。

 

 

「もうっ、芳乃先輩!さっき私が見てるの分かってましたよね?」

 

「思いっきり目が合ったもんな」

 

「だったらひよ……白河さんのこと引き止めてくださいよぉ!あの時制服の袖を摘んで、逃げないようにしてくださいって念を送ったんですよ」

 

「無茶を言うなってばよ。エスパーでもねぇのにそんな念は分からんて」

 

 

エスパーではなく野良の魔法使いである。読心の魔法とか異能とかも探せばありそうではあるが、少なくともおれにはそんなスキルはないのである。

 

最も、そんな念が届く訳がないことは美嶋さんも分かってるのだろう。流石に今から追っても追い付ける訳がないのでガックリと項垂れる。

 

 

「ああぁ〜〜〜………今日も逃がしたぁ……」

 

「まぁ、次はがんばれ」

 

「応援するなら協力してくださいよぅ! というか芳乃先輩、風紀委員を手伝うって話だったじゃないですかぁ!」

 

「恋パ当日はな。それ以外はSSR所属だから、おれ」

 

「……ということは、今、芳乃先輩を捕まえても特に問題ないと言うことですよね?」

 

 

なにやら思案顔で物騒な事を言い出し始めた風紀委員長代理殿。

 

うん、どうやら旗色が悪い様なので、視線から外れてる内にスッと気配を消して、一気に廊下を駆け抜ける。

 

エスケープ開始。つまりは逃げるんだよぉ!!

 

 

「って、いつの間にか逃げられてる!? 」

 

「そもそもの話だが、白河に追いつけないのに、おれに追い付ける訳ないと思うんだよな!」

 

「それはその通りかも知れませんけど! って、逃げないでくださいー!!」

 

 

逃げるなと言われて逃げない奴がいると思うのか? と思いつつも遅れて追って来た美嶋さんと一定の距離を保ちつつ、COMUで白河とコンタクトを取る。

 

 

『美嶋さんから付かず離れずの距離を維持して逃走中なう』

 

『ナイスです!今のうちにボクは依頼を遂行しますので、そのまま未羽や風紀委員達のヘイトを稼いでてください!』

 

『合点承知之助』

 

 

前も使った手だが、風紀委員は白河だけじゃなくておれも捕縛対象としている。なので派手におれが動けば動くほど注目が集まって、逆に白河がこっそりと動ける様になる。

 

という訳で、ド派手にヘイトを稼ぎまくって翻弄しまくるか。おれが白河に連絡入れてる間に美嶋さんも応援を呼んでるみたいだし……と、そこで一つ閃く。

 

 

「いい機会だ。この際、恋パ本番に備えて風紀委員達のスペックとか把握しとくか」

 

 

全員は流石にいないだろうけど、ある程度は戦力を把握しといた方が当日は連携も取りやすい筈だしな。

 

うん、そう考えると、この追いかけっこも楽しくなってくるものだ。

 

なので、走りながらクルッと後ろへ振り返りつつ、手をパンパンッと鳴らす。

 

 

「へいへーい、おにさんこちらー。てのなるほうへー」

 

「煽ってますよねぇ! 芳乃先輩、それ完全に煽ってますよねぇ! 私でも怒りますよ! 怒っちゃいますよ!!」

 

 

わざと舌足らず声で煽ると流石の美嶋さんも怒ったのか、急に速度が上がる。……おおう、怒りでヒートアップするクチか。人は見かけによらないな。

 

 

「「「芳乃灯火、発見! 追跡開始します!」」」

 

「おい、こっちだ!三つ子ちゃん達が見つけたぞ!」

 

「委員長代理も既に追ってる!合流するぞぉ!」

 

「ここで会ったが百年目だ、芳乃!」

 

「常坂の兄と同じく、学園の美少女達の近くにいるお前を、捕らえる!そして締め上げる!」

 

「芳乃を倒せば、咲三さんに認められるって聞いたんだがホントか!? 取りあえずひっ捕らえたら良いよなぁ!」

 

「ちょっと待てやコラ、何人か私怨混じってんじゃねぇかッ!?」

 

 

気がつくと周囲にも風紀委員の気配が増えてきた。いつもの三つ子も健在だ。というかマジで私怨混じりが多いぞオイ。

 

……いや、まぁ良いか。注目を集めれるのならこの際なんでも良い。兎にも角にも暫く視線を釘付けにしてやろうか。もちろん怪我はしない程度にな。

 

そんな事を考えながらも、捕まらないギリギリの距離を測りながら校内を駆け回るのであった___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___って訳で、風紀委員達相手に付かず離れずの大立ち回りしてたら、なんか生徒会まで楽しそうに混じって来てな。打ち合わせばっかで行き詰まってたとかで気分転換がてらに喜んで出て来て流石に焦ったわ。なんとか逃げ切れたけどな」

 

「ボクはその間に恋愛請負としての仕事を消化してたんだけど、もう校内がやたら活気づいててね。そっちに参加したほうが面白かったかもって、今ちょっと後悔してる」

 

「恋愛請負が、どうしてそんな壮大な面白鬼ごっこになってるのー!?」

 

 

___その日の夕方、商店街にて。

 

 

おれは、白河が本日の分の依頼を消化し終えた段階で、風紀委員と生徒会の混成部隊を振り切って白河と合流していた。

 

残念、おれの勝ち。負けた理由を明日までに考えてください。

 

で、取りあえず校外に出てブラブラしていた所で、常坂家で二乃とソラさんの手伝いをした帰りだった海央と偶然出会い、ついでなので今日の夕飯とかバレンタイン用のお菓子の材料とか買う為に商店街に寄っていた。

 

なお、今日はオムライスの予定であり、白河も来る予定。「おいしいご飯を作れる芳乃が悪いんです」とは白河の弁。なお、この意見には叶方も頷いていた。

 

どうやら胃袋を掴んでしまっているらしい。

 

 

「おかげで風紀委員達の大体のスペックは分かった。これなら当日も問題なく連携出来るだろ」

 

 

恋パ当日、つまりレジェンドバトル当日に風紀委員へ出向することは、既にCOMUでSSRのみんなに伝えている。

 

事前に知っていたであろう杉並だけは不敵に笑っていたが。……なんか嫌な予感がするな。

 

 

「悪いが海央、当日にレジェンドバトルで荒事が起きたら、おのれに処理を頼む事になる」

 

「はーい、任せといて! 取りあえず死なない程度に吹っ飛ばせばいいんだよね?」

 

 

そのままスゴイ勢いでシャドーボクシングを見せる海央。あまりにキレッキレな拳の勢いに、流石の白河も冷や汗をかいていた。

 

 

「……もしかして海央ちゃん、手加減出来ないタイプ?」

 

「怪我人が出ないことを祈るしかないな」

 

 

なむなむとテキトーに合掌し、白河は神妙な顔で十字を切ってそれぞれ祈る。

 

どうか、変なバカが現れませんように。バカが出ても問題起こしませんように。じゃないとそのバカが死ぬ。

 

 

「それで、そっちはどうだったんだ?」

 

「レシピの方は完成。紙吹雪とかの小物もほぼほぼ準備OKだよ! イラストはあたしが担当しました!どやぁ!」

 

「はいはい、どや顔したくなる出来なんだな」

 

「むふー♪」

 

「肝心の常坂兄と鷺澤ですけど、今日は台本読みながら台詞通ししてたみたいですし、なんとかなるんじゃないです?」

 

「なら、安心か」

 

 

いよいよ近付いてきたレジェンドバトルへの準備も滞りなく進んでいるみたいだ。

 

白河の手伝いに奔走しててほとんど関与出来なかったし、当日も別行動だが、なんとか上手く行くようこれまた祈るとしようか。

 

と、そんな事を考えていた所で、嵐はやって来た。

 

 

 

「制服姿のどや顔ミオちゃん、げっとー♪」

 

 

 

唐突に、うげっ!? と思わず言いたくなるような変な方言混じりの声と共に、隣にいた海央が何者かに確保される。

 

バカな、気配を感じなかっただと?

 

 

「わふぅ!? あ、アキ姉!?」

 

「んふふ♪ 昨日ぶりやねー♪ あ、トーカくんも昨日ぶりー!」

 

「……おのれ、どっから涌いて出て来たし……!?」

 

 

あまりの唐突さに思わず頭を抱えたくなった。……おいコラ気配を隠して近づいただろ貴様。

 

その方言女こと盾石は、確保した海央に頬擦りしてご満悦だ。

 

一方海央はその胸部装甲に埋もれている。

 

そんな状況の中、唯一この女の事を知らない白河が目をパチクリとしている。

 

 

「あー……スマン白河。一応それは知り合いだ」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「誠に、遺憾ながらな」

 

「ミオちゃんとトーカくんのお友達かな? ウチは盾石晶って言います。よろしゅうねー」

 

 

海央を抱きしめたまま、白河と握手する盾石。

 

……つか、コイツ、まだ香々見島にいたのか。

 

昨日の後始末も終わったならさっさと帰ればいいのに。

 

 

「暫くお仕事もお休みやからねー。ついでやから色々と観光しとこうかなーって。あ、ジンくんもやね」

 

「氷室もかよ。つか、心を読むな」

 

「顔に出てたから分かりやすいわぁ」

 

 

なんだと?と思いつつ思わず表情筋を確かめる。

 

いや触っても分からん。

 

 

「つか、その氷室はどうしたんだよ」

 

「流石にプライベートまでは一緒に行動はしとらんよー」

 

 

そりゃそうか。

 

というかプライベートまでコイツの手綱を握ってたら奴の心労も溜まったものじゃないだろう。

 

ストレスでハゲそうだ。

 

 

「あ、でもさっき商店街で、荷物を多く持ちすぎて困ってた小柄な女の子を助けてんの見たなぁ」

 

「何やってんだアイツ」

 

 

そんなナンパとかするような奴でもなさそうだったし、純粋な人助けなんだろうが、思わず何やってんだ?と言わざるを得ない。

 

いや、いきなり出てきて妹分を窒息させようとしてるこの女よりマシなんだろうが。

 

と、忘れる所だった。

 

 

「取りあえず海央を開放しろ。窒息するぞソイツ」

 

「あ、堪忍なぁミオちゃん」

 

「ぷはぁ!」

 

 

熱烈なハグから開放された妹分。しかし呼吸を整えたあと、何故か涙目で崩れ落ちる。

 

 

「圧倒的、戦闘力……! 発育の、暴力……!あたしだって……あたしだってぇ……!」

 

 

……と、持たざるもの特有の怨嗟の声を上げていたので、取りあえず放置としておこう。

 

今からかったら、本気の大牙拳砲が飛び込みかねない。流石にそれが死因なのは嫌過ぎる。あんなのマトモに食らったら内臓ごと弾け飛ぶわ。なんなら消し飛ぶわ。

 

取りあえずため息を吐いてから、この状況を生み出した元凶を見やる。

 

 

「んー、落ち込んでるミオちゃんもかわえぇわぁ〜♪」

 

 

そんな事をのたまってる辺り、完全にギルティだ。分かっててやってるだろうコイツ。タチが悪過ぎる。

 

 

「はいはい、もう充分に海央を堪能しただろ? さっさと帰れ。シッシッ」

 

「ぶー。相変わらずツレへんなぁトーカくんは。でもせやね、ウチも散策ついでに買い物に来てただけやし、そろそろ宿に戻るわな」

 

 

意外にも大人しく聞き入れる盾石に、思わず虚を突かれる。

 

だが、この嵐のような女がただで帰るわけがないのだと、この時のおれは予測が出来ていなかった。

 

 

「ほなね。香々見学園の恋パってのが始まったら、また顔出しに来るわー♪」

 

「んなっ」

 

 

そう最後に絞めてから、心底楽しそうに踵を返して人混みに消える浮かれポンチ。

 

……おいマジか。恋パにまで顔を出す気なのか、あの女。

 

っていうか部外者だろ。どうやって学園内に入り込む気だ?

 

謎だけを残して消えていった嵐のような方言女のせいで、思わずげんなりとする。

 

 

「…………頭痛の種が増えやがった」

 

「なんというか、杉並みたいな人ですね」

 

 

いっそ杉並のほうがマシだと言えてしまう辺り、おれはあの女にとことん苦手意識があるのだろう。

 

悪い人物ではない……ないのだが。

 

視界の端で今も崩れ落ちてる駄妹を眺めながら、思わぬ所で恋パでの不確定要素が増えたことに、溜め息を吐かずにはいられないのであった。

 

 

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