D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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EPISODE 13

 

 

 

 

「……む」

 

「あれ?」

 

 

いつもの森の中で早朝訓練として、海央と軽い組手を交わしていると、人除けの結界の中に侵入者が来たことを揃って察知する。

 

というか、つい先日知り合った気配が一つ。そしてもう一つは浮かれポンチ女の気配だった。

 

 

「おっはよー!ウチ、参上ー!」

 

「って、アキ姉!?」

 

「よし、帰れ」

 

 

クッソ楽しそうにニコニコ笑いながら現れ、銃を突き付けるひまもなく間髪入れずに海央を抱きしめる浮かれポンチに、思わず額に青筋を立てながら言い捨てる。

 

会う度に海央に抱き着いてるのは、なんというかソラさんを思い出す。

 

「アキ姉、あたし今汗臭いからぁ……!」「ミオちゃんの汗ならウチ大歓迎やでー♪」「正気に戻ってアキ姉!?」と、ついでにやりたい放題やっているが、貴様ホントに何しに来た?

 

 

「……すまない。結界を感じたから確かめに来ただけなんだ。ここで鍛錬を行ってるとは知らなかった」

 

 

で、もう一人は浮かれポンチとは真逆の、どこか申し訳無さそうな表情を浮かべてる厚着男こと氷室だ。

 

あー……なるほど。

 

まぁ【防人】としては詳細不明のマナを感じれば調べずにいられねぇか。

 

 

「で、朝からあの浮かれポンチと一緒に行動してるって事は、【防人】絡みでなにかあったか?」

 

「その通りだよ。とはいえ、荒事が起きた訳でもないんだ。……ただ、少しばかり面倒なことになってね。詳細はまだ話せないが」

 

「……“まだ”、か」

 

「そう、まだだ」

 

 

なんとなく、おれにとっても関係の在りそうな面倒事の気配を察して思わず溜め息を吐く。同じタイミングで氷室も溜め息を吐く。

 

 

「……悪いが、当主様からの指令なんだ。察してくれ」

 

「おれはともかく、おれのダチとかに迷惑かけなきゃ別にいい。それさえ守るなら、大抵のことは許容してやる」

 

 

仕方ないのでそう言うと、氷室が「すまない」と軽く頭を下げてくる。

 

浮かれポンチ女の破天荒さに反比例して、氷室はあまりにも律儀だった。あの浮かれポンチ女を反面教師にしてるのだろうか。だったら全力で納得だわ。

 

 

「ほら、盾石先輩そろそろ行きますよ。いつまでもお嬢に抱きついてないで」

 

「おっと、せやね。今日はちょっと急いで動かへんとな」

 

 

珍しく素直に氷室の言うことに従って海央を開放する浮かれポンチ。海央は海央でがっつりくたびれていた。お疲れである。

 

 

「ほなね、鍛錬もほどほどになー」

 

「邪魔をしたな」

 

 

そう言ってその場から離れる魔法使い二人。ホントに何だったんだ。取りあえず面倒事が起きそうなのは分かったが。

 

 

「……仕方ない、今日はもう終わりにして飯食うか」

 

「異議なーし!」

 

 

なにか色々と白けたし、復活した海央と意見が合致したので本日の鍛錬はここまでとなった。

 

朝飯を食えば連休明けの学業。そして、レジェパの最終調整だ。

 

恋愛請負も今日で終わる算段だし、張り切って今日も元気に学生をするとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 13-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2/12 火曜日 降水確率高め。洗濯物は要注意。

 

 

 

 

 

 

 

「___いよいよ、明後日に迫ってきたね」

 

 

 

泉ちゃんの商い講座やら、いつもの授業やらをこなし迎えた放課後。

 

いつもの屋上に集まったSSRの面々は、最初に口火を切った白河の言葉にうんうんと頷く。

 

 

「明後日かぁ……あっという間だったね……」

 

「そうだなぁ……すったもんだしながら進めて来たけど、もうすぐ始まるんだな、レジェパが」

 

「う〜想像するだけで怖いよ……。上手く出来るかなぁ」

 

 

流石に間近に迫ると緊張感も感じるものだ。

 

特に矢面に立つ一登に有里栖。この二人のプレッシャーは他の面々よりも重いものになってるだろう。

 

それでも、この二人はやる時はしっかりやるので、おれとしてはそんなに心配していない。心配事があるとすれば、想定外のイレギュラーだろう。

 

まぁ、そういうのは実際に起こってから対処するものだ。決して【先視】などは使うべきではない。するとしても情報を集めた上での予測と対策までだ。

 

 

「鷺澤、主役がそんな調子だとこっちはどうすればいいんだい? もっとどっしり構えとかないと。王様の椅子にふんぞり返る調子でさ」

 

「無茶言わないでよ、ひよりん。そういうキャラじゃないって分かってるでしょー?」

 

「あはは、まあね。それで常坂兄、今日はどうするのかな?」

 

 

「そうだな……」と一登が一瞬考える素振りを見せながらも指示を出していく。

 

 

「まず、そら姉と二乃、それから海央ちゃんでチラシ配りの方を頼む」

 

「うん、りょーかい! もう、掲示板にバンバン貼っちゃってオーケーなんだよね?」

 

「かなりの量があるからな。ズビズバとやっちゃってくれ」

 

「分かりました」

 

「任せてくださいっ!爆速で貼りまくります!」

 

「廊下は歩け駄後輩」

 

「芳乃、芳乃、それボクたちが言っても説得力ないから」

 

 

風紀委員から逃げるために普通に走るもんな。うん、確かに説得力ねぇわ。

 

それからレシピの方は昼休みにみんなで協力してあちこちに設置して行ったから、あとはチラシの方に集中すればいいだけだ。

 

逢見先輩のレシピを海央のイラストで分かりやすく解説して、それを二乃が纏めている見事なものだった。あれ、ホントにタダでいいのだろうか?

 

兎にも角にも、チラシ貼りは体力自慢の海央がいるなら、二乃と逢見先輩にもさほど負担にはならないだろう。

 

 

「白河に灯火、恋愛相談の方はどうなってる?」

 

「今日で終わりそうかな。明日からは恋愛請負はお休みということで」

 

「増加した分もあるが、今から行けば問題なく終わる予定だ」

 

 

予想された件数よりも意思確認の依頼が多くなっていたが、誤差の範疇なので問題はない。今日できっちり終わらせる。

 

 

「了解。二人はきっちりそれを終わらせてくれ。あとは……まだ手を付けてない雑用系の作業ってあるか?」

 

「演劇部にくす玉を借りてるいるんだが、それに桜吹雪を入れる作業がまだだな」

 

「あとは照明にカラーフィルター貼るのもまだだったね」

 

 

む、地味にめんどいのが残ってるな。おれの分終わったらそっちをやるのもアリか?

 

 

「あ、それなら私がやっておくね。台本も一応全部覚えたし」

 

 

と、有里栖が言ってくる。ふむ、そうなると……。と、一瞬白河とアイコンタクトを取ると小さく悪戯っぽく頷いた。

 

おっけー、了解した。誘導は任せろ。

 

 

「一登、おのれは有里栖の方を手伝ってやれ。作業しながら台本通しも出来るし一石二鳥だろ?」

 

「ん、確かにそうだな。それじゃそうするか」

 

「よろしくね常坂君!」

 

 

と、どこか嬉しそうな有里栖となんかちょっと照れてる一登。誘導成功だ。横にいる白河も「満点です」って言ってるのでコッチも満足である。

 

 

「それで、杉並と叶方の方の作業は……」

 

「講堂に機材を運ぶとしよう。音響設備の確認も兼ねてな」

 

「オレは謎解きの作成がまだ残ってるから、そっちを片付けちゃうよ」

 

 

杉並と叶方もこれで決定か。機材は重そうだが、杉並曰くカッコつけた言い方で台車を使うと言ってるので問題はないたろう。

 

兎にも角にも、これで各々の分担は終わった。

 

レジェンドバトル開催までもうすぐだ。気合を入れつつ楽しんでやるべきことをやろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___という訳だ。すまないが、依頼対象には既に意中の人がいて、相思相愛の仲らしい」

 

「そう、ですか……。あーあ、出遅れちゃったかぁ……。というより最初から勝てなかったのかな……」

 

 

屋上での分担確認を終えたあと、おれは白河の手伝いとして早速恋愛相談の意思確認の通達をしていた。

 

なお、今、目の前にいる女子生徒が、おれが請け負った分の最後の1人だったりする。

 

ただ、結果はあまり乏しくなく、この少女の意中の相手は既に別の相手と相思相愛になっており、入る隙間は無さそうだった。……というか、別途で依頼が入っててブッキングしたと言うか。

 

もともと相思相愛には違いなかったが、相手の女子のほうが早く白河に恋愛相談をしており、白河が率先してアドバイスしてたみたいだからな。それでようやく告白するって所まで来た所でこの依頼が来たんだよな。

 

まぁ、当然、さっきも言ったが既に出来上がってる様なもので、眼の前の女子生徒には申し訳無いが、お断りということになる。

 

……なにもこれは珍しい話ではない。今回は特に相手の意思確認の依頼が多かったが、こういうケースも何度かあったしな。

 

恋愛事には疎いし当事者でもないが、この瞬間だけはやはり慣れそうにないな。

 

一つのカップル成立の裏側には、涙を流す人も確かにいるのだ。……それら全てを掬い上げる術などないのが、やはり遣る瀬無いものである。

 

 

「ありがとう芳乃君。白河さんにもお礼を言っといてくれる?」

 

「……ああ、必ず伝えておく」

 

 

それでも目の前の女子生徒はまだ気丈に振る舞っていた。

 

けれど、なまじ視野が広いだけに手が震えてるのも、泣きそうになるのを堪えてるのも分かってしまうが、それは見ないふりをしておこう。

 

それはきっと、おれが気づいてはならないモノだから。

 

それから「じゃあね」と、女子生徒が去っていき、その姿が完全に見えなくなった所で溜め息を吐く。

 

 

「ふう……。こういう所はまだ慣れねぇな」

 

「きっと慣れちゃ駄目だとも思いますけどね」

 

 

背後から聞こえてきた声に振り向けば、そこには小さく手を上げる白河の姿が。

 

 

「よっ、そっちも終わったみたいだな」

 

「正解。というか早く終わったんで実は後ろからこっそり覗いてたんですよ」

 

「知ってる。気付いてたし」

 

 

そうなのである。さっきの依頼者に話し始めた時点で背後から視線と気配を感じ取っていた。

 

本人は隠れてるつもりだったろうし、実際に依頼者は気付いてなかったから、それなりに見事な隠形をしていたのだろう。

 

おれには無意味だったがな。そんな思考を読み取ったのか、ぷくーっと白河が頬を膨らませる。なんだか珍しい表情だった。

 

 

「全くもう、キミときたらすぐにボクの気配に気付くんだから脅かしがいがないってものだね。___流石はゴリラ! 野生の勘がとても鋭いゴリラ!」

 

「誰がゴリラじゃ誰が。変身アイテムを無理矢理こじ開けて変身したろうかコノヤロウ」

 

「それは正真正銘のゴリラの仮◯ライダーでしょうがこのゴリラー!」

 

 

とうとう公式からもゴリラ扱いされて伝説となった仮面のヒーローを思い出す。なお、当人もゴリラモチーフのフォームに変身していたとかなんとか。

 

そんな風にいつものやり取りをしていると、多少沈んでた気分も持ち直してきた。……こういう所、結構気づくよな白河って。

 

 

「で、そっちが受け持ってた分も終わったんだろ。なら、一応はこれで終了って感じか」

 

「大正解!なんだかんだ過去最大級の依頼数でしたが、おかげでなんとかなりましたよ。最後まで手伝ってくれてありがとう、芳乃!」

 

 

花開くような笑顔を浮かべる白河。

 

……うん、確かに大変な作業だったけど、この笑顔が見れたのなら、頑張った甲斐はある。

 

 

「それじゃあ放課後からは他の面子を手伝う感じか?」

 

「チッチッチッ、甘いですよ芳乃。確かに依頼は全て消化しましたが、まだ大事な仕事が残ってます」

 

「…………ああ、例の出歯亀か」

 

 

本人曰く、見守りという体での、恋愛請負の【報酬】。

 

 

「不正解! 出歯亀ではなく見守りです! ……早速もうすぐ、カップルが誕生しそうですし、それをしっかり見守るのです!いざ、戦場へ!」

 

「へいへい、せいぜい見つからない様にしねぇとな」

 

 

どうやら、おれも既に参加するのは確定してるみたいなので、取りあえず消化した依頼に漏れがないかを白河と二人でTABを使って確認しつつ、移動を始める。

 

チェック、大事。これは社会に出ても通用する概念だろう

 

 

 

 

 

____で、そんなこんなで「にひっ、ふひひ、むふふ」と怪しさ満点のマッドサイエンティスト染みた笑いを見せたり、鼻歌みたいなのも時々口ずさむテンションMAXな白河と歩きながら、目的の音楽室に辿り着く。

 

 

「さて、ここから前と同じ様にスパイ業にジョブチェンジですよ、ゴリ! 張り切って気配消して行きますよゴリ!」

 

「分かってたが、やっぱりそのコードネームかよコノヤロウ」

 

 

……コイツの是が非でもおれとゴリラを結びつけようとする情熱は一体どこから涌いて出てきてるのたろうか?

 

そんな言うほど見た目はゴリラでも無いはずなのだが……?いやまぁ、それはいいか。どうせ追及した所でのらりくらりと躱されて暖簾に腕押しだろうし。

 

 

「で、おのれも変わらずにフリッグだな?」

 

「当然。さ、行きますよゴリ!」

 

「了解だフリッグ」

 

 

ニンニン、という訳で揃って息を潜めながら中腰の姿勢で音楽室に侵入。既に目的の男女二人が話をしていた。

 

って、あれ?

 

 

「あの男子……さっきの依頼者の意思確認の対象じゃねぇか」

 

 

敢え無くお断り案件となってしまったが、そうか、今回の出歯亀相手は彼らか。

 

 

「……相手の子とそこの男子、両片思いの状態でしてね。前に芳乃と見守りしたカップルと同じで、男子の方から告白するよう調整してたんです」

 

「また神業的なことをやりやがって……」

 

「えへ、がんばりましたっ」

 

 

ニコッと笑う白河。素直に言う辺り本当に頑張ったのだろう。

 

 

「バレンタインデー当日に告白するより、付き合ってからバレンタインデーを迎えたほうが、ずっと幸せだと思うんだよね」

 

「……なんとなく分かるな」

 

 

相変わらずしっかりと考えてることに、労いの言葉でも言うべきかと思わず悩んでいると___ふと、視界の端に動く何が見えた。

 

よく見るとそれは、さっきの意思確認の依頼者の女子生徒だ。

 

それが、どんどん近づいて来ている。おれ達と同じ出歯亀だろうか? 諦めを付ける為に見に来たのだろうか。取りあえず状況は共有しとこうか。

 

 

「白河、白河」

 

「なんですか今良いところなんですから。あと今はコードネームで呼んでくださいよ」

 

「いや、こっちに別の出歯亀が近づいて来てるんだが」

 

「……マ?」

 

 

おれが指さした方へ視線を向ける。さっきよりも近づいてきてる女子を確認して白河の顔が青くなる。

 

 

「ま、マズいですよ。こっち逃げられる場所がありません」

 

「いやバレても良いだろ別に。同じ出歯亀だし」

 

「流石に恋愛請負人が出歯亀してるなんてカッコつかないじゃないですかぁ……!」

 

 

とうとう、あっさりと出歯亀を認めた白河。いやまぁそれだけ追い詰められてるって事なんだろうが。

 

バレない様に辺りをキョロキョロした白河だったが、ある一点を見つめると、何かを閃いたようだ。

 

 

「芳乃、こっち!」

 

「お、おお?」

 

 

グイッと腕を引っ張られて移動開始。いや、おれだけならもう別にバレても構わないんだが。と言う暇もない。

 

アオハルしてる連中と新しい出歯亀にバレない位置取りをしながらコソコソ動いて辿りついたのは死角になってる掃除ロッカー。

 

おい、マテ、まさか、流石にベタすぎるだろ、それは……!

 

そんなおれの焦りも知らず、白河は音を立てないようにロッカーの中へおれを入れてから自分も中に入り込み、静かに扉を閉じた。

 

 

「ふう、危なかったですね」

 

「………………」

 

 

一息吐いた白河。緊急事態を回避出来たから安心したのだろう。しかし、おれはそれどころじゃなかった。

 

状況を簡略に説明するとだな、狭いロッカーの中に白河と密着してる。

 

 

そう密着してる。

 

 

これがマズイ。非常にマズイ。

 

 

 

 

___ふにょっと言う柔らかい感触。

 

 

 

 

___ふわっと髪から漂う甘い匂い。

 

 

 

 

___吐息まで分かる程の近い距離。

 

 

 

 

___少し脈の上がってる鼓動の音。

 

 

 

 

___触れている所から伝わる体温。

 

 

 

 

それら全てが、ダイレクトに伝わってくるのだ。

 

ロッカーと言う密室内にて、白河と言う美少女と密着せざるを得ないこの状況は、一応は思春期の男子にはこの上なく辛すぎるんだよコノヤロウ……ッ!

 

 

「いや白河、おのれさ……ホンっっっっトに、おのれさ……!」

 

「あ、そろそろ告るみたいですよ!ちょっとお静かに!」

 

 

いやだから、おのれさぁ! 向こうもクライマックスかも知れんがこっちもクライマックスなんだわ!?

 

流石にこの状況は色々とヤバ過ぎるとおれでも分かると言うのに、この恋愛請負人はぁッ!? 頭ン中も恋愛脳なのか!?

 

……白河、おのれは自分自身のことを残念美人だー!とかのたまってるけど、おのれ本当に自分の容姿とか分かってるか?

 

前々から思ってるし言ってるけど、おのれも美少女なんだよ。それも有里栖やら二乃にも負けないくらいとびきりの!

 

っていうか、なんでおのれ平気なの!? なんで平然としてるの!? 危機感抱けよ少しは! 男だぞ、おれは!?

 

これ、おれが変に意識し過ぎてるだけなの!? おれがおかしいのかな!? ねぇ!?

 

やわらけぇし、なんか良い匂いするし____いや、ちょ、ま、だから色々と駄目だろこれッ!? 意識したら余計に駄目だろこれッ!?

 

チクショウ仕方ねぇ、瞑想だ。こうなったら瞑想の要領で煩悩を切り抜けるしかねえ……! 普段の修行の成果、ここで発揮せずとしてなんとするか!…………出来ればこう言うのは、もっとちゃんとした戦闘とかで発揮したかったけどなぁ!?

 

 

「お、おお……初々しいですね……見てるこっちが恥ずかしくなりますよ……あとから来た傍観者も熱に浮かされ当てられてますね……!」

 

 

ロッカー中から実況する恋愛請負人。しかしこっちはそれどころではない。

 

白河が身じろぐだけで、柔らかい感触とかを余計に意識してしまってマジでそれどころじゃない。

 

ホントにそれどころじゃない。

 

語彙力が死んでる辺りでこっちの慌て具合を察してほしい所である。

 

兎にも角にも瞑想の要領でおのれの内に意識を集中させて感覚を出来る限り遮断するよう努める。

 

なので、時々身じろぎするたびに「んぅっ……」とか漏れ出るような声は出さないでほしい。

 

頼むから。

 

ホントに後生だから……!

 

 

 

 

 

 

___結局、アオハルしてる連中がハッピーエンドしてからこの空き教室を出て、途中からの傍観者も涙を耐えて帰るまで、おれはこの天国と地獄の時間の中、延々と瞑想を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう…………幸せ幸せ。これほどやり甲斐があったのは久しぶりかな」

 

「………………さいですか」

 

 

初手でなんか天国と地獄を味わったあと、それから更に複数のカップル成立を出歯亀し(白河曰く見守り)、予定されてた全ての依頼を本当の意味で消化した。

 

最後は完全に白河の趣味が入ってる気がしたが、カップル成立の度に、いつぞや見たあの笑顔を浮かべるもんだから、おれも止める気がなかったし。っていうか煩悩を振り払うのに必死だった。

 

 

「しっかし、魔法を使ってる訳でもないのに、ホントに魔法使いみたいなことするよな、おのれって」

 

 

気を取り直す為にも思いついた言葉を白河に言う。

 

 

「そうかな? まぁまぁがんばれば簡単だよ? ……ふふっ、でもホントに魔法使ってたらどうします? 魔法も使う恋愛請負人!ってね」

 

「ばーか。ホントに魔法使ってたら、流石におれと海央が気づくわ」

 

 

言った瞬間に「しまった」と心の中で焦る。気を抜き過ぎた。

 

今の言い回しは駄目だろう。

 

いや、最悪白河になら魔法使いのことはバレてもいいと思うけど、こんなしょーもないミスでバレるのは不味かろうて。

 

 

「え、それってどういう___」

 

 

 

「白河ひよりさん」

 

 

 

内心で焦りまくってたおれを助けたのは、聞き覚えのある声だった。

 

それは、いつの間にか白河の背後に立っていた美嶋さんの声。助かった、と思ったのも束の間。いつもより数倍に固いその雰囲気に思わず身を固くする。

 

 

「あっ……」

 

「その様子だと、また例の銃を撃ちまくって、学園の風紀を乱してきたみたいですね」

 

「あー……今回は例の銃は使ってないぞ、美嶋さん」

 

 

一応助け舟を出す。実際に見守りという名の出歯亀しかしてないしな。

 

しかし妙だな。恋愛請負そのものじゃなくて、銃での発砲を指摘……?

 

いや、確かに風紀を乱すってなら銃を持ってたりするのは駄目か。

 

 

「そうだよ未羽、今日は一度も銃を抜いていない」

 

「……むむむ」

 

「これがホントにホントなんだって。今日やったのは、カップルの誕生を見守ることだけ。ボクが直接的に動いた事実はないよ」

 

「要は出歯亀だな」

 

「不正解! と言うか芳乃シャラップ! 出歯亀じゃなくて、見・守・り ! です!」

 

 

いやさっきおのれも出歯亀を認めてたろーが。

 

と思った所で連鎖的にロッカー内での状況も思い出して思わず天を仰ぐ。

 

煩悩退散。煩悩退散……!

 

 

「……その人たちも、白河さんの手引きによって、告白まで至ったわけですよね」

 

「まぁね。……ふふんっ、自分は動かずに本人たちに積極性とヒントを与えてアクションを起こさせる……恋愛のナポレオンと呼んでくれたまえ!」

 

 

おのれはどっかの黒幕かよ。

 

当然ながらか、そんな白河の言い分が通用する訳もなく、美嶋さんの表情は固いままだ。

 

 

「なるほど、今日はそうだったかもしれません。でも……そろそろいい加減にしてください」

 

「……悪いね未羽。何度も言ってるけど、それは出来ない相談だ。迷える子羊たちを導き、幸福へと至る道のりを共に歩む……これに勝る幸せをボクは知らない。だから、何度注意されようとも、ボクは__」

 

 

 

 

 

 

「___“無駄遣い”をしないでください!」

 

 

 

 

 

 

ピシャリと、いつもの大人しげな雰囲気からは想像できないほど鬼気迫る表情から言い放たれる言の葉。

 

紛れもない美嶋未羽の本心から出たその一言に、あらゆる感情が込められてるのは、恐らく今ここで一番部外者であろうおれ自身も感じ取れた。

 

……だからこそ、その言い回しに、その言葉に、どうしようもない違和感を感じてしまった。

 

 

「全部、自分に返ってくるんだから……。今日は“ひよりん”の言う通りだったのは信じるよ。だったらこれからも……」

 

「……そうかい。心には留めておくよ、未羽」

 

 

美嶋さんの言葉に白河も思う所はあったのだろう。

 

普段の空気とは裏腹にしおらしく感じる声で、白河はそう返した。

 

 

「……もういいです。そろそろ下校時刻ですから、早く帰ってくださいね」

 

 

それだけ注意をして、美嶋さんはこの場を後にする。

 

離れていく小さな背中を見送りながら、おれは先程の美嶋さんの放った言葉について思考する。

 

 

「……無駄遣い、か」

 

 

一体、何に対しての無駄遣いなのかは、おれには分からない。

 

けれど、その言葉は確かに白河に届き、響いていたのは間違いない。

 

 

「多分、貴重な時間を娯楽に使うなって意味……かなぁ。こんなことしている暇があるなら、教科書を開くか部活に汗を流せ……みたいな?」

 

 

おれの呟きが聞こえていたのか、白河がそう補足してくる。

 

 

「……美嶋さんって、そんな回りくどい言い方するタイプだったか? 駄目なら駄目って言葉を選びながらも真っ直ぐ言いそうな感じがするが」

 

「いえいえ。あれで結構、未羽は詩的な所もあるんですよ。未羽は乙女ですし」

 

「言うほど詩的か、あれ……?」

 

 

なんだろう。

 

致命的な見落としをしてる気がして、更に思考しようとした所で、白河がおれの背中をグイグイと押し出す。

 

 

「ほら芳乃、未羽にも注意されちゃったことだし、早いところ他のお手伝いをして帰りましょう。今日は和食でお願いします!」

 

「ちゃっかり今日も御馳走になる気満々だなオイ!? いやそれはもう今更だから良いんだが。って、ちょ、ま、押すなバカ! 歩き辛いだろうがっ」

 

「ゴリラトレイン、出発進行ーぅ♪」

 

「ゴリラと列車を魔合体させんじゃねぇし誰がゴリラじゃ誰が! ……ちょ、だから押すなって!? あ、ちょ、壁にぶつかるーー!?」

 

「あはははっ、頑張ってコントロールしてくださいよ!出ないと壁に愉快な染みが出来ちゃいますよ?」

 

「笑って言うことじゃねぇよって危なぁ!?」

 

 

背中を押す手のひらから白河の体温が伝わり、またまたロッカーでの密着云々の感触が蘇りそうになって、慌てて煩悩を退散させる。

 

それから、なんとか壁への激突を免れながらも、まだ作業の残っていた一登と有里栖の所に転がり込むまで、白河曰くのゴリラトレインは続いたのだった。

 

あんまりにも楽しそうにしてるもんだから、ついついおれもノせられてしまった辺り、なんか見事に手玉に取られてる気もしなくもない。

 

おかげで、先程抱いた違和感や思考がどっかに吹き飛んでしまったのも事実であり___

 

 

 

 

 

 

 

___後にこの事を、おれは後悔することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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