「……材料よし、器具よし、準備よし」
___自室にて。
普段はプライベートが死滅しているこの部屋だが、今は全員締め出していた。まぁ事情を説明すれば全員理解してもらえた。海央以外。ちなみにその海央は白河により強制連行された。
締め出した理由は単純。バレンタインデーに備えての菓子作りのためなだ。
今年も取りあえずクラスの奴らにやる分は作るとして、あとはSSRの皆の分、それから約束していた海央の分と、今回は作る量が多い。
手元には二乃やソラさん、海央達が作った例のレシピ。
それを参考にしつつ作るものを決める訳だが。
「取りあえず、材料は多めに買ってたし、早速色々とチャレンジするとしますか」
なにせレシピには初めて作る菓子も多い。試行錯誤も色々とやりたい所である。
そう思いながらも早速、腕を動かしていく。
なんだかんだで菓子作りは楽しいもので、時間を忘れそうになるが、集中し過ぎて睡眠時間を削ってしまうのは本末転倒なので、そこはしっかりするとしよう。
それから就寝までの間、隣室にまで甘い匂いを漂わせつつも、おれは菓子作りに没頭するのだった。
……おかげで次の日の朝、叶方に「夜中の飯テロは重罪だと思うんだ」と言われるのは、また別の話としておこう。
-EPISODE 14-
2/13 水曜日 晴れ時々雨。洗濯物は中干しの方がいい。
「同士達よ、昼食はどうする?」
その日の昼休み、昼飯はどうするか?と悩んでた所で杉並が声をかけてくる。
「購買か食堂か、オレはどっちでもいいけど」
「おれも同じく。なんならその場のノリで」
「あー、そうだな……」
おれ達の返答に一登が考え込む。
気がつけば4バカ勢揃いだ。
いや、同じクラスだから当たり前っちゃ当たり前だが。
「気分的に食堂で」
食堂か……そういや今日は水曜日だからハンバーグ定食か。いいな、肉万歳。肉は全てを解決する。
そうなると夜は魚にすっかな。サーモンのホイル焼きか、鯖の塩焼きでもするか。
「うむ、では行くとしよう」
杉並の合図で揃って動き出す。
1〜4限目の授業は普通と言うかいつも通りだったが、一登はどこか心ここにあらず。って感じだったな。
大方、明日の恋パ、ひいてはレジェンドバトルパーティのことで頭がいっぱいだったんだろう。
「……叶方。さっきの数学、ノートに取ってたか?」
「え、それオレに聞く?」
「あー、その返答で察したわ。じゃあ、灯火」
「いいぜ、後で貸してやる」
「助かる」
数学は一登の得意科目だが、それの板書を忘れる辺り相当ボーっとしてたらしいな。
「一登も灯火も真面目だよねー」
「おのれはもうちょい頑張れよ叶方。せめて赤点取らない程度には成績上げとけって」
「どうしても数学は苦手なんだよなー」
「いや数学だけに限らないだろ、お前は」
「うん、数学以外も全般苦手、というか嫌い」
「得意なのは赤点スレスレの低空飛行だもんな」
「あとは一夜漬けも得意だね。追試とか死んでも嫌だし」
「それで毎回マジで追試躱してるのは流石だわ……」
「いぇい」
「褒めてねーぞコラ」
なお、この四人の成績は、杉並 > 一登 ≧ おれ > 叶方 の順である。
杉並はぶっちぎりトップ。一登とおれは、テストは赤点回避出来れば良いと思ってるおれがちょっと下。逆にぶっちぎり最下位は叶方である。
「集中力欠如で板書抜けが多かったのか? 俺のノートも貸してやってもいいぞ」
「いらん。お前の場合、内容がイタズラ書きばかりだし」
そもそも杉並、おのれノート取らんだろ。
「はっはっは、たまには真面目に板書するとも」
「ほう、そうかそうか。で、さっきの数学は?」
「上杉暗号というものを知ってるか? かの上杉謙信が考案した暗号らしい。ノートにはその解読方法をメモしていた」
「「日本史の勉強になってんじゃねぇかっ!?」」
案の定、数学ですらねぇ!?
たまらず一登と揃ってツッコミを入れる。……いやホントに何やってんだコイツは。
「しかも絶対にテストに出ない問題だよね、それって」
「そんなもんがテストに出たら、答案用紙を破り捨てる自信があるわ」
「一度気になってしまうと解決するまで収まらないのが俺の性分でな」
杉並の言葉に「難儀な奴め……」と溢す一登に心底同意しつつ、取りあえず一登には後でノート貸してやるとしよう。
「おーい、そこの4バカー」
突如として廊下に響くラブコール(強制呼び出し)。
……この声は泉ちゃんか。
「……呼ばれてるぞ」
「多分、オレじゃないんじゃないかな」
「恐らく最新の暗号を用いて発声しているな。不勉強で悪いが解読不能だ!」
「思いっきり日本語だろうがアホ。……あー、なんすか泉ちゃーん__ふぎゃっ!?」
流石に無視したら後が怖いので、おれだけでも素直に応じると、泉ちゃんは持ってた出席簿でおれの頭を小突く。
地味に痛い。
「芳乃、お前は素直でよろしい。だが、泉先生だ。それと常坂兄、叶方、杉並、あと一歩でも進んだら留年にするからな」
同じタイミングで残り3人も止まる。
……ほれ、言わんこっちゃない。
「先生、脅迫という手段は下策だとは思いませぬか?」
「呼びかけを無視するほうが悪い。警察の制止を振り切る奴は大概悪党だしな。それと生徒にとって昼休みは貴重な時間だが、教師にとっても貴重な時間なんだ。無駄なやり取りで私の時間を潰してくれるな」
至極真っ当でごもっともな意見である。
なので、さっさと泉ちゃんの用件を伺うとしよう。
「用件は一つだ。明日の準備はちゃんと進んでいるのか?」
「恋パですか? はい、作業は残ってますけど、それも今日中に終わる予定です」
用件が用件なので、SSR代表として一登が返答する。
恋愛請負も昨日で終わったし、後は細かい雑務くらいだもんな。
「ん、それならいい。責任者として判を押した以上、やり遂げて貰わないとな。……気がかりなのが、悪巫山戯をやらかさないかどうかってことだな。特に杉並が」
「ふぁーっはっはっはっは、御冗談を先生。心から勉学を愛し、学園の運営に粉骨砕身の精神で奉仕する我々にどんな不安があると言いましょうか」
「そういう所だろ」
あまりの堂の入った戯言に思わずツッコミを入れると一登と叶方がうんうんと頷き、泉ちゃんが「はぁ……」と疲れた様に溜め息を吐く。
「世迷言を抜かすな。素敵な行事を黙って眺める面子ではないだろうが」
「つっても、おれは今回は運営側に回るっすけど」
「実はそこは以外だった。お前は転校して来て一度ハジけてからは、イベントを掻き回す側のが性に合ってると思ったが」
「今回はそのイベントを問題なく成功させるための処置なんで。……まぁ、杉並辺りが何か企ててる気配はするけど」
「……どっちにしろ、大荒れになるなこれは」
またまた溜め息を吐く泉ちゃん。
こんな問題児4人も抱えてたら、さぞ苦労も多かろう。ウェイトの重さは杉並がぶっちぎりだろうが。
「ま、せっかくのお祭りだ。大いに騒いで、心から楽しむに限る。私が言いたいのは、くれぐれも度を越した面倒だけは起こしてくれるなよってことだ」
「……つまり先生に迷惑をかけるなと」
「うん。何故とは聞くな。用件はそれだけだ、じゃあな」
そう締めて泉ちゃんは去っていた。
立場上、注意喚起はしとかねばならないのだろう。
まぁ、杉並がいるので無駄になるのだが。
「ふっ、俺達に自制を求めるとは無駄なことを」
「そうだね。ま、立場上は一言添えないといけないってのは分かるけどさ」
「先生には悪いが、世間は常にサプライズを欲しがっているからな……せいぜい、真剣に悪ふざけをするとしよう」
「……ちょっと待て。サプライズ? そんなこと聞いてないぞ」
なんのことか分からない一登が眉間に眉を寄せる。
なお、おれはその“サプライズ”の内容は既に聞かされており、話を聞いた後で笑顔でGOサインを出しておいた。
あんなの、あんなのやるしかねぇじゃん……!予算内だし反対する理由もない。ならやるしかない。
「あ、言ってなかったっけ? ごめんごめんー」
「……言っておくけど、舞台上で爆発物とか絶対やめろよ?」
「安心しろ。そういうのじゃねぇから」
「その通り。そんな単純な仕掛けなぞ日曜朝の子供向け番組でしか通用しない。同士達の想像を超える画期的かつ洒落な娯楽を提供してみせよう!」
「……ん? おいまて、今同志達って複数形で言ったよな? 聞いてる奴以外のサプライズはゴメンだぞオイ」
焦りながら問い詰めるも、ふぁーっはっはっはっ!と高笑いして意に介さない杉並。
一登へのサプライズは一登が喜びそうなサプライズだから良しとするが、それ以外のは流石に御免被りたいぞ。
「それより、さっさと食堂に行こうよ。ここでぐだぐだしてると、食いっぱぐれるよ?」
「ふむ、それもそうだな。急ぐぞ同志達よ!」
「ちょ、まて杉並、おのれ説明しろコラ!」
「あ、ちょっとまて、お前ら!」
腹が減ってはなんとやら。兎にも角にも食堂に向かう。
まぁ、サプライズは見てのお楽しみって奴か。不安だが。
△ ▼ △ ▼ △ ▼
____その日の放課後。
一登達と一緒に明日使う機材の音響チェックや講堂に各教室の確認でもやろうかと思ったのだが、それに待ったをかけたのは1人の女の子だった。
「準備してる中ですみません、芳乃先輩……」
「いや、よくよく考えたら当日にだけ出て来てマトモに動ける訳ねぇしな。逆に呼んでくれて助かったぜ、美嶋さん」
呼び出したのは風紀委員長代理こと美嶋さんだ。
契約通り、明日おれは風紀委員側についてそっちの手伝いをするのだが、その前に打ち合わせをしたいと、運営側……つまり中央委員会こと生徒会側から連絡があったらしい。
そのメッセンジャー役として美嶋さんが選ばれたそうだ。まだおれ達より歳も一つ下なのに、ホントによく頑張るよな。
……最近の苦労の殆どは、白河とおれのせいなので、申し訳なくもあるが。
「それに、こっちの準備はほぼ終わってて、後は残るメンバーで片付けられるくらいだしな。……杉並辺りがフザケまくってでもない限り」
「あ、あはは……。やっぱりと言いますか、杉並先輩らしいと言いますか」
去年、風紀委員は散々杉並に引っ張り回された事もあり、色々と暴走する奴の有り様も想像しやすいらしい。美嶋さんですら遠い目で草臥れている。
周りを引っ掻き回すという点では、奴は白河以上に厄介極まりない存在だからな。敵も味方も関係なく。
「……そういう芳乃先輩も、去年もここ最近も、大暴れしてた気もしますけど」
「記憶にございません」
ぷくーっと頬を膨らませる美嶋さんに、吹けない口笛をピューピュー拭きつつ応える。
うん、確かに色々と風紀委員を挑発して逃げてたりしてたが、それはそれ、これはこれである。
___そんなこんなで軽く雑談しながらも生徒会に到着。
「こんちゃーす。芳乃灯火、出頭しましたー」
身構えても仕方ないので軽い感じで生徒会室に入ると、様々な感情の混じった視線が向けられる。
それは困惑だったり、恐れだったり、疑念だったりと様々だ。
まぁ、基本的に杉並達と一緒に馬鹿騒ぎを起こす側なので、アウェーなのは当たり前だろう。
それは既に分かっていた事だ。故に特に気する事でもないのでテキトーな席に着くと「先輩、肝が座り過ぎてません……?」と呟きながらも美嶋さんが隣に座る。
どうやら運良く風紀委員代表の隣の席だったらしい。
肝が座ってるというか、この程度のプレッシャーなら慣れてるだけである。
クソゴキブリトカゲの群れと相対した方がまだ圧があった。……圧の種類が違うというツッコミはなしにしよう。
「……では、全員揃った所で定例会を始めたいと思います。進行役は恋パ実行委員長補佐の上嶋ララと、」
「同じく上嶋リリと、」
「同じく上嶋ルルでお送りします」
……三つ子ちゃん達の名前、初めて知ったかも。
というか別個で喋ってる姿も初めて見たかも。
いやまぁ、それはどうでもいいとして、会議を始める前にまずやらなきゃいけないことがある。
「あ、すまない。少し会議を始めるの待ってもらっていいっすか?」
「? どうかされたのですか」
「いや一応こっちに付くなら、念のためにな……」
持ち込んでいたカバンの中から取り出す……のを装って、手を隠しながら手持ちのビー玉を媒介に【取替の悪戯】を使い、あるものと取り替える。
取り出したのは小型の機械だ。それの起動ボタンをポチッと押して、生徒会室を探る。
「……あ、あの、なんですかそれ?」
「盗聴器の発見機」
「と……っ!?」
美嶋さんの疑問に答えると、ザワ……!と部屋の空気が変わる。それから備え付けの本棚から反応をキャッチしたので、どこぞのスナギツネみたいなジト目になりながらも本を退かすと、まずは一個。
ご丁寧に「杉並印」と書かれた端末を発見する。
「やっぱりな。あのアホの事だから仕掛けてると思ったぜ」
溜め息を吐きつつ盗聴器の電源を切ってから、ポイと投げ捨てると、三つ子ちゃんの1人が慌ててそれをキャッチする。
「ほ、本物……?」
「反応があったから本物だな。……微弱な反応がまだあるし、多分ダミー含めて数個、まだあるぞコレ」
「そ、総員、すぐに周囲のチェックを開始してくださいー!」
慌てて美嶋さんが呼びかけ、急遽、生徒会室内の大捜索が開始された。
まぁ、発見機もあるのでさほど時間は掛からなかったが、それでも生徒会室内に4個もの盗聴器、別個で2個の隠しカメラが仕込まれていたのは確認出来た。
全員が全員、ドン引きしていた。おれもちょっと引いた。
「い、一体いつの間に仕掛けられてたんでしょう……」
「そこまでは知らん。まぁ、暫く経てば新しいのが仕掛けられてるかもな」
「これ、普通に犯罪なんじゃ……」
「追求しても無駄だ。奴の事だ、自分に繋がりそうな証拠なんざ残しとくわけがねぇ。調べた所で出所不明の結果と奴の高笑いが響くだけだ」
もうすでに脳内で奴の高笑いが響き出してる。
溜息を吐きながら、それを脳内から追い払いつつパンッパンッ!と手を叩く。
「これくらいで疲れてると身が持たないぞ。ほれ、切り替えて行こう」
「寧ろ、芳乃先輩はなんでそんなに元気なんですか……?」
「こんなのまだ序の口だからな。アイツ相手に頭が常識で凝り固まってたら、しんどいだけだぜ?」
「……レベルが、違いすぎますよぉ……!」
項垂れる美嶋さん。それに同意する三つ子ちゃん達。流石に苦笑いの恋パ実行委員長の生徒会長。
それぞれが異なる反応をしつつも内心では頭が痛い思いをしてるだろう。内心、おれもそうだし。思ってたより杉並が杉並してて、またため息を吐く。
「よ、予定から少しズレましたが、これより定例会を始めます」
生徒会長の近くの席にいる三つ子ちゃん……上嶋ララだったか? が、音頭を取ってようやく定例会が始まる。
内容は当然、【恋パ】についてだ。
期間中に出される催し物についての確認や、その際の運営側の巡回経路などの必要な情報。
ここら辺は改めて確認したかったので助かったな。
これらについては明日が恋パ開催ということで、あくまで確認のみだが、本題はここからだろう。
「では、芳乃灯火さんに質問です。芳乃さんの所属するSSR主催の【恋のレジェンドバトルパーティ】なんですが、実際にどれくらいの規模になりそうです?」
風紀委員側も、生徒会側からも、注目を浴びるのが、やはりレジェバだろう。
「正直に言えば予定していた規模よりもかなり大きくなると思う。有里栖の人気に比例してるから、当然っちゃ当然だろうが。ついでに言えば参加者の殆どが飢えた野郎共ってのも注意っすね」
「優勝賞品があれですもんね……」
有里栖への告白権利。
あくまで告白する権利をプレゼントなので付き合えるか分からない……ていうかまず不可能なのだが、それでも夢を見る野郎共が出てくるわ出てくるわ。
そして、それはそのまま有里栖の抱える問題へと直結している。
だからこそ、このイベントをしっかりやり遂げた上で、一登には勝ってもらわなければならない。
「一度許可した以上は私も責任は持つけど、流石に怪我人とかが出ないかについては心配している……と、会長は仰ってます」
……なんで自分で喋んないんだろーか?っていう質問は、多分したら駄目なんだろうな。すげぇ気になるけどさ。
「一応、廊下なんかは走らないよう最初に注意喚起はする手筈っす。そのうえでレジェバ開催中は風紀委員の何名かに見てもらうことで、参加者達にも自粛してもらう。……万が一にもルールを破れば即失格の条件も付けてる」
安全性への配慮は白河とも話し合ったが、やはり規模が規模だしな。
ルールを守らずに暴走するバカも出てるだろうが、風紀委員が見ているだけでも抑止力にはなると思う。
それでもなお暴れるバカが出て来たら……まぁ、うちの妹の出番だな。
……泣く子も黙らす最終兵器・海央。
勢い余ってミンチにしてしまわないかが心配だ。と、本人に聞かれたらおれがミンチになりそうな事を考える。
「……一応、それで大丈夫そうですかね?」
「絶対とは言い切れない。ただ、不測の事態にも一応備えてるが」
クレーム処理とか、そこら辺は叶方が上手いことやってくれるだろう。
「分かりました。では、次の議題に移ります。……ぶっちゃけると、杉並さんの動向って分かります?」
「……分かったら苦労はしないんだよなぁ」
ため息一つ。
恐らく生徒会的にも風紀委員的にも本命であろう杉並の動向だが……いやほんとに奴の動きだけは読めん。気配すら読めん。思わずもう一度ため息を吐いてしまう。
「改めて奴と相対すると面倒くさいの一言に尽きる。神出鬼没な行動力と、あの愉快で意味不明な精神性のせいで、どこで何をおっ始めてもおかしくねぇからな」
恐らく今この場にいる全員の脳裏に浮かんだであろう奴の高笑い。
正直に言って、奴の行動予測は出来ないし、やったとしても精度がガタ落ちする。
先視の魔法をマトモに継承出来てたなら……と思わないでもない。
が、何故だろう。奴の未来を視たらあまりの意味不明さと奇天烈さに卒倒する自信がある。……海央には絶対に杉並の未来を視ない様に忠告しておこう。
最悪、命に関わるかも知れない。
「では、何か芳乃さんに情報を漏らしたりとかは……」
「ないな、今の所……あー、レジェバで仕込むサプライズ以外にも、なんか企んでるのは確かか」
レジェンドバトルの奴はともかく、それ以外となると碌な事じゃないのは間違いないだろう。
とは言え、身構えていたらいたで肩透かしにあったり、ブラフ___と見せかけての本命。ってな具合に状況に応じてプランを入れ替えるからな、アイツ。
固定概念に囚われる方が色々と不味い。それと根本的な問題として、運営側は奴が行動を始めた後に対処することを強いられてるのが大きな問題なんだよな。
必ず後手に回る。つまりそれは、確実に一手遅れる事を意味する。
杉並の厄介な所は、先手を確実に取った上で、逃走ルートが多岐に渡る点だ。加えて行動予測が困難な事もある。
いっそ先手を取るためにテキトーな容疑でも引っ掛けて拘束出来れば良いが、まず逃げるから無理だろう。
あと、アイツが行動不能になったらなったでレジェンドバトルの進行も危うくなるから、こっちから仕掛けるのもなしだな。本末転倒だ。
……奴の場合、それを分かって仕掛けてるのだろう。よし、戦争だ___と、普段なら即決するが、上記の理由でそれも出来ない。
「……まぁ、結局は起きた事に対して地道に対処するしかないっすね。こっちに付いてる間はおれも全力で力貸すから、なんとかしよう」
本日何度目かのため息混じりのついでに結論を出す。
なぜだか視線が「コイツも苦労してんだな」的な生暖かいものになったが、色々と大変なのである。杉並の友達をやると言うのも。
……ただ、まぁ、それを別に悪くないとも思ってる辺り、あの悪友共に毒されてるのか絆されてるのやら。
我がことながら、戦う時は意識を切り替えれる癖して、なんだかんだ人間らしい情があるらしい。
・・・・・・・・・・・・・・・
「……ん~~! 思ったより、すんなり話を聞いてくれたなぁ」
「あ、あはは。最初はアレでしたけど、イベントを成功させたいっていう思いは、きっと同じですから」
夕日が差す廊下を美嶋さんと歩きながら、背伸びをする。
結局、杉並の“サプライズ”への対応は場当たり的に対処するしかないと判断された。
真面目に考えても頭が痛くなるだけなので、仕方ないっちゃ仕方ないが。
せめて、恋パ当日には何も起こらない事を祈るしかないだろう。
「あれ、灯火に美嶋さん?」
「ん?」
ふと背後から聞き慣れた声がしたかと思い、振り返るとやはりというか、一登に叶方に杉並が揃っていた。おれも含めて4バカ勢揃いである。
「よぉ、そっちはチェック大丈夫だったか?」
「音響設備も各教室も問題なし。明日は問題なくやれそうだ」
「灯火は風紀委員の助っ人なんだよね?」
「ああ、人員借りる代わりな。だから当日はレジェンドバトルにほぼ干渉出来ないだろうから、そっちは頼むわ。……杉並が大人しくしてれば、問題ないんだけどな」
「ふぁーっはっはっは! なにを言う同志・芳乃よ!しっかり “耳”を潰してやる気を出してるではないか!」
“耳”、か……。
「耳って……や、やっぱりあの盗聴器、杉並先輩が仕掛けたんですか!?」
美嶋さんの追及に対して「さぁなんのことやら」と、のらりくらりと躱しては、とぼける杉並。
なんのことか察した一登と叶方は「やれやれ」と肩をすくめる。
「灯火ぁ、分かってると思うけど、暴れ過ぎて壁とか備品とか壊さないようにね?」
「それやったら、いよいよ白河のゴリラ呼ばわりも否定出来んようになるだろうが。やらねぇから安心しろ……多分」
「そこで多分を付け加える辺り、やらかすなこれは」
「だね」
おいそこの二人、人を破壊の権化かのような認識をすんなし。
そんな言うほど物とか壊してない……はず……だよな?
編入して来てから今までの自分の軌跡を思い返す。
…………………………………………。
……やっべー、自信無くなってきた。
「……もういいです。とにかく当日は絶対に杉並先輩の暴走は止めますからっ」
「フッ、楽しみにしておこう」
余裕綽々な杉並の姿に頬を膨らませる美嶋さん。怒ってるつもりなんだろうが、傍目から見ればドングリをいっぱい頬張った小動物にしか見えないのが難点だ。
「あんまり気負うと逆に手のひらで転がされるぜ? 少し力を抜いていこう」
「あ、はい……。で、では、私はこれで失礼します。芳乃先輩、明日はよろしくお願いしますね?」
「ああ。今日はありがとな」
一礼してから去っていく小動物系女子を見送る。相変わらず礼儀正しい子である。
で、おれ達はいつもの屋上へと向かうことに。
その間にレジェバのスタンプラリーについて話し合うのだが、どうやら一登にもイベントを楽しんで貰うため、答えは教えていないようだ。
杉並と叶方らしい。しっかり一登が楽しむ事も忘れない辺りは流石だよ。
それに対して一登がため息を吐くのと同時に、いつもの屋上へ到着。重い鉄の扉を開けると、夕日の赤い光に染まった空と、冬らしい少し冷たげな風が肌を撫でる。
……この時間帯は割と好きだ。
夕焼けの赤い空も、昼間より少し冷えた風も、切なさと同時に感傷的な気分になるからだろうか。
そんな事を考えながら、もう一度体を伸ばす。恋パ運営の定例会やらで、少し凝り固まってたみたいだ。
続いてSSRのたまり場まで行くと、先に他のチェックを終えたらしい女性陣の姿が見えた。
どうやら何かをこそこそ話し合ってるらしい。パッと見た感じでも分かる。
……まぁ、これはおれでも、何を話してるのか流石に分かる。明日が明日だしな。ここはそっとしておくのが良いだろう。
「おーい」
「わわっ!? と、常坂君!? いつからそこに!?」
が、それを訝しんだのか、一登が声をかけてしまい、有里栖が思いっきり驚く。
……しまった。コイツはそこら辺の感性がクソボケだった。
思わず杉並と彼方と一緒に溜め息を吐く。
で、そこから始まる一登の追及。
有里栖と二乃がすっとぼけようとするも、この二人も腹芸が得意ではないので、どう見ても何か隠してあると取られる態度になってしまっている。
「……教えなさい」
「ふえ? え、え?」
「何を話していたか教えなさい」
「わ、わわわ、それは言えないかなー……なんて……」
「そ、そうですよ常坂兄。乙女の秘密に踏み込むというのは、男子として野蛮かつ無粋では……」
「御託はいいから教えなさい」
「あ、あうう……」
追求モードに入る一登。
是が非でも聞き出すと言う決意が見える。どうやらこれ以上、不確定要素を増やしたくないらしい。
流石にこれは女性陣も困った顔。
なので、取りあえず杉並と彼方とアイコンタクトを取る。
呆れながら、二人も頷く。仕方ないので一登はおれ達が抑えるとしよう。
「ほら、素直に話したら楽になるぞ。カツ丼頼むか?」
「か、カツ丼……。とろ〜り卵に肉厚なカツ……」
「ひよりん、そんなベタベタなものに釣られちゃダメ!」
「そうですよひよりん先輩! カツ丼ならお兄ちゃんが作れますから!今日の夜お願いしましょう!」
なんか今日の晩飯のメニューがサラリと決まった。
魚にしようと思ったが、うん、カツ丼でもいいか。なんか食いたくなってきたし。
なお、警察とかが尋問やらでカツ丼出したら、法律的にアウトらしい。くっそどうでもいい豆知識である。
「ごめんね、いっちゃん。本当に教えられないの!」
「って訳で、撤収だ親友」
「はいはい一登、そこまでにして帰るよ」
「は、はぁ?」
「そうだな。女性陣の様子からして他の準備は万全と見える。ならば、俺達がやるべきことはあと一つ。明日に向けての英気を養うことだ」
「ってことでメガワールドに行こう。商店街のゲーセン。うん、そうしよう」
おれが首根っこ、杉並が右肩、彼方が左肩をガシッと掴んで、一登を引っ張っていく。
「ぐわっ!? ちょ、なにすんだお前ら!?」
「時にマイ同士よ、8つの大罪は知っているか?」
「いや、大罪って7つだろうが」
「うむ、つい昨日までは、暴食、色欲、強欲、憤怒、怠惰、傲慢、嫉妬だったが、今日新たに一つ加えられた。その大罪とはつまり___鈍感だ」
「はぁ? なんだよそれ……イテテテテッ! 関節! というか首ッ! 首も極まってる!」
おおっ、哀れ、8つ目の大罪を背負ったものよ。汝は罪深い。
などとしょーもないことを考えながらも一登を引きずって屋上を後にする。
取りあえず、メガワールドだな。ガンシューティングでもやって、また記録更新でもしてやろう。
未だにクソボケを発揮する親友の首根っこを捕まえながら、おれはそう決意するのだった。