D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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EPISODE 15

 

 

 

「って訳で、約束のバレンタインデーのチョコだ、受け取れ」

 

「! ありがとうお兄ちゃんー!!」

 

 

今日は恋パ開催の日。

 

つまりはバレンタインデー。

 

色々と端折って言うと、つまりチョコの日だ。

 

なので前々から約束してた通り、海央にはとびきり上手いチョコ菓子を作ったので、日課も終えて、朝飯を食べたあとで早速それを渡す。

 

よほど嬉しいのか、「にへー♪」と頬をだらしなく緩めてから、おれに突撃してハグからの、いつもの頭をグリグリと押し付けてくる駄妹専用甘えコンボが炸裂する。……喜び過ぎだっての。

 

 

「嬉しいものは嬉しいんだから仕方ないよね?」

 

「……ま、喜んでもらえたなら、作った甲斐があるよ」

 

「えへへー……♪」

 

 

ホントに嬉しそうに笑うもんだから、こっちまで思わず頬が緩くなる。

 

……今まであげれなかった分、しっかり気合込めて作ったから後でぜひ味わって欲しい。

 

 

「あ、他にもチョコ作ってるんだね?……って、多くない?」

 

「ああ、クラスの奴らと泉ちゃんの分だろ? SSRの皆の分だろ? 今日世話になる運営委員会の分もあるだろ?」

 

「どれだけ作ってるの……?」

 

 

そりゃ思いつく限りは。菓子作りが楽しくてはっちゃけてしまったせいとは敢えて言わない。

 

 

「ま、お祭りだからな。おれも楽しみにしてたんだわ。……って訳で、そっちは任せたぜ」

 

 

なにせ、おれは運営側の手伝いに出てるせいで荒事が起きた時にワンテンポ遅れるからな。荒事が起きたら真っ先に対応出来るのは海央だけだ。

 

顔の前まで上げたおれの拳に、意図を察した海央がニコニコとしたまま自身の拳をぶつける。

 

 

「はーい! 不埒な真似した人達は、この拳で血の海に沈めます!」

 

「おっかねぇよ」

 

 

ウキウキした表情でなに恐ろしい表現を使ってんだこの駄妹は。

 

……レジェバの参加者には是非ともルールを守ってもらいたいものである。不用意に怪我人や死傷者を出さない為にも。

 

あとついでにこの駄妹がヒトゴロシにならない為にも……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 15-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2/14 木曜日 曇り時々雨。決戦の時、来たれり。なお別行動。

 

 

 

 

妹分の満面の笑顔と末恐ろしさを思い知ったあと、そのまま海央と共に短い登校。

 

付属2年の教室に荷物を置きに行った海央を見送りおれも自分の教室へ向かう。

 

教室に着いたら荷物の中から取り出したクラスの連中用に作った大量のスノーボールと泉ちゃん用の菓子を教壇の上に置く。

 

 

「って訳でみんな、好きに食っていいからなー。あ、泉ちゃん用のはそのまま教壇に置いといてくれ」

 

 

ソラさんと二乃と海央達3人が作ったレシピを参考にして作ったチョコ味のスノーボール。

 

ソラさんが言ってた様に割と簡単な部類だったので、クラスメイトの分を作るのもそれなりに楽だった。

 

で、おれがこういうイベントの度に菓子を作ることはクラスでは周知されてる為か、普段登校の遅い奴も早く来ており、瞬く間にスノーボールが無くなっていく。

 

「待ってました!」「芳乃君の作るお菓子、美味しいのよね」「チョコを貰えない俺らにも慈悲を!慈悲を!!」とかなんとか好評である。最後の奴は強く生きてくれ。

 

で、おれ以外のSSRメンバーはいつもの屋上で最後の打ち合わせをしてるはず。

 

おれは今から運営側として生徒会室の方だ。

 

運営側は諸々の準備や打ち合わせも兼ねてHRは免除らしい。泉ちゃんにもそこら辺の連絡は行ってるっぽいので、まぁ大丈夫だろう。

 

 

「ん?」

 

「お?」

 

 

クラスの連中用と泉ちゃん用の菓子は置いたので、おれも行動を開始するか。という所でちょうど一登と二乃が教室に入ってきた。

 

有里栖と一緒に今日の主役を張るだろう親友に向けてニッと笑いながら声を掛ける。

 

 

「おはよーさん、一登に二乃。……今日はしっかり楽しんでこい」

 

「おう。そっちも運営側で頼むぞ?」

 

「灯火さんもがんばってくださいね」

 

 

一登と二乃から応援の言葉を受けつつ、一登が上げた手にハイタッチして入れ替わる様に教室を出る。

 

どうやら親友のコンデションはバッチリのようだ。昨日散々遊び倒しただけはある。

 

有里栖の依頼を完遂させるためにも、一登にはしっかりとこのレジェバで勝ってもらわないとな。

 

そんな事を考えながら生徒会室に向かっていると、前方に白河とはまた違う大きいケープ……というかもはやマントと言うべきか。とにかく見知った人物を見つける。

 

 

「おっす美嶋さん」

 

「あ……おはようございます、芳乃先輩」

 

 

行く先も同じなので並んで生徒会室へと向かう。

 

あまり会話はないが、代わりにHR前の喧騒に混じってチラホラとレジェンドバトルの事が生徒達の話題に上がってるのが分かった。

 

しっかりと宣伝の効果は出ているらしい。150人近くの参加者が出る大型のイベントだから、ある意味で当然っちゃ当然だろうが。

 

……ネックなのが、それだけの参加者が一気に移動する際に生じる問題辺りか。風紀委員から出向する監督者兼誘導員達には是非とも頑張ってもらいたい。

 

その分、抜けた穴はおれがしっかり埋めないとならない。なんで、レジェンドバトル中はトラブルが起きない限りは近づけないだろう。

 

 

「今日は一日よろしく頼むな。体力には自信あるから使い潰すつもりでやってくれ」

 

「その言い方は流石に語弊を招くと思います……。でも、ホントに良いんですか? 一人だけこちらに来てしまって」

 

「? まぁ、そういう契約したからな。あと、前にも言ったが、おれとしては有里栖の依頼を完遂出来ればそれでいいしな」

 

 

レジェンドバトルそのものは、あとは一登の頑張り次第だ。

 

目立つのは主役に任せて、こっちはこっちでやるべきことをやったほうが効率的だ。

 

……なにも一緒にいなくても、近くにいなくても、出来ることはあるのだ。

 

 

「でも、SSRでやる初めての大型イベントなんですよね? 実はひよりちゃんも、気にしていたんです」

 

「白河が?」

 

「よくよく考えたら芳乃先輩だけ除け者にしてしまったんじゃないかーって。もう少し、別の方法もあったんじゃないかーって」

 

 

あのアホ、んな事を気にしてたのかよ……。

 

 

「まぁ、言われたら確かにそうかも知れんが……おれはおれで、納得した上でこの役割を引き受けたんだ。それに、万が一にもレジェンドバトルと関係ない所で邪魔が入るのも避けたいんだよ。それを考えたら当日に風紀委員というか運営側に入ってる方がなにかと都合がいい」

 

 

さっきも言ったが、今回は亜里栖の依頼の完遂が最大の目的だからな。

 

……ああ、確かに一緒に騒げないのは残念かも知れないが。

 

 

「それでも勿体ないって思うんなら……そうだな、来年は最初から最後まで関わればいいんだ。何もこれが最後って訳じゃないんだからな」

 

 

SSRの面子なら、来年もまた今回以上に派手に面白いことをするはずだしな。

 

……未来の話をするならば、おれの場合はおれ自身の【使命】と【約束】をちゃんと果たしてから。になるだろうが。

 

また一つ、荷物が増えたな。悪くないけど。

 

 

「そうですか……ひよりちゃんの言った通りになったなぁ……」

 

「白河の奴、まだなんか言ってたのか?」

 

「はい。さっきの話をした上で、芳乃先輩ならきっと気にしないんだろなって」

 

「……多分、その辺りの台詞を再現すると「あのゴリラならきっと気にしないでしょうね」くらい言ってるだろうな」

 

 

おれがそう言うと美嶋さんの視線が泳ぎ始めた。

 

あのヤロウ、だからそのゴリラ扱いは一体どこから湧いて出てるんだ。

 

そんな事を思わず考えながら、おれ達は生徒会室へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___生徒会室に着いたら簡単な打ち合わせと例の作戦についての最終確認をしてから、運営側の行動が始まる。

 

臨時の風紀委員として腕章を装着し、今回限りの相棒として美嶋さんと一緒に恋パの出し物を見て回る。

 

要はバレンタインデーにかこつけたミニ文化祭のようなものだ。

 

メイド喫茶やら迷路やら、中には屋台まで用意するツワモノも出て来たりと、普通に回るだけでも飽きることはまずないだろう。

 

特に部活で参加してる所には売り上げとかが部費に加算されるそうなので、気合を入れる所はしっかりと気合を入れて臨んでるそうな。

 

が、普通に回るだけではただ出し物を楽しんでるだけなので、チェックすべきところはしっかりとチェックする。安全面での確認とか、フザケてないかとか……なのだか。

 

 

「…………杉並やおれ達に隠れてただけで、この学園、実はアホだらけだったんじゃねぇか?」

 

「あ、あはは、はは……」

 

 

おれの呟きに乾いた笑いで応える美嶋さん。

 

幾つか問題のあるのは確認したが、特に酷かったのを上げるとするならば……まずは手芸部の出し物だろうか。

 

手芸部の出し物は要はコスプレ喫茶店だ。

 

手芸部の手作りの衣装を使っているらしく、メイドやらバニーガールやら、かわいかったりセクシーだったりするもギリギリ風紀を乱すラインには当たらない衣装を使う“予定”だったらしい。

 

……うん、予定だった。こんな言い方をしてる時点で察するだろうが、実態は少し違っていた。

 

 

___実際に使われた衣装はパジャマだった。

 

 

何を言ってるか分からんよな。おれも分からんかった。

 

手芸部の大半は女子であり、発案者の手芸部の部長曰く「女の子の寝間着(パジャマ)で喫茶店すればウケるんじゃないかな?」との事らしい。

 

言いたいことは分からんでもないが、だからといってパジャマとは名ばかりに男物のシャツだけとか、半ば透けてるネグリジェとかやり過ぎだし。

 

もはや風俗店の一歩手前である。

 

即ちアウトである。

 

なお、企画のコードネームは【SPP(セクシー · パジャマ · パーティー)】だそうだ。名称の時点でもアウトだった。狙ってやってんだろ絶対に。

 

なんでも天啓が来て閃いた名称らしい……一体どこの電波を拾ったんだ。

 

当然ながら横にいた真面目でうぶな相棒は顔を真っ赤にしながら風紀委員長代理として指導を開始。セクシー過ぎるのは流石にダメなようだ。

 

あんまり酷いと売り上げ没収も視野に入るとの事で手芸部も渋々受け入れたようだった。

 

……断言してもいいが、奴ら絶対に凝りてねぇ。恐らく予備で用意してる衣装も際どいのだろう。

 

興味があるかないかと問われれば、そこは年相応の男子なのでと言わせてもらおうか。明言は避けておこう。無駄だろうが。

 

で、手芸部は要注意。として生徒会にも情報共有して、次に問題があったのは空手部だった。

 

汗臭い武道家達がバレンタインデーのイベントで何をするのかと言うと……結論から言えば妬みによる暴走だった。

 

___出し物の名称は【男気を見せろ!腕相撲大一番!】。

 

いやもう名称の時点で明らかにバレンタインデーでやるものじゃないだろこれ。

 

初手で暑苦しいわ。むさ苦しいわ。男臭えわ。

 

内容としては空手部員と腕相撲で競って勝ったら景品を貰えるとの事だったが……質が悪いのはその客の入れ方だろうか。

 

今回の恋パは白河の活動で成立したカップルも多いためか、デート気分で恋パを回ってたりしてるらしい。

 

幸せいっぱいでなによりなんだが、そんなカップルの男の方をとっ捕まえて、彼女にイイとこ見せようぜ?などと嘯いては、腕力に自信のある部員に挑ませて負けさせて彼女にカッコ悪い所を見せていたらしい。……やり口があからさまに姑息かつ悪質過ぎる。

 

これには流石に美嶋さんも抗議をいれるも、野郎ども、まさかの開き直っての「文句があるなら俺達を倒してから言ってみろ!」とか抜かし始めたので……まぁ、ここからはお察しだろう。

 

お望み通りに、真正面からフルボッコにしてシメる事にした。

 

おれより明らかにガタイの違う本校生が相手だろうが、こちとら命懸けの死線を幾つも潜り抜けた戦闘特化の魔法使いだぞ舐めんな。つか、せっかく白河が頑張って成立させたカップルになにしとんじゃこのボケども。

 

と言う具合で、強化魔法もなしで純粋な腕力だけで空手部員達を腕相撲で沈めていった。慈悲も容赦もない。最後には腕相撲に使ってた机をも粉砕して再起不能にしたが妥当であろう。いや結局物壊してるし。

 

しばき上げた部員どもに、これらの悪行に至った動機を聞いてみると、最近彼女が出来た部長殿が妬ましかったのでとの回答を頂いた。

 

……一から十まで妬みしかなかった辺り、救いようがない。

 

当然、やってることの悪質さから、美嶋さんの風紀委員長代理の権限で出店停止措置が下される。

 

なお、その際文句を言った奴らを殺気で鎮めることにしたおれは悪くない。もう一度言うが奴らに慈悲はないのである。

 

で、部長殿と顧問の教諭はこの事を知らなかったらしい。

 

連絡を聞いて飛んでやってきた二人は死屍累々の惨状に心底申し訳なさそうにしてたが、明らかに野郎どもの独断先行だったので二人にはなるべく寛大な処置をお願いしよう。

 

他にも色々と大なり小なり問題はあるが、特に酷かったのはこの手芸部と空手部のだろう。どこが平和なんだ香々見学園。イロモノだらけじゃねぇか。

 

 

「……そりゃ、おれ達(4バカ)だけじゃなくて、あんなアホどももいたら風紀委員も手が回らねぇわな」

 

 

おれ達が特に悪目立ちしてただけで、やらかしてる奴は結構いたのだろうか。

 

……と言うか、背後に杉並も関わってる気がしなくもない。奴なら普通にサブプランとして利用するだろうし。

 

そんな事を考えてると、小休憩を取っていた美嶋さんが、どこか気遣い気味な視線をこちらに向けてくる。

 

 

「あの、腕はだいじょうぶですか? さっきの空手部の腕相撲で、思いっ切り机も壊してましたし」

 

「ん? ああ、アレくらいなら全然」

 

 

確かに思いっ切りやったが、あの程度で怪我をするほどやわな鍛え方はしていないのである。と力こぶを作るポーズを取ると、美嶋さんが感嘆の溜息を吐いた。

 

 

「……改めて思いますけど、すごい体力ですね」

 

「まぁ、空から降ってくる白河を受け止めれるくらいには鍛えてるし」

 

「あれはもう絶っっっっっ対にやらないように、ひよりちゃんには言いつけておきます……!」

 

「頼む。それはホンっっトに頼む。怪我はさせなくても心臓に悪いんだよ、アレ……!」

 

 

いくらなんでも戸惑いなくアイキャンフライするのはマジでやめてほしい。ムササビかっての。いや原因はおれかもしれないが。

 

脳裏に浮かんだツインテールの恋愛請負人に、美嶋さんと揃って溜息を吐く。

 

……とまぁ、そんな感じで見回りと小休憩を繰り返しているところで、そろそろレジェンドバトルの開催時間となった。

 

本来は恋パ開始と同時に動く予定だったが、例のサプライズが届くのが遅れたらしく、仕方なく時間をずらしたらしい。

 

道行く参加者らしき生徒がゾロゾロとスタート地点に向かってるのが分かる。

 

本気の目つきのマジな奴から、単なるお祭り好き、更には女子まで参加しており、有里栖の人気っぷりが伺えるものだ。

 

 

「分かってたが参加者が多いな。……あ、一登みっけ」

 

 

気配で察知した親友の姿。どうやら先頭は取れなかったみたいだが、一応は前の辺りにいるらしい。あとは一登の頑張り次第だろう。

 

 

「約束通り、風紀委員の何名かをコースに配置しましたけど、だいじょうぶでしょうか……?」

 

「予想以上の人だしな。……念のため、スタートの様子だけ確認しといていいか?」

 

 

おれの提案に美嶋さんも頷いたので、邪魔にならない遠目で確認できる位置に移動して、その動向を見守る事にする。

 

暫く待つと、参加者が集まりきったと見なしてか、進行役を務める叶方がマイクを持って現れた。その後ろには、「むんっ」と、なんか妙に気合を入れてる妹分の姿もある……嫌な予感がしてきた。

 

 

「それではただ今より、SSR主催【恋のレジェンドバトル】を開始します! チェックポイントは5か所。TABに表示されてある地点を回って、出題されるクイズに正解したらクリアとなります」

 

「クイズは正解するまで何度でもリトライ出来ますけど、正解しないとチェックポイントクリアとならないので注意をしてください!」

 

「そして全チェックポイントをクリアし、一番先にゴールでもある講堂に辿り着いた人が優勝となります! ……ですが、注意点が幾つかあります」

 

「当然のことですが、恋パはこのレジェンドバトルだけではありません! ほかの出店されてる人達も、それを見て回る人達もたくさんいます。ですから、廊下など人が多い所はなるべく走らないでください。それと故意的な妨害行為も禁止していまーす!」

 

 

叶方と海央で交互にルールを説明していき、最後は禁止事項の説明に入る。

 

……見た感じ、何名かはそんなの知ったこっちゃねえ!って雰囲気を出してる奴もいるな。そしてそれは海央も気づいてる。

 

当然、これで終わらないのが駄妹の駄妹たる所だろう。

 

 

「みおーん!頼まれてたもの、持ってきたよー!」

 

 

「「……ちょこ?(日野原さん?)」」

 

 

と言って台車で何かを持ってくるのは……海央のクラスメイトで最も仲のいいらしい「ちょこ」こと日野原ちよ子。で、そんなちょこが持ってきたのは……香々見学園男子生服を着たマネキンだった。

 

……いや、なんでマネキン?

 

 

「ありがと、ちょこ! …………コホン。それでもルールを破るという方は___こうなります!」

 

 

一瞬で膨れ上がる闘気。

 

あ。

 

やっべ、あのバカ、まさか。

 

全てを理解して、背中に冷たい汗が流れる。

 

海央は一瞬、身を屈めると高速で回転しながら跳躍し、その回転の勢いを一切落とさずに、その踵をマネキンへと振り落とす。

 

 

「___天鷲撃ッ!!」

 

 

人外レベルの勢いと破壊力を乗せた踵落とし。

 

咲三式の体術の一つ、天鷲撃。

 

空から獲物を狙い飛んでくる鷲の如く、空中から鋭く重い一撃を繰り出す強襲技……だったかな?

 

疑問形なのは、幼少期に咲三の家で教わったおれの知ってるそれと、海央がたった今繰り出した技で破壊力に差があるからだろう。

 

……あのバカ、少しは膂力を抑えろよ……!

 

振り抜いた踵がマネキンの頭部を穿ち、砕き、その勢いを留めぬまま真っ二つに叩き割る。

 

うん、叩き割った。

 

完膚なきまでに割りやがった。

 

因みに強化魔法は一切使わない素の身体能力でコレである。

 

見た目は有里栖と同じくらいの小柄な身体から繰り出された人外の破壊力に、その場の全員が言葉を失う。

 

要するにドン引きだ。

 

美嶋さんに至っては処理限界に達したのか、宇宙を背負う猫のような表情を見せている。……そりゃそうなるわ。

 

喜んでるのは「おおー! みおーん、すっごーい!」ってお目々キラキラさせながらはしゃいでる後輩マイチューバーくらいだ。

 

いや、この惨状を見てその感想が出る辺り、かなりの強メンタルだなオイ。

 

で、この惨状を作り上げた本人はと言うと、残心しつつ「むふーっ!」と満足気な顔をしながら、じゃーんっと効果音がつきそうな仕草で無惨な姿になったマネキンをレジェバ参加者に見せ付ける。

 

 

「……と、こんな感じで気絶してもらってから失格とさせてもらいます。安全のためにもルール厳守でお願いします!」

 

 

「「「「「「いや、おっかな過ぎるわッ!?」」」」」」

 

 

一登も含めた満場一致でツッコミが入る。つか、おれもツッコむ。

 

あんの駄妹、安全以前の問題だバカタレ……!

 

死ぬわ!あんなデタラメな踵落とし食らったら、気絶どころか問答無用で死ぬわ!ルール違反=死とかどんなゲームだよデスゲームか!?

 

しかしながら、傍目には常識外れの奇行にも一定の効果はあったようで、さっきまで違反行為も辞さないと言う雰囲気の奴らも顔を青ざめている。

 

うん、そりゃ誰しも死にたくはないよな。

 

 

「…………ハッ!? と、という訳で、ルール違反はオススメ出来ません。理由は今ので察しましょう。えーと、それではスタートします。皆さんその位置から動かないでください」

 

 

いち早く衝撃から回復した叶方の合図で、一登含めた参加者たちも我に返っていく。

 

手に持った陸上部のスターターピストルの引き金に指がかけられる。

 

 

「オン・ユア・マーク」

 

 

そこで海外式をチョイスしたのはなんでだろう。

 

 

「ゲットセット___ゴー!!」

 

 

声と、スターターピストルの発砲音が鳴ると同時に、恋のレジェンドバトルの火蓋が切って落とされる。

 

先程の海央の蛮行が効いたのか、どいつもこいつも廊下は速歩きで済ませている。

 

……ま、まぁ、結果的に上手くは行ったか。海央は後で説教だけど。

 

 

「……ハッ! ちょ、ちょっと海央さん!? なにしてるんですか危ないですからね!? 日野原さんもそのマネキンどこから持ってきたんですーー!」

 

 

大分遅れて宇宙猫状態から復活した美嶋さんがぷりぷりと怒りながら、海央とついでにちょこに向かって行く。

 

「あ、ヤバっ、みうたんが来た!」「逃げるよみおーん!こういう時は逃げるが勝ち!」「ちょ、待ってください二人ともー!」と、実に楽しそうに追いかけっこが始まる。

 

……海央の奴、確かチェックポイントの担当だったような……? 大丈夫なのだろうか。

 

 

「ふふっ、楽しそうな催しをやってるんやねー」

 

「ッ!?」

 

 

ふと、耳元で囁かれるような声が聞こえて、距離を取ると同時に振り返る。

 

気配を感知しなかった事と、その聞いたことのある声、そして数日前の不穏な宣言の事を思い出して、瞬時にその声の主が誰なのかを特定する。

 

 

「盾石!?」

 

「はろはろこんちわ〜♪ 晶ちゃん、宣言通りに参上や♪」

 

 

振り返った先にいたのは、スタイルだけは抜群な【防人】の魔法使い、盾石晶だった。

 

当然ながら奴は部外者の筈で、恋パには参加できるはずもないのだが……。

 

 

「いや、テメェ、その格好は……」

 

 

おれが驚いたのは奴の存在だけじゃない。その格好……香々見学園本校生の制服を身に纏っている事にもあった。

 

おいまて、なんか嫌な予感がするぞ。

 

 

「似合うやろ? 昨日、本校生として転校して来たからウチ先輩やでー」

 

「はぁ!?」

 

 

ふと、奴の口から出た言葉に理解が追い付かなくなる。おい待て、どういう事だ……?

 

それで思い出すのは、コイツと同じ【防人】の魔法使いである数日前の氷室の言葉。

 

 

「おじさんからの任務って、まさか学生やれって事か? ってことは氷室の奴も……」

 

「ピンポ~ン♪ 大当たり〜♪ ジン君もちゃんと付属の生徒として転校して来とるよー。正解者には晶ちゃんの熱烈ハグを進呈しま~す♪」

 

「いらん」

 

 

両手を広げて向かってきた浮かれポンチ女の突撃を躱すと、ものの見事に壁に激突する。

 

「ぎゃん!?」と言う悲鳴を上げていたが、だからなんでやることなすことギャクになるんだ、この女。

 

 

「あたた……相変わらず連れへんなぁ……」

 

「うっせぇよ。つか、それだけじゃねぇんだろ。テメェらの任務ってのは」

 

 

おれがそう言うと、楽しそうな雰囲気から一転して目を細める。

 

 

「……どうしてそう思うん?」

 

「ただ学生やるにしても、わざわざ一つの地域……と言うか本州から離れた島の学園に、海央も含めた3人も転入させるかよ」

 

「分からんよー? ただ単に自由な校風のするこの学校を、ウチらが気に入ったかも知れんやん」

 

「だとしたら、わざわざ前日に氷室が「面倒」なんて言うかっての。つか、こっちは時間が押してんだよ。それこそ面倒なやり取りさせんな」

 

「それもそっかぁ。まぁ、本音を言うと今はまだなんも言えへんねんよ。だから今は恋パの見学かなぁ」

 

 

そう言ってから、盾石は背を向けて歩き出した。

 

 

「しばらく学生やるし、せやったら楽しめる時は楽しまんと損やろ。心配せんでもトーカ君に敵対する気はないんよ、ウチもジン君も」

 

「……それなら良い。でも一応言っとくがこの学校、自覚なしの魔法使いもいるから、あまり干渉するなよ」

 

「んー、でも気になる子達もおるんやけどなー。例えば常坂の倅さんと妹さんとか___」

 

 

その言葉を盾石が言い切る前に、切り替わった意識が体を動かす。

 

瞬時に人払いの結界を張って、盾石の眉間に取り替えた【シリウス】の銃口を突き付ける。

 

反応が出来なかったのか、浮かれポンチにしては珍しく素で驚いてるようだが、そんなのは知ったこっちゃない。

 

今は何より、端的に、バカでも分かるように言っておく事が出来たからだ。

 

 

 

 

 

 

「___あの二人に変な事してみろ。その瞬間にテメェの頭を肉片に変えてやる」

 

 

 

 

 

 

撃鉄を下ろして引き金に指をかけ、そう告げると、コチラの本気具合を理解したのか、冷や汗をかきながら両手を上げた。

 

 

「分かった、分かったってば。だからその物騒な代物、下ろしてくれへん……?」

 

 

…………嘘は言ってない様なのでシリウスの撃鉄を戻してから銃口を下ろし、【取替の悪戯】でビー玉と取り換えて仕舞い、意識も切り替える。

 

その上で結界を解けば、周囲の喧騒も戻って来る。

 

どうやら海央とちょこは美嶋さんに捕まり、現在進行系で説教を受けてるようだ。ちょこは完全にとばっちりなので、流石に申し訳ない。

 

取りあえず美嶋さんを宥めてからちょこは開放してやろう。

 

海央はダメだ。アイツは追加で説教だ。慈悲はない。

 

そんな事を考えてると、隣の盾石が長い溜息を吐いて壁にもたれかかる。

 

 

「はぁぁぁ〜……! 当主様よりおっかないわぁ、今さっきのトーカ君」

 

「一応親切として言っといてやるが、テメェはその不用意に地雷原に突っ込む性質を直せ。……早死にするぞ」

 

「今、まさに脳天ブチ抜こうとした人が言わんといてよぉ、もぉ……。あ、分かりました、ウチが悪かったです、ごめんなさい。ですのでそんなゴミを見る目はやめてよぉ……!」

 

 

何か文句がありそうだったので、もう一度睨むと涙目になった浮かれポンチがようやく謝罪の意を示した。

 

ため息を吐く。無駄な時間を過ごした。……とにかく、このバカはもう放置でいい。

 

取りあえず今は、やるべきことをやるとしよう。

 

…………差し当たり、そろそろ正座がキツそうなちょこを助けてから、駄妹に説教でもするか。

 

 

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