D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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EPISODE 16

 

 

 

「___で、踏み込み過ぎて危うく殺されかけたと」

 

「そうなんよぉ……! うぅ、ほんまにほんまに怖かったぁ……!」

 

 

恋パとか言うイベントが行われてる香々見学園の一角。人払いの結界を張ったうえで、藪蛇を突いたらしい一応は先輩魔法使いの話を聞く。

 

聞いてる限り、自業自得だと言わざるを得ないけど。

 

 

「……常坂と言えば、確かにかの大魔法使いの事を連想しますが、ここの生徒である常坂兄妹は、そもそも魔法使いではなさそうですし、訓練をしてる様にも見えないでしょう」

 

「傍目から見たらそうやろ? でも万が一かもって思って口に出したら……」

 

「あの化け物銃を突き付けられたと」

 

 

芳乃は、よほどあの兄妹を大事にしてるんだろう。

 

【防人】の事もあまり信用してなさそうだし、下手に僕達のような他の魔法使いに、あの兄妹のことを触れられたくないのかも知れない。

 

多少、気になる点もあるが恐らく“あの少女”と同じで、脅威と言う訳でもない。

 

確かに、彼らの祖父___常坂元も魔法使いの間では名を馳せた大魔法使いとは言え、彼の扱っていた魔法を常坂兄妹は受け継いだ訳でもなさそうだし、僕達のように戦闘に特化した訳でもない。

 

 

「僕はそれより、芳乃の方が気になるな」

 

「ジン君って、そっちの趣味あったっけ?」

 

「……凍死したいならそう言え。骨まで凍らせよう」

 

 

手のひらに冷気を凝縮させ始めると「きゃー!ジン君まで怒ったー!」と呑気な声で悲鳴を上げる浮かれポンチ。

 

そっちの趣味ってなんだ、そっちの趣味って。殺されかけてらしくもなく落ち込んでいるくせに、しょーもない発言が出る元気はまだあるらしい。

 

いっそホントに愉快な氷像にでもして放置してやろうか? その方が世界は大分平和になる気がする。間違いなく。

 

 

「……以前のトカゲ殲滅戦の時も思いましたが、彼のあの戦闘能力は少し異常です」

 

 

そんな物騒な思考を振り払い、改めて思い出すのはトカゲ殲滅戦時の芳乃の様子だ。

 

触れているモノを取り替える……言ってみればそれだけの魔法で、現代の兵器や武器を次々に取り出して使いこなすという、魔法使いとしては異端な戦いっぷり。

 

現代兵器を何気なく取り出すというのもやはり脅威ではあるが、芳乃の恐ろしさはそこじゃない。

 

 

「……ジン君も、やっぱりそう思うん?」

 

 

かくいう盾石先輩も同じ事を思っていたらしい。

 

 

「戦闘技術、殺気、魔力コントロール、どれも実戦で磨かれたとしか思えないほど洗練されている。……なにより、彼はその力を自身の“敵”に振るう事に全く躊躇がない」

 

 

芳乃灯火の真の恐ろしさはそこにある。

 

敵と認識したものには一切の容赦がない。迷いも、逡巡もない。

 

この先輩だって、普段からあーぱーな面が強すぎるが……いやほんとに、あーぱー過ぎて困るレベルだが、それでも【防人】に所属してる魔法使いとしてはそれなりに実戦を経験している。

 

その先輩が、不意を付かれたとはいえ何も出来ず……得意なはずの結界魔法すら発動出来ずに、ただ“敵”と見なされただけで一方的に王手をかけられた。

 

咲三の家から追放されたあと、一体どんな経験をすればあそこまで苛烈になれるのか。僕もそれなりに経験は積んでるけど、予想が出来ない。

 

 

「……この際、どこでそれらを磨いたのかは置いておきましょう。問題はそれらを使って彼が何を成すのか、です」

 

 

目的が分からないのに、力だけ付け続けてる謎。

 

仮にも敵対するなら、それこそ苦戦は免れない。

 

……いや、下手をすれば一気に喰い破られかねないだろう。まぁ、当主が信頼してる相手なので敵対することはないだろうが。

 

今回の任務にも、深く関わってるのは間違いないしな。

 

 

「それが知りたくて、わざわざ彼にちょっかいを掛けたのでしょう、先輩も」

 

「んー、それもあるんやけど、やっぱり心配やねんなぁ。生き急いでる感じがするんよ、トーカ君を見てたら。……って、ウチらが言う資格はないんやろうけど」

 

 

はぁ……。と自虐のため息を吐く先輩。

 

裏切り者の意思があったとは言え、【防人】が彼にした仕打ちは、やはり許しがたいものだ。

 

それを考えれば、僕達がどうこう言うのは、やはりあまりよろしくないのだろう。

 

きっと同じ立場なら、「どの口が」と言う自信がある。

 

 

「……前途多難、だな」

 

 

芳乃が所属してるSSRなる同行会。

 

それが主催する催し物により喧騒が広がる校舎を眺めながら、僕もため息を吐く。

 

場合によっては共闘も視野に入れなければならない相手だ。

 

……せめて敵対することがないよう祈るしかないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 16-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………やり過ぎたな」

 

 

一登と二乃、あの二人のことに触れた盾石に対して、過剰なまでの反応をしてしまった。

 

流石に反省モノだ。

 

海央の事をとやかく言えないな、この様じゃ。

 

盾石には後で謝っておくとしよう。……いや、【防人】の魔法使いにはなるべくあの二人に関わってほしくないのは確かなんだが。

 

海央はまぁ別として。アイツは触れてほしくない事には絶対に触れないからな。香々見島での生活が決まった時点で、ある程度はぼかして伝えてるし。

 

……と、反省ばかりしていても仕方ない。今はやるべきことをやる時か。

 

 

「お、お待たせしました、芳乃先輩」

 

「お疲れさん。……悪いな、あの駄妹があそこまでハッちゃけるとは思わなんだ」

 

 

少しだけ顔を赤くして、駄妹への説教を終えた美嶋さんが戻って来る。

 

美嶋さんがさっきまで居た所には説教+正座のコンボで足が痺れて蹲ってる駄後輩の姿があった。

 

駄妹こと海央は危険行為をしたという事で厳重注意となったそうだ。なお、ちょこは巻き込まれたと判断してノーカウント。

 

海央はチェックポイントの一つを担当する予定なのだが、説教タイムが入ったので叶方と杉並と相談して予定変更。叶方が代わりにチェックポイントの担当になったらしい。

 

 

「ったく、反省しろ駄後輩」

 

「うう……分かりやすいかなって思ったのに。アレだけやればルールを破る人は出ないって思ったのに」

 

「言う側のおのれが危険行為してたら本末転倒なんだわ、このバカタレめ」

 

 

なぜあんな蛮行が許されると思ったし。

 

ルール以前にまずは人としての常識を守れ。

 

……いや、なんかおれが言うと説得力ないけども。

 

兎にも角にも、だ。

 

 

「海央はとにかくSSRのみんなに後で謝っとけよ? で、悪いがちょこ、この駄後輩が回復するまで診といてくれないか?」

 

「はーい、了解しましたー!」

 

「足が、しびれびれ……!」

 

 

取りあえず海央はちょこに任しとけばいいだろう。

 

 

「おれと美嶋さんは一度運営委員会の本部に戻るか。今の状況を把握しときたいし」

 

「そうですね。細かい報告とかクレームとか来ているかもですし」

 

 

おれの提案に美嶋さんも頷く。小休憩も必要だしな。ついでなので水分補給とかもしておこう。

 

と、こんな感じで方針も決まった所で移動を開始する。

 

レジェンドバトルの方は順調そのものだ。COMUで杉並から送られて来る近況報告だと、一登はなんとか先頭グループをキープしているらしい。

 

問題のクイズの方もSSRの皆でこっそりヒントを与える手筈だから問題ないだろう。杉並が最後の問題にも一手間を加えると言っていた。安心して任せて良いはずだ。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

美嶋さんと一度、運営委員会の本部となっている生徒会室に戻ると、やはりというか運営本部は運営本部で戦争の真っ只中だ。

 

恋パ中に起きたありとあらゆるトラブルの対応は、まず此処に持って来られるからな。

 

そんな慌ただしい気配がする中、ふと見知った顔が目に留まる。

 

 

「あ、灯火じゃん。やっほー」

 

「叶方? おのれ、どうして此処に?」

 

 

運営本部にいたのはいつもの女装姿の叶方だった。

 

どうやら風紀委員の女子生徒と一緒に何かを話し合ってる様だ。

 

 

「いや、それがクレームの対応でオレが動かざるを得なくてさぁ。海央ちゃんも復活して早々悪いけど現地で対応してもらってるから、まぁなんとかなるかなって」

 

 

海央が対応してるのか……やり過ぎてないか心配だが、流石にさっきやらかしたばっかでアホな事はしないだろう。

 

もしやらかしてたら今日のアイツの夕飯は抜きだな。

 

って、あれ?

 

 

「……待て待て。海央も彼方も対応に回ってんなら、誰がチェックポイント担当してんだよ?」

 

「あ、それは大丈夫。杉並経由で詩名ちゃんに頼んだんだってさ」

 

「鳳城か、よく引き受けてくれたな」

 

 

なんだかんだでまだデレてなかった筈だが、あのツッコミ転校生。

 

そんなおれの考えを察してか、若干呆れ気味の表情で叶方がタネを明かす。

 

 

「杉並が詩名ちゃんに二日近づかない事が報酬らしいよ」

 

「……どんだけ普段から鳳城にウザ絡みしてんだ、アイツは」

 

 

思わず口を引き攣らせる。

 

たった二日の安寧で安請け合いしてしまうほど追い詰められていたのか、鳳城の奴。

 

……後で詫びと礼も兼ねて和菓子の差し入れを持っていこうか。流石に申し訳なくなってきた。

 

 

「で、灯火の方は……見る限り、大変そうだね」

 

「まぁな。おれら以外にバカする奴らもいたからな」

 

 

思わずため息を吐く。最もそのバカをした奴らの裏には奴(杉並)の影が見え隠れしてるので、十中八九奴が関わってるだろう。

 

 

「叶方先輩、そろそろ……」

 

「あ、ごめんね。……そう言う訳だからオレは暫くクレームの対応でこっちにいるよ」

 

「分かった。頼んだぜ」

 

 

風紀委員に促されてそっちの対応に戻る叶方。

 

……心做しか、叶方と話してる生真面目そうな風紀委員の頬が赤く染まって嬉しそうな気配がしたが、見ないことにしておこうか。

 

叶方は女子にも男子にも人気あった事を、SSR前の恋愛請負の手伝いの際に白河が言ってたのを思い出したからだ。

 

あの風紀委員もその一人なんだろう。クソ忙しい業務の中で憧れの人と話す機会があるなら、そりゃ嬉しいだろうな。

 

さて、おれはおれでやるべき事をやるか。運営本部に集まってるクレームやトラブルの中から、解決案を美嶋さんや他の風紀委員や生徒会役員と考えていく。

 

解決案とそれに伴う手段を、今いる人材の中で効率良く運用する為に全体を俯瞰的に把握して、実施。

 

生徒同士のイザコザや、手芸部や空手部みたくこっそり何か企んでる連中への対応なんかもあり、タレコミやらで判明したら急行して検挙。

 

あとはそれの繰り返しだ。

 

こういう時こそ頭の回転の早さが活かされるもので、ある意味でおれが得意とする分野だろう。

 

 

運営委員会側もそれを理解したのか、おれに振られる仕事が徐々に現場対応のものから変わっていき、結果___

 

 

 

 

「芳乃さん、付属1年3組の教室で男子生徒二人が喧嘩を始めたとの通報が!」

 

「さっき隣の1年2組の出し物を見に行った風紀委員がいたはず。ガタイ良くて体力もある本校先輩だったから連絡してすぐに対処!」

 

「はい!」

 

「芳乃君! 本校2年2組が運営してる射的ゲームで的を固定したイカサマをしてるんじゃないかって通報が来たよ!」

 

「上嶋ルル、すぐに向かって確認頼む。こっそり隠れてイカサマしてるのを確認したら、証拠を抑えてすぐに連絡! 上嶋ララはその連絡が来たら本校の顧問への呼びだし措置を頼んだ!」

 

「分かりました!」

 

「了解です!」

 

 

 

 

____何故か、仕舞いにはおれが指示を出す側となってしまっていた。

 

……なんでだよコノヤロウッ!? いや、理由は分かってるんだけどさ!

 

あまりの忙しさに効率を求めた結果、頭をフル回転させて案件が持ち込まれると同時にノータイムですぐさま捌いて指示を出す様にしたら、気が付くとこうなっていたんだよな!

 

思わず頭を抱えそうになる衝動に襲われる。

 

しかし、今はそんな暇も許されないらしい。

 

 

「よ、芳乃先輩!手芸部がこっそり隠し持ってた、え、え、えっちな服でまた荒稼ぎをやってるとタレコミがぁ!」

 

 

くっそ、予想通りにやらかしやがったなアイツら!

 

こっちが忙しくなるタイミングを見計らってやがったな。アイツらのその情熱はどこから湧いてやがる!?

 

痴女か? 痴女なのか!?

 

くそ、ツッコみたいけどツッコむ暇も惜しい!

 

 

「美嶋さん、すぐに向かって手芸部部長を現行犯逮捕でしょっ引いて来てくれ! 上嶋リリは手芸部の顧問に連絡! まずは説教、それから反省文! 泣きを入れてからもう一発のコンボを食らわしてやれ!」

 

「は、はいぃ!」

 

「りょ、了解です!」

 

 

この際、ペナルティは重めで良いだろう。一度指摘してこれなので容赦はしなくていいはず。

 

兎にも角にも取りあえず落ち着いていこう。下手に感情が荒ぶったら冷静な指揮も出来なくな___

 

 

「芳乃ぉ! 空手部の一部が、今度は柔道部と剣道部に相撲部とも結託して、またカップルを狙い始めやがったぞぉ!」

 

「一部の男子生徒も共鳴してそれに乗っかろうとしてるってタレコミも来ましたぁ!」

 

「あんのバカども全く懲りてねぇ所か増えやがったのかクソッタレぇ!! 」

 

 

___ダメだった。

 

ツッコむのもキレるのも我慢できなかった。

 

「うがー!」と叫びながらこの場の最高責任者の方へ向き直る。

 

かくなる上は……カチコミじゃあ!! 討ち入りじゃあ!!!

 

 

「生徒会長、鎮圧許可をくれ! 指揮権も戻すから暫くこっち頼んます! おれはバカタレどもの即時鎮圧してすぐに戻る!」

 

「……………………………………………………」

 

「『分かった許可します。こっちは任してほしい。……と言うか、予想を遥かに超えて働いてもらってる気がするけど本当にごめんね? 』……と会長は仰ってます!」

 

「言うか言うまいか迷ったけど、長セリフくらい上嶋ララ経由じゃくて自分から言わんかい!?」

 

 

この期に及んで自分のキャラを貫く生徒会長に、ある種の尊敬と呆れを抱きつつ、ビシッとツッコミを入れてから生徒会室から出てバカタレ共の鎮圧に向かう。

 

空手部は一度シバいたうえでコレなので、もはや手加減は不要。迎合したアホ共も纏めてハッ倒す。クソ忙しい事もあるので瞬殺することは確定だ。

 

いや、もう、ほんとに手加減しねぇから覚悟しとけバカタレども……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁぁぁぁぁぁ……! つ、疲れたぁぁ……!」

 

「お疲れ様です……ええ、本当にお疲れ様です……!」

 

 

……とまぁ、そんなこんなで妬みで暴走したバカどもの鎮圧をしたりして、更にそこから追加でやって来た案件とかに忙殺されてる間にレジェンドバトルは無事に一登が一位でゴールしたらしい。

 

落ち着きを取り戻しつつある運営本部で、美嶋さんが入れてくれたお茶を頂いていると、杉並からそんな連絡が来た。

 

兎にも角にもこれで計画の第1段階はクリア。

 

あとは一登が有里栖に盛大に告り、有里栖がそれを断って、意思表示をすれば全条件はクリア。依頼達成となる。

 

レジェバに派遣してもらってた風紀委員の人員も戻って来たので、ここから先は運営側も楽になるだろう。

 

 

「にしても、いつもこんな感じなのか? 運営側って」

 

「今回は特別酷い気がします……。いつもなら騒がしいのは杉並先輩達ぐらいなのに」

 

 

正直、ここの忙しさを知った後だと悪い事したとは思う。

 

それは取りあえず置いといて、今回は特別酷いと言う美嶋さんの言葉に妙な引っ掛かりを感じた。

 

っていうかやっぱりと言うか……策謀の気配を感じた。主に杉並の。

 

多分、杉並の行ってたサプライズとやらがこれだったんじゃないかと思わないでもない。

 

……背景を洗いたいが、そろそろ各員を休ませないとなぁ。仕方ない、それもおれがやるか。

 

今回は効率良く人員の運用が出来、消耗を最小限に抑えられたから良かったが、それが出来なければ今の時点でもてんてこ舞いだったのは間違いないだろう。

 

やはり、奴の策略と見るべきか。今からしょっ引かれた奴らの聞き取りをして背景を確かめるべきか。

 

 

「会長さん、ちょっと今反省文書いてる連中から聞き取り調査をしていいか? すぐに終わるから」

 

「…………………………………………!」

 

 

ん? なんか言ってるっぽいけど聞こえないな。

 

上嶋ララの通訳がないとなに言ってるか分からん。口許も見えないから唇を読むことも出来んし。

 

 

「『その聞き取りはコチラでやっておくから、芳乃君はもうSSRの方へ戻ってくれて構わない』……と、会長は仰ってます」

 

「……ん?」

 

 

いやいや、なに言い出してんだこの人。まだ仕事途中だろうが。途中で抜けるのはダメだろ。

 

と、考えていたのだが、

 

 

「いえ、芳乃先輩にこれ以上働かせると、逆に申し訳ないと言いますか……!」

 

「や、言うほど働いてねぇだろ? バカの鎮圧を除けば、ほとんどここで指示出しに終始してたし」

 

 

バカ共は数だけ揃えてるだけあって面倒臭かったが、こっちで指示出しに徹してる間はまだ楽だったしな。

 

 

「それですよぉ! 本来ならもっとバタバタしてたはずなのに、先輩が的確に指示を出してくれたおかげでスムーズに処理することが出来たんですからぁ!」

 

「お、おう?」

 

 

普段おとなしい小動物ガールな美嶋さんが、「くわっ」と言った感じで圧を増したので、思わず後退りする。

 

そんな美嶋さんの叫びに、生徒会室にいる他のメンバーも頷く。あの三つ子ちゃん達もだ。

 

 

「あ、それ私達も思いました!」

 

「ただの指示出しじゃなくて、現在配置されてる人員を完璧に把握してて、一番近い位置にいる人を動かせてましたし」

 

「なにより報告を聞いてから指示を出すまで、ほぼノータイムなんですよね。おかげで案件の一つ一つの処理が早くて早くて」

 

「……ひよりちゃんから芳乃先輩は頭の回転が早いってことは聞いてましたけど、予想以上でしたよ……!」

 

 

三つ子ちゃん達と再び美嶋さんからの称賛の声に流石にたじろぐ。

 

な、なんだ? 褒めても何も出ねぇぞ? 出ても手のひらから和菓子しか出ねぇぞ!?

 

若干混乱している間に会長さんはまた上嶋ララに耳打ちをする。

 

 

「『SSRのイベントに貸し出した人員分以上の働きをしてくれたのは確かなので、あとはコチラでどうにかしてみる。それになにより初めてのイベントなら、仲間と一緒のがいいからね』……と、会長は仰ってます」

 

 

上嶋ララによる生徒会長の代弁に、美嶋さんや上嶋三姉妹だけでなく、この場にいる運営委員会の皆が頷く。

 

……あー、うん。流石にこれで更に意地を張るのは、逆に情けなくなるか。

 

 

「……了解。それなら少し早いけど上がらせて貰うよ」

 

「はい、お疲れ様でした、芳乃先輩!」

 

 

なのでありがたく、その好意に甘えさせてもらおう。

 

……本音を言えば、確かにフィナーレくらいは見届けたかったのだ。

 

運営本部となっている生徒会室を出てから、講堂へと向かって走り出す。

 

今から行けば、親友の大一番の舞台を見ることが出来るだろう。

 

杉並が用意していたと言うサプライズの事もある。……一登の反応が楽しみだ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「……おお、予想より多いな」

 

 

生徒会室から御役御免の命を受けて、それからチェックポイントの代役で疲れ果ててた鳳城に詫び和菓子をあげて礼を言ってから講堂に駆け付けると、既に見物人で満員寸前となっていた。

 

恐らく実際にレジェバを見た事で興味を持った生徒も来てるのだろう。それにしても多すぎである。いや、好都合っちゃ好都合なんだが。

 

 

「あ、芳乃! こっちです、こっち!」

 

「お兄ちゃん、こっちこっち!」

 

 

取りあえず皆の所に行こうかと思った所で、聞き慣れた声が二つ耳に入ってくる。

 

そちらの方に視線を向けると、講堂の端の方に一際目立つツインテールとマントが特徴的な白河と、犬耳パーカーの海央の二人が、こちらに向けて手を振っていた。

 

よく見るとソラさん……逢見先輩もいる。

 

 

「白河も逢見先輩もお疲れ! ……で、海央は反省したか?」

 

「いっぱいしたよぅ……!反省しましたよぅ……!」

 

「あはは……。それで、お疲れさま芳乃くん」

 

「おつかれ芳乃! 未羽からCOMUで聞きましたよー? なんだかんだで大活躍だったって」

 

「いや、途中から指示出す側に回ってたから、そんなに働いてない気がするが」

 

 

こんなことなら予め、連絡網も整理・整備して、自分も積極的に動きつつ、より効率的に人員運用出来る様にしたんだけどな。

 

そんな風に反省点を思い浮かべてると、なんだか白河が呆れた様な表情を浮かべる。

 

 

「謙遜し過ぎですって、未羽がもう大絶賛してたんですから。キミがいなかったら、今も運営側はてんやわんやしてたって言ってましたし。……流石は森の賢者ですね! 賢い賢い森の賢者!」

 

「遠回しにゴリラ言うな。てか誰がゴリラじゃ誰が。ゴリラ型の機械生命体に乗って暴れたろかウホウホ」

 

「結局ゴリラじゃないですかゴリラー!あとウホウホって言ってますよウホウホって!」

 

「確かにいたよね、ゴリラタイプのゾ◯ドって」

 

 

個人的にはデス◯ウラーが好きだわ、ゾイ◯シリーズ。

 

荷◯粒子砲とか男のロマンじゃねぇか。コマンドやらケーニッヒやらのウルフも勿論素晴らしいが。

 

そんな感じでニコニコと慈愛の微笑みを浮かべる逢見先輩が見守る中、もはや慣れてしまった言葉の応酬をしてると、姿の見えない他の面子がどうなったのか気になったので聞いてみる。

 

 

「ってか、他の皆は?」

 

「叶方と杉並は音声調整役ですね」

 

「それから、二乃ちゃんが司会進行役を引き受けてくれた日野原さんの補佐」

 

 

どうやらそれぞれしっかり役割に就いてるらしい。

 

と言うかちょこもいるのか。なんだかんだがっつり手伝ってくれてんのな。ちょこにも後で御礼しとくか。

 

で、あとは、今日の主役の二人か。

 

 

「それで一登先輩は……っと、噂をしていたら一登先輩発見!」

 

 

犬耳パーカーを揺らしながら海央が指差した先には、あまりの観客の多さに愕然としている主役の一人の姿があった。

 

どうやら現実逃避してるらしい。

 

こんな調子で大丈夫なのかと思うが、まぁ大丈夫だろう。

 

おれの親友は、やる時はやる奴なんだからな。

 

 

 

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