D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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PROLOGUE 3

 

 

 

 

『___不完全な継承しかしていない半端者の魔法使い、か。なるほどな、これは確かに芳乃も指導に苦労するはずだ』

 

 

 

父親に否定され、家からも追い出され、芳乃の家に拾われて、母親がもういないことも合わせて塞ぎ込み、それもなんとか飲み下して、

 

 

 

ある目的の為に、魔法の鍛錬をしていたおれの下に現れたのは、和服を着たエネルギッシュな爺さん。

 

 

 

『その不完全な状態のままじゃ、他の魔法も覚えるに覚えられん。ならば手段は単純解明だ』

 

 

 

おれの指導に行き詰まっていたらしいじいちゃんの伝手で来たらしい和服の爺さんは、どうやら凄腕の魔法使いらしかった。

 

 

 

最も、本人に曰く『今は魔力がない』と言う。それでも、その身に蒐めた魔法の知識は本物だった。

 

 

 

『その不完全な状態を完全な状態、もしくは別の形として昇華させればいい。前者は前任者の拒否で出来ないのであれば、後者しかあるまいよ』

 

 

 

それは、本来この身に最も適している筈の魔法を捨てることに他ならない。

 

 

 

その結果が何を齎すのか、芳乃のじいちゃんとばあちゃん、そして目の前の魔力を失った大魔法使いにも読めない。

 

 

 

大魔法使いは更に語る。

 

 

 

『しかし、その選択をした場合、お前はもう二度と本来使えただろう【先視の魔法】を使えなくなる。出来て数秒先の未来を視るのがやっとになるだろうよ。それでもいいのか?』

 

 

 

それは忠告だった。魔法使いの先達としての心からの忠告。

 

 

 

もう二度と戻らない。

 

 

 

元のカタチには戻らない。

 

 

 

なにより、その選択をしたからと言って、今より良い結果を引き寄せるかも分からない、と。

 

 

 

魔法使いはそう言っていた。

 

 

 

それでも、おれは頷いた。

 

 

 

未来への道は、既に一つ定められている。

 

 

 

___それも、目も当てられない残酷な方へと。

 

 

 

それを覆す為には今のままじゃ駄目だと。

 

 

 

幼いながらも、この時のおれは、それを理解していた。

 

 

 

だからこそ、決断をした。

 

 

 

『分かった。お前の決断を尊重しよう。俺も出来る限り力を貸してやる。……お前が視た未来が現実のものとなるなら、俺の大切な者達にも無関係で済まないのだからな』

 

 

 

和服の爺さんは溜息を吐きながらも、けれどどこか「仕方ねぇな」と、おれの頭を優しく撫でながら、おれの無謀な選択を尊重してくれた。

 

 

 

 

 

 

それが、後に師匠と呼ぶ事になる男との出会い。

 

 

 

 

 

 

___【常坂 元】 。ここより数年先の未来にて親友となる男の祖父との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-PROLOGUE 3-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか、鷺澤から見てもやっぱりキャパオーバーしてるように見えちゃうか……」

 

「うん、先週、階段から落ちかけたのも、疲れがあったかも知れないし」

 

「ああ、そこは芳乃からも指摘されたよ。気をつけなとも言われたしね。……でしたよね、芳乃?」

 

「聞いてる前提で唐突に話を振るなよ。いや聞いてたけどもよ」

 

 

 

12/17 月曜日 天気は晴れ 時刻は昼休み。おなかすいた。

 

 

 

料理は趣味だが、別に弁当とかを毎日作る訳でもない。学食や売店を利用する事も多く、今日は学食にするつもりだった。

 

で、一登達と合流しようかと考えてる所で、席の近い白河と有里栖の話が聞こえてきて、出るに出れなくなった。以前、月見団子で白河に指摘した件だからだ。

 

実際、今日だけでも白河を訪ねてくる生徒はそれなりにいたのだ。そりゃ有里栖も流石に気になるだろう。

 

 

「プレオープン中の香々見ワンダーランドがカップル割やペア割をする事もあるし、ひよりんへの依頼も増してるかなって思ったら案の定でね」

 

「ああ、そっか。それもあったな」

 

 

香々見ワンダーランド。鷺澤グループ肝いりの超大型テーマパークだ。

 

香々見学園のすぐ東側に作られており、学園の屋上からでも様子が見れる遊園地。

 

その期待値は高く、プレオープン中の現在でもすごい客足だと、どっかの自称探偵は言ってた気がする。

 

……なるほど、デートの場所としては実にお誂え向きの場所でもあるな。そしてクリスマスも近い。聖夜にあそこへデートに誘いたいと思う輩も出てくるって訳か。

 

 

「合点が行った。香々見ワンダーランドの事もあって白河の依頼が急増。で、無関係でもないから有里栖も心配してる。って所か」

 

「大正解。まぁ、別にワンダーランドの件と鷺沢はあまり関係ないと思うんだけど」

 

「う、でも私からするとそう言う訳にも行かないかなって。それでひよりんが無理してたら、やっぱり心配だし」

 

「親の仕事と子供は関係ないさ。でも、心配してくれるのは素直に嬉しいよ鷺澤」

 

「……うん!」

 

 

……この迸る善人オーラよ。徳がたけぇ。ありがたや。こういう所があるから有里栖は人気なんじゃなかろうか?

 

てーか、恋愛請負人してる白河も含めて、コイツらもコイツらで一登とは別ベクトルだがお人好しだからなぁ。

 

おれから見たら眩しい事この上ねぇ。

 

 

「それで今はどうしようか?って考えてる所かな」

 

「ヘルプを求めるにも誰に求めるかって話もあるか。まぁ、いつも通りの面子でいいと思うが。心情的にも戦力的にもな」

 

「んー、やっぱそれしかないかな……」

 

 

とは言うものの、白河はまだ決めかねているようだ。

 

やはり個人でやってる活動に友人とはいえ他者を巻き込む事に抵抗があるのか? それとも恋愛請負を一人でやってたプライドか?

 

どちらにしろ、答えを出すのは白河だ。なので、おれも有里栖も、白河が答えを出すまで待とうとして___

 

 

 

 

 

《ピンポンパンポーン♪》

 

 

 

 

 

《あーあー、付属3年1組の芳乃灯火。付属3年1組の芳乃灯火。

 

至急、職員室の十河の所へ出頭を命ずる。

 

逃げたら地獄の底まで追いかける。というか逃げれると思うな。

 

飯を食いっぱぐれたくなければさっさと来い。以上だ》

 

 

 

 

《ピンポンパンポーン♪》

 

 

 

 

 

なんて言う、泉ちゃんからのラブコール(強制呼び出し放送)が流れたもんだから思わず時間が停止する。

 

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

 

沈黙、沈黙、沈黙。

 

そして同時に痛いくらいの視線がおれの方へと集中する。

 

他のクラスメイトや一登達の視線もだ。

 

やめろ、おれを見るな。

 

頼むから。

 

 

「……芳乃君、一体なにをしたの?」

 

「…………すまん、心当たりが一つだけある」

 

「このタイミングで来ちゃいましたかー……」

 

 

い、泉ちゃんェ……!

 

大方呼び出しの理由は予想つくけど今じゃなきゃダメかなぁ!? ダメだよなぁ!!

 

思わず頭を抱えていると一登や叶方達も近づいてきた。

 

 

「灯火ぁ、一体何やらかしたのさ」

 

「休日、ひったくり犯、ぶっ飛ばした、なう」

 

「すごい端折って言ってるけど、割とトンデモナイよそれ?」

 

「成り行きだったんだ。仕方なかったんだ」

 

「その場に俺もいたけど、実行したのは灯火だったからなぁ……なんかすまん」

 

「いや、一登が謝らんでいいだろ」

 

「でも、それだけで呼び出しするかなぁ。暴力は駄目だけど、理由があったんだよね?」

 

「……下手人二人の顔面を崩壊させました。グチャッと」

 

「絶対それだし。いや、やり過ぎだよね!?」

 

「一人ナイフ持ってたうえに、後ろの奴ら狙ってたっぽいし、一撃でそれぞれ仕留めねぇと不味かったんだよ!」

 

「言ってる場合か芳乃よ。早く行かねば泉教諭の言う通り、昼餉を食いっぱぐれるぞ」

 

「やっべ!?」

 

 

杉並の言葉に慌てて教室の出口……じゃ遅すぎるから真逆の窓の方へと向かい、ガラッと窓を開けて足を引っ掛け身を乗り出す。

 

普通なら有り得ない行動に、近くにいた有里栖と白河が目を丸くする。

 

 

「よ、芳乃君? あの、そっちは窓だよ? 決して人が出入りする場所じゃないよー……?」

 

「ショートカットだ」

 

「ここ、3階だよ!?」

 

 

有里栖の疑問に一言だけ言いながら、真下に何もいないことを確認してから飛び出してアイキャンフライ。

 

なんか白河と有里栖が悲鳴上げてた気がするけど気にしてる暇は今はねぇ。

 

フワッと一瞬の無重力感の後、落下。

 

体感数秒の浮遊感の後、地面に着地すると同時に前へ2度3度転がってベクトルが下から前になった所で立ち上がり駆け出す。

 

目的地は当然ながら職員室。

 

 

「……身体能力バグってません? なんでこの高さから落ちて平然と走れるんですか、あの男」

 

「あんなデタラメ過ぎる身体能力で、なんで運動部入ってないんだよ、あいつは……」

 

 

そんなことを恋愛請負人と親友がぼやいて、クラスメイト一同、深く頷いてたとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「__ふむ、なるほど。白河と付属2年の美嶋、それから常坂兄が後ろにいたので止む無く応戦したと」

 

「あー、止む無くっていうか、もうハッ倒した方が早いって思いまして」

 

「好戦的なのはよろしくないが、お前の事だ。どうせその連中、後ろにいた女子2名に対して不埒な思惑を抱いてる事に気づいたんじゃないか?

 

で、常坂兄もそれに気づいて盾になる気だったからお前が前に出た、と言う所だろう」

 

「……なんでそこまで分かるんすか泉ちゃん、逆にドン引きなんすけど」

 

「泉先生だ、バカタレ」

 

 

ゴッ!と、おれの頭の上に出席簿チョップを落とす泉ちゃん。結構痛い。

 

 

時刻はお昼休み真っ只中。超おなかすいた。

 

無慈悲な泉ちゃんからの職員室へのラブコール(強制呼び出し放送)。大体その呼び出された内容に予想がついてたが、やはりと言うべきか、昨日の大立ち回りについてだった。

 

やっぱりバレとるがな。と、空腹感を抑えつつ緊張しながらも話を聞く。

 

 

「警察の調べじゃそのバカども、目についた女を人質に逃げる気だったとも言ってたからな。

 

そう言う意味じゃお前の読みは当たってたよ。本島の方でも似たような事をしてたらしいしな」

 

 

香々見島で見たことがないなと思ったら、本島から来たお尋ね者だったのかよ、あの雑魚ども。

 

 

「……まぁ、あんだけ分かりやすく視線がその二人に向いてたうえに、他に人質に取れそうなのもいなかったから、ほぼ間違いないかなって」

 

「で、取りあえずぶっ飛ばしたと言うわけか。まぁ常坂兄も後ろにいたし、お前としては下手に引けんかもな。

 

……なまじ暴漢を撃退出来るだけの実力を備えていて、それを自覚してると言うのも困ったものだ」

 

 

いやまぁ、流石にやりすぎた感はあったし、やっぱり不味いか? 過剰防衛かやっぱり……?

 

ぶっ飛ばした事については後悔してないが、もう少しやりようがあったかなー? でも下手こいたら白河達も危なかったしなー。

 

……と、少し戦々恐々としてると泉ちゃんの視線が途端に柔らかくなる。

 

 

「安心しろ、この件について我ら教師陣は罰則を与える気は一切ない」

 

 

ん? 流れ変わったぞ?

 

 

「と言うのもそのバカども、本島でもそれなりに罪を犯してた奴らみたいでな。逆にお手柄だそうだ。それから、被害者の御婦人もお前に御礼を言ってたよ」

 

「あー……そうっすか。あの婆さん、喜んでたか」

 

「電話越しだがな、えらく感謝されたよ。

 

……ただまぁ、それはそれとして、いち教師として、大人として、そして担任としては、やはりお前の行動はあまり褒められた行動ではなかった。と言う事だけは言っておこう」

 

 

いや、そりゃそうだわ。おれが逆の教師の立場だったとしたら、そりゃ苦言くらい言うわな。

 

幾ら有り得ないとはいえ、下手したら死ぬかもしれなかった訳だし。

 

なんだかんだおれより長く生きている人生の先達は、纏う雰囲気を何時もより鋭くしながらも口を開く。

 

 

「___気をつけろよ。自覚があるかは知らんが、お前は自身より他者……特に親しい人間を優先する傾向がある。

 

それが悪いとは言わんさ。常坂兄も似たようなもんだしな。

 

……だが蛮勇であるなら、それはいつかお前の身を滅ぼすぞ」

 

 

射抜くような視線と共に言い放たれるはおれの本質か。

 

心当たりはそれなりにあるが、その生き方を今更変えるのは難しそうだ。

 

でなけりゃ、おれはとっくに魔法使いである事も放棄して世捨て人にでもなってる。

 

なので、泉ちゃんの視線を、逸らさずに真っ向から受け止める。

 

 

「………………」

 

 

「………………」

 

 

無言のまま時は過ぎる。永遠に続きかねないその硬直は、泉ちゃんのため息と共に終わりを迎えた。

 

 

「自覚もあるのに、それでも、か。筋金入りだなお前も」

 

 

呆れたような、降参したかのような声色で、お手上げのポーズを取る泉ちゃん。

 

……いや、うん。申し訳ない。

 

でもこっちにも譲れないものがあるんだよ。

 

 

「……自覚はしてるっすよ。でも、折れる気もないっす。やらなきゃ行けないこと、やりたいこと、結構あるんで」

 

「そうか。まぁ、言うべき事は伝えた。あとは好きにすると良いさ。ああ、常識の範囲内でな」

 

「……ありがとうございます、泉ちゃん」

 

 

オレの感謝の言葉に少しだけ泉ちゃんは笑う。けれど笑いながら出席簿を構え、それを勢いよく振り下ろす。

 

 

「泉先生だ、バカタレ」

 

 

ゴッ!!と、2回目の出席簿はなかなか痛かった。

 

……取りあえずこれで話は終わりだそうだ。今から走ればギリギリで飯に間に合うだろう。

 

なので職員室から出ようとして、泉ちゃんに腕を掴まれた。

 

嫌な予感しかしない。

 

 

「所でさっきタレコミがあったんだが、ウチのクラスの誰かが窓から飛び出して走ってたそうだ。心当たりはあるか」

 

「……………………………………て、テヘペロ」

 

「よし、現行犯逮捕だな。説教追加分行くぞ」

 

「マジで勘弁して泉ちゃんーーーーー!!?」

 

「泉先生だ、バカタレ」

 

 

ゴッ!!!と3回目の出席簿で意識を失いかける。

 

そのまま、説教のおかわりを食らうこととなりましたとさ。めでたしめでたし。

 

昼飯? 食う暇なんてなかったよチクショウ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「腹減ったぁ……」

 

 

 

___時は進み放課後。

 

 

結局、昼飯は食いっぱぐれた。泉ちゃんのお説教と言う名の取り調べを終えた時点で昼休みは終盤。

 

食堂はもちろん終了。売店も売り切れ御礼。これでは流石に為すすべもなく、泣く泣く夕飯まで我慢する羽目となってしまった。

 

育ち盛りにはきつい、ひもじい。

 

 

「日頃の行いが悪いせいかな?」

 

「失敬な。おれほど品行方正な生き方をしてる学生もおるまいよ……自分で言ってて首を傾げたくなるな、これ」

 

「ツッコミも自分でするようになったら、いよいよ末期だと思うよ?」

 

 

因みに場所は廊下。隣には白河。

 

夕日差し込む廊下に、美少女と二人きり……なんて、年頃の青少年にはちょっとドキっと来るシチュエーションのはずだが、甘酸っぱい雰囲気は特にない。

 

なら、なぜ白河といると言うと、答えは単純だ。

 

HRの終わりに白河と有里栖に屋上に来るよう頼まれていたが、白河にまた緊急の依頼が入り、ついでなので付き添いで行ってたからだ。

 

今は二人でその屋上に向かってる所である。

 

 

「お腹空いてる所、悪かったね」

 

「身から出た錆が原因だからな、しゃーねーよ。あと、大体呼ばれた理由も察しがつく。言い出しっぺが居ないんじゃ話にならんだろ?」

 

「正解。話が早くて助かるよ。……結局、ボク一人じゃ手に負えないって判断したからね」

 

 

少しだけ悔しげな白河。恋愛相談に自信を持ってるからこそ、やはり手に負えなくなったのは思う所があるらしい。

 

最も、聞いた話じゃ通常の7倍の量の依頼があったらしく、どのみちパンクするのは時間の問題だった筈だ。

 

それでいつぞや見たく疲れが溜まった結果、足を踏み外して階段から落ちる。なんて事になったら目も当てられん。

 

 

「まぁ、一登なら協力してくれる筈。……って、あれ。有里栖が一登を連れてくるんだよな」

 

「? そうだけど、それが?」

 

「いや……夕日差す放課後に、思春期の男子が、学園のアイドルから「人前では話せない話がある」なんて聞いたらどう思うよ?」

 

「ああー……なるほど。常坂兄には悪い事をしてしまったかも」

 

 

流石に呼び出した理由が理由なので心底申し訳無さそうにする白河。おれはおれで、心の中で一登に合掌する事にした。南無三。

 

 

「いやでもぶっちゃけ有里栖と一登はどうなんだ。素人目から見たら一番距離近いの、あの組み合わせだろ?」

 

 

これでもアイツらとの付き合いは長い。恋愛とかあんまり詳しくないけど、それでもあの二人の距離が他の人間よりも近いと感じるのは確かだ。

 

正直、アイツらくっついたら有里栖関連の相談減るんじゃね?って思わずにはいられないのだが。

 

 

「んー、そうですね。そこら辺ボクも同意見なんですけど、鷺澤の方が「今は誰とも付き合わない!」って明言してますからね」

 

「……の、割には一登に対してのみガードが下がってる気もするが。もしや無意識か、あれは」

 

「かも知れないですけど、それ以上は流石に立ち入れないですしね。と、そんなこんなで屋上ですよ。……あ、今の話はオフレコで」

 

「分かってるって」

 

 

階段を登り切って、それなりに重量のある扉を開く。

 

テラスにもなってる屋上には、夕焼けの日と、遠目にはワンダーランド。そして件の一登と有里栖が待っていた。

 

有里栖は有里栖で「待ってたよー」って感じだが、一登の方はオレ達を見た瞬間に驚愕と残念が入り混じった表情をしていた。やっぱり期待しちゃってたか。

 

うん、ホントにすまない。

 

 

「すまん、一登。アオハル終了だ」

 

「念のために聞くけど、『ちょっと待った的な感じ』でもない……な……灯火もいるし」

 

「正解。これに関してはホントに申し訳ない、常坂兄」

 

「ほえ? どういうこと……?」

 

「いたいけな思春期の男子学生の夢が砕けただけの話だ。気にしないでくれ。下手に深掘りすると傷を抉る事になる」

 

「???」

 

 

頭の上にハテナを浮かべる無自覚系学園のアイドル。本人は全く意図してないのが、これまた罪深い……!

 

まぁ、取りあえず今は一登に事情説明だろう。

 

 

「常坂兄まで巻き込むのは心苦しいんだけどね」

 

 

___クリスマスが近い事で白河への相談が急増してること。

 

それが普段の7倍近い量で白河でも捌ききれないこと。

 

見兼ねた有里栖が心配して白河を助けたいこと。

 

で、その相談数2位が二乃なので、一登にも協力してもらえたらとのこと。

 

簡潔に纏めたが、それらを白河と有里栖は一登に説明をする。

 

「ボクも、例えば常坂妹が完全なフリーで、別に良い人がいそうならというスタンスだったら成功率100%のこの腕で、すぐにでも話をまとめるところさ」

 

「所が二乃本人にはそんなつもりはなく、しかし何故か無駄に自信の有り余ってる奴らがまぁ多いこと多いことって言う訳だな」

 

 

……でもソイツら、相手の気持ちを組めない時点で既にアウトなんじゃねぇだろうか。

 

ワンダーランド&クリスマス効果があるからと言って、相手の気持ちを蔑ろにしたら振り向くもんも振り向かんだろ。

 

今の所、恋愛に縁のないおれでも分かるぞ、それは。

 

 

「二乃も、ウソでも適当な理由をでっち上げれば良いのにな。ヘンに真面目というか……そこが自業自得でもあるわけだが。まぁ。仕方ないか……」

 

 

いや、二乃の場合はおのれへの好意もあるんじゃ……いや、言わんほうが良いか。そこら辺は干渉してはならない領域だしな。ねこ好き仲間は空気を読むのだ。

 

兎にも角にも、だ。

 

案件が多いので、白河がまとめられるカップルはともかくとして、無理なケースを捌きたいところである。

 

なので、二乃のことについては一登と二乃でなんとか角が立たないように断りをいれるなどして、諦めてもらうようにしてほしいとのこと。

 

 

「やれやれ……。ま、放ってもおけないか」

 

「ってことは……!」

 

「オッケー。微力を尽くすし、二乃にも尽くさせるよ」

 

「……!ありがとう!やっぱり常坂君に相談してよかった!」

 

 

一登の答えに花が咲いたかのような笑顔を浮かべる有里栖。一登の手を掴んでブンブン振ってる。やっぱりおのれ、一登に対してのみガード低いんでは?

 

一登、おのれもおのれでデレデレなのが丸わかりだ。なんだ、ここだけアオハルかよ。

 

それで白河は白河で、一登の協力が取り付けたことにホッとしてるようだ。アオハル空間は眩しいので、取りあえず白河の方に避難しておく。

 

 

「……な? 一登なら絶対に力になるって言っただろ」

 

「大正解。流石悪友兼親友だね、常坂兄が断るとは思ってもいなかったでしょ?」

 

「ないな。だって一登だぜ? 白河も、有里栖も、世話焼きでお人好しだけど、__おれが知る限り、アイツが一番のお人好しだ」

 

 

困ってる人を見逃せない。

 

誰かが報われたら自分も嬉しい。

 

一登の在り方は、そんな風に善意の塊みたいなものだ。そりゃ色んな人達にモテる訳である。

 

……まぁ、たまにそれを利用しようとする小狡い小悪党も出て来る訳で、そういうのは杉並からの事前情報を得たオレや杉並本人が事前に追い払う様にしてたりもするんだが。

 

自覚ない内に敵も味方も増やしてそうなんだよな、一登って。だからこそ人誑かしなのだが。でも友達してることを誇りに思えるような、そんな奴なんだよな。

 

 

「………そう言うキミも、大分お人好しなんですけどね……」

 

「ん、なんか言ったか? 考え事してたら聞き逃した」

 

「なんでもないですよー。今日もゴリラみたいな身体能力を発揮してましたねーって思いまして」

 

「だから誰がゴリラじゃ誰が。腕ブンブン振り回して力を溜めてストレート打ってから煽りアピールかますぞコラ」

 

「ゴリラはゴリラでもド○キーコングでしょうがそれっ!それもスマ○ラの!」

 

 

もはや慣れたいつもの軽口の応酬。ゴリラネタはもはや鉄板となりつつある。ゴリラと言われるのはやはり遺憾だが。

 

 

「それにしても、屋上は結構綺麗になってるよなぁ」

 

 

ふと、一登がそう言って辺りを見回す。

 

確かに、テラスにもなってるだけあって、ちゃんと美化の管理が行き届いてるらしい。

 

普通の学校ならきっと広いだけで何もないだろうが、ここは随分と居心地が良い気がする。

 

 

「そうなんだよね。ここでお茶をいれて飲んだりしたらすごく気分良くて美味しく頂けそう」

 

 

有里栖の言葉にその場の全員でアイコンタクト。

 

 

「緑茶」

 

 

と、白河。

 

 

「紅茶」

 

 

と、有里栖。

 

 

「コーヒー」

 

 

と、一登。

 

 

「Dr.Pepper」

 

 

と、おれ。

 

 

 

………………………。

 

 

 

「お茶だって言ってんだろっ!なんで炭酸飲料を出した!?そして無駄に発音良いなオイ!」

 

「一登だってコーヒーは厳密にはお茶じゃねぇだろうがよ?!ドクペの何が悪いんだよ!」

 

 

ものの見事にバラバラだった。おれは若干ボケが入ってたが。

 

 

「ふふっ。それぞれが飲みたいものを飲むのが良いね」

 

「正解。天候に左右されるけど、うん、確かに気持ちのいい場所だね、ここは」

 

 

それについては同感だ。なんで建物の屋上ってこんな気分が良いんだろうな。いい風が吹いてるからだろうか?

 

夜にこっそり忍び込んで、星を眺めるのも良いかもしれない。きっと、いつもより綺麗に見える気がする。

 

そんなことを考えていると、白河が柔らかい笑みを浮かべる。

 

 

「みんな、ありがとう。おかげで少し気分が楽になったよ」

 

「うんうん、困ったときはお互い様だよ!」

 

「鷺澤も。鷺澤も困った時はボクたちに言ってほしい。きっと力になるよ」

 

「……うん、ありがとう。その時は、めいいっぱい頼りにしちゃうね?」

 

「二乃もそら姉も、杉並や叶方だって、きっとみんな助けてくれるしな」

 

 

ああ、それはホントにそう思う。なんだかんだ知り合い連中なら全員力になってくれそうだ。

 

だって、みんなも大抵世話焼きのお人好しなのだから。

 

 

「……ホント、考えてみたらお人好しばっかだぜ。悪くねぇけどさ」

 

「おや、真っ先にボクに「人の手を借りればいい」って言ったのは、どこの誰だったかな?」

 

「オレ、ゴリラ、ムズカシイコト、ワカラナイ。ウホウホ」

 

「都合のいい時だけゴリラになってんじゃないですよこの男はぁ!?」

 

 

ギャー!ギャー!と屋上で騒ぎながら、ふと思う。

 

クリスマスも近い。

 

気の合う仲間達と目白押しのイベントを過ごすのは、きっと凄く面白そうなんだろうな。

 

まだスタートラインに立っただけなのに、何故か無性に楽しくて仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ごちそうさまでした!」

 

「ごちそうさまでした。やはり芳乃の料理は美味いな」

 

「御粗末さん。褒めても茶くらいしか出ねぇけどな」

 

 

寮暮らしの野郎3人による食卓。

 

字面だけで言うとむさ苦しいが、一人は私服も女装なので見た目だけは少し見得が緩和されてると言うなんだこれな空間。

 

昼餉抜きはやはりキツかったので、今日はガッツリとカツ丼でも作ってみた所、揚げ物の匂いを嗅ぎ付けた叶方と杉並も乱入してきたので仕方なく振る舞う事に。

 

 

「仕方ないって割にはめちゃくちゃ手間暇かけるよね灯火って」

 

「自分で食う分だけならともかく、人に出すもんなら、そりゃしっかりやるだろうがよ」

 

「とはいえ、トンカツを柔らかくする為に豚肉に炭酸水を浸ける方法を取るとはな」

 

「筋切るのは当然として、叩くなり、塩麹やパイナップル、ヨーグルトに浸けてもいいが、今回は手早く簡単な方法をやらせてもらったよ」

 

 

豚肉の調理は下拵えが大事だからなぁ。本音を言えば衣とかにももう少し工夫したかった所だが、それはまた今度に試みるとしよう。

 

あとは食い終わった器を洗って乾かせばいい。食器洗いはジャンケンで負けた叶方が今回の担当である。

 

 

「時に芳乃、お前達の企み、我らも当然に誘うのだろうな?」

 

「寧ろ勝手に来ると予想してたし、戦力としてアテにする気満々だがな、おれは」

 

「え、なんの話?」

 

 

話の流れが見えない叶方が首を傾げる。

 

 

「なに、ここしばらく白河の依頼が急増してると聞いてな。そして今日、鷺澤譲、同士・常坂、そして芳乃と密会をしてた事から恐らく白河が助けを求めたと見たのだ」

 

「あー、そういう事か。てか、それならそうと言えよー」

 

「杉並の事だから、どうせ調べはついてると思ってさ」

 

「フッ、そう褒めるな」

 

「いや別に褒めてはねぇ」

 

 

コイツの場合、何も言わなくても勝手に情報集めて興味があるなら勝手にやって来るからな。

 

ぶっちゃけ今回の件、放置してても勝手に動いて叶方も連れて来るだろう事は予測出来ていた。

 

 

「まぁ、明日辺り当人から相談あるだろうから、気になるならそれに乗ればいいよ」

 

「おっけー、それじゃ楽しみにしときますかね」

 

「ふっ、だが、俺と叶方だけではつまらんな。サプライズも用意しとくとしようか」

 

「……頼むから、変な事だけはやめろよ? 対処がめんどい」

 

「安心しろ、ある御方にも声をかけるだけだ。とにかく明日を楽しみにしてるといい」

 

 

まぁ、ホントに変な事だけはしないと思うが……思うが……多分。

 

断言出来ない辺りが、杉並クオリティである。

 

 

「よっし、洗い物しゅーりょー!ってなわけで、オレもそろそろ部屋に戻って寝るよ」

 

「ふむ、俺も少々任務が残っててな。少しばかり出なければならん」

 

「あいよ、おやすみ叶方。杉並は取りあえずアテにしてんだから生きて帰ってこいよ」

 

 

「おやすみ二人ともー」「ではさらばだ同士達よ!」と、それぞれ部屋に戻るなり出掛けたりする。叶方はともかく、杉並に関しては何をするつもりだろうか。

 

まぁ、いつもの任務とやらだろう。奴の事だ、死地からでも涼しい顔で帰還するはずだ。知らんけど。

 

で、おれもそろそろ寝床に就くか。と、消灯してからベッドに横たわる。朝の日課をこなすためにも早寝早起は欠かせない。

 

ふと、寝る前にTABを開くと一登にオススメされたヴァーチャルマイチューバー、KotoRIのチャンネルに新着が入っていた。冬の曲をうたってみたとの事だ。

 

 

「どうせだし、寝ながら聞くとするか」

 

 

KotoRIの声は何故かとても落ち着く声色で、彼女のうたは何回も聴き入ってしまう魅力を持っている。

 

マイリストに登録してある他の曲も順番に流しながら目を閉じていると、案の定、眠気はすぐに来た。

 

 

「……いい加減、マトモな夢くらい見してくれよな」

 

 

ここ最近の夢見のおかしさにツッコミながら、瞼を閉じる。今日は師匠と出会った夢だったか。

 

家族を残して今頃師匠は何してるのやら。

 

行方不明らしいけど、あの師匠がそう簡単に死ぬわけがないしな。

 

と、KotoRIのうた声を聞きながら、行方不明の師を思いつつ、徐々に意識が遠のくのを感じながら、おれは眠りについて行った。

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