次の章への投稿は大分遅くなると思います……!
「みんな、グラスは持った?」
「はい、大丈夫です!」
「よし、じゃあやるか……せーの」
「「「「「かんぱーーーい!!!」」」」」
___チン、と、全員のグラスが小さく鳴る。
お茶だったりジュースだったり、それぞれが好きな飲み物を入れて楽しんでいる。
因みにおれはドクペ。独特な甘みが五臓六腑に染み渡るぜ。
現在地は屋上のSSRの溜まり場。
無事に【恋のレジェンドバトルパーティ】をやり終え、有里栖からの依頼も完遂出来た事へのお疲れさま会を始めた瞬間だった。
「しかし、対運営用に仕掛けた策の尽くが、芳乃に無効化されたのは正直に言えば驚いたな」
「……って、やっぱりテメェかよ黒幕は!? 道理でアホやらかす奴が多かった訳だわッ!」
ドクペを飲み切ってからあの時の忙しさを思い出して、素で「うがー!」と吠える。おおよそ予想出来た事だが、やっぱりかよテメェ!?
「手芸部やら射的ゲームのイカサマやら、あと空手部の暴走とかも杉並の仕業か」
「はーはっはっは! その通りだ楽しかっただろう! 空手部に至っては一度失敗しても挫けずに仲間を増やしたのは予想外だったがな!」
「ああ、二回目の暴走はアイツら自身の意志か……やっぱり手加減しなくて正解だったな」
思わずため息を吐く。
剣道部に柔道部に相撲部もか? 地味に数が多くてかったるかったぞ。全員シメた後に反省文の刑に処したが。
「本来なら今も運営側は対応に追われてる計算だったが……。芳乃よ、貴様の事を甘く見ていた事は謝罪しよう。だがしかし! 次はもっと激しく! 情熱的なサプライズでもってオ・モ・テ・ナ・シ、することを誓おうではないか!!」
「次があってたまるかァァァッ!? テメェは永久に大人しくしとけや! このすっとこどっこい!!」
「あ、灯火がキレた」
「よっぽど大変だったんだろうな。流石に同情する」
ふぁっきゅー!! と放送禁止用語を叫びながら中指も突き立てる。と、叶方と一登も流石に苦笑する。
ホント、あの忙しさをもう一度体験するなど御免被る。
次はないが、万が一にも、億が一にも、次があるのなら、その時はまずこのバカを先に仕留めることを決意するのであった。
-EPISODE 18-
「いやー本っ当にいい仕事が出来たんじゃないかな、ボクたち!」
「最初はどうなるかなーって心配するところもあったけど、上手く運営できて本当に良かったよー」
「参加してくれた人も、楽しそうにレースしてましたからねー」
杉並の唐突なカミングアウトから気を取り直し、話はレジェンドバトルのものとなる。
二乃の言う通り、有里栖への告白権を得られなかった野郎どももなんだかんだで楽しんでたのは確かだからな。
幸運にもルール違反をする奴らもいなかったし。 認めたくないが、海央の蛮行が効いたと言うのだろうか……?
「その中でも……二人は本当にお疲れさま! ばっちりキマってたよ?」
白河の言葉により、みんなの視線が今日の主役二人へと向けられる。
特にウェディングドレスまで来てた有里栖は、その時の事を思い出したのか、顔を赤くして照れまくってる。
「あ、あうう、ありがとひよりん……」
「鷺澤さんのドレス、とっても素敵でしたよ?」
「キマり過ぎてて野郎どもが何人か卒倒してたし、杉並に至ってはあまりの成果に優勝してたぞ」
「優勝ってなに!? なにに優勝しちゃったの!?」
杉並の場合は有里栖に見惚れてたっていうか、自分の見立て以上の効果が出たことに歓喜してた感じ。
あまりにも杉並が杉並してて全開である。
「で、でも自分じゃよく分からないかも。あれを着込んだ時も鏡とか見てなかったし」
「安心して? バッチリ似合ってたから。わたしも何回もパシャパシャってしちゃったくらい」
あー、そう言えば確かにパシャパシャやってたな、ソラさん。あと海央も。
「パシャパ……ふぇっ!? それって写真に撮っちゃったってことですか! け、消してください今すぐ全部! 多分ですけど後世に残しちゃいけないものです!」
「残念だけど、恋パの活動報告として提出しなきゃいけないんだよね。そういう条件で予算とかたんまり貰っちゃったし。だから悪いね、鷺澤♪」
「はうぅ〜……そんなぁ……」
崩れ落ちる有里栖に一同揃って苦笑する。
その後、一登がフォローするも、「恥ずかしいとか、そういう些細な感情を超越した何かがあるんだってば!」とよく分からない反論を展開する。
乙女心とは、難しいものである。
そこから話は有里栖の着たウェデングドレスの値段の話に なった。
どうやら杉並の手腕のおかげで無事に予算内で収められたらしい。……と言うか、ホントにコイツのツテはどうなってやがるんだ?
「まぁ、何にせよ、お疲れさん有里栖。ドレス姿もそうだけどさ、かなり堂々と話せていたと思うぞ」
「あ、うん……ありがと。常坂君にそう言って貰えると、ちょっと安心できるかも」
一登に褒められた事が嬉しいのか、頬を染めてはにかむ学園のアイドル。
……ふむ。と、普段はほかの人間には見せないであろう表情を一登には見せていると言う事実を考え、それから一登と有里栖にバレない位置取りで白河とコソコソ話す。
「……どう思うよ、恋愛請負人」
「……確実に仲は深まってますね。完全に落ちるまで秒読みかなとボクの勘は訴えてますよ!」
恋愛請負人の見立てでは秒読みらしいが、何故だか意固地になってる有里栖に、基本はクソボケ鈍感魔神の一登なのだ。恐らく、更に時間は掛かるだろうと思っている。
……つか、見ててアレだから、はよくっつけ。と言いたくて仕方がない。
「……なんというかさ、白河はともかく灯火まで一登と有里栖ちゃんをくっつけようとしてない?」
そんな事を言ってくるのは叶方だ。
叶方も位置取りを気にしながら会話に混ざってくるので、まぁ自分なりのその理由を答える。
「……お節介なのは重々承知してるが、なんつーか、すごくもどかしいんだよな。あの二人見てるとよ」
「やっぱり常坂兄がクソボケだから?」
「一登がクソボケなのは今に始まったことじゃなくない?」
親友、散々な言われようである。だがスマン、一登。おのれがクソボケなのを否定出来る材料をおれは持ち合わせていない……!
___閑話休題、話を戻そう。
より正確に言うなら、おれがもどかしく感じてるのは一登じゃないんだよな。ただ、それを言葉にするには、まだ出来そうにもない。
……“ 本当は、その理由を知っているのにな ”。
___ズキリ、と、頭に痛みが走る。
「芳乃?」
「…………ああ、悪い。少し思考に耽っていた。そうだな、大体クソボケな一登が悪い」
不意に襲った痛みを誤魔化すよう頭を振り、思考を整理する。大仕事を終えたことで、少し気を抜き過ぎたのだろうか。
「____そもそも、お疲れ様って言葉は常坂君が一番貰うべきじゃないかな。あっちこっち走り回って、最後は壇上で告白。誰がどう見たって最大の功労賞だよー!」
「あー……やったことを振り返ればそうかも知れないけれど……別にそんなことはない……っていうか、頑張った、努力したって実感はあまりないんだよな」
ふと、一登と有里栖のやり取りが聞こえて来た。
一登の言葉の意味が分からなくて白河と叶方と一緒に頭に?マークを浮かべていると、同じ様に疑問に思ったらしい二乃が、「あれ、そうなんですか?」と聞きに行く。
「準備中はあんなに辟易としていたのに……」
「うん、それは確かに。大勢の前で玉砕ってどんなピエロだよって思ったけど、終わっちゃえば全然だな。恥ずかしさとかもかなり薄れてるし」
「……兄さんの心の構造、単純ですね」
「一登らしいっちゃ、らしいけどな」
全員、苦笑。そりゃあれだけ嫌がる姿を見てればな。
一登自身も「喉元過ぎればなんとやらってな」と言いながらも苦笑している。
「あと……うん、これが一番の理由だけど」
そうして前置いてから、SSRの皆を一度見渡して、柔らかい笑みを浮かべながら親友は言葉を続けた。
「___とにかく楽しかったからな、クイズも、レースも。あんな競争は初めてだったし。
それに、みんなと時間をかけて組み上げたイベントを、俺が一番満喫したからな。功労よりも恩恵の方がずっと大きいってもんだ。
だから、お疲れ様って言うなら、俺からみんなにだよ」
…………こ、この人誑しは…………!
あまりにもドストレートな一登の感謝の言葉に、皆が皆、一様に照れている。男も女も関係なくだ。
杉並だけはいつも通りに不敵な笑みを浮かべているが。……おのれは本当になんなんだ。 そのメンタルは鋼かなにかで出来てるのか。
「……兄さん、カッコつけ過ぎじゃないですか?」
「ふふっ、だよね。私も思った。ステージの時よりキメちゃってる」
「そんなつもりはないんだけどな……」
おのれな、おのれ自身がそう思ってなくても受け取る側は違うんだよ、この全方位人誑し魔神め。
「……さて、それじゃそろそろ、ボクは準備に取り掛かりますかね」
ふと、白河がそう言って席を立つ。
なんの準備だ? と、一瞬思ったが、遅れて今日がそもそも何の日だったかを思い出して納得する。
と言うか、よくよく嗅覚を集中して見れば分かるものだ。
「でも、ふふっ、一番がんばったのは常坂君だって言うのは間違いないんだから。せめて、感謝の気持ちくらいは受け取ってほしいな」
「うんうん、じゃないと、せっかく準備したものが無駄になっちゃうもんね」
「は、え、準備?」
「ひよりん、スタンバイ!」
「あいあいさー!」
有里栖の合図で、白河が背後のベンチの陰に置いてあったバックから箱を取り出す。
「ふっふっふ、刮目あれ! 飢えたメンズよ!」
その手に持った箱をパカリと開けると、出てきたのは、スポンジをチョコクリームでコーティングして、その上にハート型のチョコを乗せた見事なチョコケーキであり、
「…………ッ!!!」
見ただけで分かる、その絶品菓子に思わず思考が停止した。
「あ、灯火が停止した。ってことはやっぱり絶品だね」
「まだ食べてないのになんで分かるんですかね、この男は……」
「と言うか、ホントに弱点になるんだね……」
……はっ!? いかん、意識が飛んでた。
慌てて首をブンブンと振って意識を戻すが、一登は未だに目を丸くしていた。
「え、これ……チョコケーキ……?」
「うん、やっぱりこれを渡さないと、恋パは終わらないでしょ?」
「女性陣からのささやかな感謝ということで」
「お、おいおい……それは嬉しいけど……。いくらなんでも豪勢すぎだって。そう言うのはもっと特別な日……あっ」
いや、「あっ」って、おのれ、ホントにまさか……?
「そっか、今日ってバレンタインデー……」
ホントに忘れてやがったよこのクソボケ人誑し!? そりゃ察しも悪くなる訳だよ!
「ふふふ、いっちゃんってば、やっぱり忘れてたんだ」
「予感はしてましたけど、案の定だったんですね……」
「一登先輩、忘れん坊さんだったんですね!」
「い、いやだってほら……14日は恋パ、14日は恋パと毎日呪文のようにかんがえてたから……」
「14日はバレンタイン、故に恋パだよ、常坂兄。そこをうっかりしてはいけないね」
「……返す言葉もないよ」
そう言って項垂れる一登に皆で苦笑。
まぁ、それだけレジェバの方に集中してたって事なんだろうが、なんともまぁ、一登らしいうっかりと言うか。
「と言うわけで、女子からのささやかなプレゼント!」
「おおう……ありがと。なんか恥ずかしいな、こう言うの……」
流石にこの規模のチョコを貰った経験はないのだろうか。
ソラさんならやりそうな気もするが。
「ふむ、そういうことなら、まずは同志・常坂兄から食すべきであろう」
「……っておい! 俺からかよ!」
「一登以外誰がいるのさ。オレたちから食べたんじゃ逆に失礼だよ」
「うむ、少なくとも礼と粋に欠けるな」
「そもそも、一番がんばったのは一登だろ? トップバッターやらないでどうすんだよってハナシだ」
「こういう時ばかり遠慮しやがってお前ら……まぁ、それじゃ、いただきます」
「ふふっ。どーぞ、いっぱいおあがりください♪」
ニコニコの有里栖からのGOサインを受けた一登は、ソラさんから受け取ったフォークでチョコケーキを慎重に一口分切り分け、それを口に入れる。
「絶品だ」
咀嚼し、ごっくんと飲み込み、感嘆の溜め息と共に一言、そう告げた。
……やっぱり絶品か……!
「わぁ、良かったぁ」
「久しぶりに作ったからちょっと不安だったんだけど、喜んでくれて嬉しいよー」
「あ、やっぱりそら姉の手作りだったか……凄いな」
「みんなにも、材料選びとか、どんな味にするかとか、いろいろ協力してもらったんだよ」
「なるほど……どんどん食べていい?」
「ふふっ、どうぞどうぞー。いっちゃんがんばったもんね、いっぱい食べて?」
よほど美味だったのか、無心で頬張る一登。
……うむ、そろそろおれも食いたくなってきた!
と言うか、絶品菓子を目の前にして待つのは地味にキツイからな!
「はっは、手が止まらないみたいだな常坂兄よ」
「そんなに美味しいんだ。じゃあオレもいただきまーす」
「あ、おれも頼む!絶品チョコケーキ!」
と言うわけで、杉並、叶方に続いて小皿に分けてもらった絶品チョコケーキを小さく切ってパクリと一口。
……うまぁ……! なにこれ、ヤバうまぁ……!
と、思わず語彙力を失ってしまうほどの美味さだったので、多分頬が緩みに緩みまくってる。
なので一口、一口、しっかりと味わってチョコケーキを食べる。
絶品菓子、最高。
「……なんか、今はゴリラじゃなくて「待て」から開放されたワンコに見えるね。見えないはずの尻尾が全力で振られてる気がします」
「言われてみれば確かに……」
なんか言われてる気がするけど、気にせずに絶品チョコケーキに舌鼓を打つ。
疲れた体に糖分が染み渡ってる気がする。……そういや、鳳城やちょこに御礼として和菓子あげたんだが、魔法で出したんだよな。
“手のひらから和菓子を出す魔法”は魔力をほぼ使わない代わりに術者のカロリーを消費して和菓子を出す。御礼として上げた分、カロリーはそりゃ減るし腹が減ってる訳だわ。
「夜中になんかやってるなーとは思ってたけど、これを作ってたのか」
「そうですよ。兄さんにバレないようにするのが大変でした」
「……因みに二乃がやったのは?」
「二乃ちゃんとには海央ちゃんと一緒にデコレーションとか、クリームの配置とかお願いしたの、見た目も抜群でしょ」
「うん、凄く良いし……大正解だと思う」
「んな! ちょっと最後の一言は絶対にいりませんよねそれ!?」
「異議あり!異議ありですよ一登先輩!」
「いや、おのれ料理はまだまだだろうが」
「お兄ちゃんまでーー!」
確かに、味だけじゃなくて切り分ける前のケーキの見た目もかなり綺麗だった。
二乃はそう言うセンスがあって、海央も絵心があるしな。……二人共、料理の腕そのものは壊滅的だが。
……っと、忘れるとこだった。
愛用のキャンプイスの後ろに置いてた鞄から保冷箱を取り出して、皆の前に置く。
「ついでで悪いし、そのケーキには及ばないが、こっちの分も出させて貰おうか」
箱を開けて取り出したのは、SSRメンバーの分のチョコ味のカップケーキだ。
「あたし、朝も貰ったけどいいの!?」
「仲間外れは嫌だろ? カロリーも控え目にしてっから安心しろ」
「わーい!」と喜ぶ海央に皆が微笑ましい視線を送る。
ホントに感情表現が豊かな妹分だわ。
「さすが芳乃君、抜かりなかったね」
「せっかくだから逢見先輩のレシピ参考にして、ちょいちょいアレンジして作ってみた」
「クラスの皆にはスノーボール作ってたみたいだけど、これはカップケーキなんですね」
「中にチョコクリーム入れてんだ。せっかくだし皆で食べようぜ。……あとはホワイトデーもお楽しみにな!」
「もうただお菓子を作りたいだけになってるね、このワンコロゴリラは」
「なんだその愉快極まりないキメラは。せめてどっちかにしろ、マトモにツッコミも出来んだろうが」
新手の魔法生物だろうか。トカゲより厄介そうだなオイ。
兎にも角にも3月14日は震えて待て……! 絶品ケーキの礼は必ず返す。
そんな一ヶ月先のことを思いながら、SSRの皆でケーキを食べつつ談笑したり、今回の反省点を述べたりと、つつがなくお疲れさま会は進行した。
……また一つ、大切な思い出が出来た事を嬉しく思いながら、この暖かな光景を目に焼き付けるのであった。
△ ▼ △ ▼ △ ▼
___ふと、眼の前に桜の花びらが落ちていくのを確認する。
散った先から、また咲いて散る。それを永遠に繰り返している。
まるで終わりから始まりへと戻るD.C.− ダカーポ−のように。
そんな不可思議な世界の中心には、満開の桜の樹。
水鏡湖の桜にも似た、一本の大きな桜。
上下を見渡せば水面。合わせ鏡の中にいるような不思議な感覚。
……ああ、また呼ばれたのか。
封印している記憶が蘇る。
ここに呼ばれたと言う事は、またなにか要件があるのだろうか。
「こんばんわ。また、呼び出しちゃってごめんね?」
桜の根本にいた金色の髪の少女が、申し訳無さそうに謝罪する。
____気にすんなよ。それよりちょうど良かった。こっちも、おのれに伝えなきゃ行けないことが増えててな。
「……香々見学園に転入して来た二人の魔法使い、だよね? 私もその件で話がしたかったの。数日前にも、なんだか大規模な結界が貼られてたし」
____それはトカゲの件だな。前の生き残りが繁殖しててな。【防人】から派遣された例の二人と海央とおれで駆除していたんだ。
詳細を話すと、流石に眼の前の少女も顔を青くする。まぁ、ゴキブリみたいなトカゲとかが千匹以上いたってなると、そうなるわな。
____そっちは流石にもう大丈夫だ。それで、その時に協力した二人の魔法使いだが、恐らくおれの方の使命に関わってると思う。魔法使いとしては優秀な部類だ。すまないが、今まで以上に注意しておいてほしい。
「……もうすぐ、なんだね」
____ああ。
事情を知ってるおじさん……【防人】の当主がわざわざ戦力を寄越したんだ。
恐らく、そろそろクソオヤジが動き出す。
【防人】の二人は保険だろう。万が一に備えての。
____分かってると思うが、おのれは絶対に顔を突っ込むなよ。あのクソオヤジにだけは、おのれの魔法を見られる訳にはいかない。
「……うん、分かってる。でも、芳乃君は、大丈夫?」
____覚悟は決めてる。
あの日、あの時、クソッタレな未来を、“彼女”と視た時。
そして、彼女に頼まれた“約束”を果たす。
あの二人は、絶対に死なせない。
その為に、死にものぐるいで力を身に付けたんだから。
「……芳乃君も、ちゃんと帰ってこないと駄目だよ? 君がいなくなったら、悲しむ人がいっぱいいるんだからね?」
なんてことを言うもんだから、思わず呆れ果てる。今は体もない状態だからポーズも取れないが。
____そのセリフ、そのままそっくり返すぞ。頑固者の魔法使いめ。アイツの告白に大分揺れてたじゃねぇか。
「……黙秘、します」
もう一度言わせてもらうぜ、この頑固者め。
……っと、
そろそろ時間か。
「やっぱり、長居は出来ないんだね」
____おれに宿る魔法の事を考えれば、此処に来られる事のが奇跡みたいなもんだけどな。取りあえず、伝えるべき事は伝えた。……また、忘れちまうけど、悪いな。
「ううん。これは、私のわがままだもの。色々とありがとう、また、学校でね」
____ああ、また学校でな。
意識が遠くなる。
目覚めた時には、また全て忘れているのだろう。
遠くなる桜と少女。
そしてまた、入れ替わる様に誰かがあの世界に入ってくる。
____いやホント、はよくっつけ、このクソボケ人誑し魔神。うかうかしてるとソイツ、おのれの手の届かない所に行っちまうぞ?
真っ白に染まり、無限大に収束した因果の中、遠くなっていく意識の中、前と同じ様に入れ替わりで来た親友に、そんな悪態をつく。
完全に視界が真っ白に染まる頃には、おれはこの世界でのやり取りをまた忘れてしまっているだろう。
契約だとはいえ、それはとても……寂しい。
意識が消え去るその瞬間まで、そう、思い続けた。