D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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プロットがある程度纏まったので、取り敢えず新章。


- 人形遣い - 編
EPISODE 19


 

 

 

 

「……よかった。灯火、気がついたんだね……?」

 

 

 

____ごうごうと燃え盛る炎。

 

 

 

ガソリンで焼けるコンクリートと、血の匂い。

 

 

惨状を見たことによる悲鳴と、ざわめき。

 

 

そして、つい先程まであたたかった筈の、母の腕。

 

 

 

「ごめんね、灯火。お母さんも頑張ってるけど、灯火の怪我……少ししか治せそうにないや」

 

 

 

朦朧とした意識の中、自分と同じくらいボロボロの母は、血を流し過ぎて真っ青になっても、いつもの優しい笑顔を浮かべていた。

 

 

あの男と自分と同じ魔法使いである母は、最後の力を振り絞って、おれの怪我を治そうとしていた。

 

 

治癒の魔法。それが咲三に嫁いだ母の持つ唯一の魔法だった。

 

 

でも、母さんの魔力はおれよりも少なくて、おれを治せば、自分を治す魔力が足りなくなるのは、分かっていたはずだ。

 

 

 

「……あの人に、謝って……おいてくれ、る? ……私が死んじゃったら、あの人、きっととんでもない……事に、なっちゃう、から」

 

 

 

それは、あの男の本質を理解していたから出て来た謝罪なのだろう。

 

 

 

「……あの人を変える事、結局……出来なかったや……灯火には、ホントに悪いことしちゃうね」

 

 

 

治癒の光が消える。体がさっきよりも楽なのを感じた。

 

 

けれどそれは、母さんの魔力が尽きた事を意味していた。

 

 

それはもう、母さんは助からないと言う事。

 

 

母さんの目には、もうおれは映ってない。

 

 

もう、見えてもいない。

 

 

 

 

 

「__ごめんね、あなたはもっと生きて、ね?」

 

 

 

 

 

自分の腕を掴んでいた母さんの手から、力が抜ける。

 

 

血の抜けた顔。だと言うのにその表情はどこか安らかで、

 

 

浮上したばかりの意識が、目が、覆す事の出来ない“死”を、正しく認識してしまう。

 

 

許容値を超えた感情が、決壊する。

 

 

 

泣く。

 

 

 

叫ぶ。

 

 

 

泣く。

 

 

 

叫ぶ。

 

 

 

悲しくて、悔しくて、声にならない声で叫ぶ。

 

 

幾ら叫んだ所で、どうにもならないのに。

 

 

幾ら悲しくても、もう手遅れなのに。

 

 

涙は一向に止まる気配がなく、

 

 

ただ、ただ、泣き叫ぶ事しか出来なかった____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 19-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___ッ!?!! ハァッ、ハァッ、ハァッ……?!」

 

 

飛び起きる様に目を覚ます。

 

荒ぶる心臓。

 

過剰な呼吸。

 

全身に汗を浮かべながらも、なんとか呼吸を整えようとする。

 

どう見繕っても、マトモな目覚めじゃないのは確かだ。

 

 

「クソ…………ッ!」

 

 

ドッドッドッと未だに激しく脈打つ心臓を押さえ、汗を拭うこともせず悪態をつく。

 

いくらなんでも、母親が死ぬその瞬間を夢に見るのは、あまりにも趣味が悪い。

 

何年経っても、これだけは慣れる気配がしない…………と、そこまで考えて思わず自嘲する。

 

やろうと思えば容易に引き金を引ける様な奴が、今更なにを言ってるのか、と。

 

俯きながら、自身の矛盾性を再認識する。

 

その在り方を望んだのは、他でもないおれの意思だってのにな。

 

 

「……お兄ちゃん、大丈夫?」

 

 

と、そこでようやく、傍らに立つジャージ姿の妹分の存在に気付く。

 

 

「……み、お……? 何時から、居たんだ?」

 

「ついさっきね。早朝鍛錬の時間になってもお兄ちゃん起きて来ないから、合鍵使って部屋に入ったら魘されてるんだもん。取りあえず濡れタオルで汗拭こうとした所で、ガバーっ!て起きてビックリしちゃった」

 

 

……ああ、確かにいつも起きる時間より、時計の針は時を刻んでいた。

 

そのせいで、余計に長く悪夢に魘されてたんだろう。

 

海央が持っていた濡れタオルをもらって顔を拭く。

 

その程よい冷たさが、今のおれには心地良かった。

 

 

「悪い、迷惑かけたな」

 

「ううん、あたしは全然大丈夫だよ。……あさひ叔母様の夢、見たの?」

 

 

ピンポイントで自分の見た夢を当てられて、思わず動揺する。

 

 

「あの事故が起きた後、お父さんに連れられて家まで来てたでしょ? ……あの時と同じ魘され方してたもん」

 

「………そうか。そりゃ、分かって当然か」

 

 

自身の進歩のなさに嘆くべきか。

 

しっかりと見ていた妹分を褒めるべきか。

 

 

「こう言うのって、結構あるの?」

 

「……いや、あっても年に一回くらいだ」

 

「そっか……学校は休む?」

 

「休まねぇよ。少し時間が経てばもとに戻るし、寧ろ学校でバカやってる方が楽なんだ。……そもそも、こんなんで下手に休んでみろ。杉並を筆頭に見舞いと称して何しに来るか」

 

「それを容易に想像できちゃう辺り、あたしも染まってきた感があるよぉ……」

 

 

ふぁーはっはっはっ! と、高笑いしながら回復祈願の効果があるとかのたまうオカルトグッズを持ち込むバカと、それに苦笑いしながらもノッてくるバカ2号と3号。

 

ホントに、ありがたい友人共である。でもバカ1号はもう少し常識を学んでほしいと、バカ4号として思わずにはいられない。

 

 

「日課は……今日はしゃーない。朝飯は昨日作ったカレーあるだろ。あれ温めて食べてくれ。おれは、少し瞑想して精神を落ち着かせるよ」

 

「ん、りょーかい」

 

 

てててっと台所へ走っていく妹分を見送って、その場で座禅を組んで瞑想を始める。

 

意識を切り替え、己の心の内に意識を集中させる。

 

例え、心が乱れていても、幼い頃から何度も何度も繰り返した工程だ。

 

鍛え続けた集中力は、荒ぶっていた心を瞬時に落ち着かせて凪の状態にまで持って行く。

 

すぅ……はぁ……と、深く呼吸を行うと同時、周囲のマナを取り込んで体に流して自身の魔力と同期させ、それで体の調子もついでに整える。

 

魔力のコントロールはおれが最も得意とする技術だ。瞑想を行いながら並列に進行させる事も今では容易く出来る。

 

師匠にもその技術は驚かれたほどだ。……その代わり、体内の魔力が平均値より少ないのがおれの弱点でもある。

 

体内の調整を終えてからは瞑想に集中し、数秒……いや数分ほど、己の内側に意識を集中させる。

 

……その甲斐あってか、少し時間は掛かったが、どうにかこうにか普段と大差ない状態にまでは回復出来たようだ。

 

 

「ほひいはん! はれー! ははふぁっへるよ!!」(※特別意訳:お兄ちゃん! カレー! あたたまってるよ!!)

 

「食べたまま喋んな、行儀が悪い」

 

「もきゅもきゅ……ごくん。はーいっ!」

 

 

全くこの妹分は……。と言いながらも、気を使ってくれてる事自体はありがたいもので。

 

……それを考えれば、おれは恵まれてるよなぁ。

 

海央に続いて一晩寝かせたカレーを食べながら、幼い頃から変わらない優しさを持ってるこの妹分に、密かに感謝するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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3/1 金曜日 晴れ時々曇り空。

 

 

 

___キーンコーンカーンコーン。

 

 

「む、もうこんな時間か。号令はいらんから昼休みに入れ」

 

 

泉ちゃんの一声で安堵のため息を漏らすクラス一同。

 

何故か今日は終始機嫌が悪そうにしてた事もあって、昼休みを無事に迎えられるか気が気ではなかったんだろう。

 

……取りあえず、体調もメンタルも回復したので今朝は普通に登校出来た。

 

朝から恋愛執行を開始する白河とそれを阻止せんとする美嶋さんのデットヒートに拍手を送ったり、普通に一登達とバカな話をしたり、二乃と昨日配信された「ねこあるき」について熱く語ったりと……まぁ、今のところはいつも通りの日常を送っている。

 

 

「そうだ、礼はいらんけど、代わりに誰か学食で一番美味しいものを教えてくれ、常坂兄」

 

「誰かって言ってんのに一登をしっかり指名してやがる」

 

「あ、芳乃、それフラグですって」

 

「ああ、ついでに芳乃もな」

 

「……やべぇ、やぶ蛇だった」

 

「フラグからは逃れられない、ってね♪」

 

 

近くの席にいる白河のからかう様なセリフにガクリと項垂れる。迂闊なツッコミは身を滅ぼす……と、また一つ将来に必要な知識を学べた気がするな。どこで役立つかは知らんが。

 

そんなアホな事を考えつつ強制指名(ラブコール)を受けたので、取りあえず教壇の泉ちゃんのもとへ向かう。

 

 

「なんすか……」

 

「親友がすげぇ面倒臭そうな顔してる」

 

「そんな顔になってたか。ウソを付けない性格だからかなぁ……」

 

「相変わらず言いたいことを言う奴だな。誰に似たんだかな、まったく」

 

 

……間違いなく師匠だろう。思わず「がっはっはっ!」と豪快に笑う髭の大魔法使いを思い出す。

 

ついでに魔具の制作で師匠の妹分さんとこに尋ねに行った時、それはもう師匠のやらかしとか色々と語ってくれた事も思い出してしまった。

 

楽しい事好きなのは、どうやら血筋らしい。天文部で起きた事とかあまりに訳わかんなさすぎて笑うしかなかったな。

 

……なんか、その時代にも杉並と言う名前の人物が暴れ回ってた事を聞いた時は流石に閉口したが。

 

なに、杉並の奴、もしかして血筋なの? あの愉快で意味不明な精神性は血筋なの?

 

 

「それは良いとして、取りあえずお前達のオススメを教えてくれよ」

 

 

思考が明後日の方向に行きそうな所で泉ちゃんが本題を出す。おっと、ちゃんと答えないと昼休みの時間がなくなっちまうな。

 

 

「学食でですか?」

 

「そうだ。他人に勧められるほどのものが皆無だったら、お前達が頼む頻度の高いものでも良い」

 

「? 泉ちゃん、もしかして学食不味いって思ってます?」

 

 

あまりの酷い物言いに?マークを浮かべながら聞いてみる。この人、それこそよほど酷くないとここまで酷評しないからな。

 

でも学食は普通に美味い。少なくともおれは不味いとは思わない。そもそも不味かったら自分で飯を作って来てるし。なんならレシピ知りたいと思ってるし。

 

ってことは、多分学食を利用した事がないんだろう。

 

 

「ふむ、その物言いだと今は違うのか。学食なんて昔はとても食べられた物ではなかったが……」

 

「なるほど。でも、んー……確か、香々見島の開発が始まった頃らしいっすけど、月見団子の初代店長が学食を作りに来てた時があったらしくて、今のメニューはそのレシピを参考にしてるとかなんとか」

 

「灯火、よくそんな事知ってるな」

 

「レシピが気になって食堂のおばちゃん達に聞いたことあるんだ。門外不出らしいから駄目だったけどさ。泉ちゃんが学生の時はそのレシピ使われて無かったんじゃないすかね」

 

「……まぁ、そんな所だろうな。なんとも間の悪い事だ」

 

 

しかし、レシピを残した月見団子の初代店長、ホントに料理上手だったんだな。

 

大体50年以上前なのに今でも通じるレシピなんて、料理好きからすればめちゃくちゃ興味深いことこの上ない。

 

 

「そんな訳なんで、今の学食は基本どれでも美味しいっすよ」

 

「だな。曜日替わりの定食類も商店街の定食に引けを取らない美味しさだし」

 

 

日替わりのサバ味噌煮の定食とかもホントに美味いんだよな……。はぁ、レシピ、マジで知りてぇ。

 

つか、そもそもサバと味噌を付け加えるなんて発想を始めに考えた人は偉大だと思う。歴史の教科書に載ってないのが不思議なくらいだ。

 

 

「料理好きで通してる芳乃と、逢見の料理に慣れてる常坂兄が言うなら確かそうだな」

 

「……あれ? 先生、そら姉の料理の腕知ってるんですか」

 

「ああ、食べたこともあるからな」

 

「ええ!?」

 

「くくく。私はあいつの担任もしたこともあるし、家庭訪問だってしたことあるからな」

 

 

なるほど。そう言う事か。

 

にしても家庭訪問か……。ソラさんは“出自が特殊”だし、どう乗り切ったんだろ? いや、一人暮らし設定でどうにか押し通したか?

 

 

「ま、それなら今日は学食で定食でも食べるとしようかな。いつも出前を取っている店が急な休みになって困ってたんだ」

 

 

「んじゃな、助かった」と言って、泉ちゃんが教室から出ようとして…………なんか思い出したかのように戻ってきて出席簿でおれの頭を穿つ。

 

 

「ぐもぉ!?」

 

「学食の事を教えてくれたのには感謝してるが、それはそれとして泉先生だ。忘れる所だったぞ」

 

「その為だけに戻って来たんすか泉ちゃーん!?」

 

「む、なんだ、おかわりが必要か?」

 

「滅相もございませぬ! 滅相もございませぬーっ!!」

 

 

それで満足したのか「よし、ではな」と言うと今度こそ泉ちゃんは教室から去って行った。

 

……なんか徐々に威力上がってねぇか、出席簿アタック。普通にダメージ入るようになってきたんだが。

 

涙目になりながら打たれた部位を押さえていると、叶方と杉並が近寄ってくる。

 

 

「はは、二人ともお疲れさん。面倒臭そうで近付けなかったよ」

 

「うむ、触らぬ悪魔に祟り無しだからな」

 

「悪魔扱いかよ」

 

 

あまりの物言いに「ひっでぇ」と、一登共々吹き出す。

 

泉ちゃんに聞かれていたら間違いなく、それこそ悪魔の様に祟り殺され兼ねない会話である。

 

 

「同期を生贄に面倒な上司や先輩に絡まれるのを避ける。進学するにしても就職するにしても重要な処世術になるだろう」

 

 

あまりにも嫌過ぎる処世術だった。

 

と言うか地味に生々しいわ。

 

 

「で、俺達はまんまと生贄にされた訳か」

 

「捧げるか捧げられるか、それが問題だ。同志達の将来が思いやられるな」

 

「ほっとけコラ」

 

 

生贄に捧げといてなんつー言い様なのか。

 

今度機会があればコイツをリリースしよう。下手したら邪神が召喚されるかも知れないが。

 

と、そんなささやかな復讐プランを構築していると、ふと一登が何かを考えてるような表情をしてる事に気づいた。

 

 

「なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだが」

 

「む? 同志・常坂兄も誰かを贄にするのか? 恨みは買わないように最新の注意を払うといい」

 

「そっちじゃねぇよ。お前らって進路とか決まってる?」

 

 

進路? なんでまたいきなり……と思ったが、卒業シーズンだからか。

 

恋パでSSRが開催した【恋のレジェンドバトルパーティ】から時も流れ、今日から3月に入っている。

 

即ち卒業の季節。旅立ちの時期。

 

思わずセンチメンタルな気分になってもおかしくないだろう。

 

 

「本校の後のことはまだ考えてもないなぁ。多分進学かな? 一応勉強しておこうかなって感じ」

 

「叶方はその前に成績をどうにかする所じゃないか……?」

 

「それは言わないお約束だよ」

 

「……で、杉並は?」

 

 

まぁ、流石の叶方でも就職とか関わって来るなら死にものぐるいで勉強すると思うが、それはそれとして一登から話を振られた杉並は「愚問すぎるぞ同志よ」と言わんばかりの表情を浮かべている。

 

 

「同志・常坂兄よ……俺がどこへ進学したいなだとか、あの企業へ就職したいなとか、公務員を目指そうかとか、そんな風に見えるか……? 想像出来るか?」

 

 

一応、想像しようとしたが違和感が酷くてすぐにイメージが崩壊した。……イメージまでも、あまりに杉並が杉並過ぎた。

 

隣の叶方も同じ事を考えてたのだろう、苦虫を噛み潰したような顔をしている。多分、おれも同じ表情になっている。

 

 

「全く出来ん。だから聞いてみたってのもある」

 

「俺は世界の真実を求めている。その為に必要なスキルを修得したり環境を作ることに興味はあるが、いわゆる進路などというものは気にしたこともない」

 

 

……だから、おのれはホントにどこを目指しているんだよ……?

 

 

「お、おう……全く役に立たん話をありがとう。じゃあ灯火はどうだ?」

 

「おれは……」

 

 

そこで言葉が詰まる。なにせ、進路なんて考えたこともなかったからだ。

 

“あの子”と交わした約束を守るため、そして背負ってしまった使命…………あのフザけた未来を覆す為に、今まで生きてきた。

 

その先の事はすっぽりと頭から抜け落ちていたから、当然だろう。

 

 

「……おれは、まだ何も考えてないな」

 

「あれ、以外かも。灯火の性格なら何個か考えてそうなのに」

 

「灯火ならどこに行っても通用しそうだけどな」

 

「ふむ、将来に悩むようであれば、俺の協力者にならないか? 貴様なら俺様の次に優秀なエージェントになるだろう。同志・常坂兄もどうだ? 悪いようにはせんぞ」

 

「杉並の良し悪しの基準にまったく信頼がおけねぇよ、遠慮しておく。大体、ついさっき俺達を生贄にしていたじゃねぇか」

 

「流石に背中から撃たれる心配まですんのは面倒臭過ぎるな……おれもお断りだ」

 

「ふ、まぁ良い。気が変わったらいつでも言ってくれ」

 

「そんなことよりさ、昼飯出遅れまくってるんだけど?」

 

「「それだよ」」

 

 

叶方に言われて気付いたが、雑談してたら割とヤバい時間になっていた。

 

流石に昼飯抜きは死ぬ。

 

 

「しゃーない、また窓から飛んでショートカットするしかねぇな」

 

「ショートカットじゃなくて飛び降りだろやめろそれはっ!? と言うか俺達には出来ないからなそれ!」

 

「考えてる時間はないな。なーに、ショートカットなら俺様の方で準備してある」

 

「準備して出来るものなのか、ショートカット」

 

「杉並の活動も、たまには実利があるよな」

 

 

と言うわけで教室を飛び出したおれ達は、風紀委員や教師に見つからないように杉並の準備したショートカットを使用した訳だが。

 

取りあえず、そのショートカットはおいそれと使えるものでもなかった。

 

と言うか、杉並の神出鬼没ぶりの一端が分かったわ。

 

あんなの使ってたら、そりゃいきなり生えて出てくる様な登場も出来るわなと、なんとか間に合った食堂で思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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____その日の放課後。

 

 

 

なんだかんだで無事に今日の授業は全て終了。

 

いつものSSRの溜り場に行く……前に泉ちゃんの頼みで教材やら重い荷物を運んでた為、遅れて行くことになってしまった。

 

最も、今日も特筆するような活動は特にないだろうし、依頼の確認して何もなければいつもの駄弁りタイムだろう。

 

なんだかんだ、あの空間は居心地が良いので時間いっぱいまで皆と駄弁り倒してしまう。

 

見ようによっては、しっかりと青春を過ごしているのだろうか。

 

 

「……いつまで、こうやってのんびり出来るのやら」

 

 

かつて【先視の魔法】で視たクソッタレな未来。

 

それがいよいよ近付いてくるとなると、おれも全日警戒しなければならない。そうなると、皆と共有出来る時間が減ってしまう。

 

下手すると学園にも来れなくなるだろう。……覚悟していた事とはいえ、そうなるとやはり寂しく感じる。

 

海央、一登、二乃、ソラさん、叶方、杉並、有里栖、そして白河。

 

皆と過ごした時間は、おれにとってかけがえのないものとなっている。

 

寂しいけれど、同時に守りたいって気持ちの方が強い。

 

 

「………………」

 

 

漠然とした不安が襲い掛かる。

 

力は付けた。切り札もある。

 

それでもなお不安に思うのは、まだまだおれが弱いからか?

 

 

「……いかん。ダメな方に思考が寄ってるな」

 

 

今朝の夢がまだ効いてるのか、どうにもネガティブな方向になってる気がする。

 

屋上へ行く前に体制整えとかないとな。人の不調を見抜くお人好し共には油断しては駄目なのだ。

 

なので昇降口の途中で呼吸を整えようとした所で、ふと上からすごい勢いで走ってくるなにかの気配を感じ取る。

 

 

「……なんか、すっげぇデジャヴ」

 

 

これはもしかしてと思い、いつぞやと同じ様に右目に魔力を集中させて先視の魔法を起動する。

 

視えて来た数秒先の光景はやはりと言うべきか、あいも変わらず忙しそうだなと言うべきか。

 

取りあえず、今回は階段から落ちる訳ではなさそうなので、スッと横に逸れる。

 

それと同時に、見慣れたツインテールが階段から凄い勢いで降りてきた。と言うか飛び降りてきた。

 

 

「おっと芳乃でしたか! ナイス回避!」

 

「相変わらず忙しそうだな、おのれは」

 

 

スタッと自分の隣に降り立ったのは、やはりと言うか白河ひよりだ。

 

恐らく美嶋さんがSSRに殴り込み(比喩表現)に来て、慌てて逃げたのだろう。もしくは溜り場に行くまでに恋愛執行をやったか。

 

 

「ちょっと今は急いでましてね! 良ければ未羽のフォローお願いします!!」

 

「あ? フォロー? って行っちまったし」

 

 

フォローってなんぞ? と思わず首を傾げる。

 

しかし、その疑問の答えはすぐに訪れた。

 

 

「あ、あわわっ! ど、どどどいてくださぁぁあいっ!?」

 

「んなっ!?」

 

 

割と必死な悲鳴に振り返れば、涙目で階段から落ちて来る美嶋さんの姿。

 

……迂闊! 白河に気を取られて気配感知を怠ったか!?

 

気づいた時には既に美嶋さんは階段を飛ばした後だ。

 

恐らく逃げる白河を追って慌ててたんだろうが、おれに気付くのが遅れたと言った所か。

 

流石にこの状況で避けたら大怪我待ったなしだ。

 

それを避けるための手段など、一つしかない。

 

 

「つか、またこのパターンかよ!?」

 

 

相手こそ違うもののデジャヴを感じるシチュエーションに頭を痛めながら、落ちてきた美嶋さんを抱えて受け止める。

 

なんか、ふにょっと言う柔らかい感触も感じたが、それは全力で意識の外に追いやりつつ、なんとか衝撃を押し殺す。

 

前みたく、背中をぶつける事をせずに済んだのは地味に助かる。

 

 

「んんぅっ!?」

 

「っと、っと……! 大丈夫か美嶋さん?」

 

「……ふぇ? え、あれ?」

 

 

なにが起きたか一瞬分からなかったのか、美嶋さんが辺りを見回し、それからおれと目が合う。

 

 

「あ……芳乃先輩……?」

 

「よう、お疲れさん。……で、立てそうか?」

 

「____ぁ、ご、ごめんなさいっ!」

 

 

ようやく状況を理解したのか、顔を真っ赤にして離れる。

 

取りあえず怪我とかはなさそうだが……いかん、ホントに迂闊だったな。

 

白河があんな勢いで逃げてたら、美嶋さんが追って来てるくらい察せられたろうに。

 

そんな美嶋さんは美嶋さんで耳まで顔真っ赤にして深々と頭を下げる。

 

 

「風紀委員なのに階段を駆け下りたりしてっ……。し、しかも転びそうになって、ご迷惑をおかけするなんてっ……!」

 

「まぁ、どっかの恋愛請負人のおかげでフォローに慣れてしまってる感あるから、気にせんでもいいて」

 

 

今でもちょくちょくあるしな、フライング白河キャッチ。

 

あれに比べれば、これくらい楽なもんである。……ホントにホントに頼むから自重してくれ白河。

 

 

「………………」

 

「美嶋さん……?」

 

 

何故かボーっとしてる美嶋さん。

 

心做しか顔も赤い。……なんというかこの感じ、昔、風邪を引いてるのに気づいてない海央を思い出した。

 

 

「ちょっとごめんな」

 

「……え、ふぇ……?」

 

 

一応断りを入れてから美嶋さんのおでこに手を当てる。もう片方の手で自分のおでこに当てて熱を測る。

 

……平熱な自分と比べると、やはり少し熱い気がする。と言うか、更に熱くなったか? なんか顔赤くしたままモジモジしてるし。

 

 

「……やっぱちょっと熱あるな。白河を追い掛けるのも美嶋さんには大事かも知らねぇけど、体調悪いなら大人しくしてた方が良いぞ? 」

 

「へ、あ、そうだひよりちゃん!」

 

 

思い出したかのように辺りを見回すも、既に白河は反対側の昇降口から姿を消している。

 

今から追い掛けても、追い付けないだろう。

 

 

「白河ならとっくに逃げてるよ。つか、熱あんだから美嶋さんもさっさと帰るか保健室に行きな」

 

「そ、それは…………芳乃先輩のせいと言いますか、なんと言いますか…………あ、あぅ…………!」

 

 

熱じゃない……? 原因はおれ? 深まる謎を前にして、未だに顔を赤くしてモジモジしてる美嶋さんの姿を改めてようやく気付く。

 

……あー……そう言う事か。美嶋さんの性格を考えれば分かる事だ。

 

そりゃいきなり男に抱き抱えられたら、少なからず動揺するよな。言い方はアレだが明らかに男慣れしてないだろうし。

 

……おい待てコラ。その状態でおでこに手を触れたのって、結構不味くないか?

 

 

「…………すまん、今更だが察した。いや、やましい気持ちとかはなかったんだ、ホント」

 

「え、あ、い、いえ、そこは別に心配してないと言うか、その、ちょっとビックリしただけですから……」

 

「………………」

 

「………………」

 

 

微妙な沈黙がおれ達を包む。なんと言うか、不快ではないけどむず痒い感じの空気。

 

居た堪れなくなって、思わず視線を美嶋さんから外して横に逸らすと、

 

 

「…………………………(にやにや)」

 

 

……………………それはそれは、とてもいい笑顔でコチラを眺めている恋愛請負人の姿があった。おい待てコラ元凶。

 

なんでここにいるんだテメェ。向こうの昇降口から階段を降りてっただろ、一周してきやがったのか。取りあえずそのむかつくニヤニヤ顔をやめろテメェコラ。

 

 

「とっ……とにかく! ひ、ひよりちゃん追いかけますね……」

 

「あ、ああ。気を付けてな」

 

「い、いえ。どうも、本当に、失礼しました……」

 

 

結局、真っ赤な顔はそのままに、ペコリと頭を下げて美嶋さんは歩いて行った。……モジモジしたままで、だ。

 

しかも歩いて行ってるので、言葉と裏腹に白河を追いかける事は出来ないだろう。

 

廊下の向こうの昇降口を降りる前にも、こっちに振り向いてまたペコリと頭を下げる。

 

………なんとなく、白河がかわいいかわいいと言う訳が分かった気がした。美嶋さん見てたら庇護欲と言う奴が湧くし。

 

さて、それはともかくとして。

 

首をポキポキと鳴らしてから、美嶋さんの前なので抑えていた怒気を開放する。それを察した後ろの恋愛請負人から、驚いた気配を感じ取る。

 

なので振り返り、白河を見やってから、にっこりと笑って告げる。

 

 

「しーらーかーわー? 素直に出てくるのと、頭を掴まれて出て来るの、どっちがいい?」

 

「驚愕……ッ! 笑顔のままものすんごい怒りの圧を放ってます!? こ、これがゴリラの本気の怒りですか!?」

 

「だーれがゴリラだ誰が。ダイヤモンドと組み合わせてビルドアップしたろかコノヤロウ」

 

「輝きのデストロイヤー!? ベストマッチな組み合わせですけど、でもやっぱりゴリラじゃないですかゴリラー!!」

 

 

普通に怒ろうかと考えていたのに、ゴリラネタを振られた瞬間にネタで返してしまう辺り、もはや体に染み付いてる気もする。

 

なんだかんだ言って、やっぱり白河と話すのは気楽だし面白いのだから、仕方ないっちゃ仕方ない。

 

 

「取りあえず、正座」

 

「はい……」

 

 

楽しいけど、それはそれとして、だ。

 

流石に悪いことしてしまった自覚はあるのだろう。素直にその場で正座をする白河の前で仁王立ちしながら、ため息を吐く。

 

 

「おのれが美嶋さんから逃げるのは、まぁ仕方ないとしてだ。逃ける際にもう少し周りを確認する様にしろ。……怪我人が出たら、恋愛請負どころじゃないだろ?」

 

「同感そして反省……! 返す言葉もありません……!」

 

「……まぁ、分かってるならいいさ」

 

 

一応は反省してるみたいなので怒気を収めると白河も深く息を吐いた。

 

あー……しまった。ちょっと圧が強すぎたか。

 

 

「……すまん、少し脅かし過ぎた」

 

「いえいえ! ちょっとビックリしただけですよ! お気になさらず!」

 

 

正座させといてなんだが、よくよく考えたら女の子を正座させるのは不味いか。

 

手を差し出すと一瞬だけ驚くも、すぐに目を緩めておれの手を取って立ち上がる。

 

 

「……キミって結構紳士ですよね。さっきもなんだかんだで未羽を助けてくれましたし。怒らなきゃいけない所はしっかりと怒ってくれるし」

 

「元気だけは有り余ってるワンコ系妹分の世話とかあったし、どこかの恋愛請負人のせいで女の子を無事にキャッチする経験値だけは豊富だからな」

 

「正解。そう言えばそうでしたね。……でも、それを差し置いても隅に置けないですよキミは。まさか、未羽にあんな表情をさせるなんてね」

 

 

あんな表情、と言うのは、やはりさっきのあれか。

 

 

「庇護欲が湧いたのは確かだがな。まぁ、あんまり男と触れ合う事もないだろうから、その分の照れが混じってんだろ」

 

「正解。それはそうなんだけどね……ふむふむ」

 

 

ふと、白河の視線がおれに、そして美嶋さんが去って行った方へと交互に向けられる。

 

 

「……うん、芳乃なら、任せられるかな……」

 

「……ん?」

 

「なんでもないですよ。さ、屋上に行きましょうか」

 

 

小声でなにを言ったのか聞こえなかった。尋ねようとしたが、その前にクルリとマントを翻してコチラに向き直った白河は、どこか穏やかな笑顔でそう告げる。

 

その笑顔が、何時ぞや見た夕焼けのあの笑顔と重なって、思わずドキリとしてしまった。

 

 

「あ、ああ。ちょっと遅刻気味だしな」

 

「正解。と言っても今日は何も無いだろうけどね。卒業シーズンだけど恋愛相談はあんまりなくてね___」

 

 

呆けそうになるのをなんとか抑えて、そのまま白河と一緒に屋上へ向かう。

 

……しかし、まいったな。

 

美嶋さんを抱き止めた時よりも、白河のあの笑顔の方にドギマギするなんてさ。

 

 

 

今朝の夢の事もあるし、まだ本調子じゃないのかも知れない___白河と駄弁って屋上へ向かいながら、内心で、そう思うのだった。

 

 

 

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