D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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更新の際に章の題名を変更。
D.C.5の情報も含むのでタグ追加。


EPISODE 21

 

 

 

 

「___次、麻婆豆腐に黄金炒飯のセット!二人前!」

 

「うーっす!」

 

「芳乃君! 今やってる青椒肉絲作り終わったら次は麻婆豆腐と黄金炒飯頼む!」

 

「了解っす!……あ、セットのサラダに使う野菜がもう少ないっす!」

 

「なにぃ!?買い出し班急げ!絶対に切らすなよ?!」

 

「てんちょーはどこだァ!!手の空いてる奴はてんちょーを探せまた逃げたぞぉおおお!!」

 

「まーた逃亡したのかよてんちょー!?」

 

 

青椒肉絲を作る中華鍋を振るいながら、次の注文を頭に留める。

 

周囲には同じ様に鍋を振るう先輩方や逃亡癖のある店長を探す手の空いてる店員。

 

料理とは関係ないところで繰り広げられる阿鼻叫喚。

 

先日起きた戦闘とはまた違った意味で地獄が形成される。

 

 

 

___バイト先である中華料理店【泰山(たいざん)】。そこの厨房はいつも通りの戦場となっていた。

 

 

 

噎せ返るような香辛料や素材の匂い、洗い終えた先から投入される食器、厨房は火力の高いコンロから出る火で燃えるように熱い。

 

流れる汗を料理や食材にかからない様に気をつけながら出来上がった青椒肉絲を皿に盛り、カウンターに乗せる。

 

それが終わったら次は中華鍋を2つ使ってそれぞれ麻婆豆腐と黄金炒飯を作り始める。

 

思考を分散させて、工程をごっちゃにしないように、かと言ってチンタラ遅くせずに手早く済ます。

 

麻婆豆腐を煮込む所まで作ったら、そこで手早くもう一つの中華鍋に溶き卵を投入して、すぐに米を入れて溶き卵を米に浸透させるようにかき混ぜ、次に味付けのための調味料や他の素材を順番に入れて、ダマにならない様に中華鍋を豪快に振るい続ける。

 

客席は満員御礼。

 

机に並んだ中華料理に舌鼓を打つ者もいれば、不用意に激辛麻婆豆腐にチャレンジして口から火を吐く者もいたりと、なんと言うか昨日【怪異】が起きたとは思えないほどの平和っぷりに思わず目眩がしそうだ。

 

当然、そんな暇はない。

 

今はただ、この休日で昼前の書き入れ時をなんとか乗り越える為に無心で中華鍋を振るうのみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 21-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさま芳乃君」

 

「お疲れさまです……なんとか修羅場は超えれたっすね」

 

「ああ、てんちょーが逃げ出さなかったら、もっと楽になってたんだけどな……」

 

「それはそうなんすけど、言う事聞いたら聞いたで、てんちょーがてんちょーで無いような気も……」

 

 

 

3/2 土曜日 晴れ。平和そのもの。

 

 

 

勤務時間を乗り越えてから、泰山で働いてる先輩と一緒に一息を吐き、いつも困った事をするてんちょーの話をする。

 

「てんちょー」とはこの泰山の店長の事なんだが、年齢不詳の見た目完全なロリな姿と、フラフラと店から逃亡して自由を謳歌しようとする経営者としてあるまじき悪癖のせいで、泰山で働いてるほぼ全ての店員からフランクかつ雑な接し方をされている。

 

なんだかんだ、人望はあるのでいくら逃亡しても文句を言われるだけで済んでるのは何かの魔法でも使ってるのかと疑いたくなるが、今の所そんな感じは一切しない。

 

 

「それで、芳乃君は今日から暫くお休みするんだっけか」

 

「ええ、まあ。ちょっとやることが立て込み始めたんで。落ち着いたらまた戻る気です」

 

「学生は忙しそうだねー……まぁ、頑張りなさいな」

 

「ありがとうございます」

 

 

土曜日にいつもしていたこのバイトを一時辞めるのは、あの未来がいよいよ近付いた事もあるが、昨日の【怪異】の件もあってのことだ。

 

___牛鬼を倒したあの後、遅れて来た盾石と氷室、そして海央に状況を説明した後、全員で現場検証も行ったのだが……やはりと言うか、あの怪異・牛鬼は人為的に作られた怪異の可能性が高かった。

 

おれが貫いた牛鬼の核となっていたモノ、そしておれを監視していた何か、その二つに共通点があったからだ。

 

 

「……さて、いつまでも若者の時間を頂くのは良くないか。僕もそろそろ帰るから、芳乃君もあがりなよ」

 

「はい、お疲れ様でした!」

 

 

思考を一時中断してから先輩に挨拶して、自身も私服に着替えてから後片付けをする。

 

まだ残ってる先輩達にも挨拶してから、最後にてんちょーへも挨拶する。

 

「暇が出来たらまた来るアルよ」との御言葉を頂いてから「泰山」を出て、商店街を暫く歩く。

 

土曜日なだけあって商店街は賑やかだ。中には香々見学園の生徒らしき者もちらほらいる。

 

そんな至って平和な昼下がり。

 

歩き続けて辿り着いたのはボウリング場のオールインワン。体を動かす遊び場ではあるが、カラオケも併設されてるそこのエレベーターに乗り目的の階へと向かう。

 

 

「あ、お兄ちゃん来たよ、アキ姉、ジン先輩」

 

「お、逃げずにしっかり来てくたんやなぁ」

 

「バイト終わりで申し訳ないな、芳乃」

 

 

チン♪とエレベーターが目的地に辿り着き扉が開いた先には、防人の魔法使いである三人が先にいた。

 

ここに集まったのは、昨日の件について話し合いをする為だ。

 

カラオケボックスなら結界も併用して良い感じに機密性が保てるからな。

 

 

「寧ろ時間を取らせて悪かったな。……取り敢えず、場所を移すぞ」

 

「おっけー! ……と言うかな、紛れもなく密会やなこれ♪ ちょっとワクワクして来たわー♪」

 

「不覚ながら、あたしもそう思います……!」

 

「せやろ! こう言う閉所で秘密のお話するなんてのも、また青春やねー!」

 

「だよねだよね! なんかこう、ロマンを感じるよ!」

 

「「………………はぁ」」

 

 

天然女性陣のあまりに脳天気な盛り上がりに、思わず氷室と一緒にため息を吐く。

 

自分から密会だとのたまうバカがどこにいやがる。……此処にいたわチクショウ。アホはコイツらだった。

 

……ホントにコイツら、大丈夫なのか。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「はーい、取り敢えず飲み物頼みたい思いまーす! ウチはレモンティー!」

 

「あたしミルク!」

 

「アイスティー」

 

「ドクペ……はねぇか、コーラで頼むわ」

 

「ついでやからフライドポテトも頼もっか!」

 

「異議なーし!」

 

 

受付をし終えてからカラオケボックスへと入り、取り敢えず全員分の飲み物を注文する。あとついでにポテトも。

 

本音を言えばドクペが飲みたいが、流石にマイナーな飲み物なのでなかった。まぁ、コーラもたまには良いだろう。

 

もう完全に絵面が休日に集まった学生の打ち上げのそれなんだが、そこはもう気にしない事にした。いや、実際に学生だし、おれら。

 

で、暫くして店員が各ドリンクとファミリーサイズのフライドポテトを持ってきてテーブルの真ん中に置く。

 

海央と盾石は迷わずポテトを手に取り「うまー!」と、実に美味しそうに食べ出す。

 

「泰山」で昼の賄いは食ってきたが、フライドポテトの魅力には勝てない。というわけでおれも一口もらう。

 

熱々で外はカリッと中はしっとりなポテトに塩が効いてて美味い。たまに食うとジャンクフードと言うのはホントに美味しく感じるな。

 

と言うか気がついたら氷室も摘んでいた。まぁ、実に美味しそうに食べる女性陣がいるのだ。釣られても仕方ないだろう。

 

暫くフライドポテトに舌鼓を打ち、それから頼んだ各ドリンクで全員が塩味で乾いた喉の乾きを癒やし、一息吐く。

 

 

「…………ん。それじゃあ一息吐いたし、本題に入ろっか」

 

 

コトッ……とレモンティーのコップをテーブルに置いた盾石が、さっきまでの楽しげな雰囲気から一変して、魔法使いとしての顔を見せる。相変わらず、オン・オフの切り替えで印象がガラッと変わる奴だ。

 

それに呼応して、海央も氷室も、そしておれも、気を引き締めた。

 

 

「まず昨日の件についてやな。……怪異が起きたのに防人でも感知してなかったんは、発生してからすぐに対処・及び該当怪異の討伐に成功したからやな」

 

「確か防人の当主は決まった時間に先視の魔法を使って、数日先の未来を視るんだったか?」

 

 

若干うろ覚えになってるのは本格的に学ぶ前に咲三から追い出された為だ。なので現在の次期当主である海央に確認を取るとコクリと頷いてくれた。

 

 

「より正確に言うなら、アキ姉がこの島中に張り巡らせた感知用の魔具と、それに連動した地図あるでしょ? アレの日本地図バージョンを毎日決まった時間に先視を使って視てるの。それも数日先くらい」

 

「通常の怪異なら発生して暫くは残留するからな。その分被害も出るかも知れないが、直接的に視ないようにして極力影響を抑えてるらしい」

 

「……先視の魔法で人の死を視ちまったら、それはもう覆せない死になっちまうからな」

 

 

先視の魔法で視た未来は必ず現実のものとなる___だから、先視の魔法での危機察知には神経をとがらせる必要がある。……これは前にも言ったっけな。

 

 

「今回は発生してすぐに討伐したから感知出来ひんかったみたいよ。珍しいパターンやな」

 

「怪異なんて、発生したら大抵碌な事にならねぇしな。被害が出る前に片付けられて良かったぜ」

 

「その言い方だと、芳乃は以前にも怪異と相対したことがあるのか?」

 

「ああ、修行中にこの島の外でだが、何度かある。……どれも人の業を煮詰めたかのようなヤバい奴ばかりだった」

 

 

咲三から追い出されて今の今まで、おれも何度か【怪異】と相対したことがあるが、どれも下手をすれば命を落としていたものしか無い。

 

人の怨念により生まれただけあってか、人を害する事に躊躇がない。敵として対峙するならそれなりの覚悟が必要となる。

 

 

「あたしも初めて聞いた……」

 

「聞かれてもなかったし自慢にもならねぇよ。……過去に対処した怪異はおれが気づいた時点で、既に被害者が結構出てたからな」

 

 

その言葉で海央がシュン……と落ち込む。

 

怪異ってのは大抵は予兆なく発生し、大体は被害が出てから判明するものだ。

 

……数秒先しか【先視の魔法】の使えないおれじゃ、予知も出来ずに後始末しか出来ない。

 

 

「ただ、今回の怪異についてはちょっと事情が違うんよ」

 

 

言いながら、盾石は鞄の中から袋に入れた二つの壊れた人形を取り出す。

 

一つは牛鬼の核となっていたモノ。

 

もう一つは視線の元となっていたモノ。

 

どちらも不気味な造形をした人形で、顔に当たる部分には苦痛に歪むかのような表情が刻まれている。

 

これを作った奴は悪趣味極まりないだろう。

 

 

「一つは昨日の怪異の核としての形代。もう一つは監視者の媒介として。……これらの痕跡から、昨日の怪異は人工的に発生させたもんやと断言するわ」

 

「だろうな。実際に怪異以外の悪意を持つ人間の視線を感じたし」

 

「うん、せやから当主様にももう報告してるんよ。……そしたら、当主様曰く心当たりがあったらしくてな」

 

 

そう言ってから盾石はTABを操作して、ある画像をおれ達に見せた。

 

遠目から撮られたであろう写真には一人の痩せた男が写っていた。

 

青白く不健康そうな肌と、手入れを全くしていなさそうな長く伸びた髪が特徴だ。

 

 

「【人形遣い】……【防人】でかつて指名手配してた本名不明の魔法使いよ。悪意を持って何人もの犠牲者を出した正真正銘の極悪人やわ」

 

「……かつて?」

 

 

その言い振りじゃ今はそうじゃないのか。

 

そう考えていると、氷室と、そして盾石の視線が一度おれの方へ向けられる。

 

 

「【人形遣い】はな、公式にはもう討伐されてるはずやったんよ、当時の防人の当主___咲三灯真の手によってな」

 

「!」

 

「……それ、時期はいつだ?」

 

「芳乃、君が追放された直後だ。防人の当主としての最後の任務だったと記録されている」

 

 

隣りにいた海央が息を呑む。

 

おれはおれで、全てを察した。

 

……あの男は、恐らく全てを見越していやがったな。

 

 

「狙いは分かるのか?」

 

「さっぱり。ただ、残ってた当時の資料には、【人形遣い】の行動原理は愉快犯のそれ。って記述が残されてたわ」

 

「……一番面倒臭いタイプかよ」

 

 

魔法の力を悪行として使う奴らの中で、自身の快楽の為に魔法の力を使うタイプは総じて厄介な奴が多い。この“人形遣い“も、そう見るべきだろう。

 

奴が……咲三灯真(クソオヤジ)が、わざわざ残していた手駒だとすれば、尚更だ。

 

 

「それでな、この件について当主様に伺った時に言われたんよ」

 

 

そこで言葉を切ってから、盾石は再度おれの方を見る。なんと言うか、盾石には珍しいすごく困惑した表情で。

 

……嫌な予感しかしない。

 

 

「後のことはトーカ君に話してもらえって。ミオちゃんのことについても、トーカ君の判断に任す、と」

 

「あたしのこと……?」

 

「……おじさん、流石にそれは投げやり過ぎないか……?」

 

 

思わず天を仰ぐ。仰いだ所でカラオケボックスの中なので狭い天井しか見えない訳だが。

 

確かに、クソオヤジと防人内の奴のシンパだけじゃなくて、外部にも奴の手駒がいるとなると、この面子くらいには話しておいた方がいいのだろう。

 

最後にクソオヤジを止められたとしても、それまでの被害が大きければ、意味がないのだから。

 

…………【防人】そのものは信用出来ないけど、おじさんやらここにいる奴らは、信用してもいいと思うし。

 

海央に関してもそうだ。もともとおじさんの方に頼みたかったのは、あの時点での海央に不安要素がいっぱいだったからな……。

 

でもここ数ヶ月、一緒に過ごす中で実力も確かに上がったし少なくとも背中を任せていいとは思う。

 

……まぁ、それはそれとしても、投げやりに過ぎると思うが。

 

 

「……今から話す事を信じるか信じないかは、おのれらに任せる」

 

 

だから話そうか。あの日視た最悪の未来を。

 

 

「話はあの事故の時、母さんが死んだ直後になる。おれは、まだ半端に継承した状態の先視の魔法で、ある未来を視た」

 

「あの事故の時に!?」

 

 

驚く海央に頷く。

 

 

「それは、とても現実感のない光景だった」

 

 

 

 

 

____無惨にも朽ち果てた水鏡湖の桜の樹。

 

 

 

 

____打ち捨てられた二人の本校生の死体。

 

 

 

 

____赤く染まる水面と、ひび割れてく空。

 

 

 

 

____そこから、這い出てくる黒いナニカ。

 

 

 

 

____それらを見て、暗く嗤う父だった者。

 

 

 

 

 

「時間にして十秒にも満たない光景。けれど、それは間違いなく先視の魔法がおれに見せた未来だった」

 

「なに、それ……そんな光景を、先視で視たの……?!」

 

 

先視の魔法で視た未来は、必ずやって来る。

 

どれだけ現実感が無かろうと、この光景は眼の前に現れる。

 

 

「ちょ、ちょっと抽象的過ぎて分からんかったけど、ひび割れた空から何が出て来ようとしてたん? 怪異の類?」

 

「……おれが視たのは、あくまで先視による未来で視る光景……視覚だけしか分からない。あれが物理現象なのか魔法的な現象なのか、その時は分からなかったんだ」

 

「……その時は?」

 

 

氷室の指摘に頷く。

 

 

「今いる面子を除けば、この話をしたのは芳乃のばあちゃんにじいちゃん達、それからおれの魔法の師匠になってくれた人……常坂元さんや一部の人達だけなんだが」

 

「! 一登先輩と二乃にゃん先輩のおじいちゃん!?」

 

「大魔法使いに師事していたのか?! 道理で……」

 

「……その人達、もしくは常坂元さんが、それを知ってたんやな?」

 

 

真面目な時の盾石は頭の回転が早くて、こちらも助かる。

 

実際にその通りだった。師匠にこの未来の事を話した時、あの師匠が珍しく狼狽えていたのを覚えている。

 

その際に師匠から教えてもらったんだ。ひび割れた空から這い出てくるモノのことを。

 

 

 

 

「その現象の名前は___【黒無(こくむ)】」

 

 

 

 

「こく、む……?」

 

「かつて、この香々見島に現れた魔法的現象。怪異が優しく思えるほどの、発生した瞬間に世界そのものを飲み込み兼ねない破滅の厄災だ」

 

 

師匠曰く、数多の可能性によって発生しなくなった厄災。

 

それをクソオヤジが引き起こし、世界を破壊する光景。

 

それが、おれの視たクソッタレな未来だった。

 

 

「この香々見島で、そんな物騒な魔法現象が起きてたん!?」

 

「と言っても以前に起きたのは師匠が子供の頃……50〜60年以上も前の話だ。その時は発生直後にその場に居合わせた魔法使い達で何とか治めて、それから数年かけて再発しないようにしたらしい。詳しく教えてくれなかったけど、あるものを楔としてるとかなんとか」

 

 

つっても、その楔もなんとなく想像が出来るんだけどな。

 

師匠も、それが分かってるからわざわざ言わなかったんだろうし。

 

 

「お兄ちゃんは……トーカ先輩は、もしかして、ずっとそれに備えていたの?」

 

 

ふと、海央がポツリと呟く様に言葉を紡ぐ。

 

 

「おかしいって思ってたんです。自衛のためって割には鍛え方が尋常じゃなかったし。戦闘になると、とんでもなく怖い雰囲気になるのだって、コレに備えてたからだよね……?」

 

「……まぁ、な」

 

 

全く持って海央の言う通りなので肯定すると、目尻に涙を浮かべた海央がキッとおれを睨んだ。

 

 

「どうして、どうしてそんな一人で背負い込んじゃう真似なんかしてたの……!? もっと早くあたし達に……【防人】を頼ることだって出来たよね?!」

 

「……落ち着きや、ミオちゃん。トーカ君はこれ、言わなかったんじゃないんよ。言うことが出来ひんかったんやろ?」

 

 

盾石の言葉に海央が反応する。

 

どうしてなのか理解出来てないようだ。

 

それを察してか、諭すように海央に説明していく

 

 

「裏切り者、咲三灯真は【防人】が封印処置を施してる。それは封印されてる側が絶対に解くことは出来ん強固な封印なんよ。……でも先視で裏切り者が厄災を起こしてる以上、その封印が破られてることは確実や」

 

「……【防人】内に、奴に呼応する別の“裏切り者”がいるってことですね、盾石先輩。そんな所にわざわざ出向くのは逆にリスクが高い」

 

「うん、その通り。認めたくないけど、咲三灯真のカリスマ性は本物やったって聞いてる。あの人に魅了されたシンパは今もおるんよ。……そんな敵か味方も分からへん奴らがおる【防人】に頼ることは出来ひんよ。ウチかて話聞いたら無理って判断するわ」

 

「実際に最初はおれ一人で全部ケリを着ける気でいたしな。……まぁ、海央がトカゲにやられて負傷した日に、おじさんが現れて見破られたんだけどさ」

 

「……え、なにそれ、あたし聞いてない。と言うかお父さん来てたのあの時!?」

 

「来てたんだよ、おのれが武器忘れたから。説教込みでギリギリまで助けに入らない気だったらしいが」

 

「はうっ!?」

 

 

グサッと過去の失態に苦しむ海央に対して、他の二人は「え、そんなミスしてたの?」と言う視線を向ける。そのせいで海央は余計に縮こまる縮こまる。

 

 

「ホントだったら海央は安全な所にいて欲しかったんだよ。……あの時点じゃ、いきなり人体ミンチキックかますし」

 

「はううっ!?」

 

「感情に振り回されてるし、武器持って来てなくて窮地に陥ってるしで、だから最初はおじさんに距離を置かせて貰うように頼んでたんだよ」

 

「あうっ!あうっ!あうっ?!?!」

 

 

自分の過去のやらかしがどんどん突き刺さって、更に縮こまっていく妹分を困ったように見やる。

 

 

「それは、まぁ、お嬢が悪いな」

 

「安全地帯にいてもらいたいって気持ちも分かるわそれ……で、今はどうなん?」

 

「……ドジさえ踏まなければ、今は問題ないと思ってる。と言うか、今この状況で離れる方が不安だわ」

 

「よ、喜んでいいのかな、それ?」

 

「この数ヶ月で強くなったのは確かだからな。……そこは、ちゃんと認めてるつもり」

 

「お、お兄ちゃーーーーん!」

 

 

そこで感極まったのか抱き着いてくる妹分。心做しか、高速で振られる尻尾を幻視してしまう。

 

まぁ、うん、ドジさえ踏まなければ大丈夫だろう。ドジさえ踏まなければ。

 

……なんか、余計なフラグを踏んだ気もするけど。

 

兎にも角にもだ、ぐりぐりと頭を押し付けてくる妹分の頭を撫でながら、残りの二人の方に視線を向ける。

 

 

「出来たら、二人の事も戦力として当てにしたい。……頼めるか?」

 

「それは構わへんけど……どのみち見過ごせへんしなぁ。でも、負け戦やんな、これ」

 

「先視で既に見えてる時点で、もう決定してるのがな。いや、負け戦だろうが戦うが」

 

 

…………ああ、そうか。伝え忘れてたな、切り札のこと。

 

 

「負け戦にはしねぇよ。こっちにも切り札があるからな」

 

「切り札って、この状況で?」

 

「ああ、とびきりのな___」

 

 

だから、おじさんに語ったように、今いる3人にもおれが【先視の魔法】の代わりに得た魔法のことを話す。

 

それはこの状況をひっくり返せる最後の手段。

 

文字通りの、最後の切り札のことを。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「____って感じだ。なにか質問あるか」

 

「質問も何も……えぇ、滅茶苦茶やん、それぇ……」

 

 

“切り札”のことを話すと、おじさん同様に驚愕される。

 

まぁ、そうだよな。

 

先視の魔法のことを知っていたら、この魔法がどれだけヤバいのか分かるもんな。

 

 

「……納得行ったかも。この島に来てから、お父さんに先視の魔法を使うのを控える様に言われてたんだよね。最初は修行も兼ねてって思ってたけど。お兄ちゃんの……トーカ先輩のそれに巻き込まない為なんだって、今分かった」

 

「まぁ、下手したら巻き添えだったな」

 

「だけど、本当に上手く行くのか?」

 

「上手く行かなきゃ、どのみち皆お陀仏だ」

 

 

開き直ったような言葉だが、実際にその通りなのでこう言うしかない。氷室もそれを分かっているので、それ以上は何も言わなかった。

 

 

「……うん、でもそれならまだ希望はあるな。それで、ウチらのやる事も決まったわ」

 

 

情報が出揃ったので、纏めに入る気らしい。

 

 

「ウチらがやることは、まず【人形遣い】が起こすやろう怪異の被害を減らすことやな。出来たら【人形遣い】の撃破が好ましいけど」

 

「人為的に怪異を起こせる以上、たった一度だけとは考え難いですしね」

 

「ウチとジン君がこの島に派遣されたんも、元々学生やる為だけやなくて、有事の際に現地の協力者と共に事に当たれ、やったし」

 

 

……やっぱり、最初からこの二人は戦力として送って来てたのか。

 

先視なしでも先を視通すおじさんらしい采配だな。

 

 

「当主様にも話通ってるんなら、ぶっちゃけ今【防人】の本部に戻ってもウチらがやる事はないんよな。寧ろ咲三灯真の狙いがこの島で【黒無】とか言う激ヤバな魔法現象を起こす事なら、絶対にこっちで備えてたほうがええよ」

 

「暫くは怪異が起きる度に対処って感じかな?」

 

「”人形遣い“へ繋がりそうな手掛かりがあれば、それも確保しとくべきか。潜伏先でも突き止めれば先手も打てる」

 

「もどかしいが今はそれしかねぇな。ただ、奴はコチラの動きを見ている節がある。必要以上の手札を晒すのは止めたほうがいい」

 

「それはウチも同感よ。それで、人形遣いを撃破出来たら次は本命やね。トーカ君の先視通りに咲三灯真がこの島に来たら、奴っこさんに【先視】を使わせるまで追い込む……でええんやな?」

 

「ああ。切り札の発動条件を考えれば、それは必要不可欠だ。だから……死ぬ気で戦って、死ぬ気で生き残れ。条件が揃えば、後はおれが奴を止める」

 

 

仮にも奴は【防人】の当主の座を実力で取った化け物だ。

 

一筋縄ではいかないのは目に見えているが、それでも生き残らなきゃ意味がない。奴に敗北を叩きつけるならそれくらいしないとならない

 

 

「だから、改めて頼む___力を貸してほしい」

 

 

3人の防人に改めて向き直ってから頭を下げる。

 

 

「トーカ君の頼みやったら、よりいっそう頑張らんとな!」

 

「勝ち目あろうとなかろうと戦うさ、僕達は。それが【防人】なんだから」

 

「あたしももちろん! 【防人】としても【正義の魔法使い】としても、絶対に見過せないもん!」

 

「……ありがとう」

 

 

こんな無茶な頼みに乗ってくれた事に素直に感謝の言葉を口に出す。

 

元々一人でもやる気だったし、死んでもクソオヤジだけは道連れにするつもりではいたけど、力を貸してくれる味方がいるのなら心強い。

 

そんな事を考えながら、ふと盾石の方へ視線を向ける。

 

盾石は盾石で「どないしはったん?」と目をパチクリとしてる。

 

この場面で言うのもアレだが、話も纏まった事だしこの際ぶっちゃけておくとしよう。……そろそろ違和感が酷かったんだ。

 

 

「……おのれ、なんでこう言う場面なら真面目に話せるのに普段はあんなに”あーぱー“なんだ?」

 

「ちょ!? それ今言うことなん?!」

 

「気持ちは分かるな。実はと言うと僕も少し違和感を感じていた。……この先輩、本当に盾石先輩本人かって」

 

「そうか、偽物の可能性は考えてなかったな」

 

「本人ですぅー! 間違いなく晶ちゃん本人ですぅー!!」

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃんってやっぱり空気読めないと思う。や、あたしもそれには同感なんだけど」

 

「フォローしたと見せかけて落とすんやめてよぉ!? なんなんよみんなしてぇ!?」

 

「「普段の行いが悪いせいだろ(でしょう)」」

 

「身も蓋も無ければ鍋まで残らへんこと言わんといてぇ!?」

 

 

いやだってさぁ、普段のあーぱーなおのれと、今さっきまでの円滑に話を進めてたおのれを見比べてみろよ。

 

十中八九、同一人物だって言える人物はいねぇって。

 

本人も身に覚えがありまくるのか、否定も出来ないので涙目で蹲った。

 

普段散々人を振り回してる分、たまには振り回されてほしい。

 

そう思いながら、涙目で海央に抱き着いて「うぇーん! トーカ君とジン君がいじめるー!ミオちゃんなぐさめてー!」とのたまう一応年上の先輩魔法使いに、良識枠の氷室と共にため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

____その後、他にも様々なことを取り決め、更に怪異の予兆があれば必ずCOMUで共有することにしてから、この魔法使いの集いは解散となった。

 

海央はちょことなにやら約束があるらしく一目散に寮へと帰って行った。

 

おれはおれで、散歩がてら海辺の方まで歩いて来てたのだが……、

 

 

「……で、なんの用だ? 話せることはもう全部話したと思うが」

 

「わ、気配消してたのに気付けるようになったんやな」

 

「アホか、本気で隠す気もなかっただろうが」

 

 

波打つ音だけの周囲に声を掛ければ、観念したかのように先程別れたはずの盾石が姿を現す。

 

カラオケボックスを出てからずっと後ろにいた割に半端に気配を消してたので逆に分かりやすかった。

 

なので、取り敢えずあまり人気のない所まで来たんだが。

 

 

「それで、ホントになんの用だ」

 

「いや、トーカ君の先視の魔法で視た未来、聞いた直後は【黒無】のインパクトが強くて忘れてたんやけど…………誰か死んでたんよね、その未来で。そこには結局触れてへんかったやろ?」

 

 

最悪の未来の光景、その中で水鏡湖に打ち捨てられた二人の死体。

 

……触れなければ流す気でいたが、コイツには無理だったか。

 

 

「……チッ、覚えてたか」

 

「その感じやと、わざと触れへんかったんやね。やっぱり理由あるん?」

 

「……これだけは海央の前では言いたくなかった。アイツが聞いたら、余計に気負いそうでさ」

 

「その言葉で大体予想がついたわ。…………SSRの誰かなんやな、未来で亡くなってたの」

 

 

盾石の言葉に頷く。流石に察しがいいな。

 

そうだ、香々見学園に編入した時から、その二人は近くにいた。

 

一人は無二の悪友にして親友。もう一人は、その妹でねこ好き同士の仲。

 

 

 

 

 

 

「___一登と、二乃。おれがあの先視で視たのは、本校の制服を纏ったあの二人の死体だった」

 

 

 

 

 

 

 

息を呑む音が、波の音で掻き消される。

 

けれど、予想していたのだろう。驚きは一瞬だった。

 

 

「……だから、あの二人に関して少し過保護気味やったんやね。それに時期も分かってるような感じやったんは、それが理由やな」

 

「ああ。事が起きるとしたら、あの二人が本校に上がって、あの制服を着てすぐだろう。……おれが視た死体の二人との背恰好が、もう同じなんだよ」

 

 

あの二人が成長して、あの未来で視た姿に近付く毎に、否応なしにあのクソッタレな未来も同時に近付くのが分かった。

 

 

「アイツらさ、ホントに良いヤツらなんだよ。二人揃ってお人好しで話してて楽しくてさ。……だから、絶対にあんな未来にはさせない」

 

 

なにより……“約束”したんだ。

 

あの二人を、守るって。

 

 

“あの子”と。

 

 

だから、その約束だけは絶対に果たす。

 

 




◆中華料理店・泰山
灯火のバイト先。大衆向けにアレンジされたものから本格的な激辛仕様の中華料理を出す店。

【てんちょー】と呼び親しまれてる年齢不詳の見た目完璧ロリな女性が経営。このてんちょー、どうにも働くのが嫌なのかすぐに店から脱走して自由を謳歌しようとする悪癖があるものの、料理人としての腕前は相当なものである。

香々見島七不思議の一つとして突如として現れた中華料理店として噂になったとかなんとか。真偽不明。

どこかのよくガス爆発が起きる街で親戚が同じ名前の店を構えており、この泰山はそこから暖簾分けされたとかなんとか。これも真偽不明。

実は正式採用してる料理人の誰かと出来上がってるとの噂もあるが。これもまた真偽不明。
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