D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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EPISODE 22

 

 

 

「さて、次はどういった嗜好で試してみましょうか?」

 

 

 

___香々見島から離れた海の上にて。

 

 

 

居住も兼ねた船の甲板で、その男は一人思案する。

 

 

その様子は実に楽しそうで、まるで悪戯を考える子どもの様だ。

 

 

……最も、それで引き起こされるのは、子どもの悪戯とは比較出来ないのだが。

 

 

 

「どうせなら牛鬼に負けないインパクトの強いものを……体験したことのないサプライズを差し上げたいものですが、“あの男”に頼まれたデータ取りもしなければならない……ままならないものだ」

 

 

 

では、どうしたものか。と再び思案に入るその男は、ふと船の外の水平線に視線を向ける。

 

 

遠目に映る香々見島。その向こうには更に内陸が見える。

 

 

しかし、男の視線はそちらではなく、静かに波打つ海面に向けられていた。

 

 

 

「そう言えば、ここの海域にもいましたね、“アレ”が。……ふふ、今回はこれで行きましょうか」

 

 

 

懐から取り出すのは一体の人形。

 

 

かつて、自分の命を奪わなかった魔法使いの命令により、何年も掛けて蒐めたモノを詰め込んだ一品。

 

 

表向きの活動を控えてでも創り出した“傑作“達の一つ。

 

 

常人でも分かるほど負の感情が詰め込まれたそれを、海へと落とす。

 

 

 

「今日の演目は決まりました。それでは、開幕と参りましょう!」

 

 

 

その男___“人形遣い”と呼ばれる魔法使いから、魔力が紡がれる。

 

 

黒く、淀み、濁った魔力が、先程海に落とした人形に纏わり付く。

 

 

 

「フフ、フフフ、楽しみだねぇ。あの男の息子、今日は一体どんな手品をワタシに見せてくれるのだろう」

 

 

 

見る人がいるならば、間違いなく邪悪と称する不気味な笑顔を浮かべながら、その魔法使いは更に魔力を強める。

 

 

平和な島に、また悪意が襲い掛かろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 22-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___取り敢えず、暫くは朝の日課は最低限にして、後は二手に分かれて島の見回りをしようよ」

 

「……まぁ、別に構わないが」

 

 

 

3/3(日) 晴れ時々雨の予報。朝から魔法使い達は動く。

 

 

 

いつもの日課を終え、いったん寮に帰ってから自室でこれからやることを話し合う。

 

大規模な感知は盾石に任せているが、その感知に引っかからない予兆が何かしらあるかもしれない。

 

……と、考えた海央が、学園が休みなのを利用して、それぞれ二手に分かれてから島を見回ることを提案した。

 

被害を最小限にしたいってのもあるが、じっとしてるのが性に合わないのだろう。

 

おれが言うのもアレだが、気負い過ぎても駄目なんだ。けれど、こればっかりは言葉じゃ通じないものだろう。だから、今日一日は海央に付き合って好きにさせてやることにした。

 

 

「あたしは島の北から逆時計回り!」

 

「おれは時計回りに島を見て、真南の漁港辺りで合流。そしたら人がいる町中も揃って確認だな」

 

 

見回り自体は新月や満月の夜にやっていたが、これからはほぼ毎日やるつもりの様だ。だから日課を抑えることで負担を軽減させようとしているらしい。

 

因みに手の空いてる氷室もこの見回りに誘おうとしていたが、氷室と、そして盾石は学園や寮の方を見て貰うことにした。

 

二人の魔法はトカゲ殲滅の際に見たが、おれ達みたいに打って出るより拠点防衛の方が向いてるしな。いざって時に守りがあった方が安心する。……盾石は盾石で別の役目もあるしな。

 

発生する怪異の種類によっては、一つのコミュニティを容赦なく崩壊させるようなものもあるし。知り合いの多い寮に味方がいてくれる方が心強い。

 

以前の牛鬼みたく個体として出るタイプならともかく、都市伝説のような概念としての怪異は対処が面倒臭いの一言に限るからな。不安要素は少ない方がいい。

 

 

「なら、兎にも角にも始めようか」

 

「了解っ!」

 

 

ビシッと敬礼のポーズを取ってから、自身の武具の入ったケースを手に持ち海央が部屋から出る。

 

おれも、【取替の悪戯】に使うビー玉を全身で隠し持った私服に着替えてから部屋を、そして寮を出る。

 

 

見回り開始だ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

____と、意気揚々と寮を出て見回りを始めたはいいが。

 

 

「……なんの気配も予兆もなかったね」

 

「いや、なくて良いけどな? 平和って事だし」

 

 

結局、何も異常無く見回りは終了した。

 

おれの方も海央の方もなにも異変は見当たらず、無事に島の南側にある漁港で合流できた。

 

朝早くから漁で捕れた魚やらの競りが行われてるらしく、魚を売る漁師の元気な宣伝と、新鮮な魚を求める買い手達の賑やかな雰囲気が伝わる。

 

それらを見る限り、ホントに何もなさそうだ。

 

……や、何も無いならそれでいいんだけどな。

 

 

「やっぱり気負い過ぎても駄目だろってことか」

 

「……そう、なのかな?」

 

「いつ来るか分からないからこそ、その時に全力を出すべきなんだよ。おのれはもう少し肩の力を抜いとけ」

 

「……トーカ先輩が言うと、説得力あるよね」

 

「そりゃな。……あの先視を視てから、その手の焦燥感は嫌ってほど感じたからな」

 

 

文字通り年季が違うって奴だ。

 

その焦燥感は全て戦闘技術の鍛錬と魔法の修行に向けていたからな、おれは。

 

それを理解したのか、海央は大きくため息を吐いた。

 

 

「分かってても、焦っちゃうんだよね。……その時が来たら、お父さんも戦うだろうけど、お兄ちゃんの先視の通りなら、お父さんは敗けたんじゃないかって」

 

「……確かにな」

 

 

海央からすれば気が気じゃないか。

 

 

「でも、おじさんがただで負けるとは思えないけどな、おれは。負けたとしても死にはしないだろうし」

 

「それは……確かにそうだけど。お父さん、キングコングだし」

 

「その認識は変わってねぇのかよ……」

 

 

いや、おれもおじさんはキングコングだと思ってるけどさ。寧ろ本物のキングコングにも勝ちそうで怖いんだが。

 

巨大なキングコング相手に素手で真正面から挑む人間サイズの化け物……うん、どっちがホントに怪物なのやら。何よりも恐ろしいのは、その人間サイズの化け物の方が負けるイメージが一切湧かないことことだろう。

 

おじさんに指導を受けた魔法使い共通の認識である。

 

 

「取り敢えず昼の見回りは終わったし、帰るぞ。昼飯はテキトーに外で済まそうぜ」

 

「……うんっ。あ、今日は夕飯なににするの?」

 

「3月3日って言えばひな祭り……桃の節句だからな。ちらし寿司にはまぐりのお吸い物、白酒とかか」

 

「お兄ちゃん、結構年間行事を守ってるよねー」

 

「優秀な料理の師匠のおかげだな」

 

 

言うまでもなく芳乃のばあちゃんのことである。

 

……そういや、ばあちゃんはちゃんと避難してるだろうか。

 

時期が近付いたら避難するように言ってたし、今頃は友人の魔法使いの所に行ってるはずだけど。

 

確か、師匠の妹だった人って言ってたような……いや、今はいいか。

 

 

「___あれ? トーカちゃんに海央ちゃん?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

 

ふと、聞き覚えのある声がして、そちらの方を見てみると、そこにいたのは常坂兄妹大好きお姉さんこと、ソラさんだった。

 

 

「ソラさん?」

 

「諳子ししょーだぁ!はぐー♪」

 

「はい、ぎゅー♪ 海央ちゃんはいつも元気だねー♪」

 

 

誰か分かった瞬間にソラさんに抱きつきに行く駄妹。

 

紛う事なきなつき度MAXのわんこの所業だった。尻尾をブンブン振りまくる幻視がまた見える見える。

 

ソラさんもソラさんで妹属性を存分に発揮する海央の事は可愛くて仕方ないらしい。喜々として海央のハグを受け入れている。

 

前々から妹属性の海央と姉属性のソラさんは相性良かったからな。傍から見たらじゃれ合うただの姉妹のようにしか見えないんだよなぁ。

 

 

「はいはい、落ち着け駄妹。で、ソラさんはどうしてこんな所に?」

 

「うん、買い忘れたものがあってね。いっちゃんを行かせるのもあれだから自分で来て、ついでだからお迎えに行こうかなって」

 

「お迎え?」

 

「ふふ、零次さんと十和子さん……いっちゃんと二乃ちゃんのご両親よ」

 

「! あの二人か。師匠の次男さんとその奥さん」

 

 

確か鷺澤グループで二人揃って勤務してて本社の方に努めてたとかなんとか。

 

 

「……師匠ってことは、常坂元さんの息子さん? いや、二乃にゃん先輩と一登先輩のご両親だから当たり前か」

 

「あれ? トーカちゃん、海央ちゃんに元さんに師事してたこと、話したんだ」

 

「まぁ、色々とありまして。……例の先視の事も話しました。他の二人の魔法使いにもです。詳細は省きましたが」

 

「そっか…………ねぇ、海央ちゃん」

 

「? はい?」

 

 

ソラさんは抱きしめていた海央から手を離して、肩に手を置く。

 

 

「無理はしないでね? トーカちゃんの使命は、元さんから見ても危険だって言われてたんだから」

 

「……ありがとう、諳子ししょー。でも、逃げないよ、あたし。あたしの目指すものの為にも、みんなのためにも。逃げてなんかいられないもん」

 

 

迷いなど一切ない眼差しでソラさんを見つめ、そう静かに、けれどしっかりと告げる海央。

 

……海央の目指すもの。それは、おれもかつて目指していたもの。

 

 

【正義の魔法使い】。

 

 

かつて葛木から【防人】へと受け継いだその在り方は、幼い頃のおれ達に大きな影響を与えた。

 

悪しき思惑で魔法を使う者を、同じく魔法でもって止める者。魔法の監視者とも言うべきその在り方に、まるでテレビに出てくるヒーローみたいに思って憧れていたんだ。

 

海央は、その時からずっと変わってない。あの頃のまま、真っ直ぐに理想へと向かっている。

 

……それが、少し羨ましく思えた。

 

 

「……って、物思いに更けるとかジジイかっての」

 

 

思考を中断する。いかん、ホントにジジイのような思考だった気がする。ブンブンと頭を振ってから、改めてソラさんの報へ向く。

 

 

「で、ソラさんはあの二人を迎えに行くんだろ?」

 

「っと、そうだったね。それじゃ二人とも、また学校でね。あと、今日は桃の節句だよー? 年間行事は大切に!」

 

「分かってますって。今からちらし寿司とかはまぐり買いに行くんスから……って、今更ながら思ったんですけど、あの二人ってどうやって帰ってくるんスか?」

 

「えっと、飛行機を使って、バスで帰ってくるんだったかな?」

 

「…………あの、それならこっちじゃなくて、商店街のバスターミナルに行った方が良かったんじゃ」

 

 

確か、大抵のバス利用者はそっちを利用するはず。

 

ソラさんが行く方向は漁港前のバス停だろうか? 香々見島と本島を繋ぐ出香大橋から続く一本道の先にあるアレ。

 

……そっちで待ってても良いと思うが、買い物に行くなら商店街前の方で待つのが良かったのでは? なんなら、そこでタクシーにも乗り換えれるし。

 

そんな事を考えてると、ソラさんの動きがピタッと止まり、続いてギギギ……とゆっくり視線がこっちへ向けられる。

 

その表情は羞恥に染まって真っ赤っ赤で、どこかプルプルと震えていた。

 

……察した。ど忘れしてたんだな、商店街前のバスターミナルのこと。海央も同じく察したのか、ぷるぷる震えるソラさんに近づいて、その頭を優しく撫で始める。

 

 

「う、うぅ……! わたし、お姉さんなのに、お姉さんなのにぃ……!」

 

「……あたしもドジ多い方だから分かるよ諳子ししょー。ちょっと張り切っちゃっただけなんだよね?」

 

「うぅぅぅぅーー!」

 

 

そのまま海央に抱きつく失敗お姉さん。

 

いつもとは真逆に海央がソラさんをよしよしと頭を撫でている。大変珍しい光景であった。

 

そんな一種の下剋上に苦笑しながら、どうせおれ達も商店街に行くんだし、一緒に行くかと考えた所で___

 

 

 

 

 

《PiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPi!!!》

 

 

 

 

 

TABに設定した緊急コールが鳴り響き、ソラさんが驚いて、おれと海央は顔を見合わせてから、状況を理解する。

 

 

「___トーカ先輩!」

 

「分かってる! ……盾石!」

 

 

TABを取り出して緊急コールを出した人物……感知を任せてる盾石へとスピーカーモードにして繋ぐ。

 

 

『トーカ君、【怪異】の反応や! それも複数!』

 

「あれ、アキラちゃん?」

 

 

と、ソラさんが盾石の声に反応して下の名前で呼ぶ。……あ、そうか、盾石が編入したのはソラさんのクラスだったか。

 

 

『へ? ソラネちゃん? トーカ君と一緒におったん!? あ、ちょ、こ、これはな? これはな……!?』

 

「あたしもいるよアキ姉!」

 

「話をややこしくさせんな駄妹。……盾石、ソラさんはおれの事情も魔法使いの存在も知ってる。気にせず【怪異】の場所を教えてくれ」

 

『そうなん!? ……ああもうっ、ちょっと後で説明してや! ……【怪異】の反応は纏めて漁港近くの海からや!』

 

 

ソラさんの存在に慌てる盾石を宥めつつ、【怪異】の発生場所を聞くと……いや、漁港ってここじゃねぇか!

 

 

「ちょうどその漁港にいる。方角は分かるか?」

 

『ホンマ!? ラッキーやな! 方角は……南東から真っ直ぐ……って、ちょ、早っ!? スゴイ勢いで漁港に向かっとるよ! なにこれ、ミサイル並の速度ちゃうの!?』

 

「「はぁ!?」」

 

 

ミサイル並の速度が出る【怪異】って、しかも複数? なんだそれ!?

 

慌てて海の方へ視線を向ける。

 

すると、水飛沫を上げながら、確かに複数の何かがスゴイ勢いで向かって来ていた。

 

視力を強化して向かって来るそのナニカを注視すると、水飛沫を上げる水面から出てる黒い刃みたいな物体が見え出した。

 

……いや、ちょっと待って、あれ、まさか……?!

 

 

「「……サメ!?」」

 

「…………!!?」

 

 

海央共々驚き、ソラさんの息を呑む声が聞こえると同時に、サメが漁港に向かって更に勢い良く突進を開始する。

 

このままだと漁港にいる人間が危ない…………なので、【取替の悪戯】で先日盾石に渡されていた短剣をビー玉と取り替えて鞘から抜く。

 

 

「盾石、例のアレは!?」

 

『遠隔術式は準備完了しとるで! ばっちこーい! 纏めて隔離したる!!』

 

 

その元気のいい応えを聞くと同時に、短剣を地面に刺す。

 

 

『識別確認、範囲固定、術式起動。……隔離結界、遠隔展開や!』

 

 

その短剣を起点として、盾石の隔離結界の魔法が遠隔操作で展開され始める。

 

昨日の話し合いで解散直前に盾石から渡された短剣。

 

人の目がある所で怪異が発生した際に対処するため、怪異とおれ達魔法使いだけを隔離する異空間を作り出す大魔法。それを正確に発動するためのマーキングの役割を、その短剣が担っていた。

 

人除けの結界などより非常に便利かつ強力だが、大魔法と言うだけあって盾石の負担が強く、この魔法を使えば盾石は直接的な戦闘に関与出来なくなる。

 

それでも必要不可欠な魔法ではあった。特に、銃器を使って戦うおれには。

 

 

『っ、思ったより消費キツイかもぉ!?』

 

「どれくらい持ちそうだ!?」

 

『十分弱が限界やわ! 最悪ジン君も呼んで魔力借りるけどなぁ!』

 

 

その結界魔法により作り出された擬似的な空間内___ついさっきまでいた場所を模して作られた空間には、おれと海央、サメの怪異、そして___

 

 

「あ、あれ……?」

 

「へ?」

 

「あれ?」

 

『え?』

 

 

どういう訳かソラさんまで結界内に入り込んでいた。

 

いや、ちょ、待っ、なんでさーーー!?

 

 

「おい、ソラさんまで巻き込んでんじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

『うそっ!? なんでなん?! なーんーでーなーんー?!』

 

 

どうやら盾石も想定外の事態なようだ。

 

……ああクソ、なんとなく理由が分かったけどマズイ。一切戦闘力のないソラさんが結界内に入ってるのもそうだが、相手がマズイ。

 

冷や汗を流してる内に、海からザバァ!とナニカが飛び出て来る水飛沫が聞こえた。

 

それらはおれ達の目の前まで来ると、十数匹ほどの群れで空中を浮遊……いや、空中を旋回する様に泳ぎ出す。

 

その奥には一際大きな個体が目を光らせている。

 

やはりと言うか、それらは全てサメ……つまり、サメの怪異らしい。

 

 

「……や、……やだ……!」

 

 

ふと、背後から心底恐怖に染まった声が漏れ出した。

 

 

「わ、わに……やだ、わに、こわい、こわいぃ……!?」

 

 

その声を出した人物、この結界に巻き込まれたソラさんが、顔面蒼白になって、涙を流しながら恐怖に震えパニックに陥っていた。

 

 

「え、わにって、あれサメだよね?!」

 

「くそ、海央! そのままソラさん見ててくれ! その人、和邇(わに)……サメが心底ダメなんだよ!!」

 

「え、えええ!?」

 

『わに……ってサメのことなん!?』

 

 

そうだよ、サメのことだよ。

 

大昔の日本じゃサメの事を和邇(わに)って呼んでたんだ。

 

じゃ、なんでソラさんがサメの事を和邇って呼び、それを苦手としているのかと言うと、それは彼女の諸事情に触れることになるので、今は省く。

 

兎にも角にも、状況を整理してから怪異の対処だ。

 

 

「盾石、海央とソラさんだけでも結界外に出せるか?」

 

『ごめん、術式の構築段階で余裕がなかったから、細かい操作は今は難しいんやわ……!』

 

「そうなると……海央、そのままソラさんの護衛に回ってくれ。おれがあのクソザメ共をブッ潰す」

 

「……それしかないね。気を付けてお兄ちゃん!」

 

 

ソラさんは未だに和邇……サメに恐怖してて動けない。守りが必要だ。

 

海央だけでも大丈夫だろうが、念の為に【取替の悪戯】で合金製の大盾を出しておく。大の大人でもカバー出来る大きさの防御用兵装だ。

 

 

「使え、耐久性には自信がある大盾だ」

 

「ありがと!」

 

 

それなりの質量を持つ大盾を片手で軽々と扱う妹分。……身体強化使って無くてもコレだもんな。

 

その頼もしさに苦笑しながら、律儀に待ってくれていたサメ共に視線を移す。

 

……わざわざ隙を見せてたのに乗らなかった辺り、人の意志も関与してるな。

 

なによりサメ共からの視線には、牛鬼と戦った時と同じ、酷く不快な念を感じる。

 

やっぱり、これを仕組んだのは“人形遣い”だろうか。

 

 

 

 

『『『___■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!』』』

 

 

 

 

海洋生物の癖して、人類には理解できそうもない不気味な雄叫びを上げる化け物共に、愛銃の銃口を突き付ける。

 

既に意識は切り替わっている。あとは大暴れするだけだ。

 

 

「来いよクソザメ共、その立派なヒレをフカヒレにしてやる!! つか、ソラさんを怖がらせてんじゃねぇよゴミカスがぁ!!」

 

 

まがりなりにも怪異であるのでフカヒレとして使えるかは微妙だが。

 

なんであれ敵である事に違いはない。

 

早速愛銃の引き金を引いてドパァン!と最早慣れ親しんだ357マグナム弾を奴らの内の一匹に叩き込む。

 

マグナムが着弾したその一匹は大きく仰け反り、弾が直撃した箇所を中心に抉れるような傷跡を作り出すが、次の瞬間には逆再生する様に元に戻る。

 

 

「再生した!?」

 

「……“牛鬼”と同じだ。なら___」

 

 

愛銃(シリウス)をショットガン__モスバーグ590に取り替えてから、牛鬼に有効だった岩塩弾を装填。

 

奇声を上げながら向かって来る一匹に狙いを定めて、至近距離で引き金を引いて吹っ飛ばす。

 

直撃した岩塩弾はサメを確かに貫き……いや、貫いてない!?

 

 

『■■■■■■____ッッッ!!!』

 

「……チッ!」

 

 

返す刃で噛み付こうとして来たサメの怪異に、横っ面から身体強化で威力を上げた回し蹴りをお見舞いする。

 

直撃と同時に鈍い音が響いて、サメが吹き飛ぶも、回し蹴りに使った足に痛みが走る。

 

見てみると服が破れ、足から血が出ており、少なからず負傷しているのが分かった。

 

 

「トーカ先輩!?」

 

「傷は浅い、そっちは守りに集中しろ!」

 

 

慌てる海央を叱る。ソラさんに何かあれば、あの二人に合わせる顔がないからな。

 

幸い、足の痛みは無視できる範疇だ。傷ついた理由は鮫肌……楯鱗か、コレは?

 

真皮から突出した象牙質にエナメル質が覆うと言う、歯の構造にも似たサメやエイ類に見られる鱗の一種。身を守るだけでなく水中での移動において推進効率を高めているものだ。

 

……なるほど、さっき岩塩弾が効かなかったのはこれのせいか。基本的に非致死の散弾だからな、純粋に威力が足らなかったんだろう。

 

いや、多分それだけじゃないな。元がサメだって言うなら、海から生まれる塩にも耐性があるかもしれない。

 

牛鬼と同じ戦法は通じないと見ていいだろう。

 

 

「さて、どうする……?」

 

 

余裕を見せて旋回して空中を泳ぐクソザメ共を睨みながら、対処方法を考える。

 

……手札を切る、しかないな。海央と交代するのも手だけど、その場合、海央の手札が人形遣いに露見する。選択肢がまだ多い自分の方が適しているだろう。

 

なにより迷ってる暇もない。確認出来た分は隔離結界に閉じ込めたけど、盾石の魔力が尽きるまでに倒さないとコイツらが外に放り出される。そうしたら間違いなくこのサメ共は人々を襲うだろう。

 

それは絶対に許す訳には行かない。

 

 

「……上等だ」

 

 

モスバーグ590を元の愛銃と取り替えて、悠々と空を泳ぐサメ共に銃口を向ける。

 

そんなに見たいってなら、見せてやるよ。

 

 

「シリウス、制限解除(セーフティオフ)魔力収束機能(マナチャージシステム)開放(オープン)……!」

 

 

右手から魔力を愛銃(シリウス)に流し込み、その機能を開放させる。

 

同時に愛銃(シリウス)の特徴であるバレルに刻まれた、狼の橫顏を模した刻印に魔力の光が宿った。

 

 

「チャージ1……ショット!」

 

 

その状態のまま、狙いを付けて引き金を引く。

 

ドパァン!と放たれる357マグナム弾は、標的であるサメの一匹に直撃して、その楯鱗ごと身体を貫く。

 

先程よりも大きな傷跡を作り出し、地面に叩き落とす。

 

……いや、落ちる前に、そのままそのサメが元のマナへと還っていく。

 

 

「弾丸に……魔力を纏わせたの!?」

 

「おれが普段から愛用してる武器だぞ。ただの頑丈なだけの化け物銃だと思ったか?」

 

 

魔力の収束(チャージ)及び、弾丸に纏わせての放出。それが【シリウス】の魔具としての機能だ。

 

357マグナム弾は確かに強力だけど、前回の牛鬼や今回のクソザメ共みたいに物理が効かずに魔力をぶつけないと行けない相手には効果が薄いからな。

 

牛鬼の時は使わずに済んだが、ここで使わせてもらう。

 

チャージ1の段階は通常の弾丸に魔力を纏わせて威力を上げる事が出来、連射も可能。

 

なので、更に二匹、三匹、四匹と撃ち抜いてから弾丸をリロードして、残りのサメ共に銃口を向ける。

 

仲間達が落とされた事でようやくコチラを脅威と判断したのか、さっきまでのような単独での突撃ではなく、数匹単位で襲い掛かかろうとしていた。

 

向かってくるのは5匹。射程範囲内。

 

ドパァンッ!!!!!と、横向きに銃を振るいながら引き金を一瞬の内に連続で引き、その5匹全ての脳天に魔力を纏わせた弾丸を同時に叩き込む。

 

 

 

____早撃ち・五連(クインティプル·クイックドロウ)

 

 

 

限界の一歩手前の、魔力を纏う連続早撃ちで仕留める。

 

 

「ご、5連続の同時早撃ち……?」

 

 

海央の驚愕の声を背に受けながらシリウスへ送る魔力を更に一段階強め、装填してる六発目の弾丸の照準を合わせる。

 

狙いは群れの中でも一際大きなサメ。

 

その狙いを察してか、残っていた小型のサメが大型の前へと集まって壁となる。……が、何匹集まろうと関係ない。

 

 

「チャージ2……ストライクショット!」

 

 

引き金を引くと同時に放たれる魔弾。その反動を腕を使って上手く軽減させる。

 

チャージ2、ストライクショットの特徴は貫通力強化。それは、もはや銃撃と言うよりレーザーと呼ぶべきだろう。

 

真っ直ぐ飛ぶ魔弾は壁となった小型サメを容易く貫き、その奥にいた大型のサメの右目すらも穿つ。

 

 

 

『■■■■■■■■■■!?!?』

 

 

不意に右目を貫かれたせいか不快な声で叫ぶ大型のサメ。相変わらずどこから声を出してるのか分からない知りたくもないが、どうやら痛みはあるらしい。

 

兎にも角にも、さっきのチャージ2で取り巻き共は仕留めた。

 

薬莢を排出してからスピードローダーで弾丸をリロードし、更にもう一段階魔力を愛銃に込める。

 

次で確実に仕留める。

 

 

 

___クソザメの結末は、もう視えた。

 

 

 

「チャージ……3」

 

 

愛銃を握る右手に左手を添えて照準を定めてから引き金を引く。

 

ドッッ!!! と、もはや銃撃音ですらない轟音と共に、マグナム弾を核として魔力で肥大化した魔弾が放たれる。

 

 

「バスターショット!!!」

 

 

チャージ3、バスターショット。チャージ2を更に強化し高出力の魔弾を放てる段階。

 

速度も、威力も、元のマグナム弾での射撃を遥かに超えるその魔弾により、直撃した大型サメの胴体が抉れる様に消し飛ぶ。

 

消し飛ぶ瞬間、例の不気味な人形が核になってたのを確認したが、その核も魔弾によってすぐに消し飛ぶ。

 

怪異としての核を失った事で残った身体が、先に倒した小型サメに続いてマナへと還り始める。

 

それから暫く気配を探るも、なにも感じない。あの嫌な視線もだ。

 

 

「……盾石、サメの怪異は討伐した。そっちの反応はどうだ?」

 

『怪異の反応、こっちも消滅を確認したわ。戦闘終了でええと思う』

 

「了解した」

 

 

念の為に、TABに繋げっぱなしだった盾石にも尋ねれば間違いなさそうだったので、切り替えていた意識を元に戻す。

 

すると遅れて虚脱感が身体を襲い、一瞬だけクラっと意識が飛びそうになった。

 

……どうやら魔力を一気に使い過ぎたらしい。シリウスの魔力収束機能は強力な分、消費も激しいからな。

 

消費した分はすぐにマナを取り込んで魔力に変換出来るとは言え、そもそも魔力の最大値が低いせいで加減を誤ると一気に倒れそうになる。

 

今回はチャージ1の状態での連射、チャージ2とチャージ3を魔力の補充なしに立て続けに使ったせいで、思った以上に魔力を消費したのだろう。

 

 

「ちょ、お兄ちゃん大丈夫!?」

 

 

周囲のマナを取り込んで魔力へと変換し始めた所で、海央が血相を変えて走ってくる。

 

 

「あー、問題ねぇよ。魔力を一気に使い過ぎただけだ」

 

「……あれだけ密度の濃い魔力の塊を一気に放出したら、そうなるよ。お兄ちゃん、魔力そのものは少ないんだから」

 

「まぁな。マナから魔力への変換を挟めば問題ないんだが……」

 

 

言ってる間にも魔力の補充を終えて、愛銃を元のビー玉と取り替える。

 

 

「それより、ソラさんの方は大丈夫なのか?」

 

「う、うん。その、心底サメが怖かったみたいでまだ震えてるけど」

 

 

海央の言う通り、おれが出した大盾の影に隠れてるソラさんはまだプルプルと震えていた。

 

 

「あ、ホントだ。おーい、ソラさーん。サメはもういなくなったっすよー」

 

「……え、ほ、ほんと? わに、もういない……?」

 

「……あれ?」

 

「ん?」

 

『え、なに、どないしたん二人共?』

 

 

ふと、盾に隠れているだろうソラさんの声になにか違和感を感じた。

 

海央も同じ違和感を感じたのだろう。おれと同じ様に首を傾げている。

 

なんというか、何時もより舌足らずっぽい?

 

 

「うぅ、ごめんね、とーかちゃんと、みおちゃんのじゃまになっちゃって……」

 

 

その盾からひょっこりと顔を出すソラさん……なのだが、なんというか顔つきも幼い。

 

と言うか、なんか身体が小さくなってる。

 

ついでに言うなら、なんかウサ耳まで頭に生えてる。

 

ピョコっと伸びたウサ耳が背丈の小さくなったソラさんに妙にジャストマッチ………………ちょおおおお!? ま、ままま待て! なんで“耳”出してんのソラさんんんん!?

 

___しまっ、隣にはまだ海央がいるのに!?

 

 

「そ、そそそそそ諳子ししょーが、ウサ耳ロリっ子になったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」

 

『なにそれどういうことなん?! 何事なん!?』

 

「え? ……あ、ちょ、なんで!? なんでちいさくなって……みみまででてるのー!?」

 

『いや、ホントに何がおきてるん?! ちょ、もうそろそろ結界の維持も限界なんやけど!? 状況!状況の説明ぷりーず!』

 

「だから!諳子ししょーが小さくなって!ウサ耳も生えてて!萌え袖で!めちゃくちゃ可愛くなってます! 超キュートです!すごく抱きしめたいです!現場からは以上です!!」

 

『欲望だだ漏れしとるし現場はもっと言うことあると思うでミオちゃーーーんっ!?』

 

「……どうすんだ、これ……?」

 

 

混沌を極め始めた現場にて、思わず天を仰ぐ。

 

それなりに頭の回転は早い方だと自負してるが、この状況を今すぐ解決する方法はどうにも思いつかなかった。

 

おかしい。どう考えても怪異の討伐の方がしんどい筈なのに、今から起きるだろう諸々の説明とかの方が面倒臭く感じるのはどうしてなんだろう?

 

ため息を吐く。

 

取り敢えず、そろそろ小さくなったソラさんに思いっきりハグしそうな駄妹の暴走を抑える所から始めるとしよう。

 

時刻はまだ昼時前。

 

今日もまた、長い一日になりそうなのであった。




魔力収束機能(マナチャージシステム)
灯火の愛銃・シリウスの魔具としての機能。師の助言から付けた機能として、銃身に魔力を込めることで、その魔力に応じて威力を増す《チャージショット》が使える。通常は1から5段階までチャージ可能。

チャージ1 ショット。純粋な威力強化。素の弾丸に魔力を纏わせただけであり早撃ちが可能。サメの怪異との戦いにて使用。

チャージ2 ストライクショット。 貫通力強化。

チャージ3 バスターショット。貫通力に加えて弾速と攻撃範囲が強化。

チャージ4 ???

チャージ5 ???

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