D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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EPISODE 23

 

 

「え、えーと、どうしよっか、とーかちゃん?」

 

「そこでおれに振るのは中々のキラーパスっすよぉ……」

 

 

 

____現在地、漁港……から少し離れたバス停にて。

 

 

 

取り敢えず荒ぶる海央は物理(ゲンコツ)で鎮めて、盾石に隔離結界を解いてもらい、元々ソラさんの目的地だったバス停でまずは一息つくことに。

 

おれも右脚を負傷していたので、ベンチで腰を下ろしてその応急処置をしてから、隣に座ったソラさんから冒頭のキラーパスが投げられたとの訳である。

 

 

『や、やばぁ……ちっこいソラネちゃんが、めちゃくちゃ可愛いんやけど……!え、なにこれ永久保存しよっと』

 

「だよねだよね! 超キュートだよね! ロリっ子な見た目も小さくなった事で萌え袖になった服もウサ耳もーー!」

 

「落ち着けやアホども」

 

 

TABのテレビ通話で話してる盾石はともかくとして、海央はもう一度物理(ゲンコツ)で鎮めるべきか。

 

いやもう気にしても仕方ない。取り敢えず事情説明……の前に。

 

 

「まずソラさん、身体は元に戻せれます?」

 

「それが、だめそうなの。ちからを、つかいすぎちゃったみたいで」

 

 

元々のソラさんに合わせてた服が小さくなった事で袖も完全に合わなくなり、パタパタとサイズ違いのそれを揺らす。

 

「う、かわいい……!」『普段のお姉さんぜんとした姿とのギャップ萌えとか反則やろ……!』とか、後ろが大変やかましい。

 

気持ちは分かるが今はそれどころじゃない。空気を読め空気を。

 

 

「なら、耳の方は? どっちかと言うとこれが一番マズイですし」

 

「ちょっとまってね……んー……んっ!」

 

 

ぽんっ☆と、どこか間抜けな音と共にちっちゃなソラさんの頭からウサ耳が消える。

 

……良かった、耳を消せるなら師匠の魔法や例の“神代の祝福と呪い”が崩れたって訳じゃなさそうだな。

 

単純にサメに怖がり過ぎて、弾みで耳も出て体も小さくしたら、元に戻る力がなくなったんだろうな。

 

 

「あー!? ウサ耳消しちゃったの!?」

 

『ちょ、写真撮ってなかったのにー!?』

 

「そろそろ本気で怒るぞコラ」

 

 

いい加減に目に余り始めたので、圧と怒気を開放すると「『ふぁい……」』とようやく大人しくなるアホ二人にため息を吐く。

 

 

「……ソラさん、この二人には色々と話すけど、良いかな?」

 

「うん、だいじょうぶ。もとはといえば、わたしが“わに”にこわがりすぎちゃったせいだもんね」

 

 

まぁ、いきなり年上の先輩がウサ耳生やした上にロリっ子になるなんて状況になれば、説明せざるを得ないか。

 

不幸中の幸いなのは、この二人が不可思議な状況にも理解のある魔法使いだって事だろう。

 

 

「猫又って知ってるか? 長いこと歳を取ったねこが力を持った奴」

 

「? うん、それは知ってるけど……」

 

「短的に説明するとソラさんはな、その猫又のウサギバージョンなんだよ」

 

「あ、あはは、そのとおりです……」

 

 

沈黙。

 

 

沈黙。

 

 

沈黙。

 

 

盛大に間を空けてから海央と盾石が画面越しに顔を見合わせて、それからタイミングを見計らったかのように爆発した。

 

 

 

 

「『…………………………え、ぇええぇええぇええええええええええええええええええっっっっっっっっ!?!?!?」』

 

 

 

 

思わず耳を塞ぐおれ。

 

苦笑するちっちゃなソラさん。

 

某海賊漫画の見開き1ページ丸々使った顔のような見事な驚きっぷりを見せる魔法使い二人。

 

……取り敢えず、漁港からも離れた人気のない静かな所で良かったなと。キーンとする耳を抑えながら思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 23-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……かつて“神”と呼ばれる者達がいた時代、大国主とその兄神が争っていた頃、大国主に味方した一匹の白兎がいた。

 

 

白兎は大国主の為に力を尽くしたが、それをよく思わなかった兄神により呪いをかけられてしまう。

 

 

人間の中ではウサギに、ウサギの中では人間になる変身、不老、そして真実を語れない三つの呪い。

 

 

それを不憫に思った大国主から“祝い”を授かるも、それは『ウサ耳の生えた人間』として生きられる様になるだけで、“彼女”はウサギの間にも人の間にも入れなくなってしまう。

 

 

___それから長い月日が流れて、ある魔法使いが彼女と出会った。

 

その魔法使いに人として扱われたこと、そして大国主の祝いを本人曰くアップデートされたことにより魔法使いの家族として過ごすことになる。

 

 

神代から生きる白兎。

 

それが、常坂兄妹の身内にして姉。

 

料理上手だけど機械音痴なのほほんお姉さんの正体。

 

流石の【防人】の魔法使いでも、ソラさんの正体には驚愕だったのだろう。

 

ただ、ひとしきり驚いたあとはいつも通りになっていたが。

 

 

「ウサギさんでも諳子ししょーは諳子ししょーだもん」

 

 

寂しい思いを長年抱えていたことを知ったからか、ちっちゃくなったソラさんをぎゅーっと抱き締めながら海央は語り、

 

 

『驚いたけど、ウチの友達やってのは変わらんしなぁ』

 

 

と、TABの画面越しにウンウンと頷く盾石。

 

思わずキョトンとするソラさん。まぁ人外だと告白してるのに対して反応変わってないのだから、そりゃ虚を突かれるか。

 

とはいえ、この二人は【防人】の魔法使いだし、常識外の事実が出てもすぐに順応出来るだろうしな。まぁ取り越し苦労って奴だ。

 

 

「取り敢えず、ソラさんに関してはそんな所だな。……おれがそれを知ってるのは、万が一ソラさんに掛けられた魔法や呪いのバランスが崩れた時に、それを調整するためだ」

 

『なるほどなあ。あ、それでソラネちゃんはウチの結界に巻き込まれたんやな。隔離結界に取り込む様に設定してたのは、魔法使いや怪異達みたく魔力を身に纏っているかにしてたからやねん』

 

「間違いないだろうな。……ソラさんは魔法使いじゃないが魔法を掛けられてる状態だ。それに反応しちまったんだろう」

 

『となると、別個で識別見直しとこか。また巻き込んでもうたらアカンもんな』

 

「手間を掛けさせるが、頼む」

 

『友達のためやもん、任せときー。それじゃあいったん通話切るわな、また何かあったら連絡入れるからねー』

 

 

それから宣言通りに通話が切れる。

 

なんだかんだ言って盾石と言う奴は騒がしいし、あーぱーだが、頼りになる女である。

 

今度からは少し優しくしよう。そう考えながらも、さて……と、小さくなったソラさんに視線を向ける。

 

現在のソラさんは服の丈が完全に合わなくなった事で、上着だけの状態だ。大人の服を着て遊んでる子供感たっぷりで大変微笑ましく見えそうだが、割とかなりの緊急事態である。

 

サイズの合わなくなった下の方の着衣とか下着とか靴は、おれが目を逸らしてる間に海央が集めて、おれが取り出したカバンの中に突っ込んでいる。

 

ホント、【取替の悪戯(チェンジリング)】様々である。

 

 

「お兄ちゃんの【取替の悪戯(チェンジリング)】、やっぱり便利だよねー。あたしも習得してみようかな?」

 

「超精密な魔力のコントロールが必要不可欠だけどな。失敗したら取り替えようとしたモノは消えちまうし、今の海央じゃあんまりオススメは出来ねぇな」

 

「うっ、魔力のコントロール、あたしまだ大雑把だもんね……」

 

 

海央はおれと真逆で魔力の制御力はまだまだ雑。

 

だけど、魔力量はおれとは比べ物にならない。おれの魔力量が10だとしたら、海央は100くらいか?

 

潜在能力で言えば今この香々見島にいる魔法使いの血脈の中でもトップクラスだ。

 

……まぁ、そのせいで本来なら魔力(マナ)のコントロールに長けた体質を持つ咲三の一族でありながら、そのコントロールが難しくなってるらしいんだが。

 

極めて高い魔力の操作技術で成り立つはずの魔力の放出を使った咲三式の体術を力任せでぶっ放せる辺りがな。まぁ、ここら辺はおじさんからの遺伝らしいが。

 

海央がおれと違って戦闘に【先視の魔法(さきみのまほう)】を活かせないのはその辺りが関係している。と言うか、危なかっしいからな。魔力の制御を完璧にモノにするまでは、まだまだ時間が掛かりそうだ。

 

……と、脱線したか。取り敢えず今はソラさんの事だよ。

 

 

「そもそもソラさん、二乃の両親を迎えに来たんだろ? 何時来るんだ?」

 

「あ、そうだった!」

 

 

靴もサイズが合わなくなったのでおれが出したスリッパを履いてるソラさんが海央の腕の中から離れると、時刻表とTABの時計を交互に確認する。

 

 

「……もう、とおりすぎちゃってるぅ……」

 

「結界の中にいる内に行っちまったか」

 

 

タイミングが良かったのか悪かったのか、下手したらあの二人も結界内に取り込んでたかも知れない事を考えるとセーフと判断すべきなんだろうが。

 

そんなソラさんはTABでCOMUの画面を呼び出してから、何やらポチポチと文字を打ち始めた。

 

どうやらあの二人と連絡を取ってるらしい。一度メッセージ打ち込んでから暫く待っていると、返信が来た様だ。

 

 

「やっぱり、いれちがいみたい。れいじくんたち、もう、しょうてんがいのバスていまできてるって」

 

「____なら、今から走って行けば合流出来そうだね」

 

 

その海央の発言に、え?とソラさん共々呟くと、海央がおもむろにソラさんを背に背負う。

 

ちょ、おのれなにをするつもりだ……?

 

 

「巻き込んじゃったのはあたし達のせいだもん。ここは一つ、本気で走ってその二人の所まで連れてくよ! 諳子ししょー!しっかり掴まってて!」

 

 

そう言ってクラウチングスタートの体勢を取る駄妹。え? え?? と状況を把握出来ないでいるソラさん。

 

おい、まて、この駄妹、まさか……!

 

 

「ビックバーン……ダーーーッシュ!!」

 

「え、えぇえええええええええええええ!?」

 

 

止める間もなく、ドッ!!!!!と、とんでもない勢いでロケットスタートを決める駄妹。間違いなく身体強化の魔法を使ってやがる。

 

背負われたソラさんが状況を理解して悲鳴を上げるが時すでに遅し。駄妹改めアホはもう車より早いスピードで駆け出していた。

 

思わずぽかーんとバカみたいに口を開けて、走る駄妹を見送りかけて、ハッと我に返る。

 

 

「……あ、あのアホぉ! 説明とかどうするつもりだ!? つかテメェ、零次さんと十和子さんの顔知らねぇだろうが! あと、ビックバンダッシュってなんだビックバンダッシュって!?」

 

 

慌てて自分も身体強化をかけて追い掛ける。

 

が、先程も言ったがおれと海央は魔力に差がある。

 

遅れを取った状態からアイツを追いかけるとなると、凄まじく骨が折れるだろう。

 

ため息を吐く。どうやら今日は厄日らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…………つまり、あの男は未羽の豊満なボディをしっかり抱き止めて堪能していた、と」

 

「ひよりちゃん、その言い方だと芳乃先輩が変態さんになっちゃうよぉ……」

 

 

 

___商店街、和風喫茶【月見団子】にて。

 

 

 

普段は追い追われる関係なボクと未羽だけど、それを除けば趣味も共通してるのがあるし、なにより幼馴染なのでそもそも仲は良い。

 

休日と言うこともあって月見団子に一緒にやって来たボク達は、窓際の席に陣取り甘味に舌鼓を打ちながらこの前買った乙女ゲーの感想をネタに話をしたあと、ようやく本命の話題に移る。

 

それは恋愛請負人としての話にもなるので、未羽に気付かれない様に気をつけながら。

 

話題に上げたのは、あの男……芳乃のこと。

 

二日前の金曜日にボクが原因とは言え、盛大にくっつかせてしまったので、その時の事を今は聞いていた。

 

まぁなんと言いますか、普段ボクの無茶振りに付き合わせてるだけあって、しっかりとフォローしてますね。ポイント高いですよ、ナイスです芳乃。

 

 

「それで? 優しく抱きとめられた未羽はトキめいちゃったと?」

 

「も、もう、だから、そんなんじゃないってば……!」

 

 

その時の事を思い出したのか顔を朱く染めて分かりやすく恥ずかしがる幼馴染。

 

うん、贔屓目で見なくても、やっぱり未羽は可愛いなぁ。

 

 

「あれは、ただ、ちょっとビックリしちゃっただけで、男の人に抱きとめられたのなんて、初めてだったから……。見た目以上に力強かったし……」

 

「それについては同感。パッと見は常坂兄とほぼ同じ体型なのにどうなってるんだろうね?」

 

 

そもそも普通に考えて、落下してくる人をしっかりキャッチして、怪我もしないようにするなんて、なにをどうしたら出来るのか。3階から飛び降りても平気だって実績もあるし。

 

あのデタラメな身体能力に関しては杉並と同じで触れたら駄目な類もするけど、ホントにどんな鍛え方をしていたのやら。

 

 

「でも、そこで恐怖感とかは感じなかったんでしょ?」

 

「う、うん。ただ、すごく恥ずかしくて……その、ドキドキしちゃって……」

 

「それはやっぱりトキめいたんじゃないかな? と言うか乙女ゲーでよくある【ドキッ☆ 不意の接近!?】系のイベントみたいな感じとかじゃない?」

 

「ち、違うよぉ、もう、やだなひよりちゃんってば……!」

 

 

……ふむ、口ではこう言ってますけど嫌ではないのは確かですね。ホントに嫌だったら、未羽は怖がるなりしますし。

 

これなら、脈はありそうですよね?

 

ボクの見立てなら、なんだかんだで相性も悪くなさそうだし。

 

 

「……そう言う芳乃先輩関連のイベントとかは、私より、ひよりちゃんの方がやってそうな気がするんだけど」

 

「……ボク? ふふ、残念、不正解だよ未羽。流石に芳乃はボク相手にそんなイベントなんて____」

 

 

 

___ない。

 

 

 

と、言い切ろうとした所で、その芳乃との今までの絡みを思い返し始めた。

 

……思い返し、始めてしまった。とも言う。

 

そもそも、芳乃と今ほど話すようになった切欠は、あの時、階段から落ちかけたボクを庇ってくれた事からでしたね……はい、いきなり1アウト。

 

出鼻から挫かれて思わず息が止まりそうになる。……落ち着こう、慌てるにはまだ早い。

 

ゴリラ呼びし始めたのだって、その件が最初だ。ぱっと見は常坂兄とほぼ同じ体格なのに妙にがっしりしてて、抱き抱えられた時に思わず照れ隠しでゴリラ呼びしたら、なんだか面白く返してきたせいで今では半ば癖で呼んでしまってるし。

 

その後、助けてくれた御礼でこの月見団子で奢るついでに雑談してたら、キャパオーバーになりかけてたボクに人を頼ったらどうだ?って言ってくれたし。

 

あと、さっきも言った様に風紀委員に追い詰められて窓から跳んだボクを難なくキャッチ……それもお姫様だっこ。

 

よくよく考えたらボクの無茶振りに応える度にお姫様だっこしてたような? これだけで2アウトどころか既にゲームセットしてる気がする。

 

 

「(……あ、れ?)」

 

 

ふと、冷や汗が流れ出す。いや、まだだ。まだ慌てる時間じゃない、はず。

 

で、レジェンドバトルパーティの準備をみんながする中でも鷺澤と常坂兄を近付かせるとはいえ、基本的にはボクを手伝ってくれましたし。

 

最後のカップル成立の見守りをする時だって一緒に付き合ってくれ……まって?

 

 

「(……あ、あれ……?)」

 

「ひよりちゃん、どうしたの?」

 

 

そう言えば、あの時、とんでもない事してしまったような。背中から流れる冷や汗がより強くなった気がする。

 

自覚しては駄目だと思いつつも記憶は勝手にあの時の事を思い返していく。

 

そうだ。あの時、出歯亀……ではなく見守っていたことが別の女子にバレそうになって、ボク達どうしたんだっけ?

 

確か、たまたま死角にあった掃除ロッカーを見つけて、芳乃を押し込んでボクもそれに入って……入って……入って……!

 

 

 

…………なんで、一緒に入っちゃったのかなぁ!?

 

 

 

「な、なななな、なにしてんですか、あの時のボクぅ!?」

 

「ひよりちゃん!?」

 

 

思わず衝動のままに目の前の机に頭をゴンッと落とす。そのあまりの奇行に未羽がビクッと驚く。ごめん未羽、今ちょっとそっち気にしてられない。

 

と言うか、もう恋パも終わって結構立つのに、なんで今更理解しちゃうかなぁ!

 

改めて思い出すとこれは駄目だよね。閉鎖空間での密着って、これもう駄目だよね!? 過去最高レベルに密着してましたよね?!

 

どれだけ出歯亀……じゃなくて見守りに夢中になってたのかなボク!?

 

そうですよ、普通に考えたら芳乃だって男の子なんですよね!

 

それを閉鎖空間に押し込んで密着って……もうアウトだよね!よくよく考えたら、なんだか芳乃の顔が赤かったなって後で思ってたけどそりゃ赤くなるよねえ!?

 

なんかあの後やけに疲れてる気がしてたけど、色々と耐えてたんだろうね! 逆にスゴイ精神力だよ!メンタル鋼で出来てるのかな、あの男!?

 

 

「……なんだかよく分からないけど、覚えがあったんだね」

 

 

未羽がどこか微笑ましいものを見る目でボクを見てくる。

 

……ふ、不覚。まさかボクが自爆するなんて、うぐぐぐ……。おのれ芳乃めぇ……!八つ当たりですけど恨みますよ……!

 

と言うか、いけない。このままだと当初の目的が果たせないどころか違う、明後日の方向に行きかねない気がする。

 

 

「そう言えば、前にありすちゃんが『この前ひよりんがね、芳乃君にお姫様だっこされてたんだけど、なんかしょっちゅうやってるって言ってて、みうたんは何か聞いてない?』ってCOMUで言ってたんだけど。確かにお姫様だっこはしょっちゅうしてたよね?」

 

「鷺澤ぁ!?」

 

 

なんとか話を元に戻さないと……そう思った所で、もう一人の幼馴染が仕掛けていた爆弾に盛大に引っかかる。

 

そうだよね! 未羽から逃げるボクを受け止める為にしてたよね、お姫様だっこ! 感覚麻痺してたけど、よくよく考えたらしょっちゅうお姫様だっこされてたね!?

 

いや、まって。少し落ち着こう。

 

ボクはほら、基本的には残念美人だし。トラブルメーカーですし。鷺澤や未羽と比べたら流石に芳乃もなんでも思わな____

 

 

 

 

 

 

 

『そうかぁ? 白河だって有里栖や二乃や逢見先輩にも負けないくらい、かわいいだろ』

 

 

 

 

 

 

___だからっ、なんで! 今それを思い出しちゃうのかなぁ!?

 

いや言ってましたけど! 確かにあの男言ってましたけど! 去年のクリスマス前にそんな事!! しかもシラフでぇ!

 

根っこの性格が素直なので、あの時言った言葉にはなにも含みが無いってことは分かりますけど! 過去の発言で追い込んで来るとか、なんなんですかあのタラシゴリラは!? 未来でも視えてるんですかね!?

 

……いけない、これはホントにいけない。思考が逸れまくっている。

 

落ち着け、白河ひより。今回はあくまで未羽が芳乃の事をどう思ってるか探りに来たんだから。

 

ボクと芳乃にあった事は今は関係ないんだ。

 

……うん、取り敢えず未羽が芳乃のことをそれなりに意識し始めてるのは分かった。あとは切欠を作っていく所から始めようか。

 

基本的には紳士と言うか優しいし、あの男。出来る限り一緒にいさせるだけでも細かい気遣いとかで未羽の好感度は稼げるだろうし。

 

 

「と、取り敢えず芳乃の話は置いときましょうか」

 

「ひよりちゃんから吹っ掛けたんでしょ……? ホントに芳乃先輩と仲がいいよね」

 

「いや、それは……確かに……そうなんだけど……」

 

 

それは間ぎれもない事実だった。

 

元々は近くの席にいる面白おかしな男子の一人だったのに、クリスマスでの一件から距離は確かに近付いたんだから。

 

でもそれは芳乃だけじゃなくて、他の男子……あ、杉並は除くとして、常坂兄や叶方にも言えることだ。

 

ただ、その中で一番一緒に行動する時間が多かったのも確かだ。芳乃の人となりも知れたし、基本的に底無しの善人だって事も分かった。

 

……だからこそ、そんな彼に誰とも“縁”がないなんて、あまりにもあんまり過ぎると思ったから、ボクは恋愛請負人として動こうと決めたんだ。

 

 

「でも、いくらなんでもゴリラ扱いは酷いと思うなぁ」

 

「いやいや、未羽だって見たでしょ? 悪漢をすぐさま鎮圧出来る腕力とか、落ちてきたボクを軽々と受け止める所とか」

 

「……実際に目の当たりにしてるから分かるけど、普通に言ったら絶対に信じられないことしてるよね……。あ、それは海央さんもかな」

 

「海央ちゃん? なんかやらかしてたっけ」

 

「……レジェンドバトルの時の説明会で、マネキンを踵落としで真っ二つにしてたの」

 

 

……あー、うん。あれ、叶方の冗談かと思ってたらマジでしたか……。いやほんと、どんな鍛え方をしてるのか、あの兄妹は。

 

思わず遠い目をしていると、ふと店の外が少し騒がしくなってるのを感じた。

 

 

「____みおちゃん、はやいっ!? ちょっとはやすぎるよぉお! と、とまってぇえええええええぇぇぇぇーぇ…………!」

 

 

と、何故かどこかで聞いたような、それでいて少し違うような悲鳴が聞こえたと思ったら、ドップラー効果と共に遠ざかっていく。

 

一瞬だけ見えたけど、ちょうど今話題になってた海央ちゃんだったような……?

 

 

「ひ、ひよりちゃん、今のって」

 

「海央ちゃん、かな? すごく早くて分からなかったけど」

 

 

ホントにホントに、あの小さな体の中にどれだけ無尽蔵のパワーを秘めてるのだろう。あれ、下手したら人轢かないかな?

 

と言うか、あれだけ急いでるなんて、何かあったのだろうか。

 

 

「あ、今度は芳乃先輩だ」

 

「え?」

 

 

今度は先ほどから話題にしてた本人が走ってきていた。

 

海央ちゃんとお出かけでもしてたんだろうか?

 

なんだかんだであの兄妹も仲が良いんですよねぇ……。と、しみじみ思っていたら、ちょっとした違和感に気付く。

 

 

「芳乃にしては珍しく息が上がってる……?って____!」

 

 

元々体力バカな芳乃が息を切らしてる事もおかしいと思ったけど、もっとあり得ないものを見た。

 

 

「あ、れ? 芳乃先輩、右足を怪我してる……?」

 

 

未羽が今言ったように芳乃の右足のズボンの裾には赤黒い染みが出来ていて、それを見た瞬間に体が動いていた。

 

 

「ごめん未羽、ちょっと待ってて!」

 

「え、ちょっと、ひよりちゃん!?」

 

 

___少なくとも、ボクの知る中で芳乃が怪我をしたなんて聞いたことがない。

 

そんな芳乃が怪我と言うか、それなりに出血してるって事は、相当な何かがあったのかも知れない。

 

そう思うと居ても立っても居られなくなって、ボクは慌てて月見団子から出た。

 

 

 

 

「……やっぱり、ひよりちゃんって……」

 

 

 

 

残された幼馴染が何かを呟いた様な気がしたけど、それに意識を向けてる余裕は今のボクにはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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____と言うわけで、慌てて駄妹を追って商店街まで来た訳だが……。

 

あの駄妹、いくらなんでもかっ飛ばし過ぎだろ……!

 

内心で焦りながら、立ち止まって息を整える。

 

あのアホに追い付こうとして身体強化の出力上げたせいだな。ただでさえ魔力量に差があるのに無理矢理ついて行こうとしたらこっちが先に音を上げるのは極めて道理だ。

 

あの底無しの魔力が羨ましいぜチクショウ……!

 

それに、応急処置をした右足を見る。速度を出そうとして無茶し過ぎたか、傷開いたなこれ。若干痛みを感じる。後で包帯巻き直そうか。

 

 

「くそ、やっぱり純粋な体力と魔力じゃ海央には敵わねぇな。つか、ソラさん大丈夫か、アレ……?」

 

 

下手なジェットコースターに乗るよりスリルを味わってそうだ。

 

流石の駄妹でも安全には気を使ってるはずだろう。使ってなかったらゴム弾で早撃ち・五連(クインティプル·クイックドロウ)をブチかましてやる。

 

……と言うかどのみち説教確実なんだけどな!

 

 

「芳乃!」

 

 

額の汗を拭っていると、ふと聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

そちらの方を向けば、なにやら血相変えた私服姿の白河の姿があった。

 

……なんだ、緊急事態か?

 

 

「白河? なんかあったのかよ血相変えて」

 

「いやそれこっちの台詞ですからね!? なんですかその怪我!」

 

 

……やっべ。

 

 

「……あー、これか。見た目ほど酷くはねぇよ。応急処置もしてるしな」

 

「応急処置って……ちょっと見るからね!」

 

 

え? と口に出すより先に白河がおれのズボンの裾を捲る。

 

ちょ、なにしてんのおのれ!?

 

 

「……確かに処置してますけど、傷開いてるよね」

 

 

ジト目を向けてくる白河の言う通り、巻いたばかりの包帯にジワッと赤い染みが滲み出している。……思ったより傷が深かったな。

 

 

「ま、まぁ、思いっきり走ったから、かな?」

 

「バカなんですかキミ!?」

 

 

据わった目で睨みながら、聞いたことのないような低い声で罵倒してくる恋愛請負人。

 

牛鬼とかサメよりも圧倒的に怖く感じるのは、何故だろう。

 

 

「取り敢えず、包帯とか持ってくるんでそこで待っててください」

 

「いや、これくらいなら大丈___」

 

「 そ こ で 、 待 っ て て く だ さ い 」

 

「アッハイ」

 

 

謎の圧に屈してつい返事をしてしまうと、白河は小走りでもと来た方向へと戻って、と言うか月見団子の中に入る。もしかしたら甘味でも楽しんでたのだろうか。なんか、申し訳ない。

 

それからちょうど近くにあったベンチに座る。ここは素直に言うことを聞いておかないと後で絶対に酷い事になると勘が訴えていた。

 

なので白河が戻って来る前にTABで海央へと通話を繋げる。

 

 

『ごめんお兄ちゃんのこと忘れてた! こっちは諳子ししょーと一緒に常坂さん達と合流出来ました!』

 

 

数回のコールですぐ出た辺り、どうにか合流出来たらしい。

 

 

「こっちは偶然出会った白河に足怪我してるの見咎められて足止め食らった。あとちょっと傷開いたっぽいから暫く動けん」

 

『……ごめん、そこまで気が回らなかった……!』

 

「怪我については気にすんな、これはおれの不覚だ。つー訳で、悪いが零次さん達への説明はソラさんと頼むわ」

 

『りょ、りょーかいですっ!』

 

 

取り敢えず説明はソラさんもいるし、師匠曰く零次さんと十和子さんはソラさんのことを知ってるって言ってたはずだから、まぁ、なんとかなるだろ。

 

 

「おまたせ! ……ちゃんと逃げずに待ってましたね」

 

 

通話を終えたタイミングで、ちょうど白河が戻って来た。

 

その手には月見団子で借りただろう応急処置セットがある。

 

 

「さ、観念して怪我してる所を見せましょうか」

 

「ここまで来て流石に逃げねぇよ」

 

「結構。殊勝な心掛けですね」

 

 

言いながらも元々あった包帯を取る白河。

 

しかし、その傷跡を見て顔を顰めた。それくらいには酷い状態なのだろう。

 

 

「一体、なにをどうしたらこうなるの?」

 

「……ちょっと知り合いに頼まれた害獣駆除してたら油断した」

 

 

流石に全部素直に話す訳にも行かない。

 

なので、万が一に備えて魔法使い組で事前に打ち合わせていた、口裏を合わせる為の表向きの理由で誤魔化す。

 

まぁ、あながち間違いではない。怪異と言う害獣の駆除に違いないからな。

 

当然ながら全く納得してなさそうだったが、白河も全部話してくれるとは思ってなかったのだろう。そのまま黙って消毒に入る。

 

……アルコールが傷に染みて、地味に痛い。

 

 

「キミが怪我するなんてよっぽどのことが起きたかと思いましたよ。ナイフ持ったひったくり犯ですら完封するのに。熊とでも戦ったんですか?」

 

「……熊のほうがまだ可愛げあるな」

 

 

これで熊の怪異とか出たら笑ってやる。

 

 

「……ホントに何と戦ったんです……? で、その状態で走って来たと。うん、アホですね。今日一番のベスト・オブ・アホです」

 

「くっそ、否定できねぇのが辛い……」

 

 

まず、クソザメの鱗の事を見抜けなかったのがな。手札の一つを切るくらいなら負傷なんかする前にさっさと切れば良かった。

 

油断した。と言えばそれまでだが、下手したら命を取られていた事を考えれば反省すべきだろう。

 

ましてや、何も知らないはずの白河にまで怪我を見咎めれるとは……腑抜けてるにもほどがある。

 

 

「はい、取り敢えずこれでよし。今日はもう大人しくしてくださいよ?」

 

 

そんな事を考えている間に怪我の処置が終わったようだ。

 

軽く動かして足の調子を確かめる。……うん、普通に歩くくらいなら問題なさそうだ。

 

後で海央から治癒の魔具を借りれば、明日の朝までには治るだろう。

 

 

「質問、その害獣駆除と言うのは、しょっちゅうやってることなんです?」

 

 

ふと、眉を寄せて困ったような表情の白河から、そんな質問がされる。

 

……当たり前だが、バカ正直に答える事は出来ない。なので誤魔化すしかないのだが、下手な嘘はすぐにバレるだろう。

 

 

「そんなしょっちゅうあってたまるか。……って言いたいが、ここ最近は増加傾向でな。暫く忙しくなる」

 

「……それは、どうしても芳乃がやらないと駄目なんです? キミは確かに強いしゴリラだけれど、学生でもあるんだよ?」

 

「誰がゴリラじゃ誰が。四つの尾を生やして尾獣玉撃ったろうかコラ」

 

「チャクラの怪物!? いやでも結局の所ゴリラじゃないですかゴリラー!」

 

 

自分で言っててなんだけど、あれゴリラだったか? 猿な気もするけど。西遊記の孫悟空がモチーフだし。

 

 

「って、ついいつものノリになっちゃったけど、割と真面目な話ですよ。キミは学生なんだから、あまり危ないことはしちゃダメだと思うな」

 

「……風紀委員に毎日の様に追われてる奴が言うセリフか、それ?」

 

「大丈夫です、棚に上げてる自覚はあるので。それも神棚の方へ」

 

「上げちゃダメなところに上げんなコラ……!」

 

 

罰が当たるぞオイ。と、またいつものノリになりそうになるが、流石に自重しよう。

 

 

「白河、おのれの言いたいことも分かるよ。おれ、学生でまだガキだもんな。ホントなら大人にでも頼るべきなんだろうさ」

 

「……正解。それが分かってるなら___」

 

「でも、やめるのは無理だな。……これは、おれが自分でやると決めた事だから」

 

 

だから、真正面から答える。

 

そりゃ他にも魔法使いはいるさ。

 

でも、今日の怪異も元をただせば“人形遣い”が原因で、その人形遣いを手駒にしてるのは、あの男だ。

 

クソオヤジ、咲三灯真。

 

奴が関わってる事である以上、誰かに任せるのも嫌だ。

 

それでもし、何かあれば……それこそ、後悔してもしきれない。

 

 

「……キミのこと一つ見誤ってましたね。スゴく頑固です」

 

「おのれも似たようなもんだろーが。美嶋さんに散々咎められてるくせに恋愛請負人続けてんだからよ」

 

「棚に上げてることを持ち出さないでくださいよ。罰が当たりますよ?」

 

「罰が当たるのはおのれじゃい。つか、だから棚は棚でも神棚に上げんなっ」

 

「大丈夫ですって、ほらボクのコードネームってフリッグ(愛の女神)ですし」

 

「日本文化に北欧の神様を祀ろうとすんなッ。色んな所から怒られるわそれ」

 

「なんなら芳乃も祀られます? ゴリラの神様として」

 

「どこに信仰あるんだよゴリラの神様って。つか誰がゴリラじゃ誰が。熊の双子と牛と鷲と合体してマッスルポーズ決めたろかコラ」

 

「ガオ◯ッスル!? 戦隊モノの巨体ロボでしょそれ!? そしてやっぱりゴリラじゃないですかゴリラー!」

 

 

結局、またまたいつものノリで軽口を叩き合うおれと白河。

 

うん、まぁ、楽しいからいっか。ソラさんの事とか今回の怪異の事とか、色々と考えないと行けない事はあるけども。

 

……今はなんというか、こうやって白河となんでもない話をしておきたい。

 

 

 

なんとなく、そう思ってしまった。

 

 

 




早撃ち(クイックドロウ)

灯火の得意技。愛銃【シリウス】の頑丈な構成と、鍛え抜いた灯火自身の技術により放てる、ある漫画の主人公の技をリスペクトした特技。

一瞬の内にトリガーを連続で引いて、複数の弾丸を同時に射出したと思わせるほど早く放つ。

弾丸を見て避ける相手や複数の敵を同時に狙い撃つ必要がある時に使用する。

シリウスの最大装填数は6発までなので、それを超えることはまずない。現在は【早撃ち・五連(クインティプル·クイックドロウ)】までを使用。

この早撃ち以外にも灯火は色々とリスペクトした技を習得している。

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