D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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EPISODE 24

 

 

 

「……それで、結局どうなったんだ? 僕は念の為に寮で待機してたから詳細が知りたい」

 

 

 

____その日の夜。

 

 

海央を除いた、いつもの面子で飯を食って解散した後、おれ、盾石、そして氷室と言った三人の魔法使いは、夜の学校……それもSSRの溜まり場に来ていた。

 

夜の学校と言う事もあり人が来ることは皆無な上に、万が一に備えて人除けの結界も張ってあるので、人に聞かれたくない話をする時はカラオケボックス並みにうってつけだったりする。

 

で、集まってすぐに氷室が問い掛ける。うん、今回おのれは完全に蚊帳の外だったもんな。

 

 

「取り敢えず、ソラさんは調子が悪いって事で自室に戻って貰ってる。念の為に海央を付けてな」

 

 

明日の荷物とか寝間着とか取りに来た海央に確認もしたから、こっちは問題ないだろう。

 

ソラさんが小さくなったのも力の使い過ぎらしいし。休めば戻るはずだ。

 

一応、零次さん達にはソラさんから説明してもらったらしい。

 

……巻き込んだのはコチラ側なのに、ソラさんを守ってくれてありがとうと礼を言ってたそうだ。

 

 

「まさか、【因幡の白兎】が実在したとはな……」

 

 

ああ、うん。やっぱり気づくよな、それ。

 

 

「他言無用で頼むぜ。……あの人の幸せを崩したくないからな」

 

 

おれそう言うと氷室と盾石も頷く。

 

正体がなんであれ、おれにとってあの人は一登と二乃の姉で、料理上手な尊敬すべき先輩なのだから。

 

 

「で、術式を見直した後、ウチが現場確認に行ったけど手掛かりはなしやったな」

 

「……すまん、核になってた人形は魔弾で消し飛ばしちまった」

 

「今回は仕方あらへんよ。そもそもあの人形は使い捨てらしいし。……その使い捨てで、こうも怪異を発生させてるのは正直意味が分からへんけど」

 

 

そう、それだ。牛鬼と戦った後、核になってた人形を見た時に盾石と同じ事を思った。

 

怪異ってのはあくまで自然発生した魔法的現象の事だ。

 

……それをこうも立て続けに、それも人為的に起こされるなんて普通はあり得ない。

 

 

「でも実際に怪異は起きた。それも今回は昼間から」

 

「そもそも怪異の発生条件ってのは人の怨念とかがマナに触れる事で発生するんだよな。この島でそんな怨念とかは……」

 

 

そこまで言った所で、回していた思考が答えを見出す。

 

 

「いや、それであの人形か……!」

 

 

この島は他の地域よりもどういう訳かマナに溢れている。

 

あとはもう一つの発生条件を満たせばいい。つまり、

 

 

「……つまり、人形に人の怨念を詰め込んでんの!?」

 

「成程、それならあり得るな……。呪術、呪いの応用で形代(カタシロ)を用意して呪具を作る術もあるにはある」

 

 

怨念とは文字通り人の恨みや負の念だ。

 

場合によっては物に宿ることもあるだろう。

 

しかし、そんなの怪異を引き起こせるほどの怨念を集めて一つの人形に込めたってのか? もうそれだけでも相当な呪具として使えるだろう。

 

……問題はその怨念を【人形遣い】はどうやって、そしてどれだけ集めたのか。

 

クソオヤジが取り逃がしてから十年近く立つ。

 

 

 

____一体、何人もの被害者が出たのだろうか。

 

 

 

 

「……憤る気持ちは分かるけど落ち着きや、トーカ君」

 

 

沸騰しそうな思考に冷や水を被せるように、盾石の声が耳に入る。

 

目を瞑り、深く深呼吸し、意識を元の状態に戻す。

 

 

「……分かってる。つか、なんで分かったし」

 

「戦闘時ならともかく、普段日常で過ごしてる君は割と表情で分かりやすいぞ? 付き合いの浅い僕でも分かるほどだ」

 

 

氷室の言葉に、うそん。と顔をペタペタ触る。

 

無論、そんなので自分の表情など分かるはずもない。

 

そんな自分の様子に静かに笑う二人の魔法使い。……なんか、醜態晒した気分だ。

 

 

「ま、方針は今までと変わらんよ。怪異が出たら被害が出る前に叩く。【人形遣い】の手掛かりも探す。地味やけど、それが今出来る事よ」

 

「ただ、今回と前回の件も踏まえて当主の先視の魔法でこの島を重点的に視たそうだが、ここ一週間は怪異の予兆はないようだ」

 

 

おじさん、わざわざ視てくれたのか……。

 

流石に間を置かずに怪異が来るならどうしようかと思っていたが、それなら暫くは安心出来るか。

 

おじさんにも改めて例のおれの視た先視のことは伝えてるし、切り札に巻き込まれる様な事もないだろう。

 

 

「にしても、【人形遣い】、か……。盾石、今回のサメ型怪異が現れたのは海からだったんだよな?」

 

「うん、そうやけど、それがどしたん?」

 

「牛鬼の時のような予兆はなかったのか?」

 

「ううん、なかったんよ。今回は感知の範囲外から現れたみたいやし」

 

「…………………………」

 

 

なんか引っ掛かるんだよな。

 

牛鬼の時は予兆を感じたってのに、今回は予兆なしだったってのが。

 

思考を回してみるも成果はあまり乏しくない。

 

もう少し、情報が必要だろうか。

 

 

「ま、暫くは普通に学校行っても問題ないやろ」

 

 

確かに、おじさんの先視で一週間近くは平和らしいからな。怪異が出てもすぐに片付けられる範囲だろうし。

 

 

「特にトーカ君、怪異とは連続で戦ってるやろ? 英気を養う意味でも暫くは魔法使いとしての活動はお休みしとき」

 

「……そうさせてもらうよ」

 

 

学校を休むのも手だが、下手に休めばSSRの連中に何か妙な心配を掛けるだろう。

 

それは流石に避けたい所だ。

 

なにより、いつもの面子で馬鹿話でもしてる方が気も紛れる。

 

それは、魔法使いとしてではなく、香々見学園に通う生徒としての、そしてSSRに所属する者としての嘘偽りのない本音であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 24-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、朝起きたらもうソラさんは元に戻ってたと」

 

『うん、ぎゅーって抱きしめて寝てたのに、何時の間にか逆にむぎゅーって、抱き締められててビックリしたよー!』

 

「今さり気なく、ロリソラさんを抱き枕にしてたのがカミングアウトされたな」

 

 

 

3/4 月曜日 雨 週の始まりは雨音と共に。

 

 

 

何時もの時間に起きたおれは、簡略した日課を済まして、同じく朝が早いはずで昨日はソラさんの家に泊まった海央にTABでの通話で近況を確認していた。

 

予想通り、ソラさんは無事に元に戻った様で、今朝はいつも通りに常坂家へ朝食を作りに行ってたそうだ。

 

この報告が終わったら海央も常坂家へ向かうらしい。多分、一登と二乃が驚くだろうな。

 

常坂家、今日は朝からいつもより3割増しで賑やかになるのが確定した瞬間である。海央がいるだけで騒がしくなるし、いないと逆に静かに感じるんだよな。

 

 

『それで、足はだいじょぶ?』

 

「問題ねぇよ。借りた治癒の魔具のお陰でめでたく完治だ」

 

 

あれくらいの怪我なら、魔具の力も借りてすぐに完治出来る。

 

……そもそも、ガンナーが負傷するのはあまり褒められたものではないが。

 

おれの戦闘スタイルを考えれば、負傷する前にさっさと圧倒するべきだった。

 

 

『良かったぁ……。あ、それ、そのままお兄ちゃんが持ってて。あたし予備あるしさ』

 

「いいのかよ? 治癒の魔具は持ってなかったから助かるけどよ」

 

『うん、それに……その魔具、あさひ叔母様の魔法が込められてる魔具なんだ』

 

「っ! 母さんの魔具、残ってたのか!?」

 

 

___咲三あさひ。治癒の魔法を受け継いだ魔法使いで、咲三灯真に嫁いだ、おれの母。

 

魔力こそ少なかったけど、その魔法を魔具に組み込むことで結果的に【防人】の力になっていたって聞いてたけど、まだ現物があったのか……。

 

 

『ホントならもっと早く渡すべきだったんだけど、お兄ちゃん全然怪我しなかったから、渡す機会逃してて……。あさひ叔母様、あたしやお兄ちゃんが戦う時に備えて張り切ってめちゃくちゃ作ってお母さんに預けてたみたいで、予備も沢山あるし』

 

「あ、あの人は……! 魔力弱かったってのに無茶しやがって……!」

 

 

献身的で真っ直ぐで、どこか子供っぽい。

 

それが母の性格で、なんであんなクソオヤジと結婚したのだろうと今でも不思議に思ってる。

 

いや、あんな母だからこそ、クソオヤジは母さんに心を開いて、心底惚れ込んで、だから失った時に壊れてしまったのか?

 

今となっては確かめようもないし、確かめる気もない。

 

 

「……と、湿っぽい空気になっちまった。悪い」

 

『ううん、だいじょぶだよ。にしても、今日は雨かぁ……』

 

 

海央の呟きに釣られて窓を見る。

 

ポツポツと雨が降っており、中にはみぞれも混じってる。

 

けれど、みぞれになってない雪も確認出来て……それを見て、目を細める。

 

 

「雨に加えて節外れの雪と、……それに“マナの残骸”も混じってるな……傘はさしとけよ。絶対に素手で触るな」

 

『……マナの残骸?』

 

「……なんで知らねぇのさ、おのれ」

 

 

一応は咲三の次期当主だろうが。知っとかなきゃマズイぞこれ。

 

 

「数年前から確認されてる現象だ。見た目は雪だが、これに魔法使いが触れると魔力が持ってかれる」

 

『……あ、思い出した! 【防人】でも原因が分からないって奴だ』

 

「ド忘れしてただけかよ。まぁ、おのれみたく魔力が豊富ならともかく、おれとかは割と危険だからな」

 

 

師匠からも散々注意されたな。アレには絶対に触れるなって。

 

マナの残骸ってのは、雪の様に見えるも本質は雪とは全く違う。文字通り姿形だけが残ったマナの骸とも言うべき現象だ。

 

これに魔法使いが触れると、接触した所から魔力が残骸に持ってかれてしまう。雪だと思って油断して残骸が降り注ぐ中に出れば、たちまち魔力は尽きるだろう。

 

厄介なことに、このマナの残骸が降ってる間は周囲のマナも少なくなる。補給もままならなくなるって訳だ。

 

……ついでに言えば、マナの残骸が発生してる原因も不明と来ている。

 

 

「……つっても今回ばかりは助かるか。マナの濃度が薄まれば、怪異を生み出す事も出来ないだろうし」

 

『あたし達魔法使いも戦闘とか難しくなるもんね』

 

 

マナからの補給も出来ないとなるとな、流石にキツいものがある。

 

でも、それは“人形遣い”も同じ事だ。奴も魔法使いであるなら、おれ達と条件は同じなのだから。

 

それでも戦闘になるなら、実弾火器を使うおれのが有利だしな。まず、仕掛けては来ないはず。

 

 

『あ、そろそろ諳子ししょー手伝わなきゃ、また放課後にSSRでね! 』

 

「ああ、また放課後にな」

 

 

海央との通話を終えてから一息つく。

 

……この雪の様なのが、魔法使いにとっての天敵だなんてな。

 

見方によっては綺麗なはずのそれが、雨に交じって空から降り続ける様子を、なんとなく眺め続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「くぁあ…………!」

 

「あれ、珍しく眠そうだね、芳乃君」

 

「んー……授業を受けてたはずなのに、ふとした時にねこに囲まれてる幸せな光景を見たような……」

 

「完っ全に寝てるよねそれ! 夢の中で猫ちゃん達にモテモテだよね!?」

 

 

 

____その日の放課後。

 

 

 

最後のHRを終えて、こみ上げてきた眠気に抗えず、欠伸をしていたら有里栖に見られてたようだ。ちょっと恥ずかしい。

 

クラスを見渡せば一登も叶方も眠そうにしていた。と言うかクラスの男子の大半は眠たげだ。

 

まぁ、この時期、付属の3年生はマジでやる事がないので気が抜けてるとも言えるが。

 

おれはおれで、連続で怪異と戦ってたせいで気が張ってたからだろう。

 

日常に戻った瞬間に張り詰めてた糸が切れたみたいに疲れが出たらしい。

 

……全く持って、未熟極まりない。

 

 

「……って、何時の間にか白河がいねぇ」

 

 

軽く体を伸ばしてから、近くの席にいるはずの恋愛請負人の姿が無いことに気付く。

 

まぁ、アイツの事だからいない理由は察することが出来るけど

 

 

「ひよりんなら恋愛請負に行っちゃったよ?」

 

「週の初めから、かっ飛ばしてんなアイツ」

 

 

レジェンドバトルの時も盛大に動いていたしな。恋愛請負人としての知名度は上がってるのだろう。

 

そうなると今日も美嶋さんと追いかけっこだな。

 

 

「ま、追い詰められたら連絡くらい来るだろ」

 

「ふふ、ひよりんに頼られてるよね、芳乃君って」

 

「頼られてるってか、脱出手段として使われてると言うか……」

 

「それでも、ひよりんがそんな風に甘えられるのって、芳乃君くらいだと思うけどなー?」

 

「……だからって、おれを頼りにして飛び降りするのはマジでヤメロって思うんだよ。切実に」

 

 

何度も言ってる気がするけど、毎回毎回心臓に悪いんだよな、あれ。

 

 

「でも、いつも助けちゃうんでしょ?」

 

「そりゃあ、な。白河の頼みなら、よほど酷い事でもない限りは力になるって言ったからな。……って、なんだよ、その顔?」

 

 

ワンダーランドで白河とのジェットコースター対決の折に自分で言った言葉を思い出してると、有里栖の顔がすごいニヤけてるのが分かった。

 

 

「なんでもないよー♪ ほら、常坂君のところに行こ? みんな集まり出してるよ!」

 

 

なんか誤魔化された気もするけど、一登の所に他のSSRメンバーが集まってるのも事実なので、鞄を持って一登の所へ向かう。

 

一登も一登で、机にぐったりと寝そべっていて、とてもダルそうだ。……マナの残骸にでも触れたか?

 

そんな兄の姿に、常坂妹こと二乃は大変御立腹な様だ。

 

 

「もう、兄さん……、ちゃんと授業聞いてましたか?」

 

「一応な、あんまやる気出なかったから、あとで復習しておくよ」

 

「一登もゲームのし過ぎ? オレも今日はずっとあくびが止まらなかったよ」

 

 

一登と同じ様に気怠そうな叶方はずっとゲームしてたらしいな。そういや、昨日飯食い来た時もなんか熱中してたな。

 

 

「“も”ってことは叶方はゲームで夜更しか」

 

「そそ。で、“は”ってことは一登はゲームじゃないんだ」

 

「俺は夜更しした訳じゃないんだけどな……」

 

「常坂君、おそよう……かな? いつかみたいに」

 

「いや、寝てた訳じゃないって」

 

「いつかってことは、似たようなシチュエーションがあった訳か」

 

「……なんか大勢集まって来たな」

 

 

あ、誤魔化した。まぁ、いいか。今は恋愛請負人いねぇし。

 

それに、大勢集まってるのは間違ってない。SSRメンバーの大体はこのクラスにいるもんな。白河と、あと杉並がいないけど。

 

つか、残りのSSRメンバーの事もあるので、このままここで駄弁ってる訳にも行かないな。

 

 

「取り敢えず屋上行こうぜ。休み明けの月曜日なんだ、何か依頼が入ってるかも知れんし、海央や逢見先輩が来てるかもだしな」

 

「あー……、それもそうだな」

 

ようやく脳細胞が動き出した一登に合わせて、おれ達も屋上へと向かっていく。

 

昇降口を上がる中で校内の雰囲気が少し浮つき始めた気配を感じたが、恐らく白河が無事に恋愛執行したのだろう。

 

COMUで取り敢えず「逃げれそうか?」と打ち込むと、すぐさま「問題なーし!」と言うメッセージと「勝負だ!」と言ってるムササビのスタンプが貼られる。

 

 

「ひよりんどうだった?」

 

「問題ないそうだ」

 

「そっかー。そうなると、今日はひよりんをお姫様だっこ出来ないね」

 

「いや、それやる=飛び降りだからな? おれ単体ならともかく白河が跳ぶのはマジで危ないからな?」

 

 

あと、進んでお姫様だっこやってるって認識をやめい。

 

そもそもレジェバ前の掃除ロッカー密着事件に比べたら、お姫様だっことかもはやなんでもないのだ……ごめん嘘ついた。逆にあの時の事思い出しそうになってセルフ瞑想する様になった。

 

やはり日々の鍛錬は報われるのだ。出来たらもっと別の機会で報われてほしいが。

 

そんなこんなで昇降口を上がって鉄扉を開ける。

 

雨は朝の内に止んでいた事もあり、屋上の方も無事に乾いてるみたいだ。ただ、マナの残骸が降ってた影響か、マナの濃度が普段より薄い気がする。

 

で、それから何時ものSSRの溜まり場に目を向けると、そこには一足早く来ていた海央とソラさん、そして___

 

 

「お、後輩ちゃん達も来たみたいやな。お邪魔してまーす!」

 

「盾石?」

 

 

ソラさんと同じ本校の制服を纏った魔法使いが、海央とソラさんと談笑してたようだ。

 

盾石がコチラに気付いた事で、連鎖的に他の二人もおれ達に気づく。

 

 

「もうっ、お兄ちゃん達遅いよー!」

 

「うんうん。そろそろCOMUでどうなってるか聞こうと思ってたところなんだから」

 

「ごめんなさいソラ姉、海央ちゃん。全ては兄さんのせいなのです」

 

「一登が中々起きなかったからねぇ」

 

「ご、ごめんって。つい忘れちゃってたよ」

 

 

遅れたのは事実なので素直に謝る一登と、「夜更ししちゃダメだからね」と、姉として一登を「メッ」と叱るソラさん。

 

海央から聞いてはいたが、ホントに問題なさそうだな。

 

それから一登がソラさんに返事をしたところで、全員の視線が普段はいないはずの盾石へと向けられる。

 

 

「それで、その人は……」

 

「フッフッフッ、全員ウチの方を見たな! こにゃにゃちわー! ウチの名前は盾石晶! ソラネちゃんに誘われたんとミオちゃん成分を接種するために来ましたー!」

 

「自己紹介まできっちりテンション高いのどうにかしろ、このあーぱー女」

 

 

ハイテンションで自己紹介しがら海央にスリスリと抱き着くアホ一名に対してツッコミを入れる。

 

海央がまたまた盾石の胸に埋もれたが、もういつもの事なので放っておこう。どうせ窒息する前に脱出するし。

 

 

「あ、この前の手芸部の引き起こした撮影会のモデルさんだ! ……灯火と海央ちゃんは、知り合いだったの?」

 

「ああ、つっても生家追い出される前に一度二度会ったぐらいだったんだが、最近色々と話す機会が多くてな」

 

 

おれがそう言うと同時に「ぷはぁー!?」と窒息から開放された海央が大きく息を吸い……これまたいつも通り倒れ伏す。

 

巨乳に屈する貧乳の図。持つものと持たざるものとの戦いは、持たざるものが圧倒的に不利なのである。

 

 

「戦闘力の差が……差が……圧倒的だよぉぉー……!」

 

「そろそろ不憫になって来たな……」

 

「アハハ……あ、そう言えば、家に何度かお泊りした時に、お姉ちゃんみたいな人がいるって海央ちゃん言ってましたけど、もしかして___」

 

「ウチやね、それは。ほぼ同年代の子で海央ちゃんと仲良かったんは限られてるし」

 

「……灯火は、その、大丈夫なのか?」

 

「……あれは大丈夫だ。やかましいし、あーぱーだし、やることなすことギャグになる奴だが、基本的には善人だ。女版杉並だけど」

 

「最後の一言で大丈夫な要素がなくなったんだが???」

 

 

実家……咲三の家から追い出された事を知ってる一登がおれを気遣うが、奴に関しては問題ない……一応は。

 

 

「まぁ、今日はちょっと噂のSSRがどんなんかなーって気になって来ただけやから、気にせんでもろてええよー」

 

「そうそう、このあーぱー女の発言とか真に受けてると疲れるだけだからな」

 

「トーカ君は相変わらずイケズやなー! ウチに対しての当たり全然変わらんよなー!もうちょい優しくしても罰はあたらへんよー!?」

 

「おのれを甘やかしたらツケ上がるのは間違いねぇだろうが!」

 

 

ぐぬぬぬ……! とあーぱー女と睨み合いを続けると、「仲は良さそうだな」「ですね」と常坂兄妹が頷き合っていた。甚だ遺憾である。

 

……つか、もう少し優しくしようとは決めたけど、前言撤回しとこう。コイツは多分一度甘やかしたらズルズルと引きずるタイプだろうし。

 

 

「はいはい灯火は落ち着きなー。せっかくお客さん来てるならお茶とか出さないとさ」

 

「……あれ、もしかして男の子?」

 

「あ、はい。綺麗な格好するのが趣味なんですよ」

 

「わー……全然気づかんかった。と言うかホントにめちゃくちゃキレイやな!どんな化粧使ってんの!?」

 

 

と、あーぱー女の興味が叶方に移った所でため息を吐く。あーぱー女一人追加するだけでやかましさが一気に増すのはどうなってんだホントに。

 

「取り敢えず茶入れるか。……で、だ。そこで息を潜めてる奴も、とっとと出て来い」

 

「む!?」

 

 

ため息を吐いたついでにコソコソ隠れてる奴に“気付いた”ので声をかけると、珍しく驚いたような声がした。

 

 

「……同士・芳乃、一体いつから俺の気配が分かるようになった」

 

「さぁ? なんか知らんが気がついた」

 

 

隠れていた奴___杉並の疑問に答えた通り、なんか知らん内に奴の気配を捉えていた。

 

……最近、戦闘が多かったせいで感覚が何時もより研ぎ澄まされてるのか……?

 

気になったが答えなんて分かる訳もないので、切り替えて今いるメンバーで入れる飲み物の採択を取る。

 

コーヒーが一登と叶方、紅茶は二乃と有里栖に杉並と盾石、緑茶がおれに海央にソラさん。

 

おれがドクペじゃなくて緑茶なのは単純にドクペを切らしていたからである。

 

二乃とソラさんがコンロやカップにマグの準備を手伝ってくれたおかげで、飲み物の用意はすぐに完了した。

 

配膳を終えて、一口飲んでから一息つく。ドクペも悪くないが、緑茶は緑茶で芳乃の家で飲み慣れてたこともあって、思わずホッとする。

 

 

「とりあえず今は大きな案件もないし、今日はノンビリダベリモードかな?」

 

「恋愛請負は白河が動いてるけど、散発的なもんらしいし、2月で大体済ませてるから少ないはずだ」

 

 

加えて言うなら香々見学園はエスカレーター式。付属を卒業しても本校に移るだけだからな。言うほど増えないんだろう。

 

 

「楽って良いっちゃ良いけど、物足りないと言えば物足りないな」

 

「クリスマスやバレンタインみたいなのは1シーズンで一回で十分だって。ついこの間あったばっかだし、少しノンビリしようよ」

 

「それもそうか」

 

 

叶方の意見に同意した一登がコーヒーを一口啜る。

 

そこからは言葉少なめに各々が各々の飲み物を楽しむ。

 

雨上がりの不純物の少ない澄んだ空の下で飲むコーヒーやらお茶と言うのは、より美味く感じてしまうからだろう。

 

屋上そのものが庭園のようになってる事もあって、いつぞや言ったみたいに居心地も良いしな。

 

 

「こう言うまったりな空気って、良いよねえ……」

 

「だな。って、そう言えば有里栖、なにか話があるんじゃ___」

 

「___てりゃあ!」

 

 

そんな感じでまったりとした空気を楽しんでいると、一登がなにかを思い出したようだが、それを遮るように突如としてバンッとドアが開く音がした。

 

飛び込んで来るのは改造マントを翻す恋愛請負人こと白河。

 

……またド派手な登場しやがったなコイツ。扉大丈夫かオイ。

 

と思ったと同時に、驚くSSRメンバーの前で華麗に着地を決めた白河が、髪を払いながら立ち上がる。

 

 

「……ふぅ、やれやれ。人気者は困っちゃうね、全く」

 

「お尋ね者の間違いじゃね?」

 

「正解だけど不正解。ここはノリに乗る場面ですよ」

 

「なんのノリだ、なんの。……とりあえず白河は緑茶で良いな?」

 

「大正解! いただきます!」

 

 

よっこいせとキャンプ椅子から立ち上がり、ケトルに残ってたお湯を温め直す。

 

 

「……灯火が全く驚いてない所か、順応してる件について」

 

「しかも、しっかりひよりんの好みを把握してるんだよね」

 

「そんな言うほどか? 大体皆の好みとか分かるもんだろ」

 

 

大体皆飲む奴決まってるしな。

 

クリスマスにSSRを結成してから、もうそれなりに立つし。料理を趣味としてる身としては各人の好みとかは把握出来るもんだ。

 

とりあえず緑茶の準備をしながら白河に進捗を聞いてみるか?

 

 

「それで、風紀委員は撒けたのかよ?」

 

「いやー、無理でした。もうすぐここに来るかも」

 

「ダメじゃねぇか」

 

 

おいおい、屋上だと逃げ場はないぞ、どうする気だ?

 

 

「フッ、何か策でもあるのか、白河嬢?」

 

「ひよりん、金曜日にもここに逃げ込んで来て、大変な目に遭ってたのにねえ」

 

「ギリギリでみうたんから逃げて走っていく様は、スパイ映画みたいでカッコよかったです!」

 

 

ああ、それであの時一度屋上に繋がる昇降口から跳んで降りてきて、後から美嶋さんも降りてきた訳か。

 

 

「あの時は幸い、追手が美嶋さんだけだから逃げおおせてましたけど……」

 

「今日はそうは行かないだろうね。今度は未羽ちゃんも風紀委員軍団を引き連れて来るに決まってる」

 

「……って、そう言ってる間に下から結構な数が来てやがるぜ」

 

 

沸いたお湯で緑茶を作りながら、下から近付いてくる複数の人間の気配を捉える。

 

この感じは美嶋さんに、三つ子ちゃん達か。何時もの風紀委員ズだな。

 

 

「……感覚、鋭くなってへん?」

 

「別に悪いことじゃねぇだろ。寧ろこれからのこと考えれば有用だ」

 

「いや、それはそうなんだけど……お兄ちゃん、ちゃんと休んでる?」

 

 

何故か魔法使い2人が心配そうにおれを見ていた。

 

いや、休んでるっての。しっかり睡眠は取ってるっての。

 

そんなことを考えてる間に昇降口からやって来た一団……風紀委員ズが屋上に流れ込む。

 

 

「白河ひよりさん!今日こそ逃がしませんからねー!」

 

「今日こそ!」

 

「逃がしま!」

 

「せんからねー!」

 

「え、何この子ら? 三つ子ちゃん!? かっわいいなぁ!お持ち帰りはおーけー?」

 

「さり気なく人攫いしようとすんな、あーぱー女」

 

 

デデーン!と言う効果音が付きそうな登場をする風紀委員ズ。

 

あーぱー女が三つ子ちゃん達にきゃーきゃー言ってるが、海央へのアレと同じで何時もの病気だろう。

 

処置なし、放置だ。

 

 

「さて、それはどうかな?」

 

 

対する白河は追い詰められてるにも関わらず、さっき渡した緑茶をズズズと飲みながら余裕の表情を浮かべている。

 

しかし既に包囲網は完成されてしまった。「御用です!」「「「ごようだ!ごようだ!」」」と息巻く風紀委員達。ここから逃げるとするなら、杉並でも骨を折るだろう。

 

なにか秘策でもあるのか? と思った所で、クルッと白河がおれの方に向き直った。

 

 

「やぁ芳乃! さっきの緑茶はありがとう!」

 

「いや、お茶の礼を言ってる場合かいっ!?」

 

 

思わずツッコむ。

 

突然どうしたし。なんで緑茶の礼を今この場面で言ったんだよ。

 

と言うか今の状況分かってるのかコイツ?

 

 

「えっ……?」

 

「え?」

 

「あ、やっ……」

 

 

困惑した声に釣られて美嶋さんと目が合うと、ギクッと固まられて、それからみるみると顔が赤くなっていく。

 

……まさか、金曜日の時のこと、まだ引き摺ってたのか……?

 

 

「〜〜〜〜っっ、し、白河さん! 恋愛執行はもうダメですからね! それじゃあ___」

 

 

だっ!!と、そのまま白河も風紀委員ズも置き去りにして屋上から出ていく美嶋さん。

 

 

「「「え? え〜っと、ま、待ってくださ〜い!!」」」

 

 

一瞬出来上がった沈黙から回復できたのか、敵前逃亡をした美嶋さんを追って、三つ子ちゃん達も困惑しながら去っていく。

 

啞然とするおれ達。

 

が、視線は昇降口への扉から、おれの方へと向けられる。

 

 

「……みうたん、明らかにお兄ちゃんを見て動揺してたよね? なにかあったの?」

 

「……多分だけど、金曜日に白河を追って階段から跳んだ時にちょうど出会してな。危なかったから咄嗟に抱き止めたんだが、えらく恥ずかしがってたから、それだと思うんだが」

 

「正解。とまぁ、今のを見てもらった所で注目!」

 

 

ビシッと右手を上げる白河に、SSRの皆+αが言葉通りに注目する。

 

 

「ボクからSSRに、と言うか芳乃に依頼があります!」

 

 

どこか楽しそうに、でも真剣さも交えた声と共に、白河が上げた右手の人差し指をおれに向けて、そう宣言する。

 

どうやら、のんびりダベるだけじゃ無くなったみたいだ。

 

何となく渦中に巻き込まれた事を察して、思わず背中に冷たいものが流れるのを感じるのだった。

 

 




◇咲三あさひ
故人。灯火の母親。
治癒の魔法を受け継いだ魔法使いの血脈。
咲三に嫁いでからは、自身の魔法を魔具に込める事で前線に出る魔法使い達を支援していた。

性格は献身的で真っ直ぐ。でもどこか子供っぽい。
狂う前の咲三灯真とは恋愛結婚したそうだ。
ピアノが趣味で灯火にも教えたいと思っていた。

ある事故により死亡。事切れる前に灯火を自身の魔法で生かした。
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