と言うわけで続けて投稿。ダ・カーポ、もっと色んな人達に広がってほしいな……。って思いつつ脳みそひねり出しながら書いています。
「ボクからSSRに、と言うか芳乃に依頼があります!」
何時もの屋上のSSRの溜まり場にて、ビシッとおれを指差す白河。
当然、いきなり依頼とだけ言われてもなんのことか分かる訳もない。
「はいはーい! ひよりん先輩に質問です! それは一体どんな依頼なんですか?」
なので先陣を切って質問する妹分。
こういう時の思い切りの良さは見習うべきなんだろうか。切り込み隊長の素質がある。
「内容としてはそうだね……。みんなもさっきの未羽のことは見てたと思うんだけど。前々から患ってた男性恐怖症が悪化しちゃったみたいでね」
海央からの質問に対して、普段の飄々とした態度は鳴りを潜め、至極真面目な表情でそう返す白河。
と言うか、男性恐怖症……?
いや、そういや出会った頃は確かにそう言う節はあったか。
でも、んー……何か引っかかる。
「確かに、彼女には前々から、そんな噂はありましたけど……」
「今のも、そうだってこと?」
「……ふむ、少しばかり不正確だな。より正確に言うなら『男性である芳乃に対しての』恐怖症……いや、恐怖症と言うのも少し違う気もするが」
「まぁ、灯火を見て逃げ出したのは確かだしね。金曜日の時は灯火抜きで同じシチュエーションだったけど、白河の方が逃げ出す羽目になってたし」
「その原因になったのが、さっき灯火が言ってた事なんだろうな」
「うむ、その時と先ほどの違いは同士・芳乃がこの場にいたか否かだ。因果関係があるのは確かだろう」
恋パの時に運営委員会で一緒に行動してた頃は、そんな素振りなかったしな。
元々恥ずかしがり屋な面もあったから、金曜日の件で一気にぶり返した……と、捉えるべきか。
「まぁ、ああなった理由自体はどうでもいいんだ、ボクが気にしているのは、とにかくあの状態をどうにかしたいってこと」
「確かになぁ。あのまんまやと日常生活にも支障が出そうやもんな」
「……って、ちょっと待って。よく見たら盾石さんもいるじゃないですか! と言うか本校生!?」
「ああ、おのれとは一度会ってたっけか。あれは気にすんな。ただの賑やかしだ」
さり気なく混じって来た盾石の存在に流石に驚く白河に対して気にするなと言っておく。
気にしたら最後、鬱陶しいまでに存在アピールをして来るからな。
「そ、そうですか。でも、盾石さん……じゃなくて盾石先輩、正解。なので、SSRの皆さん……未羽の男性恐怖症の克服に力を貸してもらえませんか?」
顔を見合わせるSSR一同と+α。
「力を貸すにしても、具体的にはどうするつもりだよ。特におれ」
わざわざ名指しで指名するほどだ。おれになにかさせるのは確定なんだろうが……恐怖心を抱いてると言うなら、おれが関わるのはアウトな気もする。
……怖がられるってのは、まぁ慣れてるから良いとして。
3バカと関わる前は誰からもそんな感じだったからなぁ。今となっては懐かしい記憶だ。
「難しく考えなくていいさ、簡単な話だよ。要は慣れてもらえば解決することだからね。というわけで芳乃!」
「ああ」
「しばらく、ボクに付き合って貰えるかな? ボクが間に立って、未羽にキミが恐怖の対象じゃないって認識してもらいましょう」
……なるほど、話は分かった。
要はちょっとした荒療治をしていくって訳か。
少し思ったのは、恋愛請負人としては美嶋さんがおれに怖がっていた方が動きやすいんじゃないか。っていうことだ。
……でもそれをしないってことは、友人として純粋に心配してるのだろうか。
なにか他にも思惑がある気もするけど、感覚としては一貫して「美嶋さんのため」って感じがするんだよな。
悪意なんてない。ホントに善意での依頼だ。
「どうかな? 芳乃」
正直、興味もあるし依頼を受けるべきなんだろうが。おれにはおれで懸念事項があった。
“人形遣い”への対処。自身の使命、そして、“約束”。
おじさんの先視の魔法で一週間ほどは安全が約束されてるはずだが、万が一には学生であることを捨てなきゃいけない。
そんな不安定な身じゃ、依頼をしてきた白河に逆に申し訳がない。なら、おれの答えは___
「____そっか。じゃ、お兄ちゃんはしばらく普通に学生やらないとね!」
優先すべきものを改めて考え、答えを出そうとした所で、おれの事情を知ってるはずの海央が、なぜかそんな事を言う。
思わずその海央の方へ振り向くと、底抜けに明るい妹分はウインクしながらコチラの方を見ていた。
-EPISODE 25-
「せやなぁ。元々トーカ君に頼りっぱなしは良くないって思ってたしなぁ。力を借りるにしても最後がええやろ」
「? なんの話だ?」
「ちょ、ま、……た、タイム!?」
盾石まで乗ってきたこと、そして一登が疑問を感じたことに心底焦ったおれは思わず凸凹コンビを連れて一旦みんなから離れる。
「……なに勝手なこと言ってやがる凸凹コンビ!?」
「誰が凸凹の凹ですか!?」
「ミオちゃん、ミオちゃん、自分から言ってもうたら台無しやからなー」
「うるせぇ真面目な話してんだよこっちは……! 今、どんな状況か分かってて言ってるのか?!」
あまりにも呑気に喋るせいか、思わず口調が粗くなるも凸凹コンビは意にも介さない。
寧ろ凹だと自爆して憤っていた貧乳の方も落ち着いてる始末だ。
「分かってて言ってるよ。寧ろお兄ちゃんこそ気付いてる?」
「なにがだよ!?」
「気ぃ張り詰め過ぎなんよ、今のトーカ君は。そのままやったらいざって時にガス欠になってまうよ? 咲三灯真が来る前にな」
指摘された事で言葉に詰まる。
……それについては、確かに自覚があった。
そのせいで今日は授業中眠かったし、かと思えば普段は気づかない杉並の気配にも気づいたり、離れた複数の気配を捉えたりしていた。
意識のオン・オフがあやふやになっていた。
「お兄ちゃんは……トーカ先輩は確かに強いです。でも、今のままだと確実に潰れちゃいます」
「2度も単独で怪異を討伐したのはすごいよ。でも、オン・オフが出来てへん。常在戦場なんは良いけど、ウチら魔法使いはメンタルも整えとかなアカンよ。そもそもトーカ君がここで倒れたら“切り札”ってのも意味なくなるやろ?」
「っ……!」
否定しようとして、頭の中の冷静な部分が二人の言い分を認めていた。
……クソッタレめ。想像以上に焦っていたらしい。
「と言うか、昨日あたしに気負い過ぎはダメって言ってたのに。当の本人が一番気負ってるんだもん」
「ぐぬっ……」
更にそれを言われると……弱い。
言ってた自分が一番気負い過ぎてるとか、確かに本末転倒に過ぎる。
「てな訳で、トーカ君はあの子の依頼を受けつつ、しばらく英気を養うこと! 当然、なにかあったら連絡するけど、ちゃんと休まないとアカンよ?」
「……はぁ、分かった、分かったよ」
ダメだ、今回は反論する余地もなく自分が悪い。
海央を諌める為に言った事を自分が実践出来てないのは本末転倒にもほどがある。
「でも、ホントにいざって時は呼べよ。なにかあった時に何も出来なかったって事になったら、悔やんでも悔いきれねぇからな」
「うん、それは約束する」
とりあえず話はついた。
なので皆の所に戻ると、当然ながら疑問やらの視線が向けられる。
逆に心配そうに見てるのは、この中で唯一事情を知ってる逢見先輩(ソラさん)だけだ。
「なんの話をしてたんだ?」
「……別件でやる事があってな。つっても、暫くはおれの出番はないらしいが」
「と言うことは……」
「受けるよ、白河の依頼」
白河に向き直ってからそう告げる。
一瞬だけ驚きながらも、次の瞬間にはなんとも嬉しそうに、白河は笑みを見せた。
「正解! それでこそ芳乃ですよ! では、そういうことで今後よろしくお願いします! あ、未羽には内緒で!」
そう言ってから差し伸べられる手を握り返す。
華奢で、柔らかく、それでいて、あたたかい手だった。
その感触に一瞬だけ心臓が跳ねる感覚を覚えながらも、瞑想の要領で無理矢理戻す。
「……芳乃の手ってさ」
「ん?」
ふと、白河が握手してるおれの右手をにぎにぎと触りだす。
……なにしてんの、おのれ?
「いや、予想より大きいなーって」
「男と女だと、まぁそれくらいは差があるだろ」
「正解、なんだけどね。ほら、見て見て、開いて合わせたら良く分かりません?」
そう言って、おれの掌を広げてから自分の掌を合わせる白河。
……だから、なにしてんの、おのれ?
いや確かにおのれの手、小さいけどさ。
おれの掌に比べたら、小さくて柔らかくて___
「んふふ、二人はすごく仲ええんやなぁ♪」
「「!?」」
盾石のからかう様な声にハッとして離れるおれと白河。
だが、時既に遅し。ターゲットをロックオンしたあーぱー女が目を光らせる。
「ヒヨリちゃん、やったかな? 前に会った時もトーカ君と仲良うしてたもんなぁ」
「ふ、不正解! 別に言うほどじゃありませんよ? 普通です、普通!」
「え〜? ホンマに〜? そこのところ、どうなんよソラネちゃん」
「んー、わたしもト……芳乃くんと白河さんはすっごく仲が良いと思うなぁ」
「逢見先輩までぇ!?」
年上の女子に囲まれた白河に軽く合掌しておく。
……あーぱー女だけならともかく、ソラさんが参戦した時点でおれにはもうどうしようも出来ん。すまん。
言うて、あくまで友達の範疇だしな。放っておいたら、二人もそのうち飽きるだろ。
「……今、一登並のクソボケっぷりを灯火が発揮した気がするよ」
「偶然だな叶方。俺もそんな気がした。恐らくこの勘は当たるだろう」
……なんか、かなり不服な評価をされた気がした。
流石に一登並のクソボケとは異議を申し立てたい。
「はいはい、とりあえず白河の依頼は灯火が担当ってことでいいな?」
ぐだぐだした雰囲気を締めたのは親友の鶴の一声だった。
それから一登が改めて有里栖に向き直る。
「それで……有里栖もなにか話があるんじゃなかったか?」
そういや、白河が乱入したことで忘れかけたが、そもそも一登が有里栖に対して何か言おうとしてたんだったな。
「あー……、うん……。嫌なら全然断ってくれてもいいんだけど、先月、ワンダーランドで新アトラクションって名目の、【カガミの国】ってVRのモニターテストに協力してもらったでしょ」
「ああ、やったやった。もちろん覚えてる」
「あの、すっっっごいのだよね!」
「そうだな、すっっっごい奴だな」
「だから語彙力よ」
確か叶方が参加出来なかった奴だな。魔法でも再現が難しそうなほどリアルな、それこそホントにすっっっごいとしか言えないVRだったな。
そういや、あの日の夜にクソトカゲの駆除やってたんだったか。……流石に再繁殖はしてないよな。してたらしたで、またミニガンにロケランぶっぱしてからのパイルバンカーだが。
「あのテストなんだけど、もう一回やってみない……? っていう話なんだ。……あ、嫌なら全然いいんだけど!」
「別に嫌じゃないけど、どうしてまた? 俺だけ? 」
「……確か一登だけ、おれ達とは見てるものが違ってたって言ってなかったか?」
はしゃいでたおれ達とは違って妙に神妙な表情を浮かべてた記憶がある。
「うん。研究チームから、常坂君のアンケート結果が興味深かったみたいで、ぜひ検証に協力してほしい。って……」
「兄さんだけ違うものを見てた……何が見えてたんです?」
「それが、よく覚えて無くてさ。アンケートに書いたのは確かなんだけど」
「まぁ、レジェンドバトル関係でバタバタしてたからな、あの時」
特に一登は色々と大変だったしな。全体の調整しながら、みんなの手伝いしつつ、レースに出るわ、有里栖に告白するわで。
「そうなると、今回のテストは違うものを見たって言う常坂兄へのオファーのみかな?」
「今回は大規模なものじゃないからね。それと、常坂君達のご両親がワンダーランドの研究開発に異動になったって話で、それなら常坂君もやりやすいんじゃないかって」
「なるほどね。少し興味があったけど、そう言う理由なら納得だ」
「完成したら真っ先に遊んでもらえるようにするから、楽しみにしててね、ひよりん」
「大期待。その約束だけで十分さ♪」
試作品でもアレだけスゴかったんだ。完成したらどうなるのか、おれも少し期待してる。
「親が……ってことなら私もチャンスありそうですが、ついてっちゃダメですか?」
「お前、遊びたいだけだろ?」
「そういうわけじゃ……無いことも無いですけど、なんか兄さんが心配じゃないですか」
「お前は俺の保護者かっ」
「どうしてもって言うなら、開発チームへ私からなんとかお願いしてみるけど……」
「あ、いえいえ。なんかちょっと心配なだけだったんで。ええ、お仕事ですもんね」
流石に無理矢理入るのはダメだと思ったんだろう。慌てて首を横に振る二乃。
「と言うか、そもそも常坂君も嫌なら断って良いんだからね? 忙しかったりしたら、特に」
「うーん、寧ろ暇」
「面白そうではないか。同士がやらないなら俺様が___」「さっき一登限定だって言ってたの、わざと聞いてないフリしてるだろ?」と悪友共が言い合ってる中で、思考を回す。
……なんか、有里栖の奴、一登に来てほしくないのか?/違う、ただ意地を張ろうとしてるだけだろ、あの頑固者め。
___ズキリと、頭が痛んだ。
「お兄ちゃん、どしたの?」
「疑問、なんか苦虫を噛み潰したような顔になってますが」
「いや、ちょっと一瞬頭痛がしてな」
「……んー、なんか芳乃って頭痛持ちだったりします? 時々顔を顰めてることがあるようだけど」
「いや、んなことはねぇよ。医者からも健康そのものだって言われてるし」
「ゴリラの獣医にです?」
「さらっとゴリラに繋げんじゃねぇ。つか、誰がゴリラじゃ誰が。赤いチーターと黄色いウサギと特命合体したろかコラ」
「ゴーバス◯ーオー!? と言うかそれ青いゴリラで結局ゴリラじゃないですかゴリラー!」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。よく咄嗟にそうネタで返せるよね?」
「実はそろそろネタギレ間近だ。タスケテ」
とかなんとかいつものやり取りをやってる間に、一登と有里栖の話は纏まった様だ。
有里栖曰く、すぐに決めなくてもいいとのことで、一登の答えはとりあえず「保留」となった様だ。
「常坂兄!そこはもっとこう押して行くんですよ!ガンガンいこうぜ! ですよ!」とのたまう恋愛請負人がいたが、なんとか抑えておく。
……あんなクソッタレな未来、さっさと覆して、おれも心からこの二人を応援したいもんだ。
それからは、また飲み物をおかわりしたり、なんでもない雑談に花を咲かせたりと、まったり放課後を楽しむ。
……うん、やっぱり、この時間は良いもんだな。
そう心から思いながら、日が暮れて解散するまで、皆とのなんでもない雑談を続けるのだった。
・・・・・・・・・・・・
「では始めるとしようか」
「全力で掛かってこい!」
「それじゃ、せーのっ!」
「「「……最初はグー!ジャンケンポン! あいこでしょ!あいこでしょ!!あいこでしょ!!!」」」
____その日の夜。自室にて。
相変わらずプライベートが微塵もないが、それはもう慣れたもので、おれ、叶方、杉並の3人で数度のあいこの果てに、それぞれ出した手を見る。
おれはパー。対する叶方と杉並はチョキ。
つまり、おれの敗北である。
「なん、だと……!?」
「やった! 久し振りに食器洗いから開放された!」
「フッ、弛んでるのではないか? 同士・芳乃よ」
夕食後の恒例である食器洗いを決めるジャンケンで見事に敗北を決めたおれは、パーを出したまま崩れ落ちた。
因みにこのジャンケン。大抵負けるのは叶方でたまにおれ。極僅かに杉並が負けるといった具合になっている。
「……ジャンケン一つでも大騒ぎになりますよね、この男共は」
「あたしは賑やかで好きだなー」
因みに女性陣はこのジャンケンは免除している。食器洗いは手がカサカサになるからねー。と、最多で食器洗いをしてる叶方からの進言である。説得力がぱねぇ。
とりあえず敗北は敗北だ。大人しく流し台のスポンジに洗剤を付けて泡立てて、水に浸けてる食器の一つを取ってから、その食器の汚れを落としていく。
汚れの落ちた泡だらけの食器は取り敢えずあとで水洗いするとして……と、考えていると、その泡だらけの食器をスッと取る華奢な手が見えた。
その手の主は、何時の間にか横に立っていた白河だ。
「泡を落とすのはボクがやりますよ。いつも任せっぱなしってのもアレですしね」
ウィンクしながらそう言う白河に少し面食らうも、手伝ってくれるのは助かる。
2人で分担作業するなら、すぐに終わるだろう。
「ありがとな」
「いえいえ、なんだかんだ御馳走になってばっかりだったし。……それと、足はもう大丈夫です?」
視線が右足に向けられる。治癒の魔具でもう既に治ってるのだが、それを明かす訳にも行かないので、そこは誤魔化すしかない。
「好調だよ、それも含めてありがとな」
「いいですよ御礼なんて。ボクの個人的な頼みも聞いてもらうしね」
「その件なんだが、まず明日はどうするんだ?」
「そうですね。……まずは軽いジョブからということで、明日はお昼を屋上でご一緒しましょうか。未羽を連れて来るので先に待っててください」
「昼休みか。……なら、久し振りに弁当でも作るかな」
「流石、料理する系男子。抜かり無いね」
「ついでだし、少し多めに作ってくるから、食ってみて味の感想教えてくれよ。逢見先輩のおにぎり目指して試行錯誤しててな」
あの絶品おにぎり食ってから3ヶ月くらい経つけど、まだまだ追いつけねぇんだよなぁ。
やっぱソラさんはスゴい。
おにぎりだけってのも味気ねぇし、唐揚げとかも作るか。
「はいはーい! あたしもお兄ちゃんのお弁当食べたーい!」
「言うと思ったぜ。海央の分も作るから楽しみにしとけ。一人追加するくらいなら大丈夫だろ?」
「勿論。海央ちゃんは未羽とも仲良いしね」
「わーい!」と無邪気に喜ぶ妹分に苦笑する。「魔法使い」としての海央はもう少し大人っぽい感じがするので、それを知ってるとギャップを激しく感じるものだ。
「お昼を一緒に取りながら、なんとか未羽に慣れてもらうことから始めましょう」
「了解した」
明日の予定は取り敢えず決まった。
弁当を作るなら、今日の内に色々と仕込みをしとかないとな。
「でも一登は羨ましいよなぁ、最新VRのテスターってさ。オレは前も参加出来なかったしさ。どんな感じだったの?」
話は変わって有里栖から一登への依頼に移る。
例のVRについての感想、と言われてもな。
「もう、とにかくスゴかったです!」
「ああ、目茶苦茶スゴかったな」
「いや、だから語彙力」
思わず語彙力がアレになるくらいの衝撃だった。と言うことで、どうか一つ。
当然それで分からない叶方は杉並の方へ向くが、甘いぞ叶方。
「……どんな感じだったのさ杉並」
「俺様はあちらこちら調べて回っていたからな、例のVRは体験していない」
「杉並に聞いたオレがバカだったよ……」
致命的なまでの人選ミスである。
「鷺澤じゃない方のマスコットのアリスを案内人にして、現実では見れないような綺麗な景色を見て回るって感じだったかな?」
流石に叶方が哀れだったのか、白河が補足を入れてくれる。
「試作の段階でも完成度はかなり高かったからね」
「くぅ、詳細を聞いたら聞いたで見たくなってくるなぁ……!」
「そこは鷺澤も言ってたみたいに完成したら真っ先にやれるみたいだし、乞うご期待ってところかな」
「寧ろ叶方はおれ達と違って前情報ほぼなしに完成品を見れるじゃねぇか。感動具合も一番になるだろ」
「あー、その考えは確かにありだね」
「あ、完成したら休み合わせて皆でまたワンダーランド行こうよ!」
「いいな、それ。前に行けなかったアトラクションとかも行きたいし」
「正解。でも芳乃は乗り物酔いなんとかしなきゃだね」
「……今から三半規管を鍛え直すか……」
……出来たら、その時には全部終わってたらいいな。
クソッタレな未来に縛られることも無くて、気兼ねなく皆と遊びに行ける。
食器洗いをしながら、ふとそんなことを考えるのだった。
△ ▼ △ ▼ △ ▼
「お待たせー!」
「やっほー、ミオちゃん」
「お疲れ、お嬢」
賑やかな夕食を終えてから、あたしは学校の屋上へとやって来ていた。
既に待っていた魔法使いの二人……防人としての先輩であるアキ姉とジン先輩と秘密の密会をしに来ていた。
「芳乃は?」
「強制的に休ませました!」
寝息を確認するまでじーーーー…………っっっと見てたので間違いない。
最初はなんか見られてるのが落ち着かないのか冷や汗をかいてたけど、寝入ってからは気配も落ち着いたから大丈夫だと思う。
「ありがとうなミオちゃん。……にしても、あまりにも場慣れしてたし戦闘終わってからも平然としてたせいで気付くん遅れてもうたわ。……ここで一度無理矢理にでも休ませへんと、多分、いや確実に壊れるまで動き続けるわ、あれは」
それはここ最近のお兄ちゃん……トーカ先輩を見ていてようやく気付いた、あたし達の共通認識だった。
……言ってみればタガが外れかけてるんだ、トーカ先輩は。
自分の事を勘定に入れなくなり始めてる。だから、自分の状態がどうなってるのか、自分でも把握出来てない。把握しようともしてない。
昨日のサメの怪異の時だって、負傷してもそれをまるっきり無視して、今日だってひよりん先輩の依頼を受けるかどうかの時、自分のことは完全に置き去りにして考えようとしてた。
「あんな感じでこれまで、ずっと過ごしていたんでしょう。……口ではどうのこうの言いつつも、気を張ってるのが日常になるまで。だから、僕達も違和感を感じ取れなかった」
「…………もっと早く、あたしからお兄ちゃんに会いに行くべきだったかな」
言っても仕方ないけど、後悔を呟く。
本人はなんでもないって表情をしてるから余計に分かりづらいけど、もっと早く気づくべきだった。
「ミオちゃんは次期当主になって、やらなあかんことが多かったし、ウチらもウチらで任務あったからな。今更言うてもしゃーないよ」
「……寧ろ、母親を目の前で失って、咲三からも追放されて、そこからよく立ち直れたものだと思う」
「………………」
思わず拳を握る。
家族を失って、世界が終わる未来なんてものも視て、あたしは正気でいられるだろうか?
……それを覆そうと、抗えただろうか?
一人だけなら、きっと無理だ。多分、絶望して堕ちていく。
「……きっと姫乃おばあさまと、清隆おじいさまが、支えてくれたんだと思う」
魔法使いの監視者……正義の魔法使いとしての役割を【防人】に譲った事からも、あたし達にも、それなりに関係のある二人。
あの二人がお兄ちゃんを助けていなかったら……そう考えるとゾッとする。
「その二人でも矯正出来ひんかった辺り、筋金入りやな。……いや、まぁ、例の“先視”を視てたんなら、そうなってまうのも無理ないんやろうけど」
「とにかく、暫く芳乃は戦闘にも関わらせない方向でいいな。ある意味で最大戦力であるから、温存させとかないと。下手すると自滅してでも使命を果たすぞ」
あたしもアキ姉もジン先輩の言葉に頷く。
“人形遣い”とおじさ……いや、咲三灯真と戦うなら、間違いなくトーカ先輩の力は必要になる。
けれど今はダメ。
このままトーカ先輩を放っておいたら、ホントに取り返しのつかないことになる。
【防人】としても、【正義の魔法使い】としても、あたしとしても、それだけは認められない。
もう一度、あたしは拳を強く握りしめる。
____そんな悲しい結末なんて、絶対にゴメンだ。
◇人除けの魔法
◇消音の結界
【防人】が怪異や悪意ある魔法使いと対峙した際に使用する事の多い魔法。人除けの魔法は人払いとも呼び、一般人を被害から遠ざける為、また目撃者を出さない為にも使う。
基本、魔具に魔法を収めて使われるが、一部の魔法使いは自分でやった方が効果と効率がいいらしい。
なお、戦闘痕は残るため、戦闘後の後片付けは必須。なので【防人】では後片付け用の魔法を各自で構築したりして共有されていたりする。