D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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ストックはこれで尽きた……またキリキリ書くぞい(白目)


EPISODE 26

 

 

 

 

「さて、取り敢えず弁当も持ってきた訳だが……」

 

 

 

 

3/5 火曜日 晴 外で弁当を食べるなら絶好の天気。

 

 

 

___時刻は昼休み。

 

 

 

昨日の打ち合わせ通りに弁当を作って屋上まで来たおれは、取り敢えずいつものSSRの溜まり場で、持って来た弁当を広げていた。

 

献立はソラさんの作ったものを参考にしたおにぎりと唐揚げ。あとは玉子焼など。オーソドックスなメニューだが、その分味には徹底的にこだわった。

 

海央の分も含めても少し多めに作っていたので、軽いピクニック気分だ。

 

 

「わぁ……流石は灯火さん。この前そら姉が作ったのをしっかり参考にしてますね」

 

「うんうん、形もいいし、お米もふっくら。腕を上げたねー?」

 

「あ、灯火。そっちの唐揚げ一つもらっていいか? そら姉の肉詰めピーマンとトレードだ」

 

「ちょっと待てコラ」

 

 

そのピクニック気分を更に強めるかのように、隣でちゃっかり先にお昼をいただいてる常坂家の3人。

 

うん、なんか何時の間にかいたんだ。あと、割と多目に作ったから唐揚げは別に持って行っていい。

 

そして肉詰めピーマンをくれ。それ絶対に絶品だから。おれの絶品センサーに目茶苦茶反応してるから。

 

 

「海央ちゃんから昨日連絡が来まして、どうせなら御一緒しましょう!って」

 

「あのアホ、それならそれで事前に言っておけよ。……くぅ、やっぱり絶品だ、この肉詰めピーマン……!」

 

「灯火の唐揚げもめちゃくちゃ美味いぞ? 冷めててもしっかり口の中で旨味が広がるし肉も柔らかいし。な、そら姉」

 

「うん、ばっちりだよー! これは花丸かな? よくがんばりました♪」

 

「あざっす!!」

 

「驚くほど綺麗なお辞儀をしましたね……」

 

 

なにを言う二乃。尊敬する料理人からのお墨付きを頂いたのなら、しっかりと頭を下げて礼を言うのは当然だろう。

 

うん、頑張ったかいがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 26-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「____お昼だよ! あたし参上!!!」

 

 

おれが密かな達成感に満たされていると昇降口から飛び出して来た駄妹が、SSRのテントの前で急停止してから、またまた仮面でライダーなポーズをビシッと決める。今度は恐らく2号のポーズだろうか。

 

まぁ、それはそれとして、

 

 

「腹減ってたのは分かるが、埃が舞うから少し大人しくしとけこのアホ」

 

「あ、ごめんごめん!」

 

「ミオちゃん、メッ! だよ?」

 

 

流石に悪いと思ったのか平謝りする妹分の髪をワシャワシャと撫でてから、小皿と箸を渡す。

 

それを受け取った海央は、早速目を輝かせながらまず唐揚げをパクっと食べると、「んーっ♪」と、なんとも幸せそうに破顔する。気に入ってもらえてなによりだ。

 

 

「って、あれ、ひよりん先輩は?」

 

「美嶋さん呼びに言ってるよ。そのうち来るだろ」

 

「ああ、灯火が珍しく弁当を作ったかと思ったら、早速白河の依頼の件で動いてたんだな」

 

「まぁな。取り敢えず今日はお昼を一緒に取る予定。少しでも会話が出来るようになれば御の字だな」

 

 

とはいえ、昨日のあの様子だと長期戦も覚悟すべきだろう。

 

 

「普通に考えたら、たくさん時間を共有してもらって、慣れてもらう以外にないですもんね。それを考えるとお昼休みはうってつけです」

 

「……問題は、美嶋さんの『男性恐怖症』がどこまで酷いのか、だな」

 

「ですです」

 

 

下手すると食事所じゃなくなるんじゃ……って思わなくもない。そう考えると、海央だけじゃなくて二乃やソラさんなどの女性陣もいてくれるのはありがたいのかも知れない。

 

まぁ、取り敢えず今日は初日だ。そこら辺も含めて調べてみるか。……と、考えた所で屋上の扉が開いて、二人の女の子が姿を現す。

 

 

「ひよりん先輩ー!みうたーん!」

 

「やぁやぁ、皆さんお揃いで!」

 

「ひ、ひよりちゃん、足速いよぉ……!」

 

 

その二人とは勿論、白河と美嶋さん。

 

白河に着いてくるので精一杯だったのか、少し息が上がってるようだ。……そんな慌てて来る必要もなかったろうに。

 

 

「まぁまぁ、善は急げだよ未羽。と言う訳で芳乃、相席、構わないよね?」

 

「ああ、もちろん」

 

「___あ、ぅ、あうぅ……!」

 

 

美嶋さんと目が合うと、顔を真っ赤にして俯かれてしまう。

 

……うーむ、改めて直に確認してみたが、怖がられてるって感じじゃないよな、やっぱり。

 

なんというか、【恥ずかしい】 って感情な気がする。

 

 

「では、なんの問題もありませんね! そういう訳でよろしくです、海央ちゃんに常坂兄妹と逢見先輩も!」

 

「はーい!」

 

「おう」

 

「はい、よろしくです」

 

「大歓迎だよー♪」

 

 

既に来ていた他のメンバーも白河達を歓迎し、おれと海央の前のベンチに白河達も座る。

 

持ってきたのは、どうやら購買のサンドイッチらしい。

 

育ち盛りの男子から見ればそれだけというのは流石に足りないと思うので、昨日言った通りに御裾分けと行こう。

 

 

「食いしん坊用におにぎりとか唐揚げとか多目に作ってるから、そっちも食べてくれ。因みに唐揚げはさっき逢見先輩から花丸貰ったたから期待して良い。どやぁ」

 

「うわっ、かつてないほどのドヤ顔してる!?」

 

「と言うか食いしん坊って、もしかしなくてもあたしのこと!?」

 

「そら姉に太鼓判を押されたの、どんだけ嬉しかったんだよ……」

 

 

そりゃ、ばあちゃんに次いで料理で尊敬してる人から褒められたら嬉しいだろ? あと海央、おのれは間違いなく食いしん坊だ。おのれが来てからエンゲル係数がどれだけ上がったと思ってやがる。

 

おにぎりは……まだまだ修行が必要だな。ばあちゃんやソラさんの領域はかなり遠いらしい。

 

 

「ま、まぁ、確かに、と言うかホントに美味しそうだね」

 

「う、うん。……とっても」

 

 

美嶋さんが唐揚げに目を向けたと同時に、その美嶋さんに分からないように巧妙に隠れながら目配せをする白河。

 

つまりはアイコンタクト。それなりに長く一緒に行動してただけであって、その意味は問題なく通じた。

 

新しく取り出した箸で唐揚げを予備の小皿に入れて美嶋さんに差し出す。

 

 

「取り敢えず食べてみ。量はあるからさ」

 

「え、あ、……は、はい、いただきます……」

 

 

おずおずと小皿と箸を受け取ってから、唐揚げを取ってそれを口に入れ、控え目に咀嚼を始めた美嶋さんが、目を見開く。

 

 

「……! お弁当で冷めてるのに、旨味が出てて、すごく美味しいです、この唐揚げ……!」

 

 

それからパァ……! と、花咲く様な笑顔を見せてくれる。

 

……うん、これだけ喜んでもらえたら作った甲斐があると言うものだ。

 

心なしか、美味しいもの効果もあって先程よりは距離が近づいたのかも知れない。

 

 

「……全く、なってないなぁ芳乃は。ここはもっと積極的に行くべきだと思うんですよ」

 

 

でも、何故か白河はどこか不満そうな表情を浮かべ、そんなことをのたまい始めた。

 

 

「なんだよ、積極的なことって」

 

「屋上でお昼を一緒にするイベントなら、『あーん』くらいはしてもいいんじゃないかと」

 

「なにを言っとるんじゃおのれは」

 

 

悪戯顔な恋愛請負人の唐突な提案に、思わずチベットのスナギツネみたいな表情になりながらツッコミを入れる。

 

や、ホントになにを言ってるのか、コイツは。

 

 

「ひよりちゃん!? ほんとになにを言ってるの!?」

 

「いやー、この手のシチュエーションならやるべきじゃないかなって思ってさ」

 

「初っ端からハードル高過ぎるわ! いや初っ端じゃなくてもやらんわ!」

 

「なんでだい? そんな恥ずかしい事でもないでしょうに」

 

「そういう問題じゃねぇ。と言うか、いきなりおれがそれやっても美嶋さんは困惑するだろうが」

 

「そうかな? ボクなら普通に食べるけど」

 

「……言ったな貴様?」

 

 

よーし、分かった。おのれがその気なら真正面から迎え撃ってやろうじゃねぇか。

 

少しバカになってる気もしなくもないが、取り敢えず“自分が使ってる箸のままで”唐揚げを摘んで白河に向ける。

 

恋愛請負人を自称してるんだから、流石に意味が分かるはず。いくらなんでも気付かない訳が無い。

 

……しかし、それはあまりにも甘い、チョコよりも甘過ぎる見通しだった。

 

 

「はぷっ♪」

 

 

と、躊躇もせずにそのままノータイムで差し出した唐揚げにパクっと齧り付き、もっきゅもっきゅと咀嚼を始める白河。

 

……嘘だろ、ホントにやりやがったよコイツ。マジで迷いなしかい。

 

思わず周りの常坂家も美嶋さんも、そして勿論おれも啞然とする。海央だけは専用の爆弾おにぎりを食べるのに集中してたが。安定の海央である。

 

で、咀嚼を終えて唐揚げを飲み込んだ白河は驚いたように目を丸くしていた。

 

 

「驚愕っ、ホントに美味しいですねこの唐揚げ! 味付けが絶妙で……って、みんなどうしたの?」

 

「いや、豪胆過ぎるなって」

 

「と言うか、大胆ですよね」

 

「あらあらー♪」

 

「? 疑問。なに、ホントにどうしちゃったのみんな?」

 

「……あのね、ひよりちゃん、それ、芳乃先輩と、か、間接キスになるんじゃないかな……?」

 

 

本気で気付いてない白河に、美嶋さんがおずおずと決定的な真実を告げる。

 

 

 

 

「?____っっっ!??!」

 

 

 

 

それから、ようやく自分が何をしたのか気付いたのか、顔を赤く、それはもう林檎のように真っ赤にする白河。……なんとも新鮮な表情である。

 

おれは思わず天を仰いだ。自分の顔も真っ赤になってる気がしなくもない。人並みの羞恥心はおれにもあるのだ。

 

と言うか、この恋愛請負人、自分のことにあまりに無頓着過ぎないか……? あれで気づかないのは想定外も良いところだ。

 

兎にも角にも、天を仰ぎながらでアレだが、コレだけは言わねばなるまい。

 

 

「……それで、感想は?」

 

「……とっても、美味しかったです」

 

「味の感想ありがとう。でもそっちじゃなくて今の一連の流れについて所感を述べよ」

 

「………………大変、居た堪れなくなりましたです、ハイ」

 

 

理解してくれた様で何よりだ。

 

でも出来ればもっと早く気づいてほしかった。仮にこんなん美嶋さんにやったら許容オーバーするだろう、多分。

 

二乃やら逢見先輩(ソラさん)からの生暖かい視線が、今はなんとも辛く感じる。

 

やめろ見んな、頼むからコッチ見んな。

 

 

「〜〜〜〜っっっ!? なんで言わなかったんですか芳乃ぉ!?」

 

「おれに当たるな逆ギレすんなッ! つか、おのれこそ恋愛請負人を自称しててなんで気づかなかったんだよ!?」

 

「あくまで未羽がするのを想定してたのでボク自身は全く想定してませんでしたので!それはそれ!これはこれです!」

 

「全く持って弁明になってねぇぞオイ!」

 

「いつもの頭の回転の早さはどうしたんですか! そこは分かってくださいよゴリラー!」

 

「誰がゴリラじゃ誰がー! 高層ビル登って上から樽とか落としたろかコラぁ!」

 

「初代ドン◯ーコング!? いやだから結局ゴリラじゃないですかゴリラー!」

 

 

顔の熱さを誤魔化す意味も兼ねて、同じく顔真っ赤な白河とギャーギャー言い合う。バカ丸出しで全く持って建設的じゃない。

 

つか、これに関しては流石におれ悪くないと思うんだが!?

 

 

「……やっぱり、仲が良いですよね」

 

「みうたんもそう思う? 二人とも絶対に無自覚だよねー」

 

「海央さんから見て、どう思います?」

 

「いっそ、くっついてくれた方があたしとしては安心出来るかなーって思ってる」

 

「そう、ですね……。芳乃先輩なら……」

 

 

そんな会話が繰り広げられていたが、おれと白河の耳には入ってこず。

 

結局、お昼休みが終わるギリギリまで、この言い争いは続いたのだった。

 

なお、残ってたおにぎりと唐揚げは常坂家の皆と大部分は海央が処理したためお残しはなかったとさ。

 

おのれの胃袋どうなってんの……?

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

___なんてことがあった昼休みから時間は進み、夕方。

 

 

 

「ちょっと作戦を練り直すので、また夕飯の時に!」

 

 

とのたまいながら、泉ちゃんの指名により二乃と共に教材の整理のために教室から出た白河。

 

昼は大変取り乱していたみたいだが、どうやら持ち直したらしい。ただ、色々と作戦を考え直すとのことで今日はSSRに行くのを休むみたいだ。と言うか、とうとう海央が連れてこなくても自分から夕飯とか食べに来てないか……?いや良いんだけど今更だし。

 

かくいうおれも昼からの授業中に瞑想を行なって冷静さを取り戻した訳だが、さて。

 

叶方も今日は用事らしいし、杉並も遅れるそうだ。海央とソラさんもいなければ、今は一登と有里栖しかいないだろう。

 

 

「取り敢えず、おれもSSRの溜まり場まで行くかねっと」

 

 

今はどうせ魔法使い関連の事には関わらせてくれないだろうからな。大人しく学生して英気を養うしか無い。

 

と言う訳でカバンを肩で担いで教室から出た所で、ふと見知った顔にばったりと出会う。

 

 

「って、鳳城?」

 

「こんにちわ、芳乃さん」

 

 

そこにいたのは小柄で片目が隠れたヘアースタイルの、実は魔法使いの少女、鳳城詩名だった。

 

直接話すのはレジェンドバトルの時に詫び和菓子渡した時以来か?

 

 

「ちょうど良かったです、少し聞きたいことがあったので」

 

「おれに?」

 

 

なんだろうか? 取り敢えず教室の出入り口を占領するのは良くないので屋上までの昇降口へと移動する。

 

 

「なんだ、とうとう杉並に屈してSSRに入るのか?」

 

「入りませんし、そもそも屈してません。屈する予定もありません」

 

「ツッコミの切れ味は相変わらずだな。いや、だからこそ杉並が目を付けてるんだろうけど」

 

「……それを聞いて、余計に入る気なくなったんですけど」

 

 

心底嫌そうな顔を浮かべる鳳城。そろそろ杉並はストーカーとして訴えられそうな気がする。

 

 

「って、無駄話はいいんです。芳乃さんは氷室さんがどこに行ったか知りませんか?」

 

「氷室?」

 

 

鳳城からその氷室の名前を聞いて少し驚く。って、そういや同じクラスだったか。

 

 

「……今日、氷室さんは学校を休んだのですが、プリントを何故か私が預かってしまいまして。連絡先を知らなかったのであなたに聞けば分かるかなと……その、同じ魔法使いとのことですし」

 

「……氷室が魔法使いなこと、知ってたのか?」

 

「以前、芳乃さんにバレた時と同じ様な事がありまして。それ以来、少しお話する様にはなりましたね」

 

 

あー……、例の手鏡の魔法か。なるほど、氷室も幼い頃から修行を積んでる魔法使いだからな。近くのマナの流れには気付くんだろう。

 

 

「___って、氷室の奴、今日学校休んでるのか?」

 

「その様子だと、芳乃さんも知らない感じですね」

 

「ああ。……あ、連絡先なら一応聞いてるから、ちょい待ってな」

 

 

TABの画面からCOMUを立ち上げて通話モードで氷室にかける。

 

 

『芳乃か、何かあったのか?』

 

 

ものの数コールで出た氷室。その声には特に何か調子が悪いとかそんな感じもなく、普段のクールな氷室の声そのものだ。

 

 

「いきなり悪いな。鳳城からおのれの連絡先を聞かれてな。教えても問題ないか? ……つか、今そこにいるからちょっと代わるわ」

 

『……鳳城さんが?』

 

 

不思議がる氷室の声は取り敢えず置いておき、TABをそのまま鳳城に貸す。

 

おれからTABを受け取った鳳城はそのまま氷室と話し始めた。

 

 

「もしもし、電話変わりまして鳳城です。……学校を休んだ割には元気そうですね氷室さん」

 

『……あー、すまない、少しばかり調べ物があったんだ』

 

「と言うことは、特に体に不調があった訳ではないと」

 

『ああ、それでどうしたんだ?』

 

「氷室さんの提出物のプリントを何故か私が預かってしまったので、届けたいのですが何処に行けばいいです?」

 

『……学生やるのも大変なんだな。すまない、寮……にまで行かせるのもアレか。時間はまだ大丈夫そうかな?』

 

「バイトまでにはまだ時間がありますよ。どこかで待ち合わせしましょうか。ついでに手数料として何か奢ってください」

 

『……承知した。水鏡湖の近くにいるから公園で落ち合わせようか』

 

「では、クレープですね。楽しみにしときましょう……♪」

 

『…………御手柔らかに頼みます』

 

「それはその時次第で。はい、では後で。___あ、すみません芳乃さん、終わりましたのでTAB返しますね……って、なんですその顔?」

 

 

そんな会話が終わった後、戻って来たTABを受け取りながら、おれは少し目を丸くしていた。

 

……目の前で堂々と逢引の約束をする男女を目の当たりにした時、どんな反応をすればいいのだろうか。白河が見たら目を輝かせるに違いない。

 

それに、なんというか、以外だった。

 

 

「氷室と仲良いんだな。おれ、アイツのことはまだあまり知らなくて、少しびっくりした」

 

 

おれから見た氷室はクールな見た目と喋り方をする物静かな魔法使いと言うイメージだ。それが鳳城と話してる時は多少言葉は硬いけど年相応の少年のような感じがしたので少し驚いた。

 

まぁ、大体氷室の何百倍もうるさくて存在感アピールしてるあーぱー女がセットでいることが多くて、奴の印象や存在感が薄くなってるせいなのだろうが。

 

……哀れ、氷室。でも恨むならあーぱー女と一緒の任務にしたおじさんを恨んで欲しい。

 

 

「私も、そんなに話してる訳じゃありませんよ。……ただ、何かとお世話になることが多いので、気がついたら普通に話せるくらいには」

 

「まぁ、何だかんだアイツもお人好しの系譜っぽいしな……」

 

 

そもそもからして、氷室が真っ当な正義感の持ち主だって言うのはトカゲ退治をした時から思ってた事だったりする。

 

でなければ、【防人】として誰かの為に戦う道なんて選ばないだろう。…………【防人】全員が氷室や盾石、そして海央やおじさんみたいな奴らなら問題ないんだけどな。

 

 

「とにかく、お手数をお掛けしました」

 

「あいよ。……あ、そうだ、ついでだから氷室に伝言頼んで良いか?」

 

「伝言、ですか」

 

「ああ、『進展があれば必ず言え』で頼む。それで通じる筈だ」

 

 

奴が学校休んでまで調べる事なんて一つしかない。

 

あの3人の事だ。おれ抜きであわよくば【人形遣い】を討伐することも考えてそうだし。

 

 

「……なんだか分かりませんけど、伝えておきますね」

 

 

首を傾げつつも「それでは」とこの場を後にする鳳城。

 

と、それと入れ替わる様に下の階段から、それも見慣れた顔が数人やって来る。

 

 

「あれ? 灯火さん、今鳳城さんと一緒にいました?」

 

「ああ、今日学校休んだ氷室って奴に渡すプリントとかあるみたいでな。連絡先知ってたから頼み聞いてた」

 

「同士・氷室か。確かに今日は学校に来てなかったみたいだが。なるほど、だから俺の顔を見るなり急いで下に降りていった訳か」

 

「それ多分、おのれが鳳城から避けられてるだけだと思うぜ?」

 

 

どんだけ苦手意識持たれてんだよ杉並。あと氷室が同士扱いされてるのは絶対に氷室本人は認めてないだろ。

 

そう、下からやって来たのは二乃に杉並、海央にソラさんだ。

 

どうやらそれぞれクラスの用事やらで遅くなってたらしい。

 

 

「ジン先輩としぃしぃ先輩、仲良いのかな?」

 

「しぃしぃ……ってまた妙な渾名を付けやがってコイツは」

 

「あ、これちょこから聞いた呼び方だよ! ちょこ、しぃしぃ先輩とも仲良いみたいなんだー」

 

「……性格真逆な気がするが、あの二人」

 

 

いやだからこそ仲が良いのか?

 

深く考えると逆に沼に嵌りそうなので、程々に思考を断ち切っておく。

 

 

「そう言えば、同士・氷室と盾石嬢は同じ時期に転校してきたそうだが……氷室も盾石嬢と同様、芳乃の実家と関わりがあるのか?」

 

「そんな所だ。盾石と違っておれは面識が無かったけどな。海央の方が付き合いは長い」

 

「と言っても何度か家業で一緒に仕事したぐらいだよ?」

 

「……今まで聞かずにいましたけど、海央ちゃんの家、と言うか灯火さんの実家って何してる所なんです?」

 

 

二乃の質問に対して、一度海央と顔を見合わせてアイコンタクトしてから、代表して海央が答える。

 

 

「……なーいしょっ♪」

 

 

人差し指を口許に当ててウィンクし、更にペロッと舌を出してからタッタッタッと階段を上がる海央。

 

一瞬、虚を突かれた二乃は数秒固まってからハッと再起動を果たして、「ちょ、そんなあざといけど可愛い仕草では誤魔化されませんよ!?」と言って顔真っ赤で海央を追いかける。

 

 

「……ふむ、もしや、“ヤ”の付く自由業とやらか?」

 

「安心しろ。流石にそんなんじゃない。……ただ、話せないだけだ」

 

「ふむ、まぁ、気が向いたら調べてみるか」

 

 

……などと言ってるが、コイツもなんだかんだ人が本気で嫌がることには余程のことじゃない限りは触れない。

 

基本的に愉快で意味不明な変人ではあるが、コイツもコイツで、大概お人好しなのだ。だからこそ悪友になれてる訳だが。

 

因みに詳細を知ってるソラさんだけは苦笑するに留めている。

 

……そんなこんなで海央と二乃を追う形で屋上へと向かうことに。

 

重苦しい鉄扉は既に開いており、そこから外へ出ると冬から春へと切り替わる間際の独特な空気に満たされる。

 

いい風吹いてるなぁと思いながら、SSRの溜まり場に目を向けて見ると___

 

 

「……なんで顔真っ赤になってんだよ、おのれら?」

 

 

そこには、有里栖と一登が揃って顔を真っ赤にしており、思わず首を傾げる。

 

 

「き、気のせいだ」

 

「う、うんうん! そうそう! ほら、ちょうど飲み物の準備をしようと思ってたところだから、みんなの分も用意しちゃうねー!」

 

 

そう言って逃げる様にテントに入る有里栖。

 

 

「なんか……怪しいですね……?」

 

「なんもないわ。皆来るのが遅いなって、待ってたんだよ」

 

 

一登はそう言うが、二乃の言う通り怪しさ全開だった。

 

……ふむ、ここはおれ達が来る前になにかラブコメ的なイベントでもあったと見るべきか。

 

白河がいたなら何か目敏く気付きそうだけど、今日はアイツいないからな。

 

追求して弄り倒すのも悪くないが、おそらく今日それをすると昼間のことを逆に蒸し返されるので自重しておくか。

 

そのまま有里栖の持ってきてくれたドクペ(お徳用)を受け取りながら、その独特な甘さを楽しむ。

 

アメリカンチェリー風味で癖は確かに強いし人を選ぶ味だと思うが、おれはそれが好きな方らしく飽きずに飲むことが出来ている。

 

一度、海央が飲んだ時は二口くらいでギブアップしてたな。

 

 

「そう言えば、昨日の話……ワンダーランドのやつ。あれ、やってみることにするよ」

 

 

飲み物で一息ついたタイミングで、一登が有里栖にそう話を切り出す。

 

保留にしていた有里栖からの依頼だったな、確か。

 

 

「あ、うん。本当に大丈夫?」

 

「ああ、良いか?」

 

「もちろん。もともとこちらからのお願いだしね。うん、判った、研究チームに伝えておくね」

 

 

どこか嬉しそうにはにかむ有里栖。

 

さて、そうなると今SSRは白河の依頼をおれが。有里栖の依頼を一登がそれぞれ担当することになるのか。

 

 

「…………むぅ」

 

「まああれだ。SSRの依頼を俺が代表して受けてるようなもんだよ」

 

「……判ってます」

 

 

二乃は異議がありそうだったが反論する要素がなくて黙っていたらしい。

 

一登と過ごす時間が少なくなることを危惧してるのだろうか。……やっぱり一登大好きだよなぁ、この妹さん。

 

 

「そうそう、今日はちょーっと良いものがあるんだよっ?」

 

 

そう言って、ソラさんがカバンからタッパーを取り出すとパカッと開けて____!?!??!!?!

 

 

「じゃじゃーん! 手づくりクッキーでーす♪ コーヒーにもお茶にも合うよー」

 

「わわっ、そら姉のクッキー久しぶりです! 完全完璧に間違いなく美味しいんですよね!」

 

「クッキー見た瞬間にお兄ちゃんが停止したから、紛れもなく絶品です!?」

 

「……灯火の絶品センサー、相変わらず絶好調だな」

 

「これは、ご相反に預からない訳にはいかないな」

 

「叶方君、それからひよりんも、これを逃すなんて残念だったね、ふふっ」

 

「評判よかったら、また作ってくるねー♪」

 

「____ハッ!?!? 意識、飛んでた……!?」

 

「ブレないよな、お前も」

 

 

……そんなこんなで、このあとはソラさんが持って来たクッキーに慄きながらも舌鼓を打ち平和に雑談を楽しむのだった。

 

やはりと言うか、そのクッキーは絶品そのものであり、おれはまだまだ未熟だと思い知らされつつも、その美味しさに幸せを感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「___と、言う訳でひよりん先輩の依頼初日は大失敗しました、まる!」

 

「完全にラブコメやなあ♪ 今度トーカ君に会ったらからかったろーっと♪」

 

「……目茶苦茶楽しそうですね、盾石先輩とお嬢」

 

 

 

___その日の夜。日付の変わる頃。

 

 

 

昼休みに起きた喧騒は今はなく、静かとなったSSRのテント前に、二人の魔法使いの笑い声が響く。

 

今後このネタでからかわれるであろう芳乃には静かに合掌を捧げるしようか。

 

無論、人払いの結界は貼ってあるので、見つかることはまずないだろう。

 

 

「夕飯の時も、それはそれは楽しそうに次の作戦会議してたけど、あれは多分またやらかしそうかな?」

 

「前途多難だな……それで、その芳乃の様子はどうなんです、お嬢。夕方に声を聞いた時は、それなりに元にもどってそうでしたが」

 

 

僕___氷室仁は、今の所SSRとは特に関わりを持たずにいるので、普段そこにいる芳乃の様子は分からない。

 

杉並とか言う訳の分からない存在から勧誘を受けているものの、のらりくらりと躱してるのが現状だ。

 

と言うか、そもそも今日は学校休んでるしな。

 

 

「うん、少しは休めてると思う。でも、なんだろう……根本的な所は変わってない感じがするんだ」

 

「人の在り方が一朝一夕で変わったりはせえへんよ。取り敢えず、今はトーカ君を戦場から離しとかへんと。本番前に倒れるんが一番不味いし」

 

 

盾石先輩の言う通り、芳乃の持つ“ある魔法”を使わない限りは、例の先視の通りになるしかない。

 

それを避けるためにも、芳乃には今この場で力を出し切られては困るんだ。

 

 

「うん、分かってるよ。……それで、ジン先輩の方はどうだったの? 今日は1日使って島を探索してたんでしょ?」

 

 

学校を休んだ理由は“人形遣い”の索敵だ。

 

未だに手掛かりが少ない事もあったし、暫くは怪異も出ないとは分かってるとは言え、探さない理由にはならないからな。

 

芳乃と違って僕はこの学園ではまだ友人も少ないし……決して、ぼっちではないことは明言しておこう。とにかく学校を休んだ所で、まだしがらみは少ない。

 

…………ここ最近で話す機会の多くなった鳳城さんには、色々と追求されたが、なんとか誤魔化せた。

 

 

___閑話休題。

 

 

兎にも角にも索敵の結果だな。

 

 

「申し訳ない、結論から言えばなんの成果もなかった」

 

 

それなりに広いこの島を1日かけて回ってみたが、逆に不自然なくらい痕跡がなかった。

 

 

「んー、やっぱりかぁ」

 

 

しかしそれは二人も予想してたみたいで、あまり落胆した様子は見られない。

 

 

「そもそも一度お嬢と芳乃で探索はしてたんでしょう? 僕は地脈的にマナの多い場所を探ってみたけど、やはり何も見つけられなかった」

 

「うん。……でも、そうなるとやっぱりこの島にはいないってことかな?」

 

 

魔法使いとしての視点から見て、その違和感を炙り出しただろうお嬢が言葉を紡ぐ。

 

 

「怪異を呼び出すほどの魔力を使って、一度目以外の痕跡がないなんて、まずあり得ないよね」

 

「一度目はトーカ君の目の前で怪異が発生したから痕跡はあるわな。でも二回目は? 海から来たサメの怪異には予兆がなかった」

 

 

そこは芳乃も違和感を感じていた部分だったな。

 

それも踏まえた上で現時点での結論を出してみると、自ずと答えは一つになるだろう。

 

 

「となると多分、“人形遣い”は海の上やな。お船でプカプカ浮かんで高みの見物決めてると見たわ」

 

「僕もそう思います。確か、海にもマナの流れがありましたよね。あれを利用すれば、怪異を起こせるほどの魔力は調達出来るはず」

 

「“海脈”、だったかな? 地脈の海バージョン。……でもあれって特定が難しいんじゃ……」

 

「そこやねんな、問題は……!」

 

 

少ない情報でも大まかな場所は恐らく分かった。

 

けど、それまでだ。これ以上は更に情報がいる。

 

 

「感知を広げたいけど、島から出てまうと感知魔具のマナの補充が出来ひんからなぁ……」

 

「それ以前に宛もなく海を探すと言っても無茶でしょう」

 

「【先視の魔法】も、ダメだね。あたしどころかお父さん……当主でもピンポイントで探すとなると情報が足りないよ」

 

 

となると、やはり打つ手なしか。

 

……あわよくば、芳乃を休ませてる間に僕達で“人形遣い”を仕留めたい所だったが、ままならないものだな。

 

最も、鳳城さんからの伝言を考えれば、見破られてるみたいだが。

 

 

「こうなると、やっぱり向こうからのアクションを待つしかあらへんな……」

 

「【防人(サキモリ)】の本部の方はどうなんです?」

 

「当主様からの極秘通信やと、咲三灯真のシンパの動きが活発にはなっとるみたい。あくまで当主様の主観からやから、実際どうなってるか分からへんのが現状やな」

 

 

向こうも向こうで鉄火場らしい。

 

本当に面倒くさい存在だ、咲三灯真と言う男は。

 

実質的に【防人】を裏切ったって言うのに、影響された者達も揃って内在的な敵となっているのだから。

 

 

「……いっそ、今の内に始末するべきではと思うんですが」

 

「同感、やけど無理やなぁ。【防人】で封印処理こそされてるものの、身柄そのものは国の預かりやからな。まだ余罪もあるらしいから10年近く経っても取調やってるみたいやし」

 

 

【防人】は魔法使いや怪異専門の治安維持組織だが、その実、国からの支援を受けてる非公式の公僕とも言える。

 

表向きの政治系統には組み込まれてはいないし、“他の裏組織”とも普段は関係ないが、有事の際には協力する必要があるし、咲三灯真のように表にも裏にも甚大な被害をもたらして余罪も確認される者を捕らえれば、基本的に国の預かりになってしまう。

 

その余計なしがらみが、今はもどかしい。

 

 

「……やっぱり、少しずつトーカ先輩の視た未来に近づいているんだって感じるよ」

 

 

……先視の魔法の恐ろしい所だな。なんであれ、視た未来が必ずやって来ると言う、ある種の呪いとも言える。

 

それにずっと縛られていた芳乃の重責は、僕達には計り知れない。……ホントに、よく狂わずにいたと思う。

 

 

「とにかく、明日からはあたしも見回り再開するね」

 

「何かあれば連絡の徹底やな。今は少しでも手掛かりほしいし」

 

「盾石先輩は感知もあるから、取り敢えず僕とお嬢でローテーション組んで、芳乃もある程度休ませて大丈夫そうなら3人で組んで回ろう」

 

 

取り敢えず今後の予定を決めて、この日は解散する。

 

寮に戻る前に、夜の屋上から香々見島を見下ろす。

 

平和そのものの光景。

 

 

 

出来ることなら、明日も、その先も、この平和が続くことを願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

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