D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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EPISODE 27

 

 

 

「___すごく、暇ですね」

 

 

 

香々見島から離れた海に浮かぶ、住居と移動手段を兼ねた船の甲板にて。

 

その男____【人形遣い】と呼ばれる魔法使いは、ビーチチェアに寝そべりながら、湧き出る退屈感に負けて、とうとうその言葉を呟いてしまった。

 

 

「マナの残骸による一時的なマナの枯渇で“実験”が出来ないとはいえ、この退屈には困ったものです。……ああ、暇だ」

 

 

持ち込んだ本はそもそも既に読んだことのあるものばかりで、暇を潰せるものではなかった。

 

大海原の上にいる以上、新たな娯楽を調達する事も不可能。

 

加えて今、【人形遣い】に命じられた事は二つある。

 

一つは“人形遣い”の魔法を使って創られた“作品“による怪異の起動実験。

 

これは現在、マナの残骸が降り注いだ事により香々見島のマナバランスが崩れているため実行することが出来ない状態にある。

 

マナバランスが戻るまで、最低でもあと数日は必要だろう。

 

そしてもう一つは……

 

 

「……ふむ、どうせ実験が出来ないのなら、直接ちょっかいでもかけますか」

 

 

呟いたものは何気ないものだったが……考えてみれば悪くはない。考え始めていた。

 

なにせ、命じられた事の一つには、あの島にいる魔法使い達の調査も含まれているからだ。

 

 

「怪異越しで”あの男“の息子と、その取り巻きをからかうだけでは物足りないとも思っていた事ですしねぇ……悪くない。クククッ、アハハハッ! 」

 

 

思わず楽しくなって来て、【人形遣い】は笑い出す。

 

それは単なる思い付きに過ぎない。本来の計画には入ってない行動。

 

だと言うのに、男は何も気にすることなく船内に戻る。

 

そこに収められた彼の”コレクション“。その内の一つ、精巧に作られた人形の頬を撫でる。

 

 

「せっかく暇を潰せそうな妙案が思いついたのです。愉しまなければ損というもの」

 

 

そう言って【人形遣い】は、愛おしそうに、軽薄そうに、相反する感情が滲み出る不気味な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 27-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んーー……っ! 一登と有里栖、それに杉並や白河もいねぇとなるの、なんか広く感じるなぁ」

 

 

背伸びしながら普段は居るはずの四人がSSRの溜まり場にいない事に違和感を抱く。

 

いや、杉並と白河は単独行動が多いんだけども。

 

 

 

3/6 水曜日 晴時々曇。

 

 

___時刻は放課後。日に赤が差し始めた頃。

 

 

 

「先輩たち、今頃頑張ってるかな?」

 

「どうだろうねー? 今日は初日みたいだしね」

 

「……兄さんたちが気になるのは同意しますが、二人とも、なんで私にくっつきながら話してるんです……?」

 

 

二乃の言う通り、二乃を挟むように海央とソラさんがくっついている。それでいて二人ともやけにニコニコしている。

 

 

「二乃にゃん先輩、ハグって幸せな気分になるよね?」

 

「はい?」

 

「それでそれで、挟み込んでハグしたら2倍幸せになるかなーって。と言う訳で行くよ海央ちゃんっ! ぎゅー♪」

 

「ぎゅーっ♪」

 

「わ、わぷっ!? 言いたいことは分からないでもないですけど無理矢理感が半端ないですよー!?」

 

 

海央(妹属性)とソラさん(姉属性)がそれぞれ二乃にぎゅーっと抱きつき、常坂家+αな美少女サンドが完成する。

 

何やってんだか全く……。

 

 

「なんつーか、海央の馴染みっぷりがホントに半端ないな……」

 

「3人とも、なんだか本当の姉妹みたいだよね」

 

 

叶方の言葉に頷く。アイツの人懐っこさのステータスは恐らく上限突破してると思う。

 

二乃も二乃で嫌そうにはしておらず、なんというか照れ隠しで言ってる感じだし。

 

ホントに叶方の言う通り、仲良し三姉妹って感じがして___

 

 

 

 

 

 

『今度、トーカくんにも紹介するね? 私の大好きな家族のこと! お兄ちゃんに二乃ちゃん、それとそら姉も!』

 

 

 

 

 

 

___ふと、そんな言葉を思い出す。

 

あんな事故さえ起こらなければ、“あの子”も、きっと海央とも仲良くなってあの場に混ざっていたのだろう。

 

二乃よりも性格的な要素が近いだろうし、親友にでもなってたかも知れない。

 

家族の事を語る時に見せた、あの気の抜けたふにゃっとした笑顔で、なんでもない話でも皆と楽しそうに笑って……。

 

それは、あり得たであろう未来の幻視。

 

 

 

 

そして、おれが潰してしまった未来そのものだ。

 

 

 

 

「灯火、どうかしたの?」

 

 

ふと、隣りに居た叶方から声を掛けられる。

 

いけない、呑まれていた。

 

 

「……なんでもねぇよ。今日の献立どうするか考えてたら長考しちまっただけだ」

 

「そう? なら、良いけどさ……。あ、リクエストありならシャケにしようシャケ!」

 

「良いな、シャケの塩焼き……いや、きのこも入れてバターでホイル焼きにするか」

 

「やりぃ!」

 

 

叶方のリクエストにより今日の夕飯が決まる。後でシャケを買いに行くか。

 

……切り替えは大事だ。何時までも過去の記憶に引き摺られて今の時間まで台無しにしてやるつもりはない。

 

それが、数秒とは言え未来を視る目を持つ者としての考え。

 

クソオヤジの呪いも、母さんの死も、なんとか飲み込める。

 

けれど、あの子の顔が脳裏に浮かぶ度に思ってしまう。

 

 

 

 

___なんで、あの子が死ななきゃならなかったんだろうって。

 

 

 

 

今更どうしようもないのに、覆すことは出来ないのに、その後悔だけはずっと……おれの中で燻っているままだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

そんな、ふと抱いてしまった感傷をどうにか振り切り、今日の活動……と言う名の駄弁りは終了して、そろそろ帰ろうかと屋上から下りてきたら……。

 

 

「白河ひよりさん! 待ちなさ〜〜〜いっ!」

 

「「「待ちなさ〜〜〜いっ!」」」

 

「不正解も不正解! 待てと言われて待つやつはいないのさ!」

 

 

反対側の昇降口からこっちに向かって来る一団。

 

もう声で分かると思うが、恋愛執行を終えて逃げる白河とそれを追う美嶋さん率いる風紀委員ズである。

 

 

「またやってら」

 

「ひよりん先輩もみうたんもがんばれー!」

 

「海央ちゃん、無邪気過ぎない……?」

 

「懲りないですね、お互い」

 

「あはは、あの二人だもんねえ」

 

 

おれに連絡が無かったから、今日は脱出ルートを確保していたのだろう。

 

まぁ、あんな危険な飛び降りまがいなことは、しないのが一番なんだが。

 

そんなことを考えている間に、風紀委員ズより足の早い白河が美嶋さん達を引き離してコチラに向かって来る。

 

 

「おっと、SSRの面々じゃないですか!」

 

「おのれもSSRだろうが、全く」

 

「ふふ、そうでしたね。……あ、ちょうど良いかも。例の件も兼ねて未羽の相手を適当にお願いします!」

 

「はいはい。……あ、夕飯はシャケときのこのバターホイル焼きだからな」

 

「感激! それは楽しみですね! では!」

 

 

短くやり取りを交わしてから、白河はおれ達に隠れるように動きながら階段を一気に駆け下りる。……また足を踏み外すなよ?

 

それから少し間を置いてから、美嶋さん達風紀委員ズがやって来る。

 

白河と違い、美嶋さんの方は結構息が上がっている。

 

 

「はぁはぁ……よ、芳乃先輩……!」

 

「よ、こんちわ、美嶋さん」

 

「〜〜〜っ」

 

 

ものは試しと言うことで普通に挨拶をするも、やはり目が合いそうになるとサッと視線を逸らされる。

 

昨日の唐揚げ効果で少しは慣れてくれたと思ったが、やはりそう簡単には行かないか。

 

うーむ。……まぁ、一朝一夕で解決する問題でもないよな。

 

さて、そうなると、この場はどうするべきか。

 

 

「……! よ、芳乃先輩、ひよりちゃ___白河さんはどっちに行きましたか!?」

 

 

しかし、おれが考えを纏めるより早く美嶋さんが意を決して切り出しに来た。

 

恐怖心もしくは羞恥心をこの場で乗り越えたのだろうか。

 

…………だとするならば、真摯に向き合うのが筋と言うもの。

 

 

「白河なら階段を降りていったぜ? 今から行けばギリギリ間に合うんじゃねぇかな」

 

「…………ぇ」

 

「? どうした?」

 

 

素直に答えてアドバイスもしたら、何故かなんとも言えない顔を浮かべる美嶋さん。

 

思わず首を傾げていると、ハッとしてあわわわと慌てだす。

 

 

「い、いえ、ごめんなさい。芳乃先輩は白河さんの仲間というか相棒と言えますし、そんなに素直に答えていただけるとは思っていなかったので……」

 

「……まぁ、頑張って声をかけた後輩に嘘つくのも憚られるしな。それに____」

 

「それに?」

 

「正直に言えば、今から白河が捕まることはないだろ。ホントにヤバかったら連絡の一つや二つ、入れてくるはずだしな」

 

 

思っていたことをそのまま伝えると、美嶋さんは一瞬目を丸くして、それから穏やかに笑みを浮かべた。

 

 

「信頼してるし、されてるんですね、ひよりちゃんとは」

 

「なんだかんだ、一緒に行動してた期間が長かったからな。……なんならアイツ、海央につれてこられなくても最近は自分からウチに来て普通に飯を食って寛ぐし」

 

 

叶方と杉並と海央と白河、この四人で夕飯を一緒に取り、お茶で一服するのが最近の一日の締めとなっている。

 

因みに海央と白河はおれのベッドを占領してると言う。一応清潔にはしているが、おのれらな……。と、思わなくもない。

 

ホントにプライベートという言葉がない自室だ。大事なもんとかは“工房”に置くようにしてて良かったぜ、全く。

 

流石にそれには美嶋さんも苦笑したが、それから元の風紀委員としての顔を見せるとコチラにペコリと頭を下げる。

 

今この瞬間の美嶋さんは、恥じらいも恐怖心もなく、真っ直ぐおれを見据えていた。

 

 

「分かりました。芳乃先輩も今日は白河さんと関わってなさそうですし、私達はもう行きますね? ご協力ありがとうございました。……では皆さん、行きましょう!」

 

「「「了解であります!!!」」」

 

 

そう言って、美嶋さんはもう一度ペコリと頭を下げてから振り返ると、三つ子ちゃん達風紀委員ズと共に白河の向かった階段を駆け下りて行った。

 

 

「……って、今から行っても流石に追い付けないだろ」

 

「だよね。……にしても灯火ってさ」

 

「ええ、白河さんとは信頼し合ってますよね」

 

「や、信頼っていうかなんというか、経験?」

 

「経験から判断したって言うなら、やっぱり信頼してるんだと思うなー?」

 

「あたしもそう思うなー」

 

 

信頼、か。

 

なんというか、そう言われるとむず痒く感じる。

 

それが照れ隠しから来るものなのか、また別のものなのか、まだおれには判断がつきそうにない。

 

ただ、なんて言うんだろうな?

 

 

……悪くはない。とは思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

____そんな昇降口での一幕から暫くして。

 

 

時間は夕方真っ只中。なんならもう暗くなり始めている。

 

海央と叶方は真っ先に寮に帰り、おれは商店街へ本日の夕飯のメインであるシャケと、その他に必要な食材を人数分調達しに来ていた。

 

シャケは美味い。そして安い。美味しくて財布にも優しい優秀な食材なのである。

 

武器集めにアメリカに渡った時に紆余曲折あって資金は問題ないが、だからと言って無駄遣いをする訳には行かない。ばあちゃんからも金銭感覚はしっかり叩き込まれたが、節約する所はしっかりするべきである。

 

と言う訳で、シャケの他の食材を求めて八百屋やら肉屋やらも寄って、明日の夕飯の分の食材も調達して満足した所で、ふと見知った顔を二つほど見つける。

 

 

「む、芳乃か」

 

「こんにちわ、芳乃さん」

 

「氷室に鳳城じゃねぇか、よっす」

 

 

昨日も会った鳳城と、昨日は学校を休んでいたと言う氷室が、制服姿でなにやら商店街を歩いていた。

 

男女二人で学校終わりに並んで歩くとは……昨日の逢引発言といい、ホントに仲が良さそうだ。

 

そんなこっちの心境を察したのか、鳳城がジト目でおれを睨み始めた。

 

 

「……一応言っておくと、デートではありませんから」

 

「まだ何も言ってねぇんだが?」

 

「表情で物語っています。つまりダウトです。慰謝料を請求します」

 

「まずは弁護士を呼べ」

 

 

判断が早いがいくらなんでも横暴だ。

 

何をいつにも増してツンケンしてるのかと思ったが、なんとなく今日の放課後に姿を見せなかったトラブルメーカーのアホ1号の事を思い出す。

 

……や、まさかとは思うが……。

 

念の為に聞いておくか。

 

 

「……杉並辺りに揃って突っ込まれて散々からかわれたとかか」

 

「なんで分かるんですかっ!?」

 

「当たってるのかよ!?」

 

「……なるほど、芳乃の頭の回転の早さは、こう言う場面でも発揮するのか」

 

 

ふと浮かんだ推理を呟けば目を見開いてびっくりする鳳城と、なにやら静かに納得する氷室。

 

や、ビックリしてるのはおれもなんだが。ヤマカンが当たった気分。

 

 

「……どこかの自称探偵より探偵に向いてませんか?」

 

「それは流石に過言だな。情報収集と言う面でも、頭の回転の速さもアイツのがスゴい」

 

「その頭の良さは、随分と残念な方向へと舵が切られてるようですが」

 

「まぁ、それが杉並だからな」

 

 

そう言うアホな所も含めて杉並と言う男の味なのである。……当人に言うと調子に乗りそうだから絶対に言わないがな。

 

 

「で、真面目な話、何してたんだよ? 昨日の逢引発言を聞いた後だとデートしてたようにしか見えないぜ?」

 

「逢引ってなんですか逢引って!?」

 

「いや、昨日のはただのお礼で、今日は買い物してた時にたまたま出会しただけなんだ」

 

 

至極、真面目な表情でそう言う氷室。

 

嘘をついてるようには見えないので、恐らくホントにその通りなのだろう。

 

まぁ、この手でからかうのは白河の領分だしな。おれはここまでにしておこう。

 

 

「それで芳乃の方は……言うまでもないか」

 

「おう、今日と明日の晩飯の食材買ってた」

 

 

左手で持っていたビニール袋を掲げると、氷室は感嘆とした溜息を、鳳城は目を丸くして驚いていた。

 

 

「……芳乃さんは料理が上手だと伺ってましたが、本当だったんですね」

 

「まぁな。因みに今日はシャケのバター包み焼き。茸も添えて」

 

「名前だけで絶対に美味しいじゃないですか、それ」

 

 

鳳城の言葉に同意するように氷室もコクコクと頷いている。

 

やはりシャケが美味しいのは共通の認識らしいな。

 

バターとの組み合わせはもはや悪魔である。考えた人は教科書に乗るべき偉人だと思う。

 

 

「……っと、夕飯を作るならそろそろ帰ったほうが良いんじゃないか?」

 

「あー……そうだな。早く作らねぇとウチの腹ペコ魔神が降臨して暴れだしそうだ」

 

「それって、お嬢……咲三さんか」

 

「大正解ってな。つー訳でまたな____」

 

 

 

 

 

 

「____おや、もうお帰りになられるので? それは残念だねえ、せっかくわざわざ顔を見に来たと言うのに」

 

 

 

 

 

 

その粘つくような声を認識した瞬間、おれも氷室も、即座に戦闘体勢を整えて鳳城を背に庇う様に位置を取る。

 

いつの間にか目の前に現れた男。黒いコートを身に纏い、長い髪を先で纏めた美丈夫。

 

ぱっと見るだけなら目を引く容姿だが、その目はヘドロの様に酷く濁っている。

 

 

「ひ、氷室さん? 芳乃さんもどうしたのですか……?」

 

「……鳳城さん、下がってて」

 

「おやおや、警戒させてしまったようですね」

 

「……血の匂いを纏いながら嘆いても説得力ねぇんだよ、ゴミカスが」

 

 

いきなり現れたこの男からは、華やかな見た目と裏腹にどうしようもなく酷い死臭を漂わせている。なぜ、接近されるまで気付かなかったのかと思ってしまうほどに。

 

なにより、この視線をおれは知っている。

 

一度目は人形越しに、二度目はサメの怪異越しで。

 

 

「察しがついてるようですが、改めて自己紹介をば。

 

ワタシの名は【糸賀 操央(シガ ミサオ)】。またの名を【人形遣い】と申します。以後、お見知り置きを」

 

 

芝居がかった所作で名を明かした男___【人形遣い】。

 

だが、その姿は【防人】で把握していた姿とは違う。

 

どう言うことだ? と困惑しているおれと氷室の様子を察したのか、糸賀操央はニタァと不気味な笑みを浮かべた。

 

 

「姿が違うことに驚いているのですか? 【防人】が把握している姿は所謂外行き用の変装でしたからね」

 

「【防人】はガセネタ掴まされてたって訳か」

 

 

でも、だったらなぜ、この場で姿を現したのか?

 

 

「ふふふ、なぜわざわざ姿を晒したのか気になる様ですね?」

 

「……防人から逃れて、二度も怪異に隠れていた奴が、姿も名前も今更曝す理由が思い浮かばなくてな」

 

「なに、簡単な話です。暇つぶしですよ」

 

「……は?」

 

「なに?」

 

 

まるで理解の出来ない言葉に、氷室共々困惑の声が出る。

 

 

「ですから暇だったのですよ、ワタシ。マナの残骸が降って来たことで予定していた“実験”が出来なくなったのですから」

 

「実験、だと?」

 

「ええ、ええ。私の自慢の作品を使った人工的な【怪異】の実験……貴方のお父様から頼まれた仕事だったのですが、現実は予定通りとは行かないものだねえ。せっかく、時間をかけて何人もの素材を使って作品を創ったと言うのに」

 

「テメェ……」

 

 

怒りの感情が湧き上がり、握り締めた拳から血が滲み出る。

 

コイツの言ってることが本当なら、やっぱり怪異の核になってたあの人形は何人もの被害を出して作られてるうえに、それを指示したのはあのクソオヤジだ。

 

決して許容出来るものじゃない……!

 

 

「アハハハ……ッ! 怒ったのかなあ? あぁ、怖い怖い。とても怖い顔をしているねえ」

 

 

まるで煽るかのような物言い、即座に人払いと消音の結界を貼ろうとするが、その前に【人形遣い】はおれ達から離れる。

 

 

「あまりにも怖いので、ここは退散するとしましょう」

 

「っ、逃がすか!」

 

 

そう言い残して商店街の路地裏に入り込んで行く【人形遣い】を追う。

 

 

「しまっ、芳乃!?」

 

「テメェは鳳城の側にいろ! 奴はおれが追う!」

 

 

ここでもし鳳城を一人にしたら狙われるかも知れない。なら氷室を側に付かせて、おれが奴を追うのが合理的だ。

 

はためく黒コートの裾を追って身体強化をかける。

 

なんのつもりか知らねぇし理解もしたくねぇけど、好機には違いない。

 

なにより、直で接して分かった。

 

あれは、いてはならない人間だ。

 

いるだけで、他者を不幸にする化け物だ。

 

だから、絶対に逃さねぇ。……必ず仕留める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___すみません先輩。芳乃を単独行動させてしまいました」

 

 

芳乃さんが、怪しくそして恐ろしく感じる男を追って姿を消してすぐ、残った氷室さんは誰かに連絡を入れていた。

 

返ってくる声を聞く限り、それは女の人の声の様だ。

 

 

『状況が状況やし、しゃーないよ。それよりウチも商店街におるからすぐ合流するわ』

 

「ええ、お願いします。……すまない鳳城さん、妙なことに巻き込んでしまって」

 

「い、いえ……。さっきの人は何者だったんですか? それに芳乃さんも、とても怒っていました。いえ、怒るなんて次元じゃなかったです、あれは……!」

 

 

さっきのことを思い出して、思わず自分の身体を抱くようにして震える。

 

さっきの男の人の狂気、そしてその男の話を聞く内に芳乃さんから漏れ出た殺気、その両方に触れてしまったからだろうか。

 

 

「___見つけた、ジン君!」

 

 

と、先ほど通話越しに聞こえた声が、今度は直に聞こえた。

 

見れば、少し息の上がった本校の生徒が走って来てた。彼女が先ほどの通話先の人物らしい。私とは全く逆のとても大きなスタイルで……場違いなのだろうけど、自分の慎ましやかな胸を思わず抑える。

 

 

「こんな近くにおったのに、ウチも気配を感じ取れんかったんやけど……!」

 

「隠形がどうやら得意なようです。芳乃ですら、接近するまで気付きませんでしたし。……とにかく、僕は芳乃と【人形遣い】を追います。使い魔も付かせてますし」

 

「分かった。ウチは海央ちゃんにも連絡入れて、この子を送ってくるから。そっちは頼むわな」

 

「はい、それじゃ___」

 

 

と、氷室さんも芳乃さんが向かった路地裏へ走ろうとした所で、思わずその制服の裾を掴んでしまう。

 

驚く氷室さん。けれど、私にはどうしても聞かなければならない事があった。

 

 

「ま、待ってください! 芳乃さんも氷室さんも、それからそこの先輩も……何者なんですか、一体……!?」

 

 

それは、かねてからの疑問だった。

 

“3バカ”の4人目。芳乃灯火と言う生徒。

 

私の知らない、“お父さん”の友達。

 

お父さんの性格を考えるなら、絶対に言わない筈がない。

 

 

「……僕達は普通の魔法使いじゃない。悪意を持って魔法を使う者から人を守るための魔法使い、【防人】だ。芳乃は少し違うけど」

 

 

きっと急いでいるのだろうに、氷室さんは私を邪険にせずに、その疑問に答えてくれた。

 

___【防人】。特別な魔法使い。

 

……やっぱり、そんな存在は聞いたことがない。

 

お父さんからも、お母さんからも。

 

 

「気になることはあるだろうけど、後でちゃんと答える。だから、今はこの人と一緒にいてほしい」

 

「……わ、分かりました」

 

 

納得はしてない。けれど、これ以上氷室さんを押し留めるのは違うと思い、手を離す。

 

 

「頼むわなジン君」

 

「ええ」

 

 

それから本校の先輩と短く言葉を交わした氷室さんは、芳乃さんの後を追うように走って行った。

 

ぎゅっと、胸の前で手を握る。

 

相変わらず状況は分からない。

 

けれど、着実に、私の知らない何かが起きているのは間違いなかった____

 

 

 

 

 

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