D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

4 / 55
PROLOGUE 4

 

 

 

 

 

 

 

『君は生きてるのに、なぜ彼女は死んでしまったんだ……?』

 

 

 

 

 

 

あの事故が起きてから今まで、冷たくなった母の亡骸の傍らで動かずにいた男の、数日ぶりに聞いた声。

 

 

 

 

 

『分からない、分からないよ。未来が視えるはずなのに、なぜこんなことになるんだ……?』

 

 

 

 

 

元々あまりおれに興味がなかったようだったが、今は記憶にあるどんな声よりも、感情が感じられず、凍てつきそうなほど冷たい。

 

 

 

 

 

『答えてくれないか。なぜ、君だけが生きてるんだ?』

 

 

 

 

 

問われるは理不尽。請われるは不条理。

 

 

 

 

そして、ようやく向けられる視線。

 

 

 

 

絶望と、それ以上の憎しみが渦巻く瞳には、既に理性は感じられず、その瞳に見つめられたが最後、得体の知れない恐怖に包まれ、呼吸すらも侭ならなくなる。

 

 

 

 

数秒。そう、たったの数秒。

 

 

 

 

母により繋ぎ止めた命が、再び危機を訴えるのには、それは十分に過ぎる時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『君が___』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『___君だけが、死ねば良かったのに』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呪いの言葉は、

 

そうして産声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-PROLOGUE 4‐

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………今世紀、最大最っ悪の寝覚めだわ」

 

 

過去最低レベルの夢見の悪さに、寝起きにも関わらず既にキレそうな声色で思わず呟く。

 

って言うかキレていいと思う。

 

推しのうた声を聞きながら寝入ったのに、寝覚めがこの世で一番ブチ殺したいクソヤロウの八つ当たりじみた呪詛とか、いくらなんでもどうしろと。

 

天国と地獄かよ。ジェットコースター並みに感情の落差が激しいわ処理しきれるかボケ。

 

 

「はぁ……クソが」

 

 

否応なく思い出させる過去。

 

 

 

___全ては、唐突に起きた事故から始まる。

 

 

 

母さんと買物へ本島に行った最中に起きた交通事故。

 

おれを庇った母さんは全身打撲による致命傷を負い、亡くなる。

 

その母さんの死に絶望した父は、生き残ったおれを恨んだ。

 

逆恨みとも呼べるそれは、一人の男の精神を歪ませた挙げ句、人としての道を外させる。

 

 

 

 

 

『___君だけが、死ねば良かったのに』

 

 

 

 

 

淀んだ瞳、狂気の表情、絶望の笑みの形をした口から紡がれたのは、そんな呪いの言葉。

 

元々、息子に対してそんなに情のなかった人間だったのだろうが、かろうじて奴を父親として繋ぎ止めていたのは母さんだけだった。

 

その母さんが亡くなった結果、残ったのは疎ましい存在だけ。

 

……奴がそれを手放すのに時間は掛からなかった、と言う話。

 

 

「時期が近いてるからって事か? はぁ……」

 

 

深い深いため息一つ。修練の為に設定した起床時間よりも遥かに早く目覚めたが、これはもう起きるしかない。

 

 

「修練、やるか」

 

 

心を落ち着かせる為にも、まずは瞑想から先にしよう。

 

でもってあのクソヤロウの戯言は取りあえず忘れよう。

 

でもいつか絶対に、絶っっっっっ対に奴はブッ殺そう。

 

着替えつつも、そんな物騒なことを考える朝となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼ △ ▼ △ ▼ △

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしかして今日、調子悪かったりします?」

 

 

「…………ん?」

 

 

 

 

12/18 火曜日 時刻はお昼。場所は屋上。飯は確保済み。

 

 

 

昨日の話を纏めるため、改めて話し合う場を設けようと言う事で、屋上に移動していた所、同じく先に来ていた白河がそんなことを聞いてくる。

 

 

「どこか上の空と言いますか、いつもより気を張ってる様に見えたと言いますか」

 

「……マジか。そんなに分かりやすかったか……?」

 

 

理由と言えば、やはり今朝の夢だろう。

 

あのクソヤロウ関連のことに関わると、何年経っても気分が悪くなる。夢にまで出て来たならなおさらだ。

 

しかし白河が分かるくらい、それが表に出てたとは。瞑想も修練も鍛錬も足りなかったじゃ済まないな。

 

意識を切り替えるためにも自分の頬をパンッと叩く。

 

 

「あー……悪い、ちょっと今朝の夢見が悪くてな。過去最悪レベルのトラウマを穿り返された様なもんだから、無意識で気ぃ張ってたわ」

 

「いや別に謝る事じゃないですからね? でも、珍しいですね。芳乃って、あんまりそういうの気にしなさそうなのに」

 

「まぁ、普段は問題ないんだけどな」

 

 

あの時、震えることしか出来なかったガキの時とは違って、今はあの呪いじみた言葉が、ただの八つ当たりでしかないことは理解している。

 

ただ、理性で理解してても感情がまだ追いついてないらしい。

 

あまりにも儘ならない。

 

 

「……実は過去を結構引き摺るタイプなんです?」

 

「そんなことない、とは、この体たらくじゃ言えないな。……放っておいたらその内戻るよ。理性じゃなくて単純に感情の問題だからな」

 

「なら、いいですけど。……ボクも最近は世話になりっぱなしですので、よろしければ話ぐらい聞きますよ」

 

「……ありがと。でも、これはちょっと人には言えなくてな」

 

 

……特に、”アイツら“にだけは絶対に聞かせたくない。

 

もし聞かれたら、いらん心労を背負い込み兼ねないからな。

 

なので、もう一度頬をパァンッと叩き活を入れる。

 

 

「よし、意識切り替えよう。もうすぐ一登達も来るし、杉並と叶方も来んだろ……なんか誰か連れてくるみたいだが」

 

「あれ、もう話したんです?」

 

「いや、既に調べてたらしい。少ない情報で答えが出せる辺り、奴はやっぱり有用だよ」

 

 

しかし一体誰を連れてくるのやら。白河もそこが気になってそうだ。……変な奴を連れて来たら申し訳無いが杉並は吹っ飛ばしてお帰り願おうか。

 

そんなちょっと物騒な事を考えてると、屋上の扉が開く。

 

出てきたのは一登に二乃に有里栖。それからその後ろに杉並と叶方、そして___

 

 

「逢見先輩?」

 

「あ、やっほー、芳乃くん」

 

「え?そら姉まで来たんですか?」

 

「あ! いっちゃん、二乃ちゃんー」

 

 

ほんわかお姉さんこと逢見先輩の登場に、二乃が目を丸くする。

 

なるほど、杉並が言ってたのは彼女の事だったか。

 

 

「いや、待て。なんだそのそら姉には驚いたけど杉並や叶方には別に驚かない、その感じは!」

 

「杉並君には午前中の休み時間に突然『俺も、いや俺たちもこの件支援させてもらう』とか言われたので……てっきり兄さんが呼び込んだものだと思ったんですが」

 

「全く知らなかったぞ……。って事は、灯火か?」

 

「ん、ああ。まぁ、コイツ先に調べがついてたみたいだから、何も言わなくても勝手に出て来ただろうし」

 

「それは、確かにそうですね……」

 

「……寧ろ杉並の場合、見える所に置いといた方がリスクは少ないか」

 

 

一登の呟きに頷く。まぁ、その気になったら簡単にブレーキ破壊して暴走するのが杉並なので、油断はできないが。

 

 

「フッ、そう褒めるでない同志達よ」

 

「「「いや別に褒めてはねぇ(ないです)」」」

 

 

一体コイツはどんな耳をしているのだろうか? 思わず常坂兄妹とツッコミがシンクロしてしまった。

 

 

「でも実際助かるよ。叶方も、逢見先輩も、ぜひ手伝って貰いたい。ありがとう、わざわざ集まってくれて」

 

 

喜色一面。白河が純粋な笑みを浮かべる。そりゃ自分がしんどいときに手助けしてくれる人がこんなにいたら嬉しいもんだろう。

 

白河の礼を受けたみんなは、杉並以外はおれも含めて照れ笑いを浮かべてる。

 

逢見先輩だけは「いっちゃんと二乃ちゃんがやるならわたしも当然やらなくちゃね!」と謎理論を展開してる。やっぱりこの人はどこまでも常坂兄妹の姉なのである。

 

そんな姉ぱわーを発揮する逢見先輩に一登と二乃も苦笑していた。

 

 

「くくっ、普段は時に共に追われ、また時には追う者追われる者の我らだが、此度は協力しようではないか?」

 

「ボクは別にキミと追いかけっこをしたことはないつもりだよ。あくまで、風紀委員たちと距離を取っていただけでね」

 

 

不敵に笑うトラブルメーカーども。あと白河、それ同じことだから。言い方変えただけで追いかけっこだから、それ。

 

 

「とはいえ、心強いよ。杉並の情報網には期待させてもらう」

 

「うむ。情報は力だからな。その収集はもちろん、拡散でも大いに協力させてもらおう。とにかく、今回は我らの利害は一致している」

 

「どんな利害があるっていうんだ……」

 

 

一登、思わず突っ込む。

 

色々と想定出来るが、相手は杉並なので思い込んだ時が一番危ない。テキトーに流すのがある意味最適解だったりする。

 

 

「さぁとにかくまずは情報を整理する必要があるな。白河、早速現況を教えてもらおう」

 

「了解。まずはみんなのTABへ情報共有するね」

 

 

そして当然の如く一登のツッコミは無視された。

 

それから「ポチッと、送ったー」と白河からの合図が来たので全員が各々のTABを取り出し、白河から送られてきたファイルを開き、その依頼状況を確認する。

 

確認するのだが、

 

お、おお……?

 

おいおいおいおいおい。

 

そこにあったのは白河に恋愛請負を頼んだ人のリストで、相手との脈はあるのかとか、細かい情報が載っている……のだが、想定してたより遥かにその量が多い。

 

次のページがあることに気がついた有里栖も「え、何ページあるのこれぇ……」って目を回しかけている。

 

香々見学園は大きいこともあって本当に多い。いや、そりゃこんなに依頼数あればパンクするわっ!

 

 

「結構多岐にわたるんだねぇ。でも女子の気持ちチェック系なら、オレが結構すんなり聞けると思うよ。男子が気にしてる女子たちも、コスメのチェックでよく話をしてる子たちだし、雰囲気はすぐ掴めるかも」

 

「逆に運動部関連のヤロウどもなら、おれが行けるかな。時々助っ人を頼まれる事もあるから割と話がしやすいと思うぞ」

 

「流石、叶方。芳乃もそういう繋がりがあるとは頼りになるますよ。とにかく数が多くて普段ならひとりで出来ることも追い付かなくてですね……」

 

「……おのれ、次からもっと早くヘルプを呼べ。いくらなんでも、これは一人じゃ無理だわ」

 

 

そりゃ白河も疲弊するわ、こんなの。通常の7倍って言ってたが、通常でも多いレベルだぞこれ?

 

 

「でも、この中にはきっと少なく無い数の恋の卵たちがいるんだよねぇ……う〜ん、ロマンチックぅ〜!」

 

「明らかに無理ですっていう場合もあるだろうけど、白紙からだったら希望はあるもんなあ。そう考えると確かに幸せリストだね、これは」

 

 

逢見先輩や叶方の言葉に、確かになと思う。

 

全部は無理だろうけど、それでも中には両思いだったりするのもあるのだろう。それの後押しを出来るのならと考えると……なるほど、確かにこれはやりがいがあるのかも知れない。

 

 

「……まるで、魔法使いだな」

 

 

思わず、ボソっと呟く。

 

幸せを運ぶ魔法使い。それは、まるで幸せを守る為に魔法を使う【正義の魔法使い】とは似て非なるもののようだ。

 

誰かの幸せのために動く白河の姿を見て、かつて【正義の魔法使い】を目指していた自分は、思わずそう思ってしまった。

 

___このあと、白河からの幾つかの注意を受けてから、少し遅めの昼食をみんなで取る事に。

 

この屋上でご飯を食べるとピクニックみたい、と、逢見先輩が呟くと杉並が何やら怪しいことを考え出したりもしたが、ピクニック気分になるのはよく分かる。

 

昨日も思ったが、ここはほんとに風が気持ちいいのだ。

 

昼休みに話しきれなかったことは放課後へと引き継ぐ事となり、楽しい昼食会となった昼休みはお開きとなり、おれ達はそれぞれの教室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

___で、放課後。

 

 

「まずは、どう手分けをしていくかを考えるのが良いかもしれないな」

 

 

再度屋上に集まってから話し合いはスタート。

 

一登の発案から始まり、基本的には白河が対応する案件と、それ以外の案件に分けて対応することになる。

 

白河が対応するのは白紙だったりどちらとも言えない人で、こちらは白河が何とかまとめてみるとの事。恋愛請負人の手腕に期待しよう。

 

で、明らかに無理な組み合わせや、調査で明らかにお互い両思いな組み合わせは、それ以外のみんなで対応。基本数が多いのはこっちな訳か。

 

 

「これあれだな。やっぱ二乃関係が多いな……」

 

「ううー……ほんと困るのですが……仕方ないですね。お断り行脚はやぶさかではないのですが、それが通じる相手なのかが判らないのがなんとも……」

 

「くくく、その心配ならいらん。白河譲のまとめたリストに加えて、俺様の情報網を存分に利用すれば精度は更に上がる。そこから判明した性格や攻略法を後ほど付記しておこう。押すか、引くか、攻略法は人それぞれだからな」

 

 

普通にそれが出来るのが、ある意味この男の恐ろしい所であるし、今この場においては頼りになることこの上ない。

 

しかし、コイツホントに学生か? なんかどっかの国の諜報員だと言われてもすんなり納得出来るぞおれは。

 

兎にも角にも、杉並のおかげでこの莫大なリストが更に強化される訳で、それを参考にして動けばまぁなんとかなりそうか?

 

数をこなす必要はあるので、やはりそれなりに労力はかかるだろうが。

 

話を戻すが今は二乃の案件である。

 

杉並曰く、リストの2ページ目から3ページ目の二乃狙いの連中、これらは策を弄しても効果がなく直接ハッキリ言う方が効果があるらしい。

 

あまりの多さに二乃が「こ、こんなに……」とゲンナリしている。

 

 

「まぁ、逆に考えればここら辺さっさと片付ければ、その情報も伝播されるだろうから、後々の依頼にも牽制が出来るんじゃねぇかな」

 

「だな。それに、別に後ろめたいことがある訳じゃないし、ハッキリ断れば良いんじゃないか?」

 

「うんうん、二乃ちゃんなら大丈夫だよ」

 

「……うん、そうですね。そうと決まればさっさと片を付けたい気もしてきました」

 

 

ねこ仲間がやる気を出したようだ。がんばれ二乃。ねこ仲間として応援しているぞ。

 

で、杉並曰く、既に明日の放課後に依頼者の時間を抑えてるらしい。ここまでの流れを想定して予定を組む手腕はホントに流石だよコイツは。

 

場所はまだ決めてなかったが、叶方の発案でこの屋上が良いのではと言う話になる。ここなら出入り口の物陰とかから様子を見れるし、人通りも少ないからな。

 

とはいえ、やはりというべきか、緊張しているのか二乃は表情を強張らせて口を一文字に結んでる。

 

 

「ま、あんま緊張するなって」

 

 

そんな二乃の頭をポンポンと慣れた手付きで撫でる兄の一登。それに少し安心したのか表情が和らいだ、と思った瞬間、我に返ったのか一瞬で真っ赤に染まる。

 

 

「兄さん! 学校では子供扱いしないで下さい!」

 

 

二乃、真っ赤になって激怒。対する一登は「すまんすまん」とノリが軽い。

 

そんな二乃が可愛くて仕方ないらしい、ほんわかお姉さんこと逢見先輩が「二乃ちゃんかわいいー♪」って感じで便乗して二乃の頭を撫でて、ねこ可愛がりしてる。

 

流石に逢見先輩には強く出られないのか、顔真っ赤にしたまま二乃はなすがままにされ、叶方にまでもイジられている。いつもはキリッとしてる所が多いのでこう言うのは新鮮だ。

 

なるほど、家ではいつもあんなノリなのか。仲良きことは良きかな。

 

 

「あと、ないとは思うが万が一にも荒事になれば芳乃の出番だ。貴様なら学生程度、瞬時に無力化出来よう」

 

「おう、それなら任しとけ」

 

 

後ろ宙返りでみんなから少し離れて、後ろ回し蹴り、3段蹴り、サマーソルトキックを披露して見せると、「おー」と、みんなから拍手を貰う。

 

 

「物理的な頼もしさが半端ないなホント……」

 

「相手の方が心配になるレベルだもんね」

 

「物理特化、流石はゴリラ。さすゴリですね」

 

「誰がゴリラじゃ誰が。特徴的なクシャミしてからロングトーンでうたってギュッギュッて握りつぶすぞコラ」

 

「それはゴリラじゃなくて、どこかのバーチャルマイチューバーじゃないですかね!?」

 

 

ゴリラ扱いにツッコミ、ツッコまれる何時ものやり取り。もはや慣れたものだ。ゴリラ扱いは誠に遺憾だが。

 

閑話休題。

 

二乃の方で特に面倒そうなのはこれで片付くとして、あとは意志確認だけしたい___気になる人がフリーなのか、付き合う気はあるのかと言う確認をしたいと言う案件。

 

白河曰く、大半は仲介者が伝えるだけでも充分な案件であり、最も多い案件でもある。おれ達は基本こっちの対応になりそうだ。

 

 

「この中で他にはいないのか? 二乃みたいな案件とかは」

 

「むしろほぼ全員。鷺澤はもちろん多い。ただ、暗黙協定のおかげで大っぴらにはいないのと、ボクとかが無理だと伝えればすぐに納得してもらえるレベル」

 

「ほぼ全員ってことは、もしかしてわたしも?」

 

「はい、逢見先輩も当然入っています」

 

 

そりゃそうだ。逢見先輩もめちゃくちゃ美人なのだから、そりゃ白河の依頼にもいるだろう。

 

だがしかし、逢見先輩は今の所、告白とかを受ける気はないと言う。

 

この人にとっては、誰かからの告白より一登や二乃の方が大事なのだろうし。

 

 

「ちなみに、この中で何もないのは常坂兄と芳乃、杉並くらいですね」

 

「なん、だと……!」

 

 

一登が絶望に染まった顔になる。

 

それは前も聞いたなぁ。っていうか一登も? おれや杉並はともかく一登はいそうなもんだが……って思ったが、視界に杉並がフッと笑ってるのが見えて、なんとなく察した。

 

ああ、うん。そういう事か。あと改めて今の面子見渡して見ると分かる事でもあったか。

 

 

「確かに常坂兄案件は一つもないが、安心しろマイ同士。その原因はおよそ判明してる」

 

「え、原因なんてあるのか!? っていうか判明してるって……一体それはどうしてなんだ?」

 

「大体予想出来るけどね……」

 

「まぁ、一登だしなぁ」

 

 

本気で気付いてなさそうな一登に叶方と揃って溜息を吐く。

 

 

「うむ、俺が収集した情報によると常坂兄の問題は___」

 

「問題は……?」

 

「交友関係、だな」

 

「交友関係ぃー? どういうことだ」

 

「はぁー……兄さんってば、本当に分かってないんですね……」

 

 

鈍感を極めてる兄に妹も溜息。

 

 

「ならば教えてやろう! 曰く『ちょっと友人に難ありかなぁ』、曰く『いつも一緒にいるS君も付いてくるんでしょ? それはねぇ』、曰く『常坂君? あの問題児グループの?』、曰く『三、四バカだっけ? いつも一緒にいる高笑いする人がねぇ』いわく___」

 

「「あっはっはっはっは!」」

 

「えええい! もういい! 誰のせいだかよく判った!灯火と叶方も笑ってんじゃねぇ!!」

 

 

がーっ!!とキレる一登、高笑いする主な元凶。おれと叶方は腹抱えて笑ってる。

 

いやいや、笑うしかねぇだろこんなん。しかも元凶がそれをいけしゃあしゃあと語ってるんだから笑うしかねぇよ。

 

 

「はーはっはっ! 諦めろ、同士よ!」

 

「友人関係を見直すべきかもしれねぇ……!」

 

「つっても、一登の場合はそれだけじゃねぇんだよな」

 

「正解。さっきとは真逆のパターンで、常坂妹や逢見先輩といった美人が近くに多く、最近だと鷺澤とも仲良く話してる事が多くて、『これは敵わない』とかね」

 

 

白河の言う通りで、一登の周りはとにかく美人が多い。

 

一番人気のある鷺澤、次に人気のある二乃、でもって姉ポジションには逢見先輩と来た。そこにいる白河だって負けず劣らずの美人である……いやほんとに多いなオイ。

 

 

「かなう! かなうから!! 大丈夫だから!」

 

「もう、そんなに軽薄なんだから兄さんには無理です」

 

「うんうん、いっちゃんはわたしがガードするね!」

 

「ガードしちゃダメだからそら姉……」

 

 

今この瞬間だけでも二乃と逢見先輩による結界が貼られてると考えると、なるほど、女子の立場から見れば下手に近寄り難いんだろうな。

 

 

「因みにだが、芳乃の場合は……言っては何だが、転校当時の噂が未だに一人歩きしてると言う所だな。あとはそれに加えて常坂兄と同じ交友関係だろう」

 

 

あー……なるほど。入学式済んで3ヶ月も経たない中途半端な時期に転入してたし、一登達と関わる前は色々あって尖ってたしな。

 

それに加えて普段接してるのは一登とほぼ同じ面子だしな。二乃とはねこ好き仲間でちょくちょく熱く語るし。最近は白河との絡みも多い。逢見先輩とも料理談義で話すことは多い。有里栖に至っては間近の席。

 

なお、叶方の方は男女共にいるらしい。普段は女装してるが、女装姿も普通に美人の枠に入る上に女装解いてもイケメンだろうしな。

 

……叶方の女装解いた姿は、隣室でも見たことはないのだが。

 

ある意味パンドラの箱である。開けたら何が出るか分からないという意味で。

 

 

「そう言えば、もういい時間だけど、鷺澤は大丈夫? 門限とか」

 

「ううん、大丈夫。別段そういうの決められているわけではないから」

 

「だがちょうどいいな、今日のところは解散と行こう。依頼者達の個別情報の付記と、常坂妹案件の対象者への連絡は今夜の内に終わらせておく」

 

「ありがとう。助かるよ」

 

 

確かにもう日も海に沈みそうな感じだしな。気がついたら結構話し込んでたか。流れ的にも解散は異議なしか。

 

 

「なんだかワクワクしてきたねー!」

 

「そら姉、私は明日男子たちに断りをいれるんですよ? 全然ワクワクしません……」

 

「あはは、それはそうだったね」

 

「ひよりん、また依頼が増えたら教えてね?」

 

「てか、リストに入れてくれ。そっちのが分かりやすいし、すぐに対応出来る」

 

「クリスマスが終わるまではその言葉に甘えさせてもらうかな? あと、リストの件は了解!」

 

「んじゃ、明日またこの続きをってことにしよう」

 

 

一登の言葉にみんな頷く。

 

夕日に照らされた皆の顔は、やはりどこかワクワクしてるようで、明日が待ちきれなさそうな雰囲気も出ている。

 

そりゃ気の合う奴らと一緒に何かをしようってなったら、楽しくて胸が高鳴るもんだろうさ。

 

つまり、アオハルって奴だ。うん、悪くないな。こういうのは、悪くない。

 

 

「……さて、おれは今から運動部のヤロウどもの聞き取りにでも行くかね」

 

 

少しばかりやる気が増したので、もう少しだけサービス延長と行こうか。

 

 

「え、今から?」

 

「ああ、依頼対象な運動部系の一部は時間ギリギリまで部活に専念してるマジメなスポーツマンが多いからな。寧ろ今から行けば部活終了後のタイミングで話が聞ける」

 

 

叶方の問いに答えてから荷物を肩に担ぐ。主に人気のあるスポーツマン共から取りあえず意思確認だけでもしとけば、後で楽できそうだしな。

 

 

「そう言えば、宿題はさっさと済ませるタイプだったね、灯火って」

 

「まぁ、明日に備えてってのもあるしな」

 

「二乃ちゃんのぶった斬りショーかぁ」

 

 

万が一も無いだろうが、もし荒事になれば即座に鎮圧させる必要があるしな。それまでに仕事に手間取ってたりしたら、それはそれで面倒だ。

 

片付けれる仕事は、先に片付けるに越したことはない。

 

 

「んじゃ、オレも付いていきますか。まずは何処から回るのさ?」

 

「野球部。ここのエースピッチャーが対象だな。前に試合でヘルプ頼まれたしすんなり話できると思う」

 

「あ、そこのマネージャーさんの一人も依頼対象に入ってたかも。ついでにオレも意思確認やっとくか」

 

 

叶方もどうやらやる気になったらしい。お互い気の早いことである。

 

 

「それ終わったらバスケ部だな。寮生で時間に都合つくやる気のある奴は時間限界まで練習してるから、ギリ間に合うだろ」

 

「そうなると帰るのは遅くなるなぁ。あ、どうせなら寮帰る前に商店街まで行ってモック寄ってこうよ、モック」

 

「たまには晩飯はそれでも良いな。ついでに作業してる杉並の分も買っといてやろうぜ? 野球部に行く前に奴の注文を聞いといてくれよ」

 

 

おっけー。と叶方からの返事を受け取り屋上を後にする。

 

 

 

さぁ、楽しくなってきたぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼ △ ▼ △ ▼ △

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___でもって、その日の夜。ダブルチーズバーガーが美味い。

 

 

「ふむ、で、張り切った結果、想定以上に調査が進んでしまったと」

 

「あははは、いやー、思ったより楽しくてさぁ」

 

「それに、対象者が思いの外多くその場にいてな」

 

 

なんか溜まり場になってる寮の自室でおれ、叶方、杉並の野郎3人でモックで買ってきたハンバーガーをパクついてる。

 

おれはダブルチーズバーガー。叶方はフィッシュバーガー。杉並はてりやきチキンバーガー。ポテトとドリンクのセットに大人数用のナゲットをそれぞれ好きなソースに漬けて摘んでる。

 

自炊もいいが、たまにはこういうジャンクフードも悪くない。

 

それで、運動部にいる対象者への聞き取りは予想よりも捗り、進捗をリストに書き込んだ所、白河から「行動早すぎません?」とツッコミをもらう羽目になった。スマン、興が乗ったんだ。

 

 

「しかしその結果、野球部のエースとマネージャーが密かに意識しあってると判明してしまったと」

 

「あれは明らかに両片想いって奴だねー」

 

「ちゃっかりアオハルしてやがったなー」

 

 

他の部員の様子を見ると結構前からそんな感じらしい。なんかもうマネージャー狙いだった他の部員もそうじゃない部員も焦れったそうにしていたのが印象的だ。

 

放っておいてもあれはくっつくだろうが、見てる側としてはあまりにも焦れったい。パッと見てたおれ達でそうなのだ。毎日見てる奴らは溜まったもんじゃないだろう。

 

この話も白河に伝えており、「依頼があるまで見守りましょう!じれったいけど依頼なかったら流石に動けませんから!動けませんからぁ!」と、大分テンション高くなっていた。やはり女子はこういう話は好きらしい。

 

結果としては、双方の意思確認の依頼者には残念なお知らせでもあるというが。あれの間に入り込もうとする奴は流石に空気が読めないか質の悪いDQNくらいだろう。

 

なおバスケの方も似たりよったりで、既に付き合ってる奴もいたり、スポーツ一筋と見せかけて幼馴染とほぼ相思相愛の仲だったりとアオハルだらけだった。

 

 

「けど、大体の狙い目な人の意識確認が進んだのは良かったよ。あとから依頼が増えても対応できるしね」

 

「その分細かいのが残るが、そっちは人海戦術でなんとかするしかねぇな」

 

 

その為のヘルプなのだ。せいぜい頑張るとしようか。恐らくクリスマスにかけて依頼も多くなるだろうしな。

 

 

「俺の方もリストの追記と明日のセッティングが完了した。くくくっ、常坂妹の虐殺ショーの準備は完璧だ」

 

「哀れ、ヤロウども。汝らの結末は既に視えているのだ」

 

 

テキトーに十字架を切ってアーメンしておく。なお、おれは無神論者なので御利益もクソもない。

 

未来視を使わなくても視える未来とは残酷なものである。

 

 

「取りあえず今日出来る事はやり終えたし、そろそろ寝るか」

 

「そうだね。明日も授業あるし、例の活動もあるしね」

 

「常坂妹の虐殺ショーもな」

 

「……いや、やっぱその言葉だけ見ると流石に不穏過ぎるわ、そのワード」

 

 

依頼者達が血の涙を流すのは確定しているのであながち間違ってはいないのだが。これで通称を確定してしまうと二乃が流石に怒りそうだ。

 

兎にも角にも就寝である。

 

ゴミをそれぞれ片付けてから二人が部屋に帰る。

 

 

「鍛錬して、風呂入って、さっさと寝るか」

 

 

頼むから。頼むから今日は、変な夢は勘弁してくれ。と、今朝の悪夢を思い出してゲンナリする。

 

 

 

こう思う事自体がフラグな気もしてならないが。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。