D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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EPISODE 28

 

 

 

「ハァ、ハァ、あのヤロウ、どこに行きやがった……!」

 

 

 

___現在地、水鏡湖湖畔公園。

 

 

 

日は落ち、夜の帳が降り始め……魔性が動き出す頃。

 

逃げた【人形遣い】を追って商店街からここまで追ってきたが、不覚なことに姿を見失ったらしい。

 

どういう訳か、追い掛けていたあの男からは生き物の気配を感じ取れなかった。

 

魔法を使った形跡はない。あっても氷室が付かせてる使い魔の氷の鳥くらいなものだ。

 

……十年近くも【防人】から姿を眩ませていただけあって魔力の隠蔽は得意なのかも知れない。くそ、厄介極まりない。

 

いや落ち着け、ここで焦ったら元も子もない。

 

魔力による探知だけでなく……それこそ杉並を見つけた時みたいに感覚を鋭く研ぎ澄ませる。

 

すると、ふと背後から妙な音が聞こえてきた。

 

 

____ギギギ……と、歯車が擦れ合うような音。

 

 

同時に感知した奴の魔力。

 

即座に人払いと消音の結界を張ってから、振り返るより早くビー玉と愛銃を取り替え、魔力を感じた方向へ迷いなく引き金を引く。

 

ドパァンッ!と言う357マグナムの発射音が響き、次いで何かを砕く音とそれなりの質量が地面に落ちる音。

 

改めて背後を見れば、大の大人サイズの人形が、頭の部分に風穴を開けて倒れ伏していた。

 

 

『お見事。ワタシの“兵士人形(ポーンドール)”によく気付きました』

 

 

どこからか、くぐもった【人形遣い】の声が響く。

 

遠隔操作してたのか? 人形には残存魔力を感じるも、その背後にいるだろう【人形遣い】に繋がる魔力は感じられない……固有の魔法による特性だろうか。

 

 

「……ハッ、錆びついた音を響かせてよく言う。手入れが行き届いてないんじゃねぇか?」

 

『これはこれは手厳しい指摘だねえ。ですが、どうか許して欲しい。何分数が多いもので、維持だけでも一苦労なのですよ』

 

 

【人形遣い】がそう言うと同時に、複数の魔力の反応を感じ、更に木々の影からゾロゾロと見た目は普通の人が出て来て、すぐに先ほど撃ち抜いたものと同じ人形に変化する。

 

盾石達から聞いた【人形遣い】の特徴とも一致してる。異名が付くだけあって人形そのものを武器として扱うようだ。

 

……問題があるとすれば、その数か。視認できるだけでも百はくだらない数がいる。不気味な表情を浮かべており、日も暮れた今、これだけの数を目の前にすると軽いホラーだ。

 

しかも一般人に変化してた辺り周到に準備されていたようだ。更に言えば本体の魔力も感じられない。どういうカラクリだ……?

 

つか、トカゲといい、この前のサメといい、大多数の相手にはとことん縁があるようだ。そんなふざけた縁は速攻で切り捨てたい所だが。

 

と、ふと背後から見知った気配を感じると同時、同じく覚えのある魔力で創られた氷の槍が十数体ほどの人形を吹き飛ばす。

 

 

「____こちら氷室、芳乃と合流出来ました」

 

『こっちもトーカ君と奴さんの魔力を探知したわ。……これまた、沢山おるな……!』

 

 

盾石と連絡を取りながら追い付いたらしい氷室が、おれの隣に並び立つ。

 

その肩にはおれに着いてきていた氷の鳥がいたが、役目を果たしたからか粒子となって消えて行っていた。

 

 

「鳳城は?」

 

「先輩に任せてきた。で、こちらの状況は?」

 

「【人形遣い】本体を見失ったと思ったら、コイツらが出て来やがった。一般人に擬態してたらしい」

 

 

必要最低限で情報を共有する。

 

それから氷室は依然と湧き出るように現れる人形達を見て顔を顰める。

 

 

「……また物量戦か、こういうのに縁があるな」

 

「……心の底から言わせてくれ、こんな縁はいらねえ」

 

『どうにもそこら辺にうじゃうじゃおる感じやな。……あかん、本体の場所が分からんわ』

 

 

ホントに厄介だな。嫌がらせに関しては右に出るものはいないんじゃないか。

 

 

『フフフ、サプライズに喜んでくれてワタシは嬉しいです』

 

 

ゾロゾロと出て来た人形の一体から、奴の声が響く。

 

 

「目ん玉腐ってんのかテメェ。これのどこか喜んでるって言うんだ」

 

『だが、どうせなら私の好む音も聞きたい所だねえ』

 

「無視かよ、クソナルシスト」

 

 

こっちの言葉をまるっきり無視して人形越しに奴は語る。

 

愉快犯タイプって聞いてたが、これはアレか。自分に酔うタイプのゴミカスか。

 

 

『傷つき、苦しみ、絶望した時にあげる苦悶の声を、どうかワタシに聞か____』

 

 

____ドパァンッ!と、台詞を言い切る前に喋っていた人形をヘッドショットで仕留める。

 

向こうが話を聞かないなら、こっちも聞いてやる必要などない。そもそも“敵”とみなした相手と対話を求めるのが間違いだった。

 

ぶっ飛ばした人形だが、魔力の感じからして頭の方にマナが集中してることから、恐らく人形を操るための機構がそこにあるのだろうと踏んで頭を狙ったが、機能が停止してマナが霧散してる辺り正解のようだ。

 

図らずとも最初の一体は弱点を撃っていたらしい。

 

 

「……趣味が悪い」

 

「同感だ」

 

 

隣の氷室も不快極まりない表情を浮かべながらも、両手に魔力を練り始める。

 

おれはおれで、この場に最適な武器を選ぶために一度愛銃をビー玉と取り替える。

 

マナの濃度も戦闘には支障がない。思いっきりやらせてもらおうか。

 

 

 

「このガラクタどもをブッ壊して引き摺り出してやるから、覚悟しとけやクソヤロウ……!」

 

 

 

内に溜め込んだ激情を吐き捨てるように宣言する。

 

 

 

____戦闘、開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 28-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【人形遣い】本体がいなくて他にも人形がいる可能性がある以上、先輩の隔離結界は使わない方が良いな」

 

『なら、消音と人除けの複合結界をその周囲に展開するわ! 悪いけど戦闘は任すで! 海央ちゃんも呼んでるから気張りや!』

 

「聞いての通りだ、行くぞ」

 

「了解」

 

 

盾石の結界が展開されると同時、トカゲ退治の時にも使った予備のビー玉を入れたポーチをベルトに装着して、そこから取り敢えず一つ取り出す。

 

 

「【取替の悪戯(チェンジリング)】」

 

 

取り替えるのは、世界で最も普及した銃火器の一つ。

 

世界中で生産される銃の五分の一がコレだとも言われる、安く、強く、固く、構造も簡単な名器。

 

 

 

____AK‐47。

 

 

 

数あるアサルトライフルの中でも傑作とも言える一丁。この場の状況を考えた上で、この銃を選ぶ。

 

それをフルオートモードで構えてから引き金を引く。

 

ズガガガガガッ! と言う小気味いい発射音と共に弾をバラ撒き、薄気味悪い表情の人形共を撃ち抜いていく。

 

 

「“氷双刃”」

 

 

続けて氷室が両手に練っていた魔力で、氷で出来た壮美な双剣を創り出す。

 

さっきの氷槍と違うのは、より密度を高めて強度を増し、更に造形も細かに創られている点だろう。

 

両手でそれぞれ氷剣の柄を握った氷室が身体強化の魔法も併用しながら、AK‐47の射線から離れてる人形の一団へと跳ぶように踏み込み、氷の双剣を振るう。

 

 

「……ハァッ!」

 

 

____斬ッ!

 

 

氷で出来てると感じられないほどの切れ味を持って、人形を一体、また一体と真っ二つに斬り捨てていく。それなりの冷気を纏っているらしく、斬った後が凍り付いている。

 

ガンナーであるおれから見ても、その腕前は中々のものだ。

 

 

「接近戦も行けるんだな」

 

「この場でトカゲの時のような戦法は取れないからな」

 

 

何気にオールラウンダーだったのか、コイツ。

 

いや、【防人】として経験を積んだ魔法使いなんだ、コレくらい出来なきゃ話にならないのかも知れない。

 

 

『ふふふ、楽しくなってきました』

 

 

人形の両手から刃が引き出されて、一斉にコチラに向かって来る。それと同時に、魔力を強く感じる位置をようやく特定。

 

おれはAK‐47からモスバーグ590(ショットガン)に取り替えてから連続で射撃。

 

装填していた分の散弾を撃ち切るまで連射し、近くの人形を破壊する。

 

散弾を撃ち切ったタイミングで、切り込みながら氷室が戻って来ると同時にもう一度【取替の悪戯】を発動。

 

氷室の背後に迫っていた人形三体の頭を、取り替えた愛銃による早撃ち・三連(トリプル·クイックドロウ)で撃ち抜いて沈黙させると同時、氷室が双剣を投げておれの後ろに迫っていた人形を二体貫く。

 

即席の連携としては上出来だろう。

 

 

「正面、十一時の方向、木の後ろ……突っ込め!」

 

「___承知!」

 

 

そのまま流れるように357マグナム弾三発を、ほぼ同時に放つ絶技でもって、刃を振りかぶり迫る人形を沈黙させて“道”を作る。

 

人形が倒れた事で生まれたその道を、意図を察して身体強化を施した氷室が他の人形をすり抜けるように駆け抜けた。

 

 

「チャージ……2」

 

 

リロードを終えた愛銃に、第2段階まで魔力を収束。

 

駆ける氷室のその先にいる人形の内、邪魔になるモノのみを嗅ぎ分け、右手で構えた愛銃に左手を添えて照準を合わせる。

 

 

「___ダブル・ストライクショット!!」

 

 

貫通力を高めた魔弾を、早撃ち(クイックドロウ)の要領で二連射。

 

氷室に迫っていた人形達を纏めて貫くことで沈黙させる。

 

障害のなくなった所で、氷室が両手にもう一度氷の双剣を創り出して、進行方向にあった桜の木ごと✕の字を描くように斬り裂く。

 

 

「おや、よく分かりましたね」

 

 

その斬撃を避けるように【人形遣い】が姿を現す。

 

すかさず、魔力を第3段階まで収束した愛銃を両手で構え、迷いなく引き金を引く。

 

これで仕留める。

 

 

「___バスターショットッ!!!」

 

 

ドンッ!!! と、マグナム弾に纏われた密度の濃い魔力により強化された魔弾が、【人形遣い】を捉え、穿ち___

 

 

「ハハハっ、これが生身なら致命傷でしたね」

 

 

胴体ごと抉られるように吹き飛ばされた【人形遣い】___を模した人形が、笑みを浮かべながら倒れ伏す。

 

その体から出て来るのは血や臓物ではなく、“人形”の機構を形作る歯車やオイルのみ。

 

 

「人形、だと……?」

 

 

氷室の呟きが耳に入る。

 

それから【人形遣い】として先ほどまで行動してた人形を視界に収めたおれは、その可能性に今まで思い至らなかった自身の未熟を恥じた。

 

 

「チッ、予想しとくべきだったか。そりゃ生身でわざわざ会いに来る訳ねぇよな」

 

『ええ、“あの男”と袂を分かったとは言え、その息子である貴方を甘く見る理由はないからねえ。保険はかけさせておきましたよ』

 

 

再び人形越しに声を飛ばしてくる奴に、思わず舌打ちをする。

 

 

「……なるほどな。道理で唐突に現れたり、生き物としての気配を感じない訳だ」

 

『せやな、その辺りには二人以外の生命反応を確認出来ひん。……最初からやられてるわ』

 

 

最初から奴が人形だったとなると、本体は今頃安全な所で高みの見物と洒落込んでいるのだろう……クソが。

 

隣に並んだ氷室が双剣を改めて構える中、おれもリロードを手早く済ませて構える。こうなると、とにかくこの涌いて出て来る人形どもをどうにかするしかねぇか。

 

 

「にしてもコイツら、気配が薄いからやり辛ぇな」

 

「それに、数も増えてる」

 

 

氷室共々、今なお数を増やす“兵士人形(ポーンドール)”とやらを一瞥して辟易とする。

 

 

「……こんだけ多いなら、一掃出来る火力を出してもいいだろ」

 

「……せめて、爆発物以外で頼む」

 

「なら、コレだな」

 

 

言いながら、跳んで空中から向かって来る人形二体の顔面をマグナム弾でブチ抜いて沈黙させ、ビー玉二つ分の魔力を使って大型火器に取り替える。

 

 

___M134 ミニガン。

 

 

毎分2000〜4000の弾を放つ兵装を構えてから、その暴威を開放。ズガガガガガッ!!と次々に奴の操る人形を蜂の巣にしていく。

 

周りの木とかに被害が行かないよう気を付けてるが、それでもやはり少しは削れてしまうか。

 

もっとも、その効果は絶大であり、兵士人形はその数をたちまち減らしていく。

 

 

『おやおや。……それは流石に反則では?』

 

「うるせぇ。そもそも物量で攻めてくる奴がそれ以上の物量に文句言うんじゃねぇ」

 

『ふむ、それもそうだねえ。しかし、それでも想定してたより火力がある』

 

 

自慢の作品とやらがガラクタになったと言うのに奴の声色は変わらない。

 

声を弾ませて楽しげに状況を分析している。

 

 

『……ああ、なるほど、怪異と違って魔力を纏わなくていいからですか。対人に特化してると言ってもいい。やはり直接動いてる所を見るのは必要不可欠だねえ。暇つぶしにもってこいだ』

 

「こっちは溜まったもんじゃねぇけどな。……なんであれ、スクラップにするのは変わらねぇが」

 

『では御期待に沿えるよう努力はしましょう。とくと御覧あれ』

 

 

そう奴が言い切ると同時に、地面に魔法陣が浮かび上がり、そこから禍々しい光が溢れ出る。

 

……魔力は感じる。けれど、術式から術者への道筋が分からない……!

 

 

「盾石!」

 

『あかん、いきなり現れたでそれ!? ウチも魔力の流れを特定出来ひん!』

 

「先輩でもダメか……」

 

 

言ってる間にも魔法陣は光を増して、そしてその中心に大きい人型のナニカが現れる。

 

それは黒鉄で作られた鎧を纏う、大型の騎士だった。

 

重厚感を感じるその鎧は、見た目にそぐわぬ硬度を持ってそうなのは見て取れた。

 

そして、その手には騎士の巨体を凌ぐほどの大きさの大剣が握られている。

 

……おいおい、これも人形か? いや、この気配は……。

 

 

『“騎士人形(ナイトドール)”、参りましょうか』

 

『_____!』

 

 

【人形遣い】がそう指示すると同時に、項垂れていた黒鉄の騎士にまるで意識が宿ったかのように動き出し___嫌な予感がして右目に魔力を集中させて先視を起動。

 

数刻先の未来。先視が視せたのは、たった一度の踏み込みで間合いに入り剣を振りかぶる黒騎士の姿。

 

 

「ッ!?」

 

 

即座にその場から跳んで離れると同時に、今しがた視たばかりの光景通り、黒鉄の騎士がおれのいた場所に大剣を振るう姿。

 

 

「早い!?」

 

 

驚愕しながらも氷室が氷の槍を射出するが、黒騎士は大剣で難なく迎撃する。

 

 

「どんな腕力をしてやがる……!」

 

 

いや、そもそもアレは本当に人形か?

 

人形と言うにはさっきまで出て来ていた“殺戮人形”と比べると、動きがあまりにも生物的だ。

 

それに、さっきも思ったけどコイツには気配がある。意思こそ感じられないけど、生き物特有の気配を感じる。

 

 

『生体人形……と言えば聞こえは良いんだけどねえ。元々はそれなりに腕の立つ魔法使いの死体を少々弄らせていただきました。……ああ、自我などありませんよ。それは既に消させていただきました』

 

 

事も無げに言い放ったその言葉に、通信越しの盾石も含めておれ達は息を呑む。

 

 

「……元は人間って訳か」

 

『御名答、正解者には拍手を差し上げましょう!』

 

 

パチパチと演出のつもりなのか、残っていた人形達が一斉に拍手を始める。

 

そのあまりの神経を逆撫でする行為に、再び怒りの感情が湧き上がる。

 

……最初に人形越しとは言え、奴の目を見た時に分かっていたはずだ。

 

奴は、いてはならない存在だと。

 

いるだけで、他者を不幸にさせる存在だと。

 

 

『アハハハッ! ああ、その顔、その表情! 実に素晴らしい! やはり君達はお人好しなんだねえ!』

 

「……なにがおかしい?」

 

 

何か琴線に引っかかったのか、【人形遣い】は心底おかしそうに笑い声を上げる。

 

 

『善人だから、お人好しだから、関係のない他者であっても守ろうとする! 関係のない他者の不幸も悲しむ!その在り方、実に素晴らしい!

 

____そして、実に壊しがいがある』

 

 

……たたでさえ面倒臭いゴミカスの、それも聞くに耐えない演説染みた性癖の発露を聞かされて、思わずため息を吐く。

 

耳が腐りそうだと本気で思った。

 

本体もいない以上、コイツとこれ以上やり合っても無駄だろう。

 

 

 

「スゥ……ハァ……」

 

 

 

呼吸を整え意識を切り替える。

 

 

肉体を戦闘用に最適化させる。

 

 

甘さを捨て去る。弱さは隠す。

 

 

戦うのに必要ない機能は削ぐ。

 

 

故に、今この場にいるのは学生としての芳乃灯火ではなく、

 

 

 

敵と定めたモノを躊躇いなく屠る、非情に徹した魔法使いだ。

 

 

 

『さぁ! 今度こそワタシに聞かせてください!君達の極上の悲鳴を!!』

 

 

 

____右目に、魔力を集中させる。

 

 

 

見た目にそぐわない速さで黒騎士が動き出す。

 

膨大な質量を誇る大剣が振りかぶられる。

 

その狙いは棒立ちしているおれだ。

 

真正面から踏み込み、袈裟に振るわれる斬撃はマトモに当たれば即死は免れない。

 

 

 

だが、それら全ての情報は、この右目が既に映し出している。

 

 

 

「_____!」

 

 

だから、おれのやる事は単純明快だ。

 

黒騎士の攻撃に合わせて踏み込み、自分から間合いに入り込む。

 

黒鉄の鎧はそのままじゃ銃弾を通さない。一度砕く必要がある。

 

故に、最初に選ぶべき武器は決まってる。

 

間合いに入ったおれを黒騎士が反応するより更に早く、愛銃から取り替えて右腕に装着した質量兵器を押し当て、引き金を引く。

 

 

 

 

_____炸薬式杭打機(パイルバンカー)

 

 

 

 

ガゴンッッッ!!!と、炸薬により爆発的な勢いで撃ち出された鉄杭の射出音が響く。

 

合体トカゲを一撃で屠った師匠の趣味の産物でもって、黒騎士の鎧を砕きつつ、その体を吹き飛ばす。

 

 

『複合合金の鎧を一撃で……ですが、まだ___!』

 

 

奴の息を呑む音が聞こえた時には、おれは吹き飛ばした黒騎士に再び肉薄していた。

 

パイルバンカーは既に愛銃へと取り替えている。更に言えば、魔力の収束も終えている。

 

 

 

「遅ぇ、コイツの結末はもう視えた」

 

 

 

そう言い捨てながら、鎧が砕かれてツギハギだらけの肉体に、打ち上げる様に直接シリウスの銃口を叩きつける。

 

身体強化も込みのそれは、形だけ見れば鳩尾にアッパーを叩き込んだ形となる。

 

踏み込んだ勢いを殺さぬまま騎士の巨体を突き上げ、引き金を引く。

 

チャージ……4。

 

 

 

「バーストショット……ッ!」

 

 

 

ドンッッ!!と、衝撃音と共に空中へ吹き飛ぶ黒騎士。

 

吹き飛びながら内部に撃ち込んだ魔力が膨張し、肉体が膨れ上がり、内部から鎧を圧迫、破壊していく。

 

 

『これは……!』

 

 

___チャージ4 バーストショット。

 

本来は直撃すると爆発する球状のエネルギー弾を発射する四段階目の魔弾だが、今回はそのエネルギーを直接肉体に叩き込んだ。

 

【人形遣い】がどうやって他の人形を、そして黒騎士を操ってるのかは分からないが、魔法である事には違いない。

 

魔法は、想いと魔力により紡がれる。

 

だから、ありったけの殺意と膨大な魔力を直接流し込む事で奴の支配を打ち消しつつ、肉体ごと破壊する。

 

 

「……こんな方法しか思い付かなかった、恨むなら恨んでくれ」

 

 

おれがやった事は、死んだ者をもう一度殺しただけだ。

 

所詮、おれが出来る事は限られている。

 

「人に仇なすモノには、それ以上の暴威をもって退ける」……おれが出来るのは、それくらいなのだから。

 

恨まれても仕方ないだろう。

 

だが、

 

 

 

 

『……あ、り……が………と、う……』

 

 

 

 

臨界点に達した魔力が爆発する直前、そんな声が聞こえた。

 

それは聞き間違いだったのかも知れない、それとも身勝手にも救いを求めた脳が勝手に幻聴したのかも知れない。

 

けれど願えるなら、どうか安らかに眠ってほしいと思う。

 

そして、次の瞬間には、炸裂する音と共に肉体と鎧の破片が辺りに降り注いだ。

 

 

「……次だ」

 

 

右手の愛銃を握り締める。戦いはまだ終わってない。

 

数瞬先の未来を映す右目と、今まで鍛えた予測の感を合わせて、残ってた兵士人形達の動きを完全に捉えて沈黙させていく。

 

回避も防御も許さない。

 

回避しようすれば動きごと視て、その先に弾丸を置くように放ち、防御しようとすればその隙間に弾丸を叩き込む。

 

 

『おや、おやおやおやおや……!?』

 

「この動きは……!」

 

 

撃つ。撃つ。撃って、撃って、ひたすら撃ちまくる。

 

……そして、残ったのは最後の一体。

 

両手に刃を出現させた“兵士人形”を、けれど動きを先読みしたおれが両手足を撃ち抜いて沈黙させる。

 

 

『なる、ほど……。これが当代の【先視の魔法使い】、そして“あの男”の息子の力、と言う訳だねえ』

 

 

死に体となった人形から聞こえる奴の声には、僅かばかりの驚きが含まれていた。

 

その人形の頭に照準を合わせる。

 

これ以上、奴の言葉を聞く理由はない。

 

 

「テメェはおれが必ず殺す。覚えておけ」

 

 

返答は聞かず、そのまま引き金を引いて人形を黙らせる。

 

最後の人形を破壊した瞬間、奴の魔力も途絶えたのか人形は塵となって消えて行った。

 

他の人形も、黒騎士さえもだ。

 

 

「人形が塵になった……?」

 

「……証拠隠滅用の魔法を仕掛けてやがったか。暇つぶしと言う割には用意周到だな」

 

 

意識を元に戻しながら状況を整理する。

 

こうなると手掛かりも得られなかった事になる。

 

……唯一、分かったのは奴の名前と容姿くらいか。それもアテになるのか定かじゃないな。

 

骨折り損のくたびれ儲けって奴だ。……この負債は、いずれ奴の命を持って返済させてもらおう。

 

 

『反応消失、確認。戦闘終了……と見てええな』

 

「……後味が悪いですけどね」

 

『……せやな』

 

 

奴の様子じゃ、あの黒騎士以外にも人を素材にした人形を備えてるのは間違いないだろう。

 

全く持って、胸糞が悪い。

 

 

「___トーカ先輩! ジン先輩!」

 

 

と、慌てた様子の、それでいて聞き慣れた声が響き、次いで空中から、その声の主がおれ達の近くへ着地する。

 

確認するまでもない、海央である。

 

……そういや、盾石が呼んでたんだったか。にしては遅い気もするが。

 

 

「ごめんなさい。連絡受けてすぐに窓から飛び出したら、認識阻害の魔法を使い忘れてて、窓から跳び出した所を寮の管理人さんとみうたんに見られて捕まってぇ……!」

 

「……なんつー間が悪い」

 

 

滅多に出て来ない管理人と美嶋さんに見つかったなら、誤魔化すのは無理か……。認識阻害の魔法を使わなかったのは痛いな。

 

 

「……ま、今回は来なくて良かったかもな。【人形遣い】本体はいなかったし。胸糞悪いもん見せられただけだし」

 

「うぅ、あたし、【防人】なのに。【正義の魔法使い】なのに……!」

 

 

全くなにも出来なかった事にプルプル震えながら嘆く海央の姿に思わず気が抜ける。

 

殺伐としていた所で、いつもの海央の姿を見るのは随分と助かるものだ。メンタルがリセットされる。

 

 

「取り敢えず、人除けの魔法が効いてる間に……後片付けをしようか」

 

 

氷室の声に戦場となった公園を見渡し、思わずうげっと顔を青ざめる。

 

木々には銃痕や氷剣の切り傷、地面には愛銃やAKー47にミニガンやらの薬莢がそこら辺に落ちていて、更に抉れていたりとコチラも酷い。

 

人々の憩いの場が戦場に様変わりしている。爆発系の兵器を使わなかったし、人形も塵になったとは言え、後片付けは中々大変そうだ。

 

魔法を併用しても相当骨が折れるだろう。

 

 

「……これは結構時間かかるな」

 

「日も落ちてるし、大変そうだ」

 

「だな。……悪い海央、来て早々アレだが、荷物持って先に帰って、部屋に来る連中に飯作るの遅くなるって伝えてくれねぇか?」

 

「え、うん、いいけど。あたしも片付け手伝うよ?」

 

「や、食材とかそろそろ冷蔵庫に入れないと痛みそうでな。もったいないから持って帰ってくれ」

 

 

せっかく美味しそうなシャケを買えたんだ。あんなクソヤロウの襲撃のせいで台無しにするのはもったいない。

 

 

『せや、ジン君もシーナちゃんにちゃんと説明しいや? ……さっきから後ろでウチのことがっしり掴んでるんよ。と言う訳でウチ逃げられへん、たすけて』

 

『そう言う訳です。氷室さんは用事を済ませ次第、直ちに私に説明をお願いします。先輩はそれまで人質です』

 

「鳳城さん!?」

 

「まて、鳳城の奴、ずっといたのかよ……?!」

 

 

確かに盾石に任せたって氷室が言ってたけどもよ。

 

 

「あちゃぱー……しぃしぃ先輩に知られちゃったかぁ、あたし達のこと」

 

「【人形遣い】が出て来た時に鳳城も一緒にいてな。……正直、巻き込んで悪いと思ってる」

 

『……芳乃さんが謝る必要はないと思います。私も断片的に様子を聞いてたんですけど、どう考えても悪人はあちらの方みたいですし』

 

「……その件も含めて、僕の方から改めて説明をする。取り敢えず、今は片付けに入ろう」

 

「……そうだな」

 

 

と言う訳で海央には申し訳ないがとんぼ返りしてもらい、おれと氷室は戦いの痕跡を消すために後片付けを開始する。

 

……やはりと言うか、無数の薬莢を拾い集めるのは大変な苦行だったと言わせて欲しい。

 

薬莢を回収する為だけの魔法を、開発した方がいいのかも知れない……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「はははっ。……ああ、想像以上でした。流石は“あの男”の息子だ。あの歳で、あそこまで仕上げているとはねえ……!」

 

 

破壊された事で人形とのリンクが切れた【人形遣い】は、拠点としている船の上で静かに嗤っていた。

 

脳裏に描くのは、自身に絶対的な敗北を与えた魔法使いの姿。

 

その血の繋がった息子が、弱い訳などなかった。

 

並の戦闘特化の魔法使いなら蹴散らせる“騎士人形(ナイトドール)”を瞬く間に打ち砕き、残っていた“兵士人形(ポーンドール)”も、動きを完全に捉えて、回避も防御も許さず刈り取ったその手腕に、【人形遣い】は素直に感嘆していた。

 

 

「未来視を併用した近未来予測による敵性対象の動きの完全な捕捉……そしてそれを十全に扱うための銃技。そして何より、纏う空気が変わってからの迷いのない動き。

 

魔法使いとしては確かに異物なれど、戦闘者としてはあの年で完成度が高い……保険をかけていなければ、あの場で殺されていましたねえ」

 

 

自身を模した人形をわざわざ拵えて正解だったと、仄暗い笑みを浮かべながら【人形遣い】は一人呟く。

 

下手を打てば死んでいたと確信していた。先視の魔法使いは既に、【人形遣い】にとって明確な脅威足り得る力を見せつけていた。

 

 

「……しかし、それでもまだ青い。付け入る隙はある……クク、ハハ……! おめでとう、咲三灯火君。貴方を明確にワタシの敵と見なしましょう。

 

___必ず、絶望した表情を拝ませてもらいますねえ。そのうえで、貴方はワタシの新たな作品の素材とさせていただきましょう」

 

 

故に【人形遣い】は決意した。

 

あの先視の魔法使いは、必ず絶望させてから殺すと。

 

自身の新たな作品として加えるのに十分だと。

 

 

 

月が照らす夜の海の上、誰にも知られる事なく、【人形遣い】は嗤い続けた。

 

 

 




◇チャージ4 バーストショット

シリウスの魔力収束四段階目の魔弾。直撃すると爆発する球状のエネルギー弾を発射する。

今回はそのエネルギーを直接敵の体内に注ぎ込んで爆発させると言う、考えようによってはかなりエグい使い方をしている。


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