D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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思いっきりバトルしたから思いっきりイチャつけばいい。そんな心情とノリで書き殴りやした。

またストック貯め直しだぁ(白目)


EPISODE 29

 

 

「……つまり、魔法の大災害を芳乃さんのお父様が起こそうとしてて、芳乃さんは未来視の魔法で小さい頃にそれを知ってずっと備えてて、氷室さん達もそれを知ったから協力してると」

 

「掻い摘んで言うとそうなる」

 

「正直に言えば、信じられない……けど、あの【人形遣い】って人と氷室さんと芳乃さんが戦う所を通信越しに見たら、否定出来ません」

 

 

後片付けを終えた僕は、約束通り鳳城さんに全ての事情を説明していた。

 

説明には鳳城さんに捕まってた先輩もいたことと、鳳城さんも魔法使いであったことからスムーズに行うことが出来た。

 

 

「スケールが大きすぎて、正直に言えばいっぱいいっぱいです」

 

「そりゃなぁ……シーナちゃんは魔法使い言うてもウチらみたいな訓練積んでた訳ちゃう、一般人となんも変わらんみたいやもんな」

 

「……だから、鳳城さんは正直何かあったならすぐに逃げる様にして欲しい」

 

 

そもそも、魔法使いの中でもその力を戦いの為の力としている僕達の方が珍しいんだ。

 

【防人】が万年人手不足なのも、それが一因だからな。

 

 

「その時は、頼らせてもらいます。正直逃げ切れそうにありませんし」

 

「……せやな。ジン君、しばらく鳳城さんに付いとき。【人形遣い】の行動は思ってたより読めへんし、安全を考えても送り迎えくらいした方がええわ」

 

「了解」

 

 

流石にこれで奴に目を付けられて狙われでもしたら気が気じゃなくなるし。暫くは護衛に回った方が良いかも知れない。

 

 

「……あれ、そうなると、氷室さんとほぼ毎日一緒に行動することになるんじゃ……?」

 

「せやなぁ。まぁ、アレよ、ジン君は魔法使い一筋で生きてきた子やけど、真面目で誠実やし問題ないと思うよ。真面目過ぎるし若干天然なのは玉に瑕やけど」

 

「誰が天然ですか誰が。あとなんの話ですか」

 

「あ、分かります。日野原さんの冗談に対しても真顔で真剣に捉える事もありますし」

 

「鳳城さん???」

 

 

……ちょっと自分がどんな風に思われてるのか気になって来たんだが……いや、やめよう。これは多分地雷だ。踏んだらきっと、そこのあーぱー女が延々と絡んでくることになる。

 

 

「それで、トーカ君は大丈夫そうやった? 結局戦わせてもうたし」

 

「ええ、ただ、流石に疲弊はしてたみたいですが」

 

「あんなデタラメな戦い方してたら、そりゃなぁ……」

 

 

思い出すのは終盤の芳乃の戦いっぷりだ。

 

本人は今現在、数秒先しか未来を見れないと言っていたけど、その数秒……いや数瞬でも未来が見えれば、それで芳乃は突破口を軽々と作り出す。

 

なにせ【先視の魔法】で常に先手を取り続けるのだ。モノを取り替えるだけの【取替の悪戯】も、先視で先手を読んで的確な武装を取り出せるから、脅威度がより増している。

 

先を視ることで防御も、回避も、許さない。その全てを打ち崩して蹂躙していく。

 

その分、魔力も体力も使うみたいだが。

 

 

「とにかく、【人形遣い】本人が動き出したんや。……きっと、ここからもっと忙しくなるわ」

 

 

先輩の言葉に静かに頷く。

 

奴の人となりを間近で見て、より奴の危険性を理解出来た。

 

怪異の件もある。マナの残骸によるマナ不足も、僕達が普通に戦えるくらいには回復している。感知の範囲外から起きても不思議じゃないんだ。

 

油断せずに行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 29-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………つ、疲れた……! 流石に疲れた……!」

 

 

 

____時刻は既に夜。少し欠けた月が香々見島を照らす。

 

 

あれから出来る限り戦痕を消して、証拠(薬莢)なども回収しきって、火薬の匂いを消す為に組んだ洗浄魔法(師匠及びばあちゃん監修の特別製)も使って、後片付けが終わったのは約1時間後。

 

いつもならもう飯を食い終えて皆と一服してる頃だが、おれがこの体たらくなので、恐らく叶方辺りが空腹で嘆いてるだろう。

 

TABに連絡を入れる間もなく後片付けに没頭して、それが終わってから、すぐに寮に帰って来たので状況もまだ把握してない。と言うか把握する時間すら惜しかった。

 

流石に腹ペコ共をほったらかしにするのは罪悪感があるので、今から急いで夕飯の支度をせねば。

 

呼吸を整えてから、改めて自室へと向かう。

 

取り敢えず海央から話が言ってる筈だが……と、自室の前に来た所で、ふとその気配に気づく。

 

まさか……?と思いながらも自室の扉を開けると……。

 

 

「……くぅ……すぅ……」

 

「……は?」

 

 

自室のベッドの上に、何故か私服姿の恋愛請負人こと白河が寝息を立てていた。

 

や、ちょ、まっ、ホントになにやってんのコイツ!?

 

幾らプライベートが死滅してるつっても、男の部屋でたった一人でなに無防備かましてんのさ、この恋愛請負人はぁ!?

 

おのれはなんで所々で無自覚なんだよホントにさぁ!?

 

 

「ハッ、そうだ、TABになにかメッセージ来てないか……?」

 

 

慌ててTABを取り出すと、案の定COMUの方に白河からメッセージが入ってた。

 

 

『海央ちゃんから話は聞きました。どうやら忙しいみたいですね』

 

『と言うことで、今日はキミの代わりにボクがご飯を作ろうと思います。キッチン勝手に使うけど許してね♪』

 

「うぉい」

 

 

思わずツッコミを入れる。

 

や、まぁ何時もの面子とは食費折半してるし(杉並のみたまに現物支給で何か変なものを持ってくるが)、台所使われても別に文句もないが。

 

 

『シャケと茸のバターホイル焼き、取り敢えず見様見真似で作って海央ちゃんと叶方で食べました。芳乃の分も作って置いてあるので食べてください。なお、杉並は行方不明』

 

『久々に料理したら少し疲れたので、ベッドちょっと借りますね? 帰ったら起こしてください!』

 

 

と、続けて【オヤスミ!】と布団を被るムササビのスタンプが貼られてメッセージは終わった。

 

……なるほど、経緯は分かった。

 

分かったが、それでも一つ言わせてくれ。

 

 

「……年頃の女子が同年代の男の部屋で不用意に無防備な寝顔を晒すな、この阿呆ぉ……!」

 

 

普段のすぐに悪戯をしそうなおどけた表情とは違って、幼くあどけない寝顔を見せる恋愛請負人の姿に、思わず頭を抱える。「ベッド借りますね?」じゃねぇんだよ、事後承諾やめろコノヤロウ。

 

元々有里栖や二乃にも負けないほどの美少女が、よりにもよって自分のベッドの上で寝てるとか、仮にも青少年には刺激がキツ過ぎる。

 

さっきまでの戦闘で蓄積した疲れとはまた別種の疲れに、おれは思わずため息を吐いた。

 

……昼間に信頼しあってるみたいな話をしてたけど、これは流石に信頼し過ぎではなかろうか?

 

なんというか、これは一度しっかり話をしなければと思う。や、ホントに切実に。

 

 

「ハァ……コイツはホントにもう……! おい白河、起きろ。仮にも男の部屋で無防備を晒すな。おーきーろーっ」

 

 

痛くならない程度にぺちぺちと頬を叩いて、この無防備恋愛請負人を起こそうと試みる。

 

女の子らしい柔らかな頬が揺れるものの、割と深く居眠っているのか「んぅ……」と耳に悪い声を出したり寝返りを打つだけで、白河はなかなかな起きない。

 

あと寝返り打ったせいでスカートの中が割とギリギリ見えそう……だから無防備過ぎるんだっての、このバカ!?

 

 

「……仕方ねぇ、海央を呼んで運んでもらうか」

 

 

予備のタオルケットを取り出してから被せて、際どくなった所を丸ごと隠しておく。

 

……ホント、警戒心くらいは抱いてて欲しい。頼むから、後生だから。

 

取り敢えず海央に「部屋で白河が寝てるんだが、助け求む」とCOMUにメッセージを入れておく。

 

つか、腹減った。どうやら白河が代わりにご飯を作ってくれたみたいだし、制服の上着をハンガーに引っ掛けてから台所へ向かう。

 

 

「これか」

 

 

探しものはすぐに見つかった。

 

ラップで包まれた皿の中には、今日おれが作る予定だったシャケと茸のバターホイル焼きや、白河が作ったであろう他のおかずなどがあった。

 

流石に少し冷めてる様だが、これならレンジで十数秒温めれば良いだろう。

 

その間に保温になってた炊飯器からご飯をお椀によそう。ちょうど1人分残っていた。米の炊き上げもやってくれていたらしい。

 

空になった炊飯器をお湯に漬け終えると同時に、レンジからチン♪と小気味いい音が聞こえた。

 

それから白米とおかずなどを机に運び、常備してるペットボトルの水も持ってきてから手を合わせる。

 

 

「いただきます」

 

 

なんとなく、寝てる白河を起こすのも憚られてしまい、静かに呟く。

 

早速メインであるシャケを箸で切り分けて左手の白米に一度乗せて、一口分を口に入れる。

 

 

「うまっ……!」

 

 

バターの風味とシャケの旨味がしっかり噛み合って口の中が大変幸せになる。

 

一緒にホイル焼きしただろう茸も香りを残しつつバターと調和しており、噛みごたえも十分。

 

恐らく下ごしらえの時に多少の味付けも加えたのだろう。その優しい味付けはとても自分好みであって、思わず口元がほころぶ。

 

 

____ガタッ。

 

 

 

と、突如響いた物音に意識がそちらに向けられる。

 

 

「あ」

 

「……あ」

 

 

見たら、少し顔を赤くした白河と目があった。……いつの間にか目を覚ましていたらしい。

 

 

「あ、ちょ、その、おはようございます……?」

 

「今はまだ夜だし何故に疑問形? ……あー……悪かったな、夕飯を代わりに作ってもらってさ」

 

 

開口一番に言わなければならない事を言っておく。クソヤロウの襲撃があったとはいえ、遅れたことは事実なのだから。

 

おれがそう言うと、白河は一瞬だけ目を丸くしてから、いつものおどけたような表情になる。

 

 

「海央ちゃんから話を聞いて、まぁたまには良いかなって思っただけですよ。普段、芳乃が使ってる調理器具とかにも興味ありましたし。……それで、お味はどうでした?」

 

「ああ、とても美味しい。出来立てで食べれなかったのが惜しいと思うくらいには」

 

 

やはり料理は出来立てが一番だ。まぁ、一晩寝かせたカレーとかの例外もあるけど。

 

おれの言葉に安堵したかのように溜息を吐く白河に、首を傾げる

 

 

「ボクの料理の腕前は芳乃には及びませんし、もしかしたら口に合わないかもーって少し思っちゃったけど、杞憂でしたね」

 

「合わねぇってことはねぇよ。寧ろこの味付け、おれは好きだよ」

 

「そっ、そうですか、それは良かったです……」

 

 

先ほど抱いた感想を思い出して、素直にそう言うと白河が視線を逸らす。

 

それを少し不思議に思ったが、腹が減っていた事もあって取り敢えず食事に意識を向ける事にした。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「はい、おそまつさまでした」

 

 

それから夕飯を食べ終え、感謝の念も込めてしっかりと手を合わせて、食と作ってくれた白河への礼を尽くす。

 

取り敢えず食器は流し場で水に浸けてから、改めて白河に向き直る。

 

 

「夕飯、ありがとな。……さて、それはそれとして、一つ物申したい事がある」

 

「? 疑問。あ、やっぱり味付け気になるとこあった?」

 

「違う、味付けは問題ない。なんならまた食いたいくらい」

 

「……そ、そうですか……。それなら、一体なんです?」

 

「おのれは少し……いや、かなり無防備過ぎ」

 

 

ビシッと人差し指を突き付けると、首をちょこんと傾げる白河。

 

……その仕草がちょっとかわいいと思ってしまったが、心のなかで首をブンブンと振って煩悩を祓っておく。自身の未熟を恥じるぞチクショウ。

 

 

「……あのな、幾ら気心知れた仲って言っても、男の部屋であまり無防備にしとくもんじゃないんだよ」

 

 

このままだと、男そのものの警戒心をなくしてしまうんじゃないかと危惧したので、しっかりと言うべき事は言っておこう。

 

白河も白河でおれの言いたいことを察したのか、納得した様な表情になった。

 

 

「納得、言いたいことは分かりました。でも芳乃なら平気だよね、キミは結構紳士ですし」

 

「そう評価してもらってるのは有り難いけどな、それでも気を付けろって言いたいんだよ。……さっきなんて、おれが帰って来てもすぐに気づかずにぐーすかぴーって寝てたじゃねぇか」

 

「それは確かに。でも実際に大丈夫だったじゃないですか?」

 

「………………」

 

 

完全におれに害はないと信じ切っている白河の発言に、内心でまた頭を抱える。

 

や、そう思ってくれてるのはうれしいんだよ。心から信頼されてるって事だし。

 

でも、だからって無防備過ぎるとこっちが困るのである。……最近は、特に距離感が前より近付いてるって自覚は、おれにもあるし。

 

……だから、余計に心配になるんだ。おれに慣れすぎて白河がこの先、距離感をバグらせないかって。

 

と言うか、アレだ、ちょっとプッツンってキレた。

 

この期に及んで無自覚なのは流石にどうなんだよ?って感じで。

 

でも言葉ではあまり理解してくれないようだ。……なら、仕方ない。この手は出来たら使いたくなかったんだが。

 

言葉で分からない事をどうにか伝えるなら、その手段は一つしかないだろう。

 

 

____即ち、実力行使だ。

 

 

 

「スゥ……ハァ……」

 

 

呼吸を整えると共に意識を切り替える。

 

戦闘時の一歩、いや殺気も敵意も出さないなら二歩くらい手前の感覚で固定。

 

……素面でやったら絶対に自爆するからな。主に罪悪感と羞恥で。

 

 

「……白河。一応、先に謝っておくからな」

 

「? 疑問、謝るってなに___ひゃっ!?」

 

 

ボスンと、右手で白河の両手を掴んでからをベッドに押し倒し、覆いかぶさる様にする。

 

 

 

___ギシッ。

 

 

 

ベッドのスプリングが2人分の体重により軋む音を上げた。

 

普段の自分だったら絶対にやらない……同年代の女の子に対する、あからさまな暴挙。

 

おれがこんな事をするなんて全く思ってなかったのか、白河も白河で顔を真っ赤にさせて目を見開いて驚いている。

 

 

「ちょ、芳乃!? 悪ふざけは___」

 

「だから先に謝っただろうが」

 

 

少しキツめに視線を鋭くすると、射抜かれたように白河の言葉が止められる。

 

 

「……おれだって男だ。あまりに無防備過ぎる姿を見せてると、何かの間違いで襲うかも知れないんだぞ」

 

 

そう言いながら、体を支えてない左手で白河の頬に触れる。

 

手のひらで触れた部分は柔らかくて、熱い。今もその熱は上がって行ってる気がする

 

白河はそれにビクッと震えながら、パクパクと口を開けて言葉にならない言葉を放っているが、当然無視する。

 

 

「……前々から言ってるけどな、おのれは有里栖や二乃に負けないくらいかわいいんだよ。……そんな女の子があまりにも隙だらけだと、幾らなんでも物申したくなる」

 

「ちょ、まっ、や……っ」

 

 

頰どころか顔全体を真っ赤にし、呼吸も乱し、目元を潤ませて視線を揺らす白河。

 

その視線を逃さないように真っ直ぐ見つめる。

 

いつにも増して女の子らしく、普段なら絶対に見れない表情は、いつものおれなら理性をやられていたのかも知れない。

 

と言うか今もちょっとやられかけてる。が、そこは気合でなんとか維持する。

 

白河は白河で身を捩ろうとするも、両手の拘束は解けない。

 

 

「おのれは運動神経がよくても力はない、こうなったら簡単には逃げられないんだ。そうなった時に後悔しても遅いんだってことは理解しろ」

 

「っ!? 〜〜〜〜っっ!!」

 

 

まぁ、流石にこの様子だと言いたいことは理解してくれたと思う。分かってくれてなかったら流石にお手上げだったが。

 

……うん、ここまでで良いだろう。これ以上は無駄に怖がらせるだけだと思うし。つか、おれも保たん、色々と。

 

頰に触れてた手を離して、それをオデコに向け少し強めにデコピンを食らわせておく。

 

 

「あいたぁ!?」

 

 

不意打ち同然のそれに思わずオーバーリアクションをする白河から離れ、意識を元に戻す。

 

 

「……頼むからもう少し自分を大切にしろ。おのれに何かあったら、美嶋さんとか絶対に気が気じゃなくなるし、SSRの面子だって絶対に心配するだろ」

 

 

………………………………くそっ、やっぱりやるんじゃなかった。

 

意識を元に戻せば、やはり襲いかかる羞恥心と罪悪感。

 

慣れないことなんて、やるもんじゃない。

 

それでもなんとか、言いたいことを纏める。

 

 

「……正直、今のはやり方としては最低だしぶん殴られても仕方ないと思ってる。だから、殴りたかったら殴っていい。受け入れる」

 

 

それから白河の方を向きながら、目を瞑って無防備の状態となる。

 

アイツの性格なら、一発くらい絶対にやり返すだろう。なのでケジメも兼ねて防御も回避もせずに受け止めるとしよう。

 

しかし、予想してた衝撃は来ずに、代わりに肩を掴まれたと思ったらグルンと横方向に一回転して、今度は逆に押し倒される。

 

この感じからして、合気道か!?

 

 

「ぐわっ!?」

 

「……憤慨。確かに今の芳乃は少し怖かったです。いつもとは違う感じで視線も少し鋭くて、なにより力強くてさ」

 

 

___ギシッ。

 

 

と、再びベッドが2人分の体重により軋む音を上げる。

 

 

「……でも、ボクを心配したうえでの行動だったってことは分かります。確かに、ボクの方が少し無防備過ぎたかも知れませんでしたし」

 

 

状況は先程とは真逆。おれが下で白河が上の体勢。

 

端麗な顔が、おれを睨む。

 

それと、ツインテールで纏めた髪の先が頰に当たって少しくすぐったいと、場違いにも思ってしまった。

 

 

「キミがあんな大胆な事するくらいにはボクもやらかしてたんだなって思うと確かに反省ものですね。……ごめん芳乃」

 

 

そう言う白河の表情から、その言葉には嘘がない事は伝わった。

 

どうやら、おれの言いたいことは分かってくれたらしい。

 

それに思わず安堵の溜息を吐いた直後、白河の表情がいつものおどけた悪戯めいたものに変わる。

 

 

「___でも、それはそれとして、やられっぱなしは悔しいので倍にしてやり返しますね♪」

 

「ちょっと待てやコラ」

 

 

訂正、やっぱりコイツ、懲りてないのかもしれない。

 

押し倒されてる身でアレだが、流石にプッツンときた。

 

 

「おのれは人の話をちゃんと聞いてたのかコラァ!?」

 

「愚問。と言うかだね、あんなのボクにやるくらいなら未羽にでもやれってもんなんですよ! なんで尽くチャンスを逃すんですかねキミ!?」

 

「キレる所はそこなのか!? それと何の話だなんの!? つか、おまっ、このバカヤロっ、美嶋さんにやったら2秒で気絶するだろうが! あんな事、おのれ以外にはしねぇよ!」

 

 

他の奴にはする必要がそもそもないからなァッ!? 無防備無警戒なんはおのれだけじゃい!

 

 

「〜〜〜っ!? だーかーらーっ! なんでそんなことサラッと言えちゃうんですか、このオオカミゴリラは!?」

 

「魔合体させて愉快なキメラを生み出すんじゃねぇ!?二足歩行と四足歩行のどっちなんだそれ!? オオカミかゴリラかどっちかにしろ! ……いや、ゴリラはゴリラで否定するけど」

 

「じゃあゴリラで!タラシゴリラー! スケベゴリラー!! むっつりゴリラー!!!」

 

「だから話聞けよムササビ女!? タラシでもスケベでもむっつりでもねぇしゴリラでもねぇわッ!? つか誰がゴリラじゃ誰が! 燃えるハバネロとガッチャンコしてワンパンチかますぞゴルァ!」

 

「バーニングゴリラな仮◯ライダー!? いやだから結局それゴリラでしょうが、このゴリラごりらGORILLAーッ!!」

 

「うっがーーーー!!」

 

「きしゃーーーー!!」

 

 

もうヤケクソと言わんばかりにギャーギャーと言葉の応酬を繰り広げる。

 

最後らへんとかもう人間性が崩壊して獣同士の威嚇になってた様な気がする。

 

 

「ばーか!ばーかっ!ばーかっ!!」

 

「あほー! あほー!! この、あほー!」

 

 

____むぎゅー。

 

 

「ふぎぎぎぎぎ……!」

 

「ふにゅぅうう……!」

 

 

しまいには知能レベルの低い罵り合いとなり、最後はガキンチョの喧嘩みたく、お互いに頰を引っ張り合うだけになってしまった。

 

しかも、お互いに引きどころを見失ってるので永遠に終わらないと言う。

 

頭の冷静な部分でこうやって客観的に見てるが、これはヒドイ。

 

お互いもう少し建設的に話が出来るはずなのに、なぜこうなるのか?

 

 

 

____ガチャ!

 

 

 

「ごめんお兄ちゃん!お風呂行っててCOMU見たの今さっき、で…………」

 

「「あ」」

 

 

と、永遠に続くと思われたくだらない言い争いも、明後日な方向に行ってた思考も、突然の闖入者により終わりを迎える。

 

ああ、そう言えばさっきCOMUで白河を迎えに来るよう頼んでたっけか。アホやり過ぎて忘れてたわ。

 

因みに言うと現在の状況、白河がおれを押し倒した体勢のまま、お互いに頰を引っ張り合ってる状態で止まってる。

 

……ホントになにしてんだろ、おれ達。

 

 

「…………」

 

「「…………」」

 

 

沈黙、沈黙、沈黙。

 

しばらく時が止まったかのように動きも止めるおれ達。

 

 

「…………あ、どうぞごゆっくりー♪」

 

 

ポクポクポクポクチーン! と言う効果音を幻聴した直後、何やらニヤニヤ顔となった海央が扉を閉める。

 

顔を見合わすおれと白河。

 

先ほど獣並みに低下したIQを急速に回復させて、客観的に自分達の状況を見直して思考を高速で回してから、お互いに同じタイミングで顔を真っ赤にさせる。

 

うん、これちょっとやべぇな!?

 

 

「「待て待て待て待て待て待て、ちょっと待って待ってーーー!?!?!?!!」」

 

 

ドンッと、扉を開けて帰ろうとしていた駄妹を捕まえて部屋に入れる。

 

 

「やだなぁもう、取込み中ならそう言ってよもうー♪」

 

「待て駄妹! テメェはちょっと、いや盛大に勘違いをしている!?」

 

「完全同意! 海央ちゃん、ちょっとこっち来て話し合おうか!? ねぇ!?」

 

 

両手に頰を添えてイヤンイヤンと言う効果音が聞こえそうな感じでニヤニヤしてる駄妹へ全力で弁解を始めるアホ二人。

 

もはや必死だった。必死の権化と化していた。

 

 

「たいじょぶ! あたしは口が固いから! でも取り敢えず今から諳子ししょーと二乃にゃん先輩とちょっと話をしようかなって思ってるんだけど」

 

「テメェ今自分で言ったこと秒で矛盾してるぞオイ!?」

 

「話す気満々だよね!? その二人に話す気満々だよねぇ?! だから違うんです色々と違うんですよーー!?」

 

 

随分楽しそうな辺り、この駄妹も良い性格をしてると思う。

 

 

 

 

 

 

……取り敢えず、海央の勘違いを正すのに盛大に時間も体力も使った後、その場はなんとかお開きとなった。

 

と言うかあんまりにギャーギャー騒ぎ過ぎて隣室の叶方がキレた。「こんな時間までなにやってるのさぁ!!」って感じで。

 

結局、叶方による仲裁によって本日は強制解散。

 

解散間際、勘違いを正したと言うのにニコニコしてる駄妹の顔と、顔を真っ赤にしてる白河が印象的だった事は伝えておきたい。

 

 

___しかし、おれの受難はまだ終わってなどいなかった。

 

 

 

後片付けも済んで風呂も歯磨きも済ませて、いざ就寝しようとした時に、それに気づく。

 

 

「(…………だぁぁぁぁぁぁぁっ!! 白河の匂いがして寝れねぇええええ!!!?)」

 

 

ベッドに白河が寝てた時に匂いが移ったらしく、体質柄、鼻のいいおれにはその匂いがバッチリ分かる始末。

 

そのせいでさっきまでアレコレを否応無く思い出してしまって寝るどころじゃなくなっていたのだった。

 

結局、思春期全開な溢れ出そうな煩悩をどうにかするために部屋の真ん中で座禅を組んで瞑想を行う羽目に。

 

瞑想してるのか寝てるのか定かでは無かったが、取り敢えず次の日の授業はバタンキューすることが確定した。

 

 

いくら魔法使いでも限界はあるのだと、改めて思い知った一日であったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「〜〜〜〜〜〜っっっ!!! 」

 

 

バタバタと自室のベッドの上で、顔真っ赤にして悶え続ける。

 

その原因はある一人の男の子。

 

未羽の男性恐怖症を治す……と言う建前で、その未羽との距離を近づけさせようとしていた同級生。

 

 

「芳乃の……芳乃のあほぉ……ぼけぇ……ばかぁ……!」

 

 

その男の子の名前を言いながら思わず罵倒する。

 

……分かってる、これがただの八つ当たりだってことは。

 

 

___切欠はそもそも、芳乃が急用が出来たことでご飯の時間が遅れていたことから始まる。

 

 

いつもの時間になっても帰ってこない料理好きの少年に、同じく彼の部屋で暇を潰していた叶方と首を傾げていると、芳乃の妹分である海央ちゃんから、芳乃に急用が出来たとそこで初めて知る。

 

芳乃が買ってた食材を持ちなから申し訳無さそうにしてた辺り、きっと芳乃にとっても海央ちゃんにとっても想定外の何かが起こったんだろう。

 

とは言えいつ帰って来るか分からない芳乃を、お腹が空いた状態で待つのは精神的にあまりよろしくない。すっかり胃袋を掴まれてることには叶方ともども苦笑いするしかなかったよね。

 

……なので、食材もあるし芳乃の調理器具を借りてボクが料理をすることにした。

 

結果としては中々上手く作れたものの、久々に料理を作ったこともあって少し疲れたボクは、そのまま芳乃のベッドで横になってしまった。

 

……まぁ、うん。ボクに悪い所があるなら、ここで無防備を晒してしまった事にあるだろう。

 

芳乃なら絶対に手を出さないっていう確信。それはある意味で行き過ぎた甘えだ。

 

実際に芳乃は無警戒で寝入っていたボクに気遣ってくれたし、スカートの中が見えないようにタオルケットも掛けてくれたけど、限度はあると言うこと。

 

実はもう、あの時にはボクは起きていた。

 

頰をペチペチ叩かれた時には目を覚ましてて、寝たフリをしてたんだよね。

 

で、油断した時に驚かそうかなって思ってたら……その顔を見てしまった。

 

ボクの作った料理を食べて、心の底から美味しそうに口元を綻ばせる、優しい顔を。

 

飾り気の無い芳乃の素の笑顔に、思わず見入ってしまった結果、物音を立てて起きてるのがバレてしまった。

 

普段から料理好きで通してるから、ボクの作った料理じゃどうだろう?……なんて思ってたら、あんなに美味しそうに食べるんだから、もうたまったものじゃない。

 

ホントに、ずるい。

 

でも、もっとずるいのはその後だ。

 

 

____押し倒された。

 

 

いつもより、もっともっと近い距離。

 

拘束された両手から伝わる力の強さ。

 

頰に触れられた手から伝わるぬくもり。

 

吐息の音、見たことないくらい真剣な眼差し。

 

ドッドっと早まる鼓動の音が、やけに大きく聞こえる中、真っ直ぐボクを見てボクの行動を諫めてくる。

 

やってることはとんでもないのに、その言葉はどこまでも無防備なボクを心配するものばかりで……。

 

 

「……あんなの、ずるい」

 

 

その真っ直ぐな表情を思い出して、また顔が熱くなり思わず枕を強く抱きしめて呟く。

 

普段は杉並達とアホしてたりゴリラだったりする癖に、あの時だけオオカミみたいになるなんて……ホントにずるい。

 

そんな普段見せない顔を、今日はこれでもかと見せつけられたからか、顔の熱が全然引かない。

 

……まぁ、その後はいつも通りの彼で、仕返しをしようとしたらいつもより子供っぽくギャーギャー騒いじゃったんだけど。

 

 

「……ホントになんなんですか、ばか、あほ、ばか」

 

 

思わずまた罵倒してしまうくらいには、今日の芳乃には驚かされた。

 

……そう言えば、よくよく考えたら、ボクはまだ芳乃のことほとんど知らないんだよね。

 

知ってるのは、ほとんど彼が学園に来てからの情報になる。

 

父親との確執で家を追い出された事は言ってくれたけど、そこからどんな風に過ごしたのかは聞いてない。聞いちゃいけないことかも知れないけど。

 

せめて、女の子の好みくらいはしっかり抑えておきたい。

 

未羽は完璧美少女だし、芳乃とも相性はいいはずだけど……万が一ってこともある。

 

 

「……もっと、ちゃんと知らないといけないなぁ」

 

 

恋愛請負人として、彼にハッピーエンドを見せるためには、もっと彼を知らないといけないのかも。

 

今日見たく、知らない顔もあるって分かったんなら、尚更だ。

 

未だに引かない顔の熱を振り切るように、思考に没頭する。

 

明日からはまた予定を変更しよう。色々と計画を練りながら、ボクはそう決意した。

 

 

 

____そして、やがてボクは知ることとなる。

 

 

 

 

ボクの常識では計り知れない超常の力のことを。

 

 

その力を悪用する人のことを、それらから人々を守る為に命がけで戦う人達のことを。

 

 

そして、ある“約束”と使命を抱えてしまって、止まることの出来なくなった本当の彼のことを。

 

 




◇洗浄魔法(特別製)
使う武器の都合で着いた火薬の匂いや汚れなどを取るための魔法。

料理を趣味とする灯火にとっては割と重要で、師と保護者の監修の元、魔力消費度外視で術式を組み上げた。

なお、この魔法を使わなければネコへのモテ具合が半減するらしい。
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