D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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Q.鈍感同士の距離を縮めるにはどうしたら良いか?

A.自覚するまで距離感バグらせるしかねぇ!

と言う訳で日常回です。


EPISODE 30

 

 

 

____キーンコーンカーンコーン。

 

 

 

「……ねっむ」

 

 

 

3/7 木曜日 晴時々曇。夜は満月となる日。

 

 

___時刻は昼休み。空腹もそうだが眠気も半端ない。

 

 

やはりというか、昨日色々と……ホンッッッッットに色々とあったせいで午前中は眠くて眠くて仕方なかった。と言うかガチで寝てた。

 

一応、授業内容は覚えてるから後で時間のある時に復習しとくか。

 

……今日は満月で魔法使いの魔力が高まる日だ。夜になれば少しはこの倦怠感も治まるだろう。

 

昨日、派手に戦ったせいで海央達から「今日は休め!絶対に休め!」って強く言われてるしな。大人しくするしかない。

 

 

「今日は大分お疲れみたいだねぇ」

 

「授業中もずっと寝てる灯火はなんか珍しいな。何かあったのか?」

 

 

寝起きで若干ぼーっとしてたら、叶方と一登、それに杉並が近付いてきた。

 

 

「なんか昨日、急用が出来たとかでご飯作れなくてさ、白河が代わりに作ったんだ。帰ってきてからはなんか白河とギャーギャー騒いでたけど」

 

「ほう、寮の方ではそんな事があったのか」

 

「いやお前も寮暮らしだろうが、杉並」

 

「なに、少しばかり昨日は忙しくてな。……香々見島で見掛けたことのない、生気を感じない謎の集団が急に現れたと俺の情報網に引っ掛かって少し調べていた」

 

 

ピクッと、杉並の言葉に思わず反応する。その大勢の人間に心当たりがあったからだ。

 

【人形遣い】の操っていた“兵士人形(ポーンドール)”の擬態した姿に間違いないだろう。

 

……一瞬で目が覚めたな。でも、今聞くのはちょっとマズイか。そろそろ飯買いに行かないと食いっぱぐれそうだ。

 

取り敢えず体を伸ばしながら立ち上がる。

 

 

「あ、起きた?」

 

「起きたよ。飯買いに行こうぜ、今日はパンだろ?」

 

「……って、あれ? よく分かったね」

 

「明日は唐揚げ定食だからな。なら、今日はパンで済ませるのが唐揚げ定食への、そして男としての礼儀じゃねぇか」

 

 

そう言って三人と視線をそれぞれ合わせてから、示し合わせたかのようにハッハッハ!と笑う。それを見てた二乃が「灯火さんまでぇ……」みたいな表情を浮かべながら先に教室を出て行く。

 

四バカと言われるほど一緒にいたんだ。これくらい分かって当然だって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 30-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___現在地、中庭。

 

 

と言う訳で購買で適当なパンと飲み物を買ってきたおれ達は、ここのベンチに腰掛けてそれぞれの戦利品を口に運んでいた。

 

おれはエビカツサンド。一登と杉並はトンカツサンド。叶方はタマゴサンドだ。

 

 

「それで? 香々見島に現れた謎の集団はどうなったんだよ」

 

 

咀嚼したエビカツサンドをペットポトルの水で流し込んでから、杉並に先ほどの話の続きを促す。

 

 

「それが、俺様の情報網を駆使してもその後が全く掴めなくてな。港から湖畔公園の辺りに集まったのは分かっているのだが、そこで痕跡が途絶えて、新たな謎に直面した」

 

「なんだそれ?」

 

「これを見ろ」

 

 

そう言って杉並が見せたのは湖畔公園の画像だ。

 

……予め、瞑想の要領で精神を落ち着かせていて良かった。

 

杉並が見せた画像は、昨日の戦闘で傷ついた公園の一部の木だった。

 

 

「……木、だな」

 

「これがどうかしたの?」

 

「よく見てみろ、痕跡を隠しているが木の一部が抉れている」

 

 

杉並の指さした部分を見てみると、確かに抉れていた。

 

あまりに覚えがある抉り方に、口が引き攣りそうになるのをなんとか抑える。

 

 

「……誰かが木を傷つけたうえで隠したって訳か」

 

 

なるべく澄ました顔で先に答えを言っておく。内心は冷や汗たっぷりだが。

 

因みに、杉並が見せた木が抉れているのは、おれのミニガンのズガガガガガッ!!!な一斉掃射が原因だ。

 

つまり犯人はおれである。当然ながら言う訳には行かない。

 

 

「流石だな芳乃。だが、こんな抉れ方……それなりに大型の火器でなければ出来る筈がない。しかし先の集団にそんなものを持つものは確認出来ていない」

 

 

そりゃ魔法(インチキ)でビー玉と取り替えたからな、おれが。

 

そんでもってまた魔法でしまったからな。証拠なんてない、はず。

 

……ないよな?

 

 

「いくらなんでも考えすぎだろ。大体、その謎の集団とそれに本当に関係あるか分からないし」

 

「それに、それが大型の銃器を使って出来た傷だとしても、そんなもの使ったら音とかで誰か気付くんじゃない?」

 

 

そっちは人除けと消音の結界を併用して使ってたからな。

 

使ってなかったら今頃今日のニュースで大体的に取り上げられてたろうし。

 

…………魔法なかったらホントにヤバい事になってるよな、おれの戦い方って。今改めて思ったわ。割と綱渡りしまくってやがる。

 

消音と人除けの結界を教えてくれた師匠……一登のじいちゃんにはホントに感謝だわ。

 

 

「二人の言う通り関連性はまだ分からない。が、不審な人間がこの島に来ていると言うのは確かだろう。常坂兄よ、ワンダーランドでのバイトが終わった後はなるべく気をつけておけ」

 

「……それに関しては杉並に同意だな。一登、おのれはただでさえ有里栖と一緒に行動することが多くて恨みを買いやすいんだし」

 

「怖いこと言うなよお前ら?!」

 

「真実だけどシャレにならないよねー」

 

 

叶方は笑い話として捉えているが、結構マジな話である。

 

 

 

 

___ふと、血に染まった水鏡湖に浮かぶ、一登と二乃の姿を思い出す。

 

 

 

 

「一登」

 

「……なんだよ?」

 

「もし、何かあればすぐに呼べよ」

 

「……おう」

 

 

真剣な表情を浮かべながら言ったもんだから、一登も真剣に言葉を返す。

 

……それで空気が少し居たたまれなくなってしまって、誤魔化す為に水を飲む。

 

冷たい水が喉を潤す。その心地よさにもう一口と水を飲んだ瞬間、

 

 

「所で昨日、白河嬢となにかあったのか?」

 

「ごふっ!?」

 

 

その完璧な不意打ちに、飲んでた水を思いっきり吹き出した。

 

ゲホゲホッ!?と、かつてないほど咽ていると、見兼ねて呆れ顔の叶方が背中を擦りだす。

 

不意打ちのせいでセルフ瞑想も間に合わなかった。おのれ杉並。

 

 

「ほう、その反応だと何かはあったようだな」

 

「……なんで分かるんだよ、おのれ」

 

 

これだけ分かりやすく反応しておいて、何も無いとはもはや言い切れまい。半ば諦めの感情のまま杉並を力無く睨む。

 

 

「はーはっはっは! 芳乃は寝ていて気付かなかったみたいだがな、白河嬢がしきりに貴様に視線を向けては逸らして、向けては逸らしてと、なにやら面白い挙動をしていたからな!」

 

「まさかの原因あっちかよ!?」

 

 

白河ぁ!? なにしてんの白河ぁ!?

 

いや、そうなった原因はおれなんだけどさ!

 

しかし、そうやってリアクションしてしまったのもマズかった。

 

面白そうなものを見つけた、と言わんばかりに一登と叶方までニヤニヤし始めたのだから。

 

 

「さぁ、なにがあったのか吐くんだ灯火」

 

「ここでゲロった方が後で楽かもしれないよー?」

 

「おのれら……面白がってるだろ!?」

 

「「「なにを当然なことを」」」

 

「くっそう、息までピッタリ合わせて来やがったコイツら……!」

 

 

おれが香々見学園に来るまで伊達に三バカと呼ばれていた訳ではないな。

 

ハァ……と深く溜息を吐く。何かしら興味を持ったコイツらはしつこい。こうなるとおれは諦めるしかないのだ。

 

仕方ないので、昨日あったことをかいつまんで話す。

 

白河があまりに無防備で危機感を感じたこと、言葉では通じなかったので実力行使をしたこと、その後結局いつものバカみたいなやり取りになったことを取り敢えず三人には話しておく。

 

 

「……灯火ってさ、時々やること成すこと大胆になる時あるよね?」

 

 

呆れたような、感嘆したような、どちらとも取れる声で叶方が呟く。

 

 

「……自分でもやり過ぎたかも知れないとは思ってる。つか、よくよく考えたらあの部屋の防犯意識が疎かになってるのも原因の一つだろうし、そこは隙を見てもう一度謝るつもりだ」

 

「まぁ、話を聞く限り白河も白河で無防備過ぎたのは確かなんだろうけど」

 

「今日の様子を見た限り、怒ってるって訳でもないと思うよ? そこは安心して良い」

 

「だと良いけどな……」

 

 

とは言え、昨日の暴挙は流石に反省モノである。

 

 

「フッ、その程度なら問題はあるまい。……さて、食事も済んだし面白い話も聞けた。少し調べ物があるので俺は一足先に失礼する」

 

「……例の集団についてか?」

 

「そこは想像にお任せするとしよう。名探偵の神算鬼謀は地道な下調べに支えられているものだ」

 

 

それもう答えだよな? と言うまでもなく杉並は姿を消していた。あのクソヤロウの人形より神出鬼没じゃねぇかな。

 

 

「じゃあオレもここで。隣のクラスの女子と新しいコスメの情報交換する約束しててさ」

 

「あいよ。灯火は?」

 

「教室帰って寝る」

 

「……今日はとことん寝太郎だな。俺もやることないし、教室戻るか」

 

「おっけー、また後でね二人ともー」

 

 

と言う訳で、杉並と叶方と別れておれと一登で教室に戻ることとなった。

 

戻り際がてらにトイレで連れションし、昇降口を上がりながら話すのは一登のバイトについての話だ。

 

ワンダーランドの裏側、研究室での様子を守秘義務に抵触しない程度に色々と教えてもらう。

 

どうやら有里栖も有里栖で研究室とか手伝っているらしい。

 

 

「にしても、水鏡湖の下にある美しく静謐な永遠の世界か……おれは聞いたことないなぁ。まぁ、学園に来るまでは別の所に住んでたし」

 

 

VR【カガミの国】の元となったのは、小説『鏡の国のアリス』と、香々見島の伝承。伝承の方は話を聞く限りじゃよくある御伽噺に近いが……。

 

魔法に、そして【怪異】に関わっているとこの手の伝承はバカに出来ないものだ。特に今は人工的に怪異を起こすクソヤロウもいることだし、念の為に調べておいた方がいいだろう。

 

 

「俺もジジイか杉並くらいしか聞いたことないけどな」

 

 

杉並はともかく、一登の言うジジイとは言うまでもなく師匠のことだろうな。雑な言い方と裏腹に、その言葉の響きには確かに師匠への親しみを感じる。

 

ホント、あの人今どこでなにしてるのやら。事前に姿を消すって連絡は受けてたし、マジで死んではいないんだろうけど。

 

 

「ティル・ナ・ノーグとかは分かるが、水鏡湖にも似たような伝承があるとはな」

 

「俺もジジイから初めて聞いたときはワクワクしたなぁ……っと、あれ、有里栖達か?」

 

 

階段を上がりきり廊下を歩き出した所で、見知った顔が、それも三人も見つける。

 

 

「____それでそれで!? 押し倒されて、そこからどうなっちゃったの!?」

 

「声が大きいから鷺澤っ!? ……ど、どうにもしないよ。とにかく気を付けろって軽くデコピンされて開放されたから、取り敢えずやり返したら後はいつもの流れでゴリラー!だよ」

 

「だ、大胆ですね、芳乃先輩って……。でも、ひよりちゃんを心配しての行動だったんだよね?」

 

「ま、まぁ……そこについては、ボクにも非があると思ってるけど」

 

 

……なまじ耳も良いせいで会話の内容が聞こえちまった。

 

思いっきり昨日の話だった。どうやら白河も有里栖達に捕まってゲロったみたいだ。

 

流石にこれは気まずい。

 

 

「___あ! 常坂君! それに芳乃君も! こっちこっち♪」

 

 

大回りして向こうの昇降口から教室に戻るか? と考えてる間に有里栖に見つかってしまったようだ。

 

と言うかちょっと悪戯っぽい顔をしてやがる。……楽しんでやがるな、あのお嬢様……!

 

そして白河の方に視線を向けると、サッと視線を逸らされた。顔真っ赤で。……やっぱり尾を引いてるよな。

 

美嶋さんもなんか苦笑してるし。と言うか立場逆転してねぇか二人とも?

 

 

「って、良いのか……?」

 

「せっかくの機会だしね。ほらほら、芳乃君も」

 

「うわっとっ!」

 

 

急に有里栖に腕を引かれたことで、つんのめりながらも白河と美嶋さんの前に立つ。

 

……ここまで来たら、もう逃げられないだろう。

 

 

「あー……昨日ぶり、だな。美嶋さんもこんちわ」

 

「は、はい、こんにちわ芳乃先輩」

 

 

と、男性恐怖症とやらが発症する前と比較的あまり変わらない声色で挨拶を返してくれる美嶋さん。……少しは、改善しているのかも知れない。

 

で、逆にしどろもどろになってるのが白河だ。

 

 

「……不正解。正確には朝に会ってましたけど、キミはキミで爆睡してたからね」

 

「悪い。昨日、全然寝れなくてな」

 

「そう、ですか」

 

「………………」

 

「………………」

 

 

会話が途切れる。代わりに緊張が走った気がした。

 

いつもなら流れるように始まるボケとツッコミが、今は全く機能しない。

 

いかん、なんだこの空気感……!? と、未知の感覚に冷や汗が流れる。

 

 

「……昨日のことについてなんですけど」

 

 

その不穏をたたっ斬る様に、白河の声が響く。

 

 

「お、おう」

 

「あれについては、ボク怒ってないから。……昨日も言ったけどボクにも非があったし、なによりボクを心配しての行動だってことはちゃんと伝わってるんだ」

 

「…………」

 

「だから、その、こんな微妙な空気はさっさとゴリラパワーで吹き飛ばしちゃいませんか?」

 

 

いつも通りの空気にしたい。っていうメッセージが、白河の声と台詞に込められていたと思う。

 

……了解、分かったよ白河。

 

それがコイツの頼みなら、おれには断る理由は何一つとしてない。

 

 

「なら、取り敢えず一つだけいいか? ___だから誰がゴリラじゃ誰が。ゴリラのジューマンから力を貰って赤い戦士に変身するぞコラ」

 

「ジュウ◯ウゴリラ!? 世にも珍しいゴリラのレッドですね! でも結局ゴリラじゃないですかゴリラー!?」

 

 

と、いつもの流れで軽口を叩いてから、二人して笑う。

 

いつも通りの白河の笑顔を見て、凝り固まっていた何かが解れる感覚を得る。

 

……やっぱり、笑ってる顔のが似合うよな、コイツは。

 

 

「ふふ、やっぱり二人は仲良しなのがいいね♪」

 

 

と、楽しそうに声を掛けてくるのは有里栖で、後ろで一登もニヨニヨと有里栖と同じ笑みを浮かべている。

 

このまま放置していたら延々とイジられそうな気配を感じたので、わざとらしくもコホンと咳をしてから話を変えることにする。

 

 

「つか、美嶋さんと有里栖も仲良かったのか___って、白河と美嶋さんが幼馴染なら、白河と幼馴染な有里栖も美嶋さんとは幼馴染になるのか」

 

「なんかややこしい言い方になってるな」

 

 

一登うっさい。それはおれが一番良く分かってる。

 

 

「そうなると、俺と灯火はアウェー感半端ないな」

 

「や、おのれがそれを言う権利はねぇと思う」

 

「あはは、そうだね」

 

「なんでさっ!」

 

「キミが常坂妹や逢見先輩と一緒にいるときは、余人が介在しづらい雰囲気を出してるじゃないか」

 

 

白河のツッコミに納得したのか、「あー……そっか……」と呟く一登。

 

そんな時でも普通に会話に入ってくれるのがSSRの連中なのである。ありがたく思うべし。

 

 

「でもそっちはあんまり三人でいないよな?」

 

「あはは……、ひよりんが恋愛請負であっちこっち飛び回ってるしねぇ……」

 

「それを追い掛けて美嶋さんも走り回るから、必然的に三人で話す機会がなくなるって訳か」

 

「正解。つまり仕方ないんです」

 

「いやいやいやいや、しれっと仕方ないとか言ってるけど大体白河のせいだよな!?」

 

「……やはり一度くらい捕まって悔い改めるべきでは?」

 

 

おれの呟きに美嶋さんがウンウンと頷く。ああ、苦労してるんだな、美嶋さんも。

 

でも、その後その美嶋さんはジト目でおれも見始める。

 

 

「……最近は芳乃先輩がひよりちゃんに協力するので、もっと大変です」

 

「おっと、味方をしたら背後から撃たれた件について」

 

「おや、芳乃もやはりコチラ側だね。誉れ高いですよ」

 

「だからなんの誉れだよ、なんの」

 

 

言いながらも軽口の叩き合いがいつもの調子になったことに安堵してる自分に気づく。

 

まぁ、テンションのバロメーターみたいなもんだしなぁ。ここ最近はほぼ毎日こんな感じだっから、それがなくなると調子が悪くなるのかもな。

 

……と言うか、なんとなくこの三人の関係性が見えて来た。

 

 

「……苦労してたんだな、二人とも」

 

「さすが芳乃君、分かっちゃいますか」

 

「白河が徹底的に振り回して後の二人はなんとか着いていく感じなのは察した」

 

「正解。それでもボク達の友情は壊れたりしないからね」

 

 

幼馴染が故の信頼って奴か。改めて見ると強い絆で結ばれているんだなって感じる。

 

 

「その、元々私たちは親同士で交流がありまして……それで小さい頃から仲が良いんです」

 

「ああ、それで幼馴染なのか」

 

「……って、冷静に考えると、財閥の家と交流がある親って何者? お嬢様だってのは分かるが」

 

「白河も美嶋さんも所々で所作が整ってると言うか気品あるからな、名家の出身かなんかじゃないか?」

 

 

おれがそう言うと白河と美嶋さん、それに有里栖が驚いたように目を丸くする。

 

 

「大正解! よく分かりましたね、芳乃」

 

「白河は破天荒な言動とか振る舞いが目立つだけで、動きそのものには何かしらの気品がある。で、それに気付くと美嶋さんにも同じものを感じたし……そう言うのって、何かしら幼い頃から教えられてないと身に付かないだろ? そうなると自ずと答えは出る」

 

「これまた大正解。……と言うか、ホントに素直に驚きました」

 

「うん……すごいです」

 

 

その素直な称賛に思わず照れて頬を掻く。

 

観察眼が高くないとガンナーはやってられないので、自然と身についた技能ではあるけどな、これは。

 

 

「芳乃君の言う通り、ひよりんちもみうたんちも由緒正しい、いわゆる旧家ってやつだから。鷺澤はそう言う意味では新参なんだよね、二人の家に比べたら」

 

「え、そうだったのか?」

 

 

……関心してるが一登、おのれの【常坂】もそれなりに長い歴史のある家なんだぞ?

 

魔法使いとしてになるけど、確か平安から続いてるとか師匠が言ってた気がする。一登の親父さんの代からは、色々なしきたりを省いてるらしいけど。

 

 

「かつては大名なんて呼ばれてた家っていうだけさ。今は鷺澤の家と比べたら大したことはないよ」

 

「そりゃ鷺澤家と比べたらどこも大したことないだろうけどさ。……ってことは、白河も美嶋さんも結構なお嬢様だったのか……」

 

「お嬢様なんだよ。……だったらもう少し警戒心を持てとも言いたくなるが」

 

「あ、もしかしてそれに薄々気付いてたから注意を促してたの?」

 

「いや、それは関係ない。単純にコイツが無防備過ぎると思っただけだ」

 

「ぼ、ボクだって誰彼構わず無防備になる訳ではないですからね!?」

 

「つまりつまり、芳乃君になら無防備になってもいいってことだね♪ ひよりんったら大胆だなぁ♪」

 

「さぁーぎぃーさぁーわぁーっ!?」

 

 

「きゃー♪ひよりんがおこだ!激おこ!」「しゃらーっぷ! ちょっとお仕置きが必要みたいですね!」と、仲良くじゃれ合い始める幼馴染二人におれと一登、美嶋さんは揃って苦笑する。

 

 

「あれ見てると、家のことは特に関係ないんだろうな。って思うよ」

 

「それは……私も同感です。……ですので、芳乃先輩」

 

「ん?」

 

 

名前を呼ばれたので美嶋さんの方へ向き直る。

 

やはり、その目には羞恥心は多少あれど、それ以上に強い意志を感じ取れた。

 

 

「これからも、ひよりちゃんと仲良くしてくださいね? ……ひよりちゃんも、きっとそれを望んでると思いますし」

 

「……善処するよ。おれだって、別にアイツに嫌われたいって訳じゃねぇしさ」

 

「言っても、灯火はちょっと自分を置き去りにしてる部分があるからなぁ」

 

「それはおのれにだけは言われたくないんだよ、この全人類お人好し代表め!?」

 

 

「なんでだー!?」「テメェこそ自覚持たんかい!このすっとこどっこい!」と憤慨する一登と取っ組み合いになる。

 

既に白河と有里栖がじゃれ合ってるだけあって、一人残された美嶋さんが慌てて「どっちも喧嘩はやめてくださいー!?」と、あわあわと風紀委員長代理モードとなって止めに入る。

 

このあと派手に目立っていた事に気付くまで、昼休みの時間を無駄にしてバカを晒すおれ達なのであった。

 

……締まらねぇなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、今日は絶対に休みだから。休まないと大牙拳砲だから! 本気で撃つからね!!」

 

 

と、妹分からのお願いと言う名の脅しにより、本日の定期パトロールは休みとなりましたとさ。

 

 

___現時刻、夜。外には真円の月が香々見島を照らしている。

 

 

予想通り、魔力が増したことで体の調子も戻って来た訳だが、先述の通り留守番を命じられたので大人しく自室で料理に興じることに。

 

昨日が魚だったので、今日は肉と野菜をバランス良く取りたいと考え、青椒肉絲を作る為に愛用の中華鍋を振るっている。

 

寮のキッキンは悪くないが、もう少し火力が欲しいと願うのは贅沢だろうか。

 

 

「驚愕……! 前作ってもらった麻婆豆腐もそうでしたけど、中華料理の腕前は本当にスゴイですね」

 

 

と、中華鍋を振るうおれの横でそんな感想を漏らすのはツインテールを揺らしている白河だ。

 

なんかおれが料理してる所がどんなんだろうって理由でさっきから邪魔にならない位置で見ていたりする。

 

 

「まぁな。なんだかんだ【泰山】での経験は大きいわな」

 

「あ、芳乃のバイト先ってそこだったんだ。店長さんが独特な雰囲気持ってる人」

 

「独特と言うか、オンリーワンと言うか、ぶっちゃけるとイロモノ具合が全開と言うか……」

 

 

少なくとも、あそこまでキャラが濃いのも中々いないだろう。見た目幼い少女なのに年齢不詳というミステリアスさが全開である。あとそれで正式雇用してる人と恋人同士だってんだから驚きである。

 

あの人が魔女だったとしても、もう驚かんぞ、おれは。

 

 

「つか、見てるだけって暇じゃねぇか?」

 

「そんなことはないよ。芳乃の調理の仕方は参考になる所が多いしね。こうして見てるだけでも面白いものさ」

 

 

なら、いいんだけど。いいんだけど、少しむず痒い。

昨日の件を経て、今日仲直りして、なんというかまた距離感が縮まった感じがする。

 

でもそれは決して不快ではなくて……寧ろ居心地の良さを感じていて困惑していたりもする。

 

因みに叶方は今回欠席。なんでもバイト先でご飯を済ますとかなんとか。杉並は例の不審者集団のことを調べているのだろうか、音沙汰なしだ。奴のことなので万が一の心配もしてないが。

 

そして海央はおれの代わりに定期パトロールに出ている。こっちも氷室と盾石と共に飯を適当に済ますとかなんとか。

 

そんな訳で今日も夕飯は白河と二人きりだ。……だから余計にむず痒く感じるんだろう。

 

とまぁ、そんなことを考えながらも出来上がった青椒肉絲を大皿に盛りつけ、更に別のフライパンを使って蒸していたシュウマイを小皿に乗っける。こっちも自信作だ。

 

で、あとは予め炊いていた白米をお椀に入れれば、今日の夕飯が完成である。

 

 

「出来上がりっと。カラシと醤油、どっち使う?」

 

「醤油でお願いします!」

 

「あいよ。……そんじゃ両手を合わせましてと」

 

「「いただきます!」」

 

 

食への感謝と共に始まる二人きりの夕食。

 

なんだかんだ、白河と二人きりってのは珍しい。……昨日は特例と考えるとして。

 

 

「大変美味! と言うかこれ、たけのこじゃなくてメンマです!? さらっと中華鍋に投入してたからさっきは気付かなかったですけど!」

 

「気づいたか、既に味付けしてるメンマ使うと結構味わいが深くなるんだよな」

 

 

味が目茶苦茶にならないように調整する必要はあるけど、これはこれで美味しいものだ。

 

シュウマイも好評なようで箸が進むこともあり、食事が終わる頃には幸福感で満たされていた。食というのはやはり大事なもんだな。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「はい、お粗末様っと」

 

 

空になった皿には取り敢えず水で漬けておき、皿洗いは後でするとしよう。

 

キッチンから戻って来ると白河が机にもたれ掛かっていた。見ようによっては“たれパンダ”にも見える。つまり、たれ白河だ。

 

 

「ダレ過ぎてないか?」

 

「心外。昨日、誰かさんのおかげでボクも眠りが浅かったですからね」

 

「それは……悪かったな」

 

「冗談ですよ冗談。それにしっかり気は張ってますとも」

 

「そのたれ具合を見てると、とてもそう見えんが」

 

 

そんな軽口を叩きながら茶を一口飲んで一息つく。

 

なんというか、穏やかな時間だった。

 

平和で、のんびりとした、満たされた感覚に包まれてる。

 

 

「……昼間の話の続きになるんだけどね、ボクたちの家の話はしたけど、キミはどんな生活を送ってたの?」

 

「おれの生活?」

 

「うん、キミが“芳乃”になる前と、なってからの話。ふと気になってね。あ、嫌なら全然話さなくていいんだけど!」

 

「いや、別に嫌じゃねぇよ。ただまぁ、とてもじゃないが面白味はねぇぞ? 話せないこともあるし。香々見学園に来るまで、身内以外とあまり接する事もなかったしな」

 

 

ただ、ひたすらに肉体の鍛錬を、魔法の修練を、戦闘技術の追求をしていたからな。息抜きにばあちゃんに料理を教えてもらってたりしたけど。

 

 

「……ボクにとっての未羽や鷺澤みたいに、幼馴染みたいのもいなかったのかい?」

 

 

覗き込む様な姿勢でそう問いかける白河。

 

 

「それで言うなら海央がまずそれだな。アイツとは最初同門の先輩後輩って関係性で、後々従兄妹だって知ったアイツが「あたしはトーカせんぱいのいもうと!」って感じで立場構築してたし」

 

「その頃の海央ちゃんも天真爛漫だったんだね。なんか、ちっちゃな海央ちゃんのイメージってすごく分かりやすい」

 

 

中身は今とさほど変わってないからな、アイツ。

 

 

「でも“芳乃灯火”になってからは、同年代と殆ど関わってない。……だから香々見学園に来た当初は孤立してたし」

 

「一匹狼でしたね……それが、今や立派なゴリラですよゴリラ」

 

「誰がゴリラじゃ誰が。草タイプの御三家として場に出た瞬間にフィールドに草生やすぞコラ」

 

「夢特性ゴリラ◯ダー!? と言うかゲームあまりしないって言う割になんでスラスラとネタが出て来るんですか」

 

「去年の夏休みに一登んちで叶方と杉並も一緒に朝までゲーム大会した時があってな。そこでゲームの知識大体覚えたわ」

 

 

なお、エナジードリンクを使ってまで遊び倒したので、後でソラさんと二乃にこっぴどく起こられていたりする。

 

 

「ホントにアホばっかしてますね……」

 

「最後に桃◯でキングボ◯ビーの押し付け合いしまくってリアルファイトに発展しかけたのがダメだったな……」

 

「よりによって友情破壊ゲームしてんじゃないですよ全く。……話を戻しますけど、それじゃキミは初恋なんてものも体験したことない感じです?」

 

「……初恋? んなもんある訳____」

 

 

 

 

 

 

 

___さきみ、とうかくん……じゃあ、“トーカくん”だね! 今度会ったら、いっぱいお話しようよ!

 

 

 

 

 

 

 

その笑顔を、ふと思い出す。

 

あたたかい、陽だまりのような笑顔を。

 

……ああ、クソッタレめ。

 

自覚しなければ良かったものを。

 

 

「……芳乃?」

 

 

急に黙り込んだおれを不思議そうに見る白河の声に、意識が戻る。

 

 

「……初恋、あったよ。言われて初めて気付くとは、我ながらマヌケだ」

 

「え、ホントですか!? どんな子だったんです!」

 

 

目を瞑りながらあの子のことを改めて思い出す。

 

 

「兄思い、いや家族思いの……優しい子だったよ。母さんとその子の母親が友人らしくて、迷子になってたあの子をおれが見つけたのが知り合う切欠だった」

 

 

それは、本当に偶然の出会いだったと思う。

 

そして、かけがえのない出会いでもあった。

 

 

「……ま、もう会えないけどな」

 

「…………え?」

 

「その子、もういないんだ。どこにもな」

 

 

沈めた思いが溢れ出る前に、固く蓋をする。

 

“約束”はまだ果たせてない。

 

おれがあの子と向き合うのは、“約束”を果たしてからだ。

 

…………でなければ、おれはあの子と合わせる顔がない。

 

 

「……ごめん、芳乃。キミにとって辛いことを聞いちゃってたんだね」

 

 

触れてはならない領域だったと気付いたらしい白河が、謝ってくる。

 

……しまったな、そんな顔させるつもり無かったのに。

 

 

「そっちは知らなかったんだから仕方ないだろ。気に病まなくていいって。そもそも、地雷の多いおれが悪いんだし」

 

「でも」

 

「でももヘチマもない」

 

 

それからまだ何か言おうとした白河の鼻を摘む。

 

「ふぎゃ!?」と乙女らしからぬ悲鳴を上げるその姿にクックッと笑うと、顔真っ赤にした白河が怒りの拳を放って来る。

 

その弱々しいテレフォンパンチを、鼻から離した掌で受け流し続けていくと、とうとう白河が吠えた。

 

 

「このっ! 一つくらいは! 当たりましょうよ!?」

 

「甘いぜ、その程度なら片手で十分……まて、湯呑みを持って振り被ろうとすんなっ、ちょ、テメっ、それは反則だろうが!?」

 

 

流石に割れ物は不味いと思いパシッと手を掴むと、白河の口元が不敵に歪む。

 

瞬間、白河が持っていた湯呑みを離す。落ちたら破片が飛び散ると瞬時に判断“してしまった”おれは反射的に湯呑みに手を伸ばす。

 

日頃から鍛えてるだけあって、地面に落ちる前に無事に湯呑みをキャッチする事は出来たが、そこで一瞬白河から視線を逸らしたのが行けなかった。

 

 

「隙ありですよ!」

 

「っ、んなっ!?」

 

 

____ボフンッ!

 

 

と、おれが湯呑みをキャッチすることを読んでいた白河による、枕の投擲が顔に直撃する。

 

二段構えの作戦にしてやられた事に思わず呆然としていると、白河はなんとも自慢げにドヤ顔を浮かべた。

 

 

「ふっふーん! どうです!芳乃から一本取ってやりまし……ふみゅ!?」

 

「ハッ、油断大敵だコノヤロウっ」

 

 

大人げないと思いつつも、そのドヤ顔のおでこを狙って指で輪ゴムを放つ。いわゆる輪ゴム指鉄砲。因みに輪ゴムは近くの勉強机の上に置いてあったお徳用のもの。

 

 

「へ、へぇ……このボク相手に射撃戦を挑むと言うんですね! それは無謀というものですよ!」

 

 

床に落ちた輪ゴムと、指鉄砲の形を取っていたおれの右手を見て何をされたのか察したのか、額に青筋を立てつつ白河も右指を鉄砲に見立てて、落ちてた輪ゴムをセット。

 

おれも勉強机の上に置いてあった輪ゴムを指にセット、それからお互いに指鉄砲を相手の脳天に突き付ける。

 

 

「悪いな、射撃ならおれも譲れねぇんだわ……!」

 

「射撃に拘りがあるのは初耳ですけど、それはボクも同じです!」

 

 

言うやいなや、同時に輪ゴムを発射。

 

それを避けて、落ちた輪ゴムを再装填して狙いを付け、発射。

 

しかし輪ゴムの速度は極めて遅い。いくら精密射撃が得意とはいえ、運動能力の高いおれと白河じゃ、不意打ちでもない限りお互いに当たらない。

 

撃って、避けて、撃って、避けて、撃って、避けて……と、不毛な争いを繰り返していく。

 

 

「憤激! そろそろ観念したらどうなんですか!?」

 

「その台詞! そっくりそのまま返してやるぜ!?」

 

「言いましたね! だったら決定的な敗北を刻んで差し上げましょう!!」

 

「ハッ、地べた這いずり回るのはそっちだコノヤロウ!」

 

 

____負けず嫌いが二人揃うとどうなるか?

 

そんな疑問が浮かんだときは、今のおれ達を見ればよく分かると思う。……お互い引かずにひたすら醜い争いをし続けるしかないのだ。

 

このあと、帰ってきた叶方により二人揃ってお叱りを受けて強制終了となるまで、おれと白河はひたすら意地を張り続けるのだった。

 

2日連続で叶方の呆れ顔を見るのは、まぁ、中々堪えたとだけは言っておこう。

 

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