D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

43 / 55
EPISODE 31

 

 

 

 

____ドパァンッ!

 

 

 

 

愛銃から放たれた357マグナム弾……訓練用に威力を抑えてるそれが、的にしていた空き缶を弾き飛ばす。

 

それに狙いを定めながら更に二発目、三発目と、次々に弾丸を放ち、その度に空き缶を弾いていく。

 

最後の六発目を打ち終えると、空き缶も地面に落ちる。

 

その空き缶に空いた穴を確認してみると穴は一つで、穴そのものが少し広がっている。

 

 

「わぁ……全弾命中させてもうたな」

 

「しかもしっかり最初に空けた穴に全部弾丸通してるし」

 

「……むぅ、穴が広がってる。ミリ単位でズレてるな」

 

「これで納得しないのか?!ストイックにも程があるだろう?」

 

 

慄く氷室には悪いが、納得いかんもんは納得いかんのだ。

 

……昨日、輪ゴム鉄砲とは言え、不意打ちの一発を除けば白河に一度もヒット出来なかったのが少し悔しいのである。

 

なので今朝は真っ先に射撃訓練に取り組むことに。……我ながら、単純過ぎる動機だった。

 

 

 

3/8 金曜日。晴れ時々曇り。体力は好調。

 

 

 

いつもの鍛錬場としている森の中、今日は海央だけでなく盾石と氷室も交えて朝の鍛錬を行っていた。

 

今更この二人を疑う理由もないってのもあるが、今日は少し聞きたいことがあったため、集まって貰った。

 

 

「昨日、皆は島の見廻りに出たんだろ? なにか変化は感じたか?」

 

「ううん、全然。なにも変化なし」

 

「少なくとも香々見島の中では何も変化なかったわ」

 

「以前、サメの怪異が出た漁港辺りも見てみたが、結果は同じくだ」

 

 

海央、盾石、氷室の順番でそれぞれの報告を聞くも、どれも成果は乏しいらしい。

 

 

「“マナの残骸”の影響もほぼ収まってる。その上で満月っていう絶好の機会に奴が動かないなんて有り得るか……?」

 

 

___絶対に有り得ない。

 

分身越しとは言え、奴と敵対したからこそ断言出来る。

 

自身の欲望に素直な性根の腐ったクソヤロウだが、その本質は冷静沈着。動くべき時には必ず動く。

 

自身の利になるモノをみすみす利用しないなんてことはまずない。

 

 

「考えられるのは、感知外で何かしら準備してるって所か」

 

「ウチらも同じ結論よ。奴さん、恐らく海の方に拠点あるやろうし」

 

「盾石の感知に全く引っ掛からないのなら、それが妥当だろうな」

 

 

さて、そうなると次に奴がいつ仕掛けるかだが……。

 

 

「おじさん……【防人】当主の先視では、あと3日ほどは動きがないんだよな」

 

「うん、でもお父さんの視てる範囲って日本中なうえに、感知の魔具と連動した地図を使った簡易的なものだし、万が一はあるかも知れないよ」

 

 

その万が一にも備えておくしかない訳か。

 

……詳しく視ようとして、人の死とかを視る訳にはいかないからな。それを視ちまったらもう終わりだ。

 

“切り札”も、一回きりのもんだしな。クソオヤジに使うと決めてる以上、おれにはどうする事も出来ない。

 

 

「……ま、どのみち【怪異】だろうが【人形遣い】だろうが、出て来た瞬間に全力でブッ潰せばいいか」

 

「それ、世間一般的には開き直りって言わないか?」

 

 

氷室の指摘に苦笑する。

 

とは言え、それしか手が無いのも事実。

 

今出来ることは、いつその時が来ても対処出来るように備えておく事だけだ。

 

 

「……よし、鍛錬再開すっか。海央、体内の魔力とマナの同調からやるぞ。ここら辺のコントロールから既に雑になり始めてるからな、おのれは」

 

 

魔力が多い分コントロールも難しいのは分かるが、1で使える魔法を50や100で無理矢理行使しようとするのは流石に見てて危なっかしい。

 

だというのに、魔力放出だけは暴発しないギリギリで使いこなしてるからビックリだ。多分、おじさんの教育の賜物なんだろうけど。

 

 

「うっ、が、がんばる……!」

 

「ああ、がんばれよ。海央の魔力量で精密なコントロールが出来るようになれば、それこそ師匠の領域にも手が届くはずだからな」

 

「大魔法使いの弟子が言うと信憑性あるなー」

 

「魔力のコントロールがやけに上手いと思っていたが、大魔法使いの弟子だと知った今は納得するものがあるな……」

 

 

まぁ、そこら辺はばあちゃんやじいちゃんからも基礎からみっちり仕込み直されたからな。

 

 

「この中でおれが一番保有魔力が少ないからな。そりゃコントロール極めて燃費を良くしねぇとやってらんねぇよ」

 

「消費しても、すぐにマナから変換して補充が出来るんだったか」

 

「ああ、けれど一度に使える魔力量は変わらない。コレを越えようとすると何かしらの代償を払うことになる」

 

 

魔法使いが自身の魔力。マナから変換した魔力。それでも足りない魔力を無視して魔法を使おうとすると、“代償”として何かしら失うことになる。

 

その多くは寿命だったり、中には記憶だったり、人間性だったりと、その時にならないと分からないが決して軽くはないモノを支払うこととなる。

 

それを回避するための“とっておき”も用意してるが……今はそれはいいか。

 

 

「師匠も師匠で、子供の頃は自分の魔力の多さでコントロールが雑になってたらしい。……それでも大魔法使いって呼ばれるほどになったんだ。海央だってやれるさ」

 

「……うんっ!」

 

 

その元気な返事に頷いてから、自身も集中力を上げていく。

 

己の内に渦巻く魔力の隅々まで意識を向け、掌握する。

 

同調させ、固定。

 

収縮して、拡散。

 

変動させ、調整。

 

精査して、消費。

 

魔法を使う際のプロセスを一つずつ確認し、齟齬がないかを調べつつ、海央の様子も見る。これはこれで、マルチタスクの訓練になるので有用だな。

 

冬と春の気配が入り混じる早朝の中、氷室が護衛のために鳳城を迎えに行くまで、おれ達は自身の鍛錬に没頭するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 31-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____キーンコーンカーンコーン。

 

 

 

「くぁあー……!終わったぁ……!」

 

「しかも今日は金曜日、明日が休みだと気が楽だねー」

 

「正解。こればかりはきっと社会人になっても変わらないだろうね」

 

「土日も仕事ある人は除くだろそれ」

 

 

時刻は放課後。

 

昼休みに唐揚げ定食を巡る男子達の仁義なき死闘があったりなかったりしたものの、それを除けば平和な一日だったと思う。

 

そして今日は週末。明日からは休みとなるためか、近くの席である白河と有里栖も、どこか楽しげな雰囲気を出していた。

 

 

「有里栖は今日も一登とワンダーランドでバイトだろ?」

 

 

因みに一登は泉ちゃんの指名で教材を運びに行った直後だ。

 

 

「うん、だからSSRへは今日もお休みだね」

 

「了解。で、白河は今から恋愛請負で、杉並は謎の任務。叶方もバイトが入ってるから、あとは海央と二乃と逢見先輩だけか?」

 

「あ、すみません灯火さん、私とそら姉も今から買い物に行くのでSSRはお休みです」

 

 

「なぬ?」と、二乃の方を振り向けば両手を合わせて申し訳なさそう表情を浮かべた二乃の姿が。

 

む、となると海央とおれだけか? と思った所でCOMUにメッセージが届いたのに気付く。

 

『ちょこに誘われてることがあるので今日はSSRお休みします! みんなに伝えてください!』とのことらしい。

 

 

「海央も用事か……どうやらSSRはおれを除いて全滅らしい」

 

「珍しいね、こう言うの」

 

 

有里栖の言葉に頷く。

 

流石にあの溜まり場に一人でポツンといるのは寂しいものだ。SSRのメンバーといてこそ、あの場所は居心地の良い空間になるのだから。

 

そうなるとこのまま大人しく寮に帰るか? と考えた所で、白河がポンッとおれの肩を叩く。

 

見てみるとなんとも楽しそうな表情を浮かべていた。思わず嫌な予感がしたおれは間違っていない。絶対に間違いじゃない。

 

 

「つまり芳乃は暇なんですね。じゃ、労働力確保と言うことで♪」

 

「せめて概要を言わんかい」

 

 

まぁ、言わなくても分かるんだが。

 

 

「それじゃ、芳乃君はひよりんのお手伝いだね!」

 

「そうなるな。……一応言っとくけど、飛び降りはなしだからな?」

 

「そこは時と場合によりますね」

 

 

出来たら確約してほしかったがな……。

 

なんとなく溜息を吐くと有里栖は苦笑し、白河はこれまた楽しそうにカラカラと笑い出すのだった。

 

 

 

 

_____で、それから数十分後。

 

 

 

 

「白河ひよりさん! 芳乃灯火先輩! 待ちなさーーい!!」

 

「「「御用だ!御用だ!」」」

 

「速攻で見つかってんじゃねぇかーーーーーっっ!?」

 

「ふ、不覚ー!? 風紀委員のパトロールと被るなんてぇ!?」

 

 

無事いつもの恋愛執行を終えた所で、ものの見事に風紀委員の三つ子ちゃん達に遭遇したおれ達は、合流した美嶋さん含む他の風紀委員達から全力で逃げていた。

 

日頃から白河を追い掛けてるだけあって、向こう側も白河の行動パターンを熟知しているらしい。要所要所に配置された風紀委員達の手により、徐々に逃げ道が潰され始めていた。

 

と言うか美嶋さん、普通におれも追いかけてるってことは、もう克服してるんじゃないのか男性恐怖症!?

 

 

「これ、ちょっと不味いかも……!?」

 

「どっかで身を隠すか、窓から一気に飛び降りるかしかねぇな!?」

 

「飛び降りは反対だったのでは?!」

 

「捕まるほうがメンドイことになるだろ絶対に!」

 

「そりゃそうですね!」

 

 

と言う訳で同意を得たので、走る速度を一気に上げてその先にある窓から飛び降りようとして……下にも風紀委員達がスタンバイしてるのを確認。

 

 

「ダメだ、読まれてる!?」

 

「嘘でしょ!? どうするんです!?」

 

「____ッ! こっちだ白河!」

 

「うわわっ!?」

 

 

咄嗟にあることを思い出して白河の手を取り階段へと上がる。

 

 

「! 待機要員は各階段で待ち伏せをお願いします! 他は私に続いてくださーい!」

 

「「「了解であります!!!」」」

 

「ちょ、上に上がったら余計に逃げ道なくなりますよ!?」

 

「いいから来い! 考えがある!」

 

 

この調子じゃ隠れる場所も限られてる。人手が多い中で隠れてもすぐ見つかるだろう。

 

そうなると、取れる手は一つだけだ。

 

白河の手を取りながら階段を駆け上がり、屋上まで行く昇降口に取り付けられた消化水栓の戸を開け____ホースなどが納められた部分を更に横にスライドさせる。

 

そこには、人一人やっと入れるだけの隠し通路があった。

 

 

「……いやいやいや、なんですかこれーーー!?」

 

 

流石の白河もこの隠し通路は想定外だったのか、心底驚いた声を出す。

 

 

「杉並印の隠し通路だ」

 

「学校になに作ってるのかな、あの男は!?」

 

「いいから先に入ってくれ! 見つからないように出入り口を閉めるから!」

 

「あ、あいあいさ!?」

 

 

混乱しながらも隠し通路に入った白河に続いて、戸を閉めつつ、ホース格納部分も元に戻した所でドタドタと複数の足音が屋上へ上がるのを確認する。

 

そのまま自分も隠し通路を下がっていき、下にいた白河と合流し、そのまま道なりに沿って薄暗い通路を進んでいく。

 

やがて行き止まりに辿り着くと、その上にあるハンドルを回してから押し上げると___

 

 

「こ、校門前じゃないですか……」

 

 

唖然とする白河の声を聞きつつ秘密通路の扉をしっかりと閉じる。どういう訳か、自動でハンドルが回されてるらしく、外から開けることは出来ないようだ。

 

出入り口そのものも地面にカモフラージュされており、よほど観察眼の鋭い奴じゃない限りは見つからないだろう。こんなところまで杉並クオリティである。

 

 

「ふぅー……、危なかったー……。知ってて良かったぜ秘密通路」

 

「これ、ホントに杉並が作ったんです……?」

 

「杉並も手を加えてるみたいだけど、通路そのものはどうにも昔からあるらしい。この学園、あらゆる所にこんなのが仕掛けてるみたいでさ」

 

 

いつぞやの食堂へ行くときに使った“ショートカット”がこれと似たようなのだったし。

 

 

「……杉並の神出鬼没ぶりの一端が分かりましたね。こんなの使って移動してたら、そりゃ分かりませんよ。と言うか忍者屋敷かなこの学校。そしてあの男は忍者かな……!」

 

 

若干引きながらカモフラージュされた入口を指差しつつ、あの愉快で意味不明な悪友に慄く白河に、おれは肩を竦める。

 

 

「去年くらいに杉並の神出鬼没っぷりが気になって、アイツが消えた所を探してたら幾つか見つけてな。面白くなってしばらく探索してた」

 

「そう言えば確かに去年頃は芳乃の姿をあまり見かけなかったような。……と言うかこの学園、もしかして昔から杉並みたいなのがいたのかな?」

 

 

言外に、こんなのわざわざ作る奴は杉並くらいしかいない。と言ってる様なものだが、多分そうなんだろうな。

 

師匠が香々見学園の学生だった時も『杉並』って名前の生徒とバカやってたみたいだし。……となると、この秘密通路も師匠が関わってるのか?

 

 

「ま、兎にも角にも助かったよ」

 

「いや、ホントにギリギリだったな。風紀委員の統率力と言うか展開力の成長っぷり舐めてたわ」

 

 

校門から屋上の方を見てみると、風紀委員達が必死に捜索を続けているのが分かる。屋上の所に隠れてるって思い込んでるんだろう。

 

と、そんな感じで様子を眺めていたら、屋上にいる美嶋さんがコチラに気付いて目を丸くしていた。

 

 

「あ、やべ。見つかったっぽいな」

 

「正解。未羽が唖然としてますね。とりあえず、手でも振りましょうか」

 

「やめてさしあげろ。それはこれ以上ない煽りになっちまう」

 

 

あと、そんなこと言ってる間に下にいた風紀委員達が血相を変えてこっちに来ているし。

 

 

「取り敢えず追っ手を撒くぞ」

 

「同感。せっかくの週末なのに捕まるのは御免ですしね」

 

 

そう言って頷き合ってから一目散に校門から離れる。

 

狭い校舎内ならともかく遮蔽物の無い場所なら、おれは元より白河にも追い付ける筈もない。

 

追っ手を完全に撒くまで、さほど時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「よし、ここまで来ればもう大丈夫だろ」

 

「正解。流石に商店街までは追ってこないはず」

 

 

商店街のゲームセンター、『メガワールド』の前まで来た所で足を止めて一息つく。

 

流石にもう気配も感じないし姿も見えない。撒けたと見て間違いないだろう。

 

 

「でも、思ってたより長く走っちまったな」

 

「気が付けばメガワールドの前だもんね……って、おお!」

 

 

ふと、メガワールドの入口を見ていた白河が何かに気付いて目を輝かせる。

 

何事かと思い視線の先を追ってみると、見慣れない筐体がそこにあった。

 

 

「見てくださいよ芳乃! ガンシューの新作が出てますよ!」

 

「うわ、ホントじゃねぇか」

 

 

ガンシュー、ガンシューティングゲーム。つまり射撃。

 

ふと思い出すのは昨日の不毛極まりない輪ゴム鉄砲合戦。

 

 

「僥幸。ちょうどいいですね、これで昨日の決着を付けましょうか」

 

 

昨日は結局、叶方がキレて仲裁に来るまで決着が付かなかったからな。ここでケリを着けるのも悪くない。

 

 

「ちょうどゲームの筐体も二つあるし。そのタイプは前に一登達と遊んだことがあるからやり方も分かる……やるか」

 

「よっし♪ 覚悟してくださいね、ボクも本気でやらせてもらいますから!」

 

 

そう言って意気揚々と筐体に向かう白河の姿。そのなんとも楽しげな姿に、思わず口元が綻ぶ。

 

……とは言え、勝負ごとには手を抜かない主義だ。それも自身が最も鍛え、得意と自負する射撃での勝負なのだ。

 

パンッと自身の両頬を叩く。そして、“意識を切り替える”。

 

 

「おや、随分と気合いが入って___ッ」

 

 

硬貨を入れてから筐体に繋がれてる銃型のコントローラー……ガンコンのグリップを右手で握る。

 

力まず、かと言って力を抜き過ぎず、左足を後ろに半身でガンコンを構える。

 

やること自体は今朝の訓練と変わらない。

 

狙った場所に弾を通すだけだ。

 

 

「___始めようか」

 

「……これは、ホントに全力を出さないとマズそうですね……!」

 

 

言いながら白河も硬貨を入れて両手で銃を構える。流石にガンコンは一つずつしかないので二丁拳銃スタイルは取れないか。

 

それから同じタイミングでゲームモードをアーケードで選択。いわゆるシングルモードで、ここのスコアが高いと全国のランキングに乗るそうだ。

 

 

「質問、難易度はどうします?」

 

「決まってんだろ、最高難易度だ」

 

「正解! 流石に分かってますね!」

 

 

難しいものに挑んでこそゲームを楽しむもんだからな。

 

それからゲームシナリオのオープニングムービーがしばし流れる。

 

ストーリー内容としてはかつて人気だったゲームを最新技術でリメイクしたものらしい。

 

人を襲う吸血鬼と、それを狩る狩人の話だ。……正義の味方って奴なんだろうな。ストーリーはそんな狩人が吸血鬼が支配した街にやって来る所から始まる。

 

しかも画質、音質、それに演出もバージョンアップしてるだけあって、メーカーの肝いりなのかも知れない。

 

なんというか吸血鬼も狩人もやたらスタイリッシュに言葉を紡いでいくのが印象的だ。ゲームなのだからコレくらい大袈裟なのが良いのだろうが。

 

そんな感じでストーリーの導入が終わった所でゲーム開始となり、改めてガンコンを構え直す。

 

開始と同時、画面外からやって来る死体……グールと言うらしい奴らを、出現した瞬間に頭をブチ抜いて無効化させる。

 

ゲーム故に気配なんて分かるもんじゃない。なので視覚で得た情報を反射神経で即処理させ、ガンコンを持つ右手と連動させる。

 

 

「早___しかも正確にヘッドショットっ!?」

 

 

白河の驚く声が聞こえたが、今の自分はそれも気にならないほど集中している。

 

次々に出て来る敵を的確に、かつ最速で対処し、リロードも忘れず敵の出ないタイミングを見計らって行なっていく。

 

今朝の訓練の成果が出てるのか、今は一発も外す気はしない___!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きょ、驚愕……!」

 

 

___そして十数分後、ラスボスを難なく倒してから意識を元に戻して一息吐いた所で、少し遅れて同じくラスボスを倒した白河が崩れ落ちた。

 

 

「……つかぬことをお聞きしますが、これ初見です?」

 

「もちろん初見だが」

 

「……初見のガンシューで全弾外さずにパーフェクトを取るなんて、どうなってるんですかぁ!?」

 

 

ビシッとおれの画面に映ってるスコアを指差す。

 

そのスコアはきっちりパーフェクト。自分のプレイヤー名として撃ち込んだ「X FIRE」の名前が、ランキングのトップとなった。

 

 

「あ? ガンシューってパーフェクト取るのが基本なんじゃねぇの?」

 

「それ、どこの国の基本なんですか!? 修羅の国ですかね!?」

 

 

がーっ!と怒鳴る白河に思わず圧倒される。

 

勝負に勝ったはずなのに、なぜおれは責められてるのだろうか。

 

 

「それに、このプレイヤー名……! ここのガンシューのトップを総ナメしてるプレイヤーですよね! 芳乃だったんですこれ!?」

 

「あー……、最初は普通に名前で打ち込もうとしたんだが、一登達に止められて、頭捻ってそれにした」

 

 

灯火。とうか。トーカ。

 

“トー”は数の十として読めるので10を意味する“X”。

 

で、残りは火の部分なので“FIRE”。

 

これを組み合わせたものをプレイヤー名として使い、メガワールドのガンシューには全てこの名前を使っていた。

 

 

「兎にも角にもおれの勝ちだぜ、ぶい」

 

「ぐ、ぐぬぬぬ……!」

 

 

真相を知って唖然としてる白河にニッと笑ってピースサインを取ると、なんとも悔しそうな表情を浮かべる。

 

 

「無念です……芳乃がここまでやるとは思いもしなかったよ。どこで身に着けたんですか、そんなデタラメなエイム力」

 

 

改造した実銃での訓練をほぼ毎日してるどころか実戦でも使ってるからな。寧ろ上達してなきゃ嘘だぜ。

 

 

「まぁ、日々の鍛錬の賜物だな」

 

「学生の身分でどんな鍛錬をしたらこうなるんだい。恐るべしゴリラパワー……これはいずれ地球も人間からゴリラの支配に取って代わる訳だね!」

 

「あの映画で支配者になってたのはゴリラじゃなくて猿だろうが。つか、誰がゴリラじゃ誰が。ゴジ◯吹っ飛ばしてからここでも暴れたろかコラ」

 

「◯ジラVSキングコング!? 大怪獣バトルですし、だから結局ゴリラじゃないですかゴリラー!!」

 

 

そんないつものやり取りをしてから、お互いに笑い合う。

 

ゴリラ扱いは甚だ遺憾だが、それでコイツが今みたいに笑うならもう良いかと思ってしまう。

 

なんというか、気が付いたら白河との距離感はホントに近くなっている。

 

当然、悪い気分なんてしない。

 

破天荒だけど、気が合うかわいい女の子と気兼ねなく笑い合える日常を過ごせているのだから。孤立していた日々を思うと、随分と丸くなったものだ。

 

……だから、より強く思うんだろうな。この日常を壊そうとする奴らへの怒りを。

 

平然と他者を傷つける【人形遣い】のヤロウにも、ふざけた未来を作り出すクソオヤジにも、絶対に好きにはさせない。

 

必ず、奴らはこの手で____

 

 

「……さて、まだ時間はあるしどうする? しばらくメガワールドで遊び倒すか?」

 

 

物騒な思考を区切り、白河にそう聞く。

 

いずれケリを着けるとはいえ、今はこの日常を楽しむべきだろう。

 

 

「賛成。たまにはこんな風に楽しむのも悪くないね。と言う訳で次はレーシングゲームでリベンジと行きましょうか!」

 

「コイツ、おれが乗り物酔いする弱点を知ってて選びやがったな?」

 

 

いつぞやのジェットコースターでは散々だった記憶を思い出すが、少し甘い。

 

この弱点、自分で運転する分には発揮されないのだ。あくまで体を固定された上で自分の意志とは関係なく激しく動き回るジェットコースターが合わないだけだ。言い訳がましいけど本当なのである。

 

楽しげにレーシングゲームの筐体に向かう白河に苦笑しながら、おれもその後を追う。

 

 

 

___このあと、レーシングゲームでデッドヒートを繰り広げたり、UFOキャッチャーでねこのヌイグルミを確保したり、格ゲーで即死コンボ食らわしたり食らったりと、思う存分に白河とゲームを楽しむのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、久しぶりに豪遊した気がしますねー!」

 

「戦利品も大量だしな」

 

既に日は傾き、空は夕焼けの朱に染まってる。

 

メガワールドで遊び倒した後は買い物で夕飯の食材を買って、今は帰路に着いてる所だ。

 

ただ、おれの両手には食材の入ったレジ袋だけでなく、UFOキャッチャーやらで乱獲したお菓子類も大量にある。無論、全部おれだけのじゃなくて白河のも持っている。

 

 

「それにしても、この子貰っちゃって良かったのかな?」

 

 

そう言う白河は先ほど取ったねこのヌイグルミを両手で抱えている。

 

デフォルメされたコケシのような姿だが、辛うじて白ねこと分かるデザインだった。

 

……何故だろう。この白ねこ、なんとなく「うたまる」と言う名前が似合う気がした。理由は分からないが、どこかで妙な電波を拾ったのだろうか?

 

 

「おれの殺風景な部屋に置いててもな。と言うか、物欲しそうに見てたろーが、おのれ」

 

「ふ、不正解! そんなことないですからね!?」

 

「……否定しながらヌイグルミを大事そうに抱えても、全く説得力ないんだわ」

 

 

おれがそう指摘すると顔真っ赤にしながら白ねこのヌイグルミに顔を埋めて表情を隠す白河。

 

因みにあげた当初は「べ、別に欲しいとは言ってませんし」と否定しながらもヌイグルミをぎゅっと抱きしめていたのが印象的だった。

 

……そんな、普段の飄々とした態度とは全く違う女の子らしい姿に、思わず目をそらしたおれは悪くないと思う。こう言うギャップをたまに見せてくるから心臓に悪い。

 

心の中で首を振って正気に戻る。

 

 

「さて、遊び倒したし食材も買った。後は帰るだけか」

 

「正解。所で夕飯はなに作るの? なにやら色々と買い込んでいた様だけど」

 

「半熟オムライスにサラダにオニオンスープって所だな。半熟卵はたまにやらないと感覚忘れそうだし」

 

「半熟オムライスって……あのチキンライスの上に乗っけたオムレツを切るとトロトロな半熟卵がドバーって出る奴だよね! それは楽しみです!」

 

 

あの半熟トロトロ具合を再現するには中々骨が折りそうだけど、だからこそ挑戦したくなるものだ。

 

 

「……そう言えば明日と明後日は休みだけど、芳乃は何か予定あります?」

 

「予定……多分ないな。せいぜい明日の午前中に部屋の掃除するくらいか」

 

 

おじさんの先視の範囲外で何か起きれば、その限りではないが。

 

 

「単刀直入に言うと、例の依頼の件……学園外でも付き合ってほしいなと」

 

 

珍しく遠慮気味に話すなと思ったら、なんだそんなことか。

 

 

「それは別に構わねぇよ。ただ、美嶋さんの今日の様子を見る限りじゃ、おれに対しての恐怖心はもう無さそうな感じだったな」

 

「芳乃がいても関係なく追い掛けてましたもんねー……」

 

 

そのせいで危うく追い詰められた訳だが。

 

白河も、こんなに早く美嶋さんがおれを克服するのは想定外だったのだろう。今日追い詰められた一因にもなってるはずだ。

 

 

「でもまぁ、未羽が予想より早く芳乃に慣れたのは嬉しい誤算ですよ。なので、この休日を使ってもっと慣れさせたいと思うんです。念の為にボクも付いて3人で出かけませんか?」

 

「なるほどな……」

 

 

男性恐怖症の克服の足がかりの為にも、白河の提案は合理的か。

 

問題があるとすれば、こっちの事情だが……万が一の事態には何かしら理由をつけて離れればいいか。

 

 

「了解だ。ただ、おれも急用か入るかも知れないから、それだけは留意しててほしい。確率は極めて低いだろうがな」

 

「やった! じゃ、早速未羽にもアポを取るよ。肝心要な芳乃が不確定じゃ誘えなかったからね」

 

 

そう言ってから白河はTABを取り出してCOMUで美嶋さんに送るメッセージを打ち出していく。

 

ふと、美嶋さんに用事があったら御破算じゃね? とも思ったが、白河のことだ、美嶋さんの行動パターンくらいは把握してるのだろう。

 

恋愛請負人として、告白のシチュエーションをしっかり形作ることが出来るからな。行動パターンの把握するくらいは余裕だろう。

 

 

「あれ? 思ったより返事が早い。……ま、いっか。取り敢えず明日10時に湖畔公園の遊歩道入口で待ち合わせ、と」

 

「…………?」

 

 

ふむ、おれが知る美嶋さんの性格なら、もう少し逡巡しそうなものだが。

 

今日の迷いのない感じといい、なにか心境の変化があったのか……?

 

 

「よし、これで一安心かな。……これでまた未羽に少し世話を焼いてあげられそうです。これでキミに完全に慣れてくれたら良いんだけどね」

 

「……なんだかんだ美嶋さんに対しては優しいよな、おのれって」

 

「そう、かな?」

 

「そうだよ。そもそもあの依頼だって、美嶋さんを気遣ってのもんだろ?」

 

「それはね。……まだまだ、これくらいじゃ返しきれないから」

 

 

白ねこヌイグルミを抱きしめながら、ほろ苦く笑ってそう呟く白河。

 

……その言葉の意味はおれには分からない。

 

でも、それが美嶋さんを気遣ってのものだってのは分かる。

 

やっぱり、なんだかんだコイツもお人好しだよな。

 

 

「と言う訳で、明日はお楽しみにしててください。プランとかはボクの方で考えておきます」

 

「了解だ」

 

「ふふふ、【オスのサガ 明日待ち侘びし 猫の恋】ってね♪」

 

「誰が盛った猫だ、誰が」

 

 

なんちゅー季語を使いやがる貴様。

 

 

「正解。芳乃は猫じゃなくてゴリラですもんねー? 見た目そうじゃないのにゴリラですもんねー♪」

 

「誰がゴリラじゃ誰が。鷲と闘牛と鮫と虎と象と合体して騎士風の剣術御見舞するぞコノヤロウ」

 

「ガ◯ナイト!? 劇場版の巨大戦力ですけど、だからやっぱりゴリラじゃないですかゴリラー! それも赤い奴ー!」

 

 

いつものお約束のようなやり取り。

 

そこからはまたいつもの軽口の叩き合いをしながら寮への道を歩き続ける。

 

隣を歩きながら明日の予定に思いを馳せて、はにかむような笑顔を見せる白河を見ていると、心地よさと、温かさと、ほんの僅かな切なさを感じる。

 

 

……この感情は、一体なんなんだろうな?

 

 

この胸の内から湧き出るナニカに、おれはまだ名前を付けれそうになかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。