「よし、部屋の掃除終わりっと」
額に滲んだ汗を腕で拭いながら一息入れる。
海央達と日課の早朝訓練を終えて飯を食った後、部屋の掃除をしたのだが、学生寮の一室だけなので掃除する箇所はそれほど多くない。
が、なんだかんだ人が良く来る部屋なのだ。それなりに清潔には保ちたい所だったりする。……その分、プライベートは死滅してるが。
TABの時計を見ると時刻はまだ8時。……早朝訓練をやってもこれなのだ。約束の10時までにはまだまだ余裕がある。
「……時間あるし“アレ”の調整でも進めとくか」
言いながら胸元に手を当てて、使い慣れた呪文にして魔法の名を唱える。
「【取替の悪戯(チェンジリング)】」
モノとモノを取り替える魔法を応用した瞬間移動。それなりに魔力は使うが、これも必要経費だ。
見慣れた自室から一転して、そこは真っ暗な部屋だった。
思わず方向感覚が崩れそうになりつつも、なんとか壁まで辿り着いて照明のスイッチを探し出す。
備え付けの照明により、ようやく部屋が明るくなる。
___そこにあったのは四方八方を埋め尽くす銃、武装、重火器。
ここには、おれが使う武器の全てを収めてある。
戦場が香々見島だと分かっていた師匠により用意された、武器庫にして魔法使いとしてのおれの工房。
使った銃器の手入れをするためにちょくちょく訪れてるが、今回はそれとはまた別件だった。
取り敢えず作業机に向かい椅子に座る。机の上には愛銃たるシリウスと、“創りかけの銃身パーツ”が置いてあった。
そちらはひとまず置いておき、シリウスを手に取り魔力を通して状態を確かめる。
「……だましだまし使ってたが、そろそろ限界が近いな」
外装を見る限りじゃあまり変わらない。ゴツくてデカくて頑丈な化け物銃のままだ。
けれど、コイツの魔具としての機能……魔力を収束して放つ機能と、早撃ちを始めとする無茶な使い方のせいで内部の方にガタが来はじめている。
……だからこそ後継が必要なのだが。
シリウスを置き、次は作業途中のパーツを手に取る。シリウスの銃身と比べるとかなり小さく短く、取り回しに優れている。
それでいて使う素材は師匠が残した特別製の合金であり、シリウスよりも更に強度も耐久も高い。
それこそ、この銃身で攻撃を受けきれるくらいには。
「時間も限られてるし、さっさとやるか」
その銃身パーツに向けて魔法を起動。
“モノ造りに特化した魔法”でもって、細部の調整をしていく。数年かけた工程で大部分はもう出来上がっているのが幸いだ。
……この合金、あまりに硬すぎて通常の加工が出来ない為、魔法を使わないと碌に加工が出来ないんだよな。
必要な性能を発揮するためだし仕方ないけど。それに、これはこれで魔力のコントロールの鍛錬にもなるし。
師匠が失踪した直後に芳乃の家に送られて来たのだが、詳細は不明でなんの合金かも分からないが、一緒に付随してたメッセージ曰く「俺からの最後の贈り物だ。今まで学んだ全てを生かしてコレを魔法で加工してみせろ」とのこと。
つまり、これは師匠から課せられた最後の課題でもあるのだ。
そんな事を考えながら作業に没頭する。タイマーは仕掛けてあるので万が一もないだろう。
修練の時以上の集中力を維持しながら、おれはひたすら作業に没頭するのだった。
−EPISODE 32−
「さて、待ち合わせは公園の入り口だったが……少し早く来すぎたか」
3/9 土曜日。晴れ時々曇り。
キリの良い所で作業を終わらせたおれは、約束の時間まで大分余裕を残して湖畔公園まで来ていた。
確か、女性との待ち合わせの時は男性は早く来てた方がいいんだったか? 魔法の修練しながらばあちゃんにそこら辺をしっかり言い聞かせられてたなぁ。なんか、じいちゃん苦笑してたけど。
取り敢えず適当な木陰の中に入り、木を背にして二人を待つ。
空には雪のような人口妖精、冬から春に変わりかけの空気、そして柔らかい木洩れ陽の光が大変気持ちいい。……数日前に、ここで【人形遣い】との戦闘があったなんて信じられないほどだ。
戦跡はほぼ全て片付けたが、杉並くらいなら他にも証拠を見付けられるかもしれない。
「昨日も結局動きがなかったしな……」
またおじさんに先視で視てもらうのもアリだが、奴の事だ。何かしらの抜け道をして来そうな気もする。
どのみち、迎え撃つしかなさそうだ。
「未来を視る目があるのに、ホントままならねぇよな……っと」
ふと、TABに着信が入ったのを感じてポケットから取り出す。見てみると一登からのCOMUみたいだ。
なんだろう?と思い覗いてみると、
『二乃が作ったお弁当を渡されたんだが、ここから入れる保険はあるか?』
『諦めろ』
返信を可及的速やかに行い、一登の冥福を祈る。
どうやら親友は過去最大レベルの受難に見舞われたようだ。やべぇ、下手したらおれの視た先視より早く一登が死にかねない。
……つか、ソラさーん! なんで二乃をキッチンに立たせたんすかァ!? ニ乃の料理の腕前ってまだ、こう、前衛的所か独創的と言うか……とにかく形容し難いナニカだろ!?
いや、向上心はあるんだよ二乃にも! でも向上心に反比例して二乃の料理の腕前は異次元なんだよ!? ソラさんですらお手上げなのにおれにどうしろと!? しかも作った後じゃもう手遅れなんだよどうしようもねぇんだよ!?
『胃腸薬は用意しとけ。骨は拾ってやる……!』
『……そうするわ』
それから『健闘を祈る』と書かれたスタンプを押すと、『行って来ます』と言うスタンプで返答される。……『逝って来ます』の間違いじゃなかろうか?
この調子だと零次さんと十和子さんの分も作ってるんだろうな……南無三。
TABを仕舞って溜め息を一つ。……すまん二乃、ねこ仲間のよしみでも、おのれの料理の腕前だけはカバー出来ない。
そんな風にねこ仲間の親友の妹に心のなかで謝罪していると、見知った気配を二つ感じ取る。
「おや、先に来てたんだね。いい心掛けだよ」
「お、おはようございます……!」
視線を向ければやはりと言うか、私服姿の白河と美嶋さんの二人がそこにいた。
「よ、おはよーさん」
「女性との待ち合わせで予定より先に来てるのは中々の高得点だね」
「そこら辺はばあちゃんにしっかり言い聞かされててな。その知識が役立ったわ」
清隆じいちゃんは話を聞く限りじゃ一登に近いクソボケだったみたいだし、その反省も兼ねて朝倉の兄ちゃんこと純一さんにも言い聞かせてたなぁ。
それがしっかり活かされたかどうかは、音夢さんにしか分からないだろう。……まぁ、どっちにしろあの二人は恋愛に疎いおれでも分かるほど、既にラブラブなのだが。
「ふふ、素敵なおばあさまなんだね。……そんな方なら、このあと言うこともちゃんと教わってるよね?」
「ん?」
このあと言うこと? ……ああ、確か服装を褒めるんだったか?
曰く「女の子と待ち合わせすることになったら、まずは予定より早く来て女の子を任せないこと。そして来た女の子の服装を褒めること」だそうだ。
「……パッと見かつ素人目線からになるんだが、普段から髪を縛ってるリボンとも合うよな、その服。普段の活発な感じとは違う印象を与えるけど……うん、改めて見てもとても似合ってると思う」
と言う訳で有言実行である。白河の私服は前に見たものと同じだが、実は前にも似合ってるなと思ったのは内緒である。
白河は一瞬虚を突かれた様な表情を浮かべてから顔を真っ赤に染め上げる。
「ふ、不正解! 正解だけど不正解! なんでボクの方を先に褒めちゃうんです!? そこは未羽を褒めるべきでしょう!」
「……おれ、今すげぇ理不尽な理由で怒られてないか?」
促したのはおのれじゃろうがい。
いやまぁ、美嶋さんにも言うけどさ。
「で、美嶋さんは美嶋さんでイメージぴったしと言うか、清楚がカタチになってる感じ。間違いなく似合ってると思う。それに、なんか新鮮」
美嶋さんはほぼ制服姿しか見てないからだろうな。白河は部屋着のまま自室に入りびたってるからもう慣れた感はある。
「あ、ありがとうございます……」
「……ま、及第点は出しとこうかな。ゴリラにしてはよく頑張りましたよ」
「慣れてねぇんだよ、こう言うの。そして誰がゴリラじゃ誰が。ガゼルとペンギンと合体して獣を模した拳法かますぞコノヤロウ」
「ゲ◯ゴリラ!? 過激気でも習得したんですか?! でもやっぱりゴリラじゃないですかゴリラー!」
そりゃ恋愛請負人から見れば、この手のおれの語彙なんてショボいに決まってる。あとゴリラ呼びは遺憾である。
「ほ、ホントに息ぴったりで仲良しですよね、芳乃先輩とひよりちゃん」
「どちらかと言うと、引っ張り回されて回し返してるだけだな」
……まぁ、それが楽しいんだけどさ。
「お互いに気兼ねなく話せる関係なのは、とても良いことだと思いますよ?」
「……そうだな」
「____さて! いつまでもこんなところで立ち話もなんだし、そろそろ行くとしようか!」
美嶋さんの言葉に納得していると、白河がそう切り出した。
確かにいつまでも公園の入り口で駄弁ってるのもアレか。
そんな訳で、まずは3人で公園の遊歩道をのんびりと散策しだす。
「まだ少し肌寒いけど、カラッと晴れていて気持ちがいいね」
「季節の移り変わりの空気って、なんでこんなに気持ちいいんだろな」
頬を撫でるような風に思わず唇が綻ぶ。この感覚は、新しい季節の始まりを感じるからなのだろうか。上手く言語化が出来ないのが少しもどかしい。
詩人の才でも少しは持っていたらと思うも、似合わんなと言う結論に至る。
「___ほう、両手に花とはやるではないか、同士・芳乃よ」
「ひうっ!?」
…………この無駄に良い声して、おれを同士とか言う人間は一人しかいない。
声のした背後へと振り返ると、なにやら色々なガラクタを持ち込んでるトラブルメーカーこと杉並が、いつにも増してニヒルな笑みを浮かべている。
そんな、いつの間にか背後に立っていた男の存在に美嶋さんがビックリして白河に縋り付く。
「むむっ、出たな闖入者と書き好敵手と読む杉並!」
「だから絶対に読めねぇよそれ。そして美嶋さんを驚かすなアホ。相変わらず背後からポンポン出てくるよな、おのれは……!」
どうしてこうコイツは変な、それも唐突な登場しか出来ないのだろうか?
「つか、そのガラクタはなんだよ?」
「ガラクタではない。例の不信集団を探す為に用意した専用の探知機だ。技術の粋を集めて作り出された逸品でな」
「……胡散臭ぇ……」
一体そのガラクタにどんな技術が使われてるのか見当もつかないし、理解したくもないんだが。
「暇なら同志達も誘おうと思ったが、取込み中の様だし諦めるとしよう。なにか分かれば情報を共有するから期待して待つがいい」
「おう、期待しないで待っとくわ」
これで【人形遣い】の行方が分かったらおれや海央達の立場がないな。
「ではさらばだ!」と意気揚々と去っていく悪友を見送った後、肩を下ろしてため息を吐く。
「……なんでアイツと話すと体力がごっそり持ってかれるんだろうな」
おれの言葉に白河も美嶋さんも苦笑する。
デタラメ具合ならアイツの右に出る者はいないだろう。いや、盾石は行けるか。あの二人を組ませたら未曾有の大惨事になりそうだ。面白そうだけどなぜだろう、おれが尻拭いに走り回りそうな気がする。
兎にも角にも、意識を切り替えるとしようか。いつまでも奴に引き摺られてたら今日一日が台無しになっちまう。
「所で、今日はどんな風に回るんだ?」
「そうだねー。取り敢えずここの散策を終えたら商店街に行こうと思う。お昼もそこで考えたらいいかなって」
「なるほど」
そうなると昼は定番の定番になりそうだな。
___で、雑談交じりの散策を終えてやって来たのは、やはりと言うか定番の月見団子だった。
「ここならのんびり出来るしね。定番には定番の良さがあるというものです」
「にゃ? ……にゃー!」
「おわっ! こら“クロ”、おれを認識した瞬間に飛び付くな!?」
「にゃー♪」
月見団子に来る度におれの頭に陣取る黒い子ねこ……前に看板娘の梓さんに聞いたら名前はまんまクロらしい。
そんなクロを皮切りに、徐々にねこ達が足元に集まってくる。
「相変わらず、お猫様にはモテモテですね……」
「ホントになんでだろうな……?」
この体質、実はじいちゃんばあちゃんにも疑問に思われていた。三日月島の野良ねこ達に懐かれてるせいで、芳乃の家がねこの集会所みたいになってたし。まぁ、ねこ好きだから良いんだけど。
取り敢えず、頭上に陣取ったクロはてこでも動かないので、それ以外の奴らを解散させる。クロ以外は聞き分けがいいのも、月見団子のねこ達の特徴だ。
「にゃーう♪」
「前にも先輩の頭の上で寛いでたその子だけは残るんですね……」
「……もう諦めた。ここに居る間だけなら、コイツの好きしてやるよ」
おれがそう言うとゴロゴロと喉を鳴らすクロ。
あざとい、大変あざとい。二乃がいたら悶絶しつつも連続でシャッターを切るレベルだ。
人への甘え方を熟知してやがるなコイツ。
「で、白河にはやっぱり寄り付かないと」
「ぐ、ぐぬぬぬ……! よ、芳乃の体質がおかしいんですよう……!」
涙目で悔しがる白河におれも美嶋さんも揃って苦笑する。おれと真逆の体質なのは何なんだろうなホント?
そんなこんなで席に着いてからそれぞれ好きな軽食を注文する。無論クロの分の餌と、デザートに水鏡餅も忘れずに。
「ふと気になったんだが、二人は休日はどんな風に過ごしてるんだ? 」
「にゃ?」
「そうですねえ……。その日の状況にも寄りますけど、暇だったら前に言ったみたいにゲームしたり、その話題で盛り上がったりしてますね」
「ああ、前にも言ってたな。乙女ゲーとやらか」
「にゃにゃ」
「正解。基本は別々にやってるんだけど、ときどき一緒にやったりするんだよ。ね、未羽?」
「うん。ひよりちゃんが私の部屋まで来て……それで、ふたりでこのシチュエーションはいいね、とか言い合ったり……」
「今の殺し文句は最高だったね、とかね」
なるほど、趣味が共通してるからこそ、一人でやるゲームでも二人で楽しめるって訳か。
おれが一登らとやるアクション系とは違って、ドラマや映画みたいに一緒に見て盛り上がる感じなんだろうな。
「未羽はイケボが好きだからね。自分も言われてみたい、ってなるんだろう?」
「そ、そこまで芳乃先輩の前で言わないでよぉっ。恥ずかしいよぉ……!」
「あはは、ボクだってイケボは大好物だよ。むしろ、イケボが嫌いな女子がいたら拝んでみたいものだよ」
「ふふ、そうだね」
「イケボ……ああ、杉並みたいな」
「うにゃーん」
「またこの男は否定しづらい例えを持って来て……!」
忘れがちだが杉並は基本イケメンだ。
容姿端麗。声もそれなりにイケボとやらに入るだろう。……ただ、あの愉快で意味不明な精神性と行動原理のせいで全てを台無しにしているだけで。
脳裏で再現される「ファーハッハッハ!」と言う奴の喧しすぎる高笑いをなんとか振り払いながら、ふと気になったことを口に出す。
「でも白河の性格を考えたら、乙女ゲー以外にもやってそうだよな」
「正解。ボクはアクション系ももちろん嗜んでるさ。ただねー、そっち系は未羽が苦手なんだよね」
「ど、どうしても指が追いつかなくて……ひよりちゃん、よくあんなに指が動くよね? しかもずっと喋りながらだし」
それはなんとなく想像つく。……慌てふためく美嶋さんと、余裕綽々な態度でコントローラーを忙しなく動かしながら目茶苦茶喋る白河の姿が脳裏に浮かんだわ。一息吐いた所でドヤ顔もかますだろうな。
頭の上からあぐらをかく脚の上に降りて寝息を立て始めたクロを起こさない程度に撫でつつ、そんなことを考える。
「それはそれでバランス取れてそうだけどな。……負けず嫌いの白河のことだ、美嶋さんがアクション系得意だったら延々と絡んでエライことになってたろうさ」
「……ふふ、正解です先輩。ひよりちゃんてば、レースでもなんでもひたすら勝ち続けないと気が進まないタイプなんです」
「それは当然じゃない? 勝負は勝ってこそ、だよ」
「それでここ最近、引きどころ見失って叶方に怒られるまで騒いでたんだろーが」
「それについては同罪だよね! 芳乃だって結構な負けず嫌いの癖にー!」
プンスコ怒る白河の姿に苦笑する。コロコロと次々に表情が変わる様は見ていて楽しい。
「そう言う芳乃は休日なにしてるんだい?」
「一登達が絡まないと、基本的に鍛錬、料理、散歩、昼寝くらい」
「……キミ、ホントに現代の学生? それ以外に趣味はないの?」
趣味つってもな……武器弄りは当然言えないだろ? 魔法の修練も。白河達にも話せる範囲で言えるモノと言えば……。
「ねこあるき……は当然として。あ、KotoRIの配信も良く見る方か」
「芳乃、KotoRIのこと知ってるのかい?」
「ああ、一登に教えてもらってからなんとなく見るようになった。うたがとても綺麗で聴いてると落ち着くんだ」
寝返りをうって無防備になったクロのお腹を撫でつつ答える。
寝てるのに気持ち良さげにゴロゴロと喉を鳴らしてる……写真撮りてぇな。多分、二乃に見せたら悶えるぞ、これは。
「因みに、ひよりちゃんも、うたがすごい上手なんですよ?」
「ちょっと未羽!?」
ふと、どこか悪戯っぽい表情を浮かべた美嶋さんがそう言うと、白河が何故か顔真っ赤にする。
「ん、そうなのか?」
「い、以外だったかな。それともボクがうた上手いなんて信じられないかい?」
「いや、白河の声も綺麗だしな。だから、うたが上手いって言うのも納得出来る。多分、KotoRIとはまた別の……わっ、急に起きて戯れてくんな、こらっ」
「にゃにゃー♪」
お腹を撫でていたら突如として目覚めて顔に突撃してくるクロをなんとかいなす。緩急の差が激しいなコイツ。
「〜〜〜〜ッッッ!?! ホントに、このタラシゴリラは……!」
「なんの含みも感じない素直な言葉だったね……。あれ、素で言ってるんだよね……?」
「ちょ、なんか言ったか? 今、荒ぶってるクロの相手してて聞こえなかっ……まっ、落ち着けクロ! 服の中に潜ろうとすんな! やんちゃかおのれ!」
「にゃー♪」
「にゃー!」「うにゃー」「にゃ!」
「おわぁ!? いつの間にか集団で、あ、あぁぁぁあぁあああぁあ……!」
気が付かない間に背後に忍び込んでた数匹のねこ達の奇襲を皮切りに、瞬く間にねこ達に埋もれて行く。
ねこフルアーマーinおれ。
「よ、芳乃先輩が猫ちゃん達に埋もれちゃった!?」
「タスケテ……タスケテ……」
「あー……うん、しばらく芳乃はお猫様に埋もれてましょうか」
「い、いいの!? 結構スゴイことになってるけど!」
「大丈夫大丈夫。基本的にこの男、お猫様大好きだからこれはむしろご褒美だよ……全く、本当に羨ましい対質だね」
なんか好き勝手言われてる!? と言うか助ける気なし!?
そりゃ確かにねこに埋もれて常時ねこ吸い状態とか幸せそのものだけど呼吸が、呼吸が苦しい……!
もが、もがががががが……!
・・・・・・・・・・・・
「___ふう、死ぬかと思った」
あれからなんとか生還できた後、飯も食い終えて月見団子を出たおれ達は商店街をブラついていた。
「死因がお猫様に埋もれての圧死とか、どんだけ愉快なんですかね?」
呆れたような、そして少し羨ましそうに白河が言う。
それはそれで、ある意味最高の死に方だな。
「でも、猫ちゃん達はとても楽しそうだったよ」
「芳乃に一番懐いてるクロちゃんだっけ? 帰る時すごく寂しそうに鳴いてたけどね」
「……寮暮らしだから飼えねぇのがな……ここが三日月島なら、ばあちゃんもいるからワンチャン引き取れたかも知れないけど」
月見団子のねこ達は保護猫がほとんどで、クロも確か保護されたねこだったと梓さんが言ってたな。
「え、三日月島? ……もしかして、芳乃の家って三日月島にあるの?」
驚いたように三日月島と言う言葉に反応した白河。
「三日月島を知ってるのか? 香々見島とは本州を挟んでほぼ反対側にある辺鄙な島だぞ」
特に観光の目玉もない。
あるとすれば最先端技術の研究開発をしている【天枷研究所】くらいしか名物がない島なんだがな。
「正解。親戚がそこに住んでてね。……ボクに良くしてくれた大好きな人なんだけど、優しくて超がめっちゃ付く美人でね。同じ白河姓なんだけど、芳乃は知らない?」
「……いや、あまり人付き合いは良くなかったからな、おれは」
ほぼ魔法の研鑽と肉体の鍛錬、それからばあちゃんに料理教わってたりしてたが、人との交流は最低限だ。
ぶっちゃけると今は三日月島より香々見島の方が詳しい。一登達に散々色んな所を連れ回されたしな。
「ボク、家族ぐるみで時々その人に会いに行ってたんだけど。その時に、もしかしたら芳乃と会えてたかもね」
「……もし、芳乃先輩とひよりちゃんがその時に出会ってたら、今よりもっと仲良くなってたのかな?」
ふと、白河と美嶋さんが思いついたかのように、そんなIFの話をする。
おれもそのIFを想像して、けれど首を横に振るう。
それは有り得ない話だと、誰よりも理解していたからだ。
「……会ってたとしても、多分今みたいに仲は良くならなかったと思うぜ。こっちに来る前の……いや、一登達に絆されるまでのおれは身内以外には興味がなかったからな」
この学園に来たのも元々は使命と“約束”を果たす為だけだ。
誰かと仲良くするなんて気はなかった。その時が来るまでひたすら牙を研ぐだけでいるつもりだったからな。
でも、師匠の孫とその友達って言う奴らからしつこく絡まれて、根負けして口を開くようになって、気が付いたら絆されてて……。
「……あの三人の功績は大きいね」
「おれも、その点はアイツらに感謝してる」
目的を果たす為だけの存在から曲がりなりにも人になれたんだからな。
小っ恥ずかしくて言わないだけで本当に感謝してるんだよ、アイツらには。
「____ってあれ、灯火?」
そんなことを考えていると、ちょうど聞き覚えのある声が聞こえて、思わずそちらの方に視線を向ける。
そこには私服の一登と有里栖、ワンダーランドの開発室でバイトをしているはずの二人の姿があった。
「一登じゃねぇか。……どうやら生きてたみたいだな」
「ああ。ギリギリ食えなくはなかったからな……味は、ともかくとして」
どうやら今日は当たりだったらしい。紙一重で命を繋いだようだ。……味がどうだったのか分からんが。
一登と一緒にいた有里栖もコチラに気付いたのか、嬉しそうに表情をほころばせる。
「芳乃君にひよりんとみうたんも、こんにちわ!」
「鷺澤じゃないですか。……なになに、もしかしてバイトをサボって秘密のデートですか?」
「え? 常坂先輩とありすちゃんって、そうなの……?」
悪戯顔の白河による意味有りげな言葉を真に受けて、美嶋さんが心底驚いたような表情を浮かべる。
それに気付いた一登と有里栖が揃って顔を真っ赤にした。
「違うから! 明日で最後の追い込みをするから今日は早く終わっただけだって!」
「そ、そうそう。と言うかひよりん達だってデートしてるんじゃないかな!?」
「ふ、不正解! 違いますデートじゃありません!」
「あ、あうう……!」
デートと言う単語に顔真っ赤にする女性陣。……確かに、見ようによってはデートなのかも知れない。そうハッキリ認識すると柄にもなく緊張しそうになる。
取り敢えず調子を戻す為にも、なんだかわたわたし始めた女性陣から、一登の方に視線を向けて話を変えることにしよう。
「で、バイト早めに終わったから二人で遊びに出掛けたって所か」
「そう言うこと。……そうだ、灯火達も来るか? 白河もゲーム好きだったろうし」
「?」
どこか楽しげな一登の表情に、おれは思いっきり首を傾げるのであった。
____一登の先導により辿り着いたのは、ワンダーランドに並ぶ香々見島の娯楽施設の一つ、【オールイン1】だった。
「さっき有里栖と雑談してた時に【戦国の巨神】の話題が出てな。その時に期間限定のアミューズメントマシンがオールイン1に入荷してたのを思い出したんだ」
戦国の巨神……確か今も原作が連載しててアニメ化もしてる人気コンテンツだったか。
「と言う訳で、あれやらないか?」
そして一登が指差すのは一枚の広告ポスター。
それも、戦国の巨神に出て来る宿敵の巨神と主人公達が戦う様が描かれたものだ。
「……え、もしかして戦国の巨神の体感ゲームが出たの?」
「なんですと!?」
ゲームも嗜んでるらしい白河が食いつき良く反応する。人気コンテンツの体感ゲームが出たんなら、そりゃ確かに驚くか。
「俺も実際に見るのは初めてで、ネットで全国稼働開始するって情報を見たのをさっきの話で思い出してさ」
なるほど、確かに面白そうだが……美嶋さんは大丈夫だろうか?
あまりグロテスクなのはダメそうだと思うが。一登の部屋にあった単行本を読んだ時、割と血とか結構……いやかなり出る作風だったはずだし。
「……行ってみましょう、ひよりちゃん、芳乃先輩」
と、思っていたら以外にもやる気に満ちた表情になっていて、思わず首を傾げそうになる。
「あー……あのね芳乃、この戦国の巨神に出て来る先輩キャラがね、未羽の好きな声優さんなんだよ」
「ポスターに、高得点でゲームクリア出来たらその声優さんのサイン付き色紙が貰えるって書いてるんです……!」
……とのことらしい。
なるほど、やる気を出す訳だ。ついさっきイケボが好きって言ってたしな。
白河と視線を合わせて同じタイミングで頷く。……せっかく美嶋さんが積極的になってるんだ。ここは乗るべきだろう。
「了解だ。サクッとクリアしてお目当てのモノをゲットしようぜ」
「賛成! ボク達も協力するよ未羽!」
「は、はい! ありがとうございます!」
おれはともかく白河のゲームの腕前を知ってるだろう美嶋さんがパァ……と咲くような笑顔を見せる。
「みうたんもひよりんもやる気だね♪ 私達も負けないぞー!」
「おう!」
有里栖や一登もそんな美嶋さんに触発されたのか、やる気を出してゲームに臨むみたいだ。
「そういやこれ、全員で行けるのか?」
「ちょっと待ってね。……えーと、推奨は2〜3人なんだって。それ以上は難易度が急激に跳ね上がる仕様みたい」
「なら一登と有里栖、おれと白河と美嶋さんの元々の組み合わせで行くか」
「賛成。戦力的にもそれが一番バランスが良さそうだね」
「が、がんばります……!」
___と言う訳で、組み合わせも決まった所で全員で受付に向かう。
目指すは高得点。そして美嶋さんが欲しがってると言う景品。
目標はそれなりに高いが、だからこそ目指すのが楽しいのだと、高揚した気分でそんなことを考えるのだった。