D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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EPISODE 33

 

 

 

「……驚いた、大型の筐体ゲームかと思ってたら予想より遥かに大掛かりだったんだな……!」

 

「俺もビックリしたよ。てっきりVR的なのを想像してたら、丸々ワンフロア使った機械的な仕掛けとプロジェクションマッピングを併用したものだなんてさ」

 

 

貸し出しされていた衣装を着替えに行った女性陣を待ちながら、一足先に会場に来たおれと一登は想像していた以上の規模の設備に素直に驚いていた。

 

【オールイン1】は大型のビルなのでワンフロアでも面積はそれなりにある。……これは中々楽しそうだ。

 

因みにおれも一登も、道着と袴に服装を変えている。一登曰く人気男性キャラの衣装は件並み貸し出されているため、おれ達が着てるのはモブキャラのものらしいが、それでも気分は出るものである。

 

こう言う和服系を着るのは、芳乃の家で過ごしてた時以来だな。じいちゃんとばあちゃんの趣味なのか、芳乃の家は純和風だったし、和服で過ごす事も多かったし。

 

 

「おまたせー! 思ったより着付けに時間掛かっちゃった!」

 

「と、来たみたいだな___って」

 

「どした一登? ……ああ、なるほど」

 

 

着替え終わったらしい女性陣の方を向いて一瞬固まる一登を怪訝に思ったが、同じ方を向いて納得した。

 

 

「あ、常坂君も芳乃君も衣装似合ってるね!」

 

 

まずは有里栖。彼女は水色のくノ一の衣装を身に纏っている。確かヒロインの衣装だったか? 桜の意匠が施されており、その可憐さが有里栖に大変似合っている。

 

一登が思考停止したのは、そんな有里栖の姿を直視したからだろうか。有里栖は有里栖で「ね、ね、似合ってる?」と近づいて行く。……やっぱり前より距離感近くなってるよな。

 

 

「鷺澤と時坂兄はバイトで一緒みたいでしたし、より仲良くなったんじゃないですかね?」

 

「白河は……弓道着か、それ?」

 

 

次に白河。白い弓道衣と黒の袴、弓道用の胸当てには金木犀の意匠が描かれていて、それがアクセントとなっている。

 

これも確かヒロインの一人が着ていた衣装だった気がする。……と言うか白河も和服が似合うよな。

 

なんというかしっかり着こなしてる感じ。普通、この手の和服って慣れてないと衣装に着られてる感が出るもんだが。

 

それに髪型もいつものツインテールじゃなく、ポニーテールに変えていて新鮮だ。……ふと、うなじに向きそうになった視線を慌てて戻す。煩悩退散。

 

 

「おや、男性陣はあまり目立たない……と言うかいわゆるモブの衣装なんです?」

 

「男キャラの衣装は人気があってコレくらいしか無かったんだよ」

 

「でも似合ってますよ? もしかして和服って着慣れてます?」

 

「芳乃の家じゃほぼ和服だったからな。で、そっちも結構着慣れてるよな。やっぱり家で慣れてる感じか」

 

「正解。これでも武家の娘ですから。どう、似合う?」

 

 

一歩離れてから一回転して、両手を広げる白河。

 

その姿があまりにも眩しく見えてしまって、視線を逸らしてしまう。

 

 

「おや? おやおや? どうして目をそらすのかな〜? そんなにボクに似合ってましたかね、この服」

 

 

それを察知してか、悪戯な笑みを浮かべて再度こっちに近づく白河。

 

 

「…………ああ。白の弓道衣がとても似合ってるし、髪型がいつもと違うこともあって、なんというか綺麗って表現しか出来ない」

 

 

だからまぁ、正直に感想を言ってやる事にする。

 

誤魔化した所でイジられるだけだ。だったらもう素直にぶっちゃけた方が気も楽だ。

 

 

「ッッッ〜〜〜!? だから、なんでキミはそうやってすぐにタラシ込もうとするんです!?」

 

「タラシ込むってなんだタラシ込むって!? タラシって言うなら一登の方だろ!?」

 

「おいなんで俺の方に飛び火したんだ!? っていうか俺だってタラシじゃないから! 俺は普通だから!」

 

 

一登のその言葉におれと白河はピタッと動きを止める。それから一登を見てからもう一度お互いの顔を見て頷き合う。

 

 

「「いや、それだけはない。絶対にない」」

 

「なんでそんな所だけ息ピッタリなんだよお前らァ!?」

 

 

一登も巻き込んで暫くギャーギャー言い合う。極めてしょーもないやり取りに、有里栖がただただ苦笑するだけになっている。……アホに巻き込んで大変申し訳ない。

 

 

「……って、美嶋さんはどうした? 一緒だったんだろ?」

 

「あれ? 一緒に来たはず……って、未羽、なんで物陰に隠れてるんだい」

 

「だ、だって、その、恥ずかしくて……」

 

 

「全くもう……」と言いながらも白河がポニテを揺らして物陰に隠れていたらしい美嶋さんの手を取って連れて来る。

 

美嶋さんの衣装は純白の衣に真紅の袴を組み合わせた……いわゆる巫女服って奴だ。

 

巫女服そのものの神聖な印象と、美嶋さん本人の清楚な印象が見事に噛み合って、こちらも大変似合っている。

 

あまりにもピッタリだったので少し驚いていると、白河がなんとも自慢げに胸を張ってドヤ顔を浮かべる。

 

 

「ふふ、どうです驚いたでしょう! あまりにも似合い過ぎてボクも恐れ慄きましたよ……!」

 

「ここまでイメージと衣装がピッタリなのも珍しいな……。うん、すごく似合ってると思う」

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

 

素直にそう告げると照れたのか、白河の後ろに隠れる美嶋さんに苦笑する。

 

……やっぱり男性恐怖症と言うか、ただの恥ずかしがりな気がするな。

 

 

「さて、取り敢えず俺と有里栖で先に行ってみるよ」

 

「うん、がんばるぞー!」

 

 

そう言って一登と有里栖が先に向かうのを見届けてから、おれは白河と美嶋さんに改めて向き合う。

 

 

「じゃ、次の順番が来る前に作戦会議と行こうか」

 

「賛成。使う武器とか役割を決めていた方がスムーズに行けるからね」

 

 

流石ゲームの心得があるからか、おれの言いたいことを理解してくれてる。……それなら話が早い。

 

 

「白河は使うとしたら弓……遠距離系の武器だろ? で、美嶋さんは巫女服ってことを考えるとこっちも後衛か。なら、おれが前衛武器で壁役を兼任すればいいな」

 

「正解。DPSは任しておいてほしい。サポート系は察しの通り未羽が担当さ」

 

「OK、援護と火力は任せた。おれはしっかり壁役と雑魚散らしを務めるとしよう。白河は遠距離武器の視野を活かして司令塔も任せるがいいか?」

 

「了解。未羽も、それでいいかい?」

 

「……………………」

 

「……未羽?」

 

「ひゃっ、あ、す、すみません!」

 

 

ボーっとおれと白河のやり取りを見ていた美嶋さんが、白河の呼びかけにビクッと反応する。

 

なんか不備があっただろうか? と考えていると、美嶋さんがわたわたと慌てだす。

 

 

「ご、ごめんなさい。その、私やひよりちゃんが使う武器言ってないのに分かった所とか、ひよりちゃんとやっぱり息がピッタリだなって……改めてビックリしちゃって」

 

「そうかぁ? これくらいなら普通だろ?」

 

「同感。寧ろこれくらい出来なきゃボクの相棒役は務まらないさ」

 

 

相棒か……なんというかこそばゆい感覚がするな。

 

悪くない……うん、悪くない。

 

で、それからも順番が来るまで打ち合わせとシュミレーションを続ける。

 

目標もあるし、どうせやるなら徹底的に。

 

 

 

___そして本気で挑んで、盛大に楽しもうじゃねぇか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

−EPISODE 33−

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____それからしばらくして、おれ達の番が来た。

 

 

『人とアヤカシが刃交える戦乱の世に

 

鬼や神の中でも一際強力なヤツラがいた

 

巨神___ヒトは彼らをそう呼んで、畏れた』

 

 

この手のお約束らしいナレーションによる世界観の簡素な説明が語られる。

 

巨神…………その概念はおれや海央達の視点で言えば【怪異】とそんなに相違はないんだよな。

 

戦国時代なんかはまだ神秘を色濃く残していた時代だし、オマケに人の負の念が溜まりやすくて怪異が発生しやすかったらしいって、おじさんから教わった記憶もある。

 

ある意味、歴史の再現をしているのかも知れないな、【戦国の巨神】ってのは。

 

で、そんな物騒な世界観の中で、おれ達はサムライやらニンジャやらになって、襲い来る妖怪や祟り神と戦うと言う訳である。

 

 

「芳乃!」

 

「任せろ!」

 

 

白河の呼びかけに一瞬で思考を遮断。

 

背後の美嶋さんに向かっていた子鬼の一体に向けて踏み込むと同時に、鯉口を切った刀を抜刀。

 

一振りでその首を斬り落とし、瞬時に納刀する。……ゲーム用とは言え、軽いな。

 

 

「美嶋さん、大丈夫だな?」

 

「は、はいぃ!」

 

「よし、次は……11時の方向に3体。1時の方向に2体。……2体の方はボクがやります! 芳乃は3体の方を!」

 

「了解!」

 

 

言うと同時に白河が弓の弦を引き絞るとプロジェクションマッピングにより矢が出現。

 

その矢を違いなく子鬼に命中させ、更に二の矢も当てていくのは流石だと言える。

 

 

「こっちも負けらんねぇなァ!」

 

 

踏み込むと同時に鞘から走らせた刀を抜刀、その勢いのまま再び子鬼の首を斬り落とし、納刀。

 

その隙を狙ってくる二匹の子鬼。

 

得物は棍棒。当たれば痛みはなけれどそれなりのダメージは入る。

 

無論、わざわざ雑魚の攻撃なんて食らってやる謂れなどない。

 

 

「“咲三式抜刀術”」

 

 

幼い頃に…………咲三の家を追い出される前におじさんに文字通り叩き込まれていた動きを思い出し、ふと呟く。

 

向かって来た一匹目の小鬼を抜刀すると同時に左薙の方向に斬り、続けて来た二匹目は一歩下がりつつ逆時計回りに回って、その勢いのまま今度は右薙から斬り捨てる。

 

その刃の軌跡は、まるで重ねた月のようになる。

 

 

「“(かさね)双月(そうげつ)”……だったか? くそ、名前も朧げだし完成度もボロボロだ」

 

「いやいやいやいや! なんですそれ! どこの抜刀術!? なんの呼吸!?」

 

「咲三の家追い出される前におじさん……海央の親父さんから叩き込まれた特有の抜刀術だよ。ギリッギリまだ覚えてたわ」

 

「海央ちゃんの体術みたいなものです? ……ホントどんな家なんですか、咲三の家って」

 

 

納刀しながらその問いには苦笑で曖昧に誤魔化す。

 

白河のジト目が絶妙に苦しいが、こればかりは答えられないので仕方ない。

 

 

「それより、次来るぞ!」

 

「っと! 未羽!」

 

「は、はい!____えいっ!」

 

 

白河の呼び掛けに美嶋さんが手に持っていた鈴……神社の巫女さんなんかが祭事の際に使う神楽鈴を振るう。

 

複数の鈴の音が鳴り響くと共に、向かって来た数匹の小鬼の動きが鈍くなる。

 

美嶋さんの役職……ジョブはおれの予想通りというかまんま【ミコ】。事前に選べるジョブの中でも【ホウシ】と同じ後衛型で、味方へのサポートと敵へのデバフ……弱体化に特化している。

 

単体では打たれ弱く一人での攻略はまず無理だが……、

 

 

「「_____ッッッ!!!」」

 

 

白河の放った矢が、おれの振るった刀が、弱体化した小鬼を瞬く間に蹴散らす。

 

……この様に、前線で戦う味方と組むことで絶大に有利な状況で進めると言う、美嶋さんにピッタリなジョブである。

 

 

「ふぅ、ナイスサポート、美嶋さん」

 

 

チンッとカタナを鞘に納刀させると同時に一息吐き、デバフを撒いてくれた美嶋さんに礼を言う。

 

頰を赤らめながらあわあわと照れだすその姿は、思わず保護欲を抱かせてしまう。

 

 

「い、いえ。ひよりちゃんや先輩が守ってくれますし……私じゃ、二人みたいに動けませんから……」

 

「ふふ、巫女を守るサムライか、良い絵になるね♪」

 

「も、もうっ、からかわないで___ひよりちゃん後ろ!?」

 

 

「え?」と白河が振り返る前に、より早く先に気付いたおれが白河の後ろに迫っていた小鬼を斬り捨てる。

 

斬り捨てにて、御免。

 

 

「油断すんな。要領はガンシューと同じで弱点に攻撃通せばいいだけだが、プロジェクションマッピングで四方八方から敵が涌いて出て来る。前だけ見てると足元掬われるぞ」

 

 

言いながら、今度は美嶋さんに迫ってた鬼を斬り、返す刃で前から迫っていた奴も危なげ無く処理してから納刀する。

 

 

「……分かっていたことだけど、こう言うゲームだと芳乃の頼もしさが半端ないね。あの男だけジャンルが無双ゲーになってる」

 

「う、うん」

 

「正直、ホントに化け物と戦っててもおかしくないかも」

 

 

……ホントに化け物と戦ってるから笑えねぇんだよなぁ。

 

ただ、当たり前だが実戦に比べたらまだまだだな。

 

想像よりリアルに妖怪達は投影されてるし迫力は確かにあるけど、あくまでそう見せてるだけだ。仮に実在してる奴が出て来るなら“悪意”も感じるからもっと動きが見えやすくなるんだが。

 

兎にも角にも、そんな感じで序盤は順調に進んで行った。

 

白河が敵を見つけて場合によっては射抜いて、おれは白河の指示で敵の殲滅から味方の防衛を、そして美嶋さんは鈴を振りまくって敵へのデバフを与えていく。

 

チームワークは抜群であり、今の所スコアもタイムも良い感じだと思われる。

 

 

「結構進んだね、そろそろボスが出るんじゃないかな?」

 

「ボスか……物語でも出て来る巨神って奴だよな」

 

「正解、だと思うよ。どんな巨神が出て来るかはその時のお楽しみって奴だね」

 

「う、うぅ……怖いけど、がんばります……!」

 

 

むんっ、と、怯えながらも力む美嶋さん。なんとも微笑ましい姿に思わず口元が綻ぶ。

 

 

「ふふ、芳乃もやっと未羽の魅力が分かってきましたね」

 

「ん、あぁ。かわいい女の子だと思う。健気で真っ直ぐでさ」

 

 

おれがそう言うと白河も嬉しそうに笑……いやニヤけると言う表情になる。

 

……幼馴染が褒められて嬉しいのかと思ったけど、なぜだろう? なんかそれだけじゃない気がするぞ、コイツのこの顔。

 

 

「っと、お出ましのようだね!」

 

 

白河が弓矢を構える。鏃が狙う先には、燃え上がる炎に包まれてその巨体を現す。

 

 

『____ォオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!』

 

 

雄叫びを上げながら現れるは赤く染まった肌を筋肉の鎧で纏った巨漢。

 

呼吸の際に見せる口の中には鋭い牙が生え揃い、手入れのされてない乱雑な髪から二本、鋭く伸びた角。更に右腕には鋭い刀傷。

 

 

「……“茨木童子”か」

 

 

いつでも抜刀出来る様に構えながら、その巨神の正体を見破る。

 

鬼。日本で妖怪を思い浮かべるのするなら、まず出て来るものの一つだろう。けど、コイツはその中でも固有名称を持つとびきりヤバい鬼____がモデルの敵キャラクターだったか。

 

一登の部屋で【戦国の巨神】を見た時にも出たが、序章のボスキャラクター的な立ち位置らしい。物語では男性として描かれていたが、一説によると女の鬼でもあったとか?

 

【怪異】として出現したならば、間違いなく強敵になるだろうな。と、これがゲーム上の敵キャラであって良かったと密かに思う。

 

そんな“茨木童子”と共に雑魚も複数現れる。ゲーム的に御約束と言う奴だろうか?

 

 

「芳乃、今から目茶苦茶に無茶振りさせますけど良いですね?」

 

「無茶はいつものことだろ? ……校舎飛び降りキャッチよりマシなら良いぜ」

 

「大感謝! それじゃ早速、ボスキャラを足止めしつつ出来る限り雑魚敵も蹴散らしてください!」

 

「思ったより大仕事だな!?」

 

 

言いながら駆け抜けて雑魚の首を一つ二つ刎ね飛ばす。

 

そうなると注目……ヘイトって言うのがおれに向くので、ここからが本番だ。

 

 

『ォオオオオオオッ!!』

 

 

茨木童子が振るった棍棒に合わせて、納刀した刀を鞘ごと振るう。

 

プロジェクションマッピングによる投影映像故に、敵キャラ全てに質量はない。けど、的確なタイミングで攻撃に攻撃を合わせれば、防御したと認識されるらしい。いわゆるパリィって奴か。

 

 

『!?』

 

 

驚き、たたらを踏む茨木童子。隙が出来た所で更に周りの雑魚の首をいくつか斬り落としていく。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

その最中、被弾判定が出たらしい。

 

やはり敵も数が多い。いつもの感知も投影映像相手には分が悪いため、どうしても攻撃の合間に隙が出来てしまう。

 

そこに入る攻撃は受けるしかないけど、被弾が重なればいずれ撃破判定が出されるだろうが、そこはあまり心配してない。

 

 

「未羽!」

 

「はい! 先輩、回復します!」

 

 

ここには今、頼れる相棒と、頑張り屋の後輩がいるのだ。

 

美嶋さんの神楽鈴の音色が響くと、暫くしておれの体に光が纒ってダメージを回復させる。

 

【ミコ】のジョブによる回復技能だ。攻撃能力がホントに殆どないからこそ、ミコには味方をサポートするための技能が充実している。

 

因みにおれの【サムライ】は純粋に近接強化。白河の【キュウヘイ】は遠距離強化だったりする。

 

 

「これで、最後!」

 

 

とかなんとか考えてる間に、気が付いたら周りの雑魚が全滅していた。

 

どうやら白河の仕業らしい、ガンシュー得意なだけはあるな。ボスのヘイトを買ってる間に雑魚を片付けることで、ボスに集中するための状況を作り出したみたいだ。

 

 

「待たせたね芳乃! ここからは大暴れの時間ですよ!」

 

 

雑魚がいなくなれば、あとはボスだけ。

 

白河の呼び掛けに口角をニッと歪ませて、ボスへと突っ込む。

 

迎え撃つ様に振るわれる棍棒を再びパリィで弾き返し、出来た隙へ向けて今度は茨木童子に向けて飛び込み、抜刀。

 

 

「オラァッ!!」

 

 

膝をついた茨木童子の首へ、両手に持った刀で素早く5度斬りつける。空気を切り裂く刃の音と共に攻撃ヒットの音が鳴り、その全ての斬撃がダメージ判定有効となる。

 

刀を納刀しながら下がると今度は白河の矢がボスの目に当たる。これもまたダメージ判定となる。

 

 

「トドメ、行くか……!」

 

「許可します! 派手に決めちゃってください!」

 

 

司令塔の白河によるGOサインが出されたところで、全身のバネを活用させて茨木童子の下へと向かう。

 

スピードを一切落とさず一歩、また一歩と踏み込む度に速度を上げていく。

 

 

『ヌゥウンッ!!』

 

 

「! ボスが迎撃しようとしてます! 気を付けて!?」

 

 

突っ込んでくるおれに反応してか、その棍棒を上段に振りかぶる茨木童子。

 

投影で写された鬼の視線と、おれの視線が交差する。

 

その瞳がカッと見開かれた瞬間、棍棒が振り下ろされるが、その時には既におれは回避行動に出ていた。

 

 

「走りながら……あれを避けた!?」

 

「すごい……!」

 

 

そら避けるわ、相手の行動予測はおれの十八番なんだよ!

 

トップスピードを保ったまま、振り下ろされた棍棒の横を走り抜けて跳躍。

 

隙だらけのその首に、速度に物を言わせた全力の居合い斬りを叩き込む。

 

 

「___“(またたき)一閃(いっせん)”……もどき」

 

 

咲三式抜刀術、(またたき)一閃(いっせん)、のなり損ない。

 

駆け抜けざまに敵を斬る咲三の抜刀術の一つだけど、やはり完成度はいまいちだな。おじさんが見せたのは……いや、“いつの日か見たことのある斬撃”はもっと鋭く、速かったはず。

 

あれはいつ、どこで、見たんだったか?

 

 

『ォォオオ……オオオォォォ……!』

 

 

「大・勝・利 ! ! ゲームクリアですよ芳乃っ!」

 

「や、やりました先輩っ!」

 

 

思考の渦に入ろうとしていた所で、白河と美嶋さんの声に意識が引き戻される。

 

……まぁ、思い出さなくてもいいか。ガンナーのおれには無用の技だしな。

 

はしゃぐ二人と合流しゲームクリアの喜びを分かち合いながらも、先ほど抱いた疑問のことは忘れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「〜〜〜〜〜♪♪♪」

 

「ま、眩しい……!」

 

「正解。ここ最近で一番の笑顔を浮かべてますね」

 

 

___あのあと、見事にハイスコアを大幅に更新したボク達は、未羽が欲しがっていた声優さんのサイン入り色紙を無事にゲットして先にクリアした常坂兄達と合流。それから【ホールイン1】の休憩スペースで一息を吐いていた。

 

よほど嬉しかったのか、割とリアルな戦闘の後だというのにかつてないほどニコニコでご機嫌な未羽の姿がそこにあった。

 

その手には先ほど獲得したサイン入り色紙を大切そうに抱えている。

 

 

「ひよりちゃん、芳乃先輩、本当にありがとうございました……!」

 

「喜んでくれてなによりだよ。おれもおれでゲーム楽しんだしさ」

 

「同感。……まぁ、芳乃のデタラメな動きには心底驚いたけど」

 

 

何かの呼吸でも会得してるんじゃないかと思える動きだったよね。剣術は随分久しぶりだーって言ってたけども。

 

……いくら日頃から鍛えてるって言っても、あんな実戦を想定してるような動きが、普通出来るものなのかな?

 

 

「それにしても楽しかったなぁ〜♪ 夢中になっちゃって……『駆逐してやる……一匹残らず!』って名台詞も言っちゃったし」

 

「言った言った。『なんの結果も!! 得られませんでした!!』ってのも言ったし」

 

 

そんなボクの疑問を掻き消すように先に挑戦していた常坂兄と鷺澤コンビがそんな感想を言う。

 

なるほど、原作の台詞を言うのもアリだったかも。……と言っても、台詞を言う暇は無かったかな。

 

鷺澤と常坂兄も順調に交流を重ねているみたいで恋愛請負人としては嬉しいところだったりする。

 

 

「っと、悪い……海央からだ」

 

「ん? あれこっちも電話……そら姉からか」

 

 

まったとりとした休憩時間の中、同じタイミングで席から離れる男二人。何か用事でしょうか?

 

 

「あ、ごめんひよりちゃん、私もちょっとお手洗いに行ってくるね」

 

「あ、うん、いってらー」

 

 

で、未羽はお花摘みに行ったから、あとはボクと鷺澤だけになる。で、ふとその鷺澤が近付いて来た。

 

 

「……ね、ひよりんはどうして今日、みうたんと一緒に芳乃君と出掛けてたの?」

 

「なにって、例の依頼の件も兼ねてたんですよ。出来たら未羽と芳乃がもっと仲良くなってくれればなって」

 

「……それは、みうたんのため?」

 

「……二人のため、かな」

 

 

離れた場所で海央ちゃんと通話しているらしい芳乃を見る。背を向けているので表情は分からないけど、どうやら込み入った話をしてるみたい。

 

 

「鷺澤も分かってると思うけど、芳乃ってあれだけお人好しなのに全然モテなくて、ボクの所にも恋愛相談なんか一つも来ないんだ。けど、それってすごく損してると思う」

 

 

芳乃の良いところを知れば知るほど、見つければ見つけるほど、その思いは強くなった。

 

……ボクなんかのことを沢山助けてくれた彼にだって、ハッピーエンドがあっても良いじゃないか。

 

でも、どういう訳か芳乃には誰とも“縁”が……“フラグ”がない。そんなの、いくらなんでもあんまり過ぎるじゃないか。

 

だから、ボクの知る中で一番かわいくて、そして一番幸せになってほしい人が芳乃とも相性は悪くないと分かった時に決めたんだ。……この二人をくっつかせようって。

 

きっと芳乃なら未羽のことを大事にしてくれるし、未羽もきっと芳乃を受け入れてくれるって、そう言う確信があったから。

 

 

「…………ね、ひよりん」

 

 

まるで諭す様に、ゆっくりと、そして優しい口調で鷺澤は語り掛けてくる。

 

 

「ひよりんは芳乃君が誰かと付き合ったその時、心から祝福出来る?」

 

「? そんなの決まって____」

 

 

ふと、その光景を思い浮かべる。いつか見た穏やかな笑顔を浮かべる芳乃と、幸せそうに傍らにある誰かを。

 

今まで何度も見た、カップル成立の瞬間。

 

それは完全無欠のハッピーエンド。恋愛請負人としてボクの目指してる光景そのもので、祝福すべき光景……だと言うのに。

 

 

 

 

 

____ズキリと、胸が痛んだ。

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

胸に飛来したのはあり得ない筈の痛み。

 

物理的に痛くなった訳でもない。ただ、望んでいたはずのその光景を思い浮かぶと、とても胸の中が痛くて、すごく苦しくなった。

 

なんで?

 

どうして?

 

次々に浮かぶ疑問。その答えを、今のボクは持ち合わせていなかった。

 

 

「もし、その光景を思い浮かべて苦しく思うなら、もう一度考え直した方が良いと思うな」

 

「鷺、澤……?」

 

「本当は私が干渉するのは良くないんだろうけどね。芳乃君にはお世話になっちゃったし……だから、もう少しだけ背中を押すよ」

 

 

まるで全てを見透かされてるような瞳。

 

それは、ボクの知らない鷺澤だった。

 

 

「ひよりんは、どうして芳乃君に幸せになってほしいって思ったの? その理由を、もう一度考えてみて」

 

 

……幸せになってほしい、理由。

 

 

芳乃に何も“縁”が見えなかったから?

 

 

___違う。

 

 

それだけなら別に気にしない。縁が無い人ってのもいるにはいるんだから。

 

ボクは、芳乃だから幸せになってほしいって思ったんだ。

 

バカで、アホで、喧嘩っ早くて、そのうえゴリラ。

 

けれど素直で、お人好しで、ボクのことを沢山助けてくれた芳乃だからこそ、幸せになってほしくて____

 

 

 

 

「ぁ……」

 

 

 

 

ふと、自分から溢れ出る想いの一端に触れた。触れてしまった。

 

 

 

これじゃあ、まるで……ボクが芳乃のことを___

 

 

 

 

「___すまん白河、それに有里栖もいいか?」

 

 

「うっひゃあう!?」

 

「うおう!?」

 

 

背中から今ちょうど考えてた男の声がいきなりしたことで、目茶苦茶びっくりして思わず変な声が出てしまった。

 

そのせいで声をかけた芳乃まで目を丸くしていた。

 

 

「わ、悪い、なんか驚かせたみたいだな」

 

「ふ、ふふふ不正解! 全然驚いてないですよ!? ねぇ鷺澤!?」

 

「あ、あはは……」

 

「あれ、何かあったのか?」

 

「ひよりちゃん? どうかしたの……?」

 

 

ドキドキする鼓動を無理やり抑えつつ、乾いた笑いを見せる鷺澤に無理やり同意を迫る。

 

それと同時に各々用事の済ませた面々が戻って来たみたい。

 

 

「な、なんでもないですから……! それより、どうしたんです芳乃?」

 

「あ、ああ。……悪い、ちょっと急用が出来た。少し早いがおれはここで離脱していいか?」

 

 

半ば無理矢理に軌道修正すると、どこか真剣な表情でそう返す芳乃に、思わずドキリとする。

 

……まだ気持ちも整理出来てないと言うのに、なんでこの男はこんな心臓に悪い表情をするんだろう。

 

ずるい。ホントにずるい。

 

 

「……急用あるかも知れないって言ってたね、そう言えば。うん、もう解散するつもりだったし大丈夫だよ」

 

 

熱くなりそうな顔をなんとか抑えて、平然を装いながら、なんとかそう答える。

 

 

「ついでに言うと今日と明日は夕飯も作れないかも。叶方と杉並にはCOMUでこっちから伝えとく」

 

「了解。未羽も、それでいいかな?」

 

「あ、うん。……芳乃先輩、今日はありがとうございました!」

 

「ああ。……じゃ、またな白河。美嶋さんと、一登と有里栖も、バタバタしてて悪いな!」

 

 

そう言いながら走っていく芳乃の姿を見送る。

 

……ふと、振り返る直前、芳乃の視線が鋭い光を帯びた様に見えた。

 

気の所為だろうか。……うん、気の所為だろう。だって今はちょっと、変なフィルター通して芳乃を見てるかも知れないし。

 

 

「それじゃ、私達も先に行くね!」

 

「また月曜日にな!」

 

 

そして常坂兄と鷺澤も踵を返す。二人ともここでお別れみたいだ。

 

 

「……がんばってね、ひよりん♪」

 

 

最後の最後に、ボクにだけ聞こえるようにエールを残して、鷺澤は常坂兄と下の階層に降りていく。

 

 

「……二人っきりになっちゃったね……って、ひよりちゃん?」

 

「………………」

 

 

未羽と二人だけになった所で、ボクは改めて休憩スペースのベンチに力無く腰を落とした。

 

ドクン……ドクン……と、高鳴る鼓動の音がやけに聞こえる。

 

顔だって、きっと真っ赤に染まってる。それもすごい熱を伴って。

 

 

「……どう、しよう……」

 

 

未羽の心配する声が聞こえるけど、とてもじゃないけど今は気にしてられなかった。

 

 

 

「___ボク、芳乃のこと好きになっちゃってる……!?」

 

 

 

想いを言葉にして改めて自覚した。

 

 

顔の熱が、より一層酷くなる。

 

 

鼓動も更に激しく脈動する。

 

 

その自分の内から溢れ出る感情に、ボクはただ成すがままになるしかなかった___。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪い、遅くなった」

 

 

___夕暮れ時、休日で誰もいないはずの校舎の屋上。

 

 

普段はSSRの溜まり場になってるその場所に、身体強化を施した脚力で無理やりやって来ていた。

 

見てみれば、合流予定の待ち人達は既に集まっている。

 

 

「来たか、芳乃」

 

「全然! むしろお休み中にごめんなぁ」

 

「ひよりん先輩達と遊んでたんだよね? ホントにごめんね」

 

 

集まっていたのはこの島にいる魔法使いの中でも戦える【防人】の3人。氷室仁、盾石晶、咲三海央。

 

 

「それで、さっきの通話の内容についてなんだが」

 

「うん、お父さんがまた【先視の魔法】で未来を視たんだけど……来るよ、【怪異】。それも明日の夜」

 

 

前の先視からちょうど1週間……未来を視るタイミングの都合もあるけど、明日か……。

 

 

「おじさん……当主の先視で視たってことは、大物か?」

 

「ああ。前の満月の時に動きがなかったことも鑑みるに、その分の魔力を注ぎ込まれてる可能性はある」

 

「場所や怪異の種類は分かるのか」

 

「場所は……ここやな」

 

 

盾石が香々見島の地図を取り出してある場所を指差す。……おいおいマジかよ。

 

示されたのは香々見ワンダーランドの真下の海岸。

 

 

「ワンダーランドに近いってことは学園にも学生寮にも近い。……食い止めないと、間違いなく被害が出るな」

 

「……それで、怪異の種類は?」

 

「うん、今までと変わらず単体顕現型の怪異。名称は……話を聞く限りだと、多分これかも」

 

 

そう言って海央はTABを操作して、その怪異と思わしき画像をおれ達に見せる。

 

それは猿の顔、狸の胴体、虎の四肢、尾は蛇。と、あらゆる動物のパーツを組み合わせたかのような獣。

 

 

「____【鵺】、か」

 

 

一説には“雷獣”とも呼ばれる日本古来から伝わる妖怪の一種。

 

 

それが、おれ達の次の敵らしい。

 

 




恋を自覚した女の子の内心の描写ってむずい……。

原作とは違うルートでの開拓は面白くありつつも、とても難しいですね。
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