D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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がっつり戦闘シーン。

戦闘描写とかその際の魔法の設定はほぼ0から考えないとだから楽しいけど大変。


EPISODE 34

 

 

 

 

PiPiPiPiPiPiPiPi……。

 

 

 

「……朝か。くあぁ……!」

 

 

TABのアラームを切ってベッドから這い出る。

 

欠伸しつつ窓を開けると、まだまだ冷たい空気が部屋の中に入ってきて、その冷ややかな感覚に自然と意識も覚醒していく。

 

そのまま体を軽く伸ばして柔軟。

 

更に体に魔力を流して全身のチェックを行う。……異常はなし。コンディションも問題ない。なんだかんだ、昨日は遊び倒してたしな英気は十分だ。

 

これなら今日の戦いにはフルスペックで挑めるだろう。

 

……ただ、それだけじゃ何かが足りない様な気がする。

 

確信がある訳じゃない。これはただの勘だ。

 

だが、仮にも魔法使いの勘と言うのはバカに出来ないものがある。

 

それが、まがりなりにも未来を視る先視の魔法使いであるなら、なおさらだろう。

 

 

 

 

 

『___いいか灯火、元々お前の資質は未来を視ることに特化している。そういう者の“勘”と言うのは魔法を使っていなくても馬鹿に出来ないもんだ。覚えておけよ?』

 

 

 

 

 

と、基本は体育会系な師匠からもそんな風に教わっていた。

 

これもまた先視に頼らない“先読みの技能”を構成する要素の一つ。おれにとっては重要な武器だ。

 

だから、この勘に従おうと思う。

 

 

「……どのみち今日は夕方までは準備に使うつもりだったんだ。埃被ってる“切り札の一つ”、準備しとくか」

 

 

そう独り言ちてから着替えを済ませ、朝食に作ってた握り飯を手早く食べてから、【取替の悪戯】で工房へと跳ぶ。

 

いつも通り手探りで照明を付ける。机の上には、例の作りかけの銃身があるが、そこはいったん置いておき机の横の棚から大型のライフルを取り出す。

 

自身の身長にも匹敵する全長を誇るそれの重さは、パイルバンカーにも匹敵するだろう。

 

 

「シリウスと同じ仕組みで師匠と一緒に創ったコイツなら……まぁ、万が一の時には力尽くでピンチも突破出来るだろう」

 

 

出来たら使うことが無ければ良いけどな、とも思うが。

 

なにせこの“切り札”、通常のおれの魔力じゃろくにフルチャージ出来ない代物なんだし。もう一枚の“切り札”を切らないとマトモに扱えない。

 

その“切り札”の状態が問題ないことを確かめてから棚に戻し、作業机の前に座って昨日の続きを始める。

 

万が一にもシリウスが故障することになれば、怪異に対してのおれの戦闘力は激減するだろう。それに備える為にも、コイツは使えるようにしておきたい。

 

 

「夜は怪異との戦闘だ。魔力の配分には気をつけていかねぇとな」

 

 

集中力のギアを上げる。魔力のコントロールをより精密に、目の前の未完成の銃身を自身が思い描く完成のイメージに近づけていく。

 

今日の戦いには間に合わないだろうが、本命はクソオヤジ。【人形遣い】は間に合えば御の字って所だろう。

 

……まぁ、まずは今日の怪異の討伐からか。

 

苦戦は免れないと思う、心してかかろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

- EPISODE 34 -

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっし、全員揃ってんな? 最後の打ち合わせするで」

 

 

3/10 日曜日。晴れ、所により雨。

 

 

場所は香々見ワンダーランド南東の浜辺。

 

時刻は18:00。夕方。

 

 

ワンダーランドとは林で隔絶されてるこの浜辺は、ワンダーランドで遊び終えたカップルやら家族が一息つく為に訪れる穴場にもなってる場所だ。

 

……厄介なことに、怪異・鵺が現れる場所はここなのである。

 

 

「怪異の出現時間は確か20:00前後だったな?」

 

 

怪異の兆候が視えた時点で【防人】の当主が先視の魔法で出現時間を割り出していたようだ。

 

ここまで細かい部分の先視が出来るのは、流石おじさんだと言えよう。海央の父親でキングコングなんてイメージが付くほどの武闘派ではあるが、魔力制御技術は【防人】の当主を務められるだけあって凄まじい。

 

オマケに自身のいない場所の、それも狙った未来を視たのだから、その技能は計り知れない。

 

 

「せやで。なんで事前に人払いの結界を張って怪異に備えるんよ。で、サメの怪異の時と同じく、怪異が出たら隔離結界で怪異を閉じ込めて、その間に討伐って流れやな」

 

「ただ、今回の怪異は先視でも痕跡が残るレベルの強力な奴だ。一筋縄ではいかないだろう」

 

 

……氷室の補足に身を引き締める。

 

恐らく満月の日に何もしなかったのは、この怪異にマナを注ぎ込む為だろうと予想している。

 

満月当日に比べたら脅威度は下がるだろうが、おれ達も満月の恩恵に預かれないことを考えれば、寧ろ手強さが増すだろう。

 

 

「一応、術式見直して結界の展開時間は延ばせたけど、それでも20分くらいが限界なんよ。オマケにその間はウチは戦えんからなぁ」

 

「それに、怪異にばかり目を向けていたら残ってる【人形遣い】が何かするかも知れないよ。……それを考えると残ってる3人全員を結界の中に入れる訳には行かないよね?」

 

 

海央の言葉に頷く。

 

人形越しとは言え、奴と直に接して分かった。【人形遣い】……糸賀操央の在り方は邪悪の一言に尽きる。

 

おれ達が怪異にだけ目を向ければ、嬉々としてこの島のどこかで人々に害を成すだろう。そうすると言う確信があった。

 

 

「そうなると誰が残るかだが……そこは昨日も話したな」

 

「うん、あたしが残る」

 

 

迷いの無いその言葉を発したのは海央だった。

 

後輩にして妹分の目には静かな闘志が宿っている。

 

 

「あたしなら身体強化を全開にすれば、トーカ先輩の裏技より遅いかもだけどすぐに跳んでいけるから」

 

 

……流石に人間やめて無いだろうか? と思ったけど、島の横断ならおれも前にやったので、海央なら確かにもっと早く駆け抜ける事が出来るだろう。

 

 

「……分かった、奴の搦め手には気を付けろよ」

 

「うん」

 

 

……本音を言えばおれが奴と対峙したいと思うが、奴のことだ。おれが残れば逆に出てこないだろう。

 

それに、前に海央に背中を任せると言った。

 

その言葉に偽りはない。だから、ここは海央に任せよう。

 

 

「結界を貼る先輩とお嬢が待機。僕と芳乃で怪異の対処か」

 

 

“怪異”としての“鵺”がどんな力を使うのかは未知数だが、おれと氷室なら遠近どちらのレンジにも対応出来る。

 

この振り分けが、現状考えられる最適解だろう。

 

 

「よっしゃ、それならそれぞれ配置に着いて準備開始するで。人払いは展開しとくから、ジン君とトーカ君は待機しといてな」

 

「二人とも、無茶はしないでね?」

 

 

そう言い残して海央と盾石はこの場を離れた。

 

その際に盾石の残した人払いの結界が効力を発揮していき、浜辺から人が徐々に消えていく。

 

 

「……結局、君をがっつり戦わせる羽目になってしまったな」

 

 

その様子をぼーっと眺めていると、ふと氷室がそんなことを呟いていた。

 

 

「今更だろ? そもそも状況が状況だ。戦える奴を遊ばせておく余裕はねぇよ」

 

「確かにそうなんだけど、君は覚悟決まり過ぎじゃないか?」

 

「……あんな未来を視た時点で、覚悟なんて決めるしかねぇだろうが」

 

 

おれの返答に「そうだよな……」と納得したらしい。

 

コイツもお人好しっぽいし、色々と引っかかるものがあるんだろうな。

 

 

「先視の魔法は確かに凄い魔法だ。けれど君の身の上を知ってからは少し考えが変わった。……先が視え過ぎてしまうと、それはもう呪いと変わらないのかもしれない。と、今は思っている」

 

「……呪い、か。確かにそうだな」

 

 

視た未来が必ず来ると言うことは、その未来に自分自身をずっと縛られることになる。幾重にも分かれてるはずの未来への道筋が一つに絞られるんだ。

 

……ああ、確かにこれは呪いだ。あの日視た未来に向かってずっと縛られているおれ自身の存在が、図らずともそれを証明してしまっているんだから。

 

 

「呪いを解く方法は一つしかない。……なにもかも全部ひっくり返すしかねぇ」

 

 

一登と二乃の死の運命も、【黒無】による世界の滅びも、なにもかも全てひっくり返す。

 

あの日にふざけた未来を視てしまった時から、おれはその為に生きて来たんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

____それから約2時間後。

 

 

準備と戦術の確認をしながら待機していると、雲行きが怪しくなってきたのを感じ取る。

 

雨の予報は確かにあったが、それだけではない。

 

海の方から、明らかに普通よりも濃い黒い雲が混じって、雷の音を鳴らしながら近づいて来ていた。

 

 

「盾石!」

 

『こっちも感知したわ! ……特大の【怪異】の反応!』

 

 

TABの通話モードで盾石の方に確認を取ると、向こうでも感知したらしい。

 

氷室とアイコンタクトを交わして、【取替の悪戯】で取り出した短剣を地面に突き刺す。

 

 

『識別確認、範囲固定、術式起動。……隔離結界、遠隔展開! 二人とも、がんばってや!』

 

 

地面に刺した短剣を起点にして、盾石の隔離結界の術式が起動する。取り敢えず、これで怪異は閉じ込められた。

 

 

 

____フィィィイイイイイィィイ……!

 

 

 

起点とした海岸を模した隔離空間の中、甲高い不気味な音……いや、鳴き声が響く。

 

トラツグミと言う鳥の声に似たそれは、徐々に近づいてくるとやがて野太く、この世の生き物とは思えないほど禍々しい唸声へと変わる。

 

それに比例して、結界内に閉じ込めた黒雲から雷が溢れ出し、今までの怪異とは比べ物にならないほどの“悪意”が、結界内を覆い尽くした。

 

 

「来るぞ! 初手は分かってるよな!」

 

「ああ!」

 

 

氷室に合図すると同時に、おれは愛銃に魔力の収束を開始。氷室もその両手に膨大な魔力を練り込み形にしていく。

 

その間に黒雲の向こうから徐々に“悪意”の本体が姿を現す。

 

 

 

 

____フィイイイイィィィイイィィイッッ!

 

 

 

それは虎の四肢、狸の体、尾には蛇、そして顔は恐ろしい形相を浮かべた猿の姿をした巨体。

 

まさしく“鵺”と呼ぶに相応しい化け物だった。

 

常人が見れば体が竦むような化け物に対し、おれと氷室は事前に示し合わせた通り同時に飛び込み、

 

 

 

「先手____」

 

 

「____必勝ッッッ!!!」

 

 

 

おれはチャージ3 バスターショットの零距離射撃をブチ込み、間髪入れずに氷室が両の手から発生させた大型の氷の槍二本を同じ箇所に叩き込む。

 

隔離結界内に爆発的な衝撃音が鳴り響く。

 

大技をそれぞれ叩き込んだおれ達は距離を取ってから、爆発に包み込まれた“鵺”の方へと注視する。

 

 

「……確か、ここで『やったか?』って言うのは御法度なんだったか」

 

「ばっか!? マジやめろそれは!?」

 

 

フラグ大事。メタ的な面でも実用的な意味でもだ。

 

それはそれとして、だ。

 

 

「……まぁ、アレに関してはフラグは関係なさそうか」

 

 

煙が晴れた後に現れた“鵺”は健在。

 

それどころかまるでダメージを負ってなさそうで、思わずうげっと言いたくなった。

 

 

『想定してた通りやな、纏うマナの密度が今までの怪異とは段違いや。……ほとんどダメージにもなってへんで!』

 

「……厄介だな」

 

 

隣で冷や汗を流す氷室の言葉に内心で同意する。

 

……もっと上の段階で放つべきだったな。様子見でチャージ3を選択したのが仇になったか。

 

今まで香々見島に出現した怪異と比べても纏うマナの密度が段違いだ。そのせいで、ある程度の魔力もどうやら無効化しているらしい。

 

 

『ッ! 香々見島真北から魔力反応感知! 人形遣いの兵士人形や!』

 

「チッ、来たか、あのクソヤロウ……!」

 

 

盾石の報告に思わず舌打ちをする。

 

こっちも予想通りか。擬態せずに兵士人形を出して来た辺り、やっぱりちょっかい出して来やがったか。

 

 

「そっちは頼むぞ、海央」

 

『___任せて』

 

 

勢いある返事をするやいなや、通信越しだと言うのに《ドンッ!!》と言うとんでもない音が響き渡る。

 

 

『へ? あ、あばー!?』

 

 

それからついでと言わんばかりに爆風に巻き込まれる音となんとも気の抜ける盾石の悲鳴が聞こえてきた。

 

 

「た、盾石先輩!?」

 

「……海央の奴、思いっきり踏み込んだ時の衝撃波に盾石を巻き込みやがったな」

 

 

絶対に地面とか抉れてクレーターになってるだろうな。力み過ぎだろ。後片付け大変なんだぞオイ。と言うか鉄火場でなに面白いことやってんだよホントに!?

 

 

 

 

 

 

____フィィィイイイイイィィィイイイッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

禍々しい圧も感じる雄叫びと同時に、奴の周囲の空気がバチバチィ!と弾けるような音を立て始めたことで、ハッとする。

 

 

「っ! 退避!」

 

 

それが放電現象に似たものだと察したおれと氷室が下がると同時に、先ほどまでいた場所に雷が落ちる。

 

人形遣いの方も気になるが、おれ達はまずコッチをどうにかしないとな。

 

 

「……しっかり雷獣の特性持ちか」

 

 

鵺は雷獣とも呼ばれている。怪異として具現化した際に、その謂れも取り込んだんだろう。

 

ただでさえ厄介な耐久力に加えて攻撃能力も高いとは、面倒にも程がある……!

 

 

「どうする? ……いや、やることは決まってるか」

 

「ああ。どうにかしてあのクソ硬い表皮をブチ破って、核になってる人形をブッ壊す」

 

 

これまで香々見島で発生した怪異の特徴から、核になっている怨念の詰まった人形を壊せば、その存在を維持出来なくなるのは分かっている。

 

つまり、狙うは一点集中。それもチャージ3以上の密度の魔力をぶつける必要がある。

 

奴の耐久性を考えればシリウスでの最大チャージ、それもゼロ距離で確実に叩き込む必要がある。その為には奴の攻撃を掻い潜らなければならない。

 

…………やっぱり勘ってのはバカに出来ねぇな。と、“切り札”の用意をして良かったと溜め息を吐く。

 

シリウスの最大チャージで駄目なら、その切り札を切るしかないだろう。

 

 

「取り敢えず、まずは一発かましてみるか」

 

 

愛銃に魔力を収束させながら、先視の為に右目にも魔力を回していく。

 

隣りにいる氷室もおれに合わせて魔力を練っていく。

 

高まる緊張感。強敵特有の圧。それら全てを呑み込んで、唸る“鵺”に向かって同時に走り出す。

 

 

 

____改めて、戦闘開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ……アレだけのマナを注ぎ込んだと言うのに、“概念型の怪異”にはついぞ成る事は出来ませんでしたか……。これは、実験は失敗と見ていいみたいだねえ」

 

 

人気のない砂浜に降り立ったその男____【人形遣い】と呼ばれる男は、なんともつまらなさそうにそう呟いた。

 

その背後には彼の使役する戦闘人形“兵士人形(ポーンドール)”が百体ほど控えている。

 

不気味な物言わぬ人形達を侍らせた【人形遣い】は、自身が作り出した怪異と戦っているであろう防人の魔法使い達と、敵と認めた少年がいるであろう方向に視線を向ける。

 

当然ながら、崖や林などで視界が遮られてるので見えることはない。監視用の人形も今回は持ち出していないし、核の人形を通じて怪異の視界と同調することもしていない。

 

していない、というより出来ないと言う方が正しいだろう。なにせ今この場にいる【人形遣い】の体もまた、人形なのだから。

 

かつて少年と戦った時に使ったものと同じ、自身を模した人形に意識を共有させて使っている。本体が行くほどの用でもなかったが故だ。

 

 

「さて、彼らがあの失敗作に釘付けになってる内に、ワタシはワタシで野暮用を____ッ!」

 

 

ふと、【人形遣い】は自身に向かって真っ直ぐ跳んできた気配に気付いて、その場から離れる。

 

そしてその刹那、上空から凄まじい勢いで何かが落ちて来た。

 

【人形遣い】自身は早く気づいたことで難を逃れたが、指示する暇もなかった為に、この場に控えさせていた兵士人形(ポーンドール)達はその大半を砕かれてしまった。

 

惨事となった中心……まるで隕石でも降った後のような大きなクレーターを作り出したのは、一人の華奢な少女だった。

 

犬耳を模した装飾が施されたパーカーを着た少女___咲三海央は、そのクレーターの中心から、難を逃れた【人形遣い】の方へと視線を向ける。

 

 

「……外しちゃったかぁ」

 

 

至極、残念そうに呟いた少女の手足にはそれぞれ四肢を守る為の手甲と足甲を身に纏っており、戦闘態勢は整っている。

 

一方、【人形遣い】はその少女のことを顔だけは知っていた。なにせ自分が敵と認定した男と一緒にいたのを怪異越しに見ていたうえに、どこか見覚えがあったからだ。

 

 

「おやおや、アナタは【防人】の魔法使いだねえ」

 

「……そう言う貴方は【人形遣い】で間違いないですね」

 

 

お互いに視線を交差させる。

 

人形遣いは傍目から見れば穏やかな笑みを貼り付けていた。その本性に気付かなければ、その端正な相貌と相まって簡単に人を騙せるだろう。

 

対する少女には一切の感情も感じられない。普段の感情豊かで人懐っこい彼女を知るものがいれば、目を疑うほどの能面のような無表情。

 

 

「わざわざ“怪異”をけしかけて自身は別行動なんて、何を考えてるんです?」

 

 

少女は問い掛ける。

 

お前は一体なにを企んでいるのだと。

 

 

「なに、怪異の核に使う人形には人の怨念が込められていてねえ。ワタシの自信作なのですが、今回の実験で数が心許なくなりまして。いい機会なので少しばかり“調達”しようかと」

 

 

男は問いに答える。

 

なんてことはないと言わんばかりに。

 

 

「ええ、ええ、ここは平和な島ですからねえ。少しばかり悲劇が起きれば質の良い怨みの念が集まるでしょう。例えば、あの学園の生徒。それを何人か手に掛けるだけで極上の怨念が____」

 

 

次の言葉を紡ぐことは出来なかった。

 

なぜなら、一瞬で距離を詰めた小柄な少女の拳が、【人形遣い】の視界を共有した人形を、残っていた兵士人形ごと吹き飛ばしたからだ。

 

吹き飛ばされた人形と意識を共有していた【人形遣い】は、まるで何が起きたのか分からなかった。

 

 

「……おや?」

 

「もう喋らなくて結構です。よく分かりましたから」

 

 

拳を振り抜いたままの姿勢で少女は言葉を紡ぐ。

 

視界を共有した人形を操り少女の方へと視線を向ける。

 

その少女は、末恐ろしく思うほどに感情の見えない能面のような無表情のまま、続けて言葉を紡いでいく。

 

 

「魔法を使った不特定多数の殺害関与、及び怪異の誘発。……情状酌量の余地はありません。ですので単刀直入に申し上げます」

 

 

スゥ、と、静かに構えた左右の拳に魔力を纏わせる。

 

その膨大な量の魔力を見ながら、ふむ……。と【人形遣い】は遅ればせながらに思う。

 

 

 

これは生身だと死んでましたかねえ? と。

 

 

 

 

 

「___まずは、思いっきりブッ飛ばす」

 

 

 

 

 

纏わせた魔力を放出しながら繰り出される両の拳。

 

それは少女が最も得意とし、信頼する大技。

 

 

咲三式体術、大牙拳砲(たいがけんほう)

 

 

並外れた髄力と、膨大な魔力から繰り出されるその衝撃波に、残っていた兵士人形ごと、人形遣いと視界を共有した身代り人形は吹き飛ばされ、粉々となるのであった。

 

 

『この魔力を放出する技は……ああ、アナタは【防人】の次期当主の方でしたか』

 

 

頭だけになりながらも、【人形遣い】は意識を共有させていた人形に言葉を紡がせる。

 

 

『【防人】の理念と【葛木】の使命を正しく受け継いだ【正義の魔法使い】……咲三海央。ワタシの様な魔法使いには一切の容赦がないとは聞いていましたが、この島にいたとは想定外。これはワタシの失態だねえ』

 

 

敵と定めたのが、ある少年だけだったのが間違いだったことを“人形遣い”は素直に認めた。

 

【防人】の中でも上位の戦闘力を持つ魔法使いがいるとは思わなかったのだ。

 

 

『灯火君とは従兄妹同士だったかな? 一度スイッチが入れば相手に容赦しないところはそっくり___』

 

 

____グシャリと、台詞を言い切る前に人形の頭を踏み潰す。

 

この手の類は話を聞くだけ無駄なのだと、【防人】として戦ってきた経験と、兄と慕う少年から伝え聞いた【人形遣い】の人間性から判断した。

 

 

「おお、怖い怖い」

 

「鬱陶しい」

 

 

最も、【人形遣い】は喋っていた人形が使えなくなったらなったで、今のようにすぐに別の人形に意識の共有を切り替える。

 

完全に物理で黙らせるには、その人形を全て砕くしかない。

 

 

「……どのみち、全部砕くつもりですが!」

 

「ふふ、これはこれで楽しくなりそうだねえ」

 

 

己の魔力を滾らせて構えを取る少女。対するはどこに隠れていたのか、ゾロゾロと現れて来る人形達の群れ。

 

その数は先程の倍はあるだろう。

 

 

 

……程なくして、相容れない思想を持つ二人の魔法使いがぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミオちゃんも交戦開始したで! 兵士人形の数がどんどん増えとる!』

 

「こっちもさっさと片付けて援軍に行きてぇんだけどな!」

 

 

言いながら、その巨体に見合わない俊敏さで振るわれる虎の前足を避ける。

 

更に数秒後に来る雷の追撃を先視で視てからバックステップでかわす。

 

その巨体から繰り出される直接攻撃と雷の連携が凄まじく厄介で、こちらの攻撃機会をことごとく逃しているのが現状だ。

 

……いやホントに厄介だな雷!? 雑に放たれてるだけなのに攻撃範囲が広すぎる!

 

けど、分かったこともある。あの雷も鵺の権能で出してるけど、その本質はマナを変換した現象……魔力を使った魔法とさほど変わりはない。

 

突くとするなら、そこだろう。

 

 

 

「先輩、隔離結界の残り時間は……!?」

 

『あと半分! 具体的に言うたら10分!』

 

 

チッ、時間もねぇか。

 

盾石の隔離結界が解けたら“鵺”が解放される。まだ人の残ってるワンダーランドにでも来たら間違いなく被害が出る。

 

それに、今のワンダーランドにはバイトで来ている一登も有里栖もいる。二乃の両親だっている。ここでコイツを逃す訳には行かない。

 

……意識を完全に切り替える。

 

目的を果たす為に使える手は全て使う。

 

例えそれで、自分がどうなろうとも、だ。

 

 

「氷室、次でなんとか最大チャージショットを当てに行く。核が露出したらテメェが狙え」

 

「あの雷の攻略法、分かったのか?」

 

「……そんな上等なもんでもねぇけどな。が、必ずブチ抜くからとにかく魔力を練ってろ!」

 

 

そう言い捨てながら“鵺”に向かって走り出す。

 

迎撃するは伸縮自在の尾の蛇。

 

毒を纏うその牙を、先視と予測の併用でかわしてから更に接近。

 

次の行動パターンは分かってる。雷を使った迎撃だ。

 

高出力の雷は、マトモに当たれば間違いなく黒焦げになって愉快な焼死体になることは違いない。

 

バチバチと空気が震える中で、身体強化はそのままに、先視に回していた魔力を全身に流動させるように流し込み、臆さず飛び込む。

 

 

 

 

____直後、鼓膜が破れそうなほどの爆音と衝撃が全身を包み込んだ。

 

 

 

 

鵺の放った雷撃が、おれに直撃したのだ。

 

 

「っ、あのバカ! 捨て身でなにを___」

 

『いや、ちゃうでジン君! ダメージは負ってるけど、トーカ君は無事や!』

 

 

思っていたよりも衝撃が来たし、若干痺れたし、焦げもしたけど、戦闘行動は続行可能。

 

……やった事は単純。全身に流した魔力による魔法現象の緩和だ。

 

防御するのではなく、受け流す様に全身に魔力を流動させることで、ダメージを最小限に抑えることが出来た。

 

魔力のコントロールを徹底的に鍛え、極めたからこそ出来る荒業。

 

確かに直撃を受けた筈なのに、ピンピンしているおれを見て鵺が驚いたように後退る。

 

当然、その隙は逃す訳が無い。ついでに言えば愛銃の魔力チャージも完了している。故に、一気に距離を詰める。

 

 

「チャージ……5」

 

 

両手でしっかりと握った愛銃の銃口を、奴の狸の身体に突き付ける。

 

通常時のシリウスで撃てる最大チャージショットだ。思う存分にクソ食らえ、化け物……!

 

 

 

「___フルブラストッ!!!」

 

 

 

ドンッ!!!!と、言う衝撃と共に放たれるのは、シリウスが耐えられる限界近くまで収束された魔力の塊。

 

おれ自身が保有出来る魔力の最大値近くをほぼ持って行くそれは、もはや射撃ではなく砲撃と呼べるものであり、その反動でおれも吹き飛ぶが、コレでいい。ついでに距離を取ることも出来たんだからな。

 

 

「やれ、氷室ォ!」

 

「承知したが、君は後で説教だ……!!」

 

 

氷室が予め両手に練っていたであろう魔力を地面に叩き付けると同時に、今まで見た中で一番大きな氷の刃を地面から生成させる。

 

もはや、それは巨大な氷山そのものだ。

 

 

 

「___天昇氷牙(てんしょうひょうが)!!」

 

 

 

氷山は空中の鵺へと向かって勢い良く伸びて行き、チャージ5により露出した“核”の人形へと突き刺さる。

 

人形の内部にまで食い込んだ氷の刃は更にそこから膨張して、人形の内部から氷の刃を幾つも生み出して中から破壊していく。

 

確実に対象を破壊するための魔法なのだろうが、見ようによってはエグいことになっている。が、こればかりは仕方ないだろう。

 

 

『やったで!』

 

「「あ」」

 

『え、なに、どしたん二人とも?』

 

 

 

 

 

_____フィィィィイイイイィィィィッッッ!!!

 

 

 

 

 

通信越しに響く盾石の台詞に氷室と二人揃って間抜けな声を出した直後、核を破壊されて消える筈の鵺の咆哮が、結界内に響き渡った。

 

瞬間、チャージ5(フルブラスト)で抉り取ったはずの部位が瞬く間に回復していく。

 

 

『な、嘘やろ!? 核を破壊されてんのに存在が消えへん!?』

 

「盾石……! このバカっ! フラグには気を付けろってさっき氷室にも言ったばっかだろうがっ!」

 

『え、これウチのせいなん!? ウチのせいなん!?』

 

「先輩、流石にこれは擁護できません……」

 

『ジン君までー!?』

 

 

……と、思わず軽口を叩いてしまったが、状況はあまりよろしくない。

 

怪異を形作る核の人形は確かに破壊した。依代を失った並の怪異であれば、これで確かに終わりだったはずだ。

 

けれど、“怪異・鵺”は自身を構成するその膨大なマナによって自らの存在を無理やり繋ぎ止めたらしい。……あれほどのマナがあるなら、理の一つくらいは歪められるのだろうか。

 

こうなると奴そのものを消さない限り、この戦いは終わらないだろう。

 

 

「……真面目な話をすると、さっきの芳乃の攻撃以上の魔力をぶつける必要があるってことか」

 

『残り時間ももうないのに……それはマズいやろ……!』

 

 

状況が状況なだけに焦りを見せる【防人】の二人に対して、おれは勘が当たったことに深く溜め息を吐いた。

 

 

「……やっぱ、こう言う勘ってのは当たるもんだな」

 

 

シリウスを媒介のビー玉と取り替えてから、更に予備のビー玉を取り出す。

 

 

『……トーカ君、この状況をどうにか出来るん?』

 

「手段ならある。ただ、それ使っちまうと確実におれは倒れるだろうから……あとは任せるぞ」

 

 

言いながら、ビー玉二つ分の魔力を使って【取替の悪戯(チェンジリング)】の魔法を発動させる。

 

取り替えるのは、身の丈ほどもある大型のライフル。

 

種別としては対物狙撃銃(アンチマテアルライフル)。ただ、それを大魔法使いがこれでもかと弄り倒したことで原形がもはや分からなくなった特注品。

 

故に元の名を名乗れなくなった代わりに、それには字(あざな)が刻まれた。

 

 

 

 

 

____対怪異魔導狙撃銃【ヴァナルガンド】。

 

 

 

 

 

シリウスの魔力収束機能を併せ持つ、【破壊の杖】を名として刻み込んだ、正真正銘の超化け物大型ライフル。

 

師匠特性の封印用の符が、その銃身を覆う様に幾つも施されてるその全容は、今までおれが【取替の悪戯】で出して来た武器の中で最も異質だろう。

 

 

「なんだ、それは……!?」

 

 

封印状態とは言え、ヴァナルガンドの異質さを感じ取ったのか、慄く様に氷室が聞きに来る。

 

 

「おれの愛銃(シリウス)の魔具としての機能、魔力収束機構を組み込んで純粋に威力を強化させた対怪異用の……まぁ、いわゆる化け物ライフルって所だな。おれの奥の手その一だ」

 

『そんな物騒で済まされへん武器まであるとか、もう、なんでもありやな……』

 

 

ことここに来て、流石に驚きよりも呆れの方が強くなったのだろうか、盾石の声にはいつものやかましいほどの騒がしさが無くなっている。

 

 

「ただ、普通に魔力を溜めていくとしたら、とてもじゃないけど結界の消滅まで間に合わねぇ……だから、もう一枚の切り札を切る必要があるし、魔力が溜まるまで氷室一人で鵺と戦ってもらうことになる」

 

「…………なるほど、大仕事だな」

 

 

氷室が冷や汗を流す。

 

あの鵺を一人で相手取るのがいかに厄介か、身を持って分かっているからだろう。

 

 

「だが、承知した。この状況で活路を見出せそうなのは君だけだしな」

 

「……助かる」

 

 

けれど、そこは実戦経験も豊富な【防人】だ。状況を見て何が最適かをしっかり見定めることが出来る。

 

 

「時間もない、芳乃はすぐに準備を」

 

「ああ、そっちは頼む」

 

 

短いやり取りを終えると同時に氷室が跳び出す。

 

それに呼応して、傷を癒していた鵺も反応する。

 

 

「スゥ……ハァ……」

 

 

呼吸を整える。

 

おれ自身が保有出来る魔力の最大値は、香々見島にいる魔法使いの中でも最も低い。

 

けれど、その代わりに大気のマナから魔力へ変換する効率は、他の誰よりも優れている。普段でさえ、魔力が足りなければすぐさまマナから変換して補充するくらいだ。

 

……今から行うのは、そのマナから魔力への変換を意図的に暴走させること。リミッターを取っ払うと言ってもいい。

 

そうして過剰なまでに変換した魔力を、血反吐を吐きながらでも鍛え上げた制御力で直接身に纏う。

 

奥の手、その二。

 

 

「さて、それじゃ……ちょっと命賭けるか」

 

『……え?』

 

 

目を閉じる。

 

瞑想する時と同じ様に、己の内の中に深く落ちていく。

 

その中で、この化け物ライフルに魔力を限界まで収束するための手段を解放して行く。

 

それは、おれの少ない魔力を一時的にでも補う為の反則技。

 

師匠からも、よほどの事じゃない限り使用するのを禁じられた禁術。

 

 

 

 

 

起動順序(ブートアップシーケンス)自動開始(オートスタート)

 

……【過剰変換(オーバー·コンバージョン)】、点火(イグニッション)

 

 

 

 

 

 

____並列思考による自動制御式、開始。

 

 

 

____取り込んだマナの同調速度、加速。

 

 

 

____自身の魔力への変換率、制限解除。

 

 

 

____変換した魔力を身体へ纏い、流転。

 

 

 

 

 

「っ……!」

 

 

並列思考(マルチタスク)による術式の同時制御を開始すると同時に、自身の周囲にマナから変換した魔力が流転し始める。

 

過剰変換(オーバー·コンバージョン)】。自分自身を魔力の変換器として特化させる状態。これなら、おれの魔力の最大値以上の魔力も扱うことが出来る。

 

……が、当然そんな状態がただで使える訳が無い。それには相応のリスクが存在する。

 

 

 

 

 

____予測、身体への負荷の増大を確認。

 

 

 

____想定、34秒経過後に損傷が発生。

 

 

 

____警告、55秒後に身体の完全崩壊。

 

 

 

 

 

「ぐ、あぁぁぁッ……!!」

 

 

 

自損しない範囲での制限時間は34秒。

 

それを超えると自壊ダメージが発生し、更に55秒を超えたら、魔力のオーバーロードと身体の崩壊により…………肉体は確実な死を迎える。

 

 

 

『……え、ちょっ、待ってトーカ君! それはアカンッ! 魔力の過剰生成で自滅する気なん!?』

 

「なっ!?」

 

 

 

筋肉が、骨が、神経が、体全体が軋み始めるような感覚に包まれる中で盾石の静止の声が聞こえたが無視して、ヴァナルガンドの機能を解放する。

 

 

 

「……ヴァナルガンド、封印解除(シールオフ)魔力収束機能(マナチャージシステム)開放(オープン)……!」

 

 

 

銃身に施された封印符が燃え上がり、ヴァナルガンドがその全容を現す。

 

光すらも呑み込みそうな漆黒の銃身。とてつもない重量のそれを身体強化を施した両手で無理矢理保持してから、その銃身に魔力を収束していく

 

【過剰変換】により次から次へと溢れてくる魔力を全てヴァナルガンドに収束させていく。

 

この時点で既にシリウスの最大チャージが比にならないほどの膨大な魔力が収束していく。

 

 

 

 

____魔力収束率、36%。

 

 

 

____制限時間、残り23秒。

 

 

 

 

「くそ、このバカ……! 覚悟が決まってるとかの次元じゃない……! 本当に死ぬぞ!?」

 

「……ッ!」

 

 

 

 

激しさを増す鵺の攻撃を、氷の双剣でいなし続けていた氷室からの苦言も、今は聞こえないフリをする。

 

 

 

 

____魔力収束率、67%。

 

 

 

____制限時間、残り12秒。

 

 

 

 

 

ヴァナルガンドへの収束率が半分を超える。……まだだ。鵺を完全に消し去るには80%は欲しい……!

 

 

 

 

 

____魔力収束率、75%

 

 

 

____制限時間、残り7秒。

 

 

 

 

 

____警告、不確定要素発生。

 

 

 

 

 

「……なっ!?」

 

 

 

あともう少しと言う所で、並列思考(マルチタスク)が知らせた警告に従って、【過剰変換】を一時中断。途端に襲い来る負荷になんとか耐えながら、状況を把握しようとする。

 

そして気づく。まだ余裕があったはずの盾石の結界が、解き始めてることに。

 

そして、解き始めた箇所から、ひらりと落ちてくる雪に似た存在に。

 

 

『雪……いやこれ、マナの残骸やん……!? うそやろ、こんなタイミングで……! あかん、結界が保たへん?!』

 

 

盾石の焦る声と共に、隔離結界が雪のようなそれに触れた所から、徐々に解除されていく。

 

……結界が完全に解除されれば、鵺は逃げるだろう。マナで構成された怪異にとって、魔力やマナを奪う残骸は怪異にとっても天敵だからな。

 

そうなったら追撃は難しい。そうなると、やっぱりここで奴は仕留めるしかない。

 

 

 

「並列思考、及び【過剰変換(オーバー·コンバージョン)】、再点火……!」

 

 

 

再度、禁術によるヴァナルガンドへの魔力の収束を再開する。

 

制限時間は変わらない。いや、無理な停止で余計に限界が縮まったらしい。

 

……だからどうした? やることは変わらない。

 

 

『トーカ君! なにしてんのっ!?』

 

「……奴は逃しちゃいけない、ここで確実に仕留める」

 

「……くそ、それしかないのか……!」

 

 

状況と、こちらの意図を察して、氷室が引き続き鵺を相手取る。

 

その間にも、おれはヴァナルガンドへひたすら魔力を収束していく。

 

しかし、マナの残骸の影響で近くのマナが失われ始めてる為か、収束率が一気に悪くなった。

 

 

 

____魔力収束率、78%。

 

 

 

____制限時間、残り0秒。

 

 

 

____制限時間超過、3秒。

 

 

 

 

「っ……、ぅ、がっ……ぁぁぁぁぁあああああ!」

 

 

 

肉体が自損しない限界の34秒を超えた瞬間、身体に鋭い痛みが走り出す。更に一部の血管から血が吹き出し、口の中からも生暖かい鉄の匂いが溢れ出す。

 

 

 

『アカン!それ以上はホンマにアカンっ! 限界や!?』

 

 

 

 

 

____制限時間超過、9秒。

 

 

 

____魔力収束率、82%。

 

 

 

 

 

「チャージ……完了……ッ!」

 

盾石の静止の声が響くと同時に、並列思考が魔力の収束が目標に到達したことを知らせる。

 

血を吐きつつも【過剰変換】を解除し、残りの魔力を身体強化と、右目に全て回す。

 

 

「避けろよ氷室ォッ!!!」

 

「ッ!」

 

 

おれが呼び掛けると同時に、氷室が射線から離れる。

 

遮蔽物はなし。距離は30メートル。

 

身体強化で無理矢理ヴァナルガンドの銃口を奴に向ける。

 

 

 

 

_____フィィィィイイイイィィィィッ!?

 

 

 

 

そこから自身を脅かすものの気配を感じ取ったのか、“鵺”が射線から逃れようとする。

 

だが、遅い。“既にその未来は視えている”。

 

そして、それは同時にコイツの結末も視えたことを意味する。

 

 

 

 

 

「……貫け、ヴァナルガンド!!」

 

 

 

 

 

鵺の移動先に銃口を向け、その引き金を引いた瞬間、シリウスの最大チャージショットが比にならないほどの魔力が解き放たれる。

 

それは最早銃撃でもない、砲撃よりも凄まじい、指向性を持った魔力の奔流となって“鵺”の巨体を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

____………………!?!?

 

 

 

 

 

悲鳴も出せずに魔力の奔流に呑み込まれた“鵺”は、あれだけ苦戦させたにも関わらず瞬く間にその存在を無に返していく。

 

それだけに留まらず、ヴァナルガンドから放たれた一撃は一条の光となって、崩壊しかけていたとは言え盾石の結界をも破壊して、マナの残骸すらも吹き飛ばした。

 

 

「なんだ、これは……!?」

 

『……この威力は……おかしいやろ流石に!?』

 

 

【防人】の魔法使い二人の驚愕する声。

 

そりゃそうだ。幾ら命懸けのチャージが必要とは言え、個人で持つにはあまりにも火力が高過ぎる。最も、それには理由があるのだが。

 

 

……なにせ、これの本来の使い途は、万が一にも【黒無】が再来した際に、力づくで鎮める為のものだからな。

 

 

そう内心で思っていると、チャージした魔力の放出もようやく収まり、砂浜は元の静けさを取り戻す。

 

それを確認してから、なけなしの魔力で化け物ライフル(ヴァナルガンド)を【取替の悪戯】でしまう。

 

 

『でも怪異の反応は消失したで、今度は間違いあらへん!』

 

「出鱈目なのも大概にしてほしいが、今回ばかりはその出鱈目さに助けられたな……」

 

『でもあんな危ない真似したんは説教もんやで!? 後できっちり絞ったるから覚悟しぃや!』

 

 

説教は面倒だな……って、返事をしようとした所で、声が出てないことに気づく。

 

あれ?っと思うも、その時にはもう身体から力が抜けて、おれは砂浜に倒れ伏していた。

 

 

『え、トーカ君!?』

 

「くそっ、やっぱり限界だったか! おい芳乃!しっかりしろ! おい!」

 

 

『トーカ君! しっかりしぃや! ……ジン君はトーカ君連れて今すぐ撤収や! ウチはミオちゃんのフォローに___』

 

 

 

「___そうか、そっちも___残って___先輩、こっちは任せ___」

 

 

 

 

徐々に声が遠くなっていく感覚。

 

 

 

 

 

……倒れたのは、【過剰変換】の限界を……10秒近くも超えて行使していた…………せいだろう。

 

 

 

 

 

 

全身に、痛みが走ってる上に……力も入らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

いや……ダメだ。まだ、海央が戦って……。

 

 

 

 

 

 

 

 

援護に……向かわない……と…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……くそ、……いし……き、が…………とお、く……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………、………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




◇対怪異魔導狙撃銃 ヴァナルガンド
シリウスを作る際に培ったノウハウで灯火と常坂元が改造を施したアンチマテリアルライフル。
対物狙撃銃としての機能を持ちつつも、魔力をチャージさせた【砲撃】が撃てることが特徴。
シリウスのチャージ5を超える魔力を貯める事が出来るが、【過剰変換】状態でなければ戦闘中にフルチャージまでは届かない。フルチャージにより、魔力による災害を力づくで鎮めることが出来る威力を持つことから、【破壊の杖】とも呼ばれるヴァナルガンドの名が宛てられた。

身も蓋も鍋まで残らない言い方をすれば、魔力による極太ビーム兵器である。万が一【黒無】が再発した際に、命と引き換えに使うつもりだった灯火の奥の手、その一。


◇過剰変換(オーバー·コンバージョン )
マナから魔力へ変換する効率を意図的に暴走させることで己自身を魔力の内燃機関とし、更に本来なら霧散する魔力を身に纏わせることで常に魔力を全開状態で扱う灯火の奥の手、その二。

魔力の足りない魔法は何かしらの代償を支払うことになる為、これで普段なら使えない大魔法の行使の為に使う。

……が、限界時間を超えると過剰な魔力により身を滅ぼしてしまう諸刃の剣の側面も持つ。現在の灯火が維持できるのはせいぜい34秒。それを超えると過剰な魔力により肉体そのものが自壊していく。

完全に自壊するまでの猶予をも含めるなら55秒。それを超えた先は“死”しかない。

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