D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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仕事やら夏の暑さやらで更新遅れてしまった……。


EPISODE 36

 

 

 

____キーンコーンカーンコーン。

 

 

 

「今日はここまでだな。それじゃあ解散ー。ああ、礼はいらんぞー」

 

 

 

3/12(火) 天気は晴れ時々曇り。

 

 

 

終業を告げる鐘の音が鳴ると同時に泉先生が教壇から降りる。あいも変わらず自由なスタイルだけど、もはや慣れたもの。

 

途端にガヤガヤと賑やかになる教室内、ボクは他のSSRメンバーと同じく常坂兄の所に合流する。

 

 

「ふぅ〜…………終わった終わった」

 

「とか言って、お前が大半を寝て過ごしていたのは知ってるからな」

 

 

体を伸ばす叶方にツッコミを入れる常坂兄。

 

 

「あれ、バレてた? でも先生達には判らないようにできてたと思うよ」

 

 

叶方は叶方で悪びれる様子が全く無く、まるで悪戯がバレたかの様な気軽さでそんなことをのたまう。

 

うん、確かに。叶方ってば先生達にバレないような絶妙な寝方をしてたんだよね。

 

髪が長いから目元が分かりにくいし、俯いてる時も絶妙な角度なせいで教壇の方からじゃ全然分からない。オマケに体もあまり揺れてないと言う。……なんの達人なのやら。

 

 

「別に訓練とかはしてないんだけどね。どうしても眠くてどうすればバレずに眠れるか、っていうのを体が勝手に推し量ってくれるというか」

 

「言ってることが達人の物言いだな、ほんと……」

 

「灯火よりはマシだよー。灯火に至っては堂々と寝てるのに何故か気配が消えてて分からないしさ」

 

 

どっちもどっち……いや、やっぱり芳乃のがおかしいかも。

 

普段は真面目に授業してるけど、たまに眠気が勝って爆睡してる芳乃は、どういう訳かその間だけ気配が消えてて教師どころか周りの席の人も気づかない時がある。

 

一度それについて尋ねてみたんだけど、珍しく歯切れが悪そうに「企業秘密」とだけ答えてたっけ。

 

 

「それで、どうする? 今日のSSR」

 

「そこだよなぁ。白河は喫緊の問題とかってあるか……?」

 

 

喫緊の問題……と言うなら、個人的なのがあるにはある。そのせいで今は恋愛請負もお休みしてる訳だし。

 

ただ、それを皆に話すというのは……なんというか、恥ずかしいと言いますか……!

 

だって、恋愛請負人を自称してるボクが自分の恋に絶賛振り回されてるって、どう説明すれば良いんです……!?

 

 

「……あ、なるほどそう来たか。灯火の奴、先越されちゃってるじゃん……」

 

「うむ。これで同士・芳乃もクソボケが確定した訳だな」

 

 

……なんか叶方と杉並から生暖かい視線を向けられてる気がするんだけど気にしない。

 

絶対に気にしない!

 

 

「い、今は大丈夫かな? ちょっと個人的な要件があって恋愛請負はお休みしてるし」

 

「そうなのか? 良ければそっちを手伝うのもアリだと思うけど」

 

「大丈夫ですよ兄さん、白河さんの方は多分灯火さんが解決出来るでしょうし」

 

 

「ですよね?」と言って軽くウインクする常坂妹。……その視線はやっぱり、こう、微笑ましいものを見るかのように生暖かい。

 

……なんでですか?! なんでみんなそんなに分かってる様な雰囲気出してるんです!?

 

ただ、その中でも常坂兄だけはいつも通り……いや、これは常坂兄がクソボケなせいですね。

 

流石は安定の常坂兄。でも恋愛請負人としては減点です。

 

 

「あのですね、白河さん。昨日今日の白河さんを見てたら大体察しがつくと言いますか……」

 

 

そんな常坂兄を杉並と叶方に任してから、すすすとボクに近づいて耳打ちしてくる常坂妹。

 

…………いや、だから、なんでですか!? ボク、そんなに分かりやすいこととかした覚えないですけども!?

 

そんな風に困惑するボクに、常坂妹は困った様な、それでいて微笑ましそうなものを見るような優しい表情でその理由を語ってくれた。

 

 

「その、授業中もしきりに灯火さんの席を気にしてたのが丸わかりでしたよ……?」

 

「………………え?」

 

 

うそ。

 

なにそれボク知らない。

 

と言うか意識してなかった。

 

 

「ですから、勘の良い人は大体気づいてると思います。気づかないのは兄さんみたいな鈍感さんだけです」

 

 

えーと、つまり、無意識に芳乃がいるはずの席に視線を向けてて、それが周囲にモロバレしてたってこと?

 

え、ちょ、ま、まっ、まっ!?

 

 

「と言うか、ぶっちゃけて言いますと……その時の表情が完全に恋する乙女の表情でした」

 

「〜〜〜〜〜〜っっっ!?!?!!?」

 

 

常坂妹のそのトドメの一言により、ボンッとまたまた顔が一気に熱くなって、爆発的な羞恥心によりボクは思わず蹲った。

 

 

「はぁ……、白河さんが可愛すぎると言いますか。白河さんをここまで駄目にしてしまった灯火さんが凄いと言いますか……」

 

 

追い打ちをかけるような常坂妹の言葉と、相変わらずボクに向けられてる生暖かい視線の数々に、ボクの体温は更に上がって行った。

 

と言うか、今の今までボクが築き上げたイメージが、ミステリアス系なイメージが、敏腕恋愛請負人なイメージが、ドンドン崩壊してる気がする……!

 

これも……これも全部、芳乃が悪いんですよぅ……! 芳乃の……芳乃のばかぁーーっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 36-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぁぁ……!」

 

 

自室のベッドの上で欠伸を噛み殺す。

 

時刻は夕方。つい数十分前に終業のチャイムがさっき校舎の方から聞こえてきたから、今はもう放課後なのだろう。

 

……それと気の所為か、謂れもない罵倒を受けた気がする。なんか変な電波を拾ってしまったのだろうか。

 

 

「……にしても暇すぎる」

 

 

病人……正確には怪我人と言うべきか、とにかく学校を休んでただ寝るだけと言うのは中々に暇だ。

 

体調も体力も回復しているので、普段通りに頭も回る。そう言う訳で今日は海央も普通に学校に行っている。

 

 

「今日の内に溜めてた【ねこあるき】や【KotoRI】の動画も全部見ちまったしな……」

 

 

勉強の予習……と言うのもこの時期はあまり意味がない。なにせ、あと数日すれば付属の卒業式があるのだし。

 

それと、状況はあれから変わらず。魔法使いのみのCOMUにも氷室からの経過報告が届いているが、今のところ異常は無い様で、【人形遣い】のクソ野郎も動きがない。

 

海央の話によると、海央が襲撃する直前に実験が「概念型の怪異に成らなかった」「失敗した」とかなんとかボヤいていたらしいが。

 

……怪異を生み出すのがクソオヤジから命じられた実験だって奴は言っていた。で、実際に強力な怪異は生まれ落ちたのにその結果は“失敗”。

 

奴の言う通り、“概念顕現型の怪異”を狙っていたってことか。

 

怪異は怨念がマナに触れることで自然発生する魔法現象で、その姿と在り方は多岐に渡るものの、大きく分けると二つに分類される。

 

 

____単体顕現型と、概念顕現型。

 

 

この島に現れた怪異は力の差があれど、どれも個体で出現する“単体顕現型の怪異”だった。

 

単体顕現型はぶっちゃけてしまえば対抗手段があれば倒すだけなので割と楽だと言えよう。……鵺クラスになると流石にマズイが、あれは無理矢理魔力を注ぎ込んだが故の例外だ。自然発生する怪異であのクラスの奴はまずない。

 

問題は概念による現象として具現化するタイプの方。

 

そのタイプは具現化した周囲を自身の領域として支配して、その中の人々に一方的に、そして理不尽なルールを押し付ける事がある。

 

……おれが、かつてこの島の外で遭遇したのがこの概念顕現型の【鬼事】と呼ばれる怪異だった。

 

鬼事。つまり鬼ごっこの怪異。

 

名前だけ聞けば大した事のないように思えるが、その実態は悪辣極まりないものだ。

 

その内容は、鬼事の怪異の範囲内に閉じ込めた人々を狙う“鬼”が現れ、鬼に捕まれば……無惨に殺されると言うふざけたものだった。

 

しかも最悪なのは逃げる側には勝利条件みたいなのが無いこと。怪異の領域内をいくら逃げても最後は鬼に追い付かれ、これでもかと恐怖しながら鬼に嬲り殺しにされる。

 

おれはその時、ちょうど完成したばかりの【シリウス】を使って、出て来る鬼を殲滅することで怪異を鎮めたが……隔離された空間故に、おれも【防人】も後手に回って被害は少なからず出てしまった。

 

【防人】に見つかれば面倒なことになるため、鬼事を終わらせた後はすぐに逃げたので、おそらく気が付かれてないと思う。

 

他にも厄介なモノで言えば都市伝説からカタチを得た怪異だろうか。酷いものでは夢の中で猿に挽き肉にされる、人の世じゃない駅に迷い込むなどと言うものもある。

 

総じて言うならば、概念型は単体型と比べると危険度が跳ね上がるのが特徴と言うべきか。

 

それを考えると、【人形遣い】のクソみてぇな実験が失敗になったのは喜ばしい事だろう。

 

……とは言え、だ。そろそろ【人形遣い】のヤロウを仕留めねぇと面倒なことになる気がする。

 

香々見島の近海に潜んでるのは分かってるんだ。こうなったら効率が悪くても虱潰しに近海を探すべきか……?

 

 

 

____《コンコン》《ガチャ》

 

 

 

と、思考を張り巡らせていた所で来客を伝える扉をノックする音が響くと同時に、部屋に誰かが入って来る。

 

あー……この遠慮のない感じは駄妹だな。

 

 

「お兄ちゃーん、ちゃんと休んでるー?」

 

 

ピョコっと犬耳が付いたパーカーを揺らして現れたのは、予想通りと言うか駄妹こと海央だった。

 

上半身だけ起こすと、海央はベッドの端に腰をおろす。普段の定位置がベッドだからな。

 

 

「休んでる休んでる、休み過ぎて寧ろ暇してたわ」

 

「体調は? 見た感じ、もう大分回復してるみたいだけど」

 

「母さんの魔具も使ってたからな。……ただ、マナから魔力への変換だけ、まだ少し違和感がある」

 

 

おれの言葉に眉を顰める海央。そう、体調とかは問題はない。けれど魔法使いとしての重要な部分がまだ完治とは言い難い。

 

痛みの走った昨日よりかはマシだが、黙っていようとすればそれこそ大牙拳砲で吹き飛ばされかねないので、こう言うのは素直に答えておく。

 

 

「……やっぱり例の術式は危険すぎるよ。使用禁止だよ!」

 

「だが断る。師匠からも禁術指定にされてたとは言え、使うべき時に使わなきゃ意味がない」

 

「この頑固者ー! 駄兄ー!! ゴリラー!!!」

 

「頑固者なのも駄兄なのも認めるが、誰がゴリラじゃ誰が。ゴリラのスタンプで変身して悪魔と大暴れしてやろかコラ」

 

「ゴリラゲノム!? いやだから結局ゴリラだよねゴリラー!」

 

 

うーむ、そろそろマジでネタ切れになってきたぞ、ゴリラネタ。せめて白河だけならまだネタも保つんだが……いや、話が逸れた。

 

 

「それよりそっちはどうなんだよ。頭の硬い老人辺りが吠えてんじゃねぇか?」

 

「あ、そっちはお父さんが黙らせた。物理で」

 

「物理」

 

 

物理で黙らせちまったか……キングコングの一撃を受けて生きてんのか老害ども? いやダメだろとは思うんだが、あの手の老人共はそれくらいしないと基本的に黙らねぇしな……。

 

 

「兎にも角にも先の一件については状況が状況だったしお咎め無し。あたし達は引き続いて【人形遣い】とそれが生み出す怪異に備えておくように、だってさ。ただ___」

 

 

海央は一度困った様に眉をひそめると、とても言いづらそうに次の言葉を紡いだ。

 

 

「おじさ……咲三灯真のシンパ達の動きが、いよいよ本格的に活性化し始めてるんだって」

 

「……そうか」

 

 

時期も考えれば予想通りと言う奴だろう。

 

当主こと叔父さんも警戒はしてるんだろうが、あのクソオヤジはどうやって封印を破るつもりだろう。

 

おれが先視で視たのは封印を破った後に香々見島に来て、【黒無】の前で嗤ってる姿だけだからな。……その過程が全く分からない。

 

直接封印を守ろうにも、奴の封印は国の預かりになってるらしいから難しいらしい。

 

 

「政治ってのはこう言う時に限って邪魔しやがる」

 

「……一応は国を守るための機関だもん、【防人】は。ある程度は縛られちゃうんだって」

 

 

それで後始末をすることになるのはコッチなんだ。この件が片付いたら見直してくれることを祈るとするか。……無事に済めばの話になるが。

 

 

「学校の方はどうだ?」

 

 

取り敢えず今はどうしようもないとして話題を切り替える。

 

 

「あ、うん。ありす先輩も風邪でお休みしてるし、SSRは今日もお休みだってさ」

 

「……有里栖も?」

 

「あの日、マナの残骸と一緒に雪も降ってたみたいだからね。それで体調崩したんじゃないかって」

 

「……なるほど。それに万が一マナの残骸に触れてたら、魔法と関係ない一般人でも虚脱感が出るみたいだしな」

 

 

それなら体調が悪くなったとしてもおかしくないか。

 

……ただ、なんだろう。

 

なにか胸騒ぎがするような感覚がして____

 

 

 

____ズキィ! と、強い痛みが頭に走った。

 

 

 

 

「え、お兄ちゃんどうしたの?!」

 

 

思わずその痛みに顔を顰めたからか、海央が驚いたように聞いてくる。

 

 

「いや、ちょっと頭痛がしてな……」

 

「……やっぱりまだ不調なんじゃない? もう少し寝てた方がいいよ。うん、寝て」

 

「その有無を言わさない圧力はなんなんだ……?」

 

 

思わずツッコミを入れるも、海央の言う通りかも知れないと思い、そのまま寝転び布団を被る。

 

 

「悪い、少し寝るわ。起きたらメシ作るから、テキトーに待っててくれ」

 

「一応は怪我人で病人なんだから大人しくしててよ。ご飯ならあたしがなんとかするから」

 

「……作るのはやめろよ? 絶対にやめろよ? それは死人が出る」

 

「否定出来ないけど怒るよ!?」

 

 

否定出来ないなら怒る資格はないと思うが、と考えていると眠気がやって来た。

 

……体調は良好だと思ったけど、どうやらまだ不調らしい。

 

目を瞑るとそのまま意識が落ちていく感覚がする。

 

メシについては起きてから考えるとしよう。

 

おれはそのまま眠気に抗わずに意識を落とすのだった。

 

 

 

「あ、そうだっ。どうせだったら久しぶりにサプライズしよっかなー♪」

 

 

 

寝落ちる直前に、そんな不穏な呟きが聞こえてきたが、眠りに落ちていくおれには、もうどうしようもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ」

 

 

どのくらい寝てたのか。

 

体感的には2〜3時間ほどだろうか。恐らく完全に夜になってるだろうが、照明が付いてるらしくて部屋は暗くない。

 

海央が点けっぱなしにしてたのだろうか?

 

上体を起こして気配を探ろうとした所で、なにかが近くにいることを感じ取る。

 

 

「(……誰か、いる?)」

 

 

違和感の正体を確かめるべく視線を向けた所で____見覚えのあるツインテールの恋愛請負人が、これまた無防備な寝顔を晒しておれのベッドの空きスペースに頭を乗っけていた。

 

 

「……………………」

 

 

思わず「なんだ夢か」と思いもう一度寝転んで目を瞑るも、気配は一向に消えやしない。

 

どうやらこれは現実らしい。でもちょっと現実味がない光景に思わず現実逃避しそうになる。

 

クラっとする頭に喝を入れながら、取り敢えずツッコミを入れる所から始めようか。

 

という訳でだ。…………なにやっとんじゃ白河ァァァ!?

 

寝る寸前に聞いた海央のサプライズってこれか!? なにやってやがるんだあの駄妹はぁ!?

 

そんでもって白河ァ! おのれ前に散々言ったのに、なにまた同じ間違いを犯してやがる!? なんでおのれはそう安々と無防備を晒すんだよホントによォ!?

 

 

「すぅ……むにゃ……」

 

「はぁ……もう、コイツはホントに……!」

 

 

叩き起こすことも考えたけど、その寝顔があまりにも穏やかだったので、思わず毒気が抜けてしまった。

 

相変わらず、普段の戯けた印象が消えて幼くあどけない寝顔だ。いくらなんでも安心し過ぎではなかろうか?

 

……あまりにも無防備だったので、思わず溜息を吐きつつ頭の上に手を置き、海央にやるよりも優しく撫でてしまった。

 

 

「くぅ……んふふ……♪」

 

 

途端に頬が緩んでなんとも幸せそうな声を漏れ出す。……そのあまりの無警戒ぶりに、もう一度溜め息が出る。

 

こうなったらと、ついでなので頬も少し引っ張る。

 

むにーっと、女の子らしい柔らかな感触。あと餅のように柔らかい。

 

 

「……そろそろ起きろー。起きないとまた押し倒すぞー」

 

 

既に前例があると言うこともあってか、この手の脅しのハードルが下がってる気がする。や、だからといってホントにやらんが。

 

 

「ん……あれ?」

 

 

そろそろデコピンでもやるべきかと思ったタイミングで、ようやく白河が目を覚ました。

 

 

「起きたかコノヤロウ。また不用意に無防備晒しやがって」

 

「_____ッッッ!?!?!!」

 

 

暫く寝惚け眼のままだったが、意識も覚醒した際に状況を把握したのか、頬を朱に染めながら飛び上がる様に起きる。

 

以前【ねこあるき】で見たキュウリに驚くねこみたいだと思ったおれは悪くない。と言うか人類に出来る動きじゃなかった気がするんだが?

 

 

「よ、よよよ芳乃!? 起きてたんです?! 一体いつから!?」

 

 

顔真っ赤にしながら吠える白河。って……?

 

なんだ? なにか違和感を感じるような……。

 

なんだろう、この感覚。

 

 

「今起きたところだよ。で、おのれはなにしてんのさ?」

 

 

その感覚に疑問には思ったけど、今は取り敢えずコイツがなぜここにいるかを聞き出そうか。

 

とは言っても、大体想像が付くんだけどな。

 

 

「あー……海央ちゃんに頼まれまして。キミ、お腹空いてるだろうから自分の代わりにご飯を作ってくれないかって」

 

「……はぁ、納得した。海央の料理の腕前は二乃クラスだからな」

 

 

因みに、海央が香々見学園に編入して来た直後に料理の腕前はどんなものか確かめたことがあるんだが……危うく死にかけたことがある。

 

料理でも人は殺すことが出来るんだなって、薄れゆく意識の中で思ったもんだ。辛うじて生きてたけど。

 

 

「疑問、常坂妹ってそんなに料理下手でしたっけ?」

 

 

首を小さく傾げながら聞いてくる白河に、あれ?って思う。

 

 

「知らなかったか? ……や、そういや二乃は基本的に裏モードで上手く猫被ってるから分からんか」

 

 

常坂の家にいる時だったり、ねこ談義してる時は比較的に二乃は素を出してるんだけどな。それ以外だと優等生の皮を被ってるし。

 

最近はSSRメンバーにも素を出し始めてる気はするが。

 

 

「裏モード……? そう言えばキミ、常坂妹ともそれなりに仲良かったよね?」

 

「まぁな。ねこ仲間だし、一登んちに泊りがけで遊びに行ったら、二乃と逢見先輩は当然いるし。話す機会も多いしな」

 

 

逢見先輩/ソラさんは前からの知り合いってのもあるが、二乃ともなんだかんだ仲は良い。ねこ仲間って言えるくらいには。

 

 

「二乃は学校だと優等生ぶってて実際に優等生なんだけど、家とかリラックス出来るところだと割と隙が増えるんだよなぁ。実は朝にも弱いから毎朝一登が起こしてて……って」

 

 

二乃本人が聞いたら怒られそうな情報を語っていると、ふと白河の方を見ると……なんというか、「むぅっ……」て感じのちょっと怒ってる?ような表情になってる。

 

と言うか少し頬が膨れてる様な……? なんというか珍しい。いつもより子供っぽい表情で新鮮だった。

 

 

「……ハッ!? いやいやちょっと待ちましょうか芳乃、それ常坂妹から見れば知られたくない情報だよね!?」

 

「だろうな。まぁ、白河に話しても悪用する気はないだろうし、別にいいだろ」

 

 

本人が聞いたら「よくありませんが?!」って言いそうだよな。

 

 

「……ボクのこと、ちょっと信頼し過ぎじゃない? と言うか話が大分逸れたような……」

 

「それだよ。で、なんでまた無防備かましてたんだよ、おのれは」

 

「失敗、完全にやぶ蛇だったねこれ!?」

 

 

オーバーリアクションする白河にジト目を続けると、「うっ」と観念したらしい。……なんでか、ちょっと顔が赤くなってる気もするが。

 

 

「…………その、寝てるキミに釣られてつい寝ちゃったと言うか……あ、チベットスナギツネの表情で手刀を準備するのはやめません? そしてジリジリと距離を縮めていくのもやめませんか!?」

 

「だが断る」

 

「断らないでー!? ボクが悪かったですからー!? 反省しますからー!?」

 

 

流石に非があると分かってるのか、座布団を盾にしながら距離を維持する白河にもう一度溜息を吐く。

 

……仕方ない、今回は許すとしようか。飯も作ってくれたみたいだし。

 

構えてた手刀を引っ込めると白河もホッと息を吐く。

 

 

「ま、まぁ、予定外はあったけど御夕飯はもう作ってるんですよ、食べるよね?」

 

「……食べる」

 

 

それはそれとしてお腹が空いたのも事実だ。

 

昨日はコンビニ弁当で、今日の朝と昼も簡単な握り飯くらいだったので、余計に腹が減ってると言えるだろう。

 

なのでちゃちゃっと机やら座布団やらの準備を済ませて食事の準備に移る。

 

 

「まだ病み上がりみたいなので卵粥と、粥だけじゃ物足りないと思って、おかずにさつまいものそぼろ煮を追加したよ」

 

「……おぉ……!」

 

 

机の上に置かれたそれらの品々に、思わず感嘆の声が漏れ出る。

 

白河の作った卵粥もそうだが、さつまいものそぼろ煮もまた匂いからしてとても美味しそうだった。っていうか絶対に美味い。

 

 

「いただきます!」

 

 

早速手を合わせてから、まずは卵粥をいただく。

 

程よい塩味が空腹の身にはとても突き刺さる。

 

それから、さつまいものそぼろ煮もいただく。

 

 

「……うまっ!」

 

 

思わず目を見開く。

 

うん、ホントに美味しい。甘辛な味付けがさつまいもと鶏肉本来の旨味と上手く噛み合っていて、さつまいもの食感も合わさって食べ応えも十分。

 

その美味しさに、思わず頬が緩む。

 

向かい合わせに座っていた白河が、そんなおれを見てどこか機嫌良さげに微笑む。

 

 

「ふふっ、これそんな絶品でもないと思うのに、ホントに美味しそうに食べるね?」

 

「や、十分に絶品だと思うぞ?」

 

「いやいや、絶品だったらキミ、壊れたロボットみたいにしばらく機能停止するでしょうが」

 

「おのれはおれを一体なんだと思ってるんだ……?」

 

 

人をゴリラとかロボットとか、コイツの中のおれの人物像は一体どうなってるんだろう?

 

まぁ、追求したくあるがそれは後回しにして反論といこう。

 

 

「そりゃ逢見先輩や料理の師匠なばあちゃんクラスの料理とかは自分でも再現出来ない奴はああなるけどよ、だからといって白河の料理が美味くないってことにはならないだろ?」

 

「そりゃ逢見先輩と張り合う気はありませんけどね。……でも、ホントに美味しいの……?」

 

「うん、美味い。この味付け、おれは好きだな」

 

「す、すき_____ッッ!?!?」

 

「素朴ながらもしっかりと味が食材に染みていてさ、食べてて口の中が幸せになる。今度真似して良いか、この味付け?」

 

「………………………………」

 

「白河?」

 

「ハッ。いえいえ、大丈夫です! 真似しちゃって良いですよ!?」

 

「そ、そうか」

 

 

なんか一瞬、心此処にあらずって感じだったような……?

 

白河も風邪引いたのか? ……なんか違う気もするが。

 

 

「ほ、ホントになんでもありませんよ。それより、割と元気そうですよね、キミ」

 

「二日も寝てたんだ。流石に明日からは学校に出るよ」

 

 

まぁ、まだ魔力の通りに違和感はあるが、昨日よりも大分マシになってるので明日には元通りになってるだろう。

 

魔法が使えるようになったら、武器の整備もしないとな。

 

 

「そっか。……よかった……」

 

「……悪いな、白河の依頼も結局二日ほど中断しちまったもんだし」

 

 

土曜日の交流で美嶋さんとも大分普通に話せるようになったと思うが、月曜と今日も休んでたからな。今の状況が分からん。

 

 

「あ、そうですね……。うん、その件についてはまたボクから切り出しますよ」

 

「まぁ、土曜日に見た感じだと、おれ相手にはもう普通に話せそうな感じだったからな」

 

「そう、ですね」

 

 

と、そこで白河は視線を落として何か考え始めたらしい。

 

前みたく、また何か色々と考えてるのだろうか。

 

おれも途中だった食事に戻り、卵粥とさつまいものそぼろ煮に舌鼓を打つ。

 

味付けが好みだったことと空腹だったこともあって、お椀と皿は瞬く間に空となるのだった。

 

取り敢えず手を合わせて「ごちそうさまでした」と食への感謝を言って、流し場に食器を持って行き水に漬けておく。

 

 

「……って、あれ、もう食べ終わったんですか?」

 

 

そこでようやく考えごとが終わったのか、白河がこっちに気付く。

 

 

「ああ、ごちそうさま。すごく美味しかった」

 

「ふふ、そう言ってもらえると作った甲斐がありますよ」

 

「この礼はまた飯作ることで返すよ」

 

「それは楽しみですね、期待しておきますよ♪」

 

 

そう言って柔らかい笑顔を浮かべる白河。

 

いつぞやの夕方に見たあの笑顔にも負けないくらいの眩しい笑顔に、思わず跳ね上がりそうになる心臓を無理矢理押さえて、おれも笑顔を浮かべる。

 

 

「さて、それじゃあ芳乃の無事も確認出来たし、海央ちゃんの依頼も完了しましたし、ボクも自分の部屋に戻るよ」

 

「分かった。今日は色々と助かったよ、また明日な」

 

「……はい、また明日!」

 

 

手を振る白河を玄関で見送る。

 

扉が閉まって気配がゆっくり遠ざかるのをしっかり確認してから、おれはその場で崩れ落ちるようにしゃがみ込む。

 

 

「…………だから、その顔は反則だろうが…………!」

 

 

普段のどこか芝居がかった所作とは無縁の、白河ひよりと言う一人の少女のありのままの笑顔。

 

今までも何度か見たことがあったが、今回はそれを間近で直視してしまったが故か、顔が熱くなって仕方ない。

 

はぁ、と、溜息を吐きながら、そのまましばらく顔の熱が冷めるまでおれはしゃがみ込み続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____な、なんとか普通に振る舞えたかな?

 

 

男子寮から女子寮に戻る中でそう思いながら、赤くなっていく顔をどうにか冷ませようと努力する。

 

当然ながら中々冷める気配はない。……これもまた芳乃が悪いってことにしておこう。

 

……それはそれとして、海央ちゃんから連絡が来た時はびっくりしたけど、結果的にその頼みを受けて良かったと思う。

 

なんだかんだ体調が良さそうなのも確認出来たことだし。……その、ね、寝顔も見れましたし。

 

まぁ、思わず釣られてボクも寝ちゃったのは不覚だったけど……って、もしかしてボクも芳乃に寝顔見られてるんじゃ……?

 

そう思い立った時点で、顔を冷まそうとした努力は無駄となった。

 

溜息を吐く___自分の恋と言うのは、本当に手強いらしい。

 

自分は恋愛をしない。なんて思ってたのに、気が付いた時にはしっかり恋をしてたなんて、どんな笑い話なんだろう。

 

今までボクが恋愛請負した人達も同じ想いをしてたんだと考えると、まだまだボクは甘かったんだなって思い知らされる。

 

そこでふと、廊下の窓越しに映った自分の顔を見る。

 

“その頭上”には、当然ながら何も見えない。

 

鏡越しじゃ、“アレ”を見れないのは変わってないし、当然と言えば当然だけど。……と、そこまで考えて思わず自嘲する。

 

きっと見えていたとしてもボクは変わらなかっただろう。

 

だけどもし、ボクの“フラグ”全てを使い果たしてからこの恋に気付いたとしたら____ボクは、果たして耐えられただろうか?

 

 

「………………っ」

 

 

その、有り得たかも知れないIFを考えるだけで、胸に痛みが走った。

 

そして今更ながらに、ボクを必死で止めようとしていた幼馴染への罪悪感が膨れ上がる。

 

あの子は……きっとこれを危惧してたんだろう。

 

 

「色々と考えてみたけど……やっぱり先にケジメは付けとかないといけないよね……」

 

 

一度深呼吸をしてから、再び歩き出す。

 

向かう先は自室じゃない。寮の廊下を歩いた先に辿り着いたのは、多分……いや、間違いなくこの世界で最もボクのことを心配していただろう女の子の部屋。

 

 

「すぅ……はぁ……よしっ」

 

 

 

_____《コンコン》

 

 

 

 

扉の前で一度深呼吸をしてからノックする。

 

「はーい」とノックに反応する声がして数秒後、扉の施錠が解錠されて、件の少女が姿を見せる。

 

 

「あれ、ひよりちゃん? どうしたの、こんな時間に……?」

 

「やぁ未羽。……少しだけ時間を貰っていいかな?」

 

 

自分の恋の前にボクは、ボクが今まで無碍にして来たもの……今までずっと逃げていたことに向き合わなきゃいけない。

 

未羽も未羽で何かを悟ったのか、無言で頷くと部屋へと招いてくれる。

 

なにをするにしても、まずはここからだ。

 

 

 

もう一度深呼吸をしながら、ボクは未羽の部屋へと入って行った____

 

 

 

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