D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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PROLOGUE 5

 

 

 

 

『___ねえ灯火、たまには料理でもしてみましょうか?』

 

 

 

芳乃の家に拾われてから、塞ぎ込んで、立ち直って……それから魔法の修練と身体の鍛錬をして日々を過ごしていた。

 

 

師匠は自分の家族の事もあるから、常におれの進捗状況を見ていられない。なのでじいちゃんにも見てもらいながら。

 

 

あまりにもそれだけしかしなかったからだろうか、見兼ねたばあちゃんがそんな事を言ってきたのは。

 

 

 

『あなた、根が真面目だからきっと料理もすぐに上手になると思うの』

 

 

 

本当なら、魔法の修練を続けたかった。時間は限られているからだ。

 

 

でも、そんな優しくて温かい声で誘われたら、断わる事も出来なくて、おれはつい頷いてしまった。

 

 

和服が似合うばあちゃんの指導のもと、まずは簡単な玉子焼きから作ることになった。

 

 

___簡単、と言っても初心者からしてみれば一つ一つの工程をこなすにも時間がかかってしまい、ものの見事に玉子焼きを焦がしてしまう。

 

 

見るも無惨な焦げた玉子焼きみたいな物体を前にして、やっぱりこうなったか。勿体ない事をしてしまった。とか、色々とネガティブな事を考えていると、ひょこっと現れたじいちゃんがそれをパクっと食べてしまった。

 

 

唖然とするおれ、あらあらと笑うばあちゃん。そしてじいちゃんは顔を顰めていた。

 

 

 

『確かに、これはマズイな。まぁ、昔知り合った魔法使い……いやサンタクロースだったか? とにかく彼女に比べたらマシなものさ』

 

 

 

これより酷い物体を作るって、それほんとにサンタクロース? 唐突な思い出話に素直に感想を述べるとじいちゃんもばあちゃんも笑った。

 

 

 

『でも、そんな彼女のゲテモノ料理でもお前のより勝ってるものがあったよ』

 

 

 

これより酷いのに勝ってるもの? その矛盾した言葉に混乱していると、じいちゃんがおれの頭を撫でた。

 

 

 

『想い、だよ。食べた相手に喜んでほしい、美味しくなって欲しい、そう云う想いだ。灯火、お前最初から「失敗する」って思い込んでたろ? 魔法にも言えることだが、最初から失敗するなんて思ってたら上手く行くもんも行かないさ』

 

 

 

諭すように、優しい声で、じいちゃんはそんな事を教えてくれた。

 

 

 

『だから次に作るときは想いを込めて作るといい。それが、上手くなるコツだ。……だろ?』

 

 

『もう、私が言いたかった事を持って行っちゃって』

 

 

『早い者勝ちなんだよ、こういうものは』

 

 

 

もういい歳だろうに、この二人は本当に仲が良くて、気がつけば釣られて笑ってしまうほどだ。

 

 

でも、ちょっと失敗したまま。というのは悔しいものがある。どうせ想いを込めるなら、このじいちゃんをギャフンと驚かせる一品でも出してみたい。

 

 

これもまたきっと、じいちゃんの言う”想い“になるだろうか?

 

 

そんなことを考えながらばあちゃんに、また教えを請う。

 

 

ばあちゃんは、優しく笑ってまた色々と教えてくれた。

 

 

じいちゃんは、そんなおれ達を見守っていてくれた。

 

 

 

 

___それが、おれが料理を始める切欠でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-PROLOGUE 5-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……美味すぎるんですけど。逢見先輩のサンドイッチ、美味すぎるんですけど。そして敗北感が凄まじいんですけど」

 

 

 

12/19 水曜日 時刻はお昼。天気は晴れのち雨の模様。

 

場所は屋上。美味しさは敗北感と共に。

 

 

 

泉ちゃんの授業と言う名の雑談、いや雑談という名の授業か? とりあえずなんとか乗り切って辿り着いた待望のお昼休み。

 

二乃の「お昼は用意してるから大丈夫です」の言葉に疑問を抱きながらも、自然と集まった屋上にて、逢見先輩の手作りサンドイッチが振る舞われた。

 

味も、見た目も、文句なしの絶品なそれは、同じく料理を趣味とするおれの心を圧し折るには充分に足る威力だった。

 

 

「同じ様に作ろうとしても、まだ完全再現出来ねぇよこんなのぉ……悔しいぃ……でも美味いぃい……」

 

「悔しがるのか美味しく頂くのか、どっちかにしてくれ」

 

「あ、あははは……」

 

 

まだその領域に辿り着けてない悔しさと料理のあまりの美味しさに感情がバグって百面相を繰り広げてるおれに、一登が容赦なくツッコミ、有里栖が苦笑する。

 

 

「同士・芳乃の料理の腕も中々だがな。上には上がいるという事だな」

 

「精進せねば……この高みに辿り着けるように精進せねば……」

 

「お前は本当に何処を目指してるんだ」

 

 

敗北感とその美味を噛み締めながら更なる精進を誓う。なんかまた一登にツッコまれた気がしたがスルーだスルー。

 

 

「このBLTサンド、パンが全然湿ってないのがすごく不思議。そのうえでとっても美味しくて……一体どうやったんです?」

 

「あ、それはね、レタスとトマトはクーラーボックスで持ってきておいて、さっきカットして挟んだの」

 

「!?」

 

「うわっ、芳乃が「その手があったかァ!?」って表情になってる。って、凄い勢いでメモしだしたぁ!?」

 

「男子なのに、この料理ガチ勢っぷりよ……」

 

「……兄さん、どうして私の方を見ながら呟くんです……? 何でしたら今日の夕飯は私が作りますよ……! 腕によりをかけますよ!?」

 

「待て、それは死人が出る」

 

 

「どういうことですかそれはー?!」と、なにやら常坂兄妹が不穏な空気を醸し出してるが、そんなのは今のおれには気にしてる暇はない。

 

弁当とは朝に用意して昼に食べるもの。と言う固定概念に囚われていた事に気づけた事は大きい。

 

特に時間経過でパンを 湿らせる食材とかには随分と悩まされていたが、こんな解決法で良かったとは……!

 

逢見先輩は技術もすごいが、やはり食べてくれる相手への“想い”も半端なく強い。尊敬に値する人物なのは間違いないのである。

 

 

「ふふ、芳乃くんは頑張り屋さんだねー♪」

 

「……そら姉さんの料理や調理法を見るだけで、どんどんレベルアップしそうだよね、灯火って」

 

「元々基本をしっかり出来てる事もあるのだろうがな」

 

「………………」

 

「だからその視線は何なんですか兄さん! 買いますよ!その喧嘩買いますよ!?」

 

 

仲良く兄妹喧嘩を始める常坂兄妹はとりあえず放置しつつ、そりゃばあちゃんにしっかりイロハを叩き込まれたからな。と、今朝の夢を思い出しながら思う。魔法の修練と肉体の鍛錬の合間に叩き込まれたおかげで基礎は出来てる。

 

あれから練習を重ねて、じいちゃんが生きてる間に美味しさでギャフンと言わせる事が出来たのは、おれのちょっとした誇りにもなっていたりする。

 

 

「あ、この大きい奴、鷺澤に丁度良さそう」

 

 

気付いたことや思いついたアイデアをメモを書き終えたタイミングで、白河がバゲットを大きめにカットしたパストラミサンドを有里栖へ差し出した。

 

有里栖ならまぁ食えると判断したのだろう。本人は食べキャラだと言うが、どう見ても大食いも行けるからな、有里栖は。だからペロリと食べるだろうと予想するも、

 

 

「ちょ、ちょっと大きすぎるかな……?」

 

 

と、遠慮する事に。

 

___感じた違和感。そしてズキリと痛む頭。

 

風邪でも引いたか?と思ったが違うようだ。

 

なお、パストラミサンドはいつの間にか白河から一登へ渡った。

 

おれもそれが食いたくなったので早速取りに行ってからがぶり付く。やはりとんでもなく美味しくて、どんな調理をしたのか気になって仕方ない。

 

 

「ところで、今日って此処に集まる約束とか、特にしてませんでしたよね?」

 

「記憶にはないな」

 

「うむ、約束はしておらん。しかし、これは必然。我ら自然と足が向いたというもの」

 

「放課後のこととか、昨日今日で変化した状況とか、共有しておきたいことか色々あるしな。……まぁ、昨日の時点で灯火と叶方はフライングして動いてたみたいだけど」

 

「「いえーい」」

 

 

叶方と肩を組んでピースを決める。まぁ、動ける時に動く。やれる時にやるのがおれのモットーなので。

 

 

「それに、今日の放課後には、常坂妹による虐殺ショーが待っている」

 

「いやだから不穏過ぎるわ、そのワード」

 

「人聞きの悪い言い方をしないように。私は面倒事に巻き込まれてる様なものなんですから……」

 

 

ほら二乃もジト目になってんじゃんかよー。

 

まぁ、二乃からしたらかったるいこと、この上ないんだろうな。幾ら好意を持たれてるって言っても、それがあまり興味のない奴からなら意味ないだろうし。

 

 

「それで放課後、私はどうしたら……?」

 

「流石に列を作らせて一人ずつ袈裟斬りにしていくわけにもいかんしな」

 

 

それはそれで面白そうだが、絵面にすると些か間抜け過ぎるな。

 

 

「それぞれ時間間隔を空けてここに来るように伝えてある。因みに今日は3人だな」

 

「ちゃんと見守ってるし、何かあればオレも一登も杉並も出るし、最終兵器もいるから心配しなくていいよ」

 

「ども、最終兵器おれです。不埒な真似をした瞬間が貴様らの最期と思うがいい」

 

「おっかな過ぎるわ」

 

 

具体的には顔面がメキョッとなる。メキョッと。

 

 

「そこはあんまり心配してないというか、寧ろそうなったら相手の方が心配ですよね……?」

 

「人間とゴリラじゃ力の差があり過ぎるからね。勢い余ってぺしゃんこにしてしまうかも!」

 

「流石のゴリラもそこまで力出せねぇよ。つか誰がゴリラじゃ誰が。バナナ集めつつジャングルから愉快なアニマルなフレンズ呼んでくるぞコラ」

 

「古き良きゲームのゴリラと言うかコングですよそれは!?」

 

 

いい加減ゴリラネタが切れそうだが、いつものお約束をやった所で話を戻そう。

 

 

「今日の三人は本人から言われないと納得はできないというタイプだが、決して荒っぽい連中ではない。一応は筋の通った連中だから、さして心配はないだろう」

 

「筋の通った、ね」

 

 

相手の事情関係なしに一方的な思いだけ募らせて、「本人からじゃないと納得できない」と言っておきながら筋を通すとは言えないのでないだろうか。 そんな謎の自信は一体どこから来てるんだろうか……?

 

人間ってのは、ホントに難しいな。それとも、おれが捻くれた考えをしてるのか?

 

……誰かを好きになったとき、おれもその気持ちが分かるのだろうか……?

 

そんな思考の渦に呑まれてる間にも話は続く。

 

白河によれば、昨日から今日の間で二十数件も依頼が増えてるらしい。幾つかは昨日、叶方とやったフライング調査で片がつくものもあるらしいが、やはり多い。

 

増えた案件はリストに遠慮せず追加してもらい、杉並が随時補足するとのこと。

 

 

「この手の情報関係だと、杉並がいるかいないかで効率変わるよな、やっぱ」

 

「フッ、褒めても何も出んぞ?」

 

「渡すもんもねぇよ。でも、はしゃぎ過ぎて無茶はすんなよ? 白河のヘルプなのに、おのれが倒れたら本末転倒だ」

 

「無論だ」

 

 

まぁ、コイツの場合は心配するだけ無駄だろうが。万が一かあれば致命的なダメージになりかねん。

 

 

「んで、オレや一登に灯火が実地調査だね。聞き込みとかから、依頼主の相手の感触をそれとなく探ったりね」

 

「脈が無さそうならお断りを、脈がありそうだったり白紙だったりしたら白河に、って、感じだな」

 

「そうしてもらえるとありがたい。やっぱり双方僅かに興味あり、っていう時が一番やり甲斐あるんだよね」

 

 

白河のすごいところは、そういう僅かに興味ありみたいな連中がくっつくともれなくバカップルになってる所か。

 

たまたま商店街でそのバカップルを見かけた時は、一緒にいた叶方と感心したもんだ。

 

 

「ふっふっふ。『縁繋ぐ 神出鬼没の ムササビか』なんてね♪」

 

 

ドドン!と言う効果音が聴こえそうな感じで、あの特徴的な改造マントをはためかせて一句。思わず拍手をする。

 

 

「ふふっ、確かにムササビっぽいもんね、それ」

 

「神出鬼没でもあるしな」

 

 

有里栖が白河の改造マントを指差し、一登が同意する。それはおれもホントにそう思う。

 

 

「でも、いくらムササビっぽいからって、ホントに木から木を伝う様な真似はやめとけよ?……はいそこ、不穏な表情をしない様に。おのれ、マジでやるなよ? フリでもねぇぞ?!」

 

「その時はまた芳乃の上にでも落ちるので、着地任せましたよ!」

 

「任せんな。予告すんな。フラグ建てんな、このお馬鹿!」

 

 

っと、白河にツッコミを入れてると視界の端の逢見先輩がお茶を用意し出してるのに気付く。

 

 

「あ、ゴメン逢見先輩、茶出すの手伝うっす」

 

「ほんと? ありがと〜。配膳とかお願いできる?」

 

「了解」

 

 

流石に飯まで作ってもらったので茶くらいは手伝わないとな。

 

 

「ふむ、ここを拠点とするとなると、やはり色々と用意せねばなるまいな」

 

「……頼むから、常識の範囲内でやれよ?」

 

 

杉並の不穏な言葉に一応釘を刺しておく。まぁ、無意味な釘か。

 

このあと逢見先輩の入れたお茶もしっかりいただいて、英気を養う。

 

会話は弾み、笑顔は絶えず、楽しくて仕方ない。

 

午後からも頑張ろうと言う気持ちが、湧いてくる昼休みとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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___放課後。空には若干雲がかかってる。

 

 

 

 

夜から明日の朝にかけて雨が降るとの事で、若干曇りだした、日の傾く空。

 

昼間の打ち合わせ通り、おれが単独で動き、一登と叶方が組んで動いて、それぞれ聞き込みを始めている。

 

おれは主に運動部のヤロウ共を相手に聞き取り調査をする訳だが、

 

 

「せぇえええええいっ!!」

 

「遅ぇ」

 

「がぁ!?」

 

シュッ!と来る正拳突きをいなしてからすかさずに前蹴りを入れる。鳩尾に入ったのか、道着を着た生徒が崩れ落ちる。

 

なお、おれは制服のまま。

 

 

「一本!」

 

「いや一本じゃねぇ! いきなりなんだ!? なんで尋ねに来た途端に襲われなきゃなんねぇんだよ!?」

 

 

空手部の道場に尋ねに来て、おれを認識した瞬間に襲いかかってきた空手部員と、いつの間にか審判してるもう一人の部員に怒鳴る。

 

すると「悪い悪い」と空手部の部長を努めている本校2年の男子生徒が奥から出て来た。

 

なお、今回の意思確認の依頼対象でもある。

 

 

「いやぁ、後輩達に芳乃の実力を教えたくてな。部活にも入ってないのにやたら強いだろお前?助っ人として頼むこともあるけど、お前を知らない奴もいてなぁ」

 

「だからって、いきなり襲撃かますのは蛮族の所業なんすけど」

 

「一応言っとくと、柔道とか剣道とかボクシングも似たような対応取ると思うぞ?予算会議でなんかそんな取り決めごとをこの前したからな」

 

「蛮族しかいねぇのか、この学校の武道部は!?」

 

 

予算会議で一体なにをしてやがる!? そんな決め事を本人の意思確認もなしに決めてんじゃねぇよ。馬鹿なのか。止めろよ教師も。

 

ゲンナリしてると空手部の顧問が「ハッハッハ」って笑ってるのが見えた。おい教師陣もグルかい。

 

どうしてそうなったんだ……? と思わず頭を抱える。

 

こうなると他の武道系の部活行く時も覚悟しておかないとな……いや、うん、ホントにどうしてだ?

 

 

「……ほれ、お前さん、鷺澤とか常坂の妹とも仲良いだろう? あと本校一年の逢見とも。家族同然の常坂の兄貴はともかくとしてお前さんには妬みが強くてな、特によく知らない後輩連中の。まぁガス抜きみたいなもんだ」

 

「八つ当たりじゃねぇっすか、それ?」

 

 

ボソボソと本当の事を話してくる部長殿。いや、ホントにそれ八つ当たりなんですけど?

 

 

「それも含めてって話だ。まぁ、実力示せば良いんだよ。悪いが付き合ってくれ」

 

「……はぁ。この調子じゃ、ここの部員達や先輩達も女っ気は相変わらずなさそうっすね」

 

「うるせっ。汗臭い男を好きになる女のコなんていねーんだよ! ったく、俺も彼女が欲しいぜ……」

 

「あー、部長殿もまだ独り身と。けど彼女は欲しいと。因みにどんなタイプが好みなんすか?」

 

「え、あー、うーん、出来たら大人しい子がいいなぁ……ああ、もうすぐ3年だしなぁ……幼馴染とか欲しかったなぁ……最後の一年くらいはアオハルしてみてぇなぁ……!」

 

 

涙を流しながら部長殿は語る。切実過ぎる思いだった。青春を武道に捧げた男の嘆きだった。

 

……だとしたらある意味朗報である。この部長を気になってる女子は、確か大人しい性格の本校2年の手芸部の女子だったはず。顔立ちも端正で可愛らしいと白河のリストにも載ってあったな。

 

おめでとう部長殿、相性ばっちりパーフェクトだ。汗臭い男を気になってるのはアンタ好みの大人しい女子だよ。恋愛請負人がアンタ達をアオハル的に幸せにしてくるので震えて待っていてほしい。

 

さて、聞きたい事は全部聞けたし帰ってもいいが……。

 

 

「そんじゃ部長殿、その血気盛んな後輩達呼んでもらっていいっすか?」

 

「お、やってくれるのか?」

 

「ブッ飛ばす事で、人の交友関係に納得してくれるなら」

 

 

宿題に課題と同じで、この手の問題はさっさと片付けるに限る。

 

靴下も上着も脱いでネクタイも外し、軽く柔軟しつつ首をポキポキ鳴らして待ってると、傍目から見ても分かるくらい、おれに敵意を向けてる付属の後輩が4人ほど現れた。

 

ただまぁ、あまり強くはない。

 

嫉妬と敵意だけは人一倍と言う所か。

 

 

「そんじゃ芳乃にゃ悪いが立ち合ってもらうか。一人ずつやってもらうとして、まずは__」

 

「あ、纏めて来ていいっすよ。ソイツらなら余裕なので」

 

 

 

 

___ピシッと、稽古場の空気が凍りつく。

 

 

 

 

比喩でもなんでもなく、他に練習をしていた空手部員の動きも止まってる。後輩4人は額に青筋を立て、部長殿はなんか冷や汗を流し、顧問は「ハッハッハ!」と笑ってる。アンタさっきからずっと笑ってないか?

 

 

「あー……芳乃、ホントにそれで良いのか……?」

 

「ちょっと時間押してるんで、寧ろ手っ取り早く終わらせたいんすよ。顧問もそれでいいっすよね?」

 

「ハッハッ、ああ、いいぞ。寧ろ思う存分やってくれ。……君なら、ナイフ持ったひったくり犯二人より楽だろう?」

 

「先生まで……つか、あの噂マジなのかよ。あー、そうだった。芳乃ってこんな奴だったわ、素直過ぎて敵作る奴だったわ……後始末どないしょこれ?」

 

 

なんか部長殿が頭を抱えているが、頭痛にでも患ったのだろうか? そんな事を考えてると稽古場の真ん中に立ったおれを後輩4人が、前後左右に囲む。

 

「調子に乗りやがってこの野郎……!」

 

「望み通りに痛い目見せてやるぜ……!」

 

「舐めやがって、ブッコロしてやる!」

 

「ハァハァ……有里栖たん、萌ぇ……」

 

 

オイ待て最後。最後の奴。おれの背後に陣取ってる最後に呟いた奴だけなんかおかしいぞ? なんかもう完全に拗らせてててアウトだぞ???

 

 

「もういいや、なるようになれ。形式もメチャクチャな無差別級だが……始め!」

 

 

審判を務める部長殿のヤケクソじみた合図と共に、後輩4人が一斉に向かってくる。

 

武道の教えもクソもない、もはや喧嘩じみた一局。

 

まぁ慌てる必要はない。この前のひったくり共に比べたら遥かにマシだ。

 

意識を切り替え、中腰の姿勢を取る。

 

四人全員が間合いに入り込み、それぞれ一撃を出すために踏み込みを入れた瞬間、そこを狙って後ろに振り返り、後輩共より早く踏み込む。

 

 

「ふ、フヒッ?___フギャ!?」

 

 

それに後ろの後輩が気づいた時には、おれはもう拳を鳩尾に叩き込んでいる。

 

正拳突き。

 

パァンッ!と言う音が鳴ると同時に、変態口調の後輩がくの字に折れ曲がる。

 

 

「一つ」

 

 

呟きながら、一瞬で味方がやられた事に呆然としてる奴に左の後ろ回し蹴り。

 

ソイツはなんとか防御しようとするも、防御ごと顎を打ち抜いて脳を揺らし、地面に転がす。

 

 

「二つ」

 

 

続けて後ろ回し蹴りの勢いを殺さずに回転して、転がった奴に意識を向けてしまった3人目を回し蹴りで顎を打ち抜く。

 

 

「三つ」

 

 

最後の一人はこの惨状を見て慌てて距離を取ったので、蹴り抜いた状態から、改めて構え直す。開始からこの間まで、大体5、6秒くらいか。

 

 

「嘘だろ、最初のも、今のも、見えなかった……!?なんなんだよコイツ!?」

 

 

なんだかんだと聞かれても、おのれらの一応先輩だ。としか答えられん。というか、数の利を失って慌てふためく最後の奴はあまりにも隙だらけだ。

 

なので、とりあえず圧をかけながら一歩踏み込む。最後の後輩君は「ヒッ」と僅かに悲鳴を出して後ろに下がり、その弾みで尻餅をついた。

 

呆気ないが、これで四つ。

 

 

「そこまで」

 

 

部長殿が終了の合図を出すと同時におれの頭を小突く。痛いっすよ部長殿。

 

 

「……仕掛けた側が言うのもアレだが、もうちょい手心を加えられなかったか?」

 

「それだと多分、顧問の趣旨に反するんすよ」

 

 

ねぇ?と視線を向けると空手部の顧問が大きく頷いた。なので、ため息をつく。どうせそんな事だろうと思ったよ。

 

 

「どうせロクに練習もせずにサボってた奴らなんでしょコイツら。練度が他の同世代の奴と明らかに違う。で、お灸を据える為におれを利用したと」

 

「ハッハッハ、正解だ。まぁ、丁度良く君が来てくれて助かったよ芳乃。体良く利用させてもらった」

 

 

いや別にいいっすけど。放っておいてもいずれ突っかかって来たろうし、この手の奴らは。

 

ここで反抗の意思もへし折れば、少なくとも変に突っかかる事はないだろう。多分。あの変態だけはちょっと分からんが。

 

恐らく同じ意図を持っていたと思われる部長殿が困った顔をして頭を掻いている。

 

 

「見抜いてたか……利用した様で悪いなホントに」

 

「そう思うなら今度なんか奢ってくださいっす。……っと、すんません、そろそろ別件で先約の用事があるんで」

 

「おお、また助っ人頼むわー。見ての通り弱小でなウチは」

 

 

こっちの用件ももう済ませたし、稽古場に一礼してから後にする。

 

そろそろ二乃の虐殺ショー……じゃなかった、お断りの時間だからな。予定より時間掛かっちまった。

 

空手部の道場から去る直前、「ん? で、アイツどんな用件で来たんだ?」っていう部長殿の疑問の声が聞こえてきたが、とりあえず聞こえないフリをした。

 

部長殿には、その内アオハルが来るんで楽しみにしててほしいところである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「スマン!遅れた!」

 

 

屋上に着くと既に一登と叶方も戻って来ていた。

 

どうやらおれがビリッケツらしい。

 

見てみると既に二乃を始めとした他のみんなも準備が出来ているようだ。

 

 

「あ、やっと来たね」

 

「おつかれー! なにかあったんです? 聞き取り調査にしてはやけに時間掛かってた気もしますけど」

 

「いや、ちょっと想定外のトラブルでな。……一人と四人ほど、それぞれハッ倒す羽目になっちまって」

 

「……なにをどうしたら、ただの聞き取りがそんなバイオレンスな事になるんだよ……?」

 

「や、それはおれが聞きたい。ホント、切実に」

 

 

こっちはマジで何も聞いてないのだ、武道系の連中がよく分からん決まり事をしているなど。対処は出来ても時間が掛かるから時間配分を完全にミスった。

 

 

「その件については後で説明しよう。それよりそろそろ時間だ、俺達は隠れるぞ」

 

「……オイ待てコラ杉並。説明しようって事はおのれ知ってたな?! あのよくわからん取り決めとやらを!」

 

「ハーハッハッハ!良いではないか!芳乃ならそれくらい言わなくても簡単にこなせるのだしな!」

 

「そう言う問題じゃねぇ!!」

 

 

マジで知ってて黙ってやがったなシバくぞテメェ!?

 

とりあえず先に杉並をシバきたかったが、一登と叶方に抑えられる。時間ももうないので仕方ない。杉並は後でハッ倒すとしよう。報告も後になるな。

 

兎にも角にも白河と二乃を残し、おれ、一登、叶方、杉並、有里栖、逢見先輩は階段の陰に隠れる。

 

何かしら困ったことがあれば合図が来るので、そうなったらおれ達男子陣が出向く手筈である。

 

そんな感じで準備も整って数分後、重い鉄の扉が開く音が響いた。

 

 

「最初の犠牲者が来たな」

 

「いや、だから言い方よ」

 

 

なんでわざわざ不穏な響きをさせる言葉を使うんだか。

 

で、やって来たのは、ぱっと見は好青年と言った感じだろうか。

 

確かに、荒々しいと言う訳でもなく、思ったよりも理性的で、二乃と白河の言葉に耳を傾けている。

 

事前に白河から無理だと聞いて、二乃の答えは分かりきってるのに、それでも直接断られたい、か。

 

感情的な問題なのだろうか。今のおれでは、やはりまだ分からないな。

 

 

「うう、二乃ちゃん、がんばって」

 

「逢見先輩、保護者モード全開っすね……」

 

 

心配なのは分かるけど、もう少しちゃんと隠れてた方がいいっすよ? バレるから。マジで。

 

 

「今はそういうのは。……はい、ごめんなさい」

 

 

二乃が頭を下げる。

 

それは分かりきってた返答だ。

 

少し間を開けてから、男子生徒も頭を下げた。

 

程なく男子生徒はその場を後にする。

 

やはり来るものがあるのか、男子生徒の握りしめた拳が微かに震えているのが、やけに印象に残った一幕だった。

 

……ちょっと出歯亀してるのが申し訳なく思ってきたなこれ。

 

 

「なんだか青春の1ページを見た感じだよねぇ」

 

「きっと彼にも、別の良い出会いがあると思うな」

 

 

叶方と有里栖の言葉に、自然と頷く。次は良い出会いをしてくれ。

 

 

 

 

___そこから多少の間を空けつつ、杉並の言葉通りに来た残り二名も、二乃はそれぞれ断りを入れていった。

 

 

共通して直接断られたいって事と、返答は真摯に受け止めた所が三人とも一致していた。

 

予定していた分は終わったので、隠れていたみんなと一緒に二乃と白河の下へ戻る。

 

 

「はぁ……どっと疲れましたぁ……」

 

 

やはりというか二乃はお疲れのようだ。よく頑張りました。と言う事で、ねこ仲間のよしみでちょっと労うかね。

 

疲れたときは甘いものが一番だ。

 

 

「お疲れさん、ちょっと手出してみな?」

 

「? はい」

 

 

出された二乃の手のひらの上に、自分の手を翳す。

 

脳内からイメージを正確に引っ張り出して、それをカタチにして出力すると同時に手を開く。

 

程なくして二乃の手のひらの上には、某国民的アニメのロボットの好物が乗せられることとなった。

 

 

「わ、わわ、どら焼き!? どこから出したんですこれ?」

 

「手品だよ手品。疲れた時は甘いものが一番ってな」

 

「そ、それじゃいただきます……あむ………………!? すごく、美味しいですこれ!」

 

 

どら焼きを頬張った二乃の顔に笑顔が浮かぶ。

 

そりゃ良かった。久しぶりに使った魔法だから、ちょっと心配してたんだよな。精度とか。

 

そう、使ったのは魔法の一つだ。

 

昔、じいちゃんから教わった、「手のひらから和菓子を出す魔法」。

 

魔力の消費はほぼないが、自身のカロリーを変換して和菓子に変える魔法なので、その分おれの腹が減ってしまうが習得してる魔法の中で一番好きな魔法だったりする。

 

なんの役にも立たないかも知れないが、食べた相手の笑顔が見れる魔法なのだ。おれが知ってる中で一番魔法らしい魔法だと思ってる。

 

 

「そんな特技も持ってたんです? なんというか器用ですね」

 

「にしては種も仕掛けも見当たらなかった気もするが、ふむ……」

 

「じいちゃん直伝のとっておきなんでな。滅多に披露しねぇんだよ。あと仕組みは企業秘密だ」

 

 

魔法なのでどのみち教える事が出来ないが。杉並は勘が鋭いからあまり目の前で使わない方がいいな。

 

 

「……………………」

 

「有里栖、どうかしたか?」

 

「あ、ううん、ちょっと凄い手品だなーって思って」

 

「あれは手品っていうか、うーん、まさかな……」

 

 

あー、一登の前で使うのも控えてた方が良いか? いや、別にコイツにはバレてもいいか。師匠の孫だし、魔法のことも知ってるだろうしな。

 

 

「兎にも角にも、これで二乃の件は落ち着くんじゃないか? 一日で3人もごめんなさいされたら、噂くらいにはなんだろ」

 

「正解。というかそれが狙いでもあったし」

 

「あとはこの情報を拡散すればいい。そこら辺は任せてもらおう。可及的速やかに3人の犠牲者が出たことを全学年に共有させようじゃないか」

 

「いや、だから言い方な?」

 

 

最後まで不穏な言い方を徹底しやがったなコイツ……。怒りそうな二乃も、まだどら焼きをもっきゅもっきゅ食べてて、なんか逢見先輩がねこ可愛がりしてるから圧倒的にツッコミが不足してる。

 

 

「これで暫く界隈も静かになる、か」

 

「そこは杉並の手腕次第だな。てか、さっき言い忘れてた報告なんだが___」

 

 

とりあえず、流れをぶった斬る意味も兼ねて先程報告仕損ねた空手部の部長殿の聞き取り調査の結果を報告する。

 

手応えばっちりの結果だったので恋愛請負人の目がギラギラと光っていた。先に祝福しとこう、おめでとう部長殿。最後の一年はアオハルを堪能してくれ。

 

で、二乃の件も落ち着いたものと判断して、次は白河に舞い込んでくるクリスマスに向けた恋愛相談の相談を開始する。

 

いよいよ本番みたいな所もあってか、なんだかんだで話は長引いたものの、寒くもなってきたため今日は、お開きとなった。

 

 

「みんな、遅くまでありがとう! 本当に助かってるよ」

 

「なぁに、礼には及ばん。俺は俺で貴重なデータ採集になっているからな」

 

「じゃあ杉並以外のみんな、ありがとう!」

 

「んなっ!?」

 

 

策士、策に溺れる。

 

そんな杉並の様子を笑いながらも今日は解散となる。

 

明日もまた、ここで集まることになるのだろう。

 

約束はしてないが、みんなきっと、同じ気持ちなんだろうと思う。

 

 

 

 

だってみんな、すごく楽しそうにしていたからな。

 

 

 

 





やっぱりD.C. 〜ダ・カーポ〜 の魔法の中では【手のひらから和菓子を出す魔法】 がダントツで好き。

食べた人を笑顔にさせるってのがホントに魔法っぽくて。
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